【ゲット】
ポケモンを捕まえること、または捕まえるときにいう言葉。
ポケモントレーナーの場合、多くはポケモン同士を戦わせ、野生のポケモンを弱らせてからモンスターボールを投げる。
但し、ポケモンが自分の意思でトレーナーについてくるなど、いくつかの例外もある。


PAGE5.ずっと探してた


小さな街のポケモンセンター、その中に設置してあるパソコンの前に1人の子供が座っていた。
キーボードに何かを打ちこむわけでもなく、ただじっと、横に併設(へいせつ)されている筒を見つめている。
しばらくすると、筒の中に モンスターボールが突然現れた。
子供は それを手にするとやんわりと微笑む。
・・・・・・それが、全ての始まりだった。




「・・・・・・足が痛いぞ〜・・・」
天気もよく、絶好のピクニック日和(ひより)の昼下がり、2人の子供が日の当たる道を歩いていた。
先ほど『足が痛い』と文句を言った少年、サファイア。
繰り返される 言葉の連射砲に 体力はなにより、精神的に疲れきって反論すらしない少女がルビー。
2人はそれほど仲が良い、という訳ではなかった。
それでもこうして2人揃って旅をしているのは、共通の目的があるからだ。

「今、どこら辺なんだい、あたいたちの探しているキモリは?」
ルビーの言葉により、サファイアは手のひらほどの赤い機械、『ポケモン図鑑』を操作する。
「・・・・・・ここから 数じっきろ(数十キロ)西の所や。
 図鑑の操作はワシがやったるから、しっかり案内たのむで〜、ルビーvv」
「・・・はぃはぃ、それにしても、今朝は驚いたよ・・・・・・
 ポケモンセンターの中で『トイレがわからへん』って あんたが迷子になってんだから・・・・・・・・・」
ケンカするわけでもなく、にこやかに話し続けるわけでもなく、2人は平凡な道を進んでいった。
そのまま無事に終わることもあれば・・・とんでもない事件に巻き込まれることもあるのが 面白い所なのだが。


「・・・・・・っ!?・・・」
先に異変に気付いたのはルビーだった。
草むらの影から飛び出してきた小さな動物を 同じような動物・・・ポケモンの『エネコ』で押さえつける。
「なんや?」
「え〜と、確か『ジグザグマ』だよ。 こいつで今日5匹目。」
茶色いボサボサとした毛並みのポケモンをネコパンチ(注:そんな技はない)で気絶させると、
何事もなかったかのように2人はまた歩き出した。
しかし、続けざまに2匹、3匹と 次から次へとポケモンが襲いかかってくる。
「なんやなんや!?」
「近くにトレーナーがいるんだよ!!
 ボヤボヤしてっと、殺気立ったポケモンたちに あっという間にやられちまうよ!!」
応援としてルビーはもう1匹のポケモン、『アチャモ』を繰り出すと 襲いかかってくるポケモンたちを退けて(しりぞけて)いった。
15匹ほど、2人の横をポケモンが走り去ると、ようやく辺りは静けさを取り戻す。
・・・・・・・・・と、思えたのが大きな間違いだった。

「うわあぁっ!!?」
突然響いたのは ルビーのものでもサファイアのものでもない 子供の悲鳴。
反射的に 2人は声のした方へと走り出す。 声の主はそれほど離れていない所にいて、2人はすぐに見つけ出すことが出来た。
ルビーが退けたポケモンたちに襲われる、2人と同じくらいの少年。
「な、何で このポケモンどもは こいつに襲いかかっとるんや!?」
サファイアが襲われている少年を守るように立ちはだかり、モンスターボールを取りだし、
ポケモンの『ミズゴロウ』、ニックネームは『カナ』を戦わせる。
「知らないよ!! とにかく このポケモンを何とかしないと こっちまで・・・・・・
 ・・・・・・ちょ、ちょっと、どうしたんだい、あんた!?」
しゃがみこみ、ひたすら咳(せき)を続ける少年。
必死で声をかけるルビーの言葉にも気付けないのか、苦しそうに胸に手を当てる。
「はい、どうしたって・・・ケホッ!・・カハッ・・・・・・・・・ほ、発作が・・・・・・」
「発作!?」
「ルビー!! こっちも大変や、相手の数が多すぎて 防ぎきれへん!! カナが持たん!!」
「相手から受けるダメージを減らせばいいんだね!?
 アチャモ、エネコ、『なきごえ』攻撃!!」
修羅場(しゅらば)・・・としか言いようのない光景。
ルビーのポケモンが放った『なきごえ』で 多少カナが受けるダメージは減らせたものの、
相手の数に変わりはない、対処しきれていないことにも変わりはない。



「・・・・・・ヤルキモノ、『みだれひっかき』だ!!」
突然、なんの前触れもなく現れた人物のポケモンが 次々とサファイアの目の前の野生のポケモンたちをなぎ倒す。
草むらをかき分けて現れたのは、小さな子供たちの間で1人、ずば抜けて背の高く見える黒髪の男。
「大丈夫か、ミツルくん・・・・・・っと・・ルビー!?」
「父ちゃん!?」
ルビーのそばの少年が ひときわ大きく咳き込み、3人は感動的な出会いをしている場合ではないことに気がついた。
とにかく逃げ道だけでも確保しようと、サファイアが1方向に向かって集中的に攻撃する。
しかし、その方向はルビーたちがきた方向。 そちらへ逃げても仕方がない。
「アホっ!!! 全然逆だよ、反対方向!!
 ミズゴロウを反転させて、『みずでっぽう』を撃たせるんだ!!!」
「え、は、へぇ!? カナ、反転して『みずでっぽう』や・・・?」
自分の主人が『こう』だからなのか、カナは出された指示の意味がわからず、後ろ方向へと縦に回転した。
だからと言って、頭が後ろを向くわけではない、ルビーはいらだったように小さく息を吐く。
早く逃げないと少年が危ない、そう思う「焦り」が 全員の思考を鈍らせる。
「ヤルキモノ、『みだれひっか・・・・・・」
「父ちゃん 後ろっ!!!」
真白なポケモンが街の方角へと向かって飛び出した直後、小さな緑色のポケモンが男へと向かって飛びかかる。
反射神経がいいのか 男はポケモンの方へと体を向けるが、その後が全く続いていない。
誰も対応しきれていないまま、緑色のポケモンは男へと急激に接近していく。

「・・・『D』、上に叩き上げて!」
光の筋のようなものが ルビーの横を走り抜けていった。
次の瞬間には、男へと突き進んでいたポケモンが はるか空へと飛びあがっている。
空のてっぺんで赤い球体と衝突し、小さな子供に似たポケモンはルビーと少年の足元へと落ちてきた、赤白の球体となって。
突然現れた人物は それを拾ってポケットの中へとしまうと、ほとんど倒れかけている少年を抱き上げ、ふところから何かを取り上げる。
それを自分たちを囲っているポケモンの方へと力強く投げると、今にも襲いかかろうとしていたポケモンたちは一斉に
投げられた『何か』へと向かって走っていった。
「やっぱり・・・緊急用に持ってた『エネコのしっぽ』の出す匂いで かえってポケモンが集まってきちゃってたんだ。」
「・・・・・・・・・・・・君は・・・!?」
「話は後です!! 早く街まで行って、この子に酸素チューブと薬を!!」
現れた第4の少年は 小さな体に似合わない力で咳き込み続ける少年を抱えあげると、街のほうへと走り出した。
一瞬 混乱を起こしていたルビーたちも あわててその後を追う。





「・・・早くストレッチャーを!!
 気管支がやられてます、酸素チューブの用意をお願いします!!」
コトキの隣街、トウカシティ。
その中央にある病院に到着してからも、少年はテキパキと的確に行動していった。
ただ唖然(あぜん)と その様子を傍観している3人をよそに、少年『ミツル』は、病室の奥へと届けられていく。


「・・・・・・はぁ、とりあえず後に響く様子はなさそう・・・、よかった。」
ルビーたち3人を導いた少年は1息つくと、病院のロビーへとゆっくりと歩いてきた。
ロビーで待っていた3人の視線は 一斉にその少年へと注がれる。
「あ・・・君、その、何と言ったらいいか・・・・・・ありがとう。」
「?」
1人背の高い男が照れたように放った礼の言葉に 少年は軽く首をかしげる。
背丈などではルビー、サファイアとほぼ同じ、行動ではずいぶんと大人びて見えるのに、その表情はかなり幼い。
「君がいなければミツル君も・・・私の娘、ハルカも どうなっていたかは分からないよ。
 本当に・・・1人の父親として 感謝している。」
「・・・ハルカ? ・・・・・・『ルリ・ハルカ』ちゃん?」
不思議と特異的に見える少年の視線は ルビーへと向けられた。
反射的に彼女がうなずくと、少年は視線を今度はサファイアとルビーの父親へと注ぐ。

「じゃあ、『オダマキ ユウキ』君っていうのは・・・・・・?」
「ワ、ワシのことやけど・・・・・・」
サファイアが自分のことを指差すと、少年は包みこむような優しい表情で微笑んだ。
それはまるで、厚くおおっていた雲の間から顔を覗かせた 太陽のような。
少年は呆然と見とれている3人にゆっくりと歩み寄ると、両の手でそれぞれ、ルビーとサファイアの手を握り締めた。

「はじめまして、ルビー。 はじめまして、サファイア。
 僕はポケモントレーナーの『コハク』、こっちのオレンジ色のポケモンは 学名、ライチュウの『D(ディー)』。
 君たちのこと、ずっと探してた。」


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