【特性】
近日発見されたポケモンの特殊能力。
様々な身体的特徴により、バトルなどに少なからず影響を与える。
その能力はポケモンにより全く違う。
例として、ナマケロの『なまけ(連続で攻撃が出せない)』、
ゴニョニョの『ぼうおん(音の攻撃を受けない)』などがある。
PAGE12.蒼い瞳
白波の上を 一層の船が進む。
小型のモーターボート、その上には瞳を輝かせた少年が1人、
モンスターボールのロゴの入ったバンダナから飛び出した白い髪が 風に揺れている。
無表情のまま、海を見つめている少女が1人、赤いバンダナの下にある 茶色い髪と凛々しい表情。
ボートの縁(へり)に掴まり、ボーっと跳ねあがる水飛沫を見つめている少年が1人、
今にも閉じそうなまぶたの下には 金色の瞳。
それに、老人と女、2人の動かすボートに揺られ、少年少女3人組は海の上を進んでいった。
目指すは、ムロタウン。
「・・・よっしゃあッ、ムロに到着したぞ!!
降りな降りな、さぁ降りなッ!! 用事があるんだろうがッ、てめえら!!!」
豪快な声に押し出されるように 3人は船から転げ下りた。
ぺたんと座りこんでいるコハクを マオがニヤニヤと船の上から見下ろしている。
「我らはしばらくここにいてやるからのぅ、存分にムロの町を楽しむが良い。」
「はあ・・・そりゃどうも。 ずいぶんと助かったよ、ありがとう。」
コハクはコハクらしからぬヘラヘラとした笑顔を向け、ハギとマオに礼を言った。
あまり力の感じられない動きで立ち上がると、ゆらゆらと動く浮き桟橋(さんばし)を伝い、街のほうへと向かって歩き出した。
ルビーとサファイアは顔を見合わせると 置いて行かれないように慌ててその後を追う。
「・・・らしくないね。」
ムロタウンのポケモンセンター、ボーっとした顔でチェックインを済ませるコハクを2人が睨みつける。
「・・・・・・・・・え?・・・」
「『え』じゃないよ!?
トウカの森からずーっと、ボーっとしたまんまじゃないかい!?」
「気のせいだって。」
「せやかて・・・」
「気のせい。」
一言で済ませたコハクからは 有無を言わせる気配すらうかがえない。
深いため息をつくと、サファイアは話題を切り替える。
「・・・・・・わぁったわ、ほんなら、これからどうするか決めようや。」
てっきり、いつものごとく1人で仕切るものと思い、ルビーとサファイアは口をつぐむ。
しかし、コハクの口から出てきたのは一言、それも、意外とも思える言葉だった。
「・・・・・・自由行動。」
「は?」
背負っていたリュックを降ろすと、迷いのない瞳でコハクは先を続ける。
「だから、自由行動。
ツワブキ社長、ダイゴさんは明後日までこの島にいるっていってたからね、今日は好きに動くことにしよう。
了解?」
「・・・・・・り、了解・・・・・・」
オウム返しにサファイアは言葉を返す。
通常(いつも)とは違う言動に ルビーもサファイアも、納得がいっていない。
それでもなぜか、流れ流され、2人は従わざるを得なかった。
「どうする?」
ほんの少しばかりポケモンセンターから離れ、ルビーとサファイアは今後の計画を相談しだした。
やることが見つからないとはいえ、お互い全く知らない町を1人で歩き回るのは淋し過ぎる。
・・・だからといって、どこかに行く当てもない、そう思ってサファイアは肩を上げ 軽く首を横に振る。
「だったら、さっさとダイゴっておっさん探さないかい?
あたしゃこんな紙っ切れ持って、行動を縛られるなんてごめんだよ、早いトコ用事済ませちまおう!」
「・・・・・・よっしゃ、乗るわ、その話!!」
サファイアがゴリラのように胸を叩くと、ルビーは笑って外へと歩き出した。
無論、聞き込みを開始するために。
後を追いかけようとサファイアは軽く走り出すが、ふと一瞬、足を止める。
「アカン 生モン部屋に置いていかな・・・・・・
ルビー、先行っててくれへんか? 後から追っかけるさかい。」
「こっちは構わねぇけど・・・・・・また、迷うんじゃないかい?」
「そう 何度も何度も迷うかい!! それに、道に迷ったら警察に、やろ?」
自信ありげにヘラヘラと笑うと、サファイアはカナを連れ、ポケモンセンターへと退き返す。
足取りはまっすぐ。 ほんの少し安心すると、ルビーは無言のままサファイアに背を向けて歩き出した。
「こちらですよ。」
受付嬢に案内を頼み、サファイアは自分のため、それにルビー、コハクのために用意された部屋へとたどり着く。
やれば出来るんや、という顔をしながら、「おおきに」、と口で言って。
あまり音を立てずにドアノブを開くと、真っ先に視界に飛び込んできたのは 狭い部屋をのびのびと動きまわる コハクのポケモンたち。
自分のポケモンであるカナもチャチャも、ルビーのポケモンのアチャモも見せたことのないような 自由きままな表情にサファイアは驚いた。
「ご用事?」
シーツのすれたような音がして、サファイアはベッドの方へと頭を向ける。
コハクが、頭痛でもするのか頭を押さえながら2段ベッドの下から這い出てきて、金色の瞳を使い、サファイアのことを見上げている。
「・・・・・・そこはワシの指定席やで〜?」
「ごめんごめん、夜には ちゃんと上の段使うから。
ところで、どうして戻ってきたの、何か困ったことでもあったのかな?」
「いや、生モンを冷蔵庫に入れとかな思って・・・・・・
それにしても、よう動くなぁ、コハクのポケモン・・・ カナやチャチャ、あんまり動かへんし・・・・・・」
「まだ サファイアに慣れてないだけだよ、仲良くなれば、自分の動きを見せてくれるよ。」
柔らかな笑い方をすると、コハクは自分のほうをじっと見つめているポケモンたちへと目を向けた。
走り寄ってきたラルトスのI(アイ)の頭をくしゃくしゃっとなでると、サファイアの方へと顔を上げる。
「そうだ、サファイア、I(アイ)を今日1日預かってくれないかな?
このポケモンセンターの中だけじゃ、動くことも出来ないし、それに、退屈しちゃうしね。
良い子にしてるように、よく言い聞かせとくから。」
「え、ええけど・・・・・・コハク、今日一体何するつもりなんや?」
『もやし』の入った冷蔵庫の扉を閉めると、サファイアはコハクの目を見ながら聞く。
コハクはD(ディー)の頭をなで、遊ばせるために窓から外へと出すと、床の上に座りこんで大きく伸びをした。
「・・・・・・すごく、眠いんだ。」
「さ〜ってっと、ルビーとダイゴっちゅう奴、探さなあきまへんなぁ・・・」
風に流されてきたのか ざらざらと砂の残る道を歩き続け、サファイアはコハクのポケモン、I(アイ)と、カナに向かって話しかけた。
ツチニンの『チャチャ』はボールの中。 1度外へ出したのは良いが、島の強い光を嫌がっていたようだったからだ。
道行く人に2人の行方を聞きながら、サファイアはのんきに鼻歌を歌いながら歩き続ける。
「大誤算や・・・・・・」
別にキーボードの変換を間違ったわけではない。
なんとなく想像がつく人間もいるだろう。 そう、筋金入りの方向音痴のサファイアが、深く考えもしないで歩いて、迷子にならないわけがないのだ。
見たこともないような 巨大な建物のまん前、眉間にしわを寄せてこれからどうするのかを考え込んでいると、
I(アイ)がサファイアのズボンのすそを引っ張るのを感じた。
「何や?」
ひらひらとした細い腕(?)で、I(アイ)は大きな建物の看板を指し示す。
それは、大きく書かれた『GYM』の文字。
「・・・・・・・・・ポケモンジムや、ムロにもあったんやなぁ・・・」
ぼけーっと口を開けて『それ』に感心していれば、再びラルトスのI(アイ)とミズゴロウのカナにズボンのすそを引っ張られる。
人に近い姿をしているせいか感じる、I(アイ)の「行かなくていいの?」とでも言いたげな表情。
「分ぁっとるわ、今、突入したろ思てたところや!!」
わずか40センチほどのポケモンに向かって怒鳴る人間、他人からみたら、相当おかしな光景かもしれない。
まったくそんなことには気付かずに、鼻息を荒くするとサファイアはジムの扉を元気よくたたく。
「たっのっも――――――っ!!!
サファイア君のジム破りや――――――っ!!!」
不自然なほど明るい声で叫び、サファイアは大きな扉を押す。
途端、中まで転がり込んだ。 鍵もしまっていなければ、扉も締まり切っていなかったのだ。
「うきゃ〜、無用心なジムやなぁ・・・・・・」
「はっは、悪かったな!!」
背後からの声に サファイアは頭だけ動かして視線を移す。
いかにも『買い物帰り』の20前後の男が 異様にさわやかな笑顔でサファイアの方を向いていた。
当然手にはビニール袋。 オレンジ色のトレーナーが 季節にしてはちょっと強い太陽の光に よく映えている。
「ちょうど良かったわ、ルビーっちゅう女の子か、ダイゴっちゅう男か、ここのジムリーダー知らへん?」
ついでにしては少々多い質問をサファイアは投げかける。
買い物袋を持った男は その質問の連射砲にも慌てることなく、力強く笑った。
「前の2人は知らんが、3つ目なら知ってるよ。
ムロタウンのジムリーダー、格闘のビックウェーブ、トウキとは俺のことさ。
このジムでは総合格闘技の道場も兼ねている。 入門なら大歓迎だぜ?」
「ちゃうわっ、リーダーに挑戦しにきたんや!!
大体、ポケモンジムなのに 人間が体鍛えてどうするっちゅうんや!?」
チ・チ・チ・とトウキと名乗る男は指を振る。
おもむろに買い物袋の中から何かのパックを取り出し、少しばかり嫌味な笑顔を向けると、
「分かってないな、ポケモンと共に心身成長することによって、真の強さが得られるものなんだ。
俺は そうやって自らの体をも鍛え、今となっては・・・・・・」
ビニール袋から飛び出してきた赤い物体が宙を舞うと、トウキが取り出したナイフがヒュンッと音を立て、宙を舞った。
すると、いつのまにか用意されていた皿に マグロの切り身がリズム良く並ぶ。
「このように食事の際、俊敏!正確!芸術的!かつ美味さを持った!! 魚の切り方が可能になったのだ!!」
「・・・魚屋でもやっとれば?」
「すぉんなことは なっしーんぐっ!!!」
「・・・・・・訳わからん・・・」
サファイアに『すら』呆れられ、トウキはかなり場から浮いてしまっている。
しかし、そこはさすがにジムリーダー(関係あるかどうかは分からないが)。
まったくへこたれもせず、ビシッと景気良くサファイアのことを指差す。
「挑戦者も大歓迎さっ、さぁさぁ 早く始めようじゃないか!!
俺のポケモンたちが戦いたくってうずいてるぜ!?」
めずらしくため息をつくと、サファイアは案内されるままにジムの奥へと足を進める。
ムロジムの中は薄暗く、よくよく目を凝らさないと数メートル先も見えないほど。
そんなことを考えられるのは一瞬だった。
ラルトスのI(アイ)に『ねんりき』で突き飛ばされたかと思えば、サファイアとI(アイ)の間を ポケモンが突き抜けていく。
「・・・わっ、たぁ!?
あ、危ないやないか、もうちょっとでケガするところやで!?」
「戦いたくてうずいていると言っただろう?
君も早く、そのポケモンたちを前へ出しな、どっちが出るんだい?
かしこいラルトスか、さっきから俺のことを睨んでる そっちの青いポケモンか!!」
サファイアは 足元で臨戦体勢にはいっている2匹のポケモンを見つめる。
確かに、カナもI(アイ)も、トウキと そのそばで体を震わせている人に似たポケモンを睨み、戦う気は充分、といった感じだ。
ふっと息をつけば、サファイアは1歩前へと踏み出す。
「I(アイ)、下がっとけや。 お前はコハクからの預かり物やねん、戦わせてケガさすわけにいかん。
トウキっちゅうたな! ワシはミシロタウンのサファイア!!
ワシと、こっちのミズゴロウのカナが相手や!!」
彼自身が気付くよしもなかったが、サファイアの気持ちに同調するかのように カナの戦闘意欲は高まっていた。
大きな尻ひれを ピクピクと動かして、ほんの一瞬の間合いをも見逃さない体勢。
「フッ、顔つきだけは一人前じゃないか。 しかし、その実力の方はどうかな?
ワンリキー『ちきゅうなげ』だ!!」
気合1番、先手必勝とばかりに突進してきた小さな子供のようなポケモンに カナは空たかくへと放り投げられる。
「『からてチョップ』!!」
体が地面につくひまもなく、ワンリキーの手刀が振り下ろされた。
激しい音を鳴らして カナの体は地面をバウンドする。
何とか立ちあがったものの、足元がふらつくほどのダメージは隠しようがない。
「どうした、やられている一方じゃないか、そんなことでこのジムまで挑戦しに来たというのか?」
挑発するような言葉をトウキは浴びせ掛ける。
一瞬息を荒立てながらも、サファイアはそれを睨みつけた。
「・・・・・・瞳は死んではいないな。」
「せや。 初めてんトコやから、一応様子みたったんやけどな、まっさか こんなボコボコ打ってくると思わんかったわ。
カナももうヘ〜ロヘロ、ええ加減、『がまん』の限界みたいやわ・・・」
トウキの反応は一瞬遅れていた。
見た目に似つかわしくないスピードで飛び出したカナは ワンリキーの腕をくわえ、渾身(こんしん)の力を込め、叩きつける。
まるで予想されていなかった一撃、ワンリキーはすっかり伸びて動かなくなる。
「さぁっ、次来いやぁ!!」
薄暗いせいか、体に振りかかってきた寒気を追い払うようにサファイアは叫ぶ。
「・・・なるほどな、受けたダメージを2倍にして返す『がまん』・・・
何も考えず戦っている初心者かと思えば、それなりに頑張っているじゃないか。
ならば、全力で受けるまでだ!! マクノシタ、いけっ!!!」
トウキがモンスターボールを投げた直後、パンッ! という破裂したような音が響く。
途端、カナがぐらりと崩れこんだ。
何が起こったのか分からず、サファイアは瞳を瞬かせる。
「知らないんなら説明してやろうか?
マクノシタの『ねこだまし』、相手に有無を言わさずダメージを与えられるんだ。
ま、そのダメージなんて微々たるもんだけど、そのミズゴロウってポケモン、相当ダメージがたまってたみたいだな。」
「さいか、ワシのミスっちゅうこと、やな。」
サファイアは地面の上で横になっているカナをボールへと戻す。
ようやく姿の見えたポテポテと横に大きな、巾着餅(きんちゃくもち)のようなポケモンを睨むと、腰に据えてあったスーパーボールを握り締めた。
「チャチャ、行くんや!!」
目いっぱいの力を込めて、サファイアはボールを投げる。
勢いをつけて飛んだボールからは 灰色のポケモンが飛びだし、カサカサと音を立てた。
「・・・・・・・・・ツチニン・・・」
「せやっ、ツチニンのチャチャや!! 人相手に戦わすんは 今日が初めてやけどなっ!!」
大きな振りでポーズを取ると、サファイアは自信ありげに こんじょうポケモン『マクノシタ』を指差した。
もっとも、ハッタリ以外のなにものでもない、サファイアは冷や汗のたっぷり浮いた手で ポケモン図鑑を引っ張り出す。
「マクノシタ、こんじょうポケモン、絶対にあきらめない根性を持つ、たくさん食べ、よく寝て運動することで体の中にエネルギーが充満する。
戦うっきゃないで、チャチャ、『すなかけ』や!!」
「マクノシタ『たいあたり』!」
突っ込んできたマクノシタに チャチャは地面を舞い上げ、目くらましをしかける。
地面が小揺れするほどの衝撃のあった後で、土ぼこりの下で灰色のツチニンの影が動く。
「こっちも『たいあたり』や!!」
「『あてみなげ』!!」
必死の『たいあたり』攻撃がぶつかった瞬間、チャチャの体は中へと放り投げられる。
力を込めて地面へと叩きつけられる。 致命傷は避けられたようだが、それでも『まとも』に動ける状態ではなくなっているのは 手に取るように分かる。
『ピンチ』、その言葉がサファイアの頭の中を駆け巡った。
「勝負あったな。」
勝ち誇った表情でトウキはサファイアに言葉を送る。
深く強く、息を吐き出すと、いつのまにか海の色に染まっている瞳で サファイアはトウキのことを睨みつける。
視界が 徐々に白くなっていく。
「・・・・・・まだや、まだ負けてへん。
ギリギリでも チャチャの体力は、まだ残っとるんや・・・・・・最後まで、あきらめてたまるかいな!!」
全てを言い終わらないうちに サファイアの視界がブラックアウトする。
それも一瞬だけ、1秒と経たないうちに光は戻り、いつもの・・・いや、いつも以上にしっかりとしたフィールドの風景がサファイアの前に広がる。
相手のマクノシタの うろたえたような動作。
「『きゅうけつ』や!!!」
滑るような動作でチャチャはマクノシタへと近づくと、針のような口先を突き立て、体力を吸い取る。
これで全てを回復したというわけではないのだが、動くにあたっては ずいぶん楽になったらしい。
足元はもう、ふらついてはいない。
「ポケモンバトルも商い(あきない)も、いっつもハイリスクハイリターンや!!
ピンチからやろうが、なんべんでも立ち上がったる!! チャチャ、『みだれひっかき』や!!!」
まるで警戒していないマクノシタの背中を 小さいながらも鋭いつめが何度も切りつける。
悲鳴のような鳴き声が響く、直後、マクノシタはマリの転がるような仕草で 地面の上へと横たわった。
「・・・・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」
ようやくつくことの出来た『一息』、片ひざをつくと、再び視界はまっくら闇。
「なんや・・・停電かいな?」
「はぁ? さっきからずっと停電しっぱなしじゃないか。
その状況を利用して攻撃してくるなんて、滅茶苦茶驚いたぜ?」
「・・・停電しっぱなし? ずっと、真っ暗だったっちゅうんか?」
全く気付かなかったかのように サファイアはオウム返しに効き返した。
それをトウキは おかしなものでも見るような視線で見つめている。
「だから、そう言ってるじゃないか。 修行のためとはいえ、5センチ先も見えないくらいの暗闇だったのに・・・・・・」
まったく気付きもしなかった話に ただ呆然としているサファイアの元へチャチャは寄ってきた。
足元に感じる動きに サファイアは無意識のうちにしゃがみ込み、コハクの真似なのか、出来るだけ優しく頭をなでてやる。
刹那(せつな)、感じた 自分を見つめているチャチャの視線。
暗闇に視界を取られることもなく、まっすぐにサファイアのほうを向いている。
「・・・・・・チャチャ、おまえさんの・・・・・・能力?」
「・・・サファイアッ!!!」
ご満悦(ごまんえつ)でジムから出てきたサファイアにかかった、確認するまでもないコハクの声。
振り向けば、息を切らし切らし走ってくる見慣れた姿があった。
「寝てるんやなかったんか?」
「何か、すごい『力』を感じて・・・・・・・・・サファイア、大丈夫だった?」
ふ、ふん、と サファイアは 鼻で息を鳴らして見せる。
手に持った光るジムバッジ、あまりにも自慢げに出されたものだったが、コハクは機嫌を損ねるようなこともない。
彼は、太陽のような笑顔を向け、心の底から喜んでいた。
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