【ダブルバトル】
ホウエン地方で発案された、新しいポケモンバトルの方法。
トレーナー同士が、それぞれ2匹ずつのポケモンを出して戦わせる。
技により、複数のポケモンにダメージを与えるものもあり、
トレーナーには より高い技量が求められる。
PAGE16.歯車の城
「N(エヌ)、『いわおとし』!!!」
大きく放り上げられた無数の岩を、ワカシャモとルビーは軽いステップで避けていった。
間一髪でルビーが最後の大岩を避けると、口にハーモニカを当て、強く息を吹き入れる。
瞬間、ワカシャモは大きく飛びあがり、ノズパスのN(エヌ)に強烈なキックの2連発を食らわせた。
効果はばつぐん、N(エヌ)はくるくると回転すると、大きな地響きを上げ、砂浜の上へと倒れてしまう。
「あちゃあ・・・・・・『にどげり』、受けないように気をつけてたつもりだったんだけどなぁ・・・・・・」
「一応、それだけ打つつもりで バトルしてたかんね。」
「お疲れっ!!!」
ポケモンバトルを終えたルビーとコハクに、街の方から歩いて来たスザクは『サイコソーダ』を放ってよこした。
相当喉が乾いていたのか、2人はそれを一気に飲み切り、かなりむせこんでいる。
「・・・・・・1ヶ月、本当に早かったね。
ほんっとに、ルビーは色んなバトルの技術、飲みこみ早かったし・・・・・・正直、コハクが倒せるなんて思ってなかったのよ?」
「どーいう意味さ、それは・・・?」
悪友に話すかのようかのような口調で ルビーはスザクに強い笑いを向ける。
同じような笑い方でスザクはそれを受けとめると、今なおにぎわうカイナの街の方へと顔を向けた。
「あたしも一通り、コンテストはなんとかなったところだし・・・・・・そろそろ次のステップに進んでもいいころだと思うんだけど、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・問題は・・・」
走ってくる人影、この状況下で誰が来ているのかと聞かれたら、恐らく、ほとんどの人間が同じ人間を差すだろう。
そう、サファイア。
「はらしょおおぉ〜〜〜っ!!!?」
謎の言葉を叫び、カイナ市場の人々の注目を浴びたランナーは 暗がりへと引きずり込まれ、『ふくろだたき』攻撃を受けた。
けちょんけちょんにノされたサファイアは自分の頭についたヘアバンドを直すと、攻撃の主、ルビーをうらめしそうに見上げる。
「う・る・さ・い。」
「せやかて、ムショーに叫びたくなるんやぁ・・・・・・昨日だってな・・・」
「また『夢』か?」
びくびくと上目づかいにサファイアはルビーのことを見上げる。
おびえた子犬のような表情。 ルビーはため息をつくと、サファイアに背中を向けた。
「・・・・・・やっぱ、疑っとる・・・・・・?」
「半分はね。」
言い捨てるかのような口ぶりで話すと、ルビーはコハクとスザクの元へと歩き出した。
その後を ワカシャモとサファイアが全く同じしぐさでついていくのが面白い。
「・・・に、しても、どうして1ヶ月もしごかれて強くならないかねぇ?」
ルビー、それに、コハク、スザクの視線は サファイアへとそそがれていた。
ぽかんと口を開けっ放しにして逆側を見つめているサファイア、ホルダーについたモンスターボールの中は、ミズゴロウとツチニンのまま。
話の筋が見えておらず、首をかしげるサファイアをみて、スザクはひたいに手を当てた。
「むぅ、このスーちゃんが鍛えてるんだから、強くならないはずがないんだけど・・・・・・・・・
うんっ! きっと今は目に見えてないだけね、多分!! そのうちに頭角(とうかく)をあらわすはず、きっと!!
どっかの誰かさんから『早く先に進め』って文句つけられる前に、次の街に出発しちゃいましょう!!」
「・・・それ、誰のこと・・・?」
「秘密☆
あ、でも あたしはミナモの方に行かなきゃいけないから、キンセツまでついたら、別れなきゃ。
それじゃ、しゅっぱーつ!!!」
「早すぎっ!!?」
ルビーとサファイアの声が届くわけもなく、本当に文句をつける暇もなく4人は出発する羽目になっていた。
進むは、野生ポケモンの宝庫、110番道路。
少し汗の吹き出るような初夏の日差しの中、子供が4人歩いていた。
元気に芽吹き出した草たちを何気なく見つめているのがルビー、同じくらいの目線の高さで空を見上げているのがコハク、
少し高い目線の高さから そんな2人と別の1人を交互に見比べているのがスザク、
そして、地面をはいつくばって 水色の40センチほどのポケモンと一緒に草むらをガサガサやっているのがサファイアだ。
「やっせいっのポ〜ケモ〜ン、おらへんかなぁ〜vv」
「音痴。」
「1匹しかポケモン持っておらへん人にぃ、ポケモン捕まえる楽しさはわからへんわなぁ。
なぁ、カナ?」
「べべっ。」
キツイ一言にも負けず、サファイアはガサガサガサガサと草むらをかき分ける。
普通に歩いている他の3人とはぐれないのが気味が悪いが、そこは気にしないでおこう。
数分探し続けると、やがて、サファイアは小山のような物体に頭から激突する。
「・・・あちゃあ・・・やってもうた・・・・・・なんなんや、これ・・・」
地面の方からゆっくりと視線を上げて、サファイアは目を瞬いた。
ただの小山だと思っていた物は、緑色の、カナとほぼ同じ大きさのポケモンだったからだ。
「おぉ、ポケモンや。
なになに、『ゴクリン、いぶくろポケモン。 体の大部分が胃袋でできていて、心臓や脳みそはとても小さい。
・・・・・・なんでも溶かす・・・特殊な胃液をもつぅ!!?」
いつのまにやらゴクリンはサファイアの方へと体を向けていた。
ゆっくりと開いていく、体の大きさからは想像もつかないくらい大きな口。
目の前に広がる、恐怖の空間。
「・・・・・・しょぎゃあああぁぁぁぁっ―――――っ!!!?」
遠くはシロガネ山まで響きそうな声で、キャモメたちが一斉に飛び立った。
逃げるサファイアにカナ、追うゴクリン。
「だから野生ポケモンは危険だって・・・・・・」
「あら楽しそう。」
「平和だねぇ・・・・・・」
「そんなこと言っとる場合かいなぁ!!!?
ワシもカナもエサやあらへん〜っ、何でこいつは追っかけてくるんやぁ!?」
逃げ惑うサファイアを見て、コハクがつぶやく。
「そりゃ・・・やっぱ、おいしそうだから?」
「んなっ、アホなぁ――――――――ッ!!!!!???
ひぎゃっ!?」
突如として、サファイアの姿が消える。
もちろん、そんなことでルビーたちがあわてるはずもない。 理由は大体予想がつくのだから。
「・・・あ〜、やっぱり穴だ。 落とし穴かな、性質悪いなぁ・・・・・・」
それまでサファイアとカナがいた場所まで行くと、コハクは深く掘られた穴を見下ろしてなんてこともないような口ぶりで話した。
他の2人も、対して調子を変えずに穴のそばまで寄ってくる。
「サファイアー、生きてるか〜・・・ダメだ、返事がないね。」
「伸びちゃったのかしら?」
「・・・だと思う。
最初はグー・・・・・・・・・」
「ジャンケンポン!!」
「ジャンケンポン!!」
突如『じゃんけん』が始められ、ルビーは驚く。 それはともかく、結果はグー対パーで、コハクの勝ち。
かる〜く肩をすくめると、スザクは穴の中を見下ろした。
深くまで掘られた落とし穴(?)は、光が差しこまず、底がまったく見えない。
「・・・はぁ、時間かかりそうだなぁ・・・・・・・・・
コハク、ルビー、悪いんだけど、一応他の入り口とかも探してくれない? 時間かかりそう。」
「了解、一応気をつけてね。 行こう、ルビー?」
「はぁ?」
訳の分からないまま ルビーはコハクに連れられてその場を離れていく。
軽く、辺りを見まわすと、コハクは不自然に大きな看板へと近づいていく、不思議そうな瞳で。
「・・・・・・『ここより→へ3歩、↑へ2歩ゆけば、そこはステキな』・・・・・・こすれちゃってて読めないなぁ・・・
え〜っと、右に3歩・・・・・・」
とこ、とこ、とこ。
「左向いて、2歩・・・・・・」
とこ・・・
「ぎゃっ!!?」
突然地面がぽっかりと口をあける。 とっさに飛びのいていなければ、コハクも穴の中へと落ちこんでいただろう。
と、いうより、穴があいた後でコハクが飛びのいたようだ。 少なくとも、ルビーの瞳にはそう映った。
「あっぶなかったぁ〜。」
ふぅ、と息をつくと、コハクはその場に座りこんで、目の前に建っている民家のような建物を(なぜ今まで気付かなかったのかは来世紀末までの謎だろう)見上げた。
つられたのか、ルビーも同じ建物を見上げる。
ほんの少し古びた 和風の建物からは、不思議とも思える空気がただよってくる。
「東へ3歩、北へ2歩行けば、そこはステキな『からくり屋敷』・・・・・・」
「・・・・・・え・・・?」
「いや、なんとなく・・・・・・でも、それっぽいよな。」
しゃべりながらルビーは目の前にある小さめの扉に手を触れた。
その途端、どんでん返しの扉はぐるりと回転し、ルビーを中へと招き入れる。
「・・・っつぁ〜・・・ドアかと思えば回転扉かい・・・・・・あ・・・・・・」
ルビーのぼうっとしていた顔に、緊張が走る。
1ヶ月間、鍛え続けられたせいで感じられるようになった、粘りつくような視線。
―敵―、反射的にそう答えを弾き出し、ルビーはモンスターボールを胸の前に構える。 強い瞳で小さな部屋を探りながら。
睨んだのは、机の下。
「ワカシャモッ!!!」
技を言わなかったが、ルビーのワカシャモは睨まれた先の机へと向かって 強烈な『にどげり』をお見舞いした。
強い足に蹴り飛ばされ、天井まで吹き飛んで行く座敷机。
その下から現れたのは・・・・・・どうとも言いがたい、異様としか言いようのない格好をした、中年の男。
「ぬう・・・!? なぜ我が輩(わがはい)が机の下に隠れていると分かった!?
さてはさては・・・お主、ただものではない気配じゃ!!」
後を追って家の中に入ってきたコハクと共に、訳も分からず、ルビーは首をかしげる。
「・・・・・・文章が・・・つながってねぇ・・・
誰だい? あんたは・・・・・・・・・」
面倒くさそうにルビーが聞くと、中年の男はふん、ふん、と鼻を鳴らした。
『怪しい』、『おかしい』、そんな言葉が何回でもルビーの頭の中をよぎる。
「よーくぞ聞いてくれたっ!!!
我が輩こそ! ホウエン最大の謎の人物、人呼んで・・・・・・・・・・・・・・・」
「それは、ちっがーう!」
声の主はコハク。
にやりんと笑って2、3歩前へと歩くと、おかしなオヤジに向かって びしぃっ!と指を突き出した。
「最大の謎の人物は この僕だ!! この称号は10ヶ月くらい渡さないっ!!」
「何だとぉ!? 最大の謎の人物は我が輩、『からくり大王』と決まっておるのだ!! 一千年前から決まっておるのだぁ!!!?」
「違うッ、5万年前から僕だって決まってるんだい!!」
「我が輩だったら我が輩なのだ〜!! 8億年前から・・・・・・」
「・・・うるっさ・・・!!!」
「な゛ぁ―――――――――――――――ッ!!!?」
抗議の声さえも 謎のオヤジの叫び声にかき消されてしまう。
訳の分からない鼻メガネのようなものをつけたオヤジは、先ほどまで自分が隠れていた机へと走り寄ると、
その上でくつろいでいた黄色いポケモンを2匹、しっしっ、と追い払う。
へなへなとその場に座りこみ、奇怪な機械を背中につけたオヤジは机の上に散らかった 盆(ぼん)の上をうらめしそうに見つめていた。
黄色い、小さなポケモンたちに食い散らかされた、お菓子の箱と、こぼされたお茶。
「10時のおやつに、楽しみに取っておいた・・・ポケモン人形焼と高級茶がぁ・・・・・・・・・
おのれぇ、いつもいつも現れる『プラスル』に『マイナン』めぇ・・・!!」
「共食いだ・・・・・・」
「ねぇ、いつも現れるって言ってたけど・・・・・・」
人の話など、全く聞いていない。
無精ひげ(ぶしょうひげ)を不潔感たっぷりに生やしたオヤジは、ルビーとコハクの方を見つめると、
ぞぞぞぞぞっ、と はって近づいて来た。
「最大の謎の人物『からくり大王』からの極秘依頼なのだぁっ!!
あのプラスルとマイナンを 我が輩の屋敷に近づかせるな、なんとしても、是(ぜ)が非でも!!」
「そっ、そんなの誰がやるか・・・・・・!?」
「頼んだぞっ、早速出陣だ! GO!!」
いかにも手作りの王冠をかぶったオヤジが 天井からぶら下がっているひもを引くと、ルビーとコハクの立っている床の板が回転する。
逃げるひまもなし、当然2人は垂直に墜落(ついらく)決定。
ガシャン!と豪快な音を立てて、2人は地下室に積み重ねられた モンスターボールの山の上に着地した。
モンスターボールがダンボールに入っていたせいで 怪我をすることは避けられたものの・・・・・・・・・
「・・・ったたたたた・・・・・・・・・一体、何だってんだい、もう・・・・・・」
「むははははははは!!! 感謝するのだ、そこにあるモンスターボールは好きに使って良いっ!!
それでは、我が輩はからくりの準備があるので これにて失礼する! しーゆー ねくすと れいたー!!!」
バタン、と景気良く(?)天井・・・正確には床板が閉まり、からくり大王の姿は消え去った。
だが、それでルビーの気が治まるわけがない。
神経が逆立つことサファイアの売るタワシのごとし。 コハクが小さく声を上げて、少しずつ逃げようと後ろへと下がる。
「・・・ふざっけんじゃないよ・・・・・・!」
すっと小さく息を吸う音が聞こえ、コハクがそぉーっと近づいてくる。
「ま、まぁまぁ・・・・・・モンスターボール使っていいって言ってるんだから・・・
このチャンスに あの黄色いポケモンたち、捕まえちゃうっていう手だって・・・・・・・・・・・・・・・」
「野生のポケモンは嫌いなんだッ!!!
近づくだけでも気分悪いってぇのに、捕まえるなんて・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ・・・・・・・・・?」
コハクが言葉を失ったっきり、2人の会話はそこで途切れてしまった。
しばらくの間、ひっじょ―――――ぉうに気まずい沈黙が 散らかった部屋の中に流れる。
「あの・・・・・・ルビーさん・・・?
先ほどおっしゃったことは、つまりは・・・・・・」
「嫌いだから嫌いって言ってんだよ。 野生のポケモンなんて、役には立たないし、ガサガサうっとおしいし、人を襲う危険だってある。
こんな形でなけりゃ、ポケモントレーナーにだってなりたくはなかったんだ。」
ため息のようなものを1つつくと、コハクは鏡に顔を映し、すぐにフェイドアウトした後、ルビーへと顔を向けた。
困っているような、だけど、笑っている顔。
「・・・そっか。 ごめんね、無理矢理連れ出しちゃって・・・・・・・・・
でも、話してくれて少し嬉しかった。」
「あんまり、話したくはなかったね。」
「話した方が、楽になることだってあるんだよ?
ポケモンに近づきたくないんなら、僕がひとっぱしり捕まえてきちゃうから、ルビーはここで待っててよ!!」
暗い顔をしたルビーがゆっくりとうなずくと、コハクはにっこりと笑い、足元にあるモンスターボールを1個拾い上げて走り出した。
途端に鳴った、ガシャン・・・
「きゅみあぁ――――――――――!!!?」
コハク、只今時速100/h。
『こうそくいどう』並みのスピードで あっという間にルビーの視界から消えうせる。
「・・・・・・なんだ、ありゃ・・・」
どうと言うことも出来ず、ルビーはその場に座り込んだ。
さっきのコハクの犠牲(ぎせい)のおかげで、この民家・・・いや、要塞が仕掛けだらけだということが判明した。 うかつに動くわけにもいかない。
手に持った、たった1つのモンスターボールを見つめると、深くため息をつく。
途端、部屋の端でカメラのフラッシュのような光が点滅した。
何事かとルビーは立ちあがる。
「・・・きゅぴぃっ!?」
床に転がっているモンスターボールの山にでもつまずいたのか、黄色い体に青い耳と尻尾をもった小さなポケモンが部屋の中へと転がり込んできた。
2回、3回と床の上で回転すると、目を回してくるくると頭を振った後、ルビーの方へと向かってへらへらと愛想笑いを向ける。
まぎれもなく、さきほどからくり大王を泣かせていた 小さなポケモンたちのうちの1匹。
「・・・・・・は?」
訳も分からないままルビーが目を瞬かせていると、黄色に青のポケモンはルビーへと向かってキッスを投げた。
その直後、後から走ってきた黄色い体にピンク色の耳と尻尾を持った似たようなポケモンに 頭を叩かれる。
からくり大王がついだ茶をすすっていたポケモンに間違いない。
「ぴきゅ、ぴきゅきゅ、ぴきゅ!!」
「きゅぴ・・・きゅぴいぃ〜。」
人間の見ている目の前で起こる、ポケモン同士の痴話ゲンカ(に、見える)。
種類を調べようにもサファイアがいなく、困り果ててルビーがそれを見ていると、
そのケンカはピンクのポケモンが青いポケモンをはたいたところで終結した。
どういうわけか、他人のような気がしなくなる。
「・・・・・・もげ? ・・・むえぇ〜、むぃえぇ〜!!」
この世のものとは思えないような奇怪な音が響くと、2匹の小さなポケモンは体を震わせた。
ずるっ、ずるっ、という、何かを引きずるような音。
すると先ほど、このポケモンたちが飛び出してきたのと同じ場所から、なんとも言えない緑色をした物体がはい出してくる。
ポケモンとすら思えないような、異常な風貌。
「なっ・・・なんなんでぇ、こいつは!!? 気持ち悪りぃ、ちっ、近づくんじゃないよ!!」
「むえぇ〜、わおらっ、まわいわわっ!!」
緑色のモンスターはずるり、ずるりとゆっくりとルビーの方へと近づいて来た。
ルビーの背筋には冷たいものが走る。 特に、その直後に攻撃されたとなっては。
「・・・!? こんな時に!! ワカシャモッ、応戦しなっ!!」
突然の敵襲にルビーは慌てて持っていたモンスターボールを床に打ちつける。
ワカシャモは攻撃の飛んできた方向へと向かって『ひのこ』を飛ばすが、全く当たった様子はない。
攻撃の主の代わりに、モンスターボールの放りこまれていたダンボール箱が燃えただけ。
その燃えた箱も、飛んできた水流により、あっという間に消しとめられる。
「まだ敵がいるのかっ!!? それも・・・水タイプ・・・!!」
「もあうっ、わえお わらまわらい・・・」
緑色のモンスターがずるずるとルビーの方へと接近してくるので、
ルビーとワカシャモは攻撃を避けるため、燃え残ったダンボール箱の陰へと逃げこむ。
すると、先客入り。 さきほどの小さないたずらポケモン2匹組が既に同じ場所に隠れていた。
「3体3・・・・・・」
無意識のうちからか、ルビーは相手の様子をうかがいながらつぶやいていた。
おびえているのか、かすかに震え、ルビーの腕をつかむワカシャモ。
迷いながらも、ルビーは床の上に散乱している赤白のボールへと手を伸ばす。
「・・・ふざけんな、こんな・・・訳のわかんねぇところでやられてたまっかよ・・・!!」
ルビーは歯を食いしばると、足元にいる2匹のポケモンへと向かってモンスターボールを押し付けた。
青いほうのポケモンは光を出して抵抗したが、ボンボンッ、と軽い爆発の起こったような音が響き、
2匹はそれぞれ、赤白のボールの中へと閉じ込められる。
それらを拾い上げると、ルビーは怒りのこもったような赤い瞳で ずるずると迫ってくるモンスターを睨みつけた。
ゆっくりと確認する、他2匹の『相手』。
「・・・・・・・・・学名なんざ、しらねぇけど・・・」
紅の瞳が 緑のモンスター以外の2匹を射程内に捉える(とらえる)。
「『アクセント』、左の針を撃ってきたポケモンに『でんこうせっか』!!
『ルクス』、右の水ポケモンに『スパーク』をお見舞いしな!!」
2つのモンスターボールが同時に開き、黄色に赤のポケモン『アクセント』が真っ先に飛び出し、灰色のポケモンを討った。
続いて飛び出した青いほうのポケモン、『ルクス』も、青い四つ足のポケモンに パチパチと光り輝く電気をまといながら体当たりで攻撃する。
意外にも良く効いていたはずの青い4つ足のポケモンの方が生き残り、灰色のポケモン、ツチニンがモンスターボールの山の中へと墜落した。
「もぁもぁっ!!!? むえぇっ、まにいえあうえんっ!!!」
怒りの表情か、緑色のモンスターはスピードを上げてルビーの方へと迫ってきた。
しかし、紅の瞳が睨みつけると、驚いたのかおびえたのか、一瞬動きが止まる。
「アクセント、交代しなっ、ルクスはそのまま!
ワカシャモッ、あの緑の物体に『にどげり』!!!」
再びストロボのような光が舞い踊り、青色の4つ足のポケモン・・・ミズゴロウはダンボール箱をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。
ほとんど同じタイミングで ワカシャモの蹴りが、緑色のモンスターにクリティカルヒットする。
すると、緑色のモンスターは 何か、黒くて大きな物体を吐き出してきた。 すさまじく気味の悪い音と共に。
「・・・・・・うべべ・・・・・・あいったぁ〜・・・・・・シャモぉ、もう少し手加減しれくれはったってええんやない・・・?
でも、なんとか助かったわ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・サファイアッ!!?」
どろどろの黒い物体はのっそりと起き上がると、うらめしそうな目つきでルビーのことを見つめた。
倒れているツチニンとミズゴロウ以外、全員が意外な反応を示す。
体についたべとべとした物体を地面へと投げ落とすと、
サファイアは床の上にみずたまりのように広がっている緑色のポケモンを拾い上げ、部屋のすみへと放り投げた。
「ホンマ、大変やったわぁ・・・穴に落ちたら知らんとこやし、一緒に落っこちたゴクリンに飲みこまれてまうし・・・
おまけに、助けぇ呼ぼうとしたら、逆に攻撃されてまったしのぅ・・・・・・」
「・・・・・・は・・・」
「しっかし、なんや? ルビー、泣いとったんか・・・・・・・・・?
眼ぇ真っ赤やで、ポケモンみたいや。」
サファイアの一言でルビーは体を硬直させ、部屋の隅へと走り去った。
両目を閉じ、その上から手でふたをして、その場にうずくまる。
「ルビー・・・・・・?」
「来るなッ!!!」
よく通る声で、あまりにも大きく怒鳴ったためか、その場にいるポケモンたちは全て、ビクッと体を震わせていた。
サファイアも同じこと。 一瞬にしてその場に空気が固まりつく。
「あたいに近づくな・・・何するか、全然わかりゃしねぇ・・・・・・」
「な、なに言うてんねや? ルビーがそんなことするはずが・・・」
「あるんだよ! 下手すりゃ、あんたを殺す可能性だって!」
いつも以上の気迫に サファイアは思わず2、3歩と後ろへと引き下がった。
ワカシャモにアクセント、ルクスが何やらルビーへと向かって騒ぎ立てるが、全く届く気配もない。
「・・・・・・『てんしのキッス』」
突然、技の指示が出されたかと思うと、ルビーのひたいにやわらかいものが触れていた。
何が起きたのかと ルビーが薄目を開けて指を少しだけ開くと、オレンジ色がそこには広がっている。
「だーれだ?」
ボーイソプラノのような、迷いようのない声。
「コハク・・・・・・・・・」
「ぶぶーっ、半分しか当たってません。」
ルビーは瞳を開け、おおっていた手をどけた。 目の前にいるのは、コハク本人で間違いようがない。
いつもどおりに向けられる、太陽のような笑顔。
「・・・やっぱりコハクやないか・・・」
サファイアの真似なのか、ルビーはジョウトなまりでしゃべる。
それが、よほどおかしかったのか、その場にいる全員・・・倒れているカナすらも クスクスと笑った。
「確かに、ルビーの前にいるのはコハクです。 だけど、僕はコハクではありません。
世の中、目に見えるものだけが全部って訳じゃないんだよ、ほら・・・」
『来るな』という、ルビーの命令を無視したのか、彼女の足元には彼女の3匹のポケモンが集まっていた。
ついさきほど捕まえたばかりの黄色に青とピンクの2匹のポケモンも、低い視点から 精一杯ルビーのことを見上げている。
「さわってごらん?」
コハクに言われるがまま、ルビーは下へと手を差し出した。
触れる勇気が見つからず、そのまま固まっていると、ピンク色の方・・・アクセントがグローブのついた手を珍しそうに触れる。
その小さな前足は、小さくて、柔らかくて。
少女の瞳から、小さな粒が流れ落ちた。
「・・・・・・ふっ・・・うう・・・・・・・・・・・・」
「・・・思ってたより、怖くないでしょ?」
よ―――――――――――く見ないと分からないほどに、ルビーは小さくうなずいた。
黄色に青のルクスが、ルビーの目の前でくるくると回転すると、どこから取り出したのか、ティッシュで出来た造花をキザっぽく差し出す。
その瞬間、アクセントの強烈な張り手が飛ぶ。
一同は思いきり笑い出した。
コハクは立ちあがると、ルクスの真似をしてくるくると回転し、こけた。
気を取り直して再び立ち上がると、精一杯の笑顔を2人へと向かって投げかける。
「それじゃ、出発しようか!!」
「せやけど・・・スザクは?」
口に手を当ててほんの少しばかり考えると、あまり気にする様子でもなくコハクは言ってのけた。
「あんまり気にすることもないでしょ。 あれで結構やるときゃやるほうだし。」
「むがあぁ―――――――――――っ!!!? やめろっ、それ以上は反則だと言ってるだろうにぃ!?」
叫ぶからくり大王。 目の前に広がるのは、ガラクタと化しかけている、からくりの山。
こうしたのはスザクだった。
一旦止めていた手を再開すると、破壊音に負けないほどの大声で負けじと叫ぶ。
「だって、しょうがないじゃない!
急いでるのに、いちいちこんなの解いていらんないわよ!!」
「だからといって壊すのではない―――っ!!?
我が輩が1ヶ月と4日と3時間かけて作ったからくりがぁあ――――――――――――――ッ・・・・!!!」
叫んだところで止める術もなし。
誰にも見られることのなかった太陽は、今日も規則的に沈んで行く・・・・・・
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