【相性】
ポケモンの生来持っているタイプ、繰り出す技のタイプによって、
ポケモンバトルには相性というものが作られる。
タイプの相性によっては受けるダメージは最大で6倍まで跳ねあがり、
最低の場合、全く攻撃を受けない。
例として、体質が炎のポケモンは水の技に弱く、
水の属性を持つポケモンは、吸い取られてしまうため、草に弱い。
ただし、タイプを2つ持つポケモンなど、いくつか例外もある。


PAGE18.ピカピカ


「たんのもぉ〜!!! サファイア君のジム挑戦じゃあ〜!!!」
その日のお昼頃、サファイアは元気良くキンセツシティジムの扉を、バッターン!と開いていた。
悪趣味なくらいにギラギラと光るジムは、チャチャの目には少しまぶしいか。
そんな考えをちょっとずつ張り巡らせながら、サファイアは誰も出てこないジムの奥へと1歩足を踏み出す。
その瞬間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







「・・・・・・っんんぎょええぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!?」
電気バリバリ、ガイコツ丸見え、はい真っ黒コゲ。
後からやって来てぜぇぜぇと息を切らしたコハクが、それを見て あ〜あ、とため息をついている。
「さふぁいあぁ〜・・・急ぐと危ないよ・・・・・・
 ジムリーダーの中には、挑戦者を試すためや侵入者を防ぐために、罠(わな)を張ってるひともいるんだから・・・・・・」
「そ、それを・・・早よぅ言って欲しかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ばたり。」
サファイアは4回転すると、もう1度電撃の壁にぶち当たってから倒れた。
心配そうにコハクがのぞき込むと、何事もなかったかのように平然と立ちあがっ・・・たりはしなかった。
白目をむいて、完全に気絶している。
「おーい・・・大丈夫か〜・・・・・・?
 アカン、完全に気絶しちゃってるや・・・気付けとかって持ってなかったっけ・・・・・・・・・・・・K(ケー)?」
キモリのK(ケー)はコハクのボロボロのリュックの中から『きのみ』を取り出すと、「はい」とばかりに放ってよこした。
コハクはそれを、しばらく眉をひそめながら見つめるが、やがて、決心したような顔で、サファイアの口の中へと押しこむ。

「・・・(もぐもぐ、ごっくん)・・・・・・・・・しょべああぁ〜〜〜〜〜〜!!!?」
「よし、効いた効いた、『カゴのみ』。」
よく噛み砕かれて細かくなった『きのみ』を ぼとぼとと吐き出しながら、サファイアは涙をいっぱい溜めた眼でコハクを睨みつけた。
何かを言いたそうだが、口の中に不織布(ふしょくふ)詰め込まれたような顔で、口をもごもごさせるばかり。
・・・まぁ、口が渋すぎてしゃべるどころでもないのだろうが。



受け渡された水を一気に飲み干すと、
ぜぇぜぇと息をつきながら サファイアは目の淵(ふち)に溜まった涙を袖(そで)で拭き取った。
何かを言いたそうな顔をしたが、それを振り払ってキンセツシティジムの奥を睨みつける。
「・・・くぉんの恨み、晴らさでおくべきかぁ・・・・・・!!」
・・・どうやら、どこにも向けられない怒りをジムバトルに向けることにしたらしい。
地響きを上げることグラードン(伝説のポケモンらしい)のごとし、奥へと迫っていく勢いカイオーガ(伝説のポケモンらしい)のごとし。
「出てこいやぁ、ジムリーダー!!
 世界一のあきんど(になる予定)にして、世界一のポケモントレーナー(になる予定)のサファイア君が成敗したったるでぇ!!」
「ポケモンマスターの夢も追加したんだ・・・」
のんきに感心するコハクをよそ目に、サファイアは電撃に打たれたり打たれなかったりしながら 大股でジムの奥へと進んでいった。
そして、部屋の隅にうごめく『何か』に目をつける。

「・・・・・・・・・・・・ぎょきぶりじゃあぁ〜!!! チャチャ、成敗したりぃ!!!」
マッハ自転車よりも速いスピードで反応するサファイアの方が よほどゴキブリっぽい。
さらに、うごめくものよりも、ゴキブリっぽい動きをするツチニンのチャチャが、鋭い爪でゴソゴソと動く物体を引っかいた。
やたらと動く物体はぶるぶると震えると、突然クラクラするような光を放ち、チャチャを壁際まで吹き飛ばす。


「いったた・・・痛い痛い、あ〜びっくりしたびっくりした!!
 急にポケモンの奇襲受けるなんて思わんかったぞい、なんじゃなんじゃ挑戦者か!?」
異常に早口で話したかと思えば、うごめいている物体は急に巨大化・・・いや、起きあがってサファイアの方へと向き直った。
それなりに体格のある、白い髪の薄くなった男が どたどたと向かってくる。
「わしがテッセン、ジムリーダーじゃ、キンセツのな。
 おまえが挑戦者だな、相手にとって不足はない では行くぞ!!!」
「・・・・・・・・・え!?」
テッセンはサファイアを無視し、コハクへと向かってモンスターボールを投げつけた。
着地したボールからは 銀色の小さなポケモンが飛びだし、ジジジ、と電気を溜める音を出す。
「ちょい待ちっ、ワシが挑戦者・・・・・・!!」
「コイル、『でんきショック』じゃ!!」
「・・・ちょっと、違う・・・・・・、わわわっ、のんっ!!!」
「のん・・・?」
ばちばちと光を放つ電撃から飛びのくと、コハクはモンスターボールからノズパスのN(エヌ)を呼び出す。
コハクに命中しかけていた雷攻撃を代わりに受けると N(エヌ)は 力を込めたこぶし(?)で、コイルを目一杯叩き落とした。
サファイアがとっさに出したポケモン図鑑は、技の説明を画面に表示する。
「『いわくだき、岩をくだく勢いで攻撃、敵の防御を下げることがある』・・・・・・
 ・・・・・・て、そういう問題やない!! おっちゃん、挑戦者はワシや!! 勝手に始めんなや!!」

フラフラしているチャチャをモンスターボールに戻すと、
サファイアは代わりにミズゴロウのカナを呼び出し、テッセンへと突進していった。
口をぱくつかせているコハクが視界に入っているらしいが、サファイアは全く気にしていないらしい。
コイルを睨むと、真っ直ぐにびしぃっと人差し指を突きつける。
「カナ、『たいあたり』や!!!」
どてんどてん、と あまり速くはない走りで突進すると、カナはコイルへと向けどしん、と体当たりした。
ところが、にぶい金属音が鳴っただけで、コイルはほとんどダメージを受けた様子がない、
それどころか、攻撃したはずのカナが、痛みをこらえるようにうずくまっているのだ。
「・・・・・・・・・なんでや!?
 攻撃が、効いてへんやなんて・・・・・・・・・」
「知らんかったんか? コイルの鋼タイプ、通常攻撃なんてろくに効きゃしない。
 それに、電気タイプもな、トレーナーとしちゃ最悪じゃ、あんた。 コイル、『でんきショック』じゃ!!」
バチン、と大きな音と閃光が弾け、とても目を開けていられる状況ではなかった。
しばらくして、サファイアがチカチカしている瞳をそっと開くと、ジムの真ん中で動けなくなっている カナ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナ・・・!?」
パクパクと口を動かすことしか出来なくなっているサファイアの肩に コハクの手が置かれた。
「何してるの!?
 カナちゃん、『ひんし』どこじゃないよっ、早くポケモンセンターに!!」
「・・・お、おぉ・・・・・・?」
まるでコハクの言葉に操られているかのように、
サファイアは すでににモンスターボールへと戻ってしまっているカナを抱きかかえると、ポケモンセンターへと向かって走り出した。
その背中をゆっくりと見送ると、コハクは何も言わずテッセンを睨み、サファイアの後を追いかける。







「頼むわっ、カナを助けたってや!!」
なぜかルビーと謎の中年男が外壁にそってぐるぐると回っているポケモンセンターへとたどり着くと、サファイアは叫びながら自分のポケモンを預ける。
ストレッチャーに乗せられ、センターの奥へと運ばれていくカナを見送ると、ゆっくりと息を吐きながらその場に崩れこむ。

「・・・大丈夫だよ、ポケモンセンターで治らないポケモンなんていないからね。」
ポンポン、とサファイアの肩に手が置かれ、コハクの声が降ってくる。
サファイアが首を横に振ると、バンダナから飛び出した白い髪が揺れる。 床へと振り下ろされたこぶしは、コツンと情けない音を立てた。
「進めへんかったんやな・・・・・・
 ミスして、無残な姿見して負け帰って・・・・・・カッコ悪うてしゃあないわ・・・・・・・・・」
「・・・・・・そうだね。」
意外とも思えたコハクの冷たい言葉に サファイアは青みを帯びた瞳を伏せる。
うつむいた白い髪の目立つ頭に、さらに重く言葉がのしかかる。
「一般に水は電気をよく通す、周りのトラップが電気を使ったものばかりだから、電気タイプの使い手だということも すぐに分かることだった。
 2人のジムリーダーに勝ったことで油断して、事前にポケモンの体調を調べることもしなかった。
 ポケモン図鑑で相手を調べることだって・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・っ!!・・・」
突如、コハクの着ているパーカーのフードに手が伸びたかと思うと、彼はそのまま揺り動かされた。
熱のない金色の瞳を睨む、深い蒼色の瞳。
キツく噛み締められ、奥歯はギリギリと音を鳴らす。
コハクは表情1つ変えず フードを掴むサファイアの手首を握ると、再び言葉を並べ始めた。


「そう、いくつものミスがあって、サファイアは負けたよ。 負けて、落ちこんで、格好悪い、そんなの、当たり前。
 1人と1人が戦うんだから、絶対に誰かが負ける。 それも、当たり前。
 ・・・だけど、そこで『負けた』って思わないで『次は勝つ』って頑張ってる人が 1番強いんだ。
 100回負けても、101回目を目指して、考えて、鍛えて、戦って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、1番・・・強いんだ。」
「・・・・・・コハク・・・?」
段々と感情的になってきた声に疑問を感じ、サファイアがフードをつかんでいた手をゆるめると、
コハクはサファイアを振りほどいて、外へと向かって早足で歩き出した。
魂を抜かれたかのように ぽかんと口を開けっぱなしでその場に突っ立っていたサファイアは 慌ててその後を追いかけようとする。
が、自動ドアを抜けた途端、なにかにけつまずいて派手に転がった。
ぶよぶよした、赤い物体・・・・・・・・・いや、人間・・・だと思える、かろうじて。
「・・・・・・・・・・・・・・・ぎゃふん・・・」
「うわわっ、悪いわ おっちゃん!! 急いどるんや、堪忍(かんにん)な!!」
「・・・・・・バイナラ〜・・・」
気前良く手を振ってくれた中年男を背に、サファイアはコハクを追って走り出した。
しかし、5歩ほど走って立ち止まる。 既に、見える範囲に彼の姿がないのだ。
サファイアは混乱し、闇雲(やみくも)にキンセツの街を歩き回る。 それで見つかると思っているわけでもないだろうが。
動かずにはいられないのだ。


「・・・・・・・・・コハクッ!!」
30秒ごとにサファイアは同じ名前を叫びつづける。
早足で歩き続け、自分がどこにいるのか分からなくなっていても。
自分では気付いていないのだろうが、不安が増すごとに蒼い色を持った瞳が色の深さを増していく。
「どこ行ったんや・・・・・・!!」
歩きつかれたのか、川のほとりに座りこむと、サファイアは水面に映った自分の顔をのぞき込んだ。
途端、川の流れが乱れ、水面が揺れる。
体を支えていた腕の力が一気に抜け、片腕だけ水につく形で倒れこんだせいだ。










「・・・・・・・・・・・・・・・・・サ・・・・・・・・・イア・・・・・・サファイア!!」
肩を揺り動かされ、サファイアは目を覚ました。
どれだけ時間が経過したのか、辺りはすっかりオレンジ色に染まっている。
ぬれて、すっかりふやけている手からびちゃびちゃと水がこぼれていく。
「気がついた? 川岸で倒れてたんだよ、サファイア。
 危ないから1人で街の外まで歩き回っちゃダメだよ〜、サファイアぷにぷにしてて美味しそうなんだから、野生のポケモンに食べられちゃうよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ・・・ゴメン、僕が勝手にどこかに行っちゃったから、探してたんだよね・・・・・・」
「・・・・・・・・・コハクや。」
「え?」
サファイアは頭を振ると、腕の反動を使って立ち上がった。
「なんでもあらへん。
 それよか・・・・・・腹、減ってもうたぁ〜・・・・・・今何時や?」
「え・・・6時・・・30分だね。」
空に手を届かせるような勢いで サファイアは大きく伸びをすると、ガーネットのような色に染まった空を見上げる。
「ほな、早よう戻って 飯(めし)にしよかぁっ!!
 コハクッ、センターまで競争や!!」
「あっ、ちょっと待って そっちは・・・・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どぼん。


別にトランプで失敗したわけではない。
まるっきり街とは逆方向に走り出したサファイアが、川の中に突っ込んだのだ。
「遅かった・・・」
「ぼべ・・・がばぶ、えっべぶれべばべべぼぐぼ・・・・・・」
しこたま水を飲みこみながら、サファイアは岸まで泳ぎ戻る。
笑いを必至にこらえるように、後ろを向いたコハクの背中が揺れていた。
怒りを必至にこらえたサファイアの眉が ひくひくと動く・・・・・・・・・
「笑いたきゃ笑えばええやろうが・・・」
「・・・・・・ゴ、ゴメン・・・ククッ・・・半分は僕のせいだから、・・・・・・・・・笑い切れなくて・・・・・・
 ククッ、戻ろっか・・・ぬれちゃったから 乾かさなきゃ・・・」
中途半端に笑いながら背中を向けると、迷子にならないよう、サファイアの手を引きながらコハクは歩き出した。
軽く引かれて、感触のはっきりしている手から、ほんの少しだけ温度を感じる。
振り向かないコハクの後ろ頭に、サファイアは軽く眉をひそめた。


ポケモンセンターにつけば、ルビーと、入り口前で倒れている赤い物体が待っている。


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