【状態異常】
バトルをするポケモンの全てが、力をもって相手をねじ伏せるわけではない。
なかには、力の弱いもの、攻撃する手段をほどんど持たないものも存在する。
そういったポケモンが自分の身を守る手段として、相手を眠らせたりなど、行動を封じる技がある。
これはトレーナー同士のポケモンバトルの際も有効なので、
どれだけその技を使いこなせるかによって トレーナーの力量が試される。


PAGE19.トレトレ・ジムバッジ


―――夢を、見たったんや。
いっつもと同じ、ちっこい部屋んなかで、信じられんくらいのポケモンに囲まれとって・・・
『そいつ』は、いっつも訳の分からんこと調べとるんや。
ホンマな、あったま痛くなってくるんや・・・せやから、大声出したったからって、蹴っ飛ばすん止めてくれへんか?


「・・・・・・・・・それで?
 『サファイアの叫び』の原因は分かったけど、それだけのために、わざわざこんな時間に起こした訳じゃねぇだろう?」
朝5時30分、眠い目をこすりこすり、ルビーはサファイアを睨んだ(にらんだ)。
脳みそがシェイクされそうなほどに頭を横に振ると、まだ寝息を立てているコハクのベッドの上を見やり、サファイアは広間へとルビーを連れ出す。
目的地へと彼女の案内で到着すると、しんと静まりかえっているロビーに声を響かせ、サファイアは再びしゃべりだす。
「夢ん中ではな、ワシ、いっつも他の『誰か』になっとるんや。
 そいつは、大体同じ部屋で、見たこともあらへんポケモンと、多分おふくろだと思うんやけど、女ん人と一緒に暮らしとる。
 ワシ自身が『そいつ』になってしもてるみたいやし、部屋ん中に鏡もあらへんから、顔はわからんねやけど、でもな・・・・・・」
「なんだい?」
言葉の端をにごし、口ごもったサファイアを ルビーは眉をつり上げてにらんだ。
首をギクギクと鳴らすと、サファイアは ほおをかきながら先を続ける。
「・・・・・・昨日まっぴるまにぶっ倒れてもうたんやけど、そん時にも見たんや、夢。
 そん時にな、ちらっとだけど、見えたんや・・・・・・」
「だから、何がだい!?」
ロビーいっぱいに響くような声でルビーが叫んだ時、ガタン、という小さな音が2人の耳をついた。
ルビーとサファイアは反射的に音の方向を睨みつける。

「・・・おはよ〜、早いね、2人とも・・・・・・」
何度も繰り返しあくびをしながら、ゆっくりとした足取りでコハクがロビーへと現れる。
足元にいるライチュウを見て、センターにポケモンを預けていなかったのか、という疑問がルビーの頭に浮かんでいる。
「はよさん、コハクこそ、えらく早いやないか?」
「なんだか起きちゃって・・・・・・D(ディー)に起こされちゃったのかな?
 あ、そうだ、ちょうど時間だし、回復したポケモン、みんなで引き取りにいかない?」
コハクがしゃべるたび、サファイアの眉がピクピク動くのをルビーは見逃していなかった。
軽く目を細めて、ふぅっと息をつくと、彼女は小さく口を開く。
「・・・そうだね、朝飯食べるまでにも少し時間あるしね。
 さっさと行こう。」
首輪のひもを引くような動作でサファイアの腕を引っ張ると、ルビーはポケモンの預かり所へと早足で歩き出した。
痛い視線の突き刺さっているコハクは、ヘラヘラッと笑うとのんびりとした足取りで2人の後からついてくる。
清潔な白い壁に囲まれた 小さめの部屋へとたどり着くと、
3人はそれぞれ自分の名前の書かれたモンスターボールボックスをIDカードを使って開く。
確認のために1つずつボールを開き、それぞれのポケモンと朝の挨拶を交わす段階になって、急に、朝特有の静けさが部屋をおおいつくした。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カァーナァーッ、どぉこじゃああぁ――――――ッ!!!?」

うるさい、と早い段階でサファイアの頭のてっぺんにルビーのかかとが落ちた。
おかげで起きだしてくる人数は センター全体の半分まで減ったものの、『オレンのみ』並みのたんこぶがサファイアの頭に乗っている。
頭を抱えてうずくまったサファイアを、頭と足についたヒレの特徴的な、青色のポケモンがのぞき込む。
「ぐべべ・・・?」
「・・・・・・・・・カナ・・・?」
見たこともないポケモンへと向かって自分のポケモンの名前を呼ぶと、
サファイアの腰くらいの大きさのポケモンは琥珀色(こはくいろ)の瞳をパチパチと瞬かせた。
「・・・カナ?」
探るような目つきをしながら腰をかがめ、サファイアは青いポケモンに顔を近づける。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふげ、ふげふげふげ・・・ふげふげふげ・・・・・・・・・

「な、なにやってるの・・・?」
「におっとる。 ・・・はご。」
突然、サファイアが青いポケモンに鼻を近づけて(猛烈な音を立てながら)匂いをかぎ始め、ルビーとコハクは1歩後ろへと退いた。
続いて青いポケモンの頭のてっぺんのヒレに食いついたサファイアの行動に、いくらなんでも、ということでルビーがとりあえず『けたぐり』で行動を止める。
「・・・・・・・・・・・・カナの味や・・・」
「はぁっ!?」
「へ?」

床に落ちたポケモン図鑑を拾い上げながら、サファイアは雪だるまのようになった頭のたんこぶをさすっていた。
青いポケモンへと図鑑が向けられると、ピピッという音と一緒に 液晶の画面にデータが映し出される。
「『ヌマクロー、ぬまうおポケモン。
 水中を泳ぐより、泥の中を進む方が断ぜん早く移動できる。 足腰が発達して2本足で歩く。』・・・やて。
 見た感じ変わってもうたけど、おんなじ味しとるから、こりゃカナや。」
「味って・・・・・・」
「僕も、いろんなトレーナー見たことあるけど、味で自分のポケモン確認した人は初めてだなぁ・・・・・・
 カナちゃん、『進化』、したんだね。
 見たことなかったかもしれないけどポケモンは成長するごとに1回か2回、体の形が変わる子がいるんだよ。
 その時に確実に強くはなるんだけど・・・・・・初めてのトレーナーは、やっぱりびっくりしちゃうね。」
不思議そうな顔で見上げているカナをなでながら、コハクが何が起こったのかを説明した。
しかし、最後の辺りはサファイアは聞き取っていなかったらしい、鼻息を荒くし、いっぱいに見開いた瞳をギラギラと輝かせている。

「・・・・・・っちゅーことは、今のカナ、昨日よりか強くなっとるんやな?」
昨日と同じ・・・胸倉(むなぐら)をつかむ勢いでサファイアはコハクに詰め寄った。
勢いに気圧され(けおされ)、コハクが話すことも出来ず2度3度とうなずくと、サファイアはカナの方へと振り向き、
背中から灼熱(しゃくねつ)の炎を吹き出す(バクフーンではない)。
「うおっしゃあーっ!!! ほんなら、あの早口オヤジに再挑戦やぁっ!!!
 パワーアップしたカナの実力で、今度こそジムバッジ(と、賞金)をゲットしたる!!」
「・・・・・・朝飯食ったらね。」
カナも一緒になって気合は充分。
すぐにでも飛び出さんばかりの2人(1人と1匹)に、的確に水を差したのは、ルビーだった。






「サファイアは今日もジムに挑戦しに行くってことでいいんだよね?
 じゃあ、サファイアをキンセツジムに届けたら ルビーと僕とでどっか遊びに行かないかな?」
部屋の中で荷物を整理しながら、3人は作戦会議。
もっとも、今すぐにでもバトルを仕掛けかねない勢いで、サファイアは人の話なんて、まったく聞いちゃいないのだが。
「行きたいなら1人で行きゃいいだろう?
 ・・・ったく、なんであたいまで・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いきぬきしたいぃ〜」
「・・・止めろっ、その捨てられた仔(こ)ポケモンみたいな眼は・・・っ!!」
ここぞとばかりにコハクは目をうるませてルビーへと詰め寄る。
「遊びたい〜!! 独りじゃ淋しいんだよぉ・・・」
「よっしゃあぁ〜、リベンジバトルじゃあー!!」
「散々人を引っ張りまわしといて、これ以上何を・・・・・・・ッ!?」


大騒ぎすること15分、事態の収拾を図る(はかる)こと5分。
結局、コハクがサファイアをジムへと送り出したあと、ルビーと合流して その後の行動を考えるということで何とかまとまった。
ナンバー1、2を競う大騒ぎ少年2人組がいなくなった部屋で、ルビーはやれやれ、と深くため息をつく。
昨夜も1番下を勝ち取ったベッドに座ると、転がっているモンスターボールを無造作につかむ。
何かをつぶやくわけでもなく、球体の赤色をじっと見つめている。

「・・・・・・出といで、ワカシャモ、アクセント、ルクス。」
牛乳びんのふたが抜けたような音がして、それほど大きくもないポケモンが3匹、ルビーの目の前へと現れる。
出た途端にアクセントへと飛びつこうとし、見事にカウンターを受けたマイナンのルクスを見て、ルビーは再び大きくため息をついた。
しばらく、何をするわけでもなくルビーはその様子を見守っている。
プラスルのアクセントの攻撃でルクスがボロボロになっていても、隣にいつのまにかワカシャモが座っていようとも。





歩くこと10分足らず、道案内のおかげもあって、サファイアは無事にキンセツシティジムへとたどり着く。
昨日と変わらず、ギラギラと光る電飾。 チャチャに影響されたのか、少しまぶしそうにしながらサファイアは軽く息を吐く。
「ほな、行ってくるわ。 吉報(きっぽう)期待しててや〜!!」
「は〜い、がんばってね〜!!」
外よりも明るいのではないかと思われるジムの中へと 走っていくサファイアの背中をコハクは笑顔で見送った。
あまりルビーを待たせるわけにもいかない、と、後ろを振りかえり、歩き出そうとした瞬間、
ジムの壁に張り付いて光を放っていた蛍光管の1つが、音を立てて割れた。
コハクの金色の瞳がそれを不思議そうに見つめるが、それほど時間を待たず、再びポケモンセンターの方へと向かって歩き出す。

「なんじゃなんじゃ、また来たのか。 結果も変わらないのに懲りもせず・・・・・・」
サファイアは睨むような上目づかいの視線でテッセンを見ると、手にした2つのモンスターボールを突き出した。
そのまま、張り巡らされた電気の罠を避けてバトル場へと進んでいく。
「結果が変わらんと、いつ、誰が、決めよったんや。 昨日はコハクと散々特訓した、負けひんよう、頭痛とうなるまで考えた。
 ・・・・・・次は絶対勝つ決めたんや、おっちゃんなんぞ、敵にしてられへん。」
「なんじゃと、ジムリーダーであるわしを敵ではないじゃと!?
 なめられたもんだ、それコイル、『でんきショック』!!」
またしても、試合開始の合図も待たず テッセンはサファイアへと向かって攻撃を仕掛けてきた。
予想していたのかしていなかったのか、ほとんどギリギリのタイミングでサファイアはそれをかわす・・・が、
勢い余って電気トラップに正面衝突、電気バリバリ、ガイコツ丸見え、はい真っ黒コゲ。
それでも持ち前のタフさで起きあがると、テッセンを睨みつけて 右手に持ったモンスターボールを強い力で投げる。


「行くんや、カナッ!!」
モンスターボールが床をバウンドするのと同じタイミングで、サファイアはポケットからポケモン図鑑を取り出した。
機械音を立て、開いていく図鑑の音をかき消すかのように カナは低く響く声で相手をいかくする。
「頭のヒレに青い体、昨日の2匹目のポケモンじゃな?
 相性が悪いと何度も言ったはずなのに、進歩をしないのではそれこそ相手になんてならん。
 教えてやろう、コイル『ソニックブーム』!!」
ビッ、と切り裂くような音を立て、衝撃がカナの体を切り裂いていった。
体についた傷はそれほど大きなものではないが、先制攻撃としては充分である、普通の相手なら。

カナは低くうなると、足元を強く踏みしめる。
「カナッ、『どろかけ』や!!」
うなるような鳴き声が一層強くなると、カナの足元に茶色い水しぶきが舞い上がった。
琥珀色の瞳が真っ直ぐにそれを見つめると、彼女は前足で器用にそれをすくいあげ、コイルへと向かって投げつける。
もともと目玉に磁石が2つついたような形のコイル、もろに泥に視界を奪われ、カナの姿を見失う。
パニックを起こして『でんきショック』を放つが、そんな状態で命中するわけもなくて。
「『みずでっぽう』や!!」
花火のように透明な水が飛び散り、コイルの泥を洗い流した。
これで、コイルがカナの姿を見失うことはなくなったのだろうが、代わりに戦うこともできなくて。
電子機器の電源が落ちるような音を立てると、ゆっくりと床の上へとコイルは落ちていった。


「ふんふんなるほど、若いもんは昨日よりも強くなれるというわけじゃな?
 しかし1匹のポケモンが強くなった程度でこのわしに勝てるなんぞ・・・・・・・・・・・・う!?」
あごに生えた 白いひげをさすっていたテッセンはサファイアを見ると、言葉を失った。
毎日のようにきゃあきゃあとはしゃいでいる少年は
深く青く染まった瞳で、驚くほど冷静な視線で、ポケモン図鑑を片手にテッセンを見上げている。
「・・・・・・なるほど? 1日でどうしてそこまで強くなれたのか、気にはなっていたが「そういうこと」じゃったか。
 わしもふざけてはいられないというわけじゃな、では・・・レアコイル!!」
急にかしこまると、テッセンは3つモンスターボールがついているホルダーから
1つ分の間をあけ、モンスターボールを床へ放った。
中から飛び出してきたのは、コイルが3つくっついたようなポケモン。


「コイルの進化系『レアコイル』じゃ、見たことはあるか?」
テッセンの質問にサファイアはゆっくりと首を横に振る。
「・・・・・・ならば、覚えて帰るといい。」
どういうわけか、にんまりと笑うと、テッセンは攻撃を開始するためか、太い腕を横へと広げる。

「レアコイル、『ちょうおんぱ』じゃ!!!」
テッセンの指示が終わるか終わらないかのうちに、レアコイルは鉄っぽい自分の体をこすり合わせた。
そこから発生されるのは、どうともいいようのない、強烈な音。
ジムの中を照らし出す、全ての蛍光灯を破壊するような、頭から体全体が壊れそうになるような。
「・・・・・・なっ、なにするんやぁ!!?
 カナ、『マッドショット』や!!」
サファイアが叫ぶと、カナは自分の足元にたまった泥をヒレのような前足ですくいあげる。
しかし、その直後に顔面から泥だまりのなかに突っ込んだ。 なにが起こったのか分からず、サファイアは目を白黒させる。
「今のが『こんらん』状態、何をしているのかも分からなくなって、時に自分を攻撃してしまう。
 そうさせるためのコイルやズバットの得意技、『ちょうおんぱ』・・・・・・」
「なんやて!?」
「驚くのはまだ早い、続いて出すのはポケモンが本来覚えられない技を覚えさせる『技マシン』を使った技・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・『でんげきは』!!!」
四方八方から光の束が襲いかかり、カナの体を貫く。
余った電撃の威力からか、サファイアの髪がやや逆立ち、放たれる光は目を開けていられないほど。
耳鳴りがするなか、かろうじて開いた視界の中に 必至にカナの姿を探す。

「・・・・・・・・・ぐぐるぅ・・・」
「・・・カナッ!!!」
白く染まっている世界の中に響いた鳴き声に、サファイアは目を瞬かせる。
慌てて目をこすり、辺りを探せば、さきほどから変わらない場所にいる 青い、自分のポケモンの姿。
「無事やったんやな・・・、せやったら、心配あらへん、カナッ、もう1度『マッドショット』や!!!」
4つの視線が3つ目のポケモンを貫くと、カナの投げた泥だんごでレアコイルが壁際まで吹き飛ばされた。
レアコイルは10数秒の間、ほんの少しの動きを見せていたが、やがて、動きが止まり、1つのコイルにつき1つだけだった瞳から光が消える。



「カナ・・・無事やな、大丈夫なんやな?」
以前から ふたまわりほど大きくなったポケモンを見下ろすと、サファイアはほうっ、と息を吐いてひざをついた。
アドバイスされて手に入れていた『きずぐすり』をコイルとの戦いで負った切り傷にかけてやると、大きく見開いた2つの瞳でテッセンを見上げる。
「どや? ワシの言うたとおり、おっちゃんなんぞ、相手やなかったやろ?
 ワシは正義のあきんど、サファイア・・・・・・・・・」

ねじの切れたおもちゃのように動きが遅くなったと思えば、サファイアは床の上に寝転がった。
床の上に転がり、電気トラップへと接触しそうになったポケモン図鑑を、カナが守る、自ら(みずから)の腕を盾にして。
青い光を立てる雷が肌の上を通過しても、カナの腕にはコゲあと1つ、つかない。
「最近発表されてようやく分かったことではあるが、ミズゴロウから進化したヌマクローは、『水』タイプに『地面』タイプ。
 『水』タイプにどれだけ『電気』が力を与えても『地面』がそれを吸収する、
 分かっていながら『でんげきは』を使ったのは、なぜだと思うかね?
 ・・・過去のポケモンリーグ入賞者と同じ、『ポケモン図鑑を持ったトレーナー』よ・・・・・・・・・・・・・・・」







「うあううぅ・・・・・・また負けたぁ・・・」
ボタボタと涙を落としながら コハクはルーレットの台にしがみついた。
テーブルの上に置かれたチップが、音を立ててディーラーに回収されていく。
「・・・その辺にしな、コハク。
 もう500枚もすってる。 何度も何度もコインを分けてもらえるだなんて思わないどくれよ。」
ルビーは カゴいっぱいにたまったコインを運ぶのをワカシャモに手伝わせると、迷いもせず景品と交換した。
きびすを返すようにゲームセンターの入り口へと戻っていく。
何だか歩みが速いのは気のせいだろうか。
「景品は?」
「かさばるからパソコンに転送したよ。
 それより、そろそろ時間なんじゃないかい? 早く行かねぇと、あいつジムから出る前に迷子になりかねねぇぞ?」
「・・・ごもっとも。」


話として 冗談になっていない辺りが恐い。
のん気に話を弾ませながら 2人はキンセツシティジムへと歩き出した。
自分たちを待っているだろう、少年を迎えに行くために。
ところが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あの少年か?
 奴だったら、さっきこのジムを制してポケモンセンターに帰っていったぞ?」
「・・・冗談だろ?」
ルビーとコハクは 顔を見合わせて首をかしげる。
10メートル歩けば迷子になるような人間が、それほど距離がないとはいえ よく知りもしない街中を抜けて帰っていったりするのだろうか?

「急ごう、探せばすぐに見つかるよ。」
「・・・・・・案外、1人で帰ってたりしてね。」
「まさか?」
コハクが言うまでもなく ルビーはジムの外を探し始めていた。
ひとしきり街中を探し回った後、とりあえずということでポケモンセンターへと戻ると、そこにサファイアの姿はあった。
カナを抱えて、半泣きになってセンターのロビーをうろつきまわっている。




「ワシの部屋はどこじゃあ〜・・・?
 歩き続けて1時間〜、迷い続けて3時間〜、未だに部屋は見つからへ〜ん・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルビーとコハクは もう1度顔を見合わせると目を瞬いた。
よほど淋しいのか、調子の外れた歌を唄いながら歩き続ける(止まってどちらに行くべきか考えればいいものを)サファイアの姿は、
どこか滑稽(こっけい)で。
「・・・やっぱ、サファイアはサファイアか。」
「・・・・・・だね。」
軽く笑うと、2人はポケモンセンターの中へと歩き出した。
一生懸命に頑張っている、道化師(ピエロ)のような少年を迎えに行くために。


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