【コンボ】
技と技、もしくは特性と技を組み合わせ、効果を相乗させること。
相手との相性、自分のレベル、どんな技を使ったか、
トレーナーの性格などによって、この幅はほぼ無限に広がっている。
PAGE23.ルクスの普通じゃない1日
その日、ルビーのポケモンであるルクスは 朝1番に目を覚ました。
モンスターボールから出してもらえるポケモンセンターのなかで、手足を思いきり伸ばすと、
ついこの間 耳にくくりつけられた♭(フラット)をかたどったゴム飾りが揺れる。
環境が良いと評判のシダケタウンに来たせいか、このところ、ずっと身体(からだ)の調子がいい。
ルビーのポケモン図鑑で81番、種族はマイナン、体調は非常に良好。
(※ここからは ルクスの実況中継でお楽しみ下さい)
くるくる回る時計の針が、ちょうど上と下とで一直線になったとき、主人であるルビーがアクリルの扉を開いてくれた。
ポケモンには嫌な、扉のきしむ音でプラスルのアクセントが目を覚ます。
付け根だけ体のクリーム色の残る赤い耳にくくられたゴム飾りには、俺とと対(つい)になるように♯(こんな形)のプラスチック飾り。
連戦の名残を見せない、つやつやした毛並み。
ふわふわした肌にルビーと同じ色の澄んだ瞳はポケモンから見ても『美人』の類(たぐい)に入っている。
『・・・ん〜っ、すぉーっさマイハニー!!
今日も世界の全てがとりこになるほど、キミは魅力的さぁっ!!!』
めこっ。
・・・何の音かって?
飛びつこうとしたら、適当に取り出されたハンマー(どこに隠しているんだろう)に 正面からぶつかってしまったのさぁ・・・
ふっ、愛が痛いぜ、ハニー・・・・・・
「はいはい、コントはいいから、顔洗いに行くよ。
ワカシャモもさっさと起きな。」
主人が軽く足で小突いて(こづいて)、ワカシャモ・・・本当はニックネームがあるんだけど、が のそのそと起きやがった。
こんな、いっつもボーっとしているような奴に、アクセントは渡さないぜっ、勝負だ!! い・・・・・・・
どぎゃっ。
『顔洗いに行くの。』
嗚呼、マイハニー・・・・・・愛のハンマーで星がくるくるさぁっ・・・
――スザクは、いたりいなかったりする人間の♀(メス)。
固体が違うのか、主人よりも少し大きくて、よく彼女に命令している。
「いよいよだねぇ、何だかドキドキしてこない?」
「出場すんのは あたいだろうが、あんたがビビっててどうすんだよ・・・・・・」
「うん、その意気その意気!!」
ため息をつくと、主人は『ぽけもんこんてすと』に出場するアクセントのブラッシングを続ける。
あぁ、ハニー、ただでさえ美しい毛並みが整えられて、光り輝いているようさっ・・・
『・・・・・・マイハニーッ!!!』
がしっ。
首根っこが痛いぜ、マイマスター・・・
「コンテスト前にガーガー騒がれちゃたまんないね、少し外に放りだしとくか。」
「ちょっと・・・それは酷いんじゃないの?」
そうそう、分かってるぜ。 人間でなければ、俺の彼女にするところなのにな、ふっ。
どうだいカノジョ、今度一緒にお茶でも・・・・・・・・・
「・・・なんか、目つきが怖い・・・・やっぱ、外で待っててもらおうか。」
・・・・・・・・・なぁにぃっ!!?
人間には言葉が通じているはずないのにっ、まさかスザクは超能力者なのかっ!!?
ああっ、待てっ、俺とアクセントを引き離す気なのかっ!!? 止めろっ、追い出すなぁっ・・・!!
ぽいっ。
のおおっ!!?
外に出さないでくれぇっ、扉を閉めないでくれぇっ、どこに行くんだぁっ・・・!!!
・・・・・・ふっ、そうか、そうなのか・・・・・・・・・
この甘いマスクがあると、アクセントが自由に演技できないというわけなんだな?
それならそうと、言ってくれればいいものを! マイマスターも照れて言わないとは、健気(けなげ)で泣けてくるぜっ・・・
よしきた、外で時間をつぶしてようじゃないかっ!!
おぉ、ちょうどいいところに暇をつぶせそうな 人間の♂(オス)のサファイアがいる。
あの様子だと、また帰り道が分からなくなってやがるんじゃないか?
まったく、自分の匂いもかぎ分けられないとは、人間ってさ。
ちょっとからかう ついでに・・・・・・・・・・・・ん?
・・・・・・ビイイイィィィィィン・・・・・・
うっわ、不快極まりねぇっ・・・!!
・・・何の音、だ?
メキッ、パキパキパキ・・・・・・ズズズ・・・ズズ・・・
?、?、?、何だぁ? ・・・お、サファイアがこっちに気付いた。
あいつ、なに驚いた顔してんだ?
こっちに走ってくるな、あんなにあせって、どうしたっていうん・・・・・・・・・・・・
ぷちっ。
おうっ、サファイア組の姫、カナちゃんが俺のことを見てるぜっ。
そんなにつぶらな瞳で見つめないでおくれよ、べいべー、視線が熱くて押しつぶされそうさっ。
押しつぶされてるけどさぁ。
「ぐべべ・・・・・・」
「間に合わへんかった・・・・・・何で、こんなにでっかい木が いきなり倒れてくるんや!?
生きとるかっ、え〜っと、あぁ、ルクスやったかな・・・」
・・・助け出されるなら、カナちゃんの方がいいのに、ヤローに引っ張りだされるなんて・・・・・・うぅっ・・・
そんな目で見つめないでおくれよ、カナちゃん・・・・・・
・・・・・・あぁっ、だからって視線を反らされる(そらされる)のは もっと辛いのさぁっ・・・るる〜♪
「べべッ!!!」
「なんや!?」
お? なんだか尋常じゃない雰囲気だな。
そっちに何があるのかい、カナちゃ・・・・・・・・・おあっ!!?
サファイアのヤロー、放り投げることないだろうが、ポケモン虐待(ぎゃくたい)だろ!?
・・・・・・って、なんだなんだ、なんなんだよ!? あの青い服着た連中は!?
ポケモンから見てもおっかしな格好だぞ?
「あら〜、ごめんなさ〜い、あなたのポケモンつぶしちゃったぁ〜?」
人間のメスっぽい声がするけど、頭がくるくるして見えねーよ、ちくしょー・・・・・・・・・
「連中、確かあかー団やったか?」
「あ〜く〜あ〜団。 間違えると、お姉さんちょっとへこんじゃうなぁ〜。」
「んなこた、どうでもええっ!!
こんなトコで、電動ノコ持って、何しとるんや!?」
あうあ〜っ・・・ようやくクラクラが治ってきた・・・・・・
いきなりなんだってんだ、おだやかじゃない雰囲気だな。
「『んなこたどうでもいい』って、そっちが先に言い出したんでしょ〜?
大体、見れば分かるじゃな〜い? 憎き大地を繁栄(はんえい)させる樹(き)を ちょっきーんって切ってるのぉ。
あ〜そうだ、聞かれないうちに言っておくけど、あたしはアクア団のマナ〜、よろしくぅ。」
「・・・ワシはルビーやないが、念の為聞いておきたいんやけど、この場所の地主の許可得とるんか・・・・・・?」
「ありませ〜ん、正義を行うのに、どうして許可が必要になるの〜?」
なんだか、すんごくピリピリした空気になってきたな・・・・・・
どうするか、逃げるかな? それとも、ここらでカナちゃんのポイント稼いでおこうか・・・・・・
「ぐべっ!!」
おあっ、カナちゃん熱いねぇっ!! 問答無用の先制『みずでっぽう』!?
変な服女のチェーンソーに クリティカルヒットだぜ!!
「ひっど〜い、いきなり攻撃するなんてぇ。
悪い子には〜、おしおきしちゃうかもよ〜?」
「やかましわっ!! 許可もなく他人のモン ぶっ壊しとる奴に言われとうない!!」
「・・・ヒトデマンのほしのこちゃ〜ん、このクソガキのおしおき決定〜。」
ヤバイ空気全開だな・・・
もしかして、ルビー呼んできたほうがいいんじゃないか・・・・・・・・・?
『そう、思うわよ。
彼女だけじゃなく、出来るだけ人を呼んだほうがいい、とね。』
・・・・・・へ!? 誰の、いや、どこのプリティお嬢さんの声かな、今のは?
姿を見せないなんて、なんてシャイで慎ましいんだっ・・・でも、その美しい姿を見せれば、俺はもっとメロメロさぁっ!
「カナッ、『いわくだき』や!!」
「ほしのこちゃ〜ん、『かげぶんし〜ん』♪」
おおっと、バトルが始まっているのを忘れてた。
あんな、生き物かどうかも怪しい くねくね無性別生物の味方をする気は起きないな、
よしっ、助太刀するぜっ、カナちゃん!! この、無敵の『スパーク』で!!
ぶしっ。
「なっ・・・!?」
・・・・・・星が回るぜ、ベイベー・・・カナちゃん、君のために『ひんし』になるなら、俺は本望さっ・・・!!
「野生のポケモンでもぉ、邪魔すると痛いわよ〜?」
「こいつは野生やあらへんけど、最初から話に参加しとらんかったやろが!?
関係ないポケモンまで巻き込んでまで、憎いことなんてあるか!! 何が『正義』や!!」
「うるさいガキは嫌い〜。
そのポケモン、最近学会から発表された『ヌマクロー』ちゃんよねぇ、確か、タイプは『水』と『地面』。
『水』タイプのほしのこちゃんにぃ、太刀打ちできるのかな〜?」
・・・何だか、言い争ってるらしいな・・・
こんなときルビーがいれば、不意打ちしろ、とかいう命令を出したんだろうけど・・・・・・
『・・・情けないポケモン。』
その通りさぁ、素敵なレディ・・・
どうか、この姿をあまり見つめないでおくれよ・・・・・・
「効きにくい『水』タイプの技を出さんければええんやろが!?
カナッ、『マッド・・・・・・・・・!!」
「いいのかなぁ〜?」
耳はレディの声にくぎ付けさぁ。 だけど、ボーっとする目の前で、青い服の人間が周りの草を蹴っ飛ばしていた。
それに驚いて出てきた奴ら、きっと、この近辺に住んでいる奴なんだろう。
おおっと、見た目美しいお嬢さんもいらっしゃる。
「特性『はっこう』、ヒトデマンの中心の核(コア)から出る光には〜、野生のポケモンを引き寄せる力があるんだよねぇ。
うっかり戦うと、周りのポケモン、傷つけちゃうかもよぉ?」
「ほんなら、『いわくだき』で直接攻撃せぇっ、カ・・・・・・」
うおっ、信じられねぇ!?
未確認星型物体が、俺たちの四方をかこってやがる!?
「『かげぶんしん』〜。
どれが本物かぁ、わかるかな〜?」
こんな時になんだけど、ようやく体が動くようになってきたな・・・・・・
よしっ、今度こそマイピュアハートレディに、いいトコを見せてやるぜっ!!
そのためにはっ、入念な下準備が必要さぁっ!!
「・・・い、いつのまに・・・・・・!?
カナッ、とにかく、片っ端から『いわくだき』や!! あきんどたるもの、時には運に任せるのも必要や!!」
お、カナちゃんがあの無性別物体を攻撃してるな。
・・・あらら、外しちゃったみたいだ・・・・・・うわっ、俺のカナちゃんを攻撃するとは、星型生物、許すまじ!!!
今こそ、この無敵のルクス様の登場だ!!!
『そこまでだっ!! か弱いレディーをいじめる、悪党めっ!!』
よしっ、決まった、決まってるぜ・・・みんなの視線はこの俺にくぎ付けさっ!!
「なぁに? あのマイナン、木の上に登ったりしてぇ・・・」
ここで俺の美しさを際立たせる(きわだたせる)花を、華麗にスプリンクル(※ばらまくこと)!!
昨日、夜なべして作った甲斐(かい)があったというものさ。
ああっ、今日の俺は最高に輝いているぜっ・・・!!!
「鼻かんだティッシュ ポイ捨てするなや〜・・・・・・きちゃないやないか〜・・・・・・」
「さいて〜。」
輝いている俺は ここから格好よく飛び降りるのさっ、とうっ!!
・・・・・・ずぼっ。
「ゴミ捨てた天罰・・・・・・か?」
ふっ、地面にうまって動けなくなっていれば世話ないさ。
しかぁし! 地面に 蓄えた電気エネルギーを吸い取られようと、ルクス様は無敵さぁっ!!
ここから格好いい姿を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『いい加減にしなさい、これ以上私の前で無様な姿をさらさないで。』
・・・・・・・・・・・・ん?
お嬢さん、さっきから思っていたんだけど、一体どこにいるんですか?
目の前が真っ暗で全然見えませんよぉ〜?
「『スピードスター』〜。」
・・・!! カナちゃん!? おのれぇ、よくもカナちゃんを!!!
サファイアのヤロー・・・!! ヘボへボな指示出してカナちゃんを傷つけやがってぇ・・・
星型生物めぇっ、この体さえ動けばっ、『スパーク』で成敗してやれるものをぉ・・・・・・!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ、チャチャ!!」
「タイプの相性が悪いっていうのは分かっているはずなのに・・・
それでも戦う、か。」
誰だ? 人間の・・・男?
何の用があって、こんな所に・・・・・・・・・
「カラー、動いちゃダメだよ。 まだ、あの2人は『ポケモンバトル』の域(いき)を出ていない。」
『言われませんでも。』
「チャチャッ、『みだれひっかき』や、とにかく打って打って打ちまくりぃ!!」
ヤロー、戦うんなら俺を引っ張り出しやがれってんだ、チャチャごときを戦わせるんなら、俺がやってやるってのに。
あれ、でも、確かチャチャのヤロー、地面タイプで、水苦手じゃ・・・
「『バブルこうせん』〜。」
うあっ、気の抜けたような声がするのに、聞こえる音がめちゃめちゃ痛そうだぞっ・・・
これは戦うより逃げたほうが無難か!?
『ダメね、今、倒されたわ。』
「・・・バトルが終わったね、カラー、行くよ。」
だからっ、誰なんだよ、お前は!?
うわっ!? 足を引っ張るなっ、うわっ!? やっと地面から顔が抜けたっ!?
「くっ・・・・・・・・・・・・」
うっわ、屈辱にゆがむ男の顔ってか!?
顔全面から 悔しさがにじみ出てるぜ・・・・・・あれがトレーナーってやつなのか?
「分かったら〜、邪魔しないでさっさと帰ってちょうだ〜い。」
「そういうわけに行くかいな!! ここで帰ったら、夢見悪うてしゃあないわっ!!」
「邪魔すると、痛い目見るわよぉ。」
うおっ、怖えぇっ!!
人形みたいな顔しときながら、ゴーストポケモンより表情が怖えぇっ!!!
お・・・・・・?
「そっちもね。」
(※ここからは 通常モードでお楽しみ下さい)
アクア団の女の足元に、ロゼリアの針が軽く当てられていた。
見た目には分かりにくいがしっかりと指を食い込ませ、背の高い男が、女の背後を取っている。
「アクア団の活動を阻止しようと、行動しています。 逃げるか戦うか、選択して下さい。」
驚くほど落ちついた声で、男は言い放った。
今まで気付かなかったのが不思議なほどの 赤いパーカー、ロゴの入った黒に黄色の帽子。
ビクッと体を震わせると女は 男のことを突き飛ばし、戦闘体勢に入る。
「ほっ、ほしのこちゃん!!
いきなりなによっ、なんなのよ、あんたは!?」
「ポケモントレーナーです。」
目深に被られた帽子の下でうっすらと笑うと、男は恐らくは自分のポケモンであろう 両手に花を持ったポケモンを戦う構えにつかせた。
アクア団の表情がゆがむのを見計らって、その『ロゼリア(※ポケモン図鑑でひいた)』をヒトデマンへと接近させる。
もっとも、『かげぶんしん』で作られた残像が、1つ消えただけだったが。
ただ、相手に精神的に打撃を与えるだけならば、それで充分。
「野生のポケモンまで攻撃する気!?」
「「邪魔するなら容赦しない」と言ったのは、他ならぬあなたです。
それに僕は・・・・・・」
1枚の光輝く物体が、空中を舞っていた。
ふわり、と柔らかく飛びあがったかと思うと、戦っている男の真後ろにいるヒトデマンに突き抜けそうなほどの勢いで命中する。
「『マジカルリーフ』草の力を持つこの光る葉は、絶対に外れることはない。
ヒトデマンは戦闘不能になりました、あなたは、戦いますか? 逃げますか?」
「・・・・・・・・・っ!!」
アクア団の女は じりじりと後ずさると、辺りの様子を見回した。
いつのまにやられたのか、他のアクア団員は全てくるくると目を回している。
そして、殺気だった視線で彼女のことを睨みつける、付近に住む野生のポケモンたち。
「あなたが盾にしようとしたポケモンたちは、誰もあなたに味方したりしませんよ。」
「・・・!!」
息を飲み込むと、女は風のようにその場から走り去った。
まるで、何事もなかったかのようにため息を1つつくと、現れた男は 功労者(こうろうしゃ)のロゼリアの頭を軽くなでる。
「きゅっびいぃ〜〜〜♪」
どこをどうやって回復したのか、時速50kmでロゼリアへと突進するルクス。
見下されたような視線を向けられ、ルクスは真下へと叩き落され、あげく、
避難のつもりなのか、モンスターボールの中へとエスケープ。
ぼたぼたぼたぼたと涙を落としながら、何だか藍色(あいいろ)の雲を背負っているルクスをよそに、
赤いパーカーの男はサファイアへと向かって口を開く。
「・・・ったく、森なんて切ったら、それこそ海を汚すってのに・・・何で分かってないんだか・・・
あ、サファイア、大丈夫だった?」
何も声が出せず、ただ黙ってサファイアは首を縦に振った。
暴れまわる(?)ルクスを押さえ込んで、ようやく会話の成立する状態。
2人してもう1度深くため息をつくと、自然とポケモンセンターへと足を進めながら話が始まる。
「何で、ワシの名前知っとるんや?」
「コハクから訊いた(きいた)から、だよ。
カナズミシティの近くで1回会ったけど、覚えてない?」
言われて、サファイアは記憶の糸をたぐりよせる。
どこかで見た覚えもあるような気のする、赤いパーカーに黄色いキャップ。
「ん〜・・・?
会ったような、会ってないような・・・・・・・・・・・・・・・」
「会ったよ、116番道路で。 バタバタしてたから忘れちゃったかな?」
サファイアの目の前にいる男は、コハクによく似た笑い方をした。
それを見て不意に海風が運んできたかのように サファイアは頭の中に引っかかるものを感じる。
「・・・・・・あんら〜? 確か・・・こ? ご? コールスロー?」
「サラダじゃないって・・・・・・『ゴールド』。 ゴールド・Y・リーブスでゴールド。
普段はメノウって呼んで。 それが僕のコードネームだからね。」
「コードネーム?」
「そう。」
男はくるりと回ると サファイアの方を向きながら歩きつづける。
「どういうわけか、名前そのまんま呼ぶと、街じゅう大騒ぎになっちゃうんだ。
だから、普段は『メノウ・ゴールドアイ』って 別の名前を使うことにしたんだよ。
名前の中に本当の名前を隠しておけば、万が一本名で呼ばれてても、ごまかせるしね。」
「はぁ。」
今度はサファイアが一言で終わらせる番だった。
不思議に思うほど早く ポケモンセンターへと到着し、ボロボロになったカナとチャチャ、それにルクスなどを預けると、
がらんどうになっているロビーのソファに 2人向かい合わせに腰掛ける。
「して、兄ちゃん(あんちゃん)、どや?
このクニクニカンパニーで開発した、『変装セッ・・・・・・・・・・・・」
「鼻メガネのサービスなら、お断りしてるんで。」
にっこりと笑われ、ベタベタな鼻メガネを手にしたサファイアは硬直した。
「言っておくけど、福神漬けも、ティッシュペーパーセットも、お守りも、ガラガラも、紙オムツも用は足りてるんで。
それよりも、早くその荷物をまとめて出発しよう。」
椅子の背後に積み上げられているダンボールの山をちらりと見やって、サファイアは冷や汗をかく。
数秒して、2行目の文章の方まで理解力が回ると、ボーっとしていた瞳を瞬かせて、メノウの方に視線を戻した。
「・・・出発? どこに出発する言うんや?」
メノウは帽子の奥の瞳を瞬かせ、くるくると指先を遊ばせた。
「どこって、逃げたアクア団を追いかけるんだよ。
木を1本切り倒したくらいじゃ、たいして拘留(こうりゅう)できないから放しておいたけど、このままだと状況悪化は時間の問題だよ。
誰かが・・・・・・止めないと。」
「んな、得にもならへんことを・・・・・・・・・」
やれやれ、といった顔をして、メノウは三度深いため息をついた。
それほど大きくもないカバンから茶けた封筒を取り出すと、それをサファイアに向け、テーブルの上にすべらせる。
「成功報酬として、10万。
『仕事』の成功条件は、海底に眠る伝説のポケモン、『カイオーガ』の復活阻止。
ビジネスとして不服な点はありますか?」
「あ〜らへ〜んな〜♪
そこまで言われたらしゃあないっ、その話乗ったろやないかぁっvv」
ククッと含み笑いすると、メノウは自分の手をサファイアへと向けて差し出した。
何となくその意味を受け取って、サファイアはがっちりとその手を握り返す。
「OK、商談成立だね。
疲れがたまってるかもしれないけど、ポケモンたちが回復したら すぐにでも出発しよう。 コハクに見つかると色々と面倒だし。
食料とかは僕のほうで用意しておくから。」
「ま、毎食鍋っちゅうのは、勘弁してんか・・・?」
「なべ?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべると、メノウは再び笑い出した。
「大丈夫だよ、少なくともコハクよりは料理上手いから!
さあ、行こう、僕たちの未来を守るために!!」
「お、おお!!」
ポケモンの回復が終わるとともに、サファイアとメノウは夜逃げでもするかのようにこっそりとシダケタウンを抜け出す。
そのことに気付いて、ルビーとコハクが大騒ぎするのは、もう少し後のこと・・・・・・
<ページをめくる>
<目次に戻る>