【ポケモンコンテスト】
ホウエン地方で発案された、ポケモンの見た目を競うコンテスト。
かっこよさ、うつくしさ、かわいらしさ、かしこさ、たくましさの5つの部門に分かれ、
見た目のみを競う1次審査、技のバリエーションを競う2次審査の2つで争われる。
まだまだ歴史は浅いが、これから発展していくといったところか。
PAGE24.ステージ・オン
「WOW! なんて素晴らしい毛並みなんでしょう!!
エントリーナンバー4、ルビーさんのアクセント、1次審査でトップに踊り出ました!!!」
大騒ぎしている司会者の声が耳に届くと、舞台裏にいたルビーとアクセントはパン、と手のひら同士を合わせた。
場所が場所なだけに大声こそ出せないものの、なんだか瞳がキラキラしている。
「あーっ、やっぱりやかましい奴がいないと 調子いいね〜っ!!
この勢いで、2次審査もがっつーんと通過して、優勝しちまおうっ!!」
ずいぶんな言いぐさだが、アクセントは思いっきり賛成していた。
つい この間までのどが痛いだのなんだのと大騒ぎしていたのがウソのよう。
1人と1匹して大きく伸びをすると、意気揚揚(いきようよう)と控え室へと向かう。
「今ごろは、コンテストの真っ最中なんやろうな〜、ルビー・・・」
誰にも見つかることのないまま、サファイアと赤いパーカーの男(ずいぶん若そうだが)メノウは、119番道路をキンセツへと向かって歩き続けていた。
サファイアの声が止まった途端に静けさを取り戻すくらい、晴れ上がった道は静か。
メノウ自身もあまり話す雰囲気ではないので、サファイア1人しゃべり続けながら、歩き続ける、ひたすら東へ。
「ほんなら、このコソコソカンパニーが開発した・・・」
「『元祖・ホコリのすっかり取れるさっぱりさん』? 残念ながら、旅人には必要ありませ〜ん。」
商品名まで先読みされ、サファイアはほんのちょっぴり肩を落とす。
大きめの瞳にうるうるしているのは、目薬ではないだろう。
「・・・ワシの話、つまらんかのぅ?」
メノウは髪を軽く押さえると、首を横に振ってにっこりと微笑んだ。
「すごく、楽しいんだ。 だからもっと話してよ。」
「・・・・・・・・・ええ笑い方するのぅ・・・」
「?」
『さぁ、2次審査が始まりました、とてもノーマルランクとは思えないほどの盛りあがりを見せている今回のコンテスト!!
トップをばく進するのは、エントリーナンバーは4番、ルビーさんの『アクセント』!!
後をタツキさんのズババ、カツトさんのココが追います!!』
「ちっ、まともに使える技がほとんどないね・・・さっきの技もほとんど失敗みたいなもんだよ・・・
アクセント、『でんこうせっか』でトップに踊り出るんだ!!」
「きゅぴっ!!」
飛び跳ねるように駆け出すと、アクセントは芸術的なほどのスピードで会場内を走りまわった。
最後に10点満点の取れそうな着地を成功させると、いつになくピシッとポーズを決める。
『素晴らしいっ!! 今までわたくしが見てきたなかでも、最高の『でんこうせっか』!! ・・・失礼しました。
しかし、客席は盛り上がらないっ、選択する技を間違えたか、ルビー選手!?』
「・・・残念でございますねぇ、『かっこよさコンテスト』ならば、今までにないほどの盛りあがりを見せたのでしょうが・・・
コンテストでは、使う技の特性も、重要になってくるんですよ、お嬢さん?
さて、ズババ、『あやしいひかり』です!!」
トレーナーの男が指示を出すと、ふらふらと飛んでいたズバットは 目のチカチカするような光を放った。
足元がふらつき、倒れそうになるのを ぐっと ふんばりなおす。
バサバサッとなにかの落ちるような音の聞こえたのは、すぐ後だった。
目がシパシパするなかで それを確認すると、審査員の席で何かもめている。
『あぁ、はい、失礼しましたっ・・・!! 順番を記した紙がどこかに行ってしまったようで・・・・・・
間に合いそうにありませんので、次の順番はくじで決めさせていただきますっ・・・!!』
「なっ・・・・・・!?」
「妨害することもまた、ポケモンコンテストの醍醐味(だいごみ)・・・
ただ、がむしゃらに技を指示すればいいというものでは ないのですよ?」
「・・・ねぇ、サファイアが会った、アクア団が切っていた木の名前、知ってる?」
半分ほど雲のかかった空を見上げるのは、赤いパーカーに黄色いキャップの青年、メノウだった。
ポケモンたちの鳴く声が ときおり聞こえるだけの道で、その声はすんなりとサファイアの元へと届く。
「確か・・・どんぐりのなる木やなかったか?」
「『椎(しい)』。 秋になると、サファイアが言ったみたいに つるつるした木の実をたくさん落とすよね。
一緒に葉っぱもね。 この土地にもたくさん生えてる、ただの雑木(ぞうき)・・・」
ふぅ、と 深くつかれたため息が 鼻先に落ちてきているメノウの髪をかきあげた。
道の端で根づいている 腰の高さほどの木の葉を指先で弾きながら、歩く歩調は変わることもない。
スピードを落とさず、その木の葉を拾い上げると、メノウはそのままサファイアの方へと視線を向けた。
「でもね、この木の葉が、きれいな海を作ってるんだよ。」
メノウはそう言うと、拾い上げた茶色い葉を投げ、元の地面の上へと返した。
2人の歩く路(みち)の隣に座る木々は、どこまでも深く、軽く切れはじめた息の音さえも 吸い込んでいく。
「・・・どういう意味や?
木の葉なんて山の上にあるモンやさかい、海と何の関係があるっちゅうんや?」
また、少しの間 静寂が訪れる。
メノウはパチン、パチンと 手の届くところにある大きな葉を指で弾くと、ふぅ、と軽く息を1つついた。
ずっと淡々と歩き続けていたメノウの歩調が、ようやく止まる。
「落ちてくる木の葉は、1枚や2枚じゃない。 何年もかかって積もった落ち葉は、やがて、水をよく含むスポンジみたいになるんだ。
地面に含まれた水は、そこからゆっくりと川に流れ出す、たくさんの養分(ようぶん)を含んで。
大地が与えた たくさんの養分は、小魚たちの食べる微生物(びせいぶつ)を育てるんだ。
小魚たちを、もっと大きな魚や、ポケモンたちが食べて、君たちも魚を食べて・・・
どうして、それを判らないんだろう、アクア団やマグマ団は?」
空を見上げると、メノウはまた、変わらない歩調で歩き出す。
左肩に下げられた 旅をするには信じられないほど ぺったんこのカバンが揺れる。
「『なきごえ』!!!」
ルビーは周りの人間が思わずすくみ上がりそうなほど 大きな声で叫んだ。
一瞬の睨むような視線が集中すると、アクセントはルビーに負けじと良く届きそうな声を 会場の中に響かせる。
「きゅーぴぃぃっvv」
大きな声量が気にならないような可愛らしさで鳴くと、観客席から小さく声が上がった。
「よしっ!!」
電光掲示板の光が ピコピコピコッと景気良く点灯していった。
がっちりと握りこぶしを作ると、ルビーは増えていく光を満足げに見上げる。
興奮した実況の声が 最下位に転落していたルビーが再びトップに踊り出たことを告げた。
「がむしゃらになることで ポイントをかせぎましたか・・・
しかし、次の順番は1位、同じ手は通用しませんよ?」
「他の技、使えばいいだけのことだろうが。 そう単純な思考してねぇってんだよ・・・」
強気な笑みを見せると、ルビーは次のステージの台を1番に登っていった。
軽く息を吸って、ふぅ、と吐く。
もう1度息を飲み込めば、そこにいるのはもう、戦士の顔をした少女。
ピッと小さな指笛を吹いて、つかず離れずの所に アクセントを従える。
「・・・よし、あと2回・・・!!
アクセント、あんたがトップなんだ、どうせなら『てだすけ』でもしてやりな!!」
「きゅぴっ♪」
アクセントは腕の先でキラキラした光を作り出すと、それを後に控えているポケモンたちへと投げつけた。
観客席からは、どよめきが起こる。
彼女の投げた光の円盤は、控え所のすぐそばで破裂すると、キラキラと輝いていた。
「・・・・・・どうも。」
「どうぞ。」
意地のような笑顔の飛ばしあいが続いていた。
火花が弾けるような・・・もしサファイアがこの場にいれば、顔面蒼白(がんめんそうはく)になっていそうな空間を
来ている観客はぞくぞくした表情で見守っている。
「アクセント!!」
ルビーが叫ぶと、アクセントはくるりと回転して ルビーの足のそばに寄り添って(よりそって)しなやかに歩き出した。
アピールの終わったポケモンの待機する場所までそのペースで歩くと、再びくるりと回転して、凛(りん)とした表情を作り、その場で動かなくなる。
どよめく控え所の中で、スタッフが声をギリギリまで張り上げて次の順番を告げる。
次の順番である『タツキ』が、自分のポケモンをステージへと向かわせる。
「・・・ズババ、『きゅうけつ』です。」
技の指示が出され、小柄(こがら)なズバットは羽根をばたつかせる。
「・・・・・・・・・・・・・・・すぅ〜・・・」
その頃、ルビーのコンテスト騒ぎに乗り損なり、サファイアが出発した事実にも気付いていないコハクは 静かな草っぱらの上で寝転がっていた。
静か、としか、表現のしようがない。 若葉色の草の上は ときおり吹いてくる優しい風の音を除き、小さな寝息の音しか聞こえない。
やがて草を踏み分けてやってくる、人間の足音がかき消すまでは。
「ずいぶんと、のんびりしてるじゃないの。」
スザクはコハクの頭の上で立ち止まると、声を掛けた。
しゃがみ込み、軽く頭をつつくと、コハクはようやく目を覚ます。
横向けになっている体を持ち上げ、まだ半分閉じている瞳を 何とか開こうと努力している。
「お目覚め?」
「・・・・・・・・・・・・・・ふぅ。」
よくわからない音を出すと、コハクは首をかしげた。
前方向に向かって、手を組んで「ん〜っ」と伸びをすると、ぽてん、と音を立てて、草の上に楽に座る。
スザクもそれにならって、黄緑色の草の上に腰を下ろした。
ぱっちりした目で、少し睨むような視線で はっきりしっかりとコハクのことを見据える。
「教えて欲しいんですけどねぇ、どうしてこんなことになってるのか。」
「・・・?」
ひくひくひく、と ほおを引きつらせると、スザクはコハクを軽く押して突き倒した。
ころん、と回転すると、コハクは金色の瞳を瞬かせ、再びスザクへと向かって首をかしげる。
「いい加減、ごまかさないでよ・・・!!
そもそもなんで、あんたがホウエンに来ているのかってことも訊いて(きいて)ないのよ?
やることがあったんなら、あたしに言ってくれたっていいじゃないの!!」
「ふぇ?」
まるで知らないような そぶりで、コハクは再び首を横に向ける。
その両側をがっちりつかんで もとの方向へと戻すと、スザクはかなり怒ったような表情で、コハクへと詰め寄った。
「知りたいことは 山ほどあるのよ!?
置いてけぼりにされて、どんな気持ちであたしがここまで来たのか、わかってんの!?」
瞳の端からこぼれ落ちそうなったものを、スザクは慌てて そでで拭った(ぬぐった)。
指先で スザクのほおのあたりを ちょんちょん、とつつくと、コハクは三度(みたび)、首をかしげる。
「『さみしい』で、『おこる』だったの?」
「は?」
今度は スザクが首をかしげる番だった。
おかしな口調はもちろんのこと、ただでさえ高いのにさらに高くなっている、その声柄(こえがら)にも。
先程までの怒りもどこへやら、完全な疑問の眼差しで スザクは声をかけ直す。
「・・・ちょっと待って、あんた、本当に『コハク』?」
2秒ほど間を置いて、コハクはうなずいた。
「そう、あたし、コハク。」
その言葉で スザクは完全に固まった。
何をしゃべるべきかも思い浮かばないらしく、ひたすら、丘に上がったコイキング(※ポケモン名)のように口をパクパクさせている。
不思議そうな顔で その様子を見守っていたコハクは、
唐突に目を2、3度瞬くと、1度目を閉じてから、もう1度開き直した。
「ルビー!!」
笑顔で呼びかけた先には、確かにコンテストを終えたらしく、
ほんの少し浮き出た汗を拭いながらこっちへやってくるルビーの姿があった。
自分たちの所まで歩いてくるのを待てないのか、コハクは飛び上がると彼女の元へと走り寄った。
「お疲れーっ、コンテスト、どうだった?」
それでも男の声とは思えないほどなのだが、声はスザクが聞いたものから すっかりいつも通りに戻っていた。
あまり浮かない顔をしているルビーを 心配そうに見つめる表情も、いつも通り。
キュウコン(※きつねポケモン)につままれたような顔でスザクが見つめるなか、なにごとも無かったかのように話は進められていく。
「優勝したよ、アクセントの首にリボンかかってるだろ?」
「あ・・・ホントだ。
でも、なんだか嬉しそうじゃないね・・・・・・?」
「ナットクしてない?」
ようやく正気に戻ったのか、スザクが口を挟む。
「・・・アピールポイントじゃ、最下位だったんだよ。
毛並みと、仕草(しぐさ)だけで優勝取れたようなもんなんだ・・・・・・・・・」
口調は淡々としていたが、それが結構な落ち込みようであることは、すぐに見て取れた。
コハクは今日で4回目、首をかしげる。 「それでも優勝したんだからいいんじゃないの?」と言いたそうに。
立ち上がると、スザクは赤いバンダナでおおわれたルビーの頭を ポンポン、と軽くなでた。
「レベルの低いうちはね。 思うように技を決められなかったんでしょ?
みんなそうよ、レベルが上がって色々な技を選べるようになれば、アピールの幅もどんどん広がっていくわ。」
「それは、他の奴らだって同じことだろ?」
「えぇ、そうよ。 だから、どんな組み合わせならコンテストで勝ち抜けるか、今のうちから考えておかなきゃならない。
ただ『強い技』を選べばいいってもんじゃないから、普通のバトルより大変よぉ〜?」
すっかりお姉さんぶった口調で スザクは笑いながらルビーに説明した。
ルビーは軽くため息をつくと、アクセントをボールに戻すこともせず、くるりと後ろを向いて ポケモンセンターへと向かう。
その後を コハクとスザクは追った。
「・・・・・・きゅーびびぃ〜っ!!!!!」
ぷちっ。
ドアを開けて早々、飛び掛ってきたルクスを アクセントがどこからともなく取り出したハンマーで叩き潰した。
へろへろへろ・・・と紙のようにうすっぺらくなっているルクスは、大きくて重そうなソファにぶつかって なんとか停止する。
何があったのかも判っていないルビー、ひたすら大きなため息をつくばかり。
コハクが 早足で客室の奥へと進むなか、へなへなルクスの首根っこをつかむと、ルビーは乱暴にセンターに預け直した。
コンテストの照明のせいか、ちょっと毛のパサパサしたアクセント、ついでにワカシャモを一緒に預けると、
厄介払いでもしたかのように ふぅ、と小さく息をつく。
「お疲れ様、可愛いトレーナーさん?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら スザクが話しかける。
「ちゃかさないどくれよ・・・・・・
まったく、なんで あんな自己主張の固まりみたいなポケモンがいるんだか・・・・・・
おとなしくトレーナーの言うことにしたがってりゃあ いいものを・・・」
「ルビーとサファイアの性格がぜんぜん違うみたいに、ポケモンにもいろいろいるのよ。
『いかに強いポケモンを育てるか』より、『いかに多くのポケモンと付き合えるか』、の方が、実はずっと難しいのよ?」
スザクがちょうど言い切ったとき、青ざめた顔をしたコハクが 部屋の方から戻ってきた。
何かあったのか聞こうとする暇すら与えず、ずいぶんと慌てて公衆電話の受話器を取る。
「・・・・・・・・・!! 切られた・・・ッ!!」
そうつぶやくと、コハクは大きな音を立てないように 受話器を元の場所へと戻した。
気を落ち着かせようと 深く吸ったり吐いたりする息が 事態がただごとではないことを知らせている。
「ちょっとっ、何があったのよ、一体!?」
スザクがどうしても気になるようで、コハクを問い詰めた。
もう2、3度、深く息をつきなおすと、それまでは誰も気付かなかったが、手に握られていた紙をルビーたちへと向けて差し出す。
書かれているのは、乱暴で汚い、子供の字。
「・・・・・・・・・・・・サファイアが、単独で出発した・・・!!」
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