【秘密基地】
ポケモンの力は、時に自然を動かすこともある。
最近発見された技、『ひみつのちから』もその1つ。
大樹の『ウロ』を広げ、切り立った大地に穴を作り、草の中に空間を作る。
しかし、最近、その力を利用した新たな遊びが流行り出そうとしているようだ…


PAGE26.チャチャと森の秘密基地


―チャチャ、短い間やけど、まるで何年も前んことみたく思えるな・・・・・・
 初めておまえに会ったとき、茶色の地面ん中から出てきたから、『茶々』っちゅう意味で名前つけたんやったな。
 ホンマ、そのまんま地面で生きてく思うたんやけど・・・・・・せやけど・・・―


・・・・・・・・・・・・せやけど・・・・・・・・・


「チャチャが飛んどるーっ!!!?」
サファイアの真上では、透明な翼を持った金色のポケモンが 超高速で飛びまわっていた。
メノウも朝食の準備に入っている朝っぱら、近くに民家もないので、苦情がでることはないのだろうが。
フライパンを火から離すと、ぶんぶんと音を立てながら飛びまわるポケモンに視線を向け、メノウは立ち上がった。
「サナギの姿になることもなく、羽化しちゃったねぇ・・・
 『虫』ポケモンには あんまり珍しいことでもないんだけど・・・・・・・・・ところで・・・」
飛びまわっているポケモンから、ゆっくりと視線を落として、大体サファイアの胸の辺り・・・メノウの腰くらいの高さで2人の視線は止まった。
2人の視線の先にいるのは、ピクリとも動かず、微妙に地面から浮いている 茶色いポケモン。
「・・・これ・・・何?」





雲1つない青空の下を、男の子と女の子が列になって歩いていた。
先立って歩く少年は、パーカーにジーンズにリュックサック、
そんな服装よりも黒い髪の間から見え隠れする金色の瞳が印象に残る。
スニーカーで砂を蹴散らしながら とぼとぼと後をついていくのは、
赤いバンダナがチャーミングポイントとなっている、10歳前後の女の子。
焦げたような茶色い髪、ぴったりしたシャツにスパッツ、ゆるめのウエストポシェットに荷物をいっぱいに詰めている。
「なぁ・・・・・・コハク・・・?」
口を開いたのは少女の方だった。
足を早めて、コハクと呼んだ少年へと距離をつめると、振り向かない少年の横顔を見つめながら続きを口走る。
「・・・本当によかったのかい?
 スザク、そうとう ついてきたそうだったんだけど・・・・・・・・・」
「いいの。」
1秒の間も置かず、コハクという名の少年は即答した。
その回答では納得がいかないらしく、少女は顔をゆがませた。
「でも、いくっら ついてこられたくないからって、ポケモンセンターのポケモン利用して、『シグナルビーム』で混乱させなくても・・・
 ・・・・・・後が怖いんじゃねぇのかい?」
「いいの。」
再び間を置かず、コハクは即答した。
青い空も見られないほどに 頭を深くうなだれ、ため息をつき、足取りは重い。
「・・・後で、怒り狂って、そのはずみでイスの脚(あし)折られたり、
 ベッドの軸(じく)折られたり、庭石割られたりするかもしれないけど・・・いいの。」
「本当にいいんかい、それで・・・?」
「でもさ、ルビー?」
ルビーと呼ばれる少女は視線を上げた。
顔を動かすわけでもなく、ひたすらうなだれたまま、コハクは言葉の先を続ける。
「連れて行ったら連れて行ったで、また質問攻めにされたあげく、進行方向の主導権を握られるのが目に見えるんだけど・・・
 それでも、女の子同士一緒に行きたい?」
「いや・・・・・・」
ルビーは首を横に振った。
嫌な想像ばかりが頭の中に浮かんできて、それを振り払おうと、話題を変えよう、という話題を出す。


「話題・・・?
 そう言われると、思い浮かばないものなんだけど・・・・・・」
まったくその通りで、どんな話をするか、ということを考えるだけのために、2人とも黙り込んでしまい、何だか空気が重い。
こんな時になって、サファイアのありがたみが出てくるのか、などと考え、ルビーは少々自己嫌悪(じこけんお)しそうになる。
しばらく無言のままで2人は歩きつづけていたが、ふいに、コハクが右手を上げ、自分たちの真正面を指差した。
「それじゃ、あの木の前でぴょんぴょん飛び跳ねてる人の話題は?」
「は?」
奇妙な声を上げると、ルビーはコハクの指差す先に視線を向けた。
2人の視線の先には、いくつもの枝が分かれている木の前で、ポケモンを頭に乗せ、木によじ登りたいのか、飛び跳ね続けている男がいる。
木の上にボールがあるわけでもなく、鳥の巣があるわけでもなく、何をしたいのかは、一切想像がつかない。

「声掛けてみようか?」
「冗談じゃねぇっての、あんな怪しげな奴に声かけて、何かあったらどうするってんだい?」
「それもそうだけど・・・」
「あの、1つぅ・・・よろしいでしょうか?」
「何?」
「聞こえてるんですけどぉ・・・ものすごく。」
気配もなく現れた男に ルビーとコハクはものすごく飛びのいた。
ぜぇぜぇと息を切らす2人の前には、黒い髪をバラバラに切った、あまり気の強くなさそうな男が姿勢悪く立っている。
頭の上に乗っているポケモンは、ルビーもトウカの森でよく見た、虫ポケモン、『ケムッソ』。
「・・・話しかけられちゃったね。」
あまり気にする様子もなく、コハクはルビーに向かって話しかけた。
ふかぁ〜く、ため息をつくと、仕方がない、とでも言いたげにルビーは男のほうへと顔を向ける。



「すみません、テッカニンの鳴き声くらいでぇ、道が静かだったもので・・・
 私、『秘密基地復興委員会』の、ノムラと申します、以後お見知りおきを・・・お願いします。」
「あ、はい、わざわざどうも・・・・・・」
「はぁ。」
へこへこと腰を低くしながら名刺(めいし)を渡され、思わず2人は挨拶し返した。
「で、なんだい、『秘密基地復興委員会』って・・・・・・」
すみません、すみませんと繰り返しながら、ノムラと名乗る怪しげな男は、ルビーたちに自分のやっていることを説明する。
ご丁寧に、説明するためのホワイトボードまで用意しながら。


「近頃(ちかごろ)、子供の頃を忘れてしまっている大人が多いようで・・・
 そこで、昔ながらの秘密基地を作ってトレーナーたちの間に広めぇ、童心に返ろうという企画を用意しているのですよ。
 とりあえずぅ、ここの木からツルを落として、秘密基地の試作品を用意しようと考えたのですが・・・・・・
 ・・・・・・うぅっ、私のケムッソは秘密基地を作る技を、覚えてくれなくて・・・」
男が背中の荷物を降ろすと、ガシャガシャという音ともに、数え切れないほどの技マシンが顔をのぞかせた。
その山を見て、男はしなしなとため息をつく。
「せっかく、カイナの『ひみつクラブ』で30個も技マシンを購入したのに・・・・・・
 そうだ、ここで会ったのも何かの縁(えん)でしょうからぁ、
 お2人に1つずつ差し上げますよ、私が持っていても意味がないでしょうし。」
「いいの?」
「これで、秘密基地を広めてくださればぁ、こちらとしても助かりますし。」
技マシンの山から適当に2つ取ると、男はそれらをルビーとコハクに1つずつ手渡した。
それをコハクは笑顔で受け取るが、ルビーは手に取った技マシンをじっとながめ、
ここで初めて、ノムラと名乗る男をまっすぐに見た。
左手に持った技マシンをゆすりながら、ゆっくりと口を開きながら、

「おっちゃん、悪いんだけど出来ればこれ、もう1個くれねぇかな?」
「は、はい、構いませんが・・・・・・
 しかし、技マシンは、普通1つあれば済むはずなのにぃ、なぜもう1つ?」
受け取った2つの技マシンを ルビーはウエストポシェットにしまい込んだ。
ポシェットをポン、と軽く叩くと、笑う。
「これから行く先にいる、いっつも金のことばっかり考えてて、スキあらば怪しげなモンを売りつけようとする奴にやるんだよ。
 ありがとなっ!!」
「いえいえぇ、どういたしまして。」
本当に嬉しそうに返すノムラの脇で、ピピッ、と機械的な音が鳴った。
自然と ルビーたちの視線がそちらへと向くと、今もらったばかりの技マシンをコハクがモンスターボールに当てている。
ピーッと音が鳴ると、コハクの持っていた技マシンは2つに分かれ、地面に落ちた。
それらを拾い上げ、ゴミ袋へとしまうと、コハクは技マシンをあてたモンスターボールを地面へと落とす。

「N(エヌ)、『ひみつのちから』!!」
モンスターボールから飛び出したノズパスが
先ほどまでノムラが飛びつこうとしていた太い幹の木を叩くと、バサッという音が鳴り、ふといツルが落ちてきた。
それを掴むと、コハクはわくわくした瞳で太い木の上を見上げる。
「ご利用ありがとうございますぅ、さっそく、ご自分の秘密基地、ご覧になられますか?」
「もっちろん!」
明るく笑うと、コハクはN(エヌ)をひざに抱え、太いツルを掴んで、ひょいひょいと太い木を登り出した。
姿が見えなくなると、木の上からきゃあきゃあと楽しそうな歓声が聞こえてくる。
どうやら、モンスターボールから自分のポケモンを呼び出したようで、騒ぎ声は1つや2つではない。
かなり経ってから、キモリのK(ケー)が木をするすると降りてくるのと同時に コハクが顔をのぞかせる。
「ルビーッ、おいでよ!!
 どうせだから、ここでお昼にしよう!! よければおじさんもどうです、お昼ご飯?」
「いいですねぇ!! それでは、おじゃまさせていただきます!!
 楽しんでいただけて光栄でございますねぇ、子供の鏡のような方ですねぇ。」
「考え方がガキなだけだっての。」
そう言いながらも、ルビーはK(ケー)のガイドに従ってすいすいと木をよじ登っていった。
ルビーが登り切り、入れ替わりにコハクがするりするりと降り、あっという間に火をつけ、リュックにしまい込んでいた缶詰を火にかける。
その間に ノムラも重い体に苦戦しながらもコハクの秘密基地へとお邪魔し、出来たばかりの秘密基地は ずいぶんとにぎやかになっていく。



「・・・・・・ですからぁ、秘密基地を持てるのは、1人につき1件まで、と制約をつけさせていただいているわけです。
 いい物件なんて、そうそう見つかるものではありませんからぁ、後の人が探せなくなってしまいますし、
 あまり多くの場所に作ると、手入れも大変ですからねぇ。」
「手入れ・・・・・・ね。
 ポケモンの力で、ただ太い木に これだけの大穴を開けっちまうんだから・・・・・・」
ルビーは皿によそわれた缶詰の中身をたいらげると、立ち上がって辺りを見回した。
隅(すみ)の方に置かれているノートパソコンのような物に気が付くと、そちらまで歩み寄り、ポンポン、と叩く。
「これは?」
「そのパソコンは、秘密基地の中に置くものを整理するぅ、大変に便利なものなんですよ。
 ポケモンや道具を転送する、パソコン通信システム、ありますよね、えぇ、タマムシ大学のマサキ講師が開発した。
 その応用で、そのパソコンを使えば、秘密基地の中に置くもの・・・例えば、机やイスなんかが、一瞬で取り出せるようになっているんですよ。」
「ふーん・・・」
聞いていたのかいなかったのか、ルビーはパソコンをガタガタとゆすると、
興味もなくしたのか、別の方向で1人遊びを始める。

「・・・・・・・・・だっ!!?」
食事の片づけをしていたコハクは 突如、後ろ頭を押さえてうずくまった。
コン、コン、コン、と背後で音が鳴り、頭を押さえたまま振り向くと、金色の瞳に丸いものが映る。
『それ』を拾い上げると、片手でいじくりながらコハクは部屋のすみにいる少女に声をかけた。
「ルビー・・・アイテムボールは人に向かって投げるものじゃないよ? 何なげたの、これ?」
ボールを真上に放り上げると、ポン、という軽く破裂したような音が鳴り、2つに分かれる。
秘密基地の天井すれすれから落下を始めた『これ』は、コハクの腕の中へと落ちると、軽い音を立てた。
黄緑色のそれは、子供でも 2つの手があれば簡単に包み込むことのできそうなほど小さな、ふわふわしたぬいぐるみだった。
コハクにあてつけてあるかのように、キモリそっくりの形をしている。
いつもポケモンを抱くときにそうしているように、押しつぶさないように優しく抱くと、
コハクは涙でうるんだような瞳でルビーを見直した。







「・・・・・・強く・・・ならないねぇ。」
太陽も空のてっぺんを少し過ぎた頃、がっくりと肩を落としながらチャチャを抱え上げるサファイアにメノウはつぶやくように話し掛けた。
メノウのポケモンを相手にすること13戦、レベルは同じくらいのはずなのに サファイアのポケモンは1度も勝てていない。
あまりにも負けのかさむ徹底ぶりに、メノウも首をひねるばかり。
「これだけスピードが出るポケモンだから、動きの遅いカラーの攻撃くらい、よけられてもよさそうなものなんだけど・・・
 タイプ的にも有利なはずなんだけどなぁ・・・ねぇ、カラー?」
メノウの足元にいるロゼリアは ぷい、と彼のことを無視した。
その様子に苦笑すると、メノウは倒れたチャチャを回復させているサファイアのもとへと歩み寄る。
「大丈夫? チャチャも、サファイアも。」
「平気や、まだやれるで。
 チャチャもぶぅぶぅ言うとるしな!!」
「それは・・・・・・文句を言ってるんじゃ?」
にぃっ、と笑うと、サファイアはチャチャ背中についた硬い羽をポンポンと叩いた。
「チャチャは男やさかい、カナの苦手な草が襲いかかってきてしもたら、守ったらんとあかんねんもんな。
 こんくらいで音ぇ上げてられんで〜!!」


疲れも癒えて(いえて)きたのか、チャチャは再び、ジジ・・・という音を鳴らしながら羽根を動かし始める。
1度は空へと浮かび上がったが、バランスを崩して墜落しそうになったのをサファイアが受け止めようとし、
受けそこなって地面へと落ち、その上にこけた サファイアの下敷きになる。
そうしてサファイアがへこへこ謝るなんて、いつものこと、1度、カナの尻尾がちぎれそうなほど踏みつけてしまって、大騒ぎになったこともある。
「・・・少し休む? 2戦も連続したら疲れたでしょ。」
「平気や、チャチャが疲れてもうたんなら、カナを鍛えたったらええだけやん!!
 さ、特訓再開しようや〜、メノウ、あいつ出したってや、ん〜と、ドンメルの・・・・・・・・・」
「『オレンジ』、だよ。
 それに、疲れてるかどうか訊いたのは、サファイアの方、朝から・・・お昼食べた時以外、1回も休んでないんじゃない?」
「構わんっちゅーに、丈夫なだけがワシの取り柄やさかい、
 休んどったら、あっという間にルビーに先越されてまうやないか!!」
ひと息つくと、メノウはポケモンを入れ替えようとホルダーからモンスターボールを取り出そうとした。
だが、弾かれて、赤白のモンスターボールは地面を転がる。
「・・・?」
あまり緊張感のない顔で 落ちたボールを拾うメノウと、サファイアの視線が1点に集中する。
ずーっと中途半端に宙に浮き、サファイアたちのあとをついてきている、謎の茶色い物体。
「動いたよね、今、これ・・・・・・・・・」
「動いてメノウのモンスターボールに突進しよったな?」
2人の見ている前で茶色い物体は メノウのロゼリアの方へと体の向きを変えた。
睨むわけでもなく、右へ左へとふらふら揺れると、茶色のそれはロゼリアへと接近し、あるのかないのか判らないような爪でロゼリアを切りつけた。
花びらの1枚が落ちるほどの攻撃だったが、サファイアとメノウ、それにロゼリアのカラーを驚かせるのには充分なもの。

「よせ、カラーッ!!」
突然の攻撃に逆上し、メノウのロゼリアは自分の持っている針を茶色い物体へ向かって突き出した。
威力こそないが、ロゼリアの隠し武器『どくばり』、油断すると、体に回った毒が致命傷になることもある。
サファイアも とっさに止めようとしたが間に合わず、針は茶色い物体に直撃する。
しかし、茶色い物体は全く気にも止めず、次の攻撃の準備へと動き出す。



「・・・・・・チャチャ、止まりぃ!!」
サファイアが叫ぶと、茶色い物体はぴたりと動きを停止した。
まったく自分では動かず、ふわふわと浮かんだままサファイアのもとまで近づき、目の前で停止する。
驚いた表情で メノウが目をパチパチさせながら茶色い物体を見つめ直す。
「チャチャ?」
「せや、こいつも・・・チャチャや。 なんや知らんが、こいつも・・・・・・・・・」
メノウがポケットから赤い手帳のようなものを取り出す。
茶色いポケモンへと向けると、その『手帳のようなもの』から ピピッと音が鳴った。
「『ヌケニン ぬけがらポケモン、高さ0,8m・・・
  ツチニンが進化した時に なぜか勝手にモンスターボールの中に入っているポケモン。 体はまったく動かず、息もしない』・・・
 変化したときに・・・分裂?」
「いや、それより、何でメノウ、ポケモン図鑑を持っとるんや・・・・・・」
「博士から正式に依頼は受けてるよ。」
そう言うとメノウはくるくると『ポケモン図鑑』を回し、再びポケットの中へとしまった。
サファイアが納得して茶色いポケモン・・・ヌケニンの方へと向くと、ヌケニンはサファイアに背を向け、ロゼリアのカラーへと体を向ける。
なんとなく、だが、サファイアはその行動にうなずいた。
「もう1匹のチャチャと、カラーとで特訓再開みたいだね。
 それじゃ、再開しようか!!」
「おお!! 今度こそ負けひんっ、行くで、チャチャ2号!!」
メノウは笑うと、指示を出そうと指を前に1本、ピッと突き出した。

「カラー、『マジカルリーフ』!!」
不意打ちされた怒りもあってか、いつも以上に光り輝く葉が ヌケニンへと襲いかかる。
1回前の特訓のとき、この攻撃でとどめを刺されたこともあり、サファイアはダメージを覚悟して身構える。
ところが、光の葉はヌケニンの体をすり抜けたかと思えば、そのまま地面へと突き刺さり、勢いを失った。
反射的にサファイアがポケモン図鑑を開くと、液晶画面に自動で説明が表示される。
「特性『ふしぎなまもり』、こうかばつぐんしか、当たらない・・・やて?
 すごいで、チャチャ2号っ、無敵やないか!! この調子でメノウに初勝利したれ、『みだれひっかき』攻撃や!!」
意気込んでいる・・・のかどうかは判らないが、ヌケニンはロゼリアのカラーへとふわふわと接近し、
あるのかないのか判らないような爪で引っかきまわす。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
へたりこんだサファイアの前には 全く表情を変えずに横向けに転がっているヌケニンの姿があった。
またダメか、と言わんばかりにメノウがため息をつき、自分のポケモン図鑑を開く。
「・・・HP(ヒットポイント)、1・・・・・・
 おまけに、自分で攻撃したときに受けた ロゼリアの特性『どくのトゲ(直接攻撃した相手に毒を与える)』までは、
 防ぎ切れなかった・・・と。」
「14戦、14敗や・・・・・・・・・・・・」

2人は、ふかぁ〜く、ため息をついた。
落ち込んで、だからどうという性格でもないのだが、一時的にヘコむことくらいはあるわけで。
気持ちを落ちつけて、体制を立て直したのなら、またサファイアが負けたり敗北したりする特訓が始まるのだろう。


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