【ポケモンリーグ入賞者】
過去6回、ポケモンリーグは開催されている。
そのうちの第1回、第3回、第4回の優勝者たちは世間的にも有名になっている。
初回の優勝者はそのままの理由、第3回は初の女トレーナーの優勝者が出、
第4回の優勝者は世間の障害者たちに希望を与える存在となったからだ。


PAGE31.誰のもの


「・・・・・・どうしましょう・・・」
キルリアの『あい』と手をつなぎ、うららかな道を進みながら、ミツルはため息をついた。
予想こそしていたものの、シダケのおじさん、おばさんにはものすごく叱られ、
『捨てて来い』でなかっただけ良かったのかもしれないが、『育て屋に預けて来い』と来たものだ。
毎日会いにくれば良いだけなのかもしれないが、育て屋まで結構距離がある。 途中で発作を起こさないかどうか、心配で仕方ない。
残り距離数10メートルと近づいたとき、事件は起こった。






「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!?」
ミツルは声にならない悲鳴を上げた、声になるはずもなかった。
シダケタウンから、ポケモンと、ポケモンじゃない人間以外の生物が走って・・・いや、突進してくるのだ。

ネイティオ・・・ゴルバット・・・ナゾノクサ・・・チコリータ・・・ドセイサン・・・ヨーギラス・・・ヌオモン・・・
タマタマ・・・ピカチュウ・・・ソーナンス・・・アチャモン・・・ミズゴロン・・・トゲチック・・・
ミュウ・・・クロバット・・・ポカクラゲ・・・ゴース・・・ドーモクン・・・カー○ィ・・・・・・って、

「何かおかしいの混じってる! 絶対混じってる・・・っ!!」
大群を指差してミツルは叫んだ。
大きな生物も小さな生物も、何だか生物に見えないのも、一斉にミツルのいる方へと向かってくる。
キルリアと別れるかもしれないという不安は、一気に別の恐怖へと変わった。


「アサナンッ、『めざめるパワー』だ!!」
ポケモンの大群の向こう側から、見覚えのあるようなアサナンが飛び出し、自分の能力を力の粒に変えた攻撃を
突進してくる1匹・・・せいれいポケモンのネイティオへとぶつけた。
腰を抜かして動けないでいるミツルのもとへ、血相を変えた青い髪の少年・・・確か、名前はヒイズと言ったか・・・が、
キモリかヤルキモノ(森に住むポケモン)のように木の上を飛び回り、降り立ってくる。
「うひょ〜っ、見事に全部逃げだしちまってるな〜。
 これじゃ、あいつ減点じゃ済まないんじゃねぇのかっ?」
「成川さんっ!!」
現れる、これまた大量にやってきた医師のタマゴの集団が。
もっとも、8人来たうちの半分、ヒイズを含め、3人ほどだったのだが。
「何故暴力を振るうのですかっ!!
 人類もポケモンも謎生物も妖怪も幽霊も皆兄弟っ! 話し合えばきっと判るはずですのに!!」
これだけ目つきのおかしくなっている生物たちに よくそんな理屈が通用するな、とミツルに心の中で突っ込ませたのは、茶色い髪のヘムという女の人。
大きなメガネの下でどうやったらそんなに流れるのかというほど、大量の涙をハンカチーフで拭って(ぬぐって)いる。

「さぁっ、人類皆兄弟です!!
 私の胸に飛び込んできなさい、共に歩みましょう!!」
危ない危ない、などと悠長に突っ込んでいる暇もなかった。
15を超えるポケモン(と他の生物)が同時に突っ込んでくるのだ、『からておう』でも受け止められないような量を、20にならない少女が受け止められるか。
答えはNO。
あっという間にヘムロックもろともポケモンと謎生物たちに囲まれ、ミツルは身動きが取れなくなる。
「ちゃ〜もちゃ〜も ちゃぁ〜もぉ〜・・・」
アチャモっぽい格好をしているのにも関わらず、どう見ても中年男としか見えない生物がのろのろと近づいてくる。
鳥肌を目1杯立てて、息を素早く吸い込むとミツルはあいにしがみついた。

「あ、あいっ・・・・・・・・・」
「『テレポート』!!」
あいはすぐそばにいるヘムロックを掴むと、『テレポート』を駆使し、一瞬にして数十メートル移動する。
空中に放り出されて地面へと叩きつけられそうになったミツルを ヒイズはしっかりと受け止めた。
同じようにヘムもテレポートし、突進する目標を失った大集団はおろおろと分散をはじめる。
そのスキを突き、ヒイズのアサナンとアルムのカクレオンとがちまちまと攻撃し、ポケモンはモンスターボールへ、他の生き物は早々とお縄についた。
ミツルがあっけに取られてその様子を見ていると、街の方からどやどやと人が集まってくる。



「何だ何だ、ポケモン医療科の連中は?
 今日の予定に課外授業なんて 入ってなかっただろう?」
昨日見たばかりの医師のタマゴたちを連れた中年の男が、ミツルの周りを取り囲んでいる状況を見て呆れかえった。
最後の1匹を捕まえると、ヒイズはポリポリと頭をかきながら、中年の男へと体ごと向ける。
「アルムがハレ薬だかヘレ薬だか作ってて、逃がしちまったんスよ。
 ポケモンが逃げ出した弾みで ヒレ薬だかが散乱して、そしたら変な生き物まで寄ってきて・・・・・・」
「で、でも、良かったですよね・・・一般の人に危害が及ばなくて。」
どっちが先生だか判らなくなるくらいの年齢のアオキが 聞こえるのか怪しい声を出す。
昨日のミツルの恩人、レサシが ため息をつくようにして首を横に振った。
ミツルの方に 視線が向けられる。
「・・・アオキさん、そこの子は一般人には数えられていないんですか?」
「はっ、はいっ、そこの子ってボクですか?」
「そう、貴方(あなた)です。」
しゃがみ込むと、レサシの髪がうっすらと青く光った。
全員の視線が集中してミツルがドギマギしていると、あいが服の端を引いて、その場から逃がす。
ミツルよりも強い力で引っ張るものだから、無理矢理引かれているフリをしていたミツルは 途中2、3度転んだ。
めげることなく立ちあがり、ちょっとだけすりむけた手から泥を叩き落とすと、あいへと向かって笑顔を作って見せる。


「ありがとうございます、あい。」
「よせよ、一応あんたが主人なんだから、敬語使われるとこっちが参っちまうよ。」
「あはは・・・すみません。
 それじゃあ、ありがとう・・・・・・・・・・・・って・・・
 ・・・・・・えええぇぇぇ!!?」
銀河の向こうまで届きそうな声でミツルは叫んだ。
あいが頭の両側(そこに耳があるのか?)を押さえ、迷惑そうな視線を送る。
「るぅ、るるっ!」
「あはは・・・まさか、ポケモンがしゃべるわけありませんもんね。」
「どうしたのでしょうか?」
木陰から全身黒づくめの女が現れ(あらわれ)、ミツルは思わず後ずさる。
よく見れば(よく見なくても)、昨日到着した医師のタマゴの1人、確か霧崎(きりさき)レインとかいう人だ。
「心拍数が75から120に上昇していますよ。」
「あっ、あはははは! はい、上昇していますか、すみません、驚いてしまって!!」
思いきり不自然な笑い方をすると、ミツルは 改めてレインを見つめる。
まるでミツルの行動など気にする様子もなく、黒づくめの女は近くの茂みを指差した。
「草むらに5匹、木の影に2匹、木の上に3匹ポケモンが隠れています。
 独り歩きは危険ですよ。」
「はい、危険ですか・・・ご忠告ありがとうございます。」
ミツルが 不必要なほどに深々と頭を下げると、レインという人は意味深に笑い、他の医大生たちと一緒にシダケの方へと消えていった。



「・・・・・・使えますね、これは。」
人の姿がすっかり見えなくなったころ、ミツルは両手を合わせて空へ話しかけた。
もちろん、さんさんと太陽の光が降り注ぎふわふわと雲が浮かんでいるだけで、返事が返ってくるわけではない。
あいが首をかしげる さわさわした音が耳をくすぐると、ミツルはあいの方を向き、天使のような笑顔を浮かべた。
「だって、ボクの身が危ないとなれば、おばさまたちもポケモンを持つことを反対はしないでしょう?
 そう言って、あいのことを家に置いてもらいましょう!」
ニコニコと笑ってとんでもないことを言っているが、あいはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。
最初のうち、何を考えているのかわからず途方にくれたこともあったが、最近はこうして体全体で意思表示してくれるので
コミュニケーションもとりやすい。
「らしくない」と言われそうな笑い方をすると、意気もバッチリにパンッとあいと手を合わせる。
すっかり元気を取り戻し、元気な人の真似をしてぴょこんと立ちあがる。
ちょっとだけ息苦しかったが、ほとんど異常らしい異常は感じられない、希望さえ胸に感じた。
「さぁ、そうと決まれば善は急げですね!! 計画を実行に移しましょう!」
興奮を押さえきれず、ほんのちょっぴり咳き込む。
慌てて駆け寄ってきたあいをなだめると、息を落ちつけ、何気なく辺りを見る。
と、不意にミツルの瞳が瞬いた。
見慣れないものが1つだけ、ぽつんと転がっていたから。







「・・・・・・・・・・・・これは・・・?」
ミツルは明らかに自然ではない赤をしたものを 不思議そうに拾い上げた。
強い太陽の光を浴びたそれは、ちょっと持つのをためらうほどの熱を帯びている。
ちょうど、両手に収まるほどのサイズの、小さな手帳のようなもの、中央にモンスターボールを模した(もした)マークが入っている。
「・・・知ってる、これ、ボク知ってます・・・・・・」
実物を見たのは初めてだが、テレビ越しに何度か見たのを はっきりと思い出す。
4年前のポケモンリーグチャンピオンたちが誇らしく掲げていた、トレーナーなら誰しも憧れる(あこがれる)アイテム。
「『ポケモン図鑑』・・・!?
 どうして、こんなところに・・・・・・」
それが『何』だか判らないあいは「るぅ?」と首を横にひねった。
6面をしっかりと観察するが、ご丁寧に名前が油性ペンで書いてあったりはしない。
目を光らせてもう1度観察すると、ミツルはモンスターボールのロゴの入った『ポケモン図鑑』をしっかりと握り締める。

「さっきまで、『これ』は、ここに落ちていませんでしたよね・・・?」
あいは同意の意味で 首を縦に振る。
「・・・・・・じゃあ、あのお医者様・・・『あの人たち』のなかに、もしかして・・・・・・?」
シダケ方向へと ミツルは視線を注ぐ。
すでに医師のタマゴたちの姿は見えない、残っているのは、暑さを一時的にしのぐ風ばかり。
ポケットの中に『ポケモン図鑑』を突っ込むと、ミツルはあいを連れ、シダケタウンへの道を歩き出した。


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