【四天王】
ポケモントレーナー間で考えると、ジムリーダーの1つ上のランク。
ジムバッジを8つそろえると戦うことができる。
だが、その実力は半端ではなく、毎年戦いの場が設けられているにも関わらず、
過去戦えた記録もほとんどない。


PAGE32.あなたに会いたくて


 『るりぃ』

そう呼ばれ、ルビーはゆっくりと目を開く。
ふぅっと、ゆっくりと吐かれた息は、地面へと当たってルビーの鼻へと当たった。
目の前には、よく給食で使われるようなアルミの皿がトレイに乗せられている。
中に盛り付けられたスープは、時間の経過によって、すっかり冷え切ってしまっていた。
それもそのはず、これは、2時間前に出された昼食。 ルビーはそれに、全く口をつけていない。
たとえそれが、どれだけ自分に必要なものかわかっていても。



「・・・・・・また、食べなかったのか。」
低い男の声が響き、ルビーは起き上がった。
深い茶色の瞳で入ってきたマグマ団首領、マツブサを睨みつける。 光のない瞳で。
「毒なんて盛っていないと言っただろう、少しは食べないと、身が持たんぞ?」
ルビーはマツブサから視線を反らした。
既に肉には虫がたかっている、逆に言えば、それは人間が食べても安全という証。
それを判っていても、ルビーは出された食事に口をつけようとしない。

「現在(いま)、私の部下たちの総力をあげ、『りゅうせいのたき』の岩を退かしている。
 さきほど報告がきて、あと5時間ほどで完了するそうだ。 そうしたら、おまえを解放する。」
まばたきを1つしただけで、ルビーは反応を示さない。
連れてこられてから1日半、ずっとこんな調子である。
「りぃだぁ、カゲロウから伝言で〜す、『時間なので早く来てください』、だってさ〜。」
どういう訳かしょっちゅう見かける 髪を染めている女がマツブサを呼んだ。
やれやれ、と後ろを振り返ると、マツブサはもう1度ルビーの顔を見てから部屋を出る。
「目上の者に対する口の利き方を教えねばならんようだな。」
「めんどぉ。」
「その、甘ったれた精神もな。」

ぶーぶー言いながら戻っていくマグマ団の女を見送ると、マツブサは横目でルビーを見て、聞かせるつもりがあるのか判らないような声で話した。
「・・・無理矢理連れてきて拘束したのは、悪かったと思っている。
 しかし、我々には・・・大地が足りないのだ。」





「海が足りねぇんだよ!!」
ドカン、と机を叩かれ、サファイアは耳をふさいだ。
「うるさい」の意思表示、いつも同じことをルビーに言われているのに、今日は立場がおかしい。
「・・・同じことよく言われるのう、耳にタコさんや。」
彼の知り合いがいれば、サファイアに言われるようでは終わりだと思うのだろう。
アオギリは 鼻をフフンと鳴らすと、豪快に笑い飛ばしてサファイアの頭をバンバンと叩いた。
「まぁ、悪かったよ、勝手に連れてきて、こんなところに閉じ込めちまってよ。
 今『りゅうせいのたき』の下流5キロまでんところを アクア団の先鋭どもが探してる、おめーの友達もすぐに見つかるさ。」
「おおきに〜、コハク・・・無事なんかいのう・・・・・・・・・?」
ニコニコと笑っていたサファイアの顔が、だんだん力を失っていく。
はぁ〜・・・と深くため息をつき、サファイアは目をしょぼしょぼさせた。
潰すように頭をぐちゃぐちゃとなでると、アオギリはがに股で外へと向かう。
「心配すんな、あのガキぁ根性ありそうな顔してたじゃねえか、そう簡単に死にゃあしねぇよ!!
 おら、とびっきり あっかるい奴ぁ紹介してやらぁ、ちったあ元気だせ!! オルカ!!」
爆発でも起こったような音で手を鳴らすと、小部屋の向こうの闇の中からハイヒールのような足音が響く。


「お呼びですか〜、あ〜おちゃんっ!!」
「リーダーと呼べっつってんだろうがっ・・・」
サファイアは『オルカ』と呼ばれたアクア団員を見て 血の気が引いた。
真っ赤な口紅にピンクのファンデーション、おまけにぷんぷん匂う香水にブルーのアイシャドーはそうとうキツイ。
おまけに、それを付けているのが筋肉隆々(きんにくりゅうりゅう)のごっつい男なら。
男はなめるような目つきでアオギリを見ると、サファイアへと向けて「うふ」と気持ちの悪い笑顔を向ける。
「しばらく出掛けてくらぁ、こいつの相手してやれ。」
「はぁ〜っい、あおちゃん、お仕事がんばってねぇ〜ん!!」
「リーダーだっ!!」

壁にひびの入りそうな大声で怒鳴ると、アオギリはどこかへと行ってしまった。
呆然と見送るサファイアに視線を送ると、筋肉隆々のアクア団の男は 再びうふふ、と笑った。
「いや〜ん、可愛いボウヤっ!!
 あたし こんなつぶらな瞳に弱いのよねぇ〜、そ・れ・に、なんと言ってもあおちゃんから直接もらったお願いだし〜。
 うふふふふふふふふふふふふふふふふっふふふふ・・・・・・」
「なっ、ななななっ、何なんやっ、おんどりゃあ!?」
地面の上に尻をつけたままでサファイアは数メートル後退した。
たいして置いていないのに、40個も50個も物が落ちてくるのだから、サファイアの感性がどうなっているのかは誰にも分からない。
アクア団の男は 三度(みたび)うふふふ、と気持ちの悪い笑顔を向ける。
「あたしはオルカ、こう見えて、アクア団D海域の司令官なのよぉ。
 そして、あなたのお・よ・め・さ・ん! な〜んて、きゃっ!」
「どげんこつしたら んなことになるんじゃあっ!?」
意味の判らないことをぎゃあぎゃあと叫びながら、サファイアはとにかくオルカと名乗る男から逃げようとする。
ロクに何もないはずなのに、なぜかそこらへんの物がばったんばったんと落ちて。
まるで 話の展開を考えただけのためかのように、あっという間にサファイアは部屋のすみに追い詰められる。

「うっふふふふふ、だいじょうぶよ〜ん、何にもしないからぁ〜!」
「信じられるかぁっ!?」
パニックを起こして、そこら辺にあるものを投げつける。
が、コントロール悪し、今時珍しい ベルのめざまし時計は、オルカのはるか上を飛んで、ガチャンと音を・・・・・・
「あらん?」
音が鳴らず、サファイアの方を向きっぱなしのオルカは首をかしげる。
直後、180はある巨大な体がサファイアへと向かって倒れ込んでくる、声にならない叫びをあげながらサファイアは逃げに逃げた。
地鳴りを上げてうつ伏せに倒れたオルカの向こうには、赤く長い髪に、銀色の瞳の少年。


「メノウ・・・・・・?」
「無事か?」
最初、サファイアはメノウのことを別人かとすら思えた。
赤いパーカーは黒のハイネックに、長い手袋、今まで見てきた『メノウ』とは 全く印象が違うからだ。
目の前の『彼』は、キャッチしためざまし時計をそこら辺に置くと、口を開けっぱなしにしているサファイアに話しかけた。
「助けに来たぞ、勇者サマ。」
「メノウ・・・ホンマにメノウなんか!?
 服ちゃうし、しゃべり方ちゃうし、黒目あらへんし、髪ぃ赤かったか?」
「あのなぁ、黒くはないけど、黒目はあるっての。 ちゃんと見ろよ。」
メノウはしゃがむと サファイアへと顔を近づけた。
きれいな球体の瞳のなかに、うっすらとした灰色の円が描かれている。 光を浴びると、灰色の『黒目』は柔らかく輝いた。
見慣れない色の瞳を眺めながら、サファイアは2、3度瞬きする。

「ほら、立てよ。
 囚われ(とらわれ)の姫を助けに行くぞ、正義の商人(あきんど)!」
メノウはサファイアの手を引き、立たせる。
その感触は、初めて手を結んだ時と同じ、ゆっくりと歩くメノウの後をサファイアは吸い寄せられるようについていった。
だんだんと違和感に慣れ、サファイアのいつものおしゃべりが始まる。
「でも、ホンマびっくりしたで!! メノウが外人さんやなんて思わへんかて・・・」
「・・・外人ってわけじゃないけど・・・・・・
 ダマすような真似したのは悪いと思ってる、ゴメンな。」



「まったくだ。」
メノウに似てはいるが、違う声が響いた瞬間、サファイアは肩を軽く後ろに小突かれた。
瞬きをする間に メノウのロゼリアが花を咲かせる。
サファイアたちの真正面へと飛び出した『マジカルリーフ』を 頭に葉を乗せたポケモンが叩き落とした。
パラパラと舞い落ちる葉の間から、カナズミシティを水浸しにしたアクア団の男を見る。
「カゲツ・・・・・・」
「久しぶりだな、ずいぶんと派手に騙して(だまして)くれたじゃねえか。
 4年前、1度姿を現しただけの人物に、よくなりきれたものだなぁ、偽ゴールドさんよぉ?」
赤く長い髪をかきあげると、メノウはカゲツと呼んだ目の前のアクア団の男を 見下したような視線で見る。
ごくごく自然な動きで、右腕に固定してある手袋を外しだすと、背後のサファイアに小声で話しかけた。
「・・・15秒したら1発入れるから、そしたらとにかく真っ直ぐ走れ。
 右行こうとか、左の方が安全そうだとか考えるな。」
「お、おぅ。」
サファイアがうなずくと、メノウは合図代わりにポンッと肩を叩いた。
小声で彼が数字を数え始めた直後、4つ足ポケモンもびっくりなスピードでメノウはカゲツへと距離を詰める。
右手で 防御する暇もなかった顔面に掴みかかると、音が聞こえそうなほど歯を食いしばりながら背後のポケモンへと向かって声を出した。

「左だ、カラーッ!!」
完全にロゼリア目掛けて飛んできた攻撃を カラーは左へと飛んでかわす。
驚いた顔のカゲツを突き倒すと、メノウは15数えたサファイアの手を引き、狭い道を走り出した。



「『走れ』言うたやないかぁっ!?」
「・・・はっ・・・しってるだろうがっ・・・!!
 今っ、話しかけるな・・・ここ脱出するだけで精一杯だ・・・」
「・・・顔色悪いで?」
「気にするな・・・・・・」
そうはいっても、つないでいる手が 時々不規則に強くにぎられたりすれば、サファイアでも何かあるのは気付ける。
何か言ってやろうとサファイアが口を軽く開きかけたとき、突然真正面から強い風が吹き、熱い空気と冷たい空気が同じに頬(ほお)を走りぬける。
「うひょおぉっ、冷とぅのが口に入ったわぁっ!!」
「OH,それはゴメンナサ〜イ。
 だけど〜、ここから脱出する、それもっとRule(ルール)違反デスね〜?」
真ん前から青く丸いポケモンを連れたアクア団の女がゆっくりと歩いてきた。
青いバンダナからはみ出た髪は 鮮やかな金色をし、瞳の色は青い。
外人だ、とか、アクア団は国際的に商売をやっているんだろうか、とかいう どうでもいいような考えをサファイアが張り巡らせていると、
不意に真ん前にいたメノウが足をふらつかせ、壁へともたれかかった。
ぽつん、ぽつんと額(ひたい)に汗が浮かぶ。
「メノウ・・・?」
声をかけると、メノウは今更気が付いたようにサファイアへと目を向けた。
空いている左手で 兄が弟にそうするかのように頭をくしゃっとなでると、真正面の外人女、そして後ろから追い付いてきたカゲツを睨みつけた。

「正義の味方ごっこもそこまでだぜ、ボウヤ。」
サファイアの捕まっていた部屋の側から歩いてきたカゲツが にたりと笑う。
側ではとっくに灰色のポケモン(図鑑で調べたら『グラエナ』という種類だった)が唸り(うなり)をあげている、
1歩でも動いたら噛みつくぞ、と言わんばかりに。
「・・・・・・正義の味方しとって 何が悪い言うんや!!
 鳥な兄ちゃんかて、おかんに『良いことせい』言われんかったんか!?」
「トリッ・・・!?」
女の方に注意を向けていたメノウは、彼女がカゲツの反応にクスクス笑っているのがよく見えた。
カゲツは2、3秒こらえて冷静さを取り戻すと、サファイアへと不満をもったような視線を向ける。
「・・・あのなぁ、何が『正義』で何が『悪』なのかなんて、お前区別つくのかよ?
 お前がそう言うなら、こっちだって『正義の味方』してんだ。」
「なんやて!?」
サファイアの足元に赤白の球体が2つ、青白の球体が2つ飛び跳ねる。
慌てて拾い上げ、ポケモン図鑑で中を確認すると、サファイアが予想したとおりの内容。
ヌマクローのカナ、テッカニンのチャチャ、ヌケニンの2号、それに、新しく入ったチルット。
「脱出したいなら自分の力を使え。
 正義が勝つんじゃない、勝った奴が正義なんだよ。」


「・・・んなら・・・・・・・・・」
サファイアは カゲツと水平になるように両腕を大きく広げ、大の字になった。
小さな体にお笑い系の彼では たいした迫力もないのだが、今のサファイアではそれが精一杯。
本当に小さく、うなるようにカゲツを睨みつけると、息を整え直して1つずつ言葉を絞り出していく。
「・・・・・・悪でも、構わん。
 メノウも、ルビーも、コハクも、大事な 友達や。 一緒にいれれば、それで、ええ。」
「とことんバカだな。」
「バカでも構わん。」
表現抜きでうなりはじめたサファイアの肩を、メノウがちょんちょんっとつつく。
首だけで振り向いたサファイアの左頬(ほお)に、男の太めの指先が突き刺さった。
サファイアがひくひくと怒りをこらえるを見て、メノウはにっこりと笑っている。

「逃げるぞっ!!」
メノウはサファイアの腕を引くと、女の横をうまくすり抜けて逃げ出した。
その場に出ている自分のポケモンを全て手の中に収めると、新たにモンスターボールを腕の上に滑らせ、スイッチを開く。
「抱えてろ、絶対に離すなよ!!」
「は? なっ、おわっ!?」
無理矢理押し付けられる形で サファイアの腕の中にぬるぬるしたポケモンが放り込まれる。
サファイアが見たこともないようなポケモン、重い上に流線形をしていて、とても持っていられるものではない。
思わず走るスピードを落とすが、ぐいぐいとメノウが引っ張るものだからとてもバランスを保てなくて、
危うくポケモンを落としそうになり、サファイアは悲鳴をあげる。
「無理やぁっ、重いっ、落っことしてまうっ!」
「・・・ったく、腕力ないな。
 じゃ、目、つぶってろよ、グロウ『フラッシュ』!!」
薄い青色をしたポケモンを片手で軽々と抱えあげると、メノウは1度立ち止まり、サファイアの目を腕でふさぎながらポケモンへと指示を出した。
一瞬の間を置き、太陽の誕生したようなまばゆい光がきつくむすんだ目蓋(まぶた)越しに 音もなく入り込む。
それが薄まってきたかと思う間もなく、サファイアはまた手を引かれて走り出すハメになった。
目がチカチカしてよく見えない代わりに、何かが走って追い駆けてくるような音が聞こえる。

「メノウ、足音がどんどん増えてきとる!!」
「当たり前だっ、おれたち、アクア団どころかマグマ団の陣地にまで入り込んでるんだ!」
「なんやて!?」
叫びそうになった直後、サファイアの頬の横を小さな電気が走り抜けた。
ギャッという声が聞こえ振り向くと、寸前まで迫っていたらしい緑色のポケモンが 雷に弾かれたのか転げている。
「何も、あんなせえへんでも・・・」
「軽い『でんじは』だ、すぐに回復する。 それよりも、サファイア?」
「なんや?」
「ジェットコースターとかに乗ったことは?」
質問の意味が判らず、サファイアは眉をひそめた。
「何なんや!?」
「だから、遊園地のジェットコースターとかのマシンに乗ったことあるか?」
「あらへんわ! 遊園地行ったこともあらへん!!」
「・・・・・・じゃ、心臓口から飛び出さないように、しっかり奥歯噛み締めてろよ!!」
「へ?」
四の五の言う前に サファイアは腕を強く引かれて前へと飛び出した。
1回瞬きすると足元から地面が消え、眼前に谷底だけの景色が広がっていく。


「〜〜〜〜ッ!!!??」


人間のものとも思えないような金切り声を上げ、サファイアは手足をばたつかせる。
が、それで重力に逆らえるわけもなく、小さな体は 2秒間、空気以外の何物にも触れない奇妙な状況に置かれる。
気違いを起こす前に、音も吸い込んでしまうようなふわふわした『何か』の上に着地したのだが。


「・・・・・・・・・ヒッ、ヒッ・・・ッ・・・」
声を出すことも出来ず、サファイアはふわふわした何かの上で歯をカチカチ鳴らしながら胸を押さえた。
体の皮膚と、黒と赤の服に覆われた(おおわれた)心臓は 人生の中でもこれ以上はないと思えるくらいまで 強く波打っている。

「・・・・・・・・・・・・・・・ひっ、しっ、死ぬかと思たわ・・・・・・」
どのくらい経ったのか、ようやく『ろれつ』の回らない舌で、言葉を吐く。
自分の胸を握り締める指先から、ほんの少しばかり力を抜くと、まるでロボットが動作を確認するかのように体を動かし始めた。
サファイアを落下の衝撃から救ってくれた ふわふわした何かに手を触れてみる。
指先から伝わってくる感触に覚えがあり、サファイアは「ん?」と首をかしげてみた。
「・・・チルットの、羽根や。」
1枚1枚を拾い上げることも出来ず、よれて糸状になった『それ』を、サファイアはつまみあげた。
土がたっぷりかかって茶色くなっている 元チルットの羽根を
手のひらの上に乗せると、ようやくいつもの動きを取り戻し、キョロキョロと辺りを見回してみる。
切り立った土の壁に 不自然に突き刺さったチルットの羽根のカゴは、ちょうどサファイア1人、抱えきれるサイズ。
ふわふわした材質の割にはしっかりと作られていて、サファイアが置き上がる動作も、そこほど苦もなく出来る。
しばらく珍しがって、自分を支える『それ』をつついたり、なでまわしたりしていると、不意に上にいるメノウの存在を思い出した。
まだ上にいるかもしれない彼に、サファイアは怒鳴りかける。





「こらっ、メノウ酷いやないか!!
 いきなり人んこと落っことしよって、心臓止まったらどない・・・・・・・・・」

ぼきっ、と何かの折れるような音が響いた。
自分を支えていたもろい土の固まりが崩れ、重力にしたがって落下を始めたのだ。
もはや悲鳴を上げることもままならず、サファイアは『ふわふわ』もろとも地面へと落下する。
丁度そのふわふわがクッション代わりになったから、ケガひとつなく降りられたものの、もう怒鳴る気力もなくしたのか、サファイア半泣き状態。

まして、自分の頭すれすれを 小さな炎が通りぬけたとなれば。

サファイアはパクパクと口を開いたり閉じたりしながら、炎の飛んできた方向に恐る恐る目を向ける。
嫌な考えはいくらでも浮かんできた、マグマ団がいる、だとか、強暴なポケモンがいる、だとか、火炎放射器が置かれている、とか。
確証を得るために向けた視線の先に映ったのは、意外にも小さなポケモンだった。
ナマイキそうな視線を向け、強そうな足腰。 何かのポケモン雑誌で見た『ヒトカゲ』というポケモンに似ている気もしたが、体全体が灰色みを帯びている。
「・・・なんや、こいつ?」
ポケットの中からポケモン図鑑を取り出し、サファイアは灰色のポケモンに向ける。

『タツベイ いしあたまポケモン
 大空を飛ぶことを夢みているポケモン。 飛べないくやしさをはらすように、大岩に石頭をうちつけてはコナゴナにくだく。』

「・・・・・・??」
図鑑に表示されても何のことだか判らず、サファイアは目をパチパチさせる。
数秒の間、そのポケモンに見入っていたのだが、靴で地面をこするような音が響き、とっさにモンスターボールを手に取った。
アクア団だろうと、マグマ団だろうと、また捕まってはかなわない。
モンスターボールをしっかりと握り締め、開閉スイッチを押す。
が、直後、サファイアはそのボールを取り落とした。 衝撃を受けて開いたボールから ヌマクローのカナが飛び出してくる。

「・・・ルビー?」
サファイアは戦う体勢を止め、首をかしげながら暗闇に包まれている人間(らしい影)へと向かって問い掛けた。
人影は顔も見えなくくらいに はっきりとかかっている闇のカーテンをくぐりぬけ、サファイアへ、その顔を見せる。
顔色も悪いし、瞳から生気が失われてはいるが、確かにルビーだ。
「ルビーッ!!」
数年ぶりにあったような感覚で、サファイアはルビーへと駆け寄り、肩をバンバン叩いたり顔をのぞきこんだりした。
もちろん、アッパーカットやかかと落としが飛んでくるのは覚悟の上。 ところが、予想外に彼女は何の反応も示さず、ただ黙って、うつむいている。
きょとん、と目を瞬かせると、サファイアはもう1度彼女の顔をのぞきこんだ。


「・・・・・・!?」
突如、サファイアの肩に重いものがのしかかる。
ルビーが、ゆっくりと 倒れたからだ。


<ページをめくる>

<目次に戻る>