【TP】
タイムパト○ールではない、『トレーナーポリス』非通勤トレーナー警官。
ポケモントレーナーとしての能力を活かし、旅先で事件に遭遇した時に警察に協力し、解決に協力する。
各地のジムリーダー、全国の大会で上位を治めたトレーナーなどが登録され、
現在全国に500以上存在するらしい。
登録されたトレーナーには『TP』の文字をあしらったバッジが渡される。
PAGE40.山の上から
「ものものしい」
サファイアはそう表現するしかなかった。
マグマ団とアクア団を止めるため、ポケモンも持たず、セラミックの鎧に身を包む機動隊。
赤と白のモンスターボールを持つ人間たちは最前線に回され、今や遅しと突撃の命令を待っている。
「・・・・・・なにしとんねん、おんどりゃあ?」
しっかりと警察に捕まり、ただはた目からその様子を見守るサファイアは 最初に自分に話しかけてきた女の人、ブルーへと話しかけた。
あまり良くない足場からずれないよう、靴をしっかりと履き(はき)なおすと、
彼女は自分のモンスターボール1つ1つを念入りにチェックする。
「警察と機動隊を総動員し、争いを起こす集団を一掃(いっそう)します。
ざっと見たところ、集団の人数はそれぞれ300人ほど、押さえられない人数ではありませんので。」
淡々とした口調で ブルーと名乗った女の人はサファイアの質問に答える。
びくりと体を震わせると、サファイアは進み出そうとしたブルーの腕を思わずつかんだ。
「コハクがおるかもしれへんねん!! それに、ルビーも突っ込んだったまんまなんや、巻き込まれてまう!!」
「放っておいたら、結局抗争に巻き込まれてしまうでしょう。
その2人の特徴を教えてくだされば、見付けたときに我々が保護します。」
妙な威圧感を感じ、サファイアは押し黙った。
反抗的にブルーを睨むと、ぷいと背を向けてどこともつかない方向に歩き出す。
「あきらめるの?」
「んなわけ あるかい、作戦や作戦!」
サファイアはフンフンと鼻を鳴らす。
のしのしと歩くと、くるりと振り向き、後ろの警察機動隊を睨み付けた。
「正面突破だったら手伝おうか?」
「かっかっか、そないなことでけたら苦労せえへんなぁ! 出来るもんならやってみいや。
・・・・・・・・・って・・・」
サファイアは話してる『声』の方を振り向いた。
完全武装している機動隊のなかを1人、動きやすそうな赤のパーカーを身にまとった少年が駆け抜けていく。
左右対称ではなく、パーカーの左のすそがほんの少し伸びている。
右のズボンにはベルト穴から鎖がつけられ、その鎖に無数のモンスターボール。
彼はただ、走り抜けているだけなのに、屈強なはずの機動隊員が数人、弾き飛ばされた。
辺りはざわめき、空気の流れが変わる。
「止まりなさい!!」
ブルーが赤いパーカーの少年の前へと立ちはだかり、赤白のモンスターボールを開くと黒い犬のようなポケモンが少年へと向け、うなりをあげる。
かみつきポケモンのグラエナ、珍しくはないが、敵に回すとやっかいなポケモンだ。
「えなちゃん・・・・・・・・・『はかいこうせん』!!」
観衆がどよめく暇もなく、グラエナはまっすぐに向かってくる少年へと向かって爆風すら巻き起こる光線を吐き出す。
『はかいこうせん』は少年の足元にいるポケモンへと直撃し、粉々にする。
しかし、まっすぐに走る少年の足は止まらない。
一瞬戸惑ったブルーのグラエナへと向かって、少年は指を向けた。
途端、散々うなっていた気性の荒らそうなポケモンが ぴたりと止まる。
『はかいこうせん』の反動などではない、物言わぬ人形になったかのように、完全な停止。
そのスキを突き、赤いパーカーの少年はブルーの横をもすり抜けていく。
「・・・コハク?」
『はしって』、そう聞こえ、サファイアはなんだかよく判らないまま 赤いパーカーの少年が抜けた後を走り出す。
熱気のせいかくらくらする頭を押さえていたら、いつの間にか少年が走ったのと
全く同じコースを走り抜けている、ブルーの横を抜けるのも、全く同じ要領で。
ルビーがそうしていたように、戦闘(たたかい)の渦のなかに自分から走りこんでいく少年の背中をサファイアは睨む。
かろうじて見失っていないその背中に、サファイアは叫んだ。
「待ちいやっ!! 誰や、おまえ・・・・・・っ!!」
相手が速かったのか、それともサファイアの足が遅過ぎたのか、声を全て届ける間もなくサファイアは味方らしき少年の姿も見失う。
既に、戻ることもままならない。
サファイアは止まっていることも出来ず、乱れ飛ぶ攻撃の中を とにかく安全そうな場所を求め、走り出した。
ルビーは 目を細めると辺りを見回した。
ライチュウのD(ディー)とははぐれてしまったし、マグマ団の連中が噴き出す炎で ほとんど目なんて開けていられない。
もっと違う場所へ、もっと奥へ、進みたいのに、大量の人間とポケモンが邪魔して行かれない。
一応、タツベイのフォルテを連れてはいるが、見境(みさかい)をなくしたポケモンたちの攻撃は
四方八方から飛んでくるし、ハーモニカはそれほど大きい音も出せないため、音はなかなか届かないし、フォルテは戦いなれていない。
逃げ続け、ひたすら逃げ続けながらルビーは戦いの場を走り回る。
「くおぉっ?」
走りっぱなしのまま、ルビーの目を見て鳴き声をあげたフォルテに、出ない音を必死に出して、あくまでハーモニカで指示を出す。
戦いのとばっちりで何度も攻撃を受けているが、元々からレベルが高かったせいもあり、あまり気にしてはいない様子、
ボディーガードとして、ひたすらにフォルテは赤やオレンジの炎を吐き続ける。
「・・・・・・・・・くっ・・・!!」
コータスの吐き出す煙に巻かれ、ルビーたちは がけっぷちの岩陰に逃げ込み、身を隠した。
息があがり、しばらく動けそうにない。
時間が続く限り、できるだけここで体力を回復できれば・・・・・・
ぐ
ぐぐぅ〜・・・
きゅるるる・・・
・・・・・・・・・・・・『最悪』。
ルビーの頭の中を、その言葉がふっとよぎった。 鳴いているのは、フォルテの腹の虫。
5人分、視線が集まっているのが判る、ルビーが見逃している分もあるだろうから、恐らくはそれ以上。
狙い撃ちされないうちに、ルビーは再び走り出した。
直後、崖の下から何かがせり上がってきて、ルビーはバランスを崩して足場を失う。
ルビーの横を あまり速くないスピードで上って行くマグマのカタツムリ、マグカルゴ。
その殻(から)の上で指示を出す あの髪をボロボロになるまで染めた女がにやりと笑う。
気付いてはいないのだろうが、その後ろでルビーが崖から突き出していた岩と自分の手と腕だけを命綱にしているというのに。
宙ぶらりんのルビーのすぐ下では、赤い波がうねる。
いつもサファイアと格闘(?)しているとはいえ、ルビーも特別力が強いわけでもない、サファイアが一方的に弱いだけで。
フォルテも、60センチの小さな体で崖の上から助けに来られるとも思えない。
額(ひたい)から流れる汗を拭うこともできず、ルビーは下を向く。
泡を吹き上げるマグマがすぐ近くに見え、ルビーは短く、早く、息を吸い込んだ。
「・・・・・・・・・???」
びょん びょん びょん
びょん びょん びょん
びょん びょん びょん
サファイアには、判らない。
何でこんなところで、何でこんなポケモンに遭遇(そうぐう)するのか。
大きさはサファイアの足ほど、大きな鼻に、黒い体、頭の上にはピンクの真珠。
ひっきりなしにスプリングの要領で跳ねているのは、尻尾なのか足なのか。
「・・・・・・『バネブー』・・・」
「ぶき?」
よく判らない音を出すと、ポケモン図鑑にしっかりと『バネブー』と表示されたポケモンは ご丁寧にサファイアの頭の上を経由してどこかへと跳び去った。
当然、その行動がサファイアを怒らせないわけがない。
「・・・・・・・・・・・・ぶっひぃ―――っ!!!」
ただでさえ精神状態がおかしかったせいか、サファイアは奇声をあげてバネブーを追いかけ始める。
びょんびょんとのん気に飛び跳ねているバネブーが、ふと振り向くと、ギャラドス(ポケモン名)も真っ青な般若(はんにゃ)の形相をしたサファイアが
どてどてと足音を立てながら追いかけてくる。
さすがに驚いたのだろう、ギャーギャーと騒ぎながらバネブーは逃げ出した。
興奮しているマグマ団とアクア団も引いて行くような追いかけっこが始まる、狭く、ごみごみした空間なので、すぐに終わるだろうが。
ほら、すぐに。
「どばっ!?」
街の中なら、痛そう、という声が上がるのだろう。 サファイアはこけて顔面から激突する。
その間にバネブーは見失うし、顔は痛いし、泣きそうになるが、下手をすれば命に関わる、こんなところで止まっていられない。
起きあがると、サファイアの顔のすぐ前にあったのは 見なれない、足。
「おぅ、いつかの小僧じゃねぇか。」
「・・・誰や?」
黒いコートをバサバサと振ると、青いバンダナのヒゲ面(つら)の男はバトルの場に視線を戻した。
「アクア団のアオギリだよっ、忘れてんじゃねぇ!!
それより小僧、ニュース見て危ねぇって判ってたんじゃねぇのか、何でわざわざ来やがった?」
「・・・・・・コハク、探しにきはったんや。」
「あの黄色い眼のガキか、ずっと見てたが、ここにはいねぇぜ。
おめぇもすぐに帰るこった、すぐにここも戦場になるぞ。」
「帰れへん、ルビーもおらへんし、迷子や。」
傷だらけの体を持ち上げるとサファイアはアオギリに反論した。
相変わらず厳しい表情で ヒゲの男はマグマ団との戦いを続ける部下たちを見つめている。
サファイアに顔を向けることはせず、ほんの少し考えるような表情を見せると、口だけで話し出した。
「小僧、『カイオーガ』ってポケモン、知ってるか?」
知ってはいるが、答えに詰まる。 アクア団がそのポケモンを復活させないように、とメノウから何度も聞いているから。
黙りこくっていると、知らない、という答えだと受け取ったらしく、アオギリは勝手に先を続ける。
「ホウエン地方にいるってぇ、海を作り出せるっつう伝説を持つポケモンだ。
俺たちはそのポケモンを手に入れるためだけに戦ってんだ、海を広げるためにな。
ここんとこよ、水ポケモンたちは行くとこを無くしてんだよ、人間の勝手で埋め立てだなんだって海を減らしてるせいで。
だが、俺たちだって海から生まれ、海に生きる人間だってんだ、絶対そんなこたぁさせねぇ、
今日、そのことを証明してやらぁ。」
「・・・ど、どういうこっちゃ!?」
守りを突破してくるマグマ団たちも現れる。
それらを厳しい目つきで見つめながら、アオギリはモンスターボールを構えつつ話し続けた。
「人の願いをなんでも叶えるってポケモンが、今夜現れんだよ!!
俺の後ろにある装置に、マツブサのやろうが持ってやがる隕石をはめれば、出現するんだ。
奴は絶対現れる、そのときに奪え返してやらぁ!!」
「今夜やて!?」
サファイアは思わず聞き返した。
逃げ出したとはいえ、メノウとの約束もある、ここでどちらかが伝説のポケモンを復活させてしまえば、すべてが水の泡だ。
口を押さえ、なんとか言い出したい『そのこと』を飲み込ませる。
自慢げに続きを話すアオギリを完全に無視し、サファイアは足りない頭で必死にどうするべきか考え始めた。
だが、いくら考えても、これからやって来る1晩を乗り切る方法が見つからない。
下っ端にも勝てない自分が リーダー格の人間たちに挑んで勝てるわけがない、というのが1番の原因だ。
「・・・・・・無理や・・・どないしょう、メノウ・・・」
ほぼ聞こえないような声で、サファイアはつぶやいた。
頭がクラクラし、気が遠くなる。
遠くからゆっくりと近づいてくる靴の音が妙にはっきりと聞こえ、体を震わせる。
「そこを退いてくれないかね、アオギリ。」
すぐ側にマグマの熱が迫ってきているというのにも関わらず、長いコートの 赤い髪の中年男。
赤い海に臨む(のぞむ)崖のそばで、2つの団の頭は睨み合う。
「てめぇこそ、大人しく隕石を渡しやがれ。 俺だって暴力は好きじゃねぇ。」
「お断りしよう。」
低い声が、肉食ポケモンの唸り(うなり)声のように聞こえる。
マツブサが懐(ふところ)から黒い石を取り出すと、瞬時にバトルは始まり、爆発音のようなものが響いた。
慌てて伏せたサファイアの上を ポケモンが踏み台にして飛んでいく。
「へっ、先手必勝ってな!! 『ねこだまし』だ!!」
「なるほど、我らの弱点を突つきやすい、『みず・くさ』タイプのルンパッパ、というわけか。
実力を持たないアクア団らしい。」
「てめぇこそ、お得意の炎タイプかと思えば 『くさ・あく』タイプのダーテングとは、不意打ちじゃねぇか。」
不敵な笑いを浮かべると、マツブサはダーテングに目で指示を出す。
両手を草の扇(おうぎ)へと変化させた 白く長い毛をたらす天狗(てんぐ)のようなポケモンは 高く飛びあがると自分の周りに空気の渦を巻き起こした。
頭の上に大きな皿型の帽子をつけた緑色の河童(かっぱ)のようなポケモン、ルンパッパは
足を踏み鳴らしながらしきりに踊り狂う。
「頭の固いマグマ団どもじゃあ、踊りながら戦う、こいつの心意気なんざわかりゃあしねぇよなぁ!?
ルンパッパ、『しぜんのちから』を見せてやれ!!」
「おしゃべりが過ぎるようだ、ダーテング、『かまいたち』で黙らせろ。」
2つの技が交差し、サファイアが振り向いた時見えたのは、両方の技が同時にダーテングとルンパッパに命中するところだった。
爆発した岩がダーテングの額(ひたい)に突き刺さり、空気の刃がルンパッパの胴(どう)をとらえる。
縦に横に、くるりと回転すると2匹のポケモンはそれぞれの主人からの指示を仰いだ。
「やっかいな技だな、『いちゃもん』でもつけさせてもらうか・・・」
マツブサがつぶやくように言い放つと、ダーテングは動きを止め、まるで何かの呪文のようにルンパッパへと向かって鳴き始める。
ポケモンの言語が分かるわけではないが、ルンパッパがだんだんといらだち始めたようだ、
だが、その様子を見ていてもアオギリがひるむことはない。
「へっ、これだから頭でっかちのマグマ団だってんだよ。
攻撃の手は休めるなっ、ルンパッパ『きあいパンチ』!!!」
怒りをたっぷりと込めたせいか、空気をも切り裂くようなルンパッパの拳(こぶし)が ダーテングへと直撃する。
本当に一瞬のこと、守りに入ろうとした扇(おうぎ)のような腕をも押し込み、
ルンパッパは『きあいパンチ』でダーテングを殴り飛ばした。 弾き飛ばされたポケモンが 戦っていたマグマ団へと直撃する。
「どうだ、これで俺の方が強いって判っただろうが!! さぁ、さっさと隕石を渡しやがれ!!」
ギリギリ巻き込まれ切らないで助かった、と思っているサファイア(実際には『しぜんのちから』で発生した岩の1個が頭にぶつかったり
『かまいたち』で微妙に切り裂かれたりしていた)をよそに、アクア団リーダー、アオギリはマツブサへと向けて ごつごつした手を差し出す。
部下の1人の上で伸びているダーテングをモンスターボールの中へと戻すと、マグマ団のリーダーは ややうつむき、手に持った石を転がした。
何も言わず、その黒い石をアオギリへと放る。
ノーバウンドで受け止めると、手の中の石を握り締め、アオギリは笑みを浮かべながら、油断のない足取りで背後の機械へと向けて歩き出した。
サファイアがゆっくりと身を起こし、アオギリの方を見ると、黒い石がマグマを目下に見る装置へとはめこまれようとしている。
メノウとの約束を思い出し、慌ててサファイアが走り出そうとすると、崖の下のマグマから、何かが競りあがってくるのがわかった。
足が止まり、その『何か』に全員の視線が集中する。
競りあがってきたのは、真っ赤に燃える、マグカルゴ。
「!!?」
「ざぁんねん、マグマ団には切り札があったりして〜。」
マグマ団の髪をボロボロになるまで染めた女が アオギリへと向かってマグカルゴで攻撃する。
アオギリにしか見えていないだろう、マツブサの不敵な笑い。
不意打ちにあい、アオギリが取り落とした黒い隕石を マグマ団の女は拾い上げた。
マグカルゴを見張りにつけ、アオギリがものすごい形相で睨むその目の前で、その男へと代わり、女が機械へと歩き出す。
「カナ、『マッドショット』や!!」
子供の声とともに、炎のカタツムリへと水をたっぷりと含んだ泥が投げ付けられた。
勝利を確信していたのか、2度目の不意打ちに驚いた顔で振り向いた 髪がボロボロのマグマ団の女の腰に、11にも満たない小さな子供が組み付く。
「なに、邪魔しないでよ!?」
サファイアが渾身(こんしん)の力を込めているのにも関わらず、女はサファイアを引きずったまま装置へと向かっていく。
もちろん、くっついてくる子供を引きはがそうともしているのだが、サファイアとて、そこはゆずれない。
だが、最終的に力がつよいのは、やはり年齢が上の方。 子供1人つけたままでも あまり問題なく装置へとたどり付いた女は
手にしていた黒い石を 装置の台座へとはめこんだ。
黒かった石から光が発し、とっぷりと暮れた夜空から光が降りてくる。
「・・・・・・とことん邪魔したるわぁっ!!!」
サファイアは叫ぶ。 そして、組み付いている女の腰を これでもかとばかりに引っ張った。
一瞬、髪をボロボロになるまで染めた女がバランスを崩す。
そのスキを突いてまた女を動かそうとすると、サファイアは手のひらで顔を突かれ、弾き飛ばされた。
「ウザい。」
幽霊でも見たかのような表情をしているサファイアを マグマ団の女は見下ろす。
女を睨み返すと サファイアは残ったモンスターボールを全て開いた。
統率なんて全く取れたものではないが、かく乱させるだけなら多少の効果はあるはず。
「カナッ、『マッドショット』!!」
アオギリの見張りを止めてサファイアへと向かってきたマグカルゴへと カナは攻撃する。
相手の方が強そうなのは判ってはいたが、繰り出した攻撃はしっかりと効果を与えている、勝機が無いわけではない。
赤くドロドロとしたマグカルゴはギョロギョロとした瞳でサファイアを見ると、のらりくらりと迫ってきた。
それと同時にマグマ団の女が走りだし、サファイアの進路をふさぐ。
「ていうかぁ、こっちだって必死なわけ、邪魔しないでよぉ。」
「嫌じゃあ! デレデレ野郎のいうことなんぞ、聞きとうないわっ!!」
「じゃあ、こっちだって同じだしぃ。 パクリ男なんかに、邪魔なんかさせない・・・
・・・・・・・・・・・・ってぇのっ!!」
女が叫んだのと同時に、大粒の岩がサファイアたちの上から次々と降ってきた。
チルットのクウとヌケニンは何とか避けたようだが、テッカニンのチャチャ、それにヌマクローのカナは直撃を受け、深い傷を負う。
カナがふらついているのを見て、サファイアは勝ち目が低いのを感じた。
髪をボロボロになるまで染めた女のことを あまり迫力はないが、睨み付ける。
「クッ、カナッ、やったりや!!
何がパクリやっ、サファイアの商品は完全オリジナルで提供しとるっちゅうねん!!」
「マグちゃん、もう1発!! 名前パクってんじゃないのよ、カナはあたし!!」
「はあぁっ!?」
「後ろを見ろ、カナ!!」
他のアクア団がくることを防ぐため、戦っていたマツブサが声をあげる。
奇声は余計だったが、サファイアの作戦は成功していた、マグマ団の女が後ろを振り向いた瞬間、音も立てずに水色のポケモンが飛びあがる。
足の爪に、しっかりと隕石をひっかけて。
戦えそうにないヌマクローのカナをモンスターボールへと戻すと、サファイアは逃げ道を探して走り出した。
クウから黒い石を受け取り、しっかりと握り締める。
途端、これ以上ないというほどに サファイアは大転倒した。
サファイアの真後ろから 火柱が立ったせいだろう。
「・・・・・・・・・がっ・・・!!」
思いきり地面に叩き付けられ、サファイアは声を上げた。
握り締めた隕石はかろうじて手放してはいないが、それも無理矢理手をこじ開けられたら反抗する手段がない。
・・・かといって、体を動かそうにも痛みで動かない。
サファイアの小さな手の中にもすっぽりと収まっている黒い石をしっかりと握り締めると、どこともつかない方向をサファイアは睨み付けた。
「・・・・・・どこや・・・」
自分の持っている隕石を求め、戦いを起こす音が聞こえてくる。
そのなかの音に、耳をすまして。
「ルビー・・・・・・声、聞かせてくれや・・・」
聞こえるのは、サファイアへと近づいてくる足音。 マツブサやアオギリのように大きく重くはない、ならば、あのマグマ団の女か、
サファイアを引き止めた警察官か、それとも、全く違う人物か。
腕をつかまれ、手の中にある隕石を抜き取られた。
せめてもの抵抗、とサファイアは残ったポケモンたちに指示を出すため、息を大きく吸い込む。
「・・・・・・・・・ッ・・・サファイア―――――ッ!!!」
ルビーの甲高い声が 山の中にこだまし、サファイアは気がつき、辺りを見回した。
いつのまにか近くにいたD(ディー)が指した崖の下を見下ろすと、ルビーが今にも落ちんばかりの勢いで
崖から突っ張った小さな岩にぶら下がっている。
「ルビーッ!!? 無事か!?」
「どこが!?」
しっかりと言い返してきたことに サファイアは少々感動した。
だが、あまりのんびりもしていられないことに気付く、手を伸ばしてもルビーの腕には届かないし、第一、人を持ち上げられるほどの力はない。
「ちょいと待っとりや、クウ、チャチャ、2号・・・・・・!!」
何とかしてルビーを持ち上げようとサファイアがポケモンに指示を出す前に、ルビーの体がずり落ち始める。
背筋が凍り、サファイアが慌てて手を伸ばそうと身を乗り出すと、誰かに体ごと引き戻された。
邪魔をする人間を振り払おうと 反動をつけてサファイアが腕を振りかけ、止まった。
ぽかんとした顔をしたサファイアの横で、崖の下から ルビーを乗せた大きな青いポケモンが上昇してくる。
「あんたっ・・・コトキのポケモン・・・・・・!?」
ルビーの声はざわついた空間のうねりにかき消される。
「ら〜らい、らいちゅらぅ!!」
D(ディー)が青いポケモンへと鳴くと、ポケモンは風の流れるような動きでサファイアたちへと近寄ってきた。
ふわふわと 宙に浮いたままで停止すると、サファイアの後ろにいた人間が、
サファイアとフォルテを抱え上げ、その青いポケモンの上へと乗せる。
最後にD(ディー)がポケモンの上へ飛び込むと、大きな背中の上で 体勢を崩したままサファイアは、自分をポケモンへと乗せた少年へと叫んだ。
「待ちやっ・・・・・・・・・ちゃんと話、聞かせぇっ!!」
サファイアを持ち上げた少年は黒い石を持ったまま 周りをかこむマグマ団とアクア団、それに警察の集団に目を向ける。
軽い足取りで走りだし、右と左に持ったモンスターボールを開き、山を下る方向へと突き進むと
中央突破されたマグマ団のポケモンたちが 次々と弾き飛んでいった。
3つ目のモンスターボールを開くと、2メートルはある大きな緑色のポケモンとともに、飛び上がる。
それと同時に飛び出した青色のポケモンに乗ったまま、2人は飛んでいくポケモンの上の少年を見つめて。
「・・・・・・・・・コハクッ!!!」
振り返りもせず、緑色のポケモンは空を飛び、色々な人たちの視界から消えうせる。
空高く飛び上がった青いポケモンから降りることも出来ず、ルビーとサファイアは空路にて、山道を下り始めていた。
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