PAGE43と2/1.ポケモンたちの湯けむり温泉旅行


「・・・あぁ〜、びばびば、ああ〜んびばびば、ぷぷっぷぅ〜のぴぃ〜♪」
初っ端から何のセリフかと聞かれたら、
温泉にいい気分でつかっているサファイアのチルット、クウの言葉を訳したものだと答えることになる。
ちなみに、意味は全く無い(らしい)。

おまけを見つけて喜んだかもしれない、だが、この話は知らなかったところで本編には全く影響しない。
この話は、女湯でルビーとスザクが真剣に話している頃の、全く気にも留められなかったポケモンたちの物語である。



ポケモンと人間が同じ浴槽(よくそう)に入った場合、場合によりけりでとんでもない事態が発生する。
考えてもみてほしい、マグマッグ、マグカルゴの体温は一万度近くある、そんなポケモンと風呂に入ったらどうなるか。
電気系のポケモンは時に10万ボルト以上の電気エネルギーを体に溜め込んでいる、そんなポケモンと風呂に入ったらどうなるか。
ベトベトンなどに代表される毒ポケモンは、触れるだけで毒に侵される(おかされる)こともある、そんなポケモンと風呂に入ったらどうなるか。
そんなわけで、このフエンタウンの温泉はポケモンに合わせた専用温泉もしっかりと用意されていた。
サファイア? 間違って(?)ポケモン用の温泉に迷い込んだ、としか言いようがない。

「あ〜つ〜いぃ〜・・・もう出るぅ〜・・・」
早くもゆだって音を上げているのは、コハクが連れていたライチュウのD(ディー)。
ちなみに、今はルビーのポケモンという扱いになっている。
風呂のふちに頭を乗せ、小さな舌を口の外に伸ばしている、熱いのは苦手か。
「出る出る出る〜、アクセント〜、もう出ようよぉ〜。」
「1人で行けばいいでしょ、あたしを巻き込まないで。」
つっけんどんに返したのはプラスルのアクセント、
いつも耳に巻いている♯(シャープ)型の飾りをつけたゴムは 泡をまとって洗い場に置かれている。
ぷぅ、と頬(ほほ)をふくらませ、D(ディー)がアクセントを引きずり出そうと引っ張ると、機嫌を損ねたのか『スパーク』で反撃した。
だが相手が悪い、急にパチッと電撃を浴びせ掛けられ、驚いたD(ディー)が思わず出したのは、『10まんボルト』。
レベル差もあるため、およそ5倍の威力だ。
1発でアクセントは気絶、驚いたD(ディー)はパニックを起こしている。


「・・・・・・何やってんだか〜。」
水ポケモン用のぬるま湯で傍観(ぼうかん)しているのはサファイアチームの女リーダー、ヌマクローのカナ。
羽根が水を吸っているものの、特に問題もないので先ほどのクウも一緒。
深い造り(つくり)の温泉に沈んだ彼女を引き揚げたり、他のポケモンを誘導したりと、なかなかゆっくりする時間は与えてもらえない。
そうこうしているうちに、先ほどの事件(?)が発生したのである。

「大丈夫?」
「わっ、なになに!?」
温泉の底から結構な大きさのポケモンが浮かび上がってきて、カナはほんのちょっぴり驚いた。
こんなに深い温泉だったんだ、と感心している間に、聞いてもいないのに大きなヘビのようなポケモンは自己紹介を始め出す。
「あたくし、切り札ですものね。 ご主人様がなかなか出してくれないから、ほんの少し退屈しておりましたの。
 世界一のトレーナーの世界一のポケモン、ミロカロスの、クリアと申しますわ。 先ほどの彼女の電撃、こちらまで届いたのですが、
 あ〜た、大丈夫だったざますか?」
「・・・ざます?」
「あらいやだ、コンテストで優勝したときのリボンがちょっと見えてしまいましたかしら、そうですわ、あたくしちょっとうつくしさ
 コンテストで優勝してまいりましたの、それというのも、ご主人様が・・・(延々と続けている)」
その場を離れても問題なさそうだな、と判断したカナはすぐには気付かれないように そっと彼女から遠ざかる。
頭の上にクウが乗っているのも忘れ、ぽちゃんと水の(お湯の)中へと潜ると、水色の小さなポケモンがすいすいとこちらへと泳いできた。
まるまるとした自分の尻尾につかまると、そのポケモンはカナへと向かってきゅうっ、と あいさつする。
「びっくりしたよぉ、いきなりビリッてくるんだも〜ん。
 カナっぺ平気だったのぉ?」
「あたし、電気は効かないから・・・・・・ってか、あんた誰?」
ケラケラと笑うと、水色のポケモンは水中でくるくると回転した。
「やぁっだ、忘れちゃったの〜? あたしよあたし、スーちゃんのポケモンのあられちゃん!!」
「・・・! あっ、ルリリのあられちゃん!?」

そんなに多くない記憶と 目の前の彼女の姿が合致(がっち)する。
そういえば、スザクが『コンテスト』に出すと言って、こんなポケモンを連れていた。
いつもニコニコ笑っている、ルリリの女の子。
「おっひさっしぶりぃ〜っ、災難(さいなん)だったねぇ〜♪」
「災難?」
カナが不思議そうな顔(カナ以外には判らないのだが)をすると、マリルは新しく手に入れた手で上の方をちょいちょいっと指した。
その先では、先ほどのミロカロスが今なお自慢話を延々と続けている。
「クリアお・ば・さ・ま! こないだお話聞いてたら、かっきり2時間かかったよぉ!!
 カナっぺ、逃げて大正解ぃ〜! あ、そだ、新しく入った子もいるんだけど、しょーかいするぅ?」
「あ、教えて〜。」

くるくると水中で回転すると、陽気なマリルはぷかっと温泉の上まで浮かび上がった。
後に続いてカナが水の上に顔を出したのを確認すると、誰の姿もない温泉を指す。
「あっちでお湯に顔映してるナルちゃんが前に会ってるけど、アゲハントのふぶきちゃんで〜、
 あっちの温泉につかってんのがぁ、え〜っと、エアームドって種類のぉ、シグレっちだよ〜ん。」
「ねぇ、ふぶきちゃんは分かるけど、そのシグレちゃん、見えないよ?」
カナが当然の疑問を返すと、あられはケラケラと笑った。
「シグレっち、すっごいうっかりやだからねぇ〜、多分うっかり頭までつかってるんじゃない〜?」



「・・・・・・・・・溺れ(おぼれ)ちゃうじゃないの!?」
「あ、もしかしたら、そうかもぉ〜。」
3秒経ってから、カナはことの重大性に気付く。
慌ててばしゃんと音を立てて湯船(?)から上がると、そう深くもない温泉からやたら硬い彼女を引き揚げた。
息はしているので、やれやれ、と一息つくと、今度は誰かの悲鳴で出動の予感を感じさせられる。





「ヘイヘイヘイヘーイッ!! 飛ばすぜ飛ばすぜ、俺様ビートは熱く煮えたぎってるぜぇっ!!」
はい、誰のセリフでしょう? オショウ○ニ君ではありません。
正解はテッカニンのチャチャ、通称1号。 近くに言葉が判るポケモンが少ないので気づかれにくいのだが、それでも彼はいつも元気に飛びまわる。
そして、今日も問答無用にカナの『みずでっぽう』を受ける、というわけだ。

「女湯のぞいてんじゃないわよっ、やらしいよ、チャチャ!!(注:チャチャには通じてません)」
「ヘーイ、何するんだ、そんなに俺のすばやさがうらやましいか!?(注:カナには通じてません)」
そうして言い争う声も、他のポケモンには全く通じていない。
人間同士でも言葉が通じないことがあるように、ポケモンも種類によって話が通じたり通じなかったりすることはある。
本来、森に住むチャチャと沼に住むカナ、まるで話は通じやしない。
「風呂に来たら覗くのが王道だぜぃっ、『みずでっぽう』使わないでタライを投げるべきだぜっ、タライをっ!!(注:カナには通じてません)」
「ふぶきちゃん泣き出しちゃったじゃないの、泥で固めちゃうわよっ!?(注:チャチャには通じてません)」
「なかったら作るべきだぜぃっ、カナ特製タライだぜいっ!!(注:カナには通じてません)」
「ぶぅぶぅうるさいっ、エロ虫っ!!(注:チャチャには通じてません)」
・・・言葉が通じていたら、今ごろサファイアのチームはバラバラに崩壊しているかもしれない。
どうでもいい話だが、ポケモンには風呂をのぞかれて恥ずかしいとかいう感覚は
元より備わっていないので、チャチャも 単にふざけているに過ぎないだけなのだが。
他のポケモンがそっと見守ることしか出来ないほど、言葉の通じない2匹は火花の散るような言い争いを続けている。
「次やったらシメちゃうんだからね、わかってんの!?(注:チャチャには通じてません)」
「やっぱ真鍮(しんちゅう・金属の一種)が1番だぜぇっ、アルミは痛すぎでゴメンだぜぇっ!!(注:カナには通じてません)」
「ぴよっぽぉ〜♪」
「ぴよっぽぉだぜぇっ・・・・・・?? ・・・・・・・・・って・・・」


「クウッ!!?」
「クウだぜぇっ!!?」
散々言い争っていたのが一気に冷め、いつの間にやら男湯に侵入していたクウが チャチャの手によって空高くへと放り投げられる。
それが女湯の床に落ちるまで3秒、カナに押さえ付けられるまで1秒。
ぜぇぜぇと息を切らすカナの下で クウは何をするわけでもなくぴよぴよと鳴き声を上げる。
「るんちゃぷんぱのぴんぴんぱ〜、らったり〜♪(注:誰にも通じてません)」
「何やってんのよ、もう〜・・・ あんまり迷惑かけないでよね?」
「ぴっらぷ〜。」
羽根がずぶぬれのため飛びあがるわけでもなし、カナは逃げることもなかろうと彼女を放す。
頭の上に乗られたが、あまり気にしないことにしたとき、溜まった水を蹴り飛ばしながら仮の主人がやって来た。






「出るよ。」

ポケモンたちに唯一通じる共通語、それが人間の言葉。
全員が一斉にルビーの足元へと集まると、彼女は露骨(ろこつ)に嫌な顔をして見せた。
だが、ついて行かないわけにもいかない、アクセントを筆頭(ひっとう)に、♀ポケモンの集団はぞろぞろと彼女の後を追う。
湯だって『フラフラダンス』を踊るD(ディー)、同じく湯だって真っ赤になっているアクセント、
大騒ぎの後でお疲れのカナ、ピーチクパーチク騒ぐクウ。
自分たちの、普段の生活へと戻って行くため。

そして、彼女らは誰も気がついていなかった。
物陰からサファイアのヌケニン、通称2号がのぞいていたことに・・・・・・


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