【ポケモンの種類】
全てのポケモンの種類数は、学者にも判っていない。
6年前、カントー地方のオーキド博士が150種類だと正式に発表し、
さらにその3年後、249種類と記録を塗り替えた。
だが、近年発表された249種類とも全く違うポケモンたちが続々と発見され、
新しいポケモン図鑑を手にした子供たちがどこまで発見できるのか、期待は高まっている。


PAGE45.謎だらけの城


土煙があがる。
唸る(うなる)ような重低音が体を揺さぶり、彼女の逃げ場がどこにもないことを教えていた。
1人きり。
手を伸ばしても届かないくらい遠い。
独りきり。
迫ってくる時を、待つしかないのか。

・・・・・・・・・・・・・・・独り・・・・・・



「・・・・・・うわあぁぁぁっ!!!?」
ルビーは肩からすっぽりとくるまっていたシーツを跳ねのけ、飛び起きた。
ひたいには、大粒の汗がいくつか浮いている。
震えている背中を気力だけで無理矢理押さえつけると、ずいぶんと明るくなっている小さな2人部屋を見回した。
それほど広くもない部屋に、ルビー1人きり。
せっかく、わざわざゆずってやった下のベッドにも人の姿はない。
「・・・探しに行ったほうがいいか、さすがに・・・・・・?」





「ギャアアァァァァッ!!」
人の声ではない、ミツルのゴニョニョのぺぽの声。 騒ぎ出すとうるさいこと この上ない。
ミツルも、キルリアのあいも耳をふさぐが、それで押さえられるくらいなら苦労はしない。
半分泣きそうになりながらも、何とか彼女(ぺぽは♀)をなだめると、ミツルは真上から見降ろしているからくり大王を睨みつけた。
「ひどいじゃないですか、いきなり落とし穴に落とすなんて! すぐに引き上げてください!!」
「むははははは!! 元気があって結構結構、その元気ついでに、我が輩のからくりテストに付き合ってもらうぞょ〜っ!!」
ミツルは昨日まで寝泊りしていた下の部屋、たった今突き落とされた怪しげな部屋を注意深く見回した。
まるで、ついこの間出来あがったばかりのようなシンプルな部屋ではあるのだが、何かあるのではないかと疑わざるを得ない。
コンクリート張りの部屋からは 怪しげな空気がただよっている。
「からくりは全部で3つ、全てを解けば外への扉が開かれる!!
 それでは我が輩、先に行って待っておるでのっ、しーゆーねくすとれいたぁっ!!」

バタンッ、と景気よく落とし穴になっている回転畳(たたみ)は閉じられた。
ものすごく納得がいかない、ミツルは閉じられた天井を睨んで聞こえないほど小さくうなる。
「・・・う〜っ!! あいっ、ぺぽっ、何が何でも抜け出しますよ!! あんなのの思い通りになってたまるもんか!!」
その考え自体が思うつぼにはまっていることには気付いていないのだろう、
勇んで(いさんで)1歩目を踏み出すと、途端に足元からネバネバした糸のようなものが噴き出してくる。
何が起こっているのかを判断するヒマもなく、ミツルたちは糸にからめとられていた。
バタバタともがけど、ネバネバ糸から抜けられそうにない。
「なになに、なんなんだぁっ!?」
「るるぅっ!!」
あいに止められてミツルは暴れるのを一旦止めた。
息を整えて、さえぎられなかった視界で足元を見つめると 同じような丸い形をした、白色と紫色のポケモンが1つ目でミツルのことを見上げている。
見覚えはある。 ミツルは2匹のポケモンを自分の頭の中のポケモン図鑑と照らし合わせてみる。
「カラサリスと、マユルド・・・・・・!!」
主にトウカの森に生息する、両方ともケムッソの進化形。 彼らは自分たちの身を守るため、ネバネバした糸を吐く。


パニックを起こすミツルの中で、驚くほど冷静なミツルがいる。
彼が言った。 「観察しろ」と。
息を飲み込むと、ミツルは足もとの2匹を見下ろした。 2匹の1つ目がミツルのことを見上げている。
「カラサリスカラサリス、マユルドマユルド・・・彼らが糸を吐くのは、身を守るため・・・!
 ・・・あい、今動けますか?」
「るぅっ!」
あいは張り切った声を出すと、ミツルと一旦目を合わせ、『テレポート』でからめられた糸から脱出する。
軽く気を落ち付けるような動作を見せ、挑戦的な笑い方をすると、カラサリスとマユルドを2つの腕で軽く引っ叩いた。
驚いた2匹はあいに向けてミツルたちをからめとった糸を発射する。
だが、2本の糸は そこにいるはずのあいをすり抜け、コンクリート張りの床へと着地した。
「・・・『かげぶんしん』。」
聞こえないよう、小さく声を出すと ミツルはそのスキにまとわりつく糸を外し出す。
ほんの数分の間に水分の抜けた糸はパリパリと音を立て、思うよりあっけなく崩れ去った。
今なお糸に捕まってじたばたしているぺぽを何とか引っ張り出すと、重さのあまり彼女を取り落として謝るハメになる。
ぐずるぺぽを何とか説得し、要領良く逃げてきたあいを引き連れてミツルはその場から逃げ出した。
もともとじっと耐えつづけているポケモンたちだ、追ってこられるわけもない。



「・・・上手くいきましたねっ!!」
逃げ付いた先は、細い廊下。
第1の関門を抜けたことを祝って、ミツルは2匹のポケモンたちと手を(ポケモンの場合は前足、とも言うが)叩き合う。
ほんの少しばかりの休憩を取り、1人と2匹は細い道を歩き出した。
それほど時間も経たず、暗い廊下の先に光が見える。
ミツルがまぶしくなって目を細めたとき、背後からガシャン、という金属のような効果音が響いた。
振り向くと、鈍い鉄色をしたまち針のようなポケモンが光る瞳でミツルのことをじっと見つめている。
1匹や2匹ではない、ギラギラと光る瞳から逃げるように1歩、2歩と後ずさりするとき、暗くて細い廊下の向こうから、機械っぽい声が聞こえてきた。

『ダンバル ガ 2ヒキ アツマルト メタング』

ギラギラと光る瞳のまち針のようなポケモンは 驚くほどの早さで飛びだし、ミツルの足元へと突き刺さった。
2匹のまち針のようなポケモンがカチンとぶつかると、体が融合(ゆうごう)して テレビなどでみたUFOのようなポケモンへと変身する。

『メタング ガ 2ヒキ アツマルト メタグロス』

UFOのような鉄色のポケモンがギョロリとミツルを睨む。
足がすくんでいる間に 背後から現れた別のメタングが上に重なり、またしても融合する。
2匹のポケモンはクロスした鉄の顔を持つ、大きなポケモンへと変化した。
そして、4本に増えた足をガシャガシャと鳴らし、ミツルたちの方へと迫ってくる。
あまり早くはないが、かえって怖い。 ミツルが後ろ逃げようとしたとき、また声が聞こえてきた。

『メダクロス 2ヒキ
 サテ ダンバル ハ ナンヒキダ?』

「え・・・えっ・・・えっ・・・・・・!?」
いつのまにか目の前で進化したメタグロスの後ろにもう1匹控えていて、ミツルはこれでもかというほど口をパクパクさせる。
そのメタグロスたちがガシャン、と1歩足を踏み出したとき、既に答えは決まっていた。
『逃げろ』
「・・・・・・はっ、はっ、8匹です〜っ!!!」

『ハッズレ〜 シンカ シタラ
 ダンバル ハ イナクナル ノダ!!』





「ひ〜きょ〜う〜もぉ〜のぉ〜っっ!!!」
いつもなら言いそうもないような言葉が勝手に口をついて飛び出して行く。
スピードを上げて迫ってくるメタグロスたちに、ただただ逃げるしかない、もともと逃げていたのだが。
がくん、とバランスを崩してミツルは転びかける。
そうではなかった、床が抜けてさらに下の部屋へと招かれているのだ。
あいとぺぽもミツルと同じ。 自分たちを見下ろすメタグロスを空に見上げながら、ミツルはボスンと音を立てエアクッションの上に着地した。
後から落ちてきたピンクのポケモンにボディーブローを食らって、げっほんげっほんと大きくせき込むが。


「・・・・・・うぅ・・・酷い・・・目にあいました・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・・・・」
あいが隣で置きあがるのを目にしたとき、ミツルは目を瞬かせる。
『その部屋』の仕掛け、存在するポケモンたち。 ミツルはぺぽを抱えたまま目の前の光景に目を輝かせた。
「うわぁ・・・! 小さなポケモンがいっぱいだ!!」
広い部屋に、ポケモンが5匹。 そのいずれもが別の種類で、1メートルもないほど小さなポケモンばかり。
女の子だったら奇声を上げて駆け寄りたくなるほどの可愛らしさなのだろう、ミツルだって、心が踊る。
夢中になってポケモン図鑑をポケットから引っ張り出し、そのポケモンたちへと向けた。
黄色い体に赤いほっぺなのがピチュー、ぴょんぴょんと跳びまわるのはネイティ、ピンクのまあるい風船みたいなププリン、
妙にニコニコ顔の青い色をしたポケモンと、ビクビクと震えながら自分の尻尾の先の球で遊んでいるポケモン、名前は表示してくれない。
ぺぽが遊びの輪に混じりたいのか、たったか走って行くのを見守っていると、壁に取り付けたれていたスピーカーから機械っぽい声が鳴り出した。

『コノナカニ 1ピキダケ ナカマハズレガ イル
 ツカマエタラ ツギヘ ノ トビラガ ヒラクゾヨ』




「・・・・・・仲間外れにしないでよね・・・」
与えられた部屋は、1人で泊まるにしてはちょっと広過ぎる。
スザクはふかふかのベッドにダイブを試みる(こころみる)が、あんまり嬉しくはなかった。
使い込まれた財布から1枚の写真を取り出して うつろな瞳でじっと見る。
朝食の時間までまだ結構あるが、ポケモンセンターの中でのんびりするつもりもない。
簡単に整えられた荷物からモンスターボールを取り出すと、スザクはひたいにくっつけてため息をついた。
「あられちゃーん、ご主人サマは淋しいよぉ・・・」

水泳競技ように足をばたつかせると、スザクは反動をつけてベッドから置きあがる。
シーツで乱れた髪を直し、静かな静かな扉に 今度ははっきりと黒い瞳を集中させた。
慎重に立ちあがると、荷物の中から別のモンスターボールを手に取り、出入り口のドアへと足音を潜め、歩いていった。
かすかな音で鍵(かぎ)を開け、廊下を見渡すと彼女は目を瞬かせる。 自分の部屋の前で座り込んでいる、小さな女の子。
「ルビー・・・? どうしたの、怖い夢でも見た?」
眠そうな目をこすると、少女はスザクへと顔を上げた。
半分眠っていたのか、今扉が開いたことに気付いたような顔をして、小さく声を上げながら立ち上がる。
「・・・サファイアが、まだ帰ってないんだ。 いい加減探さないとヤバイかなって思って・・・」


あまり緊張感のない顔を上げようとすると、彼女が右手に持っているモンスターボール、それに左手に持っている紙切れに気がつく。
ルビーがほとんど仕事をこなしていない左手をじっと見つめていると、スザクはそれに気がついたらしく、写真を胸に抱いた。
とはいえ、あまり隠すようなものでもないらしく、指の間から被写体(ひしゃたい)がのぞく。
春の一斉に吹き出した若葉のなかで笑っている、3人。





『・・・ねぇ、本当にこっちでヘーキ? 迷っちゃいそうだよ・・・』
『う〜・・・大丈夫ったら大丈夫ったら大丈夫なんだよっ、いいから子分は黙ってついてこいっ!!』
彼ら彼女らは空を飛ぶ。 2人にしか判らない言葉をかわしながら。
幾つもの街を越えて、幾つもの海を越えて、目指す風へ、目指す人のところへ。
長い距離を飛ぶのも苦手ではないけれど、知らないところへ行くのも嫌いじゃないけれど・・・・・・
『疲れたよ〜、少し休も〜?』
『後少しなんだから、がんばれよ!! ホウエン地方のピンチなんだぞ!?』
高度を落とし、スピードを落とし、もうすぐ目指すところへ。
きっと助けてくれる、判ってくれる『あの人』のところへ――――――


『・・・・・・・・・おっきろぉ――――っ!!!』
「ふぎゃわっ!?」
サファイアは訳も判らないうちに飛び起き、目覚ましのスイッチを止めようとした。
あるわけがない。
ごろん、という音が鳴って目をこすると、押さえそこなったよだれを じゅるじゅると吸い込む。
ハッキリとしない頭を修正しつつ、辺りを見まわすと、肩からかぶさっていた毛布が音も立てずにずり落ちた。
その毛布のちょっと横に転がったのは、昨日サファイアの上に降ってきた、青いタマゴ・・・が・・・・・・

『ちょっとぉ、いたいじゃないか!! タマゴはデリケートなんだぞぉっ、もっと優しく扱えよぉっ!!』
「・・・・・・・・・そりゃ、すまんかった・・・ごめんちゃい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってぇっ!!?」
逃げ出そうにも腰が抜けて動けない。 サファイアは『それ』を指差しながらコイキング(ポケモン名)のようにパクパクと口を動かした。
降ってきた青いタマゴは サファイア目掛けて言葉の連射砲を浴びせ掛ける。
今にも転がり出しそうなタマゴを慌てて押さえ込むと、隠しカメラでもあるのではないかとサファイアはキョロキョロと辺りを見回した。
『なんだよぉ、タマゴだって色々考えるんだぞ!! 黙って目玉焼きにされてたまるかぁ!!』
「そりゃ、美味そうやな・・・・・・う・・・」
『どうしたんだよ?』
ひたいを押さえて体を小さくしたサファイアに タマゴがまた話しかける。
転がり出さないようにタマゴに毛布をかけるとサファイアは地べたに座り込んで辺りを見まわした。
昨日コハクと戦った場所からほとんど離れていない(と思う)、カナはサファイアの隣で寝息を立てている。
「ちょい、クラクラしはった。 ヘーキやヘーキ、こんくらい・・・
 カナ、起きろや、風邪引くで・・・」
ころんと転がった青い生物は寝ぼけたような顔で辺りをキョロキョロと見回すと、眠そうにぐぅ、と声を上げた。
誰も時計を持っていないが、現在、午前6時42分、子供からしてみれば眠気が抜け切れる時間ではない。
ボーっとする頭を軽く振りまわすと、サファイアは毛布に包まれた青いタマゴを足の間にはさむ。
その場から動く気配1つ見せず、う〜んとうなりごえを上げてサファイアは腕を組んだ。



『ちょっとちょっとぉ、どうしたのさ?』
普段全くつかっていない頭をひねり、これでもかとばかりに難しい顔をすると、サファイアはゴクリンのように ぶぅととがらせた口から物を言う。
「また、コハクに逃げられてもうたわ・・・」
『落っこちたときに 受け止めてくれたお姉ちゃん?』
「コハク男や。
 ったくもう、なんべん探せばええんや・・・追っかけても追っかけても、逃がしてまうやないか・・・
 ・・・・・・あ゛〜〜〜っ、何すればええんかもわからへんっ!!」
『追っかけるのやめれば?』
タマゴのひとことでサファイアはピタリと止まる。
真下の青くて固いものを見つめ、う〜んと三度うなり声を上げた。
砂利(じゃり)を蹴飛ばすようなじゃりじゃりとした音が聞こえ、その思考すらも停止する。

なぜか動く気力もなく、サファイアが音の主を見付けるより先に足音の主が現れる。
ルビーでも、スザクでも、宿の人でもない。 二重まぶたで目の釣り上がった、髪の赤い女の人。
サファイアがきょとんと目を瞬かせている間に、女の人は胸の当たりにある小さな機械をいじりながら ずんずんとサファイアへと迫ってくる。
『なになにぃ?』
「ぼっちゃん!!」
1言目がそれでは、不審度95%。
あからさまに警戒されていることにも気付かないのか、赤い髪の女は構わず同じ口調で話し出す。

「いつからこの場に存在したのですか!? 私めに告知して下さらないでしょうか!?」
「はぁっ・・・? 昨日の晩からやけど、何やねん・・・・・・?」
国語の文章の間違っている女にしっかり返事する辺りはサファイアだろう。
女が胸の機械を小さく動かすと、ピピピッと小さく音が鳴る。
それを聞いてうんと頷く(うなずく)と、鬼気迫る表情で女はさらにサファイアへと顔を近づけた。
「ななななっ、なんやねん!!?」
「あ、申し訳すみません、少々結構目が悪いもので・・・
 それよりか、ぼっちゃん、その間に爆発が起こったり無性に踊り出したくなったり夜なのに空が光ったりゴローンが大量移動したりしますでしたか!?」

サファイアは頬(ほお)をピクピクと動かした。
この女の人の話を理解するようになるまで、3〜5秒の時間を要する。
『お兄ちゃん、逃げない〜?』
「兄ちゃんやあらへん、サファイアや。 タマゴ君が腰抜かさしたせいで動けへんねやないか・・・!
 そら、空光ってんけど・・・・・・」
女の眼の端がキラリと光り、サファイアへとまた寄ってくる。
いきなりタマゴをひったくろうとするものだから、サファイアは反射的に抱きかかえて防御する。
「そのタマゴね!? それが異世界からの贈り物であるのね!?」
サファイアは2回目の「はぁ!?」を言った。 眉が不自然に動いて疑問をはっきりと示す。
女の人が胸から機械を取り外し、サファイアの腕の中のタマゴへと近づけると 中央のガラス球が光り、先ほどよりも強く電子音が鳴った。
それを見て女の人は1人で何かを納得させる。



「失礼こうむらせたわ、私めの名前はアズサ、ポケモンエンジニアをやっていたりございます。
 最近の研究の成果は世界の次元が曲がっている可能性を否定できないとのこと、
 そのためにどこそこのポケモンが行方不明になったり突然出現したり・・・・・・」
「こんタマゴ君もか?」
『タマゴ君って言ったら自分がタマゴ君なんだぞぉっ!』
ピーピー騒ぐ青いタマゴをまるで無視して、アズサと名乗った女はうなずいた。
瞳の奥で炎が燃え出して、怖い。
「これはじっとしている場合でないわっ!! 早速探査研究へと出発おもむかなければ!!
 それでは相手していられる場合はないので、これにて失礼さよならさせてございます!!」

開いた口がふさがらない、とはこのこと。
アズサが言っていた言葉の半分も理解出来なかったし、これからどうするかという考えもまとまらない。
ひとまず、サファイアは彼女に大騒ぎされたせいですっかり元に戻った腰を上げると、まだ寝ぼけ調子のカナの頭をさわった。
「・・・・・・帰るか。」
「ぐべ。」
青いタマゴを抱え上げると、彼(彼女?)は喜んできゃーきゃーと騒ぎ出した。
かなりの大声を出されてガンガンする頭で サファイアとカナはふらふらと歩き出す。
『ねーねーサファイア、僕あのお姉ちゃんから魔法のコトバ教えてもらったよ?』
「コハク男や言うてんねん・・・・・・魔法の言葉?」
サファイアが聞き返したとき、彼の足元で ぱさっと音が鳴った。
彼らが音のした方向を見下ろすと、真っ白な表紙のノートの上に 茶色い封筒がいくつか乱雑に置かれている。





「判りませんよ〜・・・」
眉を潜めてみても、何も解決しないことなんて判っている。 ミツルはショートしかけている頭を必死で回転させた。
種類が判らないポケモンも2匹、前足のあるポケモンも2匹、ニコニコ顔の青いポケモンだけ他より大きいような気もするが、
それも決定的な違いにはなりそうもない。
ぺぽと一緒にきゃいのきゃいのと騒ぐ小さなポケモンたちを見つめると、ミツルは小さくため息をついた。
「仲間外れなんて、ポケモン図鑑は教えてくれませんし・・・・・・
 ヒントもないですし・・・あい、何かありません?」
あいはミツルから話しかけられると、ぺぽを含めた6匹のポケモンを1通り見回し、図鑑に『ネイティ』と表示されるポケモンを指した。
しばらく考え込むと、ミツルは何かを納得したように手を叩いた。
「・・・確かに、ネイティっていうポケモンだけ羽根が生えてます!
 それなら、あのポケモンを捕まえれば、ここから抜けられるってことですね!!」
「るぅっ!!」
勇んで(いさんで)あいは走り出す。

これで、このおかしな館(やかた)の中から脱出できる、
そう思ってミツルは胸をなでおろすと、いまだにはしゃいでいる6匹のポケモンに目を向けて瞬きをした。
―脱出できる? 胸の中をふとよぎる妙な違和感。
頭で考えるのよりも先に手が伸びて、キルリアの頭の毛をつかむ。 見事髪を引っ張られたあいは、キィッと声を上げるとミツルを睨み付けた。



「ごごっ、ごめんなさいっ!!
 あの、はい、でも・・・ボク、思ったんです! ネイティは、・・・仲間外れじゃない・・・」
「ふぅ?」
段々と口ごもってきたミツルに あいは怪訝(けげん)な表情を見せる。
乱れてしまった毛並みを手で直しながら、ミツルはうつむいて自信なさそうに ぼそぼそと言葉を吐いた。
「・・・はい・・・・・・仲間外れは・・・ボクです。 ボク1人だけ、人間です。」
ミツルは もごもごと口ごもる。
騒いでいたポケモンたちが段々と静かになるなか、その1匹1匹にミツルは淡い色の瞳を順々に向け、ふっと息を吐いた。
続きの文章が、1つ、また1つと出来あがっていく。

「だって『このなか』ですから、あいも、ぺぽも含めて、みんなポケモンです・・・・・・
 ボクだけ人間ですから、仲間外れは、ボクです。」
全てを言い終え、気まずそうにミツルがうつむくと ぴょんぴょんと飛び跳ねながらゴニョニョのぺぽがミツルへと飛び付いてきた。
その体重を支え切れず、自分の非力さになげきながら床の上へと仰向け(あおむけ)に倒れ込む。
あ〜あ〜、などと考えながら ぼんやり灰色の天井を眺めていると、その視界をぴょこん、と緑色の小さなポケモンが邪魔した。
パチンと目を瞬かせると、ピョンピョンと顔の上を飛び跳ねながら小さなポケモン、ネイティは視界から消えてしまった。
気が付けばミツルは ポケモンたちに囲まれている。


「・・・ポケモンになるのも、いいかもしれないですね・・・・・・」
ポツンとつぶやくと、ゴロゴロという遠くで雷の鳴るような重低音が部屋の中へと響き渡った。
あまり驚きもせず、ミツルが置き上がると周りを囲っていたピチューやらププリンやらの小動物たちがクモの子を散らすように走り去る。
ミツルが夢から覚めたような顔をして部屋の中を見渡すと、ずいぶんと向こうから光の差す 道が開いている。
その先がまた罠なのか、先へと進む道なのかも分からないが。

「行きましょうか!」
ミツルはあいとぺぽに笑いかけ、立ち上がる。
ほんの少々、おっかなびっくりの様子で1歩ずつ、3人は先へと進むために歩き出した。


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