【点の伝説】
ホウエンに古くから伝わる伝説の1つに『点の伝説』というものがある。
大昔、人間と共存していた強力な力を持った3匹のポケモンを
その力を恐れた人間が封印したというものだ。
これは、ホウエンの一部、キナギタウンなどで今なお語り継がれている。


PAGE57.ルビー、2回目の家出


睨み付けるように見上げると、サファイアは口の中に残っていた砂をべっと吐き出した。
先ほどからずっと自分のことを見続けているシルバーは、銀色の瞳を見開き、かすかに吐き出す息が震えている。
自分より身体も大きな、ずっと(とは言ってもせいぜい3〜4つだが)年上の人間のうろたえようを見て、サファイアは何だか逆に落ち付いてしまった。
右の肩にかかった、旅の荷物もしっかり入る肩掛けバッグを親指で指差す。
「タマゴ君がコハクから魔法のコトバ教えてもらた言うねん。
 『ツー・クンフル』、意味は判らへんねんけど、何や大事な言葉やと思たんで言ってみた。」
「コハク・・・? ゴールドからか?」
「知らん。」



しばらく考え込むようにすると、シルバーはサファイアを立ち上がらせ砂浜にダイビングしたときついた砂を叩いて払った。
言葉なく自分の水ポケモンたちをボールの中に戻すと、薄っぺらなバッグ(旅の時もこのバッグしか持っていない)の中から地図を取り出し、
軽く目を通してサファイアに「ついてこい」と合図する。
「サファイア、ポケモンが・・・危険性をあわせ持ってることは知ってるか?」
「ルビーがそんなコト言っとったような気がする。」
『タマゴ君きけん〜?』
夕暮れの赤い光の中、2人は(と数匹)小さな無人島を歩く。
1つの言葉が出てから次の言葉まで移るのにずいぶんと時間がかかったが、サファイアは先をせかさない。
いつも、シルバーがそうしているように。

「・・・ゴールドは、記憶喪失なんだ。
 記憶の全てが抜けているわけじゃないが、8歳から12歳までの思い出がぽっかり抜けてる。
 別に、脳に異常があるわけでもなくて、事故に遭ったわけでもなくて・・・・・・」
「『ポケモン』?」
「あぁ。」
その後しばらく、また沈黙が続く。
遠くない波の音が耳について、鼻を動かすと すりむいたあごがヒリヒリと痛んだ。
整備されていない道をひょいひょいとシルバーは進むが、サファイアが置いて行かれそうになっていることに気付き、スピードを緩める。
いつも歩くとき、自分のスピードに合わせていたことが判明し、サファイアは少し悔しくなった。
「太陽みたいにいつも笑ってて、楽しそうで、反面、自分の中で問題が起きてもなかなか話そうとはしない。
 そのくせ頭ばっかり良くて、泣き虫で、争うの嫌いなくせにトレーナーなんかになって・・・!」
「し、シルバーッ、シルバーッ、追いつけんっ・・・!!」
聞こえない声を上げ、シルバーは振り返った。
サファイアは豆粒ほどの小ささになって、岩場をひぃひぃ言いながら登ってくる。
軽くため息をつくとシルバーは辺りを見渡し、適当な岩に腰掛けて薄っぺらなバッグから黄色いものを引っ張り出した。
「このキャップ、3、4年前におれがあいつに渡した奴だ。 今じゃ『ゴールド』のトレードマークになってる。
 安物で渡したときにはぶかぶかだったってのに、今でも使えるくらい手入れされてやがる・・・」
追いつくまでの間をつなぐため、本当に少しだけ声をあげて話し、サファイアが追いつくとすぐに帽子をバッグにしまう。
「10から11の間、4年前から3年前まで、ゴールドと、おれと、もう1人女がいたんだけど、トレーナーとして旅をしてた。
 ちょうど、今のサファイアとルビーくらいの頃だよ。
 最初は、半ば(なかば)おれがゴールドを無理矢理連れ出すような形だったんだが、あいつ、段々笑うようになってさ、
 楽しかったんだろうな、トレーナーになって友達って言えるような人間が急に増えてったから・・・
 その後、学校に行くからってあいつは旅を止めたけど、その後も旅を続けたおれと・・・さっき言った女の所に、
 休みの日を見つけては、遊びに来てたよ。」

進む先に道がなくなると、シルバーは切り立った岩場をすいすいと登り出した。
登れそうにないサファイアは、連れて来たクロバットに命じて先に行かせる。
びっくりするほどの速さで登ってくるシルバーを見下ろすと、サファイアはこれから進みそうな場所を見まわした。
少し離れた場所に、人の通れそうな大きさの穴の空いた 不自然な形をした大岩が見える。
「・・・3年前の11月20日。」
「うおっ!?」
突然声が上がることは判っていたはずなのに、サファイアは奇声をあげてふんぞり返った。
全く気にもせず、シルバーはサファイアが見つけた岩へと歩き出しながら ゆっくりと言葉を続ける。
「学校の創立記念日と重なって、連休が出来たってゴールドがおれたちの旅先に遊びに来た。
 あんまり人間関係上手くいってなかったみたいで、表情少し暗かったんだが、楽しそうに話したり、ふざけたりしてな。
 その日は泊まって翌日、遊びに行こうって話になったんだ。
 だけどその日、街を歩いてたら突然ゴールドが震え出して・・・・・・その直後、見たこともないポケモンが現れて、記憶をかき消した。
 何もする余裕がなくて・・・後で調べたら、伝説級のパワーを持ったエスパーポケモンだってことだけ判った。」
何か声をかけるべきかと考えるが、言葉が見つからずにサファイアは黙ってシルバーの後をついていく。
不自然な大岩まで、あと数メートルと迫ったとき シルバーは全く聞かせる気のないような小さな声で、ぼそりとつぶやいた。
「次の日は、あいつの誕生日だったんだ。」
聞こえなかったフリをして、サファイアは土の壁をよじ登った。
もう穴の空いた大岩はすぐそこまで来ている。
不自然な自然の造形物にふと息を飲み込むと、サファイアは見失わないよう、シルバーに視線を戻した。


巨大な岩にぽっかりと空いた穴を見て、シルバーは続ける。
「来る前、ホウエンのこと色々調べた。
 昔から残っている伝説の1つ、6つの点が3つの扉を開く・・・ホウエンの伝説のポケモン、レジロック、レジアイス、レジスチル。
 その中の1匹『レジスチル』は、鋼タイプのポケモンらしいってことが判明してる。 ほとんどの攻撃を無効化出来るタイプだ。
 記憶を取り戻すまでは行かなくとも、また同じことが起こらないよう守ることくらいは・・・・・・!」
言葉をさえぎるようにして、凍り付きそうな冷たい風がひゅっと吹き抜けた。
サファイアが足元をふらつかせてよろめくと、しゃり、と 一瞬押し上げられたような感触を感じる。
夕方だというのに、霜柱(しもばしら)がサファイアの足元に立っていた。
寒気(さむけ)とは違う、ただ空気の冷えただけの感触をサファイアは肌に受け、日の差し込まない岩の奥に青い瞳を向ける。
「奥、誰かおるん?」
何気なく、サファイアは真っ暗な中へ呼びかけてみる。
しょっちゅうルビーから「うるさい」とクレームを受ける声は、岩の部屋の中で反響して 何重にもなってサファイアのもとへと戻って来た。
首をかしげ、大岩の中を探検しようと1歩を踏み出したとき、キシ・・・と何かのきしむような音が2人の耳をついた。
ふと横を見ると踏み損ねた霜柱が 驚くような速さで成長していく。

「サファイア、退がれ!!」
シルバーの叫び声が上がる頃には、サファイアの身体は既に中へと投げ出されていた。
地面が突然盛り上がり、岩から離れる方向へと弾き飛ばされるのだ。
声も上がらず、反射的にタマゴをかばった手が 地面に衝突した弾みできしみを上げる。 直後、サファイアの体の下に真っ白な布団が現れた。
『冷たぁ〜いっ!!』
「な、何やこれ? 雪? もしかして雪か!?」
見たこともない『それ』を(無事だった)左手ですくい上げて観察すると、突然、一定のリズムで地面が揺れ始める。
言うならば、大型トラックがジャンプするような。
転がり落ちてくるんじゃないかと大岩へと視線を戻すと、何かの危険を察知したのかシルバーがそこから離れ出している。
直後、大岩の穴から 今までに見たこともない無機質な身体を持った動物が現れた。


「なななな・・・なんじゃこりゃああぁっッ!!?」
サファイアは叫ぶ。 遠くルビーのいる辺りまで響きそうな声で。
半透明の白っぽい身体は、ダイアモンドのような鋭い光を放ち、まるでフリーザー(冷蔵庫)のように白い湯気を立ち込めさせている。
体の真ん中には、眼の代わりなのか7つの点が十字に規則正しく並び 首が動かないのだろう、サファイアへと 真っ直ぐに体を向けた。
「・・・ひょうざんポケモン、レジアイスだ!!
 近づくなサファイア、一瞬で凍り付くぞ!!」
「!!」
反射的に握った右手が強く痛み、サファイアは立ち上がり損ね 左手で右手首を押さえる。
7つの瞳に見つめられ、あわてて立ち上がって逃げ出そうとするが うまく行かず、ただその場でばたばたと暴れまわる。
シルバーに『レジアイス』と呼ばれたポケモンは キシリ・・・と鳴き声だかよく判らない音を出し、その場にすっと沈んだ。
ふと冷静になった青い眼で見てみると、そこからそれ以上近づいてくるような様子も襲い掛かる様子も見られない。
冷風にさらされたせいか妙に落ち付いた頭と、誰かが戦おうとするピリピリとした空気。
いつものクセで右手でクウのモンスターボールをつかみ、取り落として左手に持ち替える。
つぶやいた言葉を吹き抜ける風でかき消すと、サファイアは左手のモンスターボールを前へと突き出した。
中からポケモンが飛び出した反動でサファイアはバランスを取り切れなくなり、ふわふわに積もった雪に右ひじから着地する。

「シルバー、攻撃したらアカン!!」
叫ぶタイミングを外し、シルバーのシザリガー『フクシャ』の攻撃に割って入ったクウは 攻撃をモロに受け、弾き飛ばされる。
ゴムまりのようにポンポンと弾むクウを見ると、駆け寄ろうとサファイアはヨロヨロ立ち上がった。
危険性を感じたシルバーがフクシャに足を軽く打たせるが、背中のタマゴのこともあり、簡単にばったりと倒れたりはしない。
高く積もった雪に右足の足跡を深く残すと、サファイアは体勢を立て直してシルバーを睨み、
1歩1歩とクウの倒れた場所―――レジアイスの足元へと向かって歩き出した。
「襲いかかったりせえへんもんな。」
十字の形に規則的に並ぶ点を見つめながら、サファイアはレジアイスに話しかける。
ふと気が付けば、シルバーの銀色の瞳が見開かれ 自分のことを見つめていた。
非常に遅い動きでレジアイスがクウから遠ざかると、サファイアは入れ違いに駆け寄って気絶している彼女を抱えあげる。
「ありがとうな、タマゴ君が危ない思て布団出してくれたんやろ?
 声が出えへんで地面盛り上げて自分からワシらんこと遠ざけてくれてんもんな。 な、そやろ?」
返事も出さず、レジアイスはその場に沈む。
その動物とも思えないような奇怪な姿をしたポケモンに、サファイアはヘラヘラッと笑いかけた。
もう1度「ありがとうな」と言って、ねんざで痛む右手を差し出す。
「ワシはサファイア、こっちがクウで、タマゴ君や。 驚かしてゴメンな。」
『タマゴくんだよ〜っ!!』
わかっとるわ、と軽くひじで小突くと、サファイアは遠くから腕(のようなもの)を差し出して来たレジアイスと見えない握手を交わす。
やはり痛むのかサファイアが右の手首を気にすると、レジアイスはくるりと後ろを向き、
ゆっくりと地響きを上げながらどこかへと立ち去って行った。



『なんじゃあ〜?』
タマゴが声をあげると、サファイアはこの世の終わりのような顔をして頭を抱え込んだ。
「・・・ワッ、ワシが言おうとしとったのに・・・・・・!!
 タマゴ君に言われてまうなんて・・・タマゴ君に言われてまうなんて・・・たぁ〜まぁ〜ぐぉ〜く〜ぅ〜ん〜にいぃっ・・・!!!」
『サファイア変な声〜!』
はたから見ればサファイアが1人芝居をやっているようにしか見えないのだろう。
シルバーはぽかん、とポッポが豆鉄砲を食ったような顔をしてサファイアのことを見ている。
だが、やがてサファイアが痛んだ手首を小さな声を上げながら押さえるのを見ると 小さく首を横に振り口を開いた。

「おまえ・・・判るのか?」
変な声を上げながら、サファイアはシルバーへと振り返る。
「ポケモンの言葉、ポケモンの心・・・そう、ココロ!
 初めて会ってちょっと見ただけなのに、レジアイスの言いたいことが判ったのか?」
「な、何言っとんの? そんなん判るわけないやん。」
「なー」と背中のタマゴに声をかけ、『なー』という返事をもらう。 もちろん、返事の方はシルバーには聞こえてはいないが。
複雑な表情のシルバーに答えを差し出すため、サファイアは青く光る自分の瞳を指差した。
「カチカチ君(レジアイスのことらしい)がな、痛んだ手首 気にしとんのが見えたんや。
 ホンマにワシらのこと嫌なら、さっきシルバーが言ったみたいに うんと近づきゃええだけの話やし。」
「気付けたのか? あれだけの短い時間に・・・」
「カンや。」
ほへほへっとサファイアが笑うと、シルバーははぁっと息を1つついて ひたいに突いた手の下で笑い出した。
首から肩へと流れた赤い髪が 暮れかけた夕陽に溶ける。
冷えた空気のせいか夕陽で照らされたせいか 赤くなった鼻をサファイアが左手でこすると、シルバーは笑った口のまま空気を吐くように言葉を出した。
「・・・サファイア。
 おまえさ、ゴールドによく似てるよ。 ホント、面白いくらい・・・」







ぺたぺたと無防備な裸足の足音が廊下を通って 小さなリビングまで届いた。
何ヶ月ぶりかとも思える 柔らかなタオルに茶色い髪についた水を吸い取らせると、ルビーは赤い瞳でリビングで待つ父親を見る。
トウカまで来てポケモンセンターに泊まるのもどうか、ということで センリが間借りしている小さな家に1泊することになったのだ。
「風呂、空いたよ。」
「あぁ」と小さく声を返し、たいした会話もなくセンリは立ち上がりルビーとすれ違った。
ふと見ると(ほとんどセンリから命令されて)モンスターボールから出したポケモンたちが みんなつやつやと輝いている。
自分がシャワーを浴びている間に勝手に洗ったのか、とルビーは悟ったが、あえて口には出さない。
白いタオルで顔を隠すようにすると、きゅっと髪を押さえ付けながら横目で父親のことを見る。
「・・・父ちゃん、聞きたいことあんだけど。」
「何だ?」
「だいぶ前から気になってたんだけど、どうしてあたい『ルビー』なんだ?
 物心ついたときから『ルビー』呼びされてたから、いっとき名前が『ルビー』だって思ったこともあったんだけど。」
顔は見せずに、ルビーは淡々とした口調で続ける。
センリはしばらく考え込むと、「あぁ」と小さく声を上げた。
「悪いが、そのことは父ちゃんには判らない。
 ある日・・・・・・母ちゃんが急に『ルビー』って呼び出したんだ。
 驚いたが、母ちゃんがあまりに嬉しそうに呼ぶから、そのまま・・・・・・な。」
「・・・そ。」
たむたむと自分のポケモンたちを叩くと、ルビーは分厚いケットを頭からかぶる。
不機嫌そうな娘の姿に苦笑しながらセンリは「おやすみ」と言う。
寝付けないのかごそごそと動きながら返事のないルビーを見ると、センリは部屋の明かりを消し、風呂場へと向かった。



「・・・・・・・・・・・・よし、今だよ!」
センリの足音が遠くなると、ルビーは一気にケットを吹き飛ばした。
身にまとっているのはゆったりとしたパジャマではなく、いつもの赤いシャツにスパッツ。 髪はまとめきれず ひとまずゴムを手首に巻き付けている。
パチンとプラスルの『アクセント』が窓のカギを外し、遠くの旅用のポシェットをワカシャモが投げてよこす。
窓を開け放ち、ヤジロンの『コン』が持ってきた靴に足を突っ込む、タツベイの『フォルテ』にロープを渡し、ルビーは2階の部屋から飛び出した。
ガラス色のタマゴを持ったコンがくるくると回りながらゆったりペースで窓から降りてくる、
その間に自転車の用意をすると、ルビーは一緒に降りて来たポケモンたちを確認した。 確かに、ポケモン5匹とタマゴ1個。
ウエストポシェットをパチンと腰に巻き付け、白黒のグローブに手を通す。
ぬれた髪のせいで付けることの出来ないバンダナをポシェットに乱暴に突っ込むと、
ルビーは最後に窓を閉めて出てきたライチュウの『D(ディー)』がコンからタマゴを預かったのを赤い瞳で確認した。
暖まった両手をポケモンたちへと突き出す。
「戻れ、ワカシャモ! ‘アクセント’‘フォルテ’‘コン’!!」
両の腕に抱え切れないほどのポケモンたちは、手のひらほどの球体へと変わりルビーの手の中へと飛び込んだ。
3つの赤い球と1つの青い球を赤い瞳でちらりと見ると、ルビーは急いでそれらをポシェットの中へとしまう。
ルビーは取りこぼしのないようしっかりとジッパーを締めると、何だか怒ったような瞳で残ったD(ディー)とタマゴを見た。

にこり、とD(ディー)は長い耳をぱたぱたさせながらルビーへと向かって笑いかける。
それを見るとルビーは悔しそうに唇(くちびる)をきゅっと結び、その場にひざをついた。
体内に溜まっている電気のせいだろう、うっすらと光るライチュウが足元へと寄ってくると、ルビーはその首に細い2つの腕を巻き付ける。
嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせるのに気が立つが、それをぎゅっとこらえると、ルビーはD(ディー)を自転車の前カゴへと乗せた。
「・・・・・・約束だかんね。
 灯火(フラッシュ)と野生ポケモンの相手、やらなかったら承知しないんだからね!」
「らいらい、らぁ〜いちゅ♪」
奥歯を強く噛むと、自転車のスタンドを下ろしてルビーはサドルにまたがった。
ペダルも重いしハンドルなんてD(ディー)の重みでとんでもない方向に曲がりそうになるが、
それでも何とか蹴り出せば自転車はゆっくりと、そして段々とスピードを上げて進み始める。
勢いがついてペダルが軽くなってくると、ルビーは不器用ながらもハンドルを操作してコトキタウンへと進路を向けた。
前から吹き付けてくる風に、長い髪を遊ばせるままにして。


「・・・ったく、『おや』に似やがって!」
チッと小さく舌打ちすると、ルビーはD(ディー)の灯かりを頼りに暗い道を走る。
昼間よりもずっと危険な道で、小石や草の根に何度もつまづきかけるが、それでもスピードは落とさず。
うんと速いペースを保ち、ルビーは走り続ける。
彼女が目指すのは、カイナシティ。


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