【種族値】
当然のことながら、ポケモンの種類が違えば得意な攻撃方法も変わってくる。
それを大きく司るのが、体力(HP)、攻撃力(こうげき)、防御力(ぼうぎょ)、
特殊攻撃力(とくこう)、特殊防御力(とくぼう)、素早さの5つの能力であり、
多少のばらつきはあれど、ポケモンの種類ごとに一定の安定した数字を出している。
これを種族値といい、そのポケモンが死ぬまで一生変わることはない。


PAGE58.プライド


「おぃ、ちょっと待てよ、無茶だろ!?」
「うるっさいわ、出来る言うたらできるんや!!」
『タマゴくん眠い〜・・・』
朝早くから飛び込んできた3人を見て、センリはぎょっとした。
ただでさえ昨日の晩、娘に「また」逃げられて精神を落ち付かせるのもままならないというのに、
1人は子供、身体のあちこちにすり傷切り傷ねんざ付き。
1人は青年、赤い髪はぐしゃぐしゃで全身泥だらけ。
1人は中年、昨日ストレートで負けたはずなのにゲラゲラと笑っている。
こんな連中と朝っぱらから戦わなくてはならないのか。


「・・・・・・ちょっ、ちょっと待ってくれ、3人1度に戦うのはいくら私でも無理だ。」
押しかけて来た3人組に向かってセンリはおろおろと声をかける。 動揺を隠し切れていない声で。
赤い髪の青年・・・とはいっても本人から15だと聞かされているから、まだ少年とも言えるが・・・が変化に気付いたようだが、
横目でちらりと呆れたような視線を向けられただけで、すぐに傷だらけの少年のの方に向き直られてしまう。
センリとそうたいして年も違わないだろう中年の男がゲラゲラと笑いながら少年の肩を叩く。
「おぅ、戦うのは俺じゃねぇよ。」
「・・・このバカだ。」
「バッ、バカ言うたら自分がバカなんやで!?」
『タマゴくん言うたら自分がタマゴくんなんやで〜!』
ワケ判らんわ、と傷だらけの少年・・・サファイアがリュックの中のタマゴにツッコミを入れ中年男2人に変な顔をされる。
ぎゃいのぎゃいのと大騒ぎする3人、それこそワケが判らず目を白黒させるセンリ。
やがて自分よりもずっと背の高い2人に何か聞き取れない言葉を怒鳴り付けると、サファイアはセンリを見て笑いかけた。
「今日はな、勝ちに来たったんや。」





せめて身支度くらいは整えてからにしろ、と赤い髪の青年・・・シルバーはぼやく。
男ならガツンとかましてやれ!とゲラゲラ笑いの男・・・名前は忘れたがいまさら言えない・・・は、サファイアの背中をバンバンと叩いている。
「同じことを昨日も一昨日も、君の口から1週間聞きつづけたが?」
「うわった!? きょ、今日こそやったるんや!!」
強く押し出され、小さい体に大きな瞳で自分を倒そうと意気込む少年を見て、センリは苦笑する。
昨日のルビーも同じ瞳をしていた。 赤か青かの違いはあれど。
せめて、ルビーがサファイアの半分も明るい表情をしていれば、センリはそんなことを考えながらバトル用のポケモンを手にする。
「ルールは変わらない、もう何度もやっているから覚えているね?」
「2対2の勝ち抜きバトル、挑戦者(こっち)は入れ替え自由・・・やろ?」
「その通りだ、始めよう。」


観戦する2人が頭で理解するよりも早く、バトルはスタートする。
体を貫かんばかりの勢いで鋭い爪を突き出すあばれザルポケモン、ヤルキモノの『カリブ』。
紙一重のところで避けて長い腕にしがみつくテッカニン、チャチャ1号。
サファイアが目で追いきるよりも前にヤルキモノの白い腕は振り回され、金色のポケモンは弾き飛ばされる。
もちろん、チャチャも壁に叩き付けられてはたまらないのでブンブンと羽根を動かして体制を立て直すのだが。
「どうした、ポケモンに体が追い付いていないぞ?」
「うるっさい、超人変人と一緒にすんなや! ‘チャチャ’『つるぎのまい』や!!」
チャチャはヤルキモノの届かない高い場所まで自慢の羽根で上昇しながらくるくると回転する。
キラキラと羽根が光るが、それはチャチャの攻撃能力が上がっている証、
サファイアがにんまりと笑って下に視線を落とすと、そこにいるはずのヤルキモノがいない。

「上だ、ボウズ!!」
地震でも起きたのではないかと思えるほどビリビリとした声が張り上げられ、突き動かされたかのようにサファイアはチャチャの上を見上げる。
やはり行動が間に合わず、気付いた時には太い腕が振り下ろされた後。 墜落寸前でチャチャが飛んだ後。
1番良いと思える指示を出すためには、あまりにも時間が足りなすぎる。
「『きりさく』んじゃ、‘チャチャ’!!」
細い爪のついた足を地面に引っ掛けると、チャチャは体を180度回転させて逃げから一転、ヤルキモノへと突進する。
攻撃が来たと判断するより前に、ヤルキモノの肩には深い傷がつけられていた。
「・・・早い、こんなに早いのか?」
驚いた表情をしながら、シルバーはオダマキ博士から渡されていたポケモン図鑑を開く。


「『テッカニン、しのびポケモン。
  じょうずに そだてないと いうことを きかず
  おおごえで なきつづけると トレーナーの
  うでが ためされる ポケモンと いわれている。』
 特性は『かそく』、テッカニンは戦っていれば戦っている間だけどんどん早くなっていくんだよ。
 トレーナーになりたてのちっこいボウズが扱い切れるような、ヤワなポケモンじゃねぇ。」
シルバーの横に並んで戦いの様子を見ている男が、図鑑よりも先に口走る。
銀色の瞳が見開かれ、シルバーは何かを言おうと口を動かした。 それを大きな手で制し、男はサファイアの戦いを指差した。 ヤルキモノの鋭い爪を左羽に受けながらも、チャチャが2発めの『きりさく』を相手のど真ん中に命中させている。
「‘チャチャ’もう少しや! 次で相手の急所ぶったたけば倒れるで!!」
「簡単に急所が打てるものか、君自身カリブの急所を見付けてはいないだろう!!」
「もう見つけとるっ・・・!」
口元に笑みを浮かべ、サファイアは青い瞳を強く光らせる。
チャチャは傷ついた羽根で地面をガリガリと削るように飛び、ヤルキモノのふところへと飛び込んだ。
2つの前足を突き出し鋭い爪を横から上へと突き上げる。
「喉や!!」
バチンと大きな音をかき鳴らし、チャチャはヤルキモノを抜けて宙へと飛びあがる。
羽根が傷ついているせいか空中でバランスを崩し、飛びあがった途端チャチャは地面へと落ちてコロコロと転がった。
直後、ヤルキモノの白い大きな体がぐらりと揺れ、地響きを上げんばかりの勢いでバトルフィールドへと倒れる。
その無防備な喉には、大きな2つの爪あとが残っている。



「いつ・・・気付いたんだ?」
「知らん、ただ見えとっただけや。」
頭の後ろで手を組んで、けろりんぱとサファイアは答えた。
冷静な態度を崩さないまま センリはヤルキモノのカリブをモンスターボールへと戻す。
フィールドの上に転がるボールを手にすると、もう片方の手で別のボール・・・最後のポケモンの入った・・・を握り、サファイアの青い瞳に視線を合わせた。
「その、瞳の色か。」
何かを悟ったように笑うと、センリは最後のモンスターボールを強く握り、放り投げる。
赤と白のモンスターボールから出現したポケモンは 何を思ったのか出た途端、その場にごろんと横になった。

センリはサファイアに近づかず遠ざからず、円を描くように周りをゆっくりと歩く。
少しの間を置いた後、時々ルビーが見せるようにうっすらと口元に笑みを浮かべて、
「そうか、君もルビーと同じように特殊な力を持っている・・・というわけだな。 確かに強い。
 だが、ルビーにはまだまだ敵わない(かなわない)。」
ピクリとサファイアの大きな瞳が動く。
「ルビー・・・来たんか?」
「あぁ、昨日来て、私に勝利しバランスバッジを取得して・・・去った。」
「ルビー、勝ったんか・・・」


サファイアのボールを持つ手に力がこもる。
テッカニンを閉じ込めておく青いボールではない、最も良く使われる、赤いモンスターボール。
握り締める手元を見てセンリはまた笑い、大きな手をチャチャへと向かって突き出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・来る!」
「タズマン、『だましうち』だ!!」
面倒くさそうにのそのそと置きあがると、センリの繰り出した大きなポケモンは太い腕をゆっくりとチャチャへと向けて伸ばす。
動きはたいして早くないくせに、全く逃げ道が見つからない。
ふとチャチャがバランスを崩した瞬間に 胴(どう)をがっしりと掴まれ、地面へと叩き付けられる。
「ものぐさポケモン、ケッキング。 ニックネームはタズマンだ。
 私がホウエンに就任してから、このタズマンが出たジムバトルでまだ1度も負けたことはない。」
目を疑いたくなるほどのパワーが全身に直撃し、チャチャはバトルフィールドの上でピクピクと痙攣(けいれん)している。
呆然とサファイアは目の前の光景に固まり、何だか生温かく感じる息を口から吐き出した。

「‘チャチャ’・・・ぐっ・・・!?」
突然肺が熱くなり、サファイアはその場にひざを突いてうずくまった。
それでも何とかコントロールの効かない手を伸ばし、モンスターボールに閉じこもったチャチャを掴み(つかみ)、胸に抱く。
「・・・・・・そうか、能力(ちから)持つっちゅうことって、『こういうこと』なんやな。
 ルビーも、同じやったんかな・・・」
駆け寄ろうとしたシルバーを、残った手を横に伸ばして止めると、ふらふらと立ち上がった。
チャチャのボールをホルダーへと戻したとき、1度せき込む。 胸に手を当てると、みぞおちの辺りがズキズキと痛んだ。
最後のポケモンを持った手に再度力を込めると 大きく振りかぶってケッキングへと投げ付ける。
「行こうな‘カナ’。 先に進まなあかん。」
ヌマクローのカナは先ほどまでチャチャが倒れていた場所に立ち、低くうなりながら頭のヒレを細かく震わせた。
深く息を吐き、サファイアは今までやらなかったこと・・・心を落ち付かせることをする。
「何も知らないんや。
 せやからカナ、教えてくれや、この戦いに勝つ方法・・・・・・!」





「『だくりゅう』や!!」
下っ腹に力を込めてサファイアが力限りの声を張り上げると、カナは濁り(にごり)のある水を大きな波へ変えてケッキングを押し流す。
ケッキングは強そうな足と腕を使い、その場に踏みとどまるが、何故か反撃してこない。
サファイアが疑問の表情を浮かべかけたとき、再びカナの頭のヒレがピクピクと動いた。 今度は先ほどよりも少し大きく。
「‘カナ’『まもる』!!」
「『きりさく』んだ、タズマン!!」
一瞬サファイアの指示の方が早く、カナはケッキングのこれまた太い爪をか細げなヒレで完全に受け止める。
荒く息を吐き、自分の右側へと相手の腕を投げると、カナは再び頭のヒレをピクピクと動かした。
よりはっきりと戦況を確認しようと、サファイアは2歩前へと踏み出す。
横目でみたケッキングが 面倒くさそうにまた、ごろんと横になった。
「・・・雄貴君、判るのか、タズマンが攻撃してくる瞬間が?」
「‘カナ’が教えてくれはる。
 そう教えてくれたんは、ゴールドとそこにいるシルバーやった。」
ピクリ、とカナの頭のヒレが大きく動く。
サファイアが体を戦う2匹の方向へと向けたときには、既に指示が間に合わないスピードで太い爪が再び振り下ろされ始めていた。
体をビクッと震わせ、サファイアは次の技も決まっていないというのに口を開く。

「カナッ・・・!?」
腕に力を込めるまでに至らず、カナは両腕と頭のど真ん中・・・ひたいを使って『きりさく』攻撃を受け止めた。
爪を防ぎ切れなかった皮膚が裂け、ぽたぽたと血が流れ落ちる。
「やはり子供だな、ポケモンの動きには注意出来ても、トレーナーの動きには注意出来なかったようだね。
 覚えておくといい、トレーナーの中には声が使えなくなったときのために、動きなどで指示を出す者もいる。
 ルビーがハーモニカで技を命令するのも・・・その1つと言えるな。」
「・・・・・・言いたいことは、それだけか?」
センリは疑問の印として眉をピクリと動かした。
怒りの表情をあらわ≠ノし、青い瞳で睨みつけてくるサファイアの右手から、赤い液体がぽとぽとと落ちている。
奥歯を強く噛み締めたらしくキシリ、という音が小さく響いた。
「ワシな、これでも一応覚悟はしちょるけん。 トレーナーさなったら、ケガするのは当たり前さね。
 判っちゃいるんやけど・・・・・・せやけどな・・・・・・」
一瞬、水を打ったような静けさがジムの中に広がる。
誰もがサファイアの言葉を聞こうと耳を傾けるなか、ケッキングの攻撃に耐えるカナの息づかいだけが空気を揺らした。
もう1度傷ついた手をぎゅっと握り締めると、爆発したような声をサファイアは張り上げる。


「顔傷つけよったな!!?
 ポケモンじゃろうとなんじゃろうと、女の子やねんで!!」
地面のこすれるザリッという音が鳴り、サファイアは戦うポケモン2匹の方へと振り返った。
いまだ押し合いを続けるケッキングの腕に押し負けているのか、カナの足元の地面が削れて色濃くなっている。
サファイアは深い蒼色に光る瞳で2匹を見つめる。
荒い息づかいで自分の2倍はあるかというポケモンの攻撃に耐えるヌマクローの腕が、目に見える速度で太くなっていく。
「‘カナ’ァッ、『だくりゅう』!!」
低く鋭く吠えると、カナはケッキングを突き飛ばして濁り水を首元へと向かって噴き出した。
バランスを崩したところに最大攻撃を受け、立っていることも出来ず ケッキングは濁った水もろとも壁に叩き付けられる。
水圧でビクビクと腕が震えるのを見て、カナは攻撃を止める。
押さえ付けるものが何もなくなると ケッキングはずるりと壁から落ち、地面の上で動かなくなった。
クウゥ・・・とサファイア以上の大きさの体からは想像もつかないほど可愛らしい声を上げると、
カナはのそのそ、ゆっくりと大きな体を主人のもとへと動かし、大きな鼻先・・・先ほど攻撃を受けた場所をサファイアの顔にこすり付ける。

「・・・・・・・・・へ?・・・」
すっとんきょうな声をあげると、サファイアはとりあえず目の前の見たこともないカナのひたいをなでた。
手の先から感じる暖かさに、カナは金色の目をおおう2つのヒレを嬉しそうにパタパタと揺らす。
ふと、倒れているケッキングに目をやると、同じ場所を見ていたセンリと目が合った。
「言葉を、真実にしたな。」
意外とも思える笑顔を向け、センリはサファイアへと声をかける。
倒れているケッキングをボールへと戻し、ゆっくりとサファイアのもとへと歩き、親指ほどの小さなバッジを挑戦者へと握らせた。
「おめでとう、10度目の挑戦突破。 それに、そのヌマクローの進化。」
「進化・・・」
サファイアはポケットからポケモン図鑑を取り出し、カナへと向ける。
ピピッという音を立て、小さな液晶にポケモンのデータが映し出される、ヌマクローのものではない。

『ラグラージ ぬまうおポケモン
 ラグラージは なみおとや しおかぜの わずかな
 ちがいを ヒレで かんじ あらしを よけんする。
 あらしになると いわを つみあげ すを まもる。』

戦っていた姿からは想像もつかないほど甘えた声を出し、ラグラージのカナはサファイアの顔に鼻先をこすりつけた。
訳も判らずサファイアが青い眼をパチパチさせて顔をのぞきこむと、ひたいにあったはずの傷が消えている。
おそらく、進化したときに身体が大きくなった影響で治ったのだろうが、そんなことサファイアには想像もつかない。
ただホッとした顔をして、両腕で抱え切れないカナの頭を抱いてセンリを見上げる。
「どれだけの戦いを切り抜けてきた?」
「数え切れんわ、切り抜けられてへんし。」
一瞬不思議そうな顔をすると、センリはサファイアを父親の表情で見て笑った。
頭をポンポンと叩かれるとサファイアも笑って カナを少し離れさせて立ち上がる。
「せやけど、目指すは世界一や!!
 バッジ取ったったで、シルバー、おっちゃ・・・・・・・・・・・・ら?・・・」







サファイアは固まった。
観戦していたはずの2人の 影も形も見当たらない。
『目指せ世界一!』の言葉もどこへやら、サファイアはおろおろと動揺しだし さっぱり訳の判らない方向へと歩き出す。
「どこじゃあっ・・・シルバー、シルバー!?」
何をどうしたらそうなるのか、『フラフラダンス』を踊ってゴン!と壁に頭をぶつけて自滅する。
泣きそうな顔をして不必要なほどの大声を張り上げると、うるさそうに耳をふさぎながらジムの入り口からシルバーが顔をのぞかせた。

「何だよ、一体・・・・・・って、いない!?」
赤い髪を振ってシルバーはサファイアの姿を探す。
ジムの真ん中でカナが『しまった!』といった表情で頭についた2本のヒレをパタパタ動かし、迷子の主人を探知した。
カナがすぐに走りだし、ジムの奥への扉を突き壊すと涙と冷や汗と鼻水でぐしょぐしょの主人の姿。
その姿を見たセンリとシルバー(とカナ)は呆れ果ててため息をつく。


「・・・泣き虫。」
苦笑するシルバーの姿を見つけ、サファイアはあわてて顔の液体をごしごしとこすり落とした。
じゅべじゅべと妙な音を鳴らす鼻にティッシュを当てながら うるうるしている青い瞳で自分を笑う男を睨みつける。
「だいっ・・・泣いてへんっ、不覚にも最強ポケモン『ウンダラバー』にベタベタビーム食らってもうたんや!!」
こらえ切れず、センリが笑い出す。
すがすがしいほどに笑われ、サファイアの顔はますます赤くなり、青い瞳と奇妙なコントラストを作った。
こらえたりずべずべと鼻を流したりしながらひとしきり泣いたあと、サファイアは顔にくっついた液体をふき取りながらカナの頭をなでる。

「ほな、行かなアカンな。
 早よ、るりぃに追いつかんと、男やらくらってしまう。」
「ぐぐ・・・」
カナがサファイアの腹を頭で軽く小突き、先に立って歩き出す。
後を追いかけて走り出そうとすると、サファイアは腕を軽く掴まれて少しだけ後ろにつんのめった。
またシルバーかと思い、少し眉を潜めて後ろへと振り返ると、センリが真面目な表情でサファイアを引き止めている。
「何や?」
「急ぐのはいいが、10分・・・いや、5分時間を欲しい。
 君に伝言があるんだ。」


「?」と小さく声をあげてサファイアは可愛らしげ(自己評価)に首をかしげた。
シルバーが銀色の瞳でセンリに言葉の先を急がせている。
「全部で2つ、1つはルビーからだ、昨日言い付かった。
 「父ちゃん・・・私に勝てたら、『サファイア』をあんたにやる」らしい。」
言葉の意味を全く理解できず、健気に(サファイア的表現)首をかしげると、センリは構わず先を続ける。
「そして、こっちは私からだ。
 君がポケモンマスターを目指しずっと旅を続けるなら、いつか、ゴールドという少年に会うだろう。
 旅先でもし彼に会ったら、「すまなかった」と伝えて欲しい。
 伝えるべきことは、以上だ。」
「・・・何を言いたいねんか、全然わからへんねやけど・・・・・・」
世にも奇妙なものを見るかのような顔をして サファイアはセンリへと聞き返す。
仕方なし、という感じで苦笑すると、センリはケッキングのモンスターボールを1つ上へと放り投げた。
「ルビーからの伝言は、直接彼女に聞いたほうがいいだろう。
 私からの伝言は、今は聞かないで欲しい。 とにかく「すまなかった」と、それだけ伝えてくれればいい、彼に通じなければそれはそれで。
 さぁ、先を急ぐんだろう、ポケモントレーナー、サファイア!」
「お、おぉ!!」
声に押し出されるかのように、サファイアはカナの後を追いかけ出した。
疑問を顔に浮かべながらシルバーがセンリを横目で見て、すぐにサファイアの後を追う。
2人の背中を見送り、センリがジムの扉をゆっくりと閉めて。





「でも、ホンマシルバーもおっちゃんも どこ行っとったんや。
 えんらい探したで?」
見失わないよう、走りっぱなしのまま カナをチラチラと見ながらサファイアは声を上げる。
「あのおっさんはサファイアが勝ったって判ったときに さっさと帰った。
 おれは電話がかかってきたから、ジムの外に出てたんだよ。」
「電話やて?」
サファイアのカメのような走りに歩調を合わせると、シルバーは
いかにも男の子が買いそうな黒いポケギア(トレーナーツール・電話機能つき)を取り出して見せた。
ところどころに小さな傷が目立ち、一部はヒビが入っている所さえある。
「壊れて着信音が鳴らないんだ。
 気付いたときには取るけど、修理に出すヒマもない。」
「ほーん・・・」
『なむ・・・おはよー、サファイア〜?』
「サファイアッ、前見ろ、前!! また迷子になる!!」

思いきり腕をひっつかまれ、サファイアはカナの後ろに投げ出される。
よろけはするが転ぶには至らず、文句の1つも言おうかとシルバーへと振り返ったら 今までに見たこともないような笑顔。
視線が合うと、気まずそうに肩を軽く突き飛ばされた。
時刻は午前11時25分。 高く目を覚ました太陽の下、ポケモンと人間と腹減りの回復を終えたらまた、
サファイアたちの冒険の旅が再開する。


<ページをめくる>

<目次に戻る>