【ポケモンリーグを終えると】
ポケモンリーグは多くのトレーナーたちの1つの目標であるが、
同時に上位入賞者たちにとっては1つの節目にもなる。
頂点を極めたトレーナーたちはその後、それぞれ別の道を歩き始め、
そのままトレーナーを続けるものもいれば、別の職を目指すものもいる。
ただ1つ変わらないのは、彼らはいつもポケモンたちと共にあるということだ。


PAGE59.昔準優勝・今ジムリーダー、昔優勝・今トレーナー


ひゅうっと冷たい風が吹くと、潮の香りがルビーの鼻先を通り過ぎていった。
自転車をこぐこと 丸3日。 目的地が近いことを感じるが、彼女は口には出さない。
高かった草がだんだんと低くなり、重なるようにしてぼうぼうと生えていた木々がまばらになってくると、隠されていた蒼い大海原が広がる。
カイナシティまであと少し、ルビーは自転車をこぐのを止めてスピードを落とすと、ブレーキは使わずに停止させスタンドを立てた。
今朝、近くの川の水で洗った髪がすっかり乾いて 風でパサパサと音を立てる。
旅行用の小さなブラシで茶色い髪を解かすと、ルビーはいつもの通りに髪を結い、バンダナをかぶせた。


潮風を体に受けて、ルビーは ん〜っと声をあげて高く高く天へと腕を伸ばした。
小高い丘の上からは、相変わらずのにぎわいを見せる港町が見える。
ルビーは立ち止まると振り返り、マッハ自転車の前カゴから包みを取り出して適当な場所に腰掛ける。
荷台にしがみついているオレンジ色のライチュウに赤い瞳を向けると、ひざの上に包みを置いてきれいな声を出した。
「D(ディー)、ここで休憩するよ。
 せっかく名前も知らないおばちゃんが好意で弁当作ってくれたんだ、街まで行っちゃもったいない。」
「らーい?」
長い耳をピクピクと動かしながら、D(ディー)は不思議そうな顔をしてタマゴを抱えたまま荷台から飛び降りる。
カイナの街とルビーの顔を交互に見比べながら、タマゴを落とさないようにチョコチョコと歩いてきて、
まとめて呼び出されたルビーのポケモンたちに丁寧に1回ずつ挨拶をして。
そっとタマゴを足の間にはさむと、ルビーからソフトボールのような巨大なおにぎりを1個受け取り 遠慮がちに食べ始めた。
どうでもいい話だが、分配はアクセントとD(ディー)が1個、ルビーとワカシャモが2個、フォルテが3個。
コンはそこらの土を勝手に食べるので、渡されていない。
食べながら小さくため息をついたルビーとアクセントの視線が合う。
口についた米粒を丁寧に前足で取るアクセントを見て、ルビーはまた1つ、小さくため息をついた。
「・・・会うね、間違いなく。」





早めの昼食を終え、自転車を走らせること さらに1時間。
すぐにでもコンテストに向かおうと考えるが、ひとまずは道筋を覚えたポケモンセンターへと入る。
宿の手配をして、ポケモンたちをセンターに預けると、余ったタマゴを抱えてルビーはロビーのふかふかのソファに寝転がった。
「つっかれたぁ・・・・・・」
疲れがどっと出て ソファの上でルビーは目を閉じる。
お昼どきなんて妙な時間に人が入ってきたらしいが、気にしない。 電話の方に向かったようだが気にしない。
何だか雑誌などで見覚えのある頭の形をしていた気がするが、ルビーはそれも気にしないことにする。
今までの経験からいって、関わってロクなことに遭った(あった)試しがない。
ポケモンが回復したと放送が入ると、面倒そうにのそのそと立ちあがってアクセント以外のボールをホルダーに取り付けた。


「・・・だからっ、違うって言ってんだろッ!!」
ドカンッ、と机を叩く音とともに叫び声が聞こえ、ルビーは身をすくませた。
弾みで開こうと思っていたアクセントのボールを取り落としてしまい、運の悪いことに叫んだ男の足元へと転がっていく。
数秒真剣に考え込み、仕方なしに拾いに行くことにした。
指先の黒いグローブがモンスターボールにかかったとき、がちゃんと音を鳴らして男が受話器を電話に戻す。
慌てて目を合わさないようにしたが、少ぉし遅かった。 一瞬目が合ってしまったことに気付かないほどルビーも鈍くはない。
ルビーは逃げようと出来るだけさりげなく(だが体がこわばって不自然だ)立ち去ろうとするが、電話の男にがっちりと腕を掴まれた。
「な、何!?」
「・・・赤い眼・・・・・・・・・?」
またか、とルビーは心の中で小さく舌打ちした。
この瞳のせいで他人から変な目で見られるのは今に始まったことじゃない。
今朝もカイナシティに来る途中、通りがかりの見知らぬおばちゃんに泣きはらしていると勘違いされて 弁当を押し付けられたばかりなわけで。

「離しな。」
そうは言うものの、目の前の男は呆然とルビーの顔を見たまま凍り付いてしまっていて、とうてい離すような気配はない。
事(こと)の原因ともなっている赤い瞳で睨み付けたとき、ふとルビーは思い出す。
目の前の男、どこかの街のジムリーダーだったはず。 名前はグリーン・O・マサラ、ポケモン研究の第一人者のオーキド博士の孫。
・・・だからって人の腕を掴んでいいものか・・・と、ルビーは考える。
旅行っぽいチカンまがいジムリーダーの撃退法。
1、アクセントの『スパーク』
2、フォルテの『ひのこ』
3、コンの『サイケこうせん』
とりあえず2番辺りが有効かと考えたとき、また突然現れた別の人物にルビーは背中から抱き付かれた。
ほぼ同時に人間の足がルビーの腰の辺りから突き出され、ジムリーダーグリーンのみぞおちにクリーンヒットする。
冗談抜きに殺人的な威力。 突然に現れたスザクはルビーの首に回した腕を肩へと移動させながら 鼻息も荒くグリーンを睨みつけた。

「ルビーが嫌がってんじゃないの!
 実力行使なんてみっともないわよ、変態ジムリーダー!!」
腕を掴まれていた怒りも忘れ、ルビーは自分の肩越しにスザクを見ながら 数メートル先の壁に激突したグリーンをほんの少しだけ心配する。
ジムリーダーだけに鍛え方が違うのか、『ひんし』同然の状態でもグリーンは立ちあがって今にも死にそうな顔でスザクをにらみ返した。
とはいえ、すぐに声を張り上げて反論できるような状態ではなさそうなので、ルビーはその間に冷静になることにする。
赤い瞳の自分の顔を見てスザクが驚くのではないかと思ったが、意外にも彼女は自分の目を1回瞬かせただけで終わらせる。
そんな状態でわざわざ自分で自分の首を締めたくもない、とりあえず無難な話題をルビーは考えた。
「・・・突拍子もない登場の仕方だね、相変わらず・・・・・・」
「そりゃあ、コンテストがあるもの! スーちゃんはどこにでも現れるわよ〜♪」
複雑になるような天使のウインクを浮かべ、ち、ち、ち、とスザクは指を振って見せる。
ふらっふらとよろけながらも復帰したグリーンが戻ってくると、彼女はルビーとの間に立ってご丁寧に軽蔑の眼差しを送った。


「・・・・・・ぐはっ・・・お、おぃ・・・クリス・・・
 久しぶりに会ったってのに・・・いきなり蹴り飛ばすことは・・・な・・・いだろうが・・・」
「立派にしっかりはっきりと完全に見間違いようもないほど、ルビーにセクハラしてたじゃない!!
 あたしが見てる以上、言い訳なんて通用しないんだからっ!!」
ルビーがそっとグリーンの後ろの壁を見ると、丁度人の形に陥没(かんぼつ)している。
出来ればこのままそっと、他人のふりをして立ち去ってしまいたかったが、そうもいかないことは重々承知していた。
渋〜い顔をしたルビーを指差し、グリーンが疑問の眼差しを送る。
「そ・・・いつ、おまえの親戚か何か・・・なのか?」
「隠し子。」
えぇっ!と声を上げながら黄土色の髪の男はどんどん後ろへと下がって行く。
スザクはちらりとルビーのことを見やり、「早く行きなさい」と視線でうながすが、ルビーにはその意味が読み取れない。
誰にも気付かれない程度に小さくため息をつくと、スザクは んべ、ピンク色の舌を見せる。

「冗談よ、冗談。 女の子のトレーナーも珍しかったから声かけたの!
 そっちこそ どうしてホウエンに来ちゃってるわけ?」
「来ちゃって・・・って・・・俺が来たら悪かったのかよ? 有給取って観光に来ただけだっつーの。」
今度ははっきりと見せつけるようにため息をつき、スザクはくるくると頭を振った。
ルビーの腰を軽くつつき、再びその場から逃げるようにうながす。
「ひぃっとの事情も知らないで・・・・・・言っとくけど、あたしまだ怒ってるんだからね!!」
「口調聞きゃ判るっての・・・だいたい・・・」
床に転がったままのモンスターボールを救出し ルビーが逃げようとしたとき、ガラス張りの扉を開けて誰かが飛び込んできた。
ひどく顔が青く、何か異常事態を知らせたいのだろう、口をパクパクさせている。
飛び込んできた男はセンターを見渡し、グリーンの顔を見つけるなり飛び付くように走り寄った。


「ここにトレーナーポリスの人が来てるって聞いて・・・
 大変なんです、この街の造船所に、変な青い服を着た集団が乗り込んできて・・・!!」
ルビー、スザク、グリーンの順で遠くから物が飛んできたかのようなリアクションを取る。
睨むようにして走りこんできた男を赤い瞳で見るルビーを軽く叩いてなだめると、スザクは1歩前へと出た。
男へと優しい顔を向けると、エリの裏側から金色のバッジを外して男に見せる。

「詳しい事情、教えてくれる? あたしもトレーナーポリスよ。」
「事情もなにもないだろ、怪しいことする青い集団つったら、アクア団の奴らに決まってる!」
怒りにも似た声をルビーが張り上げると、スザクは驚いたように目を見開いた。
「心当たりがあるの?」
「『あるの?』じゃないよっ、あたいが引っ越してきたときから さんざっぱら、あっちこっちで犯罪沙汰起こしてんじゃないかいっ!
 スザク、あんたも大人ならニュースくらい見ときなよっ!!」
直接戦ったことがあるとも言えず、客観的事実だけをルビーは吐き捨てる。
あらま、と たいしたことも無いような声を上げると、スザクはもう1度男へと体を向けた。
「改めて聞くけど、ストレートに言って、そのアクア団?をどうしたいわけ?
 私もポケモンたちも疲れてないから すぐにでも動けるわよ。」
「開発中の潜水艇(せんすいてい)を奪おうとしているみたいなんです、追い払って守って下さい!!」





そっとルビーの肩に手が置かれ、さりげなくその場から追いやられる。
悔しくも感じるが、わざわざ自分から面倒ごとに付き合うこともない、ルビーはアクセントのボールを手にして早足でセンターを出る。
ポケモンセンターが開いて閉じるのを気付かれないようにそっと横目で見ると、スザクはグリーンと話し込む男の声に耳を傾ける。
話を聞き、造船所の造りと場所、相手がどのくらいの人数なのかを頭の中で思い浮かべ、男2人を少し睨みつけるようにして小走りに造船所へと向かった。
「・・・しぐれちゃん、南東45度の方向にお願い。
 あのへっぽこジムリーダーよりも前に、事件解決しなくっちゃ! ね、ルビーも安心できないし。」
走りながらモンスターボールを口に当てて 自分の足元へと転がすと、
赤と白のモンスターボールの中から銀色の鳥が飛び出し アスファルトの地面を鉄の爪で蹴る。
学名は『エアームド』、TP権限で名前を変えた彼女がこの鋼(はがね)の鳥に付けたニックネームは『しぐれ』。
しぐれは彼女を大きな背中へと乗せると、街中堂々、高い空へと飛び上がった。
男が言った造船所までおよそ1000メートル、あっという間に巨大な建物を視界にとらえると
スザクはしぐれの背中を軽く蹴り、傾斜のなめらかな屋根の上へと飛び移る。


「・・・・・・っひゃ〜、潮風、強いなぁ〜。」
きゅっと屋根に張り付けた手を握り、スザクはずっとずっと先に広がっている青い海を少しの間だけ瞳に映す。
くせっ毛を無理矢理まとめたポニーテールが、風でぱたぱたなびいてスザクはトレーナーの顔になった。
空をぐるぐると旋回(せんかい)するしぐれを見上げ、天に高く手を突き出す、「ボールに戻れ」の指示。
天窓から中をのぞくが、聞いていたよりも若干人数が多い、
吹き飛ばされないようにしっかりと屋根にしがみつきながらどうしたものか彼女は考える。
「さ〜て、怖くない怖くない・・・あたしはあたし、港の子でしょう。 これくらいの風、なんてことないわ。
 相手・・・アクア団って言ったっけ? 人数多過ぎるから、とにかくリーダー格の人間・・・探さなきゃ。」

ぶつぶつとつぶやきながら考え込んでいると、不意に下から強い殺気を感じ、スザクはそこが屋根の上ということも忘れ走り出した。
直後に今までスザクが下の様子を覗いていた天窓が 音を立てて派手に爆発する。
ぞっとして背後を振り返ると、まるでサーカスのアクロバットを見ているかのような動きで破壊された屋根から人が飛び出し、彼女の前へと立った。
何かの制服なのか黒の横じまのシャツを着て 頭に青いバンダナを巻いた、やせ型の男だ。 肩には小さな黒い機械をベルトで巻いている。
「・・・・・・あなたがアクア団?」
「えぇ、そうです。 出来れば我々のことをこそこそと覗くような真似はお断りしたいのですが。」
ひょろひょろとした体格の男は肩の機械を動かしながら低めの声で話す。
スザクが見る限り、動きには油断は見られないのだが窓を爆発させたときのような殺気は感じられない。
あえてモンスターボールは確認せず、彼女はじりじりとアクア団の男へと詰め寄って行く。
「あたしの話が判るんなら、あなたたちがこれからしようとしていることを即刻止めて欲しいんだけど?」
「それは出来ない相談ですね。
 もう隠す必要もないので言いますが、この潜水艇(せんすいてい)は我々の目的のためにはどうしても必要なのです。 お引取り願います。」
「・・・・・・目的?」


『レイマー、Talk(トーク)し過ぎデース。 あなたの任務、終わってないデスネ〜。』
突然、男の肩に取り付けられた小さな機械から 妙なイントネーションの女の声が発せられる。
風に吹かれたら飛んでいってしまいそうな男は肩の機械(恐らく通信機だろう)とスザクを順々に見て、
驚くほど身軽な動きで屋根の穴を飛び越え、スザクと距離を取った。
「申し訳ありません、任務に戻ります。
 ・・・そういうわけでお嬢さん、アクア団の活動を邪魔しないことです。
 中途半端な正義感は、大怪我へとつながりますよ。 それでは。」
瞬きするほどの間にアクア団の男はこっそりとモンスターボールを開き、小さな鳥ポケモン、キャモメに掴まってどこかへと飛び去って行く。
追いかけるべきかどうか考える間に その青い服の影も形も無い。
「・・・・・・なによっ、なんなのなんなのあの態度っ!! あいつ、あたしのことを何だと思ってんの!?」
吹き荒ぶ風に足元を取られつつも、スザクは眉をつりあげて男の行った先に怒鳴り付けた。
全く同じ調子でずいぶんと使い込まれた様子のモンスターボールをホルダーから引きちぎり、
落とさないようにしっかり握ってスザクは空けられた屋根の穴へと飛び込んだ。
コンマ何秒というタイミングを数年のうちに経験が刻み付けられた体で計り、握ったモンスターボールを開放する。

「逃げることなんてない、あたしはクリス。
 ポケモントレーナー、クリスタル・EGCよ!!」
大きな波しぶきをあげて、赤い竜とともにスザクは潜水艇の浮かぶ入り江へと着水する。
6メートル以上ある巨体に大きく振られるが、普段から鍛えられている強い腕でしっかりと太い『つの』にしがみついて離さない。
突然の乱入にどよめく青服にバンダナの集団を睨みつけると、
スザクは赤い巨大な水ポケモン・・・きょうあくポケモン、ギャラドスを抱え、叫んだ。
「TP(トレーナーポリス)よ!! 全員モンスターボールを下に置いて、手を上げた姿勢のまま壁に背中をつけなさい!!
 逆らうようなら『はかいこうせん』を飛ばしちゃうんだからね!!」
実力者のシンボルとも言えるTP(トレーナーポリス)の言葉を真っ先に出され、造船所を占拠していたアクア団の集団は一斉にパニックを起こす。
恐らく、これだけ早く突入してくるとは予想していなかったのだろう、大多数の人間は。
だがその中に1つ2つ、明らかに殺気としか思えない気配を放つ人間がいる。
鉄砲玉のような『なにか』が自分目掛けて飛んできたのを、スザクは冷静にギャラドスに指示を出してかわした。
「誰・・・・・・?」
聞こえない程度の小さな声でスザクはつぶやいた。
この状況下で攻撃してくるにしては、苦し紛れといった様子が見られない。 心の中のアンテナの感度を上げて集団の中にいる攻撃者を探す。


ずぶ・・・と数十センチ体が沈み込み、驚いてスザクは真下の海面へと目を下ろした。
潜水艇を留めておけるような入り江のはずなのに、異常なまでに波が立ち 桟橋(さんばし)にぶつかっては白い泡を作っている。
海面だけではない、造船所全体が大揺れしてアクア団の集団たちは立っていることすらままらなない。
それがポケモンの技『じしん』だとスザクが理解したとき、突如としてギャラドスの巨大な身体が海中へと沈み出した。
「・・・・・・これ・・・『うずしお』!?」
指示が間に合わず、造船所を埋め尽くそうかという巨体が海の中へと引きずり込まれていく。
入れ違いに停泊している潜水艇のハッチが開き、私服とは思えない角の生えたエンジ色のパーカーを来た集団が勝ち誇ったような笑みをアクア団へと向けた。

「甘い甘い、ココアより甘いよ!
 フライゴンじゃないんだからさ〜、今は先手必勝の世の中なんだよねぇ〜。」
ハッチから顔を出した赤い服の集団の女がアクア団を見てケラケラと笑い、
同じような服を着た女たちに何か合図するのをスザクは海に沈みかけながら見る。
アクア団が彼女らを見て『マグマ団』と叫んだのをしっかりと記憶に刻み付けると、彼女はギャラドスとともに波の下に引き込まれる。
息の切れないよう、しっかりと口をふさいで それほど離れてもいないだろう攻撃の主を探す。
すぐに、スザクの予想通り数十メートルしか離れていない場所にアクア団の服を着た女を見付けた。
酸素マスクで顔こそ隠れているが、胸の大きさで女だとはっきりと判る。
足ヒレでご丁寧にギャラドスの攻撃の届かない範囲まで遠ざかると、アクア団の女は流線形の青いポケモン、トドゼルガを繰り出してきた。

スザクは離れないようしっかりとギャラドスの角にしがみつくと、腕を振って『かみつく』の指示を出した。
それだけで凶器になるほど太い尻尾で水をかき分けると、ギャラドスは目いっぱいトドゼルガへと接近して大きなあごを閉じる。
絶妙のタイミングでトドゼルガは太い牙すれすれのところをかわしていく。
すぐには次の攻撃に移れず、スザクがゆらゆら揺れる髪に邪魔されながら相手を見る、その瞬間、彼女は我が目を疑った。
海水が見ているそばからあり得ないスピードで氷結していくのだ。
「・・・んーっ!!」
凍り付いた海水が迫り、スザクはバンバンとギャラドスの角を叩いて逃げ出そうとする。
それが一撃必殺の『ぜったいれいど』だと判断できたときには、体中に冷たいものが貼り付いて身動きが取れなくなっていた。
パニックを起こし、頭の中が真っ白になって若いトレーナーは海の底へと沈んでいく。
キラキラと綺麗な光を放つ 白い泡を作り出しながら。





グリーンが造船所へと乗り込んだとき、既に事態は終焉(しゅうえん)を迎えようとしているところだった。
見たこともないような揃いの青い服を着た集団が、開発中だと言っていた潜水艇を赤い服の集団から奪い取って海へと進めて行く。
そこで赤い服の集団へと声をかけようとすれば、何故か全て女だった彼女らは脱兎の勢いで逃げ出して行くし。
またも置いてけぼりを食らったグリーンはいらつきが頂点に達したのか、壁をドン、と音が鳴るほど叩く。
「・・・くそ・・・一体、何が起こってるっていうんだ・・・?」


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