【ポケモンの所持数】
基本的にポケモンを捕獲する数に制限は設けられていない。
だが、連れて歩けるポケモン数は6匹までとポケモンリーグのルールとして設定されている。
理由を述べれば、ポケモンバトルの時地面の下に大量のポケモンを忍ばせ、
バトルを有利にしようと反則を考えるトレーナーが出てきたために制限されたからだ。
PAGE68.激しすぎるウォーミングアップ
「・・・何しに来たのよ。」
スザクはルビーを背中で抱えるようにして、ブルーと名乗った女の人を睨んだ。
ただごとではない雰囲気に 店の中で買い物を楽しんでいた人たちも外で待ってるワカシャモも、女2人の睨み合いの見物人に変化する。
コハクの秘密基地での無礼に腹を立てていたルビーも、スザクのこの怒りようにただ驚くしかない。
ただ1人、睨まれている当の本人ブルーだけが冷静にその場の状況を受け止め、銀色の瞳でスザクを見つめ返した。
「多分、クリスが考えているようなことではないわね。
クリスこそ、こんな所で何をしているの?
レッドみたいに、ただの好奇心だけでこんな遠くまで旅をする子ではなかったでしょう?」
ルビーはもう一度驚く。
口元に笑いを浮かべているブルーとひたすら睨みつけるスザク、まるで、家出した妹を迎えにきた姉のよう。
大学生ほどの女は、今度は銀色の瞳をスザクが後ろに隠しているルビーへと向ける。
「クリス、後ろの子は?」
自分のことを差されたのだと気付き、ルビーは少し体を震わせてスザクと一緒になってブルーを睨み付けた。
スザクもスザクで全く答える気もないらしく、相変わらずの表情のままハマグリのように口を固く閉じる。
それを見て軽く肩をすくめると、ブルーはゆっくりと前進してスザクの後ろに隠れるルビーのひたいを軽く指でつついた。
「What’s your name? 紅眼のあなた、お名前は?」
「・・・ルビー。 なに、『コウガン』って・・・」
「ルビーね、その赤い瞳のことよ。 ポケモンの攻撃力、特殊攻撃力を上昇させる力を秘めているの。
特にトラブルに巻き込まれやすいタイプだけど、心配することはないわ。
ポケモンリーグ優勝者のレッド、知っているでしょう? レッドもあなたと同じ紅眼の持ち主だから。」
なだめるように言われた言葉に ルビーとスザクの瞳が同時に大きくなる。
どの言葉かはルビーには判らないが、何かがカンに触ったらしくスザクはブルーの肩を突き放した。
「一緒にしないでよ、ルビーはレッドなんかじゃない!!」
「やっぱり知り合いだったのね。」
あっと小さく声をあげ、スザクは口に手を当てた。 口だけなら、恐らくブルーの方が上手(うわて)。
どうしてそこまでスザクが突っかかるのかも判らずルビーがただ眉を潜めていると、ブルーは彼女へと向けてやさしい笑い方をする。
「『紅眼』が同じと言っただけよ。 ルビーがレッドだと言ったわけじゃないわ。
・・・本当に、まだ怒っているのね。」
「当たり前よ、結局あいつの誕生日1度も祝えてないんだから!! 今年だってそうよ・・・あたしは、喜べない・・・!!」
「『ああする』しかなかったのよ、将来のことを考えたら。」
「そんなのゴールドが決めることでしょ!?」
予想もしなかったほど大きな声に、ルビーはビクッと体をすくませた。
純粋に黒い瞳の端から、水晶の欠片(かけら)のような小さな粒がポロポロと流れ出している。
止めようかどうしようかずいぶんとルビーは考え込むが、どうしてもこの必死になっている少女を止めることができない。
「辛いこと・・・あるわよ、いっぱい。
忘れようと思ったことだって、いっそどこかへ消えちゃおうかと思ったことだってあったわよ!
でもね、その辛いこともひっくるめた上に『あたしたち』は立ってるの!!
思い出して泣いたっていいじゃない! 震えてたっていいじゃない!
端から見て可哀想だからって簡単に大切なもの、消さないでよッ!!」
「ス、スザク、スザク! みんな見てる・・・!!」
いよいよ周りの視線が強くなり、ルビーはスザクの着ている黒いシャツのすそを引っ張った。
我に返ったのかスザクは辺りの人たちを見まわすと、頬(ほお)を伝う涙を手の甲で拭い、もう1度ブルーを睨んでショップの出口へと歩き出した。
後2歩と差しかかったとき、ブルーが突然口を開いた。
「・・・先に言うけど、確かな情報ではないわ。
レッドもホウエン地方に来ていると、私は踏んでいるの。」
「・・・・・・そう。」
一言だけ言い残すと、スザクは今度こそインテリアショップを後にする。
走るようなスピードでつり橋を渡ると、スザクはエアームドで木の上から飛び降り 誰の目にもつかないような森の中へと降り立った。
ルビーはしっかりと赤い瞳でスザクが降り立った場所を確認すると、自分が降りられそうな場所を見付け、不安定な木の上をずるずると降りて後を追いかける。
とても人間の歩けるような道ではない場所を、ワカシャモに拓かせて(ひらかせて)スザクのもとへと到達する。
彼女はコケのたっぷりとついた大石の上でひざを抱え、ポロポロと水晶の欠片をこぼしていた。
「スザクッ!!」
「ルビー・・・・・・ゴメン、ゴメンね。」
「何が? 泣いたっていいっつったのは他でもないあんたじゃないかい。」
訳がわからず首をかしげるルビーに、スザクは細かく首を横に振る。
顔を覗き込もうと近づいて来た彼女を両腕で抱きしめると、顔を伝う涙を 服の袖でふき取る。 それで止まるものでもないが。
抱かれたルビーが気付いたのは、真っ黒なシャツを見ただけでは判らないしっかりと鍛え上げられたスザクの身体。
並の鍛え方ではここまで筋肉はつかない、それこそ死ぬほどの思いをしてトレーニングにはげまなければ。
「違うの・・・辛いこと、いっぱいあるよ・・・・・・だけど、あたし・・・そんなに強くない・・・」
「・・・・・・ふぬっ!!」
やや乱暴に突き出されたサファイアの右手を 茶髪の女の子は手首で軽く起動修正して自分にぶつからないよう誘導する。
軽くいなされた右手を引き戻すと、サファイアは頭の上のクウをちょんちょんとつついて飛ばした。
ふわふわと飛びあがった水色の鳥ポケモンは、そのまま目の前の女の子の頭にちょこんと乗っかるとその場でくつろぎだす。
「あったかいね」
頭の上のクウをポンポンとさわると、金色の瞳の女の子はニコニコ笑いながらサファイアを見る。
そして、そのままくるりと後ろを向くと、トコトコとロビーの方向へと歩き出した。
クウを勝手に連れていかれてもたまらない、サファイアは2、3度転びながら彼女の後を追いかける。
カナ、そして新入りのソーナノ、ランがその後に続く。 実はこのランが何度も『かげふみ』で小さく動きをとめるせいでサファイアが転び続けているのだが。
「どこ行くんや?」
「いいからいいから!」
ポケモンセンターを抜けて外へと出ると、茶髪の少女はニコニコと笑いながら森の中へサファイアを誘導する。
深い森は人が通れるかどうか怪しいような草の茂りようだが、その中の隙間をうまく見つけてスピードを変えず、2人と数匹は歩き続けた。
ひたいの高さほどまで生い茂っているツタを茶髪の少女が左右に分けると、急に2人(と数匹)はひらけた場所へと出た。
きれいに草が丸く切り取られ、まるでちょっとした・・・バトルフィールドのような。
「急にえらい広ぅなったな・・・いきなりこないなとこ連れてこられても、ワシらジム行かへんとしゃあないしなぁ・・・
なぁ? ‘カナ’・・・・・・」
サファイアは表情を突然凍り付かせると、驚いたように上を見上げた。
おぼつかない足取りで後をついてきたランを抱え、短く切りそろえられた草を蹴ってその場を脱出する。
「‘クウ’ッ、逃げッ!!」
警告間に合わず、ちゃっかり逃げて少女の頭の上から振り落とされたクウは上から降ってきた緑色の物体に貫かれる。
ダメージはたいしたことなかったらしく、地面に打ち付けられた直後すぐに飛び上がるが、一同を驚かせるだけなら充分な行動だ。
草の上で頭から伸びた長い葉を揺らして自分のことを睨むポケモンを見て、サファイアははっと息を呑む。
「『ジュプトル』やっ!!
こんな森ん中じゃまともに戦えん、全員距離取って戦い!!」
叫ぶ間にも四肢(しし)に葉のようなものをつけたポケモン、ジュプトルは高く飛び上がってサファイアの方へと接近する。
ラグラージのカナが間に入って攻撃を受け止めるが、その腕にオレンジ色の小さな傷がついた。
そのオレンジ色にサファイアが目を見開かせている間にカナは太い腕でしっかり掴んだジュプトルを丸く草の切られたバトルフィールドの反対側へと投げ飛ばす。
「ペンキ・・・?」
右のポケットを叩き、ポケモン図鑑を取り出しながらサファイアは飛び上がるクウの背中を見る。
彼女の背中にもカナ同様、オレンジ色の何かがこびりついている、遠過ぎてそれが『何か』は はっきりしないがくっきりと攻撃の痕として。
「‘カナ’、ジュプトルはキモリの進化系なんや。
『タイプ相性』っちゅうの? 最悪や、せやけど・・・・・・」
サファイアは腰を落として起き上がったジュプトルを睨み付ける。
頭のヒレをピクピクと動かし、フーッと荒く息を吐くカナに 落ち付くよう背中を軽くさすって。
「・・・『やる』で。」
ふと緩い(ゆるい)風が吹いたかと思った瞬間、ジュプトルはその発達した太ももを使い、
目にも止まらぬスピードでサファイアとカナへと向かって飛び込んできた。
突っ込んでくるジュプトルに神経を集中させ、『まもる』という技を使って繰り出された葉っぱの剣をカナは受け止める。
完全に防御が成功しサファイアのポケモンに傷がつくようなことはないが、相手のダメージもなければつかまえたわけでもない。
ジュプトルは一旦距離を置くと、再度両腕についた葉を研ぎ澄まし『リーフブレード』を打つために2人へと突っ込んで来た。
「もっぺん『まもる』んや、‘カナ’!!」
大きな太い前足を使い、カナはもう1度突進してきたジュプトルを受け止める。
攻撃を成功させようとあせるのか、数秒もかからないが2匹は押し合い、睨み合う。
「グァウゥッ!!」
「わことるっ、『まもる』んも2回が限界や!! もー手ぇは打ってあるわ!!」
いつにも増して奇怪なジョウト弁でサファイアが叫んだとき、突如ジュプトルがぐらりと揺れ、沈んだ。
驚いて辺りを見回すジュプトルに対し、にやりと笑ってサファイアは腰に手を当てちょいちょいっと どこともつかない方向を指差す。
「眠いんやろな、寝てもうたってええんやで?」
ジュプトルは気がついたようにカナを突き飛ばして自分の真上を睨んだ。
よく育った高い木の上で水色の鳥が気持ちよさそうに歌っている。 相手を眠らせる『うたう』というれっきとした技だ。
自分と戦っているカナは『まもる』を使っているために眠らされることはない、そのからくりに気付いたジュプトルは
自慢の足で太く高い木の上へと飛び上がり、歌い続けるクウに攻撃しようと腕についた葉を振り上げた。
「‘クウ’ッ、降りて来いや!!」
サファイアの合図と共に、クウは鉄棒を降りるときのようにくるりと後ろに回転し、逆さ向きになって頭から墜落する。
靴のかかと同士を打ち鳴らし、サファイアはいつ転ぶか判らないようなスピードでランニングシューズを走らせ落ちて来たクウを受け止めた。
直後にバランスを崩し、派手に転んでごろごろと転がっていくのだが
その程度でサファイアはめげない。 起き上がって青い瞳をしっかりと見開くとまったく何もない方向を指差し、息を大きく吸い込んだ。
「2号ッ、『いあいぎり』や!!」
高いくさむらが突然ガサッと音を立てて動き、その場所をヌケニンの2号が鋭い爪で横一文字に切り裂く。
それまで2メートル先も見えなかったような場所は一瞬にして視界がひらけ、その下に赤い服を着た誰かがいることが判った。
潜んでいた人間は顔を見せないようにサファイアとは逆方向を向くと、もはや音を潜めることもなく走り出す。
「逃がさんわっ、‘チャチャ’ッ!!」
「!?」
F1カーのような音を出し、姿も見えないほど高速の物体が逃げる人間の横を追い越し、目の前で急停止する。
途端、先ほどまでの身軽さが嘘かのように逃げ出した人間は前のめりにつんのめって転倒した。
赤い服を着た人間が足元を見ると、ソーナノのランが潜んでいた人物の影の上で足をしっかりと踏みしめている。
「効くやろ〜、‘ラン’の特性『かげふみ』は。 ‘カナ’と‘クウ’で時間稼ぎまくって、‘カナ’のレーダーで場所探し。
2号が『いあいぎり』で場所さらけだして、‘チャチャ’が‘ラン’を乗せて逃げ道ふさいだんや。
あんたが言うたとおり、技の1個1個、ポケモン1匹ずつの特徴よぉ〜く調べて作戦立てたで、ワカバタウンの・・・ゴールド!」
一瞬驚いたように目を見開かせると、ランに影を踏まれた人間は体勢を立て直してゆっくりとサファイアの方へと向き直る。
少しだけうつむくようにすると、赤い服の人間は金色に輝く2つの瞳をサファイアへと向ける。
「あんたが『ゴールド』・・・なんやな?」
「・・・・・・そうだよ。」
サファイアはギョッとする。 コハクの甲高い声ではない。
照れたようにうつむいたゴールドは口をパクパクさせているサファイアを見るとチクチクしそうな草の上に座り直した。
「どこから話そうか・・・それとも、サファイアが先に話す?」
おろおろとパニックを起こすサファイアを見て、困ったような顔をしてゴールドはちょっと首をかしげる。
「あぁ、声・・・変わっちゃったみたいなんだ。 ビックリしたよ僕も・・・
何とか高い声出そうとか、変声機作ってもらおうとか、結構思考錯誤したんだけど上手くいかなくて、
それで気まずくってさぁ・・・シルバーと直接会ったのも昨日のことなんだよね。」
「せやったら、今朝シルバーが言っとった『協力者』ちゅうんは・・・」
「うん、僕。」
倒れた時についたひざの泥を払いながらあっけらかんとゴールドは答える。
足が動かないまでも立ち上がることは出来るらしく、立ちあがってひざを伸ばすとシルバーと同い年というのがうなずけるくらい、それなりに身長がある。
その姿形に見覚えがあるように思っていたら、エントツ山の山頂で警察を軽々と突破して行ったあのトレーナーだということを思い出す。
「何かサファイア口滑らせそうだから『どこ』とは言わないけど、一応医療学校の実習生の中に紛れ込んでるからさ。
マズイことあったら、ポケモンセンターの広告ボードに張っとけばすぐ気付くよ。」
「な〜に言っとるんや? さっきワシにボッコボコにされたんを忘れたんか?」
「・・・あのさぁ、」
サファイアは頭からジュプトルにかぶりつかれる。 手加減しているからまったくの無傷ではあるが、何だか精神的にキツイものがある。
ベルトの右からぶらさがったチェーンについている4つのモンスターボールを手で叩き、ゴールドは金色の瞳をちょっと見開かせた。
「そっちこそ忘れてないかな、K(ケー)・・・じゃなくて、‘きぎ’もノーダメージだし、こっちにはまだポケモンたくさん残ってるよ?
本格的にバトルするなら、ま〜だま〜だこっちの方が上だと思うな〜っと。」
「何やてぇっ、やるっちゅうんか!?」
まぁまぁまぁ・・・と ゴールドは突っかかってくるサファイアをなだめる。
余談だがジュプトルに頭をかじられた人間にすごまれても何の迫力もない。
『きぎ』と呼んだジュプトルをモンスターボールへ戻るよう指示すると、ゴールドはそれをホルダーへと取り付けながらサファイアへと金色の瞳を向けた。
「サファイアはジム戦あるから、ここで体力使うわけにもいかないんじゃないの?
そう思って攻撃が強く当たらないように『ズリのみ』の汁で手足に色つけて位置確認してたから、
ちょっと回復すればすぐに戦えると思うんだけど・・・」
「・・・・・・・・・せやっ、ジム戦午後からやっ!!
もう昼やないかっ! ダッシュで飯食ってジム行かな・・・・・・!!」
「ちょっと!? ポケモンセンター逆方向!!」
森の奥へと走り出そうとしたサファイアを引き止めようと思わず伸ばした手が頭の毛をがっしりと掴んでしまい、『ぎゃーっ』と叫び声が上がる。
鍛えてどうこうなる部分ではない場所の痛みにぴぃぴぃと悲鳴をあげるサファイアにおろおろ。
たぁ〜っぷりと時間をかけて泣き止むまで待ち、涙ふきふきサファイアが立ち上がるとポンッと背中を叩かれた。
青い瞳が動くと、真上をジュプトルが飛び上がり金色の瞳が太陽のように力強く笑う。
「行ってこいっ! ‘きぎ’が道案内するから!」
「おうっ!!」
左手をしっかりと握り締めると、サファイアは右腕でランを抱えてジュプトルの後を追いかけ出した。
1度ポケモンセンターへ、ポケモンの回復と昼食を終えたら、次はヒワマキシティジムへ。
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