【ポケモンギア・携帯電話】
単語は違うが、物体としては同じもの。
2つの大手会社が技術を競っており、ラジオ、メール、カメラなど、
様々な機能のついたものが発売されている。
余談だが、有名人と同じ型の物が人気がある。
PAGE78.蒼い街
ルビーは上目づかいの睨むような視線を、目の前にいる男衆へと向けていた。
畳の上に布団が敷かれたシンプルな和室の中に、金色の瞳の青年が1人、銀色の瞳の青年が1人、青色の瞳が1人、それにルビー。
彼女の観点から見ると、はっきり言って、変だ。
それに、何でよそ様の大学の修学旅行の部屋に潜り込んでまで自分はポケモンバトルの講習を受けているのだろう。
「ルビー、そんなに顔こわばらせなくても大丈夫だよ。
別に取って食ったりしないし、そこのシルバー彼女持ちだから何かあっても止めてくれるって。」
「何かって何やねん?」
サファイアにタイプ別の相性表を書かせながら、ゴールドはルビーへと向かって何事もなかったかのように話しかける。
彼がコハクだった頃からしてみると まるで別人とでも言いたくなるような低い声(それでも普通の青年並みだが)に高い背。
1番騒ぐ人間が勉強のため静かにしているので、2人部屋(男女共に奇数だったので
それぞれ男女1人ずつが2人部屋を1部屋ずつ割り当てられているらしい)は静かとしか言いようがなかった。
部屋の隅で雑誌を読むシルバーを見て、ノートに必死になって○×を書き込んでいるサファイアを見て、それを見守る男を睨み付けるとルビーは口を開く。
「あんたが『ゴールド』? 第4回ポケモンリーグ優勝者の。」
「びっくりした?」
布団の上で体を回転させると、赤いパーカーの青年は金色の瞳でいたずらっぽい笑みを向ける。
正直、彼が部屋に来た時に驚いてはいたが驚かなかったことにして、ルビーは目の前の男の首元へと視線を移した。
言いたいことが多すぎてまとまらない。 2〜3分ほど考えた末、まずは自分の用事じゃないところから口に出すことにした。
「スザク・・・同じ優勝者のクリスタルさ、探してたよ。」
「だろうね。」
「つぅか、酷い淋しそうだった。」
もう1度「だろうね」とだけ言うと、ゴールドはうつむいた。
酷く沈んだ空気の中、口元に手を当てて何かを考えるようにすると、彼は部屋の隅の自分の友人へと視線を移す。
神妙な面持ちで足元にある手に力を込めると、何か呪文でもつぶやくような口調で彼は赤い髪の青年へと話しかけた。
「・・・もし見つかったら、半殺しで済むかな・・・」
ドサッ!
妙に間の抜けた音を立て、シルバーは持っていた雑誌を取り落とした。
話に参加せずノートにペンを滑らせていたサファイアもその音に振り向く。
シルバーは落としたそれを拾おうとせず、珍しく頭などを抱えると聞こえるか聞こえないかというほど小さな悲痛な声を上げた。
「・・・・・・考えないようにしてたのに・・・!」
「覚悟はしてるけどさ。」
おくりびやまが明るく見えるほど2人の間の空気が沈み、吐き出されたため息が生温かい木枯らしを作る。
2人の顔を見比べてから、ルビーはつられたようにため息を1つついた。
「素直に謝って手伝ってもらやーいいのに・・・」
「それはダメ。」
「却下。」
「無理やろ。」
サファイアにまで否定され、ルビーは眉を潜める。
さすがに驚いたのか目を丸くしながら自分のことを見るゴールドとシルバーを見てサファイアは「なんや」と声を上げた。
ノートの上の消しゴムかすを叩いて退散させると、バサバサと音を立てながらノートを開き直しゴールドに渡す。
布団の上であぐらをかくとサファイアは不満そうに自分(たち)を睨むルビーへと体を向けた。
「命がけの危ない仕事(こと)や言うてたから。」
「なおさらじゃないかい、リーグ優勝者のクリスタルっつえば最強のトレーナーとも言われてんだよ?」
ルビーの言うことを否定せず、サファイアは顔を上げて彼女の顔を青い瞳に映す。
何か言いたそうに口を少しだけ開き、それを止めてから不思議とゴールドに似た笑いを見せると
そのゴールドへとサファイアは顔を向け、深く追求されないうちに話題を変えた。
「せやゴールド、この街来る前ミックス君に会ってな、警告があるっちゅうねん。」
「僕に? ミツル君が? 121番(道路)で??」
疑問符を3つくらい浮かべながら聞き返してきたゴールドへ「おぅ」と返事をするとサファイアは続きを口にする。
「なんや一緒におった喋る(しゃべる)ポケモンが言うたんやけど、その金色の眼『紅眼』と『緑眼』が重なっとるもんなんやて。
ほいでな、その力使うと『カイオーガ』とか・・・あと何て言うたかな・・・『グラードン』が目覚めてまうらしいんや。
せやから能力をアクマグ団に悪用されんよう、気ぃつけやって、みっちゃ君が言うとった。」
「・・・ちょっと待って・・・・・・ポケモンが喋った(しゃべった)?」
納得したような顔をしかけた直後、ゴールドは右手を差し出してサファイアを止める。
もう1度おぉ、と声を上げると、サファイアはカバンの中からポケモン図鑑を取り出し、ページを目いっぱいめくってからゴールドへと差し出した。
表示された1番最後のページには接触した印として『ジラーチ』という名前と星のような姿が表示されている。
受け取った図鑑の画面を食い入るように見つめた後、ゴールドは難しそうな顔をして額に手を当てるとあちゃあ、と声を上げた。
「ジラーチか・・・ミツル君目覚めさせちゃったんだ・・・・・・
・・・うん、図鑑ありがと。 それで、どうして『神眼』でグラードンとカイオーガが目覚めるのか、とかミツル君たち言ってた?」
「自分の『神眼』のことは知ってんねんな。」
「この間シルバーから聞いたし、ルビーの能力見た時から薄々そうなんじゃないかって思ってたからね。
・・・・・・で、聞いた?」
少し考えるようにすると、サファイアはうなずいてからミツルたちに聞いたことを頭の中でリピート再生させる。
『オーバーヒート』で頭から湯気を出し始めたサファイアに気付くと、シルバーが軽く腰を上げ素手でサファイアの額を軽く叩いた。
ほんの少しだけ眉を潜めると、肩を支えようとしたゴールドをさえぎって布団の上に座り直す。
窓際でうずくまっているルビーをちょいちょいと呼ぶと、シルバーは銀色の瞳を3人へと向けサファイアの代わりに話し出した。
すぐに本題に入るのかと思いきや、彼の口から出たのはちょっと違う言葉。
「ルビー、サファイア、ゴールド、『神眼』の能力は判るか?」
「は?」
「はぇ?」
「あ、うん、一応・・・ポケモンの能力を上げるんだろ?」
自信満々で言ったゴールドの答えをシルバーは首を振って否定する。
「それもあるが、『神眼』の能力者は瞳の色の違いで全く別の能力を持っていると聞いたことがある。
『蒼眼』は名を呼んだポケモンと同じものを見ることができ、
『緑眼』は心を許したポケモンに自分の体を使役(しえき)させる、
そして、『紅眼』は名を知っているポケモンを・・・例え自分のポケモンでなくても操ることが出来る。」
うつむいて手に力を込めたゴールドを見て、シルバーは彼の頭を軽く叩く。
その手をゴールドが軽く握った瞬間、彼は軽く驚いたような顔をしたが ほとんど構わず先を続けた。
「まぁ、聞いて判ったかもしれないがどこにいるかも判らないグラードンとカイオーガを『紅眼』なら1発で呼び覚ますことが出来るわけだ。
だが『紅眼』に限らず、例えば『緑眼』なら能力者越しに起こすことも可能だし、『蒼眼』を使えばどこにいるのか特定しやすくなる。
だから『神眼』・・・とりわけ『紅眼』の能力者のルビーとゴールドは悪用されないよう注意しろってことだ。」
驚くサファイアをよそに、ルビーとゴールドは力強くうなずく。
1通り話が終了し、再び訪れた水を打ったような静寂を消したのは気まずくなったサファイアだった。
「・・・・・・なぁ、なして今日に・・・それもこんな夜んなってワシらのこと呼んだんや?
ワシもルビーもずっと探してたねんで?」
大きな金色の瞳をサファイアへと向けると、ゴールドはまだ少し離れた場所にいるルビーを引き寄せながら答える。
肩の打撲を気にするような仕草を見せたがずいぶん時間が経ったこともあり、もうそれほど痛んではいない。
わざと右手でゴールドの膝(ひざ)を押さえて移動すると、ルビーは彼の隣に座る。
「ホントは黙って行こうかとも思ったけど、何だか顔見たくなってさ。
明日、ジョウト行きの船が出るんだよ。 そうしたらもう当分、ルビーとサファイアには会えなくなるから。」
「ゴールド・・・」
「・・・っていうのは嘘で。」
え? と首をかしげた2人(もちろんルビーとサファイアのこと)をよそに、金の瞳の男は世間話でもするかのような口調で先を続ける。
「あ、当分会えなくなるっていうのは本当だから、その前に教えたこと覚えてるのかちゃんと確認しておこうと思ったんだ。
僕のポケギアシルバーが持ってるから、連絡もつけにくくなるだろうし。」
「返すよ、壊れちまってるけど。」
微妙に不機嫌そうな声を出したシルバーへと向け、ゴールドは軽く人差し指を突き出す。
怒っているのか笑っているのか、判断のつけにくい表情で。
「シルバーと連絡つかなくなる方が大変なんだよ、壊れてんなら機種変えていいからさ。
話戻すけど、明日あの集団から抜け出してホウエンに留まるつもりなんだ。
だけど、どうしてもやることがあって少しの間2人の近くにはいられないだろうから・・・」
「子供扱いしないどくれよ。」
よく通るルビーの声に、他の3人の視線が注がれる。
隣に座るゴールドを赤い瞳で睨むようにすると、ルビーは形の整った口から、プクリンとも張り合えるような綺麗な声を出し、続けた。
「いつまでも守られてるような年齢(とし)じゃないよ、自分の身くらい自分で守れる。」
「本当に?」
「信用出来ないっての?」
首を横に振ると、ゴールドは2つの手でルビーとサファイアの頭をくしゃくしゃっとなでる。
ルビーの右耳のピアスに軽く触れると、一瞬悲しそうな顔をしてからゴールドは笑った。
その笑みを他のものに表現するとすれば、太陽のような、というのが1番近い。
「信用してるよ、心配したいだけ。
僕、ホウエンに来てよかったと思う。 こんなに素敵な・・・友達ができた。」
つられて笑い返したくなるような笑顔だというのに、ゴールド以外の3人は不安な顔を悟られないように必死になった。
明日にも消えてしまいそうだなんて言ったら本当になってしまいそうで、誰も言い出せない。
水平線の向こうから白い光が差し込むと ミツルはうっすらとまぶたを開き緑色の瞳を見せた。
ミツルが眠るために背中を貸してくれたペリッパーの『みむ』の翼がぼんやりと見え、
少し視線を前に動かすと 見張りに立っていたナゾノクサの『りる』が海岸の砂に埋まって眠っている。
「眠む・・・」
上体を起こすと目をこすり、暖を取るためにひざの上に寝かせていたロコンの『ろわ』の背中を自分のブラシでかるくすく。
透明な空が段々と明るくなって行くのをボーっと見ていたが、白い光の大元が顔を覗かせた瞬間、半分眠っていた意識が覚醒し、急に今日のことなど考えだした。
背中の方で眠っていた相棒を起こそうかどうか考えていたとき、急にポケットの中の図鑑が鳴り出し、ミツルはビクッと体を震わせた。
慌ててポケットから図鑑を取り出し蓋を開くが、時既に遅し、ミツルの周りで眠っていたポケモンたち全てが目を覚ましている。
表紙にモンスターボールを模した 縦横2つに分かれる蓋を取り付けられた図鑑は彼らの気も知らず、
薄暗い中でも見えるほどにはっきりと液晶に文字を映し出した。
『いま どこに いるの?』
「・・・ミ、ナ、モ、シティです、と。」
遅いながらも慣れてきた手つきでミツルはポケモン図鑑に文字を打ち込んでいく。
ちょうど全部打ち終わった時、唯一『ぼうおん』して眠りを保っていたゴニョニョの『ぺぽ』も目を覚まし、誰からともなくミツルたちは立ち上がった。
海岸に設置された無料シャワーで身なりを整え、まだちょっとぼんやりしている頭で朝食をどこで食べようか考えていると、
朝もやの向こうから人影が見え、思わず彼らは気配を押し殺した。
ゆらりゆらりと揺れるそれは本当にゆっくりと近づいてくる。
それが人間の女だと判るほど近づいてくると、ミツルはハッと気付いたように警戒を解いて走り出した。
彼が到着するよりも前に 背中を覆い隠すほど長い髪の女は力尽きたように膝から砂浜の上へと崩れ込む、明らかに普通の状態ではない。
「あのっ、大丈夫ですか!? どうしたんですか!?」
「・・・大丈夫だから・・・・・・私に構わないで・・・」
細い腕で自分のことを押しのけた女の人の顔を見て、ミツルは少し体をこわばらせた。
長い茶髪に時々隠される外人系の面立ちは、1つ1つのパーツの良さもさることながら気高い空気をまとわせ、掛け値なしに美しいと言い切れる。
だが彼女は苦痛に顔をゆがめ、赤く染まった服を抱え歩いているのだ。 綺麗だ何だとのん気に騒いでいられる状況などではない。
「はい、あの、大丈夫じゃなさそうなので声かけたんです。 あの・・・ポケモンセンターですか?」
小さく「そうよ」とだけ言うと、女の人は再び傷ついた体を抱え歩き出す。
前を通り過ぎるのにも30秒近くかかる彼女を緑色の目で見ると、ミツルはスポーツバッグの中のメモ用紙にペンで何か走り書きしてぺぽに持たせる。
ポケモンセンターへと向けそのゴニョニョを走らせ、自分は小走りに女の人の前へと行って立ちふさがる。
攻撃的な視線を向けた彼女に近づき、そっと顔をのぞき込むとミツルはあいに目で『ねんりき』で彼女の負荷を軽減させるよう指示を出した。
スポーツバッグをみむに持たせ、りるの『しびれごな』で傷の痛みをやわらげて、
ゆえに行き先を教えてもらいながらミツルは彼女に肩を貸してゆっくりとポケモンセンターへと向かう。
「ごちそーさまでした!」
「ごっそーさんでした!」
膳に向かって手を合わせると、ルビーとサファイアはそろって声を上げた。
2つの食器トレイを重ね、その上に食べ終わった後の食器を置くとサファイアが1人でそれをカウンターへ運んで行く。
ルビーの肩のケガのこともあり、今日は特に何もせず街を探検する予定。
荷物を取りに行こうとセンターの食堂を1歩出たとき、2人はほぼ同時に足を止めた。 目の前に見覚えのある人が、3人。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
負傷した女の人を肩に乗せながら、ミツルは目の前のグリーンを気まずそうな顔でじっと見つめる。
幸い向こうも驚いて固まっているため、すぐに捕まることもなさそうだが 我に帰って掴みかかられでもしたら終わりである。
そろぉ〜っと女の人をその場に降ろそうとしたとき、ポケットの中にしまってあった図鑑がまたしてもピピピッと電子音を奏で出す。
「あ、あのっ、すぐにお医者さん来ると思いますので・・・失礼しますっ!!」
すぐに音は止むがのん気に驚いた2人の顔を見比べている場合ではない、女の人を離すとミツルは後ろ向きに歩き、逃げ出した。
ようやく気付いたグリーンはそれを追いかけようとするが、腹から血をにじませている女の人に止められる。
「・・・グリーン、止めなさい。」
「何でだよ!? あのガキ勝手に町飛び出して旅してるんだぞ?
大体お前も、何だってそんな大怪我してんだ、ブルー!」
崩れ込む長髪の女を抱えながらグリーンは怒鳴りかけるようにして彼女へと話し掛ける。
ブルーと呼ばれた女は赤い手で抱きかかえる男の服をつかむと、彼へと顔を向け芯の通った銀色の瞳を向けた。
「POK’E DEX TYPE−HANDY808・・・」
「は?」
「鳴ったのよ、今あの少年のポケットの中で、オーキド博士がゴールドたちに渡したのと全く同じタイプの図鑑が!
ゴールドたちが図鑑を手放したのだとしたら、このホウエンで起きている一連の事件、ただ事ではないわ。
ポケモン図鑑がコールしたのなら誰かが見守っているのでしょうし、しばらく様子を見た方が・・・」
「判った判った、今回は見逃してやるよ。 それよりそのケガ、一体どうしたんだ。」
「『おくりびやま』でマグマ団と1戦やったのよ・・・・・・油断したわ。」
顔をしかめるとブルーはやって来た医師につかまり、センターの奥へと歩き出す。
ルビーとサファイアが隠れているのにも気付かないほど驚いた様子で グリーンは行く手をさえぎるかのように彼女の前へと進むとかなり大きな声を上げた。
「冗談だろ? お前ほどのトレーナーがそうホイホイやられるかよ!?」
「だから油断したのよ、自分の力を過信してたのね。」
信じられないといった表情をしたグリーンの脇を通り抜けると、ブルーは今度こそ処置室へと向かった。
途中で1回だけ立ち止まると、たった1言、付け加える。
「・・・・・・レッドに助けられたわ。」
物陰に隠れるとミツルはひぃひぃと声を上げた。
ポケモンをぞろぞろと引き連れているから目立って仕方ない、そう思いひとまず『あい』以外のポケモンたちを全てボールへと戻し、バッグの中へとしまう。
今ごろ目を覚ましたジラーチが少し開いたチャックの間から顔を覗かせ、首をかしげた。
『ミツル、赤い箱(ポケモン図鑑のこと)の者が何か申しているのではありませんか?』
「あ、そうでした!」
さらに奥へと引っ込むと、ミツルはポケットから図鑑を引っ張り出しフタを開く。
いつもの通り画面に表示された文字を見ると、ミツルは首をかしげた。
『あさごはんを たべたら
11ばん ふとうに いって ごらん』
いつもと同じ、だけどいつもと少し違う。 今までこんなにはっきり場所を指定したことなどなかったのに。
少しだけ眉を潜めるとミツルはグリーンが追ってきていないことを確認して出来るだけ自然に街の中へと歩き出した。
早い時間から営業している店で久しぶりに新鮮な野菜を使った朝食を取り、指定された『11番埠頭(ふとう)』の場所を聞く。
小走りに進みながら、ミツルはレストランの店員に教えてもらった通り海を目指してひたすら歩いた。
海から、もしくは空から見たら『のれん』か何かのように見えるのだろうか、パッと見で全体を把握できないほど大きな港へと辿り着くと、
ミツルは高く空へと向かって伸びをしてから、ポケモン図鑑の主に教えられた11番埠頭を探し、再びゆっくりと歩き出す。
1番埠頭から順々に歩いていくと、9番の数字が書いてある辺りでミツルは立ち止まった。
まず無駄だとわかっていつつカバンの奥にジラーチを押し込めて、警戒した視線を送る先にいるのは 真っ黒な服装の女の人。
町を脱走した少年が来たことに気付くと、黒尽くめの女は彼へと向け笑い、あくまでゆっくりとした足取りで近づいて来た。
「お待ちしていましたよ。」
「・・・確か、医師のレインさん・・・でしたよね。 どうして、ここに?」
ぴったりと閉じられたマントを更に握り込むと、レインはミツルに背を向け11番埠頭へと歩き出した。
どっちみち方向が同じなら例え罠(わな)でも行くしかないだろう、と ミツルは覚悟を決め彼女の後をゆっくりと歩く。
黒尽くめの女は11の文字の書かれた真ん中に立つとミツルの方へと振り向き、道を空けるように2、3歩後退した。
驚くやら拍子抜けするやらでポカンと口を開いている彼へと向かって、レインはにっこりと微笑む。
「10時半にはジョウトへと向けて船が出発します。
それまでに出来るだけ遠くへ行かなくては、私たちの誰かに見つかってしまいますよ。」
小さく声を上げて、ミツルは埠頭の先に緑色の瞳を向ける。
そこには小さいながらもしっかりとした造りの船があり、弱めに結わかれたロープがミツルを待っているようにすら見える。
警戒しながらもそっと近づくと、動かし方の説明書まである始末。
毒見とばかりにあいが先に乗り込んで見せると、大きさの割には軽いのか、船はゆらゆらと揺れた。
すなわち、緊急時にはみむに引いてもらうことも出来るというわけだ。
「あの・・・これは・・・・・・? レインさんは一体・・・?」
「いいから行きなさい、誰にも見つからないうちに。
それとも、こんなところで私に捕まってシダケへと帰りますか?」
「それは・・・嫌です!」
「・・・幸運を。」
ボラード(船を止めるためにある鉄のくい)からロープを外すと、レインはミツルたちの乗った船を軽く押し出した。
おっかなびっくりミツルがエンジンをかけると、他のモーターボートとは比較にならないほど遅く船は走り出す。
波止場で彼を見送るレインへと手を振ると、そのまま沖を目指してミツルたちは船を走らせた。
はるか南にある、小さな島を見据えて。
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