【ポケモンリーグ、予選】
毎年何万というトレーナーが集うポケモンリーグだが、その祭典で戦うには2通りの方法がある。
1つは、事前応募により抽選にて予選リーグへの出場権を得ること。
まれにその年内に偉大な功績を残すようなことをしたトレーナーには
無条件でこの予選に進む権利が与えられることもある。
もう1つは、各地のジムを巡り、リーダーを倒した証拠であるジムバッジを8つ集める方法。
エキシビジョンとしてエリートトレーナー『四天王』を全員倒すと、本戦へ直接進むことが出来る。
ただし、ジムリーダーの都合がつかなかったり強過ぎたりなどで、
この条件を満たしたトレーナーは数えるほどしかいない。


PAGE81.迷宮or罠?


固い靴の先で小突かれると、サファイアは寝返りでも打つかのように転がった。
2つの二重になったまぶたは閉じられ、軽く開かれた口からは規則正しい寝息のようなものしか聞こえてこない。
「オィ、いい加減起きやがれ。
 俺の腕に傷をつけたような奴がいつまでちんたら寝てやがるんだ。」
左腕に包帯の巻かれたアクア団の男はサファイアをもう1度軽く蹴飛ばすと、ふんと息を吐いて入口へと戻って行く。
入口で待っていた外国人らしい金髪のアクア団の女と合流すると、アクア団2人は何かを話しながら部屋の外へと歩き出した。
重々しい音と共に閉じられた扉から、鍵のしまる嫌な音が響く。





「あ〜、酷い目にあったわ・・・」
誰もいないのを確認すると、サファイアは起きあがって首をゴキゴキと鳴らした。
子供1人閉じ込めておくにはずいぶんと大きな部屋には、小さな機械音が鳴り続けて、何かの入ったダンボール箱があちこちに詰み上がっている。
何より1番変わっているのが、部屋の隅をどんっと陣取っている、海の匂いのするプール。
モンスターボールも荷物も取られてしまっているので、落ち付かなくて仕方ない。 ポケットを探って青い固まりを手に取ると、サファイアはボリボリと頭をかいた。
「とっさのことやったけど、落とさんでよかったわ。
 他の奴らも探したらんと機嫌損ねてまうさかい、早よ行こか、2号?」
軽く血のこびりついた面を指でこすると、サファイアはそれらをポケットの中へと再びしまい、閉められた扉へと駆け寄った。
一応、耳をそばだてて近くに誰もいないのを確認してから 何とか力ずくで開けられないか試してみる。
だが固く鍵のかけられた鉄扉はいくら力を込めて押そうが引こうが、ガタガタと音を鳴らすばかりで一向に動く気配はない。

引き戸かもしれないと回らないドアノブを横に引っ張ってみる。
どんでん返しかもしれないと扉の端っこをどんでん叩いてみる。
持ち上げたら何とかなるかと思ってやってみるが、当然そんな奇怪な扉がわざわざ取り付けられているわけもない。
8〜9回試して、サファイアはようやくこの扉からの脱出を諦めてその場に座り込んだ。
「アカンわ、うんともすんとも言わへん。
 ポケモンらもおらんとイクラ団と会ったらワシの眼のことばれてまうし、そうかと言うていつまでも寝たフリしとるわけにもいかんしのう・・・
 何とか脱出してカナたちと合流せんと・・・・・・」
何とか他の道はないものかとサファイアは部屋の中を見回してみる。
通風孔はサファイアすら通れそうもないほど狭く、おまけにファンがブンブンと回っているから×。
ダンボール箱の中に隠れてやり過ごそうかとも考えるが、ぎっちりと詰まっていた中身は海に浮かべるフロート。 これを隠さない限りはすぐに見つかってしまう。
「どないしょ、こんなでかいモン隠しとる時間ないで?
 見つかってもうたら終わるかもしれんし、せやけどもうすぐアクロ団見回ってくるし・・・」
もしルビーだったら、ゴールドだったら、何度も考え直しながらサファイアはダンボール箱を睨みつける。
そして、意を決したように手を握り締めると、片っ端からダンボールに張り付いているガムテープを引っぺがし始めた。


10分としないうちに、見回りらしきアクア団の男たちはやって来た。
鍵を開け、子供1人閉じ込めている倉庫へと入った途端2人組のアクア団は唖然とする。 部屋中のダンボール箱がひっくり返され、
中身のフロートやらブイやらがそこかしこに散らばっているのだ。
「・・・・・・ガキが。
 おぃプリム、入口見張っておけよ。」
「All right,all right,わかりマーシタ。
 ですがカゲツ、殺してはいけまセンよ〜? 捕まえたBoy, Championのこと知ってるの、明らかデース。」
「へっ、要するに捕まえて吐かせりゃいいんだろ? ノクタス『ニードルアーム』だ!!」
男が繰り出した緑色のポケモンが次々とダンボール箱を破壊していくのを感じ(なにしろ部屋の隅々まで振動が響く)、サファイアは青筋を立てた。
備品を大事にしようという気はないのか、巻き添いを食ったロープやら何やらが部屋の隅まで弾き飛ばされ、
そのうちのいくつかは 何故かあったプールの中へと転がり込む。
水面を跳ねた丸いブイを青い目(これは蒼眼ではなく血筋的なものだろう)で見ると、入口で見張っていた2人組のアクア団の女の方はピクッと眉を動かした。
寄りかかっていた壁から背を離し、肉食のポケモンが獲物を狙うような動きで部屋の隅へと向かうと水面をじっと見つめる。

「・・・泡?」
「・・・・・・っ!」
サファイアは慌てて口元を押さえる。 水の中に隠れていると気付かれたら何をされるのか想像がつかない。
ましてや相手はトレーナーで、少なくとも自分よりは実力がありそうで。
焦りつつも何とか身を縮めていると、サファイアは自分の体からも気泡が浮き出ていることに気がついた。
服の中に貯まっていた空気は隠しても隠し切れるものではない、そろそろ息も苦しくなってきてここまでかとサファイアが諦めかけたとき、
水底から大きな黒い固まりのようなものが浮き上がってきて、大きなまぁるい泡の固まりをサファイアへと吹きかけた。
驚くサファイアをよそに、黒い固まりはサファイアの横を通って水面まで浮かび上がり クオォ、と鳴き声を上げる。
フロートにまぎれてしまいそうなほど大きい上にやたらと丸いが、よくよく見れば(よく見なくても)ポケモンだ。
「Ahh sorry,ホエルコ部隊18デーシタか。」
「オィ、何やってんだ。 見張ってろつったろうが!」
「All right,all right,ちょっとお魚サンと話していたダケでーす。」
全く悪びれた様子もなく肩をちょっとだけ上げると、アクア団の女は男に見えないように後ろ手で何かを水の中に放り込んだ。
もう1度水面を見てクスリと笑うと、再び肉食ポケモンのような動きで入口まで戻り、アクア団の男とともに報告のために倉庫を後にする。
再び鍵の閉まる音が聞こえると、サファイアは水の上へと浮かび上がって息を思いきり吸い込んだ。
右手にあるアイテムボール(アクア団の女が落としたもの、沈み切らないうちにキャッチした)を見ると、1度息を整えようと深呼吸する。

「・・・・・・も、もうダメかと思うた・・・」
隠れるためにわざと浮かべていたフロートに片手をつけ、息が整うまで待つとサファイアは手に持ったネジを自分が捕まっているフロートに刺した。
排水溝から逃げようとネジを外していたところにアクア団の見回りに来たので、あらかじめ浮かべておいたフロートの下に隠れていたのだ。
潜るのは得意なつもりだったが、そうそう3分も4分も息を止めていられるわけもなく 限界へ差しかかっていた矢先。
出来るだけ体を楽にして1度回復を待ってから、サファイアはポケットから割れたモンスターボールを取り出し、
再び深いプールの中へと潜る事にした。
プールといっても、ずいぶんとあちこちに藻(も)が張り付いているし、しょっぱい味もするのだが。




「・・・・・・・・・・・・止まれ。」
低い声にうながされ、シルバーは先端に針のようなものを仕込んだ手を止めた。
元よりそのつもりではあったのだが。 この口から1つでも情報を引き出さない限りはわざわざこんな場所まで来た意味がなくなってしまう。
推定ではあるが、アクア団の本拠地なんて。
「思っていたより・・・ずいぶんと大胆なんだな。
 こぉんな むさっ苦しい場所まで一体何の用だ、学者クン?」
「ま、欲を言うなら組織の壊滅などを。」
あえて最初の目的とは全く違う言葉をシルバーは口にする。
相手の『カゲツ』は要注意人物とはいえアクア団内部では下っ端のようだし、正直に目的を話したところでかえってやりにくくなるだけだろう。

青色のダーツを左手でしっかりと握り込む(針は指の間から突き出している)と、背後で鍵を閉めるガチャン、という音がよく響き渡った。
近づいてくる2人目の足音はシルバーの真後ろで止まると、母親のような柔らかな手つきで彼の肩に手をかける。
そのまま、背後のアクア団は耳打ちでもするかのように ごく小さな声で話しかけてきた。
「捕まってる弟クン、助けに来ましタカー?」
ビクッと体を震わせてから、シルバーはしまったと思う。
平和ボケした自分に呆れる時間も取らせず、背後のアクア団員は唯一の攻撃手段だった左手を『カゲツ』と呼ばれるアクア団の喉から離させ、
返す手でシルバーをあっという間に部屋の隅まで追い詰める。
金色の髪に水色の瞳、人の事言える外見もしてないが、相手のアクア団をシルバーは外人の女だと認識した。
ボールホルダーに手をかけたくなるのを我慢し、今なお針の突き出ている左手を構えシルバーは2人を睨み付ける。
無言から発せられる「近づくな」のサインに アクア団の女はふっと微笑を漏らすと男が一瞬止めようとするのをさえぎって、
サファイアの瞳同様、不思議な青い光を放つ手のひらほどの大きさの石を取り出した。
「ココはァ、ポケモンも住みつかない深ァい深ァい海の底デスネー。
 携帯電話は通じませんシー、他のあらゆる電波もここまでは届きまセンー。 どういうことか、わかりますネー?」
シルバーは無言のまま武器を握った左手に力を込める。
そらみろ、たいしたことないなんてタカをくくってるからだ。 自分で自分を叱り付けるが、それで状況が良くなるわけでもない。
刺し違えるくらいの覚悟で相手をじっと見つめていると、予測はついていたが向こうから話し掛けてきた。
悪い予感3割増しの、嫌な笑顔で。
「Game,しませんカ?」





「んーっ!? むもごぶぅぉあっ、ごぶべぇっ!?」
流される。 ひたすら流される。 上も下も分からなくなって、洗濯機の中のパンツの気持ち。
排水溝のフタなんか開けたらこうなることなんて解ってただろうに、まったくもってサファイアの認識不足としか言いようがない。
アクア団の落としたアイテムボールは取り落としてどこかへ吸い込まれていってしまうし、頭も肩も足もあちこちにガンガンぶつけるし。
痛いからいっそ気絶してまおうかとか考えたりもしたが、そんなことしたらそれこそ一貫の終わりなので、サファイアは
手放しそうになる意識を何とか掴み直し、水中で体勢を立て直そうとする。
途端に体中にぶよっとした衝撃が走り、白色の『何か』にサファイアは頭から埋まりかけた。
「んお、もぐぁんも、んあ?」
「クオオォォッ、クオォッ・・・!」
ようやく(といっても10秒くらいしか経っていないのだが)体勢を立て直し、サファイアはぶつかったものを見て目を丸くした。
プールの中にいたやたら大きなポケモンが排水溝に詰まっているのだ。
どういうわけかサファイアより先に吸い込まれたらしく、このポケモンがいたせいで水流が乱れぐるぐる回っていたようだ。
まん丸の体が排水溝の合流地点でつっかえたせいで先に進めない。
というか、今まで流れつづけていたのが不思議なほどの見事なつっかえっぷり、脇道があるだけいいもののつっかえたポケモンの周囲に隙間1つ見つからない。

大きなポケモンがつっかえたせいで逆流する水をサファイアは脇道の壁につかまって耐える。
動きたそうにつっかえたポケモンがじたばたと尻尾を動かすのを見て、少し可哀相になり考える。
とてもじゃないが子供の力でどうにか出来るとは思えないし、これを開放するのなら1度モンスターボールの中に入れるしかない。
だが、荷物はポケモンと一緒に取られてしまっている。 どのみちポケモンらを取り返さないとどうにもならない状況らしい。
「・・・・・・んっ!」
足を踏ん張り、大きなポケモンのつっかえている分かれ道まで移動するとサファイアは身を縮めてうずくまった。
流されないように体を固定する。 目を閉じて、息が出来ないなりに心を落ち付かせるとサファイアは口から小さな泡を吐き出した。


一瞬で気が遠くなり、精神を持って行かれる感覚。
閉じたまぶたの先で自分に映像を送っている相手は、ラグラージのカナ。
赤い天井、白い壁。 これはきっとモンスターボールの中。 知りたいのはその向こうの情報(こと)。
かすかな振動と男の声、それに、水の音。 水の溢れ出す音。


「こっち・・・・・・もむぁっ!?」
息を止めていたのを忘れ、サファイアはうっかり目一杯思いっきり海水を飲み込む。
しょっぱい。 しょっぱいしょっぱいしょっぱい。
口に手を当ててとにかくそれ以上体から空気を逃がさないようにして、サファイアは壁を蹴って流れに乗って泳ぎ出した。
本来水の流れに逆らう形になるはずなのだが、あの大きなポケモンがつっかかってくれたおかげで水の流れが逆流し、とにかく行きはラクに泳げる。
時折後ろからくる鉄砲水に体を揺さぶられながらも、サファイアは体勢を崩さず狭い排水溝を進む。
こんな水ごときに負けるかいな、などと得意になったのはたった2秒。
ドゴンッ! ・・・と、派手な音を響かせ、行き止まりに正面衝突(それも顔から)して、先ほどの勢いとはうってかわって今にも泣きそうな顔。
鼻に手を当て、留め切れなかった気泡が上へ昇っていくのを青い目が追う。
いい加減息が持たなくなってきてサファイアはここまでの通り道であった管を蹴飛ばすと上へ浮かび上がった。
とにかく空気を求めて必死で手足をばたつかせる。 だが、その小さな手が空気に触れる前に掴んだのは、絶望的な鉄の感触。
水が逆流しているせいで排水溝から溢れだし、部屋の床を1面水浸しにしているようだ。
「・・・・・・・・・・・・くぉっ・・・・・・!・・・」
最後の力を振り絞って、握りこぶしで檻(おり)のようなフタに攻撃を加える。
ネジできっちり閉められたフタがそんな小さな力で外せるわけがないことくらい、しっかり分かっていたのだが。
可能性に賭けてポケモンを呼ぼうとした声は白い泡になってあっけなく消える。
全ての望みが絶たれたのだと痛感し、サファイアは今度こそ本当に、気が遠のいていった。



『なぁーにやってんだい、そんなところで・・・』

「・・・・・・ル・・・ビー・・・?」
上を見上げたら『その』顔があって、綺麗な声が降りかかってくる。
赤みを帯びた宝石みたいな瞳に見とれていると、いつもちょっとだけ眉間にしわを寄せてそっぽを向いて。
『迷子ぉっ!? あんたここどこだか判ってんの?
 ・・・・・・・・・あぁ、はぃはぃ分かった分かった、連れてってやるから泣くんじゃないよっ、男だろ?』
普段の口数は少ないのに的確にサファイアと会話を成立させる術を持っていて、時々見事に攻撃を受けたりもするけれど。
商人になると言ったときも苦笑こそしたが、それを止めようとは1度もしなかった。
真の『サファイア』である人物が自分の母親なら怒って殴りかかってきてもおかしくなかったのに。
『ほら、手ぇ出しなっ。 立てないわけじゃないだろ?』


差し出された手へ向かって手を伸ばすと、指先が固いものへとぶつかり指の間へと抜ける。
赤ん坊のように反射的に『それ』を掴むと耳先によく判らない不快音が響き、サファイアは釣られた魚のように上へと引き上げられた。
「んまぁ〜っ、いやだっ、いつかのボウヤじゃなぁい!?」
セキと一緒に水を吐き出しながらサファイアは「う」とうめいた。
化粧臭い。 気分が悪くなって指から力を抜くと、ようやく空気にさらされた足先がまた水の中につかる感覚。
それほど重くない体を支えていた鉄柵から指が少しずつ解け始め、臨界点を越え体力の足りなくなった体が再び水の中に沈もうとする。
「ヤバイ」、頭の隅っこでそのフレーズが浮かんできたとき、真横から虹色の光が飛んできてサファイアに直撃し 部屋の向こうまで弾き飛ばされた。
水の中に沈まないで済んだものの、疲れかダメージか目がほとんど開かない。
倒れそうになった体を肘で支え1度開かない目の感覚に頼ることを諦めて、サファイアは他の神経に集中力を注ぎこむ。
逆流した海水のせいで潮の匂いと水音ばかりだが、1ヶ所2ヶ所、違う匂いと音。 かぎ覚えも聞き覚えもある。
真っ先に頭の中に浮かんだのは「何でこいつがここにいるんや?」だったのだが、細かいことも考えていられない。 考えるより先にサファイアは口を動かした。

「・・・‘コン’、おるんやろ?
 あんな、ワシの荷物持ってきてほしいねん。 荷物、判るか?」
「ぐげぐげっ。」
思ったより元気な返事が返ってきてサファイアは少し安心する。
くるくる回っているせいだろう、荷物に苦戦する音を少し気にしつつ、水を蹴る音を聞き逃さないよう神経を研ぎ澄ます。
「近づくなやっ!」
忍び足で近づいてきた男(足の大きさで何となく判る)に怒鳴りかけると、水音が一瞬大きくなり、男は止まったようだった。
本来はルビーのポケモンであるヤジロンのコンは荷物をもつのに手間取っているようで、まだ少しの間来そうにない。
少しでも回復しようと体の力を抜いて、自分の荷物が届くのを待つ。
荒れた息を整えていると、もう1度バシャッという音がサファイアの耳に飛び込んできた。 今度は1歩後ろに下がる足音。




赤い光を放つ球体を手の上で転がしながら、アクア団の女は言葉をつなぐため自分でつけた口紅をペロッとなめる。
「この『べにいろの宝珠(たま)』には伝説のポケモン『カイオーガ』のココロが封じ込められていますネー。
 つまりー? これをカイオーガ自身が封じられている場所まで持って行かないト、目覚めさせることはimpossible,不可能デース。
 Ruleは簡単、今からワタシがこの『宝珠(たま)』隣の部屋に隠しマース。
 博士クンは30分以内に『べにいろの宝珠』を見つけ出してくだサーイ、見つけられれば博士クンの勝ちデース。」
「・・・聞くが、それはおまえたちにとって、おれの方にしても、一体何の価値がある?」
あくまで落ち付いた口調を保って、シルバーは銀色の瞳でアクア団の2人へと聞き返した。
勝負を持ちかけてきた女は1度男の方へと視線を移すと、何かを目と目で合図して再び嫌な笑みを浮かべる。
カナズミで1戦交えた『カゲツ』という名の男が、女の言葉を引き継いで口を開いた。
「もし、万が一テメーが勝ったらこっちで捕らえてるガキのことは開放してやるよ。
 ただし! テメーが負けたら、テメーの『友達』の『ゴールド・Y・リーブス』を紹介してもらうぜ?
 最強と噂されるチャンピオンのくせしてポケモンリーグの召集に1度も応じない、変わり者をな・・・」

相手の挑発に応じないよう自分をなだめながら、相手の目的をシルバーは察す。
アクア団が誰も気付かなかったのか上手くごまかしたのかは知らないが、どうやら連中はサファイアの神眼のことには気付いていないらしい。
昔(といっても数年前だが)の文献を調べればゴールドの神眼のことは容易に察しがつくだろうから、
恐らく今度は自分を人質にしてゴールドにカイオーガを目覚めさせるつもりなのだろう。
だとしたら、話は簡単だ。 シルバーは口の端を上げて笑う。
「・・・判った、そのゲーム受けよう。」


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