【ジムリーダー査定】
ポケモンリーグから直接雇われているジムリーダーだが、
高給ゆえに不正が発生しないよう、半年に1度査定が行われている。
具体的にはポケモンバトルの技術審査に加え、その年のバトル回数と勝率などをチェックされる。
これにより給料が減額されたり、また、逆に四天王にランクアップ出来る可能性もある。
PAGE85.もっと、もっと
「まずは、トクサネのジムリーダーに勝つこと」
・・・と、ゴールドから言われて病院を出てきたはいいが。
「ぷぉけもんすぇんたぁは、どっこやねぇん・・・・・・」
涙ぐしょぐしょ、鼻水ぐちゅぐちゅ。 場所は30分かけて聞いたけど忘れてしまったし、いつも案内してくれる人もポケモンもいないし。
とぼとぼとぼとぼ晴れの道、ぐねぐねぐねぐね迷い道。
「あ、いたいた! あいつだよ、ラン。」
「こんな小っちゃい島で迷子になれるなんて、天才的方向音痴ってやつ?
だぁかぁら、弱いって言ったでしょーが、フウ!」
振り向くと、サファイアと同じくらいの黒髪を結い上げたチャイナ服上下ズボンの少女が2人。
よく見てもよく見なくても、2人は同じ顔をしている。
1、頭に手をやって 2、右の眉毛と左の眉毛をくっつけて 3、こめかみの所で両手の人差し指をくるくる回して、チーン♪(効果音)
「『どっぺるげんがぁ』じゃああぁぁっ!!?」
時速100キロくらいで逃走しかねない勢いのサファイアに、チャイナ少年2人は見事な連携で突っ込みを入れる。
「僕たち双子なのに・・・ これは予想以上に重症だよ、ラン。」
「だから言ったよ、前のチャレンジャーとは比べ物にならないって。
あ〜あ、査定のためとはいえさぁ、迎えに来るのも楽じゃないよねぇ、フウ?」
後から話した声が高い方のチャイナ少年が、頭の後ろで手を組んだ。
同じ顔した少年2人は、顔を見合わせて同じタイミングでうなずいてから、サファイアへと向けて手を差し出す。
「僕はフウ、トクサネシティのジムリーダー。」
「あたしはラン! トクサネシティのジムリーダー!」
「君がトレーナーのサファイアだね、僕たち、挑戦者を迎えに来たんだ。」
「しょぼしょぼのトレーナーをわざわざ迎えに来てあげたんだから、100年分くらい感謝してちょーだい!」
「なっ、なんじゃねんっ!? しょぼしょぼて!?」
口を横に20センチくらい開きながらサファイアは『ラン』と名乗った声の高い方のジムリーダーへと言い返す。
負けじと彼女も口を指で広げ「いー」と言い返してきた。
早くも剣呑な雰囲気となってきた2人を、『フウ』という双子の片割れがなだめて制止に入る。
「こらこら、トレーナーなのに口ゲンカなんてみっともないよ、ラン。
僕ら正式なジム戦をやりに来たんだろ?」
「そーよそーよ、ジムリーダー様自ら来たんだから、早くバトルの準備してよね!
ま、ひゃっくパーセント! あたしたちが勝つに決まってるけどねー!」
「なんじゃとぉっ!!?」
殴りかかりそうな(それでもすぐ避けられるだろう)勢いで怒鳴り付けるサファイアの顔に、ばふっと大きな袋が放られた。
怒りつつも中をのぞくと、赤白青の目にも鮮やかなモンスターボールが丁度6個収められている。
むぅっとしながらも、サファイアは見覚えのあるそのボールを手に取るとホルダーに取り付けた。
適当に選んでから1つ取り外して身構えると、トクサネジムリーダーのフウはかるくなだめながら首を横に振る。
「違う違う『それ』じゃないよ、僕らは2人ポケモンも2匹。 君も戦うときには、ポケモンは2匹。」
「ホウエン発祥のダブルバトル。 流行らせたのはあたしたちなんだから!!」
鏡のように2人のジムリーダーは左右対称に構える。
慌ててサファイアがもう1つモンスターボールを引っ張り出し、左手で持つと2人はボールを持った手に力を込め、空へと向かって一気に解き放った。
ごつごつとして明らかに『いわ』タイプのポケモンが2匹、外へ出られたことを喜ぶかのように宙を舞う。
オレンジ色の太陽型したポケモン『ソルロック』、レモン色した月型のポケモン『ルナトーン』。
「交代はチャレンジャーのみ自由、どちらかのポケモンが2匹倒れた地点で決着だよ。」
「あんまり退屈させないでね! それじゃポケモンバトル、ファイトぉ!!」
体の前で腕を交差させ、サファイアは2つの赤白のボールを地面へと放つ。
ラグラージの『カナ』とチルタリスの『クウ』にどうやって指示を出そうかと考えていると、2人分の強い殺気に当てられ、サファイアは思わず身震いした。
「チルタリスに『サイコキネシス』!!」
「チルタリスに『サイコキネシス』!!」
全く同じタイミング、同じ声、同じ仕草で双子のジムリーダーはクウへと向け人差し指を突き出した。
突然の強襲に、出てきたばかりで心の準備も整っていないかったであろうクウはあっけなさ過ぎるほど早く吹き飛ばされ、
近くの木に頭を強く打ち付けて気絶する。
「‘クウ’!?」
「片方を集中的に狙うのは、ダブルバトルなら当たり前。」
「たった2発の攻撃でやられちゃうあなたのチルタリスが悪いんでしょ?
そっちの番なんだから、早く攻撃してきてよ!」
挑発的なジムリーダーの言葉に怒りを覚えつつ、サファイアはカナに指示を出すため大きく息を吸い込んだ。
まとめて倒してやろうとか考えながら、腹の底から耳のキンキンするような大声を張り上げる。
「‘カナ’ッ!! 『じしん』じゃ!!」
「よしきた」とばかりにカナは太い前足で地面を打ち付け、そう大きくない島の地面を強く揺らす。
だが、ルナトーンとソルロックは直前でふわりと宙へと浮き上がり、渾身の力を込めた攻撃はあっけなくかわされた。
サファイアが驚いた顔をしてジムリーダーを見ると、双子は共に退屈そうな、呆れたような顔をしてため息をついている。
「ラン、君の言った通りだったね。
前の挑戦者からは比べ物にならないほど弱いよ。」
「フウ、あたしの言った通りでしょ?
こんな『おままごと』のバトルじゃ、退屈しのぎにもならなかったじゃん。」
「チェック! 『サイコキネシス』。」
「チェック! 『サイコキネシス』。」
2発目の『サイコキネシス』を受け、カナもクウと同様に地面の上をバウンドして気絶した。
あっけなさすぎる決着に目の前の事態が飲み込めずにいるサファイアを、双子のジムリーダーは同じ色の瞳で見つめている。
地面に伏したカナの指先がかすかに動き、今更気付いたようにクウを担いでカナの元へと駆け寄った。
倒れた2匹のどちらも、息が細くはなっているものの手ひどくやられた訳ではなさそうだ。
外傷そのものも少ないし、サファイアの呼びかけにも、かすかながら反応出来る。
「ポケモンセンターへ連れて行った方がいいと思うよ。 同じトレーナーとして忠告するけど。」
「やっぱり前のチャレンジャーの方が楽しいバトルだったよねぇ? フウ。
ま、チャンピオンとそこら辺のナマクラトレーナー一緒にしてもしょーがないんだけどさ。」
ピクッと反応したサファイアを見て、フウは慌てたようにランの口をふさぐ。
振り向くと、双子の片方が口をふさがれながらバタバタしていて、もう片方は気まずそうな顔をしている。
怪訝そうな顔をして首を傾げると、口を塞いでいる方のジムリーダー(恐らくフウだろう)は、ため息を1つついた。
「ごめんごめん、実は昨日ポケモンリーグのチャンピオンが挑戦に来て、僕もランも興奮が抜け切ってなかったんだ。
だから、加減とか力量見極めるとかそういうことが出来なくて・・・」
「なんだよぉっ、ホントのことじゃんかぁっ!!」
口を塞がれたまま、ランが暴れながらキィキィと叫び声を上げる。
甘えがちな視線を向けてくるカナを見下ろしながら、サファイアは首を横に振った。
「ええわ、ジムリーダーはんが手加減せんのは当たり前のことや。
ワシもちぃと頭に血が昇っとったみたいやさかい、明日また出直してくるわ。 そん時は、絶対に勝つ。」
重過ぎて運べないカナをモンスターボールへと戻すと、それを持ったままクウを背負いサファイアは立ち上がった。
「どれだけ手ひどくやられても、いくら納得できない戦いだったとしても」
「『ありがとうございました』。」
深々と頭を下げると、サファイアはポケモンセンターへと向けて歩き出す。
驚いたような顔をしている双子のジムリーダーがその背中を見送っていると、ぐねぐね曲がってからサファイアはフウとランの所へと戻ってくる。
きょとんとしているフウへと向かって、サファイアはクウを背負ったまま尋ねる。
「・・・・・・なぁ、ポケモンセンター、どっちや?」
「ほら、ここがトクサネのポケモンセンターだよ。」
「地獄的方向音痴のチャレンジャーにいつまでも構ってられるほどジムリーダーも暇じゃないんだから、あたしたちもう行くよ?」
素直に2人に手を振って、サファイアはクウを背負い直してから引き戸を開けポケモンセンターへと入る。
自分と同じ年くらいの子供でもジムリーダーになれるんだとか感心しながら中へと踏み込むと、
中にいた人物を見て、サファイアはぎょっとした。
ツンツン頭がいるのはまだいい、風貌や周りを取り巻くオーラからしてトレーナーっぽかったし。
ミツルがいること自体もまだ構わない、だが、そのミツルがどうして全身傷だらけにしてソファの上に座り込んでいるのか。
白い煙すら吐きそうなほど息を切らした彼は、入ってきたサファイアに気付くとにこっと笑いかけ、立ち上がって近づいてくる。
「サファイアさん! 体、もういいんですか?」
「いや、自分こそ大丈夫なんか? それ、一体どないしてん?」
指差そうにも両手がふさがっているのがちょっともどかしい。
サファイアは1度クウ(たち)をポケモンセンターに預けてから、戻ってきてミツルの全身をまじまじと見つめた。
深い傷こそ負ってはいないが、全身のほとんど全部の箇所にすり傷やら切り傷やらがついていて、サファイアでなくても尋ねたくなる有様。
そんな状況にも関わらずニコニコと笑って見せると、ミツルは何でもないような口ぶりで話した。
「特訓してたんです、ほらボク逃げ回ってばかりで全然戦ってなかったでしょう?」
「いや、別にミルル君は戦わんでもええやろ?」
「頑張りたいんですよ、ボクも。」
にっと笑いながら、ミツルは胸を張って見せる。
サファイアはそれが自分を真似た行動だとは考えもつかず、ただ目を瞬かせた。
何か企んでいるような緑色の瞳でそんなサファイアのことを見ると、ミツルは声を潜めて彼へと話しかける。
「サファイアさん、このあとお時間空いてますか?
1つ確かめたいことがあるので、手伝ってほしいんですけど・・・」
「何や?」
「『ポケモン図鑑』のことで。」
1度首をかしげると、サファイアはとりあえず腰に手を当てた。
その行動が無意識にルビーを真似ているものだということには全く気付いていない。
「せやったらおつり君午後からも特訓やろ? ワシもそれに混ぜてくれへんか?
自主トレやとそんなに効果上がらへんで、相手欲しかったとこやし。」
「・・・自主トレって、あの病み上がりの体でポケモンバトルしてきたんですか!?」
「おぅ、トクサネジム行って見事にやられたで。」
呆れたように口をぽかんと開くと、ミツルは「グリーンさんに聞いてきます」と言って一旦その場を離れる。
あくび2つしている間にミツルはツンツン頭に何かを話しかけ、一言二言話してからサファイアの所へ戻ってきた。
手元に小さくチョキを作って成功を教えると、まだ包帯の巻かれた手を気遣って左手を引く。
露骨に嫌な顔をしているツンツン頭の所へサファイアを連れて行くと、
ミツルは要領良く頭を下げ、救急箱の中から消毒液を取り出してケガした場所の消毒を始めた。
ソファに座っていたツンツン頭は飲んでいたドリンクをテーブルの上へと置くと、立ち上がってサファイアのことを見下ろす。
「『おくりびやま』にいたな、お前。 旅のポケモントレーナーか?」
「せや、他の何やっちゅうねん?」
少々不機嫌そうにサファイアが言い返すと、グリーンの顔がピクリと引きつる。
「・・・うわ、知り合いに切り返し方がそっくりだ。 ジョウト出身か?」
「いや、ミシロタウンや。」
「はぁ!? じゃ何でジョウト弁入ってんだ!?」
「それはやなぁ、昔々あるところにおじいさんとおばあさんはいっぱいおんねんけど、可愛らしい女の子の・・・」
「どこから出てきたんだよ、その老人どもは!?」
「話すと長くなるねんけどな、海の向こうの・・・・・・」
「いやっ、もういい!! いいからこれ以上口開くな!!」
グリーンはサファイアの頭をつかむと、ぽいっとポケモンセンターの受付へと向かって放り投げた。
順応性の高い子供は受付でポケモンをもらってくると、その場に座り込んで中身をしっかりと確認している。
その様子を見て疲れた顔をしてグリーンはため息をついた。
話せば話すほどおかしな方向へと向かってくし、ジョウト出身でもないのにジョウト弁だし、よりにもよって1番苦手なシルバーと同じ返し方してくるし。
最後は単なる偶然なのかもしれないが、やりづらいことには変わりは無い。
だが1度引き受けてしまった以上いまさら「嫌だ」と言う訳にもいかず(ジムリーダーとしてプライドもあるし)、
グリーンは子供2人を連れて簡単な昼食を取ると、午前中ミツルの特訓に使った場所へと移動した。
周りには木がまばらに生い茂り、多少人の手が入ったであろうその場所は小さな広場となっていた。
その中心辺りにグリーンはおもむき、モンスターボールを手にするとミツルの緑色の瞳をちらりと見やる。
「お前は少し休んでろ、トレーニングしていても寝ていても構わないから。
サファイア・・・だったか? ミーハーなネーミング・・・まぁ、いいんだけどよ。 とりあえずかかってこい。
今の実力を見ておかねーと稽古(けいこ)つけようにも話にならねーからな。」
「ミーハー・・・?」
首を傾げながらも、サファイアは繰り出されたマッスグマへと向かって青白のモンスターボールを突き出した。
ゆっくりと一呼吸置いて気分を落ち付けると、サファイアは強く踏み込んで手に持った物を地面へと打ち付ける。
飛び出してきたテッカニンは反射で『ソニックブーム』でも出しかねない勢いで飛び出し、相手のマッスグマへと先制の一撃を加える。
グリーンのマッスグマが矢印模様のついた額で受け止めたのを見ると、すぐにサファイアはチャチャを引かせ次の攻撃へと移る。
「オニオン、『いあいぎり』。」
「‘チャチャ’引けっ!!」
バネのように反動をつけて切り付けてきたマッスグマを、チャチャは体を引いて受け流す。
次の手を加えようと身構えるチャチャを、サファイアは制す。 ツンツン頭がマッスグマの前で立ちはだかり攻撃を防いでいるからだ。
「弱いな。」
「何やと!?」
言い返すサファイアへ向け、グリーンは首を横に振る。
「勘違いするなよ、弱いっつったのはそのテッカニンの物理的な攻撃力だけだ。 お前のトレーナーとしてのレベルじゃない。」
ス、とグリーンは静かな殺気を放つと後ろにいたマッスグマをけしかけ、サファイアを襲わせる。
反射的に前に飛び出してきたチャチャとサファイアがとっさに出したソーナノのランが見事な連携プレーを見せ、
誰もたいした攻撃を受けないままその場は事無きを得るが。
危ない! と文句をつけようとしたサファイアに、グリーンは口元に手を当てながら話しかける。
「やっぱりな、攻撃の時と防御の時で明らかに反応速度が違う。
サファイア自身の戦い方として防御系の方が得意なのに、無理に攻撃を加えようとしてそこにスキを作っているな。
攻撃を躊躇(ちゅうちょ)する瞬間さえあるんじゃねーか?」
喉を詰まらせたように顔をしかめるサファイアに、グリーンは微笑を浮かべる。
「ま、ポケモンマスターを目指すトレーナーとしてはどうかと思うけどな。 バカ正直も悪くはないとは思うぞ。
本気で強くなる気があるなら、俺が強くしてやるよ。
じゃ、まー、とりあえず今から攻撃するから、全部防いでみろ!」
「・・・・・・うっわぁ。」
少し離れた森からサファイアの特訓の様子を見ていたミツルは思わず声を上げた。
もし相手が自分だったらぞっとするほどのグリーンの強襲を、サファイアはサファイアで1つずつ確実に受け止め、かわしている。
ぬいぐるみのようにジラーチを膝の間に抱え、丸太の上に腰掛けてから改めて感心する。
サファイアのことを強いと思ったことは1度もないが、見ている限り彼は倒れても倒れても何度でも立ち上がってくる。
ポケモンに乗って帰ったりすることも、ほとんどやっているところを見たことがないし(結構やっているトレーナーは多い)、
結構な回数ルビー(女の子)を気遣うような仕草すら見せていたし。
「ジラーチ、ボクもあのくらい頑張れるようになりたいです。」
『出来ますよ。 あなたは思ったことを行動に出来る、強い意思の持ち主であるとわたくしは思います。』
照れくさくなってうつむき加減にクスクスと笑うと、ミツルは不意に顔を持ち上げ辺りを見渡す。
『どうしました?』
「・・・人の気配がする。」
ダテにミツルだって半年も逃亡生活を続けていたわけじゃない、当然それなりに警戒心とか、人の動きを察知する能力とかも成長してくる。
狙われやすそうなジラーチを腕の中に隠し、気配の主を探す。
すぐに襲いかかってくるほど好戦的ではないようだが、しっかりとミツルたちへと向けて視線を向けている。
気味が悪くなってきて、ミツルはそっと立ち上がるとサファイアとグリーンが特訓している方へと向かう。
直接グリーンの攻撃を受けないよう出来るだけ注意を払うと、タイミングを図ってその中へと飛び出した、
当然、面食らったグリーンはとんでもない方向に向かって『かまいたち』を飛ばすし、訳も判らないままサファイアがミツルのことを守ろうとする。
「バカッ、何やってんだ!?」
「ミドル君危ないやないか!!」
「・・・・・・だれかにねらわれてるんですっ・・!」
ヒソヒソ声で怒鳴り付けるようにしてミツルは叫んだ。
身を低くして周囲を注意深く観察すると、ほんのわずかだが木の枝が不自然に揺れる。
「グリーンさん左ッ! 左から2番目の木に攻撃して下さい!!」
訳もわからないといった顔をしながらも、グリーンは先ほど『かまいたち』を外したアブソルに命令して程よく太めの木を攻撃させる。
『だましうち』の1撃は気持ちいいほどに木の幹を直撃し、上部を激しく揺らし灰緑色をした葉を落とす。
その沢山の葉の間から、振り落とされまいとしがみつく人が一瞬だが確かに見える。
ミツルが1歩前へと踏み出し、モンスターボール投げるのと同時にアブソルの攻撃した木の上からボールの破裂音が響いた。
腕の中のジラーチをきつく抱き直すと、ミツルは緑色に光る瞳で木の上の人間を睨み付ける。
「りる、『しびれごな』です!!」
「・・・『10まんボルト』!」
葉の間から飛び出してきた閃光がミツルの足元を撃ち抜き、地面に黒い焦げ跡を残した。
3人が思わぬ反撃に驚いている間に隠れていた人間は飛行ポケモンを呼び出し、森すれすれの高さを飛んで視界から完全に消え失せる。
追おうとしたサファイアをグリーンは腕を引いて引き止める。
「無理だ、人間の足で追いつける相手じゃねーよ。
人間向けてポケモンで攻撃する気違いにまた襲いかかろうなんてバカはそういねーだろうから、このまま特訓とやらを続けちまおう。
あぁいうのは学習しないでそう遠くないうちに来るから、その時に返り討ちにすればいい。」
「キッツいなぁ・・・」
サファイアが苦笑すると、グリーンはアブソルを呼び戻して訓練を再開した。
今度は、ミツルも交えて3人で。
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