PAGE106.POKEMON LEAGUE 〜Aria


「サファイアさん、表彰式始まりますよ。 立ってください。」
呆れたような顔をしてミツルはフィールドの真ん中で座り込んでいるサファイアへと声をかける。
バトルが始まる前と全く逆の動きをして 浮島のフィールドは観客席の下から伸びる床で固定され、今はもうほとんど動くことはない。
大きなため息1つつくと、サファイアは無意識に右手でひたいに手を当てようとした。
赤くなった手の平がずきりと痛み、思わず涙が出そうになったのをこらえる。
「あ・・・」
ミツルが何か言っていた言葉も耳には入らず、サファイアは反動をつけると立ちあがった。
非常に遅い足取りで表彰台へと向かうと、式の準備に手間取っているのか数人のスタッフが追いこしていく。
ヒラヒラとしたドレスのすそのようなものが視界の端に映り、ずいぶん気取った格好をしている人間がいるのだなと思いながら進もうとしたとき、
突然目の前に色とりどりの花たちが現れ、サファイアは進路を塞がれた。
香りの強い花束に一瞬むせ返りそうになるが、反射的に受け取ると 湖の上にいたせいで冷え切っていた体がじんわりと温まる。







ピン、と ひたいを弾かれると、跳ねるようにしてサファイアの体は動いた。
視界すら邪魔する大きな花束のラッピングの向こうで、見慣れた赤い石がキラリと光る。
「なぁ〜に、暗い顔してんだい、新チャンピオン!」
もっとしっかり見ようとしたのと驚きのあまり体が硬直したのが同時で、サファイアは受け取った花束をどさりと落とした。
菜の花からひらりと落ちた黄色い花びらを赤い瞳の端に映すと、彼女は軽く肩をすくめながら冷たい地面の上に転がった花束を拾い上げる。
少し早い春の花束をその細い腕から再び受け取ると、花の匂いに混じってなつかしい香りがサファイアの鼻をくすぐった。

「あーもう、派手に落っことして・・・花だって生きモンなんだから、もっと大切に扱いな!」
「・・・・・・ル・・・ビー?」
「なに、あたいがいるのが珍しいかい?」
頭の中が真っ白な状態のまま、サファイアは言葉を返すことも出来ず渡された花束を抱き締めて目の前にいる彼女を見つめる。
一瞬見違えそうになるほどの黒を基調としたドレスに、シルバーのアクセサリー。
あっけに取られて口を広げたままのサファイアに向けて 確かにルビーだと判るいつもの笑みを向けると、
彼女はそっとサファイアの耳元に近づき、キレイにルージュの塗られた唇を動かした。
「・・・聞こえてくるよ 魔法のコトバ、勇気をくれる 炎 呼び出す―♪」
「・・・・・・・・・・・・あぁっ!?」
手慣れた様子で観客たちからは見えないようにサファイアの口をふさぐと、ルビーは唇に人差し指を当てて「しー」と小さな声を出す。
既に準備が整えられ、ミツルらがスタンバイを終え 主役を待つ表彰台をちらりと見やると
ルビーはサファイアの手を引き、小走りに歩き出した。
つないだ手から暖かさを感じ、サファイアの鼻の先がぐずっと音を立てる。
今度は落とさないように しっかりと花束を抱える腕に力を込めると、向かい風を受けて流れる髪に向かって声を張り上げた。
どうせこの大歓声の中では、よほどのことがない限り他の人間に声がもれるということはあり得ない。


「離れたらアカンやないか、ルビー!
 目ェ離したら、すぐ迷子さんになってもーて、ホンマ手ェかかるわ!!」
「何言ってんだい、あんたこそ来るのが遅すぎるんだよ!
 女待たせるなんていい身分じゃないかい・・・・・・・・・ほらっ!」
体重をかけて1段高くなっているステージにサファイアを引き上げると、ルビーは大会の間中迷子になる少年の誘導を受け持っていた
メガネのスタッフへと向けてサファイアを投げ付けた。
きゃあきゃあぎゃあぎゃあと あちこちから悲鳴が起き、サファイアは苦笑、メガネのスタッフはずれたメガネを直しながら眉をつりあげる。
「ちょっと何をするんですか!いくら天真爛漫(てんしんらんまん)なキャラが売りといってもやっていいことと悪いことがありますよ、大体いつも言ってますがあなたは自分がどういう立場の人間なのか自覚がなさ過ぎます!急に長期休暇を入れたと思ったら突然復帰したいとか言い出しますし、そうかと思えば今度は突然どこへ行くのかと思ったら伝説のポケモンと戦っただなんて言うじゃないですか、話としては面白いかもしれませんがそんな突拍子もない話誰も信じたりしませんし、もし危ない場所に行って顔に怪我でもしたりしたらそれこそタレント生命の終わりと考えていいわけでですからもう少しちゃんと自覚を持って・・・!」
「サファイア、うちのマネージャーのイシハラさん。
 ちょっと口うるさいけど、いい人だろ?」
「ひょっとして大会の間送り迎えさせたんは・・・」
「そう、あたいが頼んだんだよ。 あんた絶対迷子になるだろ?」
押しつぶしてしまったメガネのスタッフから体をどかすと、サファイアはルビーの顔を見て、大笑いしだした。
ふらふらしながら涙目のまま立ちあがり、ヒーヒー言いながら表彰台へと向かう。

どんなものよりも頼もしい眼差しに見守られながら3つの段を持つ山の頂上に登ると、
大会が始まってから初めて、サファイアは自分に向けて声援を送っている観衆の顔を見渡した。
鳴り始めたファンファーレに歓声が一層大きくなり、安堵感と、誰にも負けない自信とでサファイアは微笑んだ。
家族も、ジムリーダーたちも、ルビーの父親センリの顔も今ははっきりと見える。
ふと何気なく見下ろした先のルビーと視線が合うと、彼女は今までに見たこともないくらい嬉しそうな笑顔になり、心臓が破裂しかかって思わず胸を押さえる。
目を合わせていられずサファイアが自分の体を見下ろすと、ごたごたしていたらしいリーグ運営委員会の集団が表彰台の側へと集まってきた。
それは、長く続いた戦いが終わることを意味する。


 『これより、第8回ポケモンリーグ表彰式を開始致します!』


耳も割れそうなほどの音量でアナウンスが流れ、
華々しい音楽が鳴り響くと、サファイアは安堵感(あんどかん)と言いようのない虚脱感(きょだつかん)に襲われた。
聞いていてもイマイチ意味のつかめない祝辞の後、奥の方から黄金色に輝くカップと、真っ赤な優勝旗が持ち出される。
両隣にいるミツルとダイゴに やや小ぶりのトロフィーがテレビなどでよく見るタレントから手渡され、大きな拍手が送られる。
ボーっとしながらそれを見ていると、突然自分の名を呼ばれ、サファイアはビクッ! と身をすくませた。
あわてて正面に向き直ると、自分の体よりも大きな優勝旗を持った何だか偉そうな人と、カップを大事そうに抱えたルビーの姿が黒い瞳に映る。
「優勝! ミシロタウン出身、トレーナーネーム サファイア!!
 貴殿は、第8回ポケモンリーグ ホウエンブロックにおいて優秀な成績を修めたことを、ここに賞する!」
想像していたよりも大きな旗を手にし、支えきれるか怪しい重さにあせっていると、
ゆっくりとした足取りでルビーがサファイアの正面に立つ。
委員会のスタッフに優勝旗を渡し、相手の手が空いたのを確認するとルビーはカップを持ち直し、そっとサファイアへと手渡した。
「おめでとう。」
そう言ったルビーの声は小さなマイクに吸い取られ、スピーカーを通して会場中に反響する。
拍手はダイゴやミツルの時とは比べ物にならないほど大きく鳴らされ、サファイアは戸惑いながらも礼の代わりに観客席へと向かって手を振った。
ルビーはその様子を見つめながら表情を悟られないよう、柔らかく微笑むと、
BGMのドラムの音が一際大きくなるタイミングを見計らって、こっそりマイクのスイッチを切る。


「で、どうすんの?」
「え?」
風に突き動かされるように顔をルビーの方へと向けると、彼女は観客たちをながめながらサファイアに聞こえるくらいの声で話しかけてきた。
いつの間にスイッチが切られたのか、スピーカーから音は流れない。
あくまでさりげなく、口元に笑みを浮かべながら赤みを帯びた瞳をサファイアへと向け彼女は言葉をつむぐ。
「・・・このまま終わらせる?」
言葉の1粒ずつを宝物のようにしまい込んで、サファイアは目の前にいる少女に瞳を向けた。
意味をしっかりと噛み締めないうちに ルビーは相手に背を向け、ゆっくりと壇上から降りる。
ふと見上げた空の上にあった『もの』に気付くと、身体に電撃を打たれたかのような衝撃を感じサファイアは視線をルビーへと戻した。
振り向きざまに瞳だけで笑うと、彼女はドレスの胸元をちょっとだけ開き、その下にある赤いエリを見せる。

「ま、フルでやる自信があればだけど。」
「・・・勝ち抜きでか?」
「それよりか、むしろ・・・」








「ダブルバトル!!」
「ダブルバトル!!」


スコアボードを思いきり蹴飛ばして飛んできたドラゴンから、サファイアはボールの入ったバッグを受け取った。
ルビーは動くのに邪魔なドレスを ばっさり脱ぎ捨てると、ポーチからスカートを出して腰に巻きつけ、バンダナで髪をまとめ上げる。
真っ赤な大きな翼が、炎のように揺れて動く。
金色に輝くカップをスタッフへと押し付け表彰台から飛び降りると、サファイアはボールの詰め込まれたバッグを握り締め、走り出した。
海を薙ぐ(なぐ)大きな魚のように腕を広げ、赤いボールを構えると大地にその力を伝えるかのように強く足に力を込める。
全身のバネを使い、身体をしならせてモンスターボールを投げるルビーの姿が、大空を舞う鳥の姿に重なった。
「‘フォルテ’!! ‘アクセント’!!」
「‘コン’ッ!! ‘クウ’ッ!!」
素早くはめられた手袋で赤い翼につかまると、トレーナーとポケモン、2つの小さな体は一気に舞い上がり強い瞳で相手を見下ろす。
翼を広げ飛び回るボーマンダの上で一瞬何かが光り輝いたように見えたが、深く考える間もなく、サファイアは思いきり地面を蹴り、
空に浮かぶ雲のごとく水色のふんわりしたポケモンにつかまって飛びあがった。

「サファイアさん!?」
「ミツル君、悪いけど客の方頼むわ!!」
早口に言い終えると、サファイアはスタッフの制止も無視してクウを高く上昇させた。
ひゅっと音が鳴るほど足を振り回し、体勢を安定させると、狭い空間から解放されたのを喜ぶかのように飛び回る青い龍に狙いをつける。
赤い瞳と視線が重なると、クウの足をつかむ手にきゅっと力を込める。
お互いに薄く笑うと、腰を落とす代わりに軽く笑って、2人は同時に言葉を放った。



「『よろしくお願いします』!!」
「『よろしくお願いします』!!」
声を放った直後青い龍の大きな翼が動き、サファイアはあっという間に背後を取られる。
「‘フォルテ’『ドラゴンクロー』!!」
それほど素早い動きではないが、振り向いた瞬間には防御することも出来ず
一瞬後には腕から全身から激しい衝撃を受け、サファイアは観客席まで吹き飛ばされた。
他の人間を巻き込みこそしなかったものの とっさに避けた観客たちの間に叩きつけられ低い声を上げると
少年はすぐさま体勢を立て直し、大ダメージを受けたチルタリスをボールへと戻して 人波に逆らうようにして走りながら巨大なフィールドへと飛び込む。
「‘コン’も1匹の方に『サイケこうせん』じゃ!!」
ギギギ、と動物らしくない音を立てると、黒い土人形はルビーの乗るボーマンダへと狙いを定める。
一瞬だけ眉を潜めるとルビーはフォルテを低い位置まで移動させ、抱え込んでいた黄色いポケモンを地面の上へと放った。
青白い光線が宙に浮いたネンドールの手から放たれると、黄色いポケモンは大きなクチバシを広げ、頼りにならない水流を発射する。
それが当たり前だったかのように押し負けた水流に弾かれると、
コダックのスコアは続いて飛んできた『サイケこうせん』に当たり、数メートル横へずれてから着地した。
同時にサファイアが観客席から飛び降りたバンッ! という大きな音が、会場中に響き渡る。


声援に野次、それに悲鳴。
興奮するのが当たり前か、逃げる方が正常なのか、どちらにせよ観客たちはパニックを起こす。
バトルの経過と観客の反応を見ながら、ミツルは困り果てていた。
「頼む」と言われてもポケモンを持っているわけでもないし、スタッフのように会場の構造を知っているわけでもない。
せめて逃げようとする人間だけでもどうにかしたいが、この状況下ではそれも難しい。
とにかくスタッフに伝えようと動き出したとき、空席になった1位の表彰台をはさみ隣にいたダイゴがゆっくりした動きでボールを握り締めた。
「・・・やれやれ、ずいぶん派手にやってくれる。
 これでも結構、本気で狙っていたんだけどな、ルビーちゃん。」
軽くボールが放られると、ミツルの目の前を鋼の青いポケモンがふさぐ。
不規則な動きで浮かび上がるポケモンに飛び乗ると、ダイゴはミツルの方に1度振り返り笑いかけた。
「手伝うかい?」
「え? あの、一体どうして・・・」
「今戦っている彼女と賭けをしていたんだ。
 私が勝ったらルビーちゃんとデートを、ルビーちゃんが勝ったらこのバトルの始末をつけると。
 ただのアイドルだと思って油断していたな。 想像以上の実力者だ、これは大変なことになりそうだ。」
軽く肩をすくめると、ダイゴは淡々と言ってのけた。
ダイゴのメタグロスが観客席へと向かって飛びあがると、その横を灰色のゴーストポケモンが泣き叫ぶ子供を抱えて飛んでいく。
辺りを見回してみると、既に四天王たちが逃げようとする観客たちの誘導、救助を始めていた。
観客席に降り立ったミツルは、メタグロスの上に客たちを乗せるダイゴへと視線を向ける。
「あの、もしかして皆さん・・・?」
「あぁ、全員彼女と賭けをして負けたんだ。 見事に大穴を当てられたね。」



凍てついた赤い翼を見て軽く苦笑すると、話題の種にされているルビーはボーマンダのフォルテに飛ぶ速度を目いっぱい下げるよう指示を出した。
ほとんど空中で静止した状態になるまでフォルテがスピードを落とすと、
彼女は青い大きな背中を蹴って、空を飛ぶボーマンダの背から飛び降りる。
大きなダメージを受けたフォルテをボールへと戻し、自由落下しながら別のボールを手に取ると
突然、透明な淡い緑色のクッションが空中に現れ、ルビーはそれに受け止められてから何事もなかったかのように着地した。
くつのつま先で向きを変え、受け止めようとしていたのか駆け寄りかけていたサファイアへと赤い瞳を向ける。
宝石のように赤く光るボールを体の前で構えてから、ルビーはそのまま自分の後ろへとそれを放り投げた。

 『ついて来られないなら置いてく!!』

「‘スコア’『ハイドロポンプ』!!」
弧を描いて2回ほど固い鉄板の上を跳ねるボールを見ると、サファイアは片手に持っていたボールを空まで届きそうなほど高く投げ上げる。
豪快な音を鳴らして真横を通過する水流に青い瞳を向け、小さく息を吸い込むと
左手に固い拳を作りながら今にも攻撃を受けそうなポケモンへと向かって叫んだ。
「‘コン’『コスモパワー』!!」
小さく体を引きながら土人形のようなポケモンは空の上から未知なる力を呼び覚まし、自分の中にある力を覚醒させる。
瞬間的に黒い体が光ったかと思った直後、スコアの放った『ハイドロポンプ』が命中するが、倒れるほどのダメージには至らない。
キュウゥ、と空気のこすれるような音を鳴らし体勢を立て直したコンを見ると、
ルビーはフィールドの中央に向かって走りだし、流れるような茶色い髪の間から覗いた瞳でサファイアを見ながら叫んだ。
「数え切れないくらいの人たちに世話になった。
 ゴールドにクリス、シルバー、トレーナーポリスの人たちにジムリーダー・・・」
「ブルーにグリーンにレッドっちゅうたな、名前知らんおっちゃんや、医者の兄ちゃん姉ちゃんにも助けられたわ。」
無機質な鉄板の上を転がった赤いボールから灰色の大きなポケモンが現れ、サファイアは反射的にそのポケモンから離れるように走り出す。
いまだ空中でくるくると回転するサファイアのボールを見つめると、灰色のポケモンは
根元からぽっきりと折れた大きな牙を見せつけるようにしてから長い鼻を振り上げ、太い前足が地面にめり込みそうなほどの力を叩き付けた。
「‘ラルゴ’『じわれ』!!」
「・・・うおわあぁぁっ!!?」
足がつんのめって地面の上をごろごろと転がると、わずか50センチほど後ろの床が亀裂を生じメキメキと音を立てて開き出す。
浮島のフィールドと観客席とをつなぐ鉄板に出来た割れ目は広がり、起きあがって再び走り出したサファイアの背後で淡い光が放たれた。
亀裂から飛び出した水がフィールドの上に広がり、乾き始めていた地面を再びぬらしていく。
段々と傾き始めた太陽の光をさえぎって巨大な影が宙に浮いたとき、サファイアの腕が大きく振られた。
上昇する水の勢いに負け、亀裂はさらに広がり細かい鉄片が打ちあがる。
大きく広がった穴の中に飛び込んだ巨大なポケモン『ホエルオー』は、1度深く湖の中へと沈み込むと頭の上にある鼻の穴から思いきり水を噴き出した。
人工的に作られた大波は浮島と陸地とを完全に切り離し、不安定な足場をさらに大きく揺らす。
サファイアとルビーは頭から冷たい水をかぶり、スコアとラルゴも強い流れに押され悲鳴を上げる。
第2波が押し寄せようとしたとき、サファイアは波の中に
壊れた鉄板の破片を見つけ、走り出した。 とっさにルビーを抱えると地面の上に伏せ、危険が去るのをひたすら待つ。
水の流れが引くと、ルビーは体を反転させサファイアと距離を取った。
視界をふさぐ水をぬぐい取ると、ルビーは炎にも似た赤い瞳を向けにっと笑う。
「だけどさ、サファイア。 あんたサイコー。」



心臓が止まりそうになった上 顔も熱くなり、サファイアは思わずルビーから目をそらす。
「・・・ッ、‘コン’『サイケこうせん』!!」
「‘スコア’『ハイドロポンプ』!!」
大きな口を開けてコダックが放った水流を受けるのと同時に、ネンドールの放った青白い光線がスコアの頭を直撃する。
1度倒れかけてから何とか体勢をたもって立ち上がったスコアを見て、ルビーは笑う。
小さく口笛を吹いてポシェットに手を当てると、サファイアからは見えないよう体の影に隠してボールを手に取った。
相手の動向を探りながら高みを目指す、研ぎ澄まされた刃のような視線同士がぶつかり合い、お互いのしのぎを削っていく。

「さぁ、どんどん行くよ!!」
赤いモンスターボールを投げるとルビーはぬかるんだ地面から踏み出しながら叫んだ。
先ほどの『なみのり』の影響でいまだふらふらと揺れ動き、安定しない足場でぐっと踏み締めるとサファイアは青いボールを手に取り身構える。
滞空時間を稼ぐため、2人は手首を使って小さなボールを出来るだけ高く投げ上げた。
体の横で結んだ拳に強く力を込めると、サファイアはルビーのことをちらりと見てから走り出す。

水の中から飛び出した大きな物体が、2人の上に影となって被さった。


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