Chapter2:sender−???
=Marionette that began to move=





 いい風向きに流れてきている。

 だが、油断は禁物だ。 一瞬のミスが命取りになりかねない。



 お前たち、準備はいいか・・・?





地に落ちたボールが光を放つ。
拳ほどの小さなそれは 軽快な音を立てると人の腰ほどの大きさの動物を解放し、まとっていた光を解き放った。
ビロードのような黒い毛を生やしたポケモンは、長い耳を揺らしながら着地すると
しなやかな4本の足で地面を蹴り、戦う相手へと向かって走り出す。
「‘ニュウ’『かみつく』!!」
「かわせ、ジグザグマ!! そのままブラッキーに『たいあたり』だ!!」
ジグザグマ、体長は約0.4m、ノーマルタイプ。
茶色とクリーム色の体毛が交互に並んだ体がすばやく引かれ、攻撃直後のニュウ目掛け、衝突しようと接近する。
白い牙をむくとブラッキーは地面を転がり、それを回避する。 だが、背後にもう1体。
「スキあり! ジグザグマ、『ずつき』だ!!」
もう1体のジグザグマは反動が来ないよう ぐっと身構えると、短い足を使ってニュウへと向かって飛び出した。
だが、空中で真横へと弾き飛ばされる。
体勢を立て直したブラッキーは一瞬だけ気をゆるませると、血の色にも似た赤い瞳を相方へと向けた。
ブラッキーよりも一回り小さな薄紫色のポケモンは、
切れ長のアメジストのような色をした目でちらりとニュウのことを見ると、華奢(きゃしゃ)な体をゆっくりと持ち上げる。
先が2つに割れた長い尻尾がゆらりとうごめくと、薄紫色のポケモンは相手のジグザグマたちに注意しつつ、俺の方へとちらりと視線を向けてきた。

「OK‘フル’いいフォローだ。」
名を呼ばれたエーフィはあくまで相手に注意を向けたまま、長い耳を揺らしてパタリと音を鳴らす。
小さくうなずいて合図を送ると、ピンと張り詰めた空気を崩さずフルはゆっくりと歩き、ニュウの隣に並ぶ。
挨拶(あいさつ)代わりに軽く牽制(けんせい)。 この荒地の真ん中で強く吹いた風に、長いコートのすそが舞い上がった。
名も知らないライダーは『ねんりき』に飛ばされたジグザグマを自分の元へと呼び寄せると、怒り出すかと思いきや、笑った。
「やるな! エーフィもブラッキーもよく育っているし、コンビネーションも抜群だ。
 キミも相当修羅場をくぐってきていると見た。
 オレはウィリー、キミの名前を聞いておこう!!」
近くに転がる鉄くずに足をかけると、こちらと同じく油断のない動きでジグザグマ2匹を構えさせる。


 奴は何も知らない。

 俺がどこから来たのかも、何者なのかも。

 ずっと人に名を教えるなと言われ、育ってきた。

 だが、もう、その『しがらみ』とは縁を切ったんだ。

 俺は今日、初めて自分の名を名乗る。



「・・・レオ、俺の名は‘レオ’だ!!」
ひゅう、と口笛を鳴らし、ウィリーと名乗ったライダーはポケモンバトルを再開するため、足場にしていた鉄くずを蹴り飛ばした。
運がいいのか悪いのか、相当重さのあるはずの鉄くずは俺が思った以上に転がると、ついさっき停止したばかりの軽トラックのタイヤにぶつかり、停止した。
やたら大きな袋1個乗せた、ここらでは見かけないトラック。 やはりこいつ、運がないな。
口笛を吹く。 降りてきた奴ら、明らかに俺と同類だ。
ウィリーもそれを判っているのか、出来るだけ相手を刺激しないよう肩をすくめてみせた。
「オィ、気をつけろ!! オレ様の大事な車がパンクしたらどうしてくれるんだ!?」
「悪い悪い、車が来るとは思わなかったんだ。」
悪態をつくとトラックから降りてきた男2人は町外れのスタンドの中へと入っていく。
まぁ、大事にならなくてなにより。 下手に騒ぎをおこされたら、こっちだって困る。

やれやれとため息をつくと、ウィリーは改めてこちらへと向きジグザグマたちを構えさせる。
バトル再開だ。
「ジグザグマ! エーフィに『たいあたり』だ!」
「かわせ‘フル’そのまま『ねんりき』!」
フルは細い身体で砂ばかりの大地を転がると、迫ってきたジグザグマの攻撃を受け流す。
しかし、命令には従わず、相手を攻撃しようとはしない。



「‘フル’!?」
そのスキを相手に突かれる。
もう1匹のジグザグマが無防備なエーフィを狙い、恐らく最大攻撃なのだろう『ずつき』で攻撃してきた。
こちらとしても、そう簡単にやらせるわけにもいかない。
「‘ニュウ’『ひみつのちから』!!」
低く鳴くとニュウは足元をしっかりと踏み締めフルへと接近するジグザグマに吠えかかる。
ジグザグマが驚くのも一瞬のこと。地面から突き出した針のような物体に行く手を阻まれ動きが止まった。
背後を振り返るが、逃げ道など無い。
目の前で相手のポケモンが飛ばされるのを見ると、フルはなぜかこちらに目を向けて何か言いたそうに声をあげた。
だが、相手をしていられるほどの余裕はない、起き上がった相手のジグザグマがすぐそこまで迫っているからだ。

フルは『ねんりき』で迎え撃とうと身構える。
しかし、相手のジグザグマは攻撃する直前でくるりと方向を変えると、全く無防備だったニュウへと向かって突進してきた。
しまった、フェイントだ!
「チッ、‘フル’『リフレクター』!!」
1歩引いたブラッキーの目の前に薄青色の壁が立ちはだかり、相手の攻撃を半減させる。
ダメージは間逃れないが予想外の行動に、ジグザグマの動きは攻撃直後、一瞬停止した。
「‘ニュウ’『かみつく』!!」
足を活かして相手の動きを完全に止めると、ブラッキーは相手を引き倒し、硬い毛におおわれた首筋に噛みついた。
ジグザグマの甲高い悲鳴が上がり、戦闘不能におちいったのと同時にブラッキーの体が横に弾き飛ばされる。
もう1匹のジグザグマが『ずつき』で反撃してきたからだ。 だが、『リフレクター』で守られたニュウの体にはほとんど傷らしい傷はつかない。
この勝負、俺の勝ちだ。
「‘フル’『てだすけ』!! ‘ニュウ’『かみつく』!!」
エーフィが放った光に包まれ、ブラッキーがたった1匹残ったジグザグマへと向かって走り出す。
強化された前足に踏み倒されジグザグマの悲鳴が上がる、鋭い牙をむき出し赤い瞳で睨むとニュウはそのまま噛みついた。
鳴き声が一際大きくなると、相手の動きが止まり、風の音のみが響く。



しばらく呆然とたたずんでいると、やがてライダーのウィリーはゆっくり動きだし倒れたジグザグマをモンスターボールへと戻した。
恐らく幾多の風を受けてきたんだろう むき出しのひたいをぴしゃりと叩くと、含み笑いしてみせる。
「あーあ、やられちまったよ。
 しゃーねぇなぁ、金はねーけどオレのおごりか!」
信じられないな、どうして負けて笑っていられるんだか。
ましてや、俺と、フル、ニュウ、ポケモンたちの分まで昼飯代を損することになるというのに。
相手の考えていることなどいいか。
こちらの食費が浮いたことに変わりはない、これからの移動でバイクは相当ガソリンを食うんだ、少しでも節約しておくに越したことはない。
「じゃ、ゴチになるぜ。」
黄色い砂地に目を向けると、緊張が解けて動きの鈍くなったフルとニュウを呼び寄せる。
もう昼過ぎ、腹を空かせたニュウは飛ぶようにやってくるし、フルも、止まっているトラックを少し気にしているようだったがノロノロとやってくる。
トラックの持ち主は列車を改造したスタンドの中から出てきて、エンジンをふかす。 あいつら、もう食べ終わったのか。
気にすることはない。 まさか奴らが食料を全て食い尽くしてしまったということはないだろう。
何度か来ているから、この店の美味さはよく知っている。
この後しばらくは移動続きだ。 しっかり食って、充電しておかなくてはならない。







 《・・・繰り返します、1週間前パイラタウンで発生した爆発は、窃盗組織『スナッチ団』が起こしたものと判明しました。
  現在のところ死傷者は出ていないようですが、異例の事態に1週間経った今も現場は混乱しております。
  続いてのニュースです、昨日深夜未明、エクロ渓谷で発生した火事は正体不明の建物の・・・》


「パイラにエクロ渓谷か、物騒な事件が続くな。」
スタンドの中に設置されたテレビを見て、ウィリーは軽く舌打ちしながら言った。
俺はさっさとカウンターに座ると、マスターにまずはサラダとハンバーガー、それとエーフィとブラッキーにも与えられるものを頼む。
「出るぜ、死者。」
「?」
「パイラの爆発事件。」
「知っているのか?」
「少しな。」
ハンバーガーをたいらげると、ステーキを注文する。
滅多に頼まない高額の注文にマスターは少し驚いた様子だったが、俺が指で隣にいるウィリーを指差すと納得したようにうなずき、肉を焼き始めた。
軽く火を通された焼き肉ポケモンフーズがカウンターを滑る。 左からやってきたそれを左手で受け止めようとして、それが出来ないことに気がついた。
仕方なくナイフを逆さに持ち、銀の柄で止める。
息を吹きかけると、小さな皿を床の上に置く。 一旦食事の手を止めると、イスごと体を反転させ、フルとニュウの2匹に食べて良いと指示を出した。
一連の動作を終えると、元の体勢へと戻り再び食事にありつく。
食った量に気付いたウィリーが呆れたように眉を上げて苦笑した。
「おぃおぃ、少しは手加減してくれよ?」
「自分が勝ったら同じくらい食うつもりだったんだろ。 マスター、おかわり!」
「・・・ったく、抜け目ねーな。」


肉の焼ける匂いが店の中に広がる。
大きなフライパンを振り回すマスターを見ると、俺はわずかに残った野菜をつつきながら付け足した。
「マスター、最近気温も上がったよな。」
「は? 何言ってるんだお前?」
マスターは調理の手を一瞬止めると、こちらへと振り向く。
ようやく俺の顔を見ると、こんがりと焼けた肉を皿へと移しながら、低い声でつぶやいた。
「・・・・・・Give the password合言葉を言いな。」
Iris shuttlecock虹色の羽根。」
おかわりの肉を出すと、マスターは奥へと引っ込み、散らかった奥の部屋からダンボール箱を抱え持ってくる。
食べるものと一緒にするわけにもいかないし、急いで必要になるわけでもない。
俺が食べ終わるのを待つと、マスターは大きなダンボールをカウンターの上に乗せ、手の平をこちらへと向けた。
「74000ポケドルだ、1つサービスしておいてやったぜ。」
「助かる。」
財布から言われた分だけ金を取り出すと、マスターの手の平に乗せる。
すっかり空になった皿をカウンターの上に乗せ、左腕でダンボールを抱えるとフルとニュウを連れバイクへと足を向けた。
「ごちそうさん。」
呆れた顔をしたライダーウィリーとスタンドのマスターに礼を言って、再び砂礫されきの大地へと足を踏み出す。
スタンドに入った時よりも風が強くなっている、この分だと今日は荒れそうだ。





止めてあったバイクにまたがると、小さなサイドカーにニュウが飛び乗った。
フルは、まだ温まっていないエンジンを経由しこっちへ登ってくると、何かを言いたそうに「フィ」と声を上げる。
2股に分かれた尻尾の先で俺の鼻をつつくと、顔を西に向ける。
その先にあるのは、水の街、フェナスシティ。
「フル、お前の予知能力が何かあると告げているんだな?」
アメジストの色をした瞳でまっすぐに見ると、フルは長い尻尾をくねらせた。 YESの合図だ。
そう言われたら行くしかない。 フルがバイクのボディを蹴ってサイドカーに飛び乗ると、俺はエンジンをふかす。
ずっと額にかけていたゴーグルをずらし、砂と風から目を保護する。
エンジンの振動が全身に伝わる、スロットルを回すと規格外の巨大なバイクは風を切って走り出した。


・・・移動続き。
こんな生活を始めてもう3日になる。
あふれる程の水をたたえるフェナスだが、そこまでの道程は砂漠に近い砂地ばかりが続いていた。
吹き付ける風とともに舞い上がった砂は服で守り切れなかった頬を容赦なく叩き、黄金色の日差しはじっくりと時間をかけ、体力を奪っていく。
そのつもりなどないが、会話などかわせない。
サイドカーの上で小さくなって砂嵐に耐えるフルとニュウを横目で見ると、俺はハイネックの襟を軽くしめて上を見上げた。
ゴーグル越しのねずみ色の空に、七色のくっきりとした虹がかかっている。
・・・あり得ない現象だ、この暑さで頭がどうにかしているのかもしれない。
バイクのスピードを上げる、上を見上げるとさっきまであった虹は跡形もなく消えていた。
幻想だったのかもしれない。荒れ狂う黄金色の砂嵐を睨むようにすると、俺は小岩を避けて目的地へと急ぐ。
フェナスまで1日半、体力との勝負だ。





出発してから3、4時間経った頃だろうか? 先行する車を見つけ、俺は顔を上げた。
向こうはまだこっちには気付いていないらしい、
100メートル先も見えないほどの砂と、自分の声すら聞き取れないほどの風だ、無理もないが。
この悪路を走るにはキツそうな小さなトラック・・・よく見たら昼間会った2人組のゴロツキと同じ車種だ。

ついてない・・・? いや、気にしなければいいだけだ。
向こうの方が俺たちのバイクよりスピードが遅い、このまま抜かして先にフェナスシティに行くとするか。
そう思ってスピードを上げたとき、不意にサイドカーに乗っていたフルが立ち上がり、前方のトラックを睨み付けた。
昼間のバトルの時といい、何だか様子がおかしい。
だが声をかけるわけにもいかず、俺は2匹を振り落とさないようにスピードを上げる。
徐々にトラックとの距離が縮みトラックとバイクが並ぶような形になると、フルは突然トラックに向かって『ねんりき』で攻撃を仕掛けた。
威力は低いが、ただでさえ安定の悪い場所を走っていたトラックはバランスを崩し右へ左へとふらふらと揺れる。

「フル!! 何してる!?」
口の中に砂が飛び込む。
ボディを倒すと、トラックとの距離を取った。 そうでもしないとフルはもう1度攻撃しかねない雰囲気だ。
スピードを落とすと前を走るトラックのウィンドウが開き、あのゴロツキがこちらを睨み付けた。
「オィ、テメェ、何しやがる!!」
「すまない、打つ気はなかった!!」
やはり砂がキツイのか、さっさとウィンドウを閉めると2人組は砂嵐の中、黄色い道を土を巻き上げ進む。
フルは理由もなしに攻撃するような性格じゃない、だが、俺がポケモンじゃない以上
この、手が離せない状況でフルを止めるには、距離を置くしかないのも事実だ。
トラックが砂ぼこりを巻き上げるせいで、さっきよりも砂がキツイが言ってられる状況じゃない。
辛いが、このままあのポンコツトラックの後ろをついていくしかなさそうだ。 そう思っていたらトラックは急にスピードを上げ始めた。
どうやらあいつら、何かやましいことでもあるらしい。 俺たちに追われてると思っているんだ。
こちらとしては助かる。 砂ぼこりから逃れられるし、奴らの作ったわだちのおかげで走りやすい。


道はまっすぐフェナスへと続いている。
土と砂と、道の向こうのトラックを追いかける形で走り続けると、
驚いたことに夜更けにはフェナスシティの影が見えてきた。 どういうスピードを出していたんだ、あの2人。
ここまで来て野宿するのも無意味だと思い、スピードを上げて一路、街を目指す。
すると、バイクのヘッドライトが照らす空間に、エンストしたのか動けなくなっているあのポンコツトラックが入り込んできた。
やっぱりというか、何というか・・・だが、一応俺のせいでもある。
フルの様子を見ながら止まったトラックの横へとバイクをつける、
マシンの修理をしていたゴロツキは俺のことを見て嫌そうな顔をしたものの、緊急事態に現れた人間をあっさり追い返すことはしなかった。
「エンストか?」
「いや、ガス欠だ。 ったくよぉ、止めろっつぅのにトロイの奴がスピード上げるから・・・
 フェナスはすぐそこだっつぅのに、ついてねぇ。」
「悪かったな、フルは普段は見ず知らずの相手を攻撃することなんてないんだが・・・お前たち、よほど嫌われたんだろう。
 昼間の詫び代わりに、俺がそのトラックを引くか?」
「そいつぁ助かる! 尊重すべきは助け合いの精神ってな!」
名前も知らないゴロツキは手を叩いて喜び、あごを何度も振ってみせる。
荷物が増えたが、俺のせいなんだから仕方ない。
眠っているフルを起こさないように荷台サイドカーからロープを取り出す。
ニュウに荷物を見張らせ、持ち出したロープでトラックとバイクを結ぶとゴロツキがトラックに乗ったのを確認し、再びエンジンを入れた。
闇夜にエンジンの音が響く。
何か聞こえたような気がして振り返るが、見えるのはトラックのフロントガラスだけ。
夜になって冷えてきた体をマフラーから発せられる熱が中和する。 ゆっくりとバイクを発進させると、タイヤが少し空回りしてから2台の車は動き出した。
ガソリンは何とか間に合いそうだ。 メーターを見て、そう思う。
とうに眠った街の入口まで差しかかったとき、何気なく後ろを振り返った。
隠されてはいるが、サイドミラー越しにこっちを向く鉛色の筒。 それが何か気付かないほど、俺もバカじゃない。





バイクから伸びるロープをナイフで切ると、急いでハンドルを切って攻撃を回避する。
「フル、起きろ!!」
銃声。 フルが勝手に攻撃した理由がやっと判った。
牽引(けんいん)するものがなくなり、横転するトラックから発せられた銃弾はまるきりアテの外れた方向へと飛んでいく。
音を聞き付け、寝ぼけた顔をしたフェナスの人間が集まってきた。 この街の人間は、危機感というものが足りな過ぎる。

・・・・・・逃げるか、戦うか。

奴らには顔を覚えられている。 ここで逃げると今以上の嫌なタイミングで、下手したら仲間を引き連れてやってくる可能性も高い。
出来るだけ騒ぎは起こしたくなかったが、
「・・・仕方ない。」
ナイフを持ったままバイクから飛び降りる。
巨大な車体を盾に相手の様子を見ると、奴ら銃を持って安心しているのか無防備もはなはだしい足取りでこっちへと向かってきた。
前言撤回。 やはり奴ら、ただの雑魚ザコだ。
ひとまず、奴らの逃げ道を作ることにもなりかねないし、街に銃口が向くことは避けたい。
そうなれば道は1つ。


俺はバイクのボディを飛び越えると、まっすぐに奴らの方へと向かって走り出す。
「‘フル’『リフレクター』!!」
青く光る壁が張られた直後、乾いた音が響く。 発せられた銃弾は『リフレクター』に当たると一瞬青白い光を放って失速し、俺の真後ろを通過していった。
直後、サイドカーからニュウが飛び出す。
自慢の四肢を動かしあっという間にゴロツキたちの元へと走り寄ると、そのうちの1人が持っている拳銃へと向かって攻撃し、手から離れさせた。
「チッ、ガキが!!」
もう1人の方が俺に銃を向け、武器を失った方は服の下からモンスターボールを取り出す。 トレーナーだったのか、あいつら。
モタモタしている時間はない。 俺は奴らのトラックに向かって走ると、ホロすらついていない荷台に飛び乗り伏せる。
ガス欠とはいえ車に向かって発砲するのは危険だし、腐っても自分の車だ。
向こうもそれが判っているらしく、銃声は聞こえてこなかった。
体を転がして向こうの状況を確認すると、ニュウがもう1人の男が持った拳銃を叩き落し、フルがそれを遠くへと飛ばしている。
さすが長年連れ添ってきた相棒だ。 やるべきことが判っている。



おとり役も終わり、いい加減降りようとしたとき何気なく手をついた荷物が大きく動き、危うくバランスを崩しかけた。
人工物の動きじゃないし、ポケモンの温度じゃない。
「まさか」とは思ったが無理矢理その考えを否定しバトルの方に顔を向けるが、さすが雑魚だけあって、あっちは楽勝ムード。
戦闘はフルとニュウに任せ、持っていたナイフで積み荷の大きな袋の口を切る。
切り口から人の手が飛び出してきたときは、さすがに驚いた。
まさかとは思ったが・・・その、「まさか」だ。
袋の中から出てきたのは、俺と同じくらいの年齢の・・・女の子。
驚いて声も出ない。
彼女は少しボーっとした顔をしていたが、俺の手に握られているナイフを見るなり表情を変えた。
ショックで倒れそうなほど真っ白な顔をして、悲鳴を上げる。
そして、俺のことを突き飛ばすとトラックの荷台から飛び降り、今にも倒れそうな足取りで逃げ出した。

「おぃっ!? 待てッ、待てよ!!」
走り方を見るだけでも判る。 無理もない、あの炎天下のなか10時間以上袋詰めにされてたんだ、明らかに弱り切っている。
・・・死なせたくない。 なぜだか、そう思って追いかけようとするが、大きな音がそれを阻む。
気がつけばバトルの方は4対2だ。
いい大人が見苦しい。 相手のポケモンのレベルは低いし、いい感じに警察も駆けつけてきている。
まずは、こっちを片付けるのが先だな。


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