Chapter5:sender−Mirei
=許されざる行為=




・・・『スナッチ』。 確かに、そう聞こえた。
レオをいきなり殴った人がそう叫んだ途端、ただでさえ ざわついてた人たちが一気に引いてくのが感じられた。
怖い。 私を捕まえてた人たちではないみたいだけど、逃げたいよ。 でも、出来ない・・・足が動かないから? 違う。



「Pass the "snatch machine"!
身体が強張ってバランスを崩すと、大きな門にぶつかってガシャンと音が立つ。
ハゲ頭の2人組は いきなりレオに掴みかかると拳を振り上げた。
声を上げそうになるけど、次の瞬間、男の片方は嫌な音を立ててレオから弾かれるように飛びのいた。
レオが正面へと突き出した足を勢いをつけて回すと、
そのかかとが もう片方の男の胸へと当たり、信じられないくらいの勢いで蹴り飛ばされ 私の横にある門にぶつかった。
かなり大きな音で耳が割れそうになるけど、怪しい男はすぐに立ち上がって猛獣みたいな顔で襲い掛かってくる・・・こっちに。
頭が反応し切れないうちに腕が引かれる。
知らないうちに走り出していた足は、びっくりするくらい軽くて。
いつのまにか、自分でも驚くくらい冷静に周りを見てた私は、その時レオがどんな顔してるのか知りたかった。
でも、見えない。 偶然か、見せないようにしてたのかは知らないけど。





どのくらい、走ったのか判らない。
息が切れて、足が重くなって、つないだ手が痛く感じられたとき、ようやくって感じでレオは止まってくれた。
何でなんだかよくわかんないけど、人目を避けるようにして建物の影に隠れて、息を潜めてる。
ダウンしちゃってほとんど動けない私をより奥に隠すと、1度通りの方を確認してから、レオはその場に座り込んだ。
ようやく見えた顔に残る、殴られた跡が・・・すごく、痛そう。
「・・・レオ、大丈夫? ねぇ、ここ痛くない?」
差し出した手は、払いのけられた。
・・・痛いよね、そりゃ。 赤くなってるし。
でも、ウソでも何でもいいから『大丈夫』とか『ダメ』とか言ってくれたっていいじゃん。


「ねぇ・・・大丈夫、大丈夫? ・・・教えてよ。」
バカみたい。 いくら聞いたって、教えてくれるワケないのに。
こんなのドラマや映画だけで充分。 やっぱ、早く・・・帰りたいよ。
「You might be not painful. Why do you weep?
レオが何か話した。 何だかよく判らないけど、私に向けて。
「You must not weep.
私にくれた(んだと思う)チョーカーの飾りを指先で叩いて、しっかりと私の目を見ながら 一言ずつはっきりと区切って言葉がつむがれる。
単語からして判らないんだから、区切ってどうなるわけでもないのに。
視線を反らそうとしたけど、追いかけるように見つめられる。 太陽みたいな金色の目に、体がすくんだ。

レオは私の肩に手をかけると、立ち上がった。 体にかかった重みがなくなると、私もとりあえず立ち上がる。
怖い顔をして街の方を睨んでいたレオは、よろいみたいなアクセサリーのついた左手を強く握ると、ボールからフルとニュウを出してゆっくりと走り出した。
気が付いたら、自然と私もその後を追っている。
古〜い映画に出てくるような白い建物の外についた螺旋らせん階段を登って屋上に出ると、道向こうの建物の屋上に人の姿が見えた。
「Who are you?
向こうの建物にいる人にレオが問い掛けると同時に、側にいたフルが腰を落として小さくうなり声を上げる。
全然・・・怖がるとか、警戒するとか、そういう感じじゃなく、普通に話しかけられたみたいに向こうの人は顔をこっちへと向けてきた。
ゾッとした。 マジで綺麗な女の人だったのに、何か・・・何か違う感じ。
街中にも関わらず ヒラヒラしたドレスを着ていたその人は、
あっさり視線をそらすとこちらに背を向けて、建物の向こう側へと降りてく。 ・・・ここ、3階のハズなのに。
背筋に冷たいものを当てられたような寒気がなくなったと思って、ふっと体の力を抜いた瞬間、
街の四方で何かが爆発したような大きな音が響き、思わず悲鳴が上がる。





『ミレイ、ヘーキか?』
しゃがみこもうとして、足ひねって、こけた。 メチャメチャ格好悪いよ。
目の前に大きな手が差し出されるけど、お尻は痛いし、体中シビれる。
「・・・ぁっ!!」
すぐに足を隠した。 ・・・見られてないよね。
私が立ち上がらないからか、全然気にも止められてないのか、レオは表情1つ変えずにさっさと手を引っ込めると、爆発のあった街の入り口を見に行く。
青くて、ちょっと寂しそうに見える背中を見ながら、久々の厚底にふらふらしながら立った。
足、痛いけど、言っても どーせレオは解ってくれない。

「・・・も、やだぁ・・・・・・誰よ、こんな服選んだのぉ。」
白いスカートについた泥は、何回も何回も手で叩かないと落ちない。
体固いし無理っぽいけど、身をよじって確認しようとすると、ニュウが見てる。 『ゼータク言うな』ってカンジで。
「文句言わなきゃ気がすまないのっ!」
『ニュウ、ミレイ。』
フルの声がして振り向くと、何気にレオと目が合った。 顔つきが・・・変わってる。
レオは何も言わないで、何度も足元にいるフルを指差した。
『フル、仕事?』
『あぁ。 2手に分かれる。』
『りょーかいっ、いつもの・・・じゃねーけど、バトルだな!』
ほんの一瞬体を沈めて、ブラッキーのニュウは軽快な足取りで飛び出していく。
レオと2人で、金属で出来た階段をほとんど音も立てずに駆け下りていき、私は1人(フルもいるけど)置いてけぼり。
何なんだろう、ホント。 いきなり爆発は起こるし、レオのやってること意味わかんないし、話は通じないし・・・変なポケモンは見るし。
嫌なカンジがする。 日が暮れてきたのとは違う、ゾクゾクした寒気が背中をはいあがってく。


柔らかそうなフルの身体がしなり、自然とそっちに目が動いた。
立ち上がって紫色の目を向けているフルは、どうとは言えないけど何かヘンなカンジがする。
『ミレイ、来てくれるか?』
「どこに?」
『オレたちのバイクに。 手伝って欲しいことがある。』
ちょっと考えてから、私はゆっくり歩き出した。 足はズキズキ痛むけど、今フルにも見捨てられたら私は確実に行き場所を失う。
手すりもない 螺旋階段を、レオの何倍も時間をかけて降りると、足元を青白くも見えるエーフィが追い越して行く。
軽く振り向くと、ひたいの宝石みたいなのが一瞬光って見えた。 もろくも力強くも見える、赤い色。
薄暗い路地。 辺りを見渡してみても、ぼんやりした影ばっかりで足元も見えるかどうか怪しいカンジ。
何か足もネンザしたっぽいし、歩くのしんどそうだなぁ。
「・・・聞いてもいい?」
『何を?』
フルの先導に従って、ゆっくりと歩き出す。
その間にも続く、背筋を伝う嫌な不安と・・・ビミョーな違和感。
「レオは・・・あなたたちは、何者? 一体何をしてんの?」
ちらりとこっちの方を振り向くと、フルは少し走って十字路の左右を見渡した。
長く、先が二股に分かれている尻尾を揺らしながら、私が来るのを待ってる。
けっこう時間かけて私が追いつくと、先のとがった長い耳を少し伏せてから再び歩き出した。
どーでもいいけど、こういう仕草が時々人間みたいに見えるのは何でだろう?

『逃げているんだ。』
「何から?」
『・・・窃盗組織、『スナッチ団』。』
フルは立ち止まると、まるで山のように大きくふくらんでいる布を口でくわえ、引っ張りだした。
モスグリーンの布が払われると、軽いバサッっという音と、小さな風が舞い起きる。
律儀にも地面の上でクシャクシャになったシートを片付けようとするフルの手伝いもせず、私はその下から現れたものに見入っていた。
銀色のムカデのような、大きなエンジンが前面に取り付けられた、私の身長よりも大きな・・・大きな、バイク。
左側にサイドカーが取り付けられ、中には色々と旅の荷物らしいものが積み込まれている。
とてもまとまっているとは言いがたいけど、それだけ大きなものを隠していた布をサイドカーに積め込もうとしているフルに、私は尋ねる。
「泥棒・・・なの? このバイクも?」
『違う。 レオは『物』は盗まない。
 さっき、スタジアム前でレオと格闘していた男たちがいただろう。
 オレたちは組織を裏切った。 だから、追われているんだ。』
「裏切った?」
思考が働かない。 フルが言ったことをそのまま質問へと変える。
『ミレイ、サイドカーの中にダンボールがあるだろう。 その中にあるものを取ってくれないか?』
ワケも判らないまま、重い足を引きずるようにして普通のサイズから比べたら大きなサイドカーへと近づく。
「・・・私、あなたたちのこと・・・信用していいの?」
『疑りたいなら、疑ってくれても構わない。 冷たい目で見られるのは、慣れているから。』
固く貼られたガムテープを引きはがすと、箱いっぱいに詰め込まれた『おがくず』が顔を覗かせた。
運動会の障害物競走でもやっているみたいに中にある物を手を突っ込んで探すと、手の平が冷たくてすべすべしたものに当たる。
『レオが、ミレイに興味を持っている。
 物心ついた頃から傷つけること、奪うことだけを教え込まれ、それを疑うことなく生きてきた。
 オレとニュウは、ミレイがレオを変えてくれることを期待している。』
手の平に当たったものを取り出してみると、それは、見覚えのある物体、モンスターボール。
『それを、レオのところへ届けてくれないか? もうすぐ、近くまでやってくるはずだ。』
「私が?」
『ミレイにしか、出来ない。』



何よ、それ。
「無理・・・足、痛いもん。」
『ミレイ、建物の向こうに行くだけでいいんだ。 前方に投げればレオは受け止められる。』
「やだ、怖い!」
『その‘怖いもの’は、確実に近づいているんだ!』

解ってる。 でも・・・!

『それと戦っているレオはどうなる!?』

行きたくない・・・

『ミレイ、ミレイ、勇気を持て! 輝け!』
『・・・ミレイ!!』
ニュウの声が聞こえる。 すぐ近くまでやって来てるんだ。
誰かの悲鳴と一緒に、何かがぶつかり合うような音や、ガラスの割れるような音が聞こえる。
ずっと感じている、『嫌な感じ』も一緒に、近づいてくる。
『フル! モンスターボールまだかよ!? こっち限界だっつーの!』
『ミレイ、頼む! ミレイのことは、オレが必ず守るから心配ない。 レオを、助けてくれ!』


モンスターボールを持った手を少し動かすと、指先が少し冷たくなった。
そんなに遠くないトコから、レオが叫ぶ声が聞こえる。
壁に沿って走る・・・壁に沿って走るだけで、フルや、ニュウや・・・レオたちは助かる。
「本当に大丈夫なわけ・・・?」
念のためにもう1回聞くと、フルはしっかりと私を見据えて「あぁ」と返事をした。
走るだけ、このモンスターボールをレオに渡すだけ。
鉛みたいに重い足が動くと、フルはバネのように身体をしならせて走り 私がちゃんとついてきているのを確認しながら細い裏道を駆け抜けた。
暗い場所から急に出たせいで、目の前が白む。
月の光を受けたせいか、ひたいや耳の黄色い輪がぼんやりと光っているニュウが飛ぶと、
フルは 姿勢を低く構えレオを囲むようにして立ちはだかっている集団に鋭く吼えた。

『遅いっつーの! こっち6人相手に頑張ってたんだからな!!』
何とか体勢を立て直すとニュウは体を震わせ、叫びながらもレオを囲んでいる集団の方へと走り出した。
1人でも引きはがそうと攻撃を放ってみてはいるものの、相手の数が多すぎてほとんど効いてないってカンジ。
『すまない、状況は?』
『あんまり良くねーな、他の奴らは普通なんだけどさ、1匹だけヘンなのがいるんだ。
 そいつがレオを攻撃しやがって、レオの奴、思うように動けねーみたいなんだ。』
エーフィの耳が、ピクリと動く。
突然通りの向こう側が明るくなり、真っ赤に燃える『何か』がこちらへと向かって突っ込んできた。
臆することもなく突進してくるポケモンへと向かって、フルは『ねんりき』で応戦する。
だけど、威力が足りていないのか、痛みを感じる様子もなくポケモンは攻撃を続け、私たちが慌てて飛びのくと近くにあった木箱を破壊した。
1メートル足らずの小さな体から放たれる炎で、周囲は赤く照らされ、その間から黒いオーラのようなものが立ち昇る。


『ミレイ?』
「やだ、あの黒いオーラみたいなの・・・気持ち悪い!」
『黒いオーラだって? やっぱあいつ、普通じゃねーんだな。』
尻尾を細かく震わせて威嚇いかくすると、ニュウは飛びかかってきた別のポケモンを足で蹴り上げる。
黒いオーラのポケモンは攻撃した時に反動でもきたのか、おぼつかない足取りでこっちへと向かってきた。
よく見たら、戦ったせいだと思うけど、見てられないくらい全身傷だらけ。 肩から流れた血が地面に落ち、赤い模様を作っている。
『ニュウ、あいつにどのくらい攻撃した?』
『‘ひみつのちから’使ってから、3回噛みついた。 普通倒れてるハズなのにさ、向かってくるんだよ。』



・・・まるで、戦闘マシン。
低くうなり声が上がるたび、小さなマグマラシの体からくすぶった煙のようなオーラが沸き上がる。
『ミレイ、その黒いオーラのこと、レオに伝えてくれないか?』
「ちょっと待って、どーやって!?」
フルがうなりを上げるポケモンと睨み合いながら、低い声で問い掛けてくる。
どっちみち逃げられる状況でもないし、分からないではないんだけど、大人6人に囲まれてるレオに近づくなんて、ハッキリ言わなくたって無理。
そのくらい判って欲しいナと横目でフルを見たとき、レオを取り囲んでいる男たちの中に、全身赤い服を着た男がまぎれ込む。
一瞬レオを囲む人波が引いたかと思うと、レオの放った後ろ蹴りと赤い男の繰り出したハイキックが交差した。
力の差かレオの方が押し負け、体が引かれると黒いオーラを放ったマグマラシが追い討ちをかけようと走り出す。
『させねぇよっ!』
戦っていたゴニョニョを弾き飛ばしたニュウが、マグマラシの前足に噛み付き引き倒す。
もうほとんど体力も残ってないのか、2、3度転がると、マグマラシは黒いオーラと共に全身から炎を吹き出しニュウに反撃した。
その様子は、迫力っていうより、痛々し過ぎて、見ていられない。
深く息を吐くと、フルは4本の足に力を込めて飛び出す準備姿勢を取った。
『活路はオレが開く。 ミレイはレオに向かって持っているモンスターボールを投げて、
 叫んでくれ‘スナッチ’と。』
「『スナッチ』?」
『なになにぃ、やるの?』
『あぁ、教えてやろう。 オレたちがただの泥棒じゃないってことを!』


大きく地面を蹴って、柔らかなエーフィの身体が飛び出して行く。
まるでダンスのステップのように軽やかに、ブラッキーとマグマラシの間を通過して程よく引き離すと、
人間に攻撃するフリをしてレオの周りを取り囲む男たちを引きはがした。
あっという間に障害物のなくなる、私とレオの対角線。
アメジストのような瞳に動かされるように、私は手にしたモンスターボールをレオへと向かって、高く、投げ上げていた。
震える体を抑え、傷だらけのマグマラシを指差す。
「レオ、『スナッチ』!!」
モンスターボールを受け取ったレオの目が、一瞬大きく見開かれる。
遠くから事の成り行きを見ていた街の人たちもざわつく、だけど、引き下がれない。
「『スナッチ』!!」
私はもう1度叫んだ。 それと同時にレオの顔つきが変わり、他のものを一切無視する形でマグマラシを睨み付けた。
モンスターボールを左手に持ち替えると、弓を引くように体の後ろへと回す。
腕が体の真後ろまで引かれると、左手につけられた肩と腕のアクセサリーが発光し、夕暮れの道を照らした。
ピリピリした空気が体の横を流れたと思った瞬間、レオは体ごと腕を回転させ、モンスターボールを黒いオーラのマグマラシへと向かって投げ付ける。
腕のアクセサリーから力を受け取ったように、力強い光を放ったモンスターボールは ほとんど動けない状態のマグマラシにぶつかり、
アミのような、クサリのような形をした光が黒いオーラごと体を包み込んで小さな球体の中へと引き込んでいった。
あがき、暴れるようなシルエットと甲高い悲鳴を残して、マグマラシの姿は消え去り、代わりに夕陽に反射する丸い物体が石畳の上に転がる。

・・・トレーナーのポケモンを、奪うなんて。
あまりの出来事に黒いオーラのポケモンを使っていたトレーナーも、街の人たちも静まりかえるなか、
レオは無言で落ちているモンスターボールを拾い上げ、ホルダーへと収めた。
「Snatch completion.
低い声が噴水の音に混じって聞こえると、途端に周囲の人はどよめきだした。
アクセサリーのついた左手で別のモンスターボールを(ていうか、ニュウのなんだけど)
持って構えると、怪しい集団は自分たちのポケモンを取られまいと1歩下がる。
ピリピリとした空気が走るなか、レオがモンスターボールを持った手にぐっと力を込めた瞬間、
めっちゃめちゃ緊張感のない声が響いてきて、雰囲気を台無しにされた。





「Holla,Rosso! I completely blockaded the gate of the south.
今度は全身青いスーツの男。 真っ赤だったり、青かったり、ヘンな上司のいる集団。
呆然としていた私たちは、その声で我に返り再びどよめきだす。
再び、悪寒。 出所を確認すると、青スーツの足元にいるアリゲイツが黒いオーラを放っている。
「フル、ニュウ、大変!! また黒いオーラのポケモン!」
『何だって!?』
疲れてるだろう身体にムチ打って警戒するフルとニュウ。
ただごとじゃない雰囲気に、明らかについていけてない青スーツ。
「Bruno,harry up! Return earliest!
「why?
「My Pokemon was snatched. A dangerous man showed up!
赤スーツが叫ぶと、怪しい集団は一気にざわめきだし、一丸となってその場から逃げ出した。
何か連絡手段があったのか、街の東西も にわかにざわめきだし、集団はしばらく大騒ぎした後、波が引くように静かになっていった。



静かなような、騒がしいような、妙な空気が流れてた。
街の人々はレオのことを、あまり好意的とは思えない目で見ている。
『見ていたか? トレーナーの持つポケモンを奪い取る・・・これが『スナッチ』だ。
 これが出来る機械は全て壊され、今レオが持っている1台だけだ。 スタジアム前で会った奴らは、それを狙ってきた。
 そして、レオの入っていた組織『スナッチ団』は、今も指名手配中だ。』
私は、言葉を失う。 こんなこと言われて、どう返せっていうの。
全然悪びれた様子とかもなく、レオはニュウとマグマラシの入ったボールを持ってポケモンセンターの(いつのまにかセンター前まで来ていた)奥へと向かう。
行き場を失った街の人たちが注目するのは、当然バトル中に叫んじゃった私。
どう考えてもグルにしか見えないよね・・・メチャメチャ居心地悪い空気。
言い訳しようにも言葉は通じないし、どうしようか考えてたとき、ポケモンセンターの裏手からあの大きなバイクを押しながら、レオが現れる。
いつのまにか集まっていた人ごみの中から、昼間レオと話していた若い男の人が飛び出し、レオの背中に叫びかけた。
「Wait! It is a rumor heard from the student. Is the rumor that you are the"TEAM SNATCH"true?
「Is there a problem in it?

レオは短く返すと、フルとニュウを呼び寄せる。
無表情のままバイクにまたがり、イグニッションキーを回す。
響き渡る爆音。 やけに静かな街の中を走り抜ける音をかき消すように、男の人はレオへと向かって言う。
「Get away with you!
『あーあ、やっぱり追い出された。』
『どうする?』
闇にも近い夕暮れの中、フルが問い掛けてくる。 顔を上げると、一瞬レオと目が合ったような気がした。


『この街なら、安全だぞ。』
音の変わったエンジン音が、出発が近いことを告げる。
もう1度街の人たちの顔を見てみるけど、どう考えても私、歓迎されてない。
怖いけど、逃げ場も隠れ場所もない。 ・・・っていうか、せっかく話が通じるのにフルとニュウに行っちゃわれると、すんごく困る!
「・・・待って、レオ!! 私も連れてって!!」
痛い足をガマンして、フルのいるサイドカーへと飛び乗る。
ポケモン1匹に加え荷物がゴチャゴチャと置いてあるせいでかなり狭いけど、今は文句も言ってられない。
何とか場所を取れるよう、エーフィを抱きかかえてバイクの操縦席を見上げると、
レオは驚いたような、呆れたような顔をしてから小さくうなずき(うなずいたように見えた)、何も言わずにハンドルを握る。
バイクがゆっくりと動き出すなか、勝手に出てきて ますますサイドカーを狭くするブラッキー。
『また泣いて、レオのこと引き止めるかと思ったよ。』
「私は家に帰りたいの! 大体間違ってても私の名前呼べる人、レオだけでしょ!?」
『危険な旅になるがな。』
ニュウの首に腕を回すと、大きなバイクは加速する。
前髪が吹っ飛びそうな、悲鳴を上げたくなるくらいのスピードを出して、レオと私とニュウとフル、
それに『スナッチした』マグマラシを加えた2人と3匹は、夜の砂漠を走り出した。


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