Chapter13:sender−Mirei
=虹色の翼=




 昔、このオーレ地方には『ホウオウ』っていう、とても綺麗な虹色の羽根を持った伝説の鳥ポケモンがいたらしい。
 ここより東にある『バトル山』っていう山のてっぺんに住んでいて、人と関わるようなことは滅多にない。
 虹色のポケモンには子供がいて、1度、ローガンおじいちゃんは仲間たちと共にその子供を捕まえようと、バトル山を登ったそうだ。
 けど、ホウオウも自分の子供を守ろうと戦って、人間と伝説のポケモンとの戦いは、3日3晩続いたらしい。
 お互いにボロボロになった頃、戦いは意外な形で決着がついた。
 どこからともなく現れた『セレビィ』っていうポケモンが、ホウオウの子供と、戦っていた人間の何人かを次元の狭間に送り込んでしまったらしいのだ。
 それ以来、バトル山の頂上まで登ってホウオウを捕まえようと考えた人間は出ていないらしい。



アゲトビレッジ、引退したトレーナーたちが住む、静かな谷。
夜に女の子1人で歩いていいくらい、平和で、静かで、ここだと、いろんなことを考える。
「はぁ〜・・・」
思いっきりため息ついてみたけど、気分は晴れなかった。
手に持った紙に、もう1度目を落とす。
レオからって言って、セツマおばあちゃんから渡された手紙。
文字はセツマおばあちゃんが書いたものだけど、中に書かれた言葉は、間違いなく、レオのものだ。


 ミレイ、お前は狙われている。
 狙っているのは『シャドー』という組織で、お前が常人には見えないダークポケモンの『何か』を知ることが出来るのが、奴らにとって邪魔なことらしい。
 俺は、お前が俺に、ポケモンを「スナッチしろ」と言っていることと関係があると考えている。
 俺は、お前に対して恩がある。
 だから、ミレイが「スナッチしろ」と言えば、俺はポケモンをスナッチする。
 ミレイがが襲われそうになれば、俺が守る。

 海と山を越えた、はるか遠くの地に、ミレイの世界はあるらしい。
 そこへ行くには膨大な時間を費やす上、危険も伴う。
 無事に辿り着けるという保障はない。 だから、自分の世界に帰るかどうかの判断は、ミレイに任せる。
 もしもミレイが、自分の世界に帰りたいと思っているのなら、その時は俺に言って欲しい。
 お前が安全に自分の世界に帰れるよう、俺はお前をガードしよう。

 PS.俺はミレイを泣き止ませる方法を知らない。 お前は安全だ、だから泣くな。


「・・・こんなこと、考えてたんだ。」
渡された手紙を胸に抱くと、くしゃっと音が鳴った。
鼻の頭から落っこちた涙が、地面に落ちるまでの間、月の光にさらされてキラキラと光っていた。
レオに釘刺されても止められないなんて、ダメなミレイ。
なんて、弱い人間なんだろう。

『また、泣いてるのね。』
ハーベストは、谷から吹き上げる風にのってやって来た。
立ってるのが辛くて、私はその場に座り込む。 夜風にさらされた草の感触が、ひんやり冷たい。
『泣いてばかりいると、レオ様に呆れられちゃうわよ。』
「へへ・・・もう、そうなっちゃったみたい。」
無理矢理笑ってみるけど、やっぱりカッコワルイ。
震えてた。 指先、唇、足に肩、心も。 どうしたらいいの、頭の中グチャグチャ。
「レオがね、私を、家まで帰してくれるって。」
『良かったじゃない。 帰りたかったんでしょ?』
首を振った。
家に帰りたい、お父さんやお母さんに会いたい。 その気持ちは今でも変わらない。
「ダメなの・・・家に、帰りたいよ、帰りたいけど、レオと、別れたくないの。
 分かってるんだよ、私と、レオは、ホントは違う場所の人間で、好きになったって・・・いくら、好きになったって、絶対報われないってことくらい。
 でも、ダメなんだよ。 なんか、ねぇ、どうしてかなぁ・・・?
 どうしたらいいんだろ、ハベ?」
どうしようもなく苦しくて、苦しくて・・・
頭では解ってる、帰らなくちゃいけないって。 けど、こんな気持ちのままじゃ、帰れない。
言ったら余計に止まらなくなる。
視界の端っこで、ハーベストは黄色い花びらを風に揺らした。
『あなたは、幸せね。』
ハーベストに、そう言われると、途端に私は自分が贅沢な話をしていることに気がついた。
『野生の血は、賢いわ。 より確実に自分の子孫を残すため、動物は本能的に近くにいるより強い異性に惹かれるように出来ている、そして、達成が不可能だと思えば安全な場所へ逃げることも出来る。
 でも、ミレイはそれをしない。 出来ないほど、恋焦がれる相手に出会ってしまった。』
膝にすり寄ってきたハベを、私は抱き上げた。
違う生き物であるポポッコの体温が、ひんやりと冷たい。
「どうすればいいの?」
『思ったとおりに動けばいいわよ。 考えてどうなる問題でもないし。
 それよりも、私だってちょっとは辛いんだから、早く諦めさせてよね!』
ちょっとおどけた口調でハーベストが言うと、何だかおかしくなって、ちょっとだけ気分が軽くなった。
真剣に言ってるのは解ってたんだけど、笑うとこでもあったんだと思った。


カラカラになるまで泣いて、私は立ち上がった。
「帰ろうか、1晩寝たら、何かいい考え浮かぶかもしれないしね!」
ハベを降ろして、1歩踏み出すと、サクッと柔らかい草が折れる感覚が足の裏をくすぐった。
妙な違和感。 ここに来た時、この草、こんなに伸びてたっけ?
『どうしたの?』
「ん、何か、草が・・・」
『草?』
「・・・きゃっ!」
強い風が吹いて、慌てて服の端を押さえる。
踏ん張りきれなかったポポッコが、かすかに悲鳴を上げながら、枯れた木の上の方に向かって飛ばされていった。
振り向いて飛んでいった先を目で追おうとしたけど、わずかに注いでいた月の光をさえぎられ、私はハベの行き先を見失う。
背にした月を、恨めしく睨んだ・・・つもりだった。
だけど、その光をさえぎったのは、雲ではなく、巨大な、鳥。


「・・・・・・な・・・に?」
無意識に1歩下がる。 でも、ダメだ、それくらいじゃ逃げられない。
淡い月の光に透かされて、大きな鳥の風切り羽が虹色に輝いているのがわかった。
ホウオウ・・・短くて重い、そのフレーズが、頭をよぎった。
シルエットが近づいてくる。 暗い闇の中光る鋭い目が、私を狙っていると気付いたのは、太い足に組み伏された後だった。
押しつぶされそうなチカラを背中に感じると、腕、足、体が地面から離れ、飛び上がっていく。
「・・・ッ、レオーッ!!」
怖い。 チカラの限り叫ぶと、家の窓からレオが飛び出してくるのが見えた。
手を伸ばしても、届かない。 どんどん遠ざかっていく。 嫌だ、怖い!
「離して! 離してッ!!」
『大人しくなさい。 人間がこの高さから落ちたらひとたまりもありません。』
女の人のような声がして、私は上を向いた。
大きなクチバシに、金色のとさか。 今までに見たことのない、改めて見ても、本当に大きなポケモン。
『あなたと話がしたいのです。 そのためには、他の人間たちから離れる必要がありました。 取って食うようなつもりはありません。』
「・・・あなた、ホウオウ?」
『人間には、そう呼ばれています。』
「喋れるの・・・?」
『いいえ、私は人間と言葉を通じ合わせることはしません。
 こちらこそ尋ねたい。 何故あなたは、私たちの言葉を理解しているのです?』
「そんなの・・・!」
わからない、と言おうとして、痛くなった耳を押さえる。
慌ててツバを飲み込んで、破裂しそうな鼓膜を何とか元に戻そうと頑張ってみた。
そろ〜っと下を見てみると、景色はずいぶんと変わっていて、どのくらい深いのか想像もつかないような谷が一面に広がっている。
ホウオウは、さらに上昇すると雲の上まで飛び上がった。
一体何メートルあるのか分からないくらい高い山の上に降ろされて、私は、オーレに来た時と同じに、途方に暮れていた。



雲の上・・・そう、雲の上としか言いようがなかった。
どのくらいあるのかも想像のつかない山の下には、夜の明けない空の色を映した雲が広がっていて、上を見上げれば、淡く浮かんだ満月と、ぞっとするくらい光に満ち溢れた星たち。
不安や、心細さを紛らわすために、私は無意識のうちに首のチョーカーに手を当てていた。
連れ去られる現場を見ていたのだから、絶対にレオは来てくれる。
そう信じるしかなくて、それでも怖さとかは残ってて、震える身体を止めることは出来なかった。
『あなたたちが言うところの時間で、3年ほど前のことです。』
唐突にホウオウが切り出して、私は顔を上げる。
『オーレ地方に、古来から住み着いている野生のポケモンは存在しません。
 今この土地にいるポケモンたちは、たまたまこの土地に住み着いたセレビィが、気まぐれに連れてきたポケモンだけのはず。
 それが、3年ほど前より、急に姿を増やし始めました。
 いくら『あれ』が気まぐれだとはいえ、あり得ないほどの量がこのオーレ地方に流れ込んできているのです。』
「あまつさえ、私みたいな人間まで連れてこられちゃったって、そう言いたいの?」
私が言い返すと、ホウオウは虹色の羽根を畳んで私の正面に座った。
めまいがする。 休む間もなく次から次へと色んなことが起きてて、もう何が何だか・・・
『あなたがオーレに来たことを、私は悪いことだとは思っていません。
 あなたと出会わなければ、レオは自分の心を取り戻すことをしなかったでしょう。
 この地に増えつつある、心を閉ざしたポケモンたち、それを救うことが出来るのも、あなたたちだけです。』
「レオを、知ってるの?」
『・・・‘ミレイ’』

名前を呼ばれて、身体がすくんだ。
怒られたわけじゃなかったけど、なぜか、ホウオウが怒ってるような気がしてしょうがなくて。
『外から来たあなただからこそ、聞きたいことがあります。
 ミレイ、この世界はあなたの目には、どう映っているのですか?』
顔を上げると、ホウオウは私のことをまっすぐに見つめていた。
細やかな星の光を浴びて光る羽根が、すごく、綺麗で、怖くて、私は、身震いする。
冷たい風が吹いていて、私はそっちの方を気にしていた。 もしかしたら、気を紛らわしたかっただけかも。
「・・・怖い。」
そう、つぶやくと、ホウオウのクチバシがかすかに動いた。
夜風から守るために上着の前を閉めると、私はホウオウの方に顔を向ける。
「怖いの。 私の世界では、当たり前に野生のポケモンがいたし、ポケモンと人は仲良く暮らしてたし、いきなりさらわれたりとかしなかったし。
 私がオーレ地方ここに来たとき、なーんでこんな貧乏くじ引いちゃったんだろうって、そう、思った。」
『そうですか・・・』
「でもね、」
私が言葉を続けると、ホウオウは顔を上げる。
「『貧乏くじ』じゃないなって、さっき、ハベと話してて思ったんだ。
 怖いけど、ドキドキするの、嬉しくなることもあるの。 カントーじゃ当たり前だったことが、オーレで全然当たり前じゃなかったって気付いたこともあるし。
 元の世界に帰るかどうかも、まだ、迷ってるの。
 だって、私が帰ったら、もう、レオに会えなくなっちゃうから・・・」
また泣いてるよ、泣き虫ミレイ。
誰も拭いてくれない涙は、自分の袖で拭うしかなかった。
かすかな星の影に、赤い影が落ちる。 見上げた先にいたホウオウの表情が、暖かい。

ホウオウは自分の翼から羽を2、3枚抜くと、私に渡した。
大きくて綺麗な虹色の羽に触れると、体の中に、熱い衝動みたいなのが走り抜けていく。
『今夜はここで眠りなさい。 それを被れば少しは暖かいはずです。
 明朝、私があなたをアゲトまで送り届けます。』
「でも、きっとレオは今頃こっちに向かってるわ。」
『大丈夫です。 低いところを飛び、あなたの姿をレオに見せれば、あの子は追いかけてくるでしょう。』
ちょっと考えれば、それが色々に危ないことだっていうのには気付いたはずなんだけど、私はその答えで納得した。
体の半分くらいある大きな羽を抱くと、体中に炎が巡るような暖かさがあって、すぐにでも眠れそうな気がする。
なんだかんだいって、疲れてたのかも。
ホウオウが作った巣の中にころんって横になると、柔らかい羽を被って、私は本当にすぐ眠っちゃっていた。





翌日(かな?)、私はパチパチと火の焚かれるような音で目を覚ました。
起き上がってみてみるけど、まだ夜も明けてなくて空が暗い。
ホウオウは眠っていなかったのか、先に起きてたのか、私の隣にいて、山の下に広がる雲の海を睨みつけていた。
私が起きたことに気付くと顔を上げて、いつの間にか増えていた水の入った大きな金だらいのようなものをクチバシで指す。
『ふもとから水をくんできました。 しばらくはそれでしのぎなさい。
 どうやら、あなたを今すぐ地上に帰すわけにはいかないようです。』
「ええぇ!? どうしてぇ!?」
『山のふもとで、悪意を持った人間たちがひしめいています。
 レオはそれに近づこうとしている。 今降りていったら、確実に両方と鉢合わせしてしまいます。』
めまいがして、私はその場に座り込んだ。
頭が痛い。 どうしてこう、絶望的な状況が続くんだろう。

大きな器から水を少しだけすくって飲むと、私は薄明るくなり始めた雲を見下ろした。
何だか吐き気がしてきたし、さっきよりも頭がガンガン痛くなってきたし、よく分かんないけど、調子悪い。
気分紛らわすような物も何もないし。
「いつも、こんなとこにいるの?」
静か過ぎる場所だったから、小さな声で尋ねてもすぐに声は届いた。
ゆっくりとホウオウが顔を私の方へ向けると、胸から抜け落ちた羽が足元をすべり、キラキラと輝く。
『えぇ。 何故?』
「あの・・・なんか、淋しそうな場所だし、いつもこんなとこいて、退屈しないのかな〜って。」
もう1度手のひらで水をすくって、飲む。
ヤバイ、風邪引いたかも。 ホントに気分悪くなってきたし。
立っているのも辛くて、とりあえず座る。
風向きが変わったのかただよってくる硫黄っぽいニオイも、あんまり気分のいいものじゃなかった。
ホウオウはさっきと変わらない、厳しい表情をしたまま、大きな翼をはためかせる。
『淋しい? 何故?』
「え、だって、こんな山のてっぺんじゃ誰も来ないでしょ?
 そしたら、ずっと独りってことじゃない。 それって淋しいんじゃない?」
『私の能力ちからを利用しようとする者たちに、取り入れと、そう言いたい訳ですか?』
「違うッ! そうじゃなくて・・・!」
肌がピリピリして、私は言いかけた言葉を止めた。
怒ってる、間違いなく。 七色に光る羽の間から発せられる熱気が、熱い。
『人間たちは、生まれたばかりの私の子を殺そうとした・・・!』
意識が遠のきそうになる。 怖い、けど、逃げられない。
『私にとって、人間は憎い敵。 あなたも、他所よそから来たのではければ、焼き払っているところです。』
「そうかもしれないけど、でも、そんな考え方、悲しいよ!!」
立ち上がると、頭の上に鉛がのしかかったみたいなめまいがして、平衡を保っていられなくなった。
倒れそうになって、思わずホウオウの胸にしがみつく。
ふと見た眼下の景色に気を失いそうになったけど、まだ、足は動く。
「私は好きだよ。 みんな・・・」



体力を使い果たして、崩れこんだ私は頭が地面につく前に大きな硬いものに抱えられた。
腰の辺りを支えられると、大きく持ち上げられ、暖かいところに降ろされる。
意識はそこで途切れたけど、何かが、ずっと見え続けていた。
なんていうのかな・・・自分、そう、1番最初に見えたのは自分だったの。
夕焼け色の羽根に埋まる自分をじっと見た後、ホームビデオみたいに画面は動いて、雲の、下へ。
七色に輝く羽根をまとった、翼が、動く。
山の斜面に爪痕を残すと、風の流れに沿って、大きな鳥は降下し始めた。
雲を突き抜けると、赤いアメーバみたいな溶岩の流れる山が、眼前に広がる。
人がそこを通れるように、溶岩と溶岩の間に渡されている、鎖でつながれたつり橋。
地下に留められた水もなく、ただひたすらに熱せられる空気が、わずかばかりの水蒸気をも上昇させていく。
既に見つかっていた。 自分を指差す人間たちを睨み付け、ホウオウは探している、わずかな光を。
山を降りるにつれ、人間たちの数は増えていった。
熱くたぎる山の間で、ホウオウは探していたものを見つける。
エーフィとブラッキーを連れ、金色の瞳をミラーゴーグルで覆った、砂色の髪をした少年。
それと対峙している人間が従えているポケモンを見ると、ホウオウは怒りの心をいっそう強くしているようだった。
『エンテイ・・・!』
音を立てて羽ばたき、ホウオウはレオと対峙している人間との間に降り立つ。
自分に向かって攻撃しようとする大きな獅子のようなポケモンへと向かって赤い炎を吐くと、ホウオウはレオに背を向けた。
手が伸びてくる。 それとも、爪? どっちでもいいや、怖くないし。
誰かに腕をつかまれると、『私』はその誰かに抱きかかえられた。
・・・なんだろ、すっごく、あったかい。


「な、に・・・?」
目の前がボーっとしてて、なんだか意識もはっきりしない。
体が熱いのは、山を覆うマグマのせい? じゃあ、足元が冷たいのは、何故?
黒いオーラが見える、赤い、大きな、4つ足のポケモン。
ダークポケモンはホウオウを襲おうとしている。
守らなきゃ。



ワタシガ、マモラナキャ・・







「ミレイ!!」
「えっ?」
急に体を抱きしめているチカラが強くなって、我に返って辺りを見回してみると、眉を潜めているレオと目が合う。
金色の瞳がまぶしくて、じっと見てられなくって目をそらすと、いつの間にかダークポケモンもレオと対峙してた人もいなくなっていた。
「あれ?」
何してたんだっけ、私。
うまく思い出せずに考え込んでいると、バサッという羽音が聞こえて顔を上げる。
空一面を覆っているような大きな虹色の鳥は、やっぱり少し怒ってるみたいだった。
ホウオウは、私じゃなくて、レオを見ていた。 レオを見て、怖い顔して、少しうつむくとレオに話しかける。
『いつまで見て見ぬふりをしているつもりですか。 早く決断をなさい。』
振り返ってレオの顔を見てみると、眉を潜め、いぶかしんでいるような表情をしていた。
もう1度大きな羽音を響かせ、ホウオウは薄く雲のかかった空の上へと飛んでいく。

輝くようなその姿にしばらく見とれていたけど、急にレオが頭に触れたりするもんだから、ビックリして体が跳ね上がった。
レオと視線が合う。 もう見慣れたネイビーブルーのコートに、白い肌。
ほっとして体が震えだしたのも束の間で、すぐに体を持ち上げられると猛スピードでの移動が始まった。
「えっ、待って待って・・・! ちょっ、これって・・・!!」
お姫様ダッコ・・・!?
落ちたら二度と上がれなさそうな谷の上。
怖いし恥ずかしいし、声も上げられずにレオにしがみついた。
フルとニュウは何も言ってくれない。 ていうか、あいつら、顔見合わせて笑ってる!
「もー!」
やっと出た言葉がそれで、情けなさもプラスして顔がどんどん熱くなってくのが分かった。
オーレに来てから、こんなのばっかり。
赤くなってる顔を見られたくなくて、私は、鉄のニオイのするレオの肩に、顔をうずめた。


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