Chapter15:sender−Mirei
=光であるために=




どうしよう。
うーん、どうしようっていっても、何か出来るわけでもないんだよね。 動けないし。
砂だらけのコートに、ほとんど整えられていない髪に、いつにも増して顔色も悪くて。
アタリマエ。 パイラでの傷も、まだふさがってなかったハズだし。
やっぱり、無茶してたんだろうな。
車に入った途端に眠っちゃって、動き出したら椅子からずり落ちかけて、
途中で足が突っ張ったから完全に落ちることはなかったけど、砂の匂いがする頭は、私の肩の上。
オイシイっていえばそうなのかもしれないけど、運転してる人はさっきからこっちのことチラチラ見てるし、恥ずかしいなぁ。



「Why were you in that place?
「えっ・・・!?」
運転してる人が話しかけてるの、私・・・だよね。 他にいないし。
ヤバイよ、えーっ、どうしよう。 レオは助けてくれないし、話全然わかんないっ!
「まて、待って・・・えっと、私・・・!」

「生まれ、ドコ?」
「・・・・・・えっ? えっ!? 言葉解るの!?」
展開はいつもイキナリ。
大声出しそうになったけど、ギリギリ、肩からレオがずり落ちそうになって押し止まった。
起きる気配はなかったけど。 レオは驚くくらい熟睡している。
「僕ハ、父親ガ、ジョウトの生まれダ。
 だから、少し、言葉、解ル。」
マサのときより、ずっとたどたどしい言葉だったけど、ちょっとだけ安心した。
心臓がドキドキしてる。 やっと、ちゃんと自分の言葉で話せるんだ。
「私は、私はホウエンで生まれたの! それで、大学入るときにカントーに移り住んで・・・あ、ジョウトも好きだよ!」
やばっ。 少し早口過ぎたかも。 落ち着かなきゃ。
「何で、オーレに来タ?」
「何でって・・・よく、わからないの。 いきなり空がピカッて光ったと思ったら、地面が抜けたみたくなって・・・
 気がついたらオーレのど真ん中。 それで・・・」
言えなかった。 『シャドー』ってのに捕まって、散々実験されてたなんて。
動かない口に、いつのまにか心に鍵がかかってることを気付かされた。
泣くな、ミレイ。 そう念じ続ける。
「それで」はつなぎの言葉。 だから、運転手さんが私の言葉を待ってる。
どうしようか考えていたとき、車が少し揺れてレオが小さく声を上げた。
・・・顔が熱いのは、絶対日差しのせいじゃない。

「『神隠し』ヲ、知っているか?」
しばらく沈黙が続いた後、運転手さんはそう切り出してきた。
首を横に振ったけど、通じてない。
「知らない。」
少し考え込むようにした後、運転手さんは続ける。
「アゲトビレッジの奥深くニ、小さな祠がアル。
 そこに『セレビィ』というポケモンが来ると伝えられてイルが、このポケモンはきまぐれで、たまに別の世界からポケモンを連れ込んでクルらしい。
 ヒトが連れてこられタという話は聞いたことがないが、もしかしたら、そのコトと関係あるかもしれない。」
また、『セレビィ』。 ホウオウの子供を連れ去って、別の世界からポケモンを(もしかしたら人間も?)連れてくる。
それでそのホウオウに今度は私が連れ去られたわけで・・・話としてはバラバラだけど、なんか関係あるような気がしてきた。
それと、レオ。 レオは分からなかったみたいだけど、ホウオウはレオのこと知ってたっぽい。
どれがどこに関係してるのか判らないけど、このバラバラをつなぎ合わせなきゃ。
私が帰るためのヒントも、そこにあるかもしれないし。



お昼頃になって、車はアゲトビレッジに到着した。
砂漠の金色に目が慣れてたせいか、緑色が目に痛い。
いい加減、レオを起こさなきゃ。 まだ寝かせてあげたいけど、少なく見積もっても60キロとかありそうな男の人を抱えるなんて、私には出来ないし。
「レ・・・」
「待っテ。」
揺り動かそうとした手を止められる。
運転手さん・・・セネティさんっていう名前らしいんだけど、その人はダッシュボードを開くと、薄緑色の、細長い棒のようなものを取り出して、私の方へと差し出した。
なんだかよく解らないまま受け取ると、棒に触れた手のひらが、ひんやりと冷たい。
「『時の笛』と呼ばれてイル。 アゲトビレッジにある祠の前で吹くと、セレビィが現れるラシイ。
 私ハ、君が持っているノガいいと、思ウ。」
何か、すごい重要なものを渡された気がしたけど、私はそれを受け取った。
レオが持ったとしたら、私を元の世界に帰すために、間違いなく、すぐ使っちゃうだろうし。
もちろん、帰りたい気持ちは変わってない・・・っていうか、むしろ強まってるくらいなんだけど、こんなワケわかんない状況で帰るのは、ヤダ。
帰るのは、何が起こって、これからどうなろうとしてるのか、ちゃんと見てからでも遅くないと、思う。
怖いけど。


レオは起きると、何か届いてたらしい荷物にプリプリ怒ってから(あんな露骨に怒るレオ初めて見た)、ローガンおじいちゃんと一緒にどこかへと歩いていった。
ポケモンたちはほとんど連れてっちゃったけど、一応『護衛』って名目をつけてニュウを置いてってくれた。
でも、なんか違う。 ホントに守られてたパイラとは違って、どっちかっていうと、話し相手? うん、私がさびしくないようにってカンジ。
やることないから、私はセツマおばあちゃんを手伝って食事の準備。
足元で動くニュウがくすぐったい。
「なんか、会ったときと、感じ変わったよね。」
『誰が?』
「ニュウもそうだし、レオも。 あ、あとダークポケモンだった子たちも。」
新鮮な野菜に触ったのなんて、どれくらいぶりだろう。 カントー出てから自炊サボってたしなぁ・・・
後ろにポケモンがいて、何の心配もしないで食事の手伝いして。 私の世界ってこんな感じで毎日が続いてたんだなぁ。
『レオが変われたのはさ、ミレイのおかげだよ。』
「私の?」
『ミレイみたいに、ムショーでアイジョー注いでくれる人いなかったからさ、多分嬉しいんだ。
 スナッチ団にいた頃、信用してくれる人も、信用出来る人も、いなかった。』
蒸した方が、野菜柔らかくなるかな。 ここも「いつまでいられるか判らない」んだから、とびきり美味しいの作ってあげたいな。
『聞いてる? ミレ・・・』
「聞いてるよ。」
火の加減をして、ニュウを抱きしめた。
驚いてる。 ニュウ、尻尾がピンと立ってるよ。
長く付き合ってると判るクセ、1つずつ、気付いてきたみたい。

『泣いてんの?』
ニュウは不思議そうにしている。
身体から感じられる、お日様の匂い、お月様の匂い。
「レオには、内緒にしてて。」
『なんで? なぁ、ミレイ、帰りたいの?』
「・・・わからない。 わからないよ・・・考えると、頭グチャグチャになって涙出てくるの。」
『それは、帰りたくないってことなんじゃないの?』
「そうなのかなぁ・・・」
ホント、ワケわかんない。 もしかしたら、今すぐにだって帰れるかもしれないのに、何もしないなんて。
私、ここにいていいのかな。 レオたちの邪魔になってたりしないのかな?
同じとこで、思考はぐるぐる回り続ける。 私は、何もわからない。 何も、知らない。
「ねぇ、レオって・・・何が好きかな?」
ニュウが顔を上げた。 私も抱きしめていた腕を離す。
鏡見ないとわかんないけど、きっとヒドイ顔。 しばらく外、歩けないだろうな。
『好き?』
「うん、食べ物とか、季節とか、ものとか・・・なんでもいいから。」
少し、考えるようにしてから、ニュウはもう1度顔を上げた。
血の色が透けた赤い瞳も、今は怖くない。

『レオは、月が好きだよ。』
「月?」
首のチョーカーに手を当てる。 確かこれも、月型のモチーフだったはず。
そういえば、これくれたのも、レオだったっけ。
『前に空に浮かんでる月、取ろうとして、1人で砂漠に歩いていきそうになった。』
1人でふらふらっと歩いていっちゃうレオと、それを必死で止めようとするフルとニュウの構図が頭に浮かんで、思わずふきだす。
「うっそ!」
『ホントホント! 大変だったんだぜ、あの時。
 ・・・あ。』
何かを思い出したようにアゴを上げると、ニュウは顔つきを変える。
話し始める前に、少し考え込んでいるみたいだった。
うつむいていた顔を上げると、真剣みを帯びた表情でこっちのことを見てた。
なんか、変な気分。
『聞いてくれる?』
「何を?」
首をかしげると、ニュウはそのくらい解れよって感じで、ムッとした顔をした。
鼻の先がテカテカ光ってるのは、なんかかわいい。
『あのさ、オレ14年くらい前に、カントーのタマムシシティってとこからオーレに飛ばされてきたのな。
 他にも一緒に巻き込まれた仲間がいたんだけど、そいつらハンターに捕まっちまってさ、オレ1人だけ逃げ延びたの。
 それで、砂漠に逃げて、死にそうになったときに会ったのがレオとフルだったんだ。
 2人とも、見ず知らずのオレに優しくしてくれたし、食べ物も分けてくれたから今こうやって生き延びてんだけどさ・・・
 でも、なんか、ヘンじゃね?』
「ヘン?」
『だってさ、どうしてあいつら、砂漠の真ん中で暮らしてたんだ? フルも、どこで食べ物取ってきてたのか、全然言わないんだ。
 ずーっと一緒なのに、オレ、あいつらのことわかんねーんだよ!』
野菜を煮込んでいたナベのフタがコトコト鳴っていた。 ちょっと煮すぎちゃったかもと思って、慌てて中を確認する。
焦げ付いてなかったし、ニンジンには簡単に串が通った。
別々にしていたジャガイモを入れて、調味料と牛乳を注ぎ込む。
少し、しょっぱくなるかもしれない。 あーあ、失敗したくないなぁ。
『何で泣いてんの、ミレイ?』
「・・・わかんない。 どうしてだろうね?」
泣いちゃいけないって、分かってるはずなのに。
拭いても、また涙は出てくる。 ホント、何で泣いてんだろう、私。
しゃがみこむと、かすかに軋みを上げてキッチンの扉が開く。 レオかと思って焦ったけど、人の顔の高さには何もなかった。
けど、風以外何も入ってこなかったかというと、そうでもない。



ちっちゃなプラスルが、跳ねるように近付いてきて、私の顔を見上げた。
不思議そうな顔をして、長い耳をパタッと揺らす。
『おねえさん、ボクとお散歩に行かない? こういうの、『キブンテンカン』っていうんだよ。』
とっぴょーし、ない? なんていうか、意外。
ダークポケモンじゃないからかな、こんな気の利いた言葉、ポケモンにかけられるなんて思ってなかった。
オーレに来てから、また1つ、発見。
鍋の方を見るけど、もう後は煮込むだけだし、しばらくほっといても問題なさそうだし。
行こうかな〜とか考えながらプラスルを見ると、黄色いちっちゃなポケモンはにこっと笑顔を見せる。
『はきゃっ!?』
「いいこだ〜っ、プラスル〜!」
えい、えい、かいぐりかいぐり。 私だって女の子だし、何と言われようとちっちゃいものは可愛いんだ。
お母さん、私がポケモントレーナーになるの許してくれなかったもんなぁ。
「あっ・・・」
そういえば、この子も元々誰かのポケモンなんだっけ。 パイラの洞くつで、そんなこと言ってたような・・・
やっぱり、淋しいんだろうなぁ。 こんなちっちゃい子が、見ず知らずの私たちと一緒なんだし。
『苦しい苦しい苦しい苦しいっ!?』
「やっぱりイイコだ〜っ! よし、散歩行こう! ニュウも行こ、おいで?」
知ってる。 人間って気分が落ち込んだ時には気晴らしが必要なんだ。
バタバタ暴れてるプラスルがかわいい。 きょとんと困ったような顔してるニュウが面白い。
悩むの、よそう。 今は自分と、レオと、レオのポケモンたちだけ信じてれば、きっとそれでいいんだ。
ぐったりしちゃった(少しやり過ぎたかな)プラスルを抱えて、扉を開ける。
『レオが戻ってきたら心配するだろ! 何かあったらどうすんだよ!』
「大丈夫! 私はラッキーガールだもん!」


外に出ると、緑色がまぶしい。
このアゲトビレッジは、ホウエンに少し似てる。 私、こんなところに住んでたんだ。
コケの匂い、水の音、緑色の大地の声。 全部、知ってる。
柔らかい土を踏んで歩きながら、私はホウエンで退屈してた頃の自分を思い出していた。
もしかして、退屈って、安心と同じことなのかな・・・だとしたら、今の私は安心したいのか、冒険したいのか、どっちなんだろう?
不安にかきたてられながら少しだけむき出しになった地面へと触れると、暖かかった。
弱りきっているオーレの大地の中で、この土地は確かに生きている。
『おねえさん?』
「プラスル、ここは違うみたいだけど・・・オーレって、地面が弱ってるとこ多くない?
 私がいた近くにも砂漠はあったけど、サボネアとか、サンドとか、ナックラーとか、ポケモンはちゃんと暮らしてたよ。」
プラスルはぴょこんと首をかしげる。 無理ないか、まだ幼い感じだし。
ニュウに目を向けると、少し困った顔をしてた。 怒ってるのかな、言うこと聞かずに家を出ちゃったこと。
「ニュウ? ヤバイんだったら、私戻ろ・・・」
『前は、こんなじゃなかった。 スナッチ団が出来てから、段々数が減ってったんだ。
 ミレイの言う通りだ、いつからオーレって・・・ポケモンの住めない世界に変わっちまったんだろう・・・』
感じる違和感を拭いきれずに、私は丘から見える金色の砂漠を見下ろしていた。
足音が聞こえる。 レオかな、それとも違う人?
主を探して目を凝らしながら見てみるけど、どっちとも言えなかった。
「ミレイ! I caught"ダークポケモン". Do you praise me?
「誰・・・?」
レオの格好をして、レオの顔で・・・レオなんだけど、レオじゃない。
ニュウが尻尾を立てて警戒する。 私だってそう、パイラのときみたく捕まりたくないし。
レオだけどレオじゃない人は私のことを見て軽く肩をすくめると、視線をちょっとだけ上に上げた。
何故だか笑って1歩後ろへと下がると、それまでその人がいたところの地面に、真上から緑色に光る光線が飛んでくる。

『ミレイ!』
クシャミが出そうになって、思わず口と鼻を手でふさぐ。
タンポポみたいな綿毛と一緒に落ちてきた青いポケモンは、こっちを振り返ってちょっとだけ笑った。
『もう怖くないわよ、レオ様と一緒にいる今・・・私どんなポケモンにだって負ける気しないんだから!』
「レオ様・・・? ひょっとして、ハベ!?」
青色のポケモンは体を上下に揺らすと、真っ白な粉を自分の正面へと向かって吹き飛ばした。
攻撃するたびに量を増していたあの黒いオーラは、もう見えない。
そそり立つような木の上へと逃げていくレオのような人を視線で追っていくハーベストは、何だかキラキラしているようにも見えた。
「Wow! I thought that I was not attacked by you.
 Because I yet do nothing.
「Shut up! You say only nonsense words anytime.
肩を軽く引かれる。 おっきい、レオの手だ。
足元に逃げてきたプラスルと一緒に、レオの背中越しに木の上にいる『誰か』を見ていると、彼は、絶対レオがやらないような、シニカルな笑みを浮かべた。
「I didn't expect that. I came to warn you.
 That's a rumor.
 The large-sized"snach machine"which you broke. It seems to have stayed in one machine, the state that can run.
『誰か』の話を聞いて、レオの周りを取り囲む空気が明らかに変わった。
レオが警戒すると、周りを取り巻くハーベスト、ニュウ、それにプラスルまでも一緒になって相手のレオを睨み付ける。
ハーベストに目を向ける。 もう、あの黒いオーラは出ていない。 私たちが家にいる間に、何かあったんだ。
レオに似た容姿をした人はニヤリと笑うと、肩をすくめて森の奥へと消えていった。
追おうとするニュウを、レオが呼び止める。
逃げていく背中が見えなくなった頃には、ポケモンたちがみんな、私たちの周りに集まっていた。
イザヨイが頭を私の足にこすりつけてきて、そのことに気付く。

「ハベ、クレス・・・ダークポケモンじゃなくなったんだ。」
目の前に近寄ってきたワタッコとアサナン。 2人が同時にうなずいたのを見て、私はホッとした。
手を差し伸べても払いのけることはなくて、むしろ自分から近付いてきてくれる。
頭をなでると気持ちよさそうに目を細めるクレセントを見ていると、後ろから足音が聞こえた。 振り向くと、ローガンおじいちゃんとセツマおばあちゃんが、少し息をきらしていた。
「森のほこらに当てたら、急に大人しくなったのよ。 そのワタッコ。」
セツマおばあちゃんはそう言うと、私の隣に座ってハーベストの綿毛に軽く触れた。
「きっと、森の神様が暗く閉ざされた心を開放してくださったんよ。
 あっという間に進化までして・・・ホラ、こんなに嬉しそうね。」
「そうなの、ハベ?」
尋ねると、ハーベストは青い体の前で右と左の綿毛をこすりあわせる。
ポポッコだったとき、こんなポーズとったっけ? やっぱり、ダークポケモンとそうじゃないポケモンって、何か決定的な差がある気がする。
『よく・・・分からないの。 あのほこら、あれに触れた瞬間、心の中に色んなものが流れ込んできて・・・
 そう! 言うなら、レオ様に会ったときのあの衝撃のような! あの目! あの髪! あの大きな手! 全てが私を救ってくれたのよ!
 きっと運命なんだわ! 私、一生レオ様についていき・・・』
『沈黙は金。』
飛び立とうとしたハーベストのくき(?)を、クレセントがつかんだ。
視線を合わせると、何も言わず、クレセントはただ黙ってうなずく。
2人とも、あのほこらがきっかけでダークポケモンじゃなくなったっていうのは間違いなさそうだ。
「セツマおばあちゃん、じゃあ、何でイザヨイは元に戻らないの?」
わずかだけど今も黒いオーラを出し続けているイザヨイを、私は抱いた。
こんなにあったかいのに、心臓の音だって聞こえるのに、イザヨイの目は今も哀しそう。
レオと一緒だ。 言葉が通じないせいで、1番大事な気持ちを伝えることもできないのかな。
そんなの、哀しすぎる。



『ミレイ、心配するな。 確かなことは言えないが、ハーベストもクレセントも開放されたんだ。
 同じダークポケモンなら、イザヨイも元に戻る可能性はある。』
フルの冷たい鼻先が手の甲に触れた。
うなずくしかない自分が悔しくて、また涙がこぼれそうになる。
再三注意されてるんだから、今度こそ泣いてるとこを見せまいと立ち上がると、肩にハーベストがちょこんと乗っかった。
さりげなくこぼれかけた涙をふきながら、誰にも聞こえなさそうな小さな声で話しかけてくる。
『泣いてる場合じゃないわよ、ミレイ。 私大変なこと聞いちゃったのよ。』
近付いてくるレオを見て、慌ててスカートが曲がってないかどうか確かめながらフルの方に目を向ける。
ダメだ、フルは隠し事上手くて表情だけじゃ全然読み取れない。
「このまま話して。 他の子たちに聞こえないように。」
今、起こりそうな『大変なこと』なら、何となく想像がつく。
後悔したくないから、今決めた。 ちゃんと自分で動くって。


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