呼び出されたオタマロを見るなり、Nはポケモンを入れ替えた。
オタマロさんの放った『バブルこうせん』は呼び出されたポケモンのトゲに刺さり、パチパチと音を立てて割れていく。
今まで見たことのないポケモンに、トウヤはポケモン図鑑を向け情報を探る。
とげのみポケモン、テッシード。 オタマロさんの技があまり効いていないようだから、もしかしたら水か草タイプかもしれない。
トウヤはポケモン図鑑を畳むと、ぴちぴちと跳ねているオタマロさんに右手を向ける。

「戻れ、オタマロさん!!」
トウヤはオタマロさんをモンスターボールへと戻すと、すぐさま次のポケモンを呼び出す。
空中で割れたボールから大きなポケモンが飛び出すと、洞穴の中に風が吹き渡った。
四つ足のポケモンは肩のヨロイから刀を引き出すと、Nが出したトゲトゲのポケモンに向かって構える。
「フタチマルか……」
「ダイケンキに進化したんだよ、格好いいでしょ!」
ふ、とNが笑うと、Nのテッシードがくるくると回転を始めた。
トウヤはダイケンキと視線を合わせ、テッシードに人差し指を向ける。
「テッシード、『ミサイルばり』!!」
「ダイケンキ、『あなをほる』!!」
まるで忍者のようにダイケンキが掘り進めていった穴の上に、鋭いトゲが突き刺さる。
一瞬トウヤの視線が揺らいだが、ぐっと奥歯を噛み締めてから攻撃の指示を出すとダイケンキはテッシードの真下から飛び出してきた。
鈍い音が響き、テッシードのトゲだらけの身体に傷がつく。
同時に、ダイケンキは少し驚いたような顔をして自分の刀に視線を落とした。
「どうしたの、ダイケンキ?」
「うー……」
ダイケンキがアシガタナを差し出すと、トウヤも少し驚いた顔をした。
まだ進化したばかりだというのに、真新しい刀身が傷だらけだ。
「うわ、キズキズだ……どうしよう……」
「うー」
困ったような顔をしてダイケンキはアシガタナをサヤにしまう。
直後、テッシードの『ミサイルばり』が飛んできてダイケンキのヨロイに突き刺さった。
慌ててトウヤはダイケンキをボールへとしまうと、代わりのポケモンを選んでNのテッシードに向けて投げつける。



「『みず』が効きにくくて、『じめん』は普通……トゲトゲのポケモンで、ダイケンキのアシガタナを逆に傷つけるくらい頑丈な体……
 『はがね』、それと……『くさ』タイプ……かな?」
Nは軽く下唇を噛んだ。 恐らくアシガタナの傷が特性によるものだということまで気付かれているだろう。
トウヤは露骨に嫌な顔をしてはぁ……と大きなため息をつき、次のポケモンを繰り出した。
のっそりと登場したポケモンは、大きさこそ一回り大きくなっていたが、進化する前と同じ黄色いだっぽりとした皮をずるずると引きずり、やる気のなさそうな、不機嫌そうな顔をチラチラとトウヤに向けていた。
間違いなくズルッグの進化形だ。 ポケモンは頭のトサカを大きく振ると腰からずり落ちかけた自分の皮を引っ張り上げた。
顔に手を当てると、トウヤはテッシードを指差し攻撃の指示を出す。
「ズルズキン、テッシードに『かわらわり』。
 出来るだけ軽く……軽〜く!ね。」
ふんっ!と鼻息を荒くすると、ズルズキンはのしのしとテッシードへと向かって大股で歩いていく。
嫌な予感しかしない。 ハラハラしながらトウヤが見ていると、やっぱりというか、案の定というか、ズルズキンは『思い切り』テッシードを殴りつけた。
確かにテッシードは倒れたが、腕に鋭いトゲが刺さってズルズキンは悲鳴をあげる。
「だから軽くって言ったのにー!」
ズルズキンのスネ蹴りから逃げ回りながらトウヤも悲鳴に似た声でズルズキンへと叫んだ。
倒れたテッシードをモンスターボールへと戻しながら、Nは右へ左へと走り回るトウヤとズルズキンを目で追った。
「キミのポケモンはなんだか嬉しそうだね。」
「どこがー!? 痛い、ズルズキン痛いって! だから、ごめんってば!!」
逃げ回りながら、トウヤはズルズキンをモンスターボールへとしまった。
ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、ボールをホルダーへと戻すと、Nの繰り出したポケモンがよちよちとトウヤの目の前に現れる。



「えっと……」

トウヤはどうするべきか迷った。
モンスターボールにしまったときポケットに入ってしまうからポケットモンスターなのに、目の前にいるポケモンは完全にそのままでもポケットに入ってしまうサイズだ。
「えっと……これ、Nのポケモン?」
「そうだよ、人間たちは彼のことをバチュルと呼んでいるね。」
キィキィと高い鳴き声をあげるポケモンを指差したまま、トウヤは悩む。
こんなに小さいポケモンを10倍以上あるダイケンキやズルズキンで踏み潰したのでは、まるでいじめっ子だ。
散々考えたあげく、トウヤはモンスターボールから再びオタマロさんを呼び出した。
それでもまだ3倍以上の体格差があり、オタマロさんは相手のバチュルを見て、「むはっ」と、こらえきれない笑い息のようなものを漏らす。
「そ、それじゃ攻撃するけど……オタマロさん、『りんしょう』とか……」
「まーろまろまろまろまろまろまろ!」
「バチュル、『エレキネット』。」
舐めるだけ舐め切って至近距離で『りんしょう』を放とうとしたオタマロさんが、思い切り痙攣してひっくり返る。
パチパチと火花を散らすオタマロさんに、トウヤは目を見開いた。 強い。 それに見た目から想像していたのと、またタイプが少し違いそうだ。
「『でんき』タイプ……?」
ニッと口元を緩め、Nは驚いたように自分の顔に触れた。
渋いような苦いような顔をすると、Nはトウヤが出したポケモンに暗い顔を向ける。
「イワパレス!!」
反対にトウヤの顔は段々明るくなっていった。
土煙をあげて飛び出したイシズマイの進化形は、背中の岩も重そうにズシズシと前へ出ると、真新しいオレンジ色のハサミを振り上げる。
Nは奥歯を強く噛むとホルダーからボールを引きちぎり、反対の手をバチュルへと向ける。

「『いわなだれ』……!」
「戻れ、バチュル!」
入れ替わりで登場したポケモンがイワパレスの起こした技の中に閉じ込められる。
押しつぶしてしまったのではないかと、一瞬ハッとしたが、カチカチと金属のこすれる音が聞こえると、うず高く積もった岩の山を吹き飛ばし、Nが繰り出したポケモンはトウヤの前に姿を現した。
ふたつの顔を持つ歯車のようなポケモンだ。
ふたつの歯車がかみ合わさってクルクルと回ると、カチカチカチ、と、先ほども聞こえた金属の音が洞穴の中に響く。
「えっと……」
「ギアル!」
図鑑を開くトウヤに目をくれることもなく、Nはイワパレスを指差すと攻撃の指示を出した。
「『ギアソーサー』!!」
一瞬離れたギアルが、高速で回転しながらイワパレスの宿へとぶつかってくる。
飛び散った岩の破片がズボンの上からトウヤのひざにぶつかった。
もはや元の形を保っていない宿にゾッとしながらも、トウヤは口元に笑みを浮かべ、そっとモンスターボールを手に取る。



「ズルズキン!!」
トウヤはイワパレスをボールに戻し、ポケモンを交代した。
散らばった岩の1つを踏み潰すと、ズルズキンは恐ろしく不機嫌な顔をしながらカチカチと音を立てるギアルへと近づいていく。
「戻るんだ、ギアル!!」
厳しい顔をして右手を自分のポケモンへと向けると、Nはギアルをモンスターボールへと戻し、代わりのポケモンを呼び出した。
交代で出されたバチュルが飛び上がる。 しかし、ズルズキンの攻撃が当たるよりも前に散らばった岩がバチュルへと襲い掛かり、その小さな体に大きな傷をつけた。
「ッ!?」
「イワパレスの『ステルスロック』さ!
 さぁ、反撃だ! ズルズキン、『しっぺがえし』!!」
チッと舌打ちするとズルズキンは地面を蹴って、だらりと垂れ下がった尻尾をバチュルへと叩きつけた。
容赦の無い攻撃にバチュルの体は吹き飛び、壁に叩きつけられてぐったりと崩れ落ちる。
Nの顔が歪む。 動けなくなったバチュルをボールの中に入れると、深く被った帽子の下からトウヤを睨み、赤いボールを投げつけた。
「ギアル! 『ギアソーサー』!!」
「ズルズキン、『とびひざげり』!!」
飛び掛ってくる2枚の歯車を、ズルズキンは頭の上から放たれる蹴りで弾き返した。
歯車と歯車がぶつかり合い、甲高く耳障りな金属音を立てる。
カラカラと1枚だけで回り続けるギアルを見て、Nが止まった。
もう1枚のギアルを探し、首を回すと、岩肌に埋まっていた『つがい』のギアルをトウヤに渡される。
転がっている片割れに渡されたもう1方をはめ込むと、ギアルは不規則な動きでカタカタと動き出した。


「……どうしてだ?
 トレーナーであることを苦しく思うまま戦っていても、勝てないのか……
 クッ! こんなことで理想を追究できるか!
 伝説のポケモンと……トモダチになれるものか……!」
自分のひざを叩くNの口から、赤い血が一筋、流れ落ちた。
トウヤは声をかけることも出来ず、自分の唇を噛む。
口の中に、血の味が広がった。 目元が隠れるほどにトウヤが帽子のツバを深く引いたとき、突然Nのモンスターボールが光り、残っていたガントルが飛び出してきた。
「え……」
Nとトウヤが同時に声をあげる。
横向きに転がったままのギアルの回転が速くなる。
ガントルを敵とみなし、突っ込んでいったズルズキンの攻撃が当たるのと、悲鳴にも似たNの声が響くのと同じタイミングで、不規則に回転していたギアルの体から光が放たれた。
体中に電撃が走る。 強烈なエネルギーに帽子を吹き飛ばされたNが見たのは、自分が知っているギアルよりもさらに大きくなった進化形だった。

「ギギアル……!?」
トウヤはポケモン図鑑を開き、相手の名前を確認する。
1つ増えた大きなギアが、不安定なギアルたちの動きを支えていた。
N自身、突然の進化に戸惑っていたようだが、視線が安定すると立ち上がってトウヤのズルズキンに指を向ける。
「ギギアル! 『ギアソーサー』だ!!」
カタカタと回転するギギアルの速度が速まり、突然の進化を呆然と見ていたズルズキンを攻撃する。
「ギッ!」という悲鳴に顔を上げると、トウヤは慌ててギギアルへと指を向けた。
「ズルズキン、『かわらわり』!」
言われるまでもない、といった調子で飛び出していったズルズキンが、何もない場所で転ぶ。
驚いたトウヤがズルズキンを見ると、皮と体の間から細く走る電流が見えた。
「……ッ! さっきの放電!!」
『まひ』して動けなくなったところに3度目の『ギアソーサー』が当たり、ズルズキンはモンスターボールの中へと戻された。

「ダイケンキ!!」
手元のボールをホルダーに戻すこともせず、トウヤはダイケンキと視線を合わせ、Nのギギアルを睨みつけた。
「ギギアル、『ほうでん』!!」
Nの指示が出る。 ダイケンキはトウヤをかばうようにして彼の前に立つと、そのヨロイと身体で相手の攻撃を受け止めた。
4本の足に力が宿る。 相手の攻撃が止んだのを確認すると、トウヤは目を開き、目の前にいるダイケンキに指示を出した。
「『リベンジ』ッ!!」
自らの身体から湧き出る水流を利用してダイケンキは飛び出した。
力のこもった一撃が、ギギアルの硬い身体を打ち砕く。





弾け飛んだ破片がNの頬をかすめるのと同時に、ギギアルは小さなモンスターボールの中へと戻っていった。
息を切らせたトウヤを呆然とした顔で見つめたあと、Nは自分の手に目を向けた。
白い手のひらは、汗でじっとりと濡れている。 ピリピリと痛む唇にそっと舌を這わせると、Nは顔の赤いトウヤに何か言おうと口を開きかけた。
「Nさまー! Nさまーっ!! どこにおわしますかー!!?」
「……プラズマ団!?」
洞穴の奥から近づいてくる足音に、トウヤは戦慄した。
今、プラズマ団と鉢合わせるのはマズイ。 降ろしたバッグを肩にひっかけると、トウヤは隠れる場所を探し辺りを見渡す。


「いたか!?」
「いや、いない!」
「おぃ、もう出口だぞ!」
「ゲーチス様と合流するまで、フキヨセまでは行かないはずだ。
 どこかで見落としたのかもしれん、戻って探すぞ!」

バタバタと響く足音が、背中の後ろを通っていく。
息すら詰めて身を潜めていたトウヤは、足音が聞こえなくなると大きく息を吸い込んだ。
岩のフリをしていたイワパレスが壁にあけた穴からトウヤとNを引っ張り出す。
うっかり握りつぶしてしまった帽子のシワを手のひらで伸ばすと、トウヤはNの頭に黒白のキャップを軽く被せた。
「はい、帽子。」
少し折れ曲がったツバに触れながら、Nはプラズマ団たちが去っていった方向へと目を向ける。
「なぜ……」
「えっと……だって、なんか……マズイじゃん?
 したっぱたちにはボクに逃げられたって言いなよ。 ボクは、このままフキヨセシティに行って、ベルたちと合流するからさ。」
Nが帽子のツバに触れると、それを真似するようにトウヤも自分の帽子のツバに触れた。
立ち上がって服の泥を払うと、Nは手のひらをズボンにこすりつけ、洞穴の奥へと歩き出した。
少しだけ口元で笑うと、トウヤはカサカサと近づいてきたイワパレスの宿に手を置き、視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「……それじゃ、イワパレス。 もう少し探索しようか。 壊れた宿の代わりを探さないとね。」


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