〜最終決戦・序〜



 『『「さぁ、君達を最終決戦の地へ導こう。それが僕の最後のガイドだ」』』


 ・・・・・・


 本棚で壁一面が覆われた、書庫のような部屋
 キョウジが自室で本を読んでいたリサの前に顔を出し、頭を下げた

 「すいません。オーレ支部を壊滅させたところを捕縛したシルバーですが、この支部内のどっかに逃がしてしまいました」

 「そう・・・」

 あきれと、やっぱりという思いが混じった息をひとつ吐いた
 リサはもう配置についていいわ、とキョウジを下がらせた

 「・・・これで、最終決戦の鍵は揃ったのね」

 その言葉は重く、小さく、弱々しいものだった
 リサは本を閉じ、戦闘服に着替えた
 机の上に並べて置いたボール3つの状態を確認してから、腰につける

 「四大幹部・朱雀のリサ、出陣するわ」

 この部屋にロックをかけ、リサの姿は一瞬で消える
 机の上に残された本の表紙にはタイトルも何も印刷されていなかった・・・


 ・・・・・・

  
 「え、ええええぇえ!!!?」

 「ホンマ、信じられへんわぁ!」

 いきなりのダイゴの登場に、やはり驚きを隠せないようだ
 あっけに取られる者と声に出す者、動揺を隠そうと努める者に分かれた

 「黙っててすまないとは思っている。しかし、必要なことだったんだ」

 「確かに、お前の名前は知られすぎている。裏で動いていると、その正体がバレていたら大変なことになっただろうな」

 イブキが納得し、ダイゴは「ご理解得て感謝します」といけしゃあしゃあと言う
 グリーンとブルーはいー島で知り、その時驚きつつも理由には納得して黙っていることにしたので、傍観している
 
 「とりあえず、おもいでのとうに行きましょう。僕のホエルオーなら全員乗って移動が可能です。
 話も、その上で」

 「わかった」

 ホエルオーに全員が乗り、イレスの石室・・・7のしまを後にした
 これで、ナナシマをすべて回り終えたことになる

 四大幹部にいきなり勝負を仕掛けられたことがことの始まり
 ジョウト地方、マサラから始まったカントー本土の襲撃
 春からの能力者修行という冒険が、もう季節は秋に差しかかっていた

 「なんつーか、感慨深いというか、もう何年も続けてた気がするよ」

 「よくついてきてくれたと思います」

 「大げさねぇ」

 「いえ、なんか別の方面に向けて言ってるような気がします」

 はははは、とレッド達が笑う
 ジョウトジムリーダーズは、まだダイゴという男に疑いの目を向けていた
 まぁ、当然といえる

 それにしてもホエルオーの移動速度は思いのほか速かった
 ぐんぐん速度を増し、海流をものともしない
 途中でぷっしゅうぅうううと潮を吹いたのは驚いたが、間近で・生で見るそれはなんと迫力のあったことか

 「・・・さて、これからの行動についてだったね」

 「! ああ」

 「話は聞いていた。確かに、組織の支部や本部は海底地下にある。
 それは間違いようがない事実だ。
 造られ方も察しの通り、過去の能力者の遺物を利用したものだろう」

 「で、しるしのはやしから俺達はそこに行けるのか?」

 「ああ。あの3点はカントー支部にある何かを持っていれば、通常のテレポートでも入れる場所だ」

 これを、とダイゴが灰色の服を一揃い3着、レッド達に渡した
 見覚えがある
 そうだ、組織の団服というやつだ

 「その手袋でもズボンでも何でも身に着けていれば、カントー支部のなかに入れる。
 どうも組織のエスパーポケモンによる体毛と思念を特殊な繊維に織り込むことで、通常のテレポートでも近くの支部へと導かせるようだ。
 構成員がやられたりした時、必ずテレポートで逃げるのはこういった仕組みを外部に知られないようにする為らしい」

 3着も手に入れるの、苦労したんだよとダイゴが語る
 なるほど、と思い感心しつつレッド達は団服を分けっこした
 サイズが合えば着てもいいが、ちょっと人目があるのでとりあえず持つだけにする

 「ジョウトジムリーダーズはカントーへ乗り込むんだったね。
 このホエルオーに陸から視認されない沖まで送らせるから、後は各自で散ってくれ」

 「そうさせてらおう」

 メイルのデータに下水道などの、一般的なライフラインの詳細地図も見つかった
 うまく使えば、海の傍にない街にも侵入しやすくなる

 「ダイゴさんはどうするんですか?」

 「僕? グリーン君やブルーさんたちと一緒にカントー支部へ乗り込むよ」

 「えぇ! いいんですか?」

 大企業の御曹司にそんなことやらせてもいいものか、と考える
 しかしダイゴは微笑み、厳しい表情で言った

 「今までもこれからも君達をずっと前線に立たせて、僕だけ安全なところにいられる神経は持ち合わせていないよ。
 これからは最前線で、一緒に戦う」

 「・・・いや、最初からずっと前線にいたぜ?」

 そうにぃっと笑うゴールドに、ダイゴは目を閉じ頷いた
 ああ、そうだ
 シショーと共に、ずっと一緒にいたんだっけか・・・

 「って、考えてみれば今までのシショーの発言はぜーんぶダイゴさんのものだったんですよね?」

 ドッキン、と心臓が跳ね上がる音が聞こえた気がする
 てことはあんなセリフやこんなセリフまで、小型カメラや集音機で逐一反応しながらやってたのか・・・

 ・・・なんか格好良かったダイゴさんが、3枚目に見えてきた
 まさに大誤算だろう

 「とにかく、最初にカントー支部に乗り込むのはレッド君達と僕の7人。
 ジョウトジムリーダーズと連絡を取っていたっていう人で、支部に乗り込むつもりの人も僕のネットワークでなんとか連絡を取って、必要なら同じ服の一部を渡しておいたから安心してくれ」

 「いつの間に・・・」

 いや、その話はレッド達の前ではしなかっただけだ
 シショーは最初から寝ずにいたし、もしかしたらトレーナータワーまで飛んで戻って盗み聞きしたのかもしれない
 とんだ伏兵、スパイもいたものだ

 ・・・と、そうこうしている内におもいでのとうがある5のしま沖合いに到着した
 7のしま隣の6のしまにある『しるしのはやし』でも以前は行けたらしいのだが、最近は何かロックのようなものがかけられてしまったらしい
 通常のテレポートとそういった場所をダイゴが検証している際、組織側にその行動を勘付かれた可能性がある
 おもいでのとうは傍にゴージャスリゾートという人の目がまだあるので、組織の人間は表立って動きにくいようだった

 「ホエルオーがカントー本土沖合いに着くまで30分はかかるから、僕達は着陸してから1時間半後におもいでのとうに行って、テレポートする。
 それまで僕達はゴージャスリゾートにある僕の別荘に身を隠して、最後の準備を整える」

 「別荘ッスか!」

 「ああ。パソコンも回復マシンも、食料も置いてある。支部では何が起こるかわからないから、万全に準備するんだよ」

 もう御曹司という生まれにただ感謝した
 裏方に徹し、情報を集め続けただけに、最終決戦に向けての綿密な行動計画は今のところ隙がない
 ただ、まぁ肝心のここまでの修行内容はもう少しだった気もするが・・・それをすべて帳消しにしてもいいくらいだ
 多分

 「あとしておくことは・・・」

 ダイゴがぐるっと、レッド達やジムリーダーズの顔を見る
 皆、覚悟を決めたような顔をしていた

 「ない、かな」

 5のしまをぐるっと回って、ゴージャスリゾートに近づく
 ここで一旦ジョウトジムリーダーズとはお別れになる

 「師匠、どうか無事に」

 「誰に向かって言っている、グリーン」

 グリーンがシジマに握手を求め、2人が肩を抱き合って誓いを交わす
 その時、グリーンがシジマに耳打ちした
 「ナナミ姉さんが行方不明です」「もしかしたら、姉さんを命がけでナナシマに送った・・・マサキを探しにカントー本土へ戻ったかもしれません」
 「・・・あいわかった。任せておけ。お前は、組織との対決に集中しろ」「戦いに己が身を置き、互いに鍛えあったポケモンと一心同体になってな」
 「はい、師匠」
 グリーンは一瞬たりとも忘れてはいなかった
 実の姉の安否、その一縷の望みを・・・・・・最悪のケースを言わぬまま師匠に託した

 「グッドラック、ハヤト!」

 「ああ」

 互い互いに言葉を交わし、再び会うことを約束しあった
 どちらも危険が大きな作戦だ
 失敗なんか許されないし、不安なことがあったらこの時に吐き出して、相談してしまっていた

 そうやって沖合いで5分ほど大切な時間を過ごし、少しずつゴージャスリゾートに近づいた時だった

 「そうだ。カントー地方って、街が沢山ありますよね。ジムの数より」

 クリスが気づいた
 ジムリーダーがひとつの街を担当するなら、絶対にカバー出来ない街が出来るはずだ
 メイルもいるが、それでも足りないだろう
 そこへ誰が行くのか、もう話してくれてもいいのではないだろうか、と訊いた

 「・・・ああ、ミナキだよ」
 
 「ミナキさん!」

 マツバが答える
 そうだ、この2人は知り合い同士だった

 「あいつも能力者になったとかで、この作戦を手伝ってくれるそうだ」

 「どんな能力か聞いてます?」

 ゴールドが少し不満げな表情で、クリスとマツバの話を聞いている
 マツバが言いにくそうに、クリスの腰を見てから言った

 「・・・・・・。・・・確か、スイクンの特殊攻撃の威力と速度を上げるものだったな。
 追い求めるあまり、そんな能力になってしまったようだ」

 『クリア・パーシュア』
 北風の化身と呼ばれるスイクンを、より高める能力
 だが、そのスイクンは一時マツバやジムリーダーズの傍にいたが・・・今はクリスのものだ
 組織との決戦において、少しでも有利になるという種族値の高い伝説のポケモン
 これまでの情報や出現から推測に難くない、四大幹部が全員揃うだろうカントー支部との戦いでは欠かすことの出来ないメンバーだ

 「着いたよ。降りよう」

 ダイゴがホエルオーをぎりぎりまで浅瀬に乗り上げてもらい、グリーンやブルーはその身体を滑り降りる
 イエローやゴールド、レッドもその後に続き、クリスがダイゴに手を引かれながら一緒に最後に降りた

 「ホエルオー、道はわかるね?」

 『きゅおおおん』

 「よし、行け」

 ホエルオーは静かに鳴き、ダイゴの指示通り、カントー本土へ向かう
 レッド達は少しずつ離れていく彼らに手を振って見送り、ダイゴが別荘へと案内しようと身体をひねった
 そこで決心がついたようだ
 
 クリスはスイクンのボールを開け放した

 主と定めたクリスをじっと見て、スイクンは彼女に擦り寄る
 クリスはその首を抱き、そして頼んだ

 「スイクン、行ってあげて」

 ゆっくりと離れ、しっかりとスイクンの目を見て、クリスが指示する
 スイクンは頷き、海の上をわずかに走り、ホエルオーの上に飛び乗った
 マツバは驚きの表情を見せ、そしてスイクンとクリスの顔を交互に見てから深々とお辞儀をした

 意外にも速いホエルオーが、見る見る内に離れていく
 それをクリスは見送り、その後ろでゴールドがつぶやいた

 「いいのかよ、あれで」

 「うん」

 クリスはくるっときびすを返し、目を閉じた
 思い出す夢のなか

 「大丈夫」

 「そっか。なら、いいや」

 ゴールドはなんだか偉そうに、クリスの背中をバシッと叩いた
 痛いじゃない、といつもの調子でゴールドの行動をたしなめる

 「・・・これで、こちらの伝説のポケモンはゼロか」

 「四大幹部の一角であるディックがエンテイを持っているというなら、スイクンはいい対抗カードだったんだけども」

 残念そうにダイゴがつぶやくが、思いほかレッド達の表情は沈んでいない
 むしろ。クリスの選択は正しかったと肩を叩いたり声をかけた

 「さぁ、最後の支度だ」

 レッドが元気よくそう言い、ダイゴの後についていく
 皆もそれに引っ張られ、意気揚々としている


 最終決戦まで、あと1時間23分19秒


 ・・・・・・


 『ジーク様』

 何も無い、規則正しい升目のラインが入っているだけの部屋
 その真ん中で半裸のジークが片腕で逆立ちし、足の上にゴローニャを乗せるという鍛錬をしていた
 唯一の機材、埋め込まれたTV画面に部下のフリッツが映った

 『新たに選出された戦力の者自らによる、「キューブ」の改装・調整が終わったと報告が入りました。
 それから、ジョウトジムリーダーズによるカントー本土奪還が始まった模様です』

 「そうか」

 舞台が終わって選ばれた者は、少し休んだら自力でキューブをどうにかしなければならない
 理想に近いキューブが残っていればいいが、なければ一から造るという・・・サバイバルバトルに続きまた不眠不休での戦いとなる
 幹部もまた殆ど自力ですることだが、余裕持った時間が与えられた分、階級差による優遇があると考えていい

 「シナリオ通りだな」

 『はい』

 最終決戦が始まるまではシナリオに明記されている通りにことが進む
 最終決戦に向けての準備段階終了はギリギリではあるが、ここも無事通過したことになる

 そして、カントー本土奪還というのもシナリオの範疇だ
 舞台にのぼらなかった2割の団員は、本土への侵入者撃退という任務についている
 こちらより、一足早い決戦

 「キューブにいる者へ各自、後わずかな時間でも鋭気を養うように伝えろ。だが決して気を緩めるな、と」

 『そのように』

 ブッと画面が黒くなり、通信が途絶えた
 ジークは支えている片腕を徐々に曲げ、力をため、一気に肘を伸ばすことでゴローニャを高く天井まで放り上げた
 頑健な天井に当たり、ゴローニャは再び落下してくる
 それもだいばくはつをしながら

 
 ・・・その爆発の後も、ジークは健在だった
 傍らにはスピアーのジークがいた
 指示さえ無かった一瞬の攻防だったが、どちらのジークにも殆ど傷はなかった

 身体と感覚を研ぎ澄ました我が身を戦いの渦中に置き、同じく鍛えぬいたポケモンと心を通わせる―――

 「行くぞ。ジーク」

 軍服を素早く身にまとい、この部屋にロックをかけてから出て行く
 彼らの姿は一瞬で消え、残ったのはきぜつしボールに戻ったゴローニャ・・・いや床の一部が抜けて無事保護されたようだ
 

 ・・・・・・


 「・・・さて、そろそろ行こう」

 ジョウトジムリーダーズの首尾はわからない
 成功したかも、していないかも・・・だ
 しかし、1時間と10分経過したところでダイゴがそうつぶやいた

 「おうッ」

 腹ごしらえも済ませた上に弁当も持ち、ポケモンの準備も万端なレッド達が応えた
 ダイゴの別荘は広く、楽な空間であり、温めれば食べられる食事も皆の好みに合ったもので満足した

 「とうとう決戦か・・・」

 あの遺跡に入ったことで、どこがどう強くなれたのか未だに実感がわかない
 けれども、何かが変わったような感じだけはあった
 不思議だった

 ・・・

 ダイゴの別荘を出て、おもいでのとうへ向かう
 確かここはイワークの墓のような話を聞いたが、実際は組織と関連性があるものだったのだろうか

 ざぶざぶと、静かに、目立たないようになみのりで移動する
 そうして上陸し、おもいでのとうの前に立つ

 「皆、準備はいいかい?」

 各々、団服の一部を持っていることを見せ、ダイゴに確認させる
 ダイゴはフーディンを出し、全員がおもいでのとうを囲むように輪になって手を繋げさせる
 1人1人がバラバラになってテレポートするのは危険とダイゴが判断し、高いレベル頼みの強引な一斉テレポートを試みようというのだ

 「フーディンに意識を集中させてくれ」

 ぐっ、と隣の手を強く握り、目をつむってフーディンに意識を持っていく
 ・・・ボゥと思念の力だろうか、皆の体が薄っすらと光りだす

 一瞬で、おもいでのとうの周りから皆の姿が消えた
 

 ・・・・・・


 奇妙な浮遊感を感じた後、目を開けてみる
 そこは海に囲まれたおもいでのとうではなく、無機質な直方体のなかだった
 手を離し、皆が周りを見渡す

 「ここが・・・」

 「組織のアジトなの、か?」

 うまくテレポ−ト出来たのだろうか
 窓も通路もなく、壁や床の色は薄い灰色のみ
 30m四方はありそうなほど広いのにどこか息苦しさを感じる部屋だった

 「なんか、本当に地下っぽいですね」

 「そう、ね」

 ゴールドが興味本位に部屋のなかを走り回ってみて、その隅に通風孔のようなものを見つける
 もし、これが罠だったらあそこから水が流れ込んできたりして・・・・・・想像すると怖いのでやめた


 『ようこそ、「The army of an ashes cross」のカントー支部へ』

 部屋の真ん中に、ピエロのようなものが出現した
 人間と間違うほどの精巧さはないが、これには見覚えがある

 クレアだ
 トレーナー能力により、みがわりを使って作り出される人形

 ゴールドがぎり、と歯軋りする
 ・・・サックスが、ここにいるのだ
 ドクン、と音が鳴った

 「この声・・・」

 機械を通した音声とわかり、クレア同様その身体のなかにそういうものが埋め込まれているのだろう
 しかし、この状況は・・・グリーンがにらむ

 「俺達がここに来ることを、どうやら読まれていたようだな」

 「そんな! じゃあ、ジムリーダーのみんなは・・・」

 イエローの言葉で気づき、ガイドのダイゴを皆が見ると、彼が慌てる
 人形がその言葉を続けた

 『ここまでは我々のシナリオ通りに進んでいることをお伝えしておく。
 君達の旅も成長も、今日というものの日時に至るまで全て範疇に過ぎない』

 ここまでくると、ガイドのダイゴは踊らされていた可能性が高い
 裏で情報を集め、動いていた人物は気づかれていた・もしくはシナリオにあったとしたら
 断片的な情報を意図的に撒けば、行動をある程度操作するのも容易だろう

 そうやって、今まで、全ての事件や現象を操作してきたとしたら・・・

 「手のひらの上ってか。ナメやがって」

 パシンとゴールドが右拳を左手で受け止め、音を立てる
 
 『むしろ、これまでに起きた・流れたものはシナリオにとって必要なことだった。
 ジョウト・カントー・オーレ地方の襲撃、ポケモン協会の壊滅、反抗勢力の残存・・・。
 同様にこの最終決戦は君達の決意と覚悟により決着するものではなく、組織の目的を完遂する為の通過点』

 まるでゲームのイベントのようだ
 『シナリオ』
 その為なら、何がどうなろうと構わない

 「最終ってことは、つまり」

 レッドの言葉に、人形が応える

 『そう。この後はない』

 このカントー支部にて、全ての決着をつけるというのだ
 レッド達の旅、その成長すらシナリオの範疇だと言い切る組織

 『結末は既に見えている』

 「正義の味方の圧勝完勝超サイキョーで、だろ?」

 ニッとゴールドが笑うと、人形はあっさり返した

 『何が正義なんて決められたものではない。
 とりあえず君達は我々の私有地に不法侵入した、つまり法を犯した悪側になるのだが」

 「ふざけないで。あなた達が今までに何をしてきたか、わかって言っているの!?」

 クリスの言葉に、人形は勿論と答える

 『正義と悪など、その時代の価値観によって変わる。
 「勝てば官軍」とはよく言ったものだ。敗者に時代を変える権限は残されない』

 「俺達に勝って、お前達がしてきたことを正当化する気か!」

 『我々に、初めから正義も悪もない』

 人形のうつろな目が、レッド達を見据える
 並ぶ7人をなめるように、ぎょろりと目玉を動かし見た

 『あるのはシナリオの完遂と、それへの献身』

 機械音声よりも無機質で、それが当たり前という冷静に狂った答え
 レッド達は改めて、その組織の得体の知れない忠誠に恐怖をおぼえた

 『・・・この辺りで問答を終えよう。これ以上は無意味だ。
 価値観の違う相手を納得させるには、やはり心身と誠意を持ってぶつかっていかなければならない。
 我々なら、論争よりふさわしい形―――そうポケモンバトルで』

 人形の首が、ガクンと急に折れた
 まるで本当に骨が折れたかのようで、首の筋肉や皮でぶらぶらと頭がぶら下がっている
 それは思わずイエローやクリス達のビクッと肩を震わせるくらい、その人形はリアルのものに迫っていた

 同時にこの部屋の壁が上へとスライドし、何か別のものが徐々に姿を現しつつあった


 『さぁ、最終決戦(イベント)のスタートにあたって、ルールを説明しよう』

 
 

 
 To be continued・・・


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