〜最終決戦・二〜
「よくやった。リングマ」
・・・・・・
金属製のドアノブのある、開き戸が目の前にあった
「開けるぞ」
レッドが腕をぐるんぐるんと回しながら、イエローにそう言う
彼女もはい、と答えて身構える
最終決戦、その第1戦目になるのだ
覚悟を決める
もう後には引けない、戻れない
扉の前に立ち、ドアノブ引こうとすると・・・勝手に横にスライドして開いた
・・・自動ドアなのか
横にスライドした扉が、ドアノブに引っかかって途中で止まっている
よくわからないが、他では見ることが出来ない光景だった
そして部屋のなかもそうだった
U字型の柱が数本立つ以外に何もない、部屋を構築する金属が剥き出しのキューブ
窓もなく、通風孔も目立って見えることのない・・・完全な直方体のなかといった感じだ
「どっかで見たことある形だな・・・」
レッドがU字型の柱に触れると、何かに気づく
そこでイエローと合わせて呼ぶ声が聞こえた
虚無僧のネオ、お調子者のマストラル
見覚えのある顔だった
確か、両名とも幹部候補・・・
2VS2
「ルールはダブルバトルでいいのか? それともタッグマッチ?」
「はぁ〜い、子猫ちゃ〜ん」
「ダブルバトルだ」
「あっ、サンダーの時の・・・!」
伝説の鳥ポケモンであるサンダーをめぐっているなかで、流離士・キョウユという男に大損害を食らった幹部候補
この最終決戦という状況下でも、ひらひらへらへらとイエローに手を振る陽気さというかおちゃらけた雰囲気は崩れていない
・・・その振る舞いに腹が立ったのか、ネオが裏拳をぶち込んだ
「にゃ〜」
「形式はダブルバトル、使用ポケモンは1体だけだ。他の手持ちはその辺に転がしておけ」
いいな、とネオがマストラルをひとにらみをする
そしてレッド達も同じように見る
レッドとイエローは頷き、これと決めたポケモンの入ったボール以外、危なくないように鞄に入れて床に置いた
「はじめるぞ」
「にゃっ、手加減はしないよ〜?」
「臨むところだ」
「負けませんっ」
「「「「バトルッ!!!!」」」」
同時に4人が叫び、部屋のなかにゆがんだ音が響く
ネオからはバクオング、マストラルからはカポエラー
レッドからはルガーことへルガー、イエローからはピーすけことバタフリーが現れる
直接的なタイプ相性的には・・・・・・若干レッド達の方が不利だった
「バクオング! 涅音を響かせろ!」
ポケモンを暴走させる怪音波攻撃
狭いキューブ内で反響し、更にその音をひどく増長させる
「やっぱ、あの柱・・・音叉か!」
レッドとイエローが耳を塞ぐが、ルガーとピーすけは防げず苦しみだした
涅音に反応し、キューブ内すべての柱がその身を震わせる
ただこの能力は音を介するもの
ダブルバトルで使えば味方まで自滅するのではないか
「にゃっは〜!」
怪音波のオーケストラのなかで、マストラルとそのパートナーのカポエラーはブレイクダンスを踊っていた
マストラルは陽気に、頭頂部だけで倒立しカポエラーと一緒にグルグルと回ってみせている
「ノリがシンジョー! ノリがシンジョー! ノッてけ、最後に笑っちゃうのはミーのハズぅ〜!」
カポエラーの回転速度が、今までの倍以上になっていくのが目でわかる
周囲に旋風が巻き起こり、ネオが長い髪をかきあげた
「・・・こいつの能力は単純明快。手持ちポケモンに『マイペース』の特性を加えることだ」
「ミーのせりふぅ!」
ぐるぐると回っているせいで言えなかったらしい
『トレーナー能力・ペースメイカー』
ポケモン本来が持つ特性に加え、もう1つこんらんしないというマイペースを加える能力
カポエラーのいかくもレッドとイエローのポケモンに作用はしているが、そのタイプ的には意味が薄い
ネオはあきれたように、しかしレッド達に冷酷な宣告を下すように言う
「わかるだろう」
ノリまくったカポエラーがキューブ中を重力を無視するように勢い任せで縦横無尽に駆け回り、レッド達へ徐々に近づいていく
頭が割れそうな2人と暴走状態に陥ったルガー、ピーすけもいて逃げられない
この動きは予測不可能だ
「こいつのポケモンは涅音を聞いても、意識を保ったまま力だけを上げることが出来る・・・!」
状態異常こんらんを回復させるキーのみといばる、ダブルバトルで使われるコンボのひとつ
この2つのトレーナー能力を合わせることで、この2人は勝ち残ることが出来た
「早々に終わりだ」
バクオングが更に怪音波を強め、レッド達は苦しみ、カポエラーの勢いが増した
猛進してくるのを止められない
「ルガー!」
耳を塞いだまま、レッドがかき消されないよう強く大きな声で指示を出した
届くか、それとも自滅するか
「『ほえる』!」
ガウウウアッガアアァァと、のたうちまわっていたルガーの目に炎がともった
身体の内を思い切り震わせ、外からの振動を振り払うかのように咆哮する
ほえるは、野性のポケモンを退け、バトル中に使えばポケモンを入れ替えさせる効果のある技だ
しかし、控えがいた渓谷の時とは違って今はネオの手持ちはバクオング1体しかいない
この技は不発に終わる
ネオが笑う、とその笑みが硬直した
カポエラーが身を硬直させ猛進が止まり、マストラルさえ回るのが止まった
「・・・ッつう!」
そううめくレッドとイエローだが、心なしか楽そうになっている
ルガーのほえるが、涅音をわずかに打ち消しているのだ
それだけではない
何かが違う
ネオとマストラルの身に違和感がある
いや、怪音波を出し続けているバクオングも何かに押されているようだった
「・・・何がッ」
音には音を、ということか
元々ほえるという技は大きな声で咆えたて交代をうながす技、戦意を失わせる技だ
ただの大きな音よりかは、打ち消すにあたり効果があるだろう
否
それだけではない
何かが違う
この身体の違和感は何だ
「ルガーッ!」
レッドが更に叫ぶと、ルガーもそれに応える
より敵意をむき出しにし、バクオングとカポエラーをにらみつけ咆える
じり、じり、と迫る何かが、攻撃力を上げているカポエラーをも押していく
同じ音ならば、狭いキューブも音叉もレッド達の味方になりうる
ルガーの咆哮が響き、ついに、わずかに涅音に競り勝った
暴走状態で苦しみ動けず、床にへたれていたピーすけがすかさず舞った
耳を押さえながら、イエローも叫ぶ
「ピーすけ、サイコキネシス!」
硬直しているカポエラーに念波が放たれる
頭頂部だけで倒立しているマストラルが声を、あごをむちゃくちゃにがたがこといわせながら、必死に声を出した
「みきりにゃ!」
咄嗟に間に合ったその声が、カポエラーを救う
念波の軌道を読みきり、キューブの床を削りながら紙一重で避けられた
それはまもるの効果でほえるの効果をはじけたこともあった
「・・・どうだ。ほえるの強さ」
レッドはにぃと笑った
聞いた話を初めて試したんだけどな、と付け加えた
ゴールドから聞いたのだ
新生ロケット団幹部が使った、その首領だったマスク・オブ・アイス直伝の戦法
鍛えられた者が使うことで戦意を削り取る効果を更に高め、戦意に反してトレーナーの手足をも硬直させる
ネオやマストラル達を縛っていた違和感の正体はそれだった
「我々の・・・」
ネオが、声を、しぼりだす
手足を震わせ、歯を食いしばって
「覚悟をなめるなッ!!」
ルガーのほえるの呪縛を叫び、打ち負かす
バクオングの涅音がそれに応え、より威力を増す
ネオも、マストラルも
任務失敗の責がある
仕方なしと許されようと諌められようと
慰められるはずがない
組織に忠誠を誓った者として
誇るべきは戦意ッ!
「止められると思うな!」
「にゃあ!」
カポエラーが最大攻撃力で、再び突っ込んでくる
戦意に反させるほえるに構わず、壁を勢いのまま上る
涅音による暴走は単純に攻撃力を上げるのではなく、後先考えさせずに全力を無理やり引き出す
こうそくいどうの類のぐーんと上がるような、正規の補助技ではない
意識まで暴走させずにがむしゃらに全力を出すことで、攻撃力以外に速さも上げることが出来た
更にマストラルの能力は極限のサバイバルバトルでレベルが上がっていた
混乱しないだけのマイペースに、どんな空気のなかでも自身のノリを貫くせいしんりょくが備わったのだ
ほえる本来のものとは違うものの、レッドが今使っている効果はひるむのに近い
多少なりとも耐性があってもおかしくはない
そして、屈強なノリのカポエラーはレッド達の頭上に跳ぶ
カポエラーのツノは硬く、それ自身が武器
近づくことでほえるの効果も強まろうが、それで身体が半ば硬直し回転数が落ちようが、重力には逆らえない
後先を考えない全力は速かった
ほえ続けるルガーに代わってピーすけが受けることもかなわなかった
格闘タイプのカポエラーの攻撃は悪・炎のルガーには効果は抜群だ
ズッドォオンとポケモンが床に落ちたというより落石に近い音が響き、床にひびが入り音叉の柱が傾く
咄嗟にルガーをかかえて飛び出したレッドと鞄を拾い上げたイエローが避け損ない、飛び散る床材と衝撃で冷たい床に叩きつけられる
厄介なほえるが消え、バクオングを縛るわずかな違和感が消えた
とどめ、と言わんばかりに力を貯める
ハイパーボイスか、『特能技・砕秦』か
「ピーすけ・・・っ」
「無駄だ、その位置では何も出来はしな・・・」
勝ったと思うネオが思わず口を塞いだ
この感じは
「・・・しまった!」
ネオがレッドとイエローを見る
いつの間に、こんな真似をしでかした
バクオングも止められない
ハイパーボイスを出すのに必要な、ある行為を既にしてしまった
ねむりごなが、薄く、この部屋に充満している
逃げ場のない狭いキューブ、カポエラーの旋風が更に気づかぬほどに撒き散らし、硬いツノで削れ舞う金属粉でまたわかりにくい
技を出したピーすけと、回転し続け旋風の中心にいたカポエラーは一定量の粉を吸わずにすんだ
しかし、ルガーとバクオングは違った
音を、声を出すために呼吸をしている
それも大きく、気づかれないような瞬間的に、深呼吸を
ねむりごなが薄く充満した空気を吸い込み、吸い込み、両者の身体に粉がたまっていく
そして、バクオングは・・・その一定量を今越えた
戦意に反させ硬直させるほえるは1体しか手持ちがいない時や、音波を増長させる場所か複数ですることで有効となる
空気に紛らわすねむりごなは開放された渓谷・外では使えず、空気が循環しない狭い室内といった限定空間で可能な作戦
「・・・いつまでもやられっ放しじゃないんだ」
ゆらり、とレッドとルガーが立ち上がる
ルガーも同様にねむりごなを吸っているのだが、その特性は『はやおき』
『ふみん』ほどではないが眠りに対して他の特性持ちポケモンより強く、眠ってもすぐに起きられるのだ
一瞬だけ眠りに落ちれば、あとは頭がすっきりするという経験がある人もいるだろう
「もうあなた達には負けません」
レッドがイエローに手を差し伸べ、立たせた
一度対峙し、戦い、そして対策を立てた
どうすれば勝てるか、どういう状況に持ち込むか
特に相手側に有利な状況を持ち込まれた時、どう立ち向かっていくか・・・
「俺達にも覚悟がある」
ルガーが駆け、倒れかけた音叉を乗り越え、その上で身を縮めて、バネのように飛びかかりバクオングに迫る
ねむりごなをまともに食らったわけではないので、バクオングの眠りもそう深くない
眠るのをこらえ、もうろうとしているような状態
決めるなら今だ
「カポエラー!」
暴走に身を任せ、それでもマストラルの指示通りにルガーの前に立ちふさがる
回転数を上げに上げまくった最高威力のトリプルキックが、弱点をつきにくる
先に飛び出したルガーめがけて跳んだカポエラーの攻撃、空中では避けられない
「ダブルバトルの基本はどう、パートナーを活かすかだ」
レッドが悪戯っぽく笑った
カポエラーがめがけるルガーの後ろにはピーすけがいた
空中では避けられず、また空を自在に飛び回る相手ではどうしようもない
カポエラーは格闘、ルガーは悪・炎、ピーすけは虫・飛行
しかし、放つ技は先程と同じ
「サイコキネシス!」
ルガーを巻き込んでのエスパー技が炸裂する
しかし、タイプ相性が有利に働く
正面からまともに・・・ではないものの、ダメージを受けるのはカポエラーだけ
しかし、回転数も技の勢いも止まらず、狙ったルガーに直撃する
ただサイコキネシスの余波を受け、わずかに打点がずれたようだ
蹴り飛ばされ、床に叩きつけられる痛すぎる音がキューブに響く
それでもルガーは闘争心を衰えさせず、よろけるのさえ堪えて、宙を跳ぶカポエラーを無視してバクオングに向かう
カポエラーはルガーを蹴り飛ばし、叩きつけたことが踏み台のようになり、滞空時間が延びてしまった
空中では避けられない
眠りでは技が出せない
「バカな・・・」
迫るルガーにネオが飛び出し、身を挺してバクオングを守ろうとした
しかし、レッドのルガーを見て身がすくんだ
・・・ほえる、の効果ではない
それよりも恐ろしい何かをルガーから感じ取り、覚悟を喰い破られたかのようだった
マストラルはにゃ〜っと驚きの声をあげる
それでもあがき、「みきり」の指示を出す
レッドとイエローが背中を合わせ、同時に指差し、叫んだ
「大恩の報」
「サイコキネシス」
ルガーのむき出しの本性・暴炎がバクオングの腹に、ピーすけのサイコキネシスがカポエラーの弱点を的確についた
無防備なバクオングは踏ん張ることもかなわず、その突撃に突き飛ばされ、キューブの金属製の壁に叩きつけられた
カポエラーは無事だったが、地面に落ちるには1秒遅かった
バクオングを壁に叩きつけたルガーが飛んで跳ねて駆け戻り、カポエラーの真下に潜り込む
ルガーはわざわざ相手の硬いツノに自身のツノでぶつかっていき、再びカポエラーを上へと突き飛ばした
「みきり!」
「サイコキネシス!」
みきりは連続で使うと精度が落ちる
運良くピーすけの技はまた避けられたが、下ではルガーが低く身構えうなり声を上げていた
前門の虎・後門の狼ならぬ上空の蝶・地平の犬
ダブルバトルはパートナーが先に潰れてしまったら、相手にタイプ相性で上回れなければ勝ちは望めない
「かえんほうしゃだ、ルガー」
ごおぉぉおっと下から噴き上げる火柱に包まれ、カポエラーがこんがり焼きあがった
暴走状態で全力を引き出せていても、防御はそうはいかない
身に余る攻撃力を使いこなすことなく、カポエラーは地面に落ちた
その自慢のツノでキューブの床、壁、天井に溝を刻み込むだけで殆どが終わった
ルガーは鼻をフンと鳴らし、満足そうに負けず嫌いのムシを治めたようだ
ネオは懐に手を差し入れ、箱型の機械を指先で押さえつける
それを開かなくても、見ればわかる
壁に打ち付けられたバクオングは全身とのどにやけどを負ってひきつらせ、先程の衝撃で目が覚めても満足に戦える状態ではない
何故だ
レッドの『大恩の報』は幾度となく使用され、最近になってまた新しい詳細データが入ってきた
そのなかにはルガーの暴炎のものもあった
しかし、これほどの威力は今までのデータにはなかった
しっぽうけいこくで私と戦った後、その後の短い時間に彼らに何が起きた
どれほどの猛特訓をすれば、ここまでになれるというのか・・・
男子三日会わざるは刮目せよ、というが違いすぎる
バクオングは起き上がれない
敗北を悟り、ネオが膝から崩れた
マストラルは逆さまに、大の字でぱたーんと地面に倒れこむ
キューブの主の提示するバトル形式での勝利
間違いなく、勝利だ
「・・・先、行かせてもらうぞ」
「・・・・・・」
イエローはかける言葉を見つけられないでいた
お疲れ様でしたとか失礼します、と覚悟を決めていた者達に言うのか
それとも次に誰かがキューブに来ても戦いにならないように何か手を打っておくべきか
「回復してから先に進め」
ネオが力なく首を動かし、あごで示すところに回復マシンが姿を見せた
その脇には次のキューブへと跳ぶワープパネルも出現している
「・・・・・・この決戦に挑む為に、マルマインを犠牲にした」
「にゃあ・・・オレもカポエラーしか勝ち残れなかった」
ネオとマストラルがつぶやいた
あのサバイバルバトルでパートナーを再起不能にされた者もいる
厳しい状況下で勝ち残ったなかでもネオとマストラルは、本当にぎりぎりだった
「安心しろ。敗者はマシンを使えない。私達はここで終わりだ」
「先に進みにゃあ、カッコかわいこちゃん」
トレーナー能力者、幹部候補でも厳しい状況下
そのなかで一般トレーナーも、勝ち残った
・・・・・・これの意味することは重い
覚悟、誓いを口にする者はゴマンといる
本当にその意志を確固たるものとしているのは、どれだけいる
驕りを覚悟と違えていたのだろうか
情けない、腹が立つ?
それとも違う・・・この気持ちは何だ
・・・・・・覚悟を口にした者が、負けるということ
それ以上は、彼女や彼には言葉に表すことが出来なかった・・・・・・
「・・・ありがとうございます」
イエローはそれだけ言った
レッドと一緒に鞄のボールを間違えず手に取り、念のため残らず回復マシンに乗せた
・・・
「じゃ、またな」
「はい」
レッドとイエローはそれだけ言葉を交わし、時間差でこのキューブから立ち去った
スタートの時に誓ったように・・・離れていても共に戦い、勝ち残ろう
そして再び出会う時はポケモンも本人も、薄汚れて泥だらけで汚くても臭ってもいいから無事でいて
切なる願いは報われるのか・・・
最終決戦は始まったばかりだ
「幹部候補・ネオ&マストラルのタッグキューブ」
侵入者レッド&イエロー、勝利
・・・・・・
「あぁようこそ、私のキューブに」
「ここがキューブなんですか」
目の当たりにしても、ここが海の底・地下だなんて信じがたい
地上の湖畔をそのままくりぬいて持ってきたかのようだ、天井以外
「戦う前に準備を整えるといい」
釣竿をひゅんと音を鳴らして引き上げ、男がボートの上で立ち上がった
実に自然な動作でボートを揺らさず、バランスも崩さない
「そこに着替えがある」
「着替え?」
「ここのキューブを見ればわかるだろう。水上・水中戦仕様だ。
そのままでも結構だが、万一勝ち残れた時・・・びしょ濡れで先に進むことになる」
それは困る
そして水中戦になったら、確かに潜らなくてはならなくなるかもしれない・・・
「ちなみにボートは貸さない」
「・・・・・・」
クリスは考え、岸辺に沿って歩き、物置のようなところに向かった
その間、向こうも攻撃してこなかったし、またボートに座っている
とりあえず用意されているものを確認してみよう、と思ったのだ
物置を開けると、ウェットスーツや水着、撥水加工されている上着などが一揃いあった
扉さえ閉めれば外からは見えない密閉空間になるようだし、着替え用の大きなタオルも置いてある
「・・・メガぴょん」
ボールを投げるとボン、と音をさせ物置の外にメガぴょんを出した
お言葉に甘えて着替えることにして、不意打ち対策で見張っててもらう
更にネイぴょんを室内に出すことで、ささいな音も逃さない
クリスは細工がないか確認してから、服を脱ぎ、ベビーパウダーをはたき、ウェットスーツを着込んだ
その上で水色の撥水コートを羽織ってみて、動きにくくないか確認する
元々ぴったりのサイズではないので、少しだぼついているが仕方ない
逆に小さくてぴっちりしすぎて身体のラインが出る方が恥ずかしい、と思う
ネイぴょんと一緒に物置から出ると、いるはずのメガぴょんがいなかった
慌てて左右に目をやると、クリスが跳んできたキューブのパネルのところにいるのが見えた
そこにグリーンもいた
同じキューブに、時間差で跳んできたのだろうか
メガぴょんも仲間が来たからって持ち場は離れないでほしい、心配する
「・・・・・・」
グリーンが出てきたクリスに気づき、その方を見たがすぐに湖に浮かぶキューブの主に視線が動く
クリスも思い至る
そうか、2VS1になってしまうのか、と
こういう場合は先に来たクリスが戦うのだろう・・・
「いえ、お2人でどうぞ」
キューブの主は自信たっぷりに言った
「キューブ間のワープシステムに、主に限って『人数制限』を設けることが出来ます。
主が1対1を望むなら、1人が来た時点で、そのバトルが終わるまで他の者が跳んでくることはありません。
制限の仕方は色々ですよ。それこそ主のバトルスタイル次第です」
「余程の自信があるようだな」
グリーンが主を見る
こうして彼がここに来られたのも、ここの主が複数人相手に戦えるというつもりだからだ
「まぁ。こちらはボートがありますし、環境含めて条件的にはこちらが有利ですので」
「いいだろう」
グリーンがクリスを再び見ると、彼女が頷いた
2人で倒そう
「名前は?」
「あぁウマカタと言います」
着替えますか、とウマカタがグリーンに言う
少し考え、グリーンも物置のなかに入っていく
その間にクリスはメガぴょんとネイぴょんを戻し、代わりにサニぴょんを出した
「あぁそれと、バトルで使えるポケモンの数は3体です。お2人ですので、どちらか1人が2体使われてもいいです」
更にウマカタのポケモンは既にボールから出ているという
岸や天井にその姿が見えないということは、水中に潜んでいる可能性が高い
グリーンが物置から出てくるが、格好は何一つ変わっていない
マントの下が水着や半裸・・・というわけでもなく、見るだけ見てやめたようだった
クリスがグリーンにバトル形式を話した結果、3体目は互いの状況次第で決めることにした
今出すべき3体を決める必要はない、ポケモンの数さえ守ればあとは好きにしてくれと向こうも割り込むように言ってきたからだ
あきれるほどウマカタは自信を持っているらしい
「はじめましょうか」
ウマカタが再びボートの上に立った
その言葉を聞いてすぐにグリーンはゴルダックを出し、クリスを置いていきなり着衣のまま湖のなかに飛び込むのだった
「む」
「えーっ!!?」
・・・・・・こんなことをするなんて、聞いていなかったらしい
3体目、どうするんだろう・・・
To be continued・・・
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