〜最終決戦・三〜
「えーっ!!?」
・・・・・・
「・・・見た感じなぁーんにもなさそ〜だけどー」
ブルーが跳んだ先は何もない、ただ奥行きが広いキューブだ
高さ12m、幅12m、奥行き80mといったところだろうか
次のワープ装置のある奥まで見通せるが、それでもキューブの主が見当たらない
のん気そうに言葉を間延びさせ、ワープ装置から降りようとしない
「でもね、ここ敵陣なのよね〜」
そう意味ありげにつぶやきながら、ブルーはカバンから見覚えのある機械を取り出す
タマムシ付近でのミュウ探索からお世話になっている、シルフスコープを改良したものだ
これで見えないあるものを見えるようにする
ブルーがかけたスコープにいくつも見えにくい光線がはしっているのが映った
おそらく、これに触れると何らかのトラップが作動するのだろう
「こんなことだろうと思った」
ふぅと息をついた
トレーナーや能力者同士でのバトルで決着をつけようと言っていなかったか
バトルでかなわなくても、こういうことで勝てればいいらしい?
・・・いや、これはポケモンを使って乗り越えてみせろと言っているのか
ブルーがそう思い立ったのは、その不可視の光線がポケモンのエスパー系の波長を帯びていることに気づいたのだ
元々そういうスコープに様々な機能を付加させたものなので、わかることだ
―――
「・・・早いな。もう気づかれたか」
四方4mほどの小さなキューブは、壁一面をモニターで埋め尽くしていた
その真ん中で、モニターの光に囲まれ、バランスボールに乗っている男が1人
名前はキナという
『陣・イスパイラプ』
トラップの作動にポケモンのエスパーの力を利用・連動させた陣がひとつ
随分前にR団がサントアンヌ号を襲撃した際に使用した手口に似ている
が、これは2体のエスパーポケモンを配置・使用することで威力の相乗効果と正確な作動性をより高める別格
ポケモンと連動させるトラップは爆弾からトラバサミまで様々なものを、いくつもキューブ内に仕掛けてある
そして彼が受け持つ、彼の陣の支配下にあるキューブは18
ブルーと彼のいるキューブ2つのほか、まだ16もある
キューブそのものかポケモン&トラップをすべて作動させるか完全に破壊しつくさない限り、侵入者を何度でもご招待し、阻む
そう、決して戦意喪失することはない
「結果を出したいのならルールやプライドなどという意思よりも、効率を重視すべきだ」
1人のトレーナーが持てる手持ちは6体
それは一般常識の話であって、能力者やこの戦いでは通じない
元々ポケモンをプログラムに組み込む、トラップとの連動の為だけにその身体に徹底的に調教することで確立する陣だ
トレーナーからの指示を必要としない兵隊に、そんな均等に愛情を注ぐための制限はなくて構わない
彼は、何者にも容赦しない
そのくせ、自ら動くことは嫌う
故に感情の入らない機械的なトラップを仕掛け、それを一部始終監視し見届けるのだ
だが、無事に次のワープ装置までたどり着けたらポケモンの回復はさせてやる
この戦いのルールは守るつもりだ
ただトレーナーや能力者がトラップで重傷を負ったら・・・それはこの戦いの守るべきルールにはない
それを忘れてはならない
―――
ブルーのスコープで分析した結果、部屋に張り巡らせた光線は2種類
つまり、壁や床のどこかに2体のエスパーポケモンが潜んでいる
それはもっと時間をかければ割り出せるかもしれないが、悠長にもしてられない
あと能力者はこの場にはいないが、おそらくモニターか何かでキューブの様子を観ているはずだ
「さーて、どうしましょ」
作動を避けられるのなら、そのまま避けて通りたい
この主のいないキューブを突破したところでポケモンを回復させてくれるか怪しいし、自分も怪我をしたら面倒だ
監視もされているなら、こういったトラップキューブをまとめて管理・監視している主に手の内を見せたくない
だけどブルーのように機器を使えばそういう避けての突破も可能だろうが、他のメンバーは怪しい
何も知らぬずに飛び込んだら、えらい目に遭うだろう
「・・・・・・しょーがない。強行突破して、皆をラクさせてあげますか」
スコープに光線の角度や位置を記録させ、カメちゃんを出した
水流を放ち、巨体が宙を飛ぶのにブルーがつかまる
「がんがんトラップ作動させて、このキューブのはぜーんぶ使い物にさせなくするわよ!」
半ばやけ気味に、水流砲の向きを変え、ドンッとブルーが飛び出すと・・・まず最初の光線に触れた
遮られた光線と念波によってトラップの作動音、ウィィィがしゃっという音がキューブ内に低く響く
念動力で加速する高速の矢が天井と床から一斉に、ブルーとカメちゃん目掛けて発射された
・・・・・・
「えーっ!!?」
クリスは驚きの声を隠さず、水面を覗き込む
グリーンは大丈夫なのだろうか
足元のサニぴょんも不安そうだ
・・・
ゴポ、ポポ・・・
素潜りで、グリーンが潜行していく
このキューブの天井には照明具があったものの、水底まで明かりは届いていない
そして、何より思った以上に水が冷たい
鋭い眼が、その水底に広がる暗がりに何かが潜んでいるのを見抜いた
突然、ゴォッとグリーンとゴルダックの周りを高速で旋回する2つの影
合計で3体、これが向こうのパーティというわけだ
図鑑を開かなくてもわかる
以前から、よく知っているポケモンだった
タイプ、おぼえる技、生態・・・
そして、このキューブの主が何をしようとしているのかもわかった
グリーンが水上へ出ようと、ゴルダックに指示したのと同時だった
「ッ!」
間に合わない
・・・
クリスが水面を覗き込むのをやめ、サニぴょんにウマカタのボートを壊すように指示をする
それとほぼ同時だった
ガキン、という音と冷気がキューブを満たす
・・・クリスの目の前に広がっていた湖が、スケートリンクになっていた
その事態に、彼女は声を失った
まだグリーンが・・・水のなかにいるのに、と
「は、ははははははは」
ウマカタが笑う
それは勝利の宣言だった
「水上・水中戦使用とは言ったがその通りに戦うとは俺は言っていないぞ!
あぁばかめ、まんまと陣にかかりやがった!」
「な、なんてことを!」
グリーンは何の準備もなしに潜行し、湖ごと氷漬けになってしまった
由々しき事態だ
ウマカタが笑うのをやめると、ボートの傍の氷がひび割れ始める
クリスはグリーンかと思った、何とかしているものと
しかし、そうしてタイミングを見計らって出てきたのはゴルダックではない
サイドンだった
頭部のつのドリルで氷を突き破り、外に出てきたようだ
ということは、このサイドンだけで・・・湖を凍らせた?
3体戦なのに? 他のポケモンは?
「あぁ、紹介しよう。私のサイドン、陣の中核を為すポケモンです」
「陣・・・」
「そう。あとジュゴン2体、この湖で同じように氷漬けになっています」
コン、コンと釣竿で凍った水面を叩いて示す
ウマカタは竿先の氷を見て、嘲笑う
サイドンはマグマのなかでも活動出来る頑健な肌の持ち主だ
そして地面や岩、ノーマルなどの物理技のほかにも多くの特殊技を多くおぼえる
ウマカタのサイドンはなみのり、ふぶきをおぼえていた
「重量級のサイドンを水底に沈め、湖全体を泳ぎ回り冷やすジュゴン2体との連携で瞬間的に湖を丸ごと凍らせる。
あぁこれこそ私がこのキューブに仕掛けた陣、『凍角(トウカク)』です」
ジュゴンにより水温は下げられているものの、水上ではわからない程度に撹拌されている
これは水流をつくることで事前に氷が出来ないようにするためだ
サイドンはなみのりによって水への耐性を若干つけさせた上で、釣竿の糸の先にボールを付けて、垂らしておく
侵入者が来たら竿を引き上げる軽い振動を使ってボールを湖へと沈ませる
ゆっくりと水底まで到着し、若干技として使用するなら水への耐性があるサイドンが外に出る
あとはジュゴンの動きやタイミングを見計らっての指示で、ふぶきを放たせるだけ
適度に冷やされていた湖は氷タイプ一致のジュゴン2体のふぶきとあいまって、見事にがちがちに凍りつく
ジュゴンは湖ごと凍ってしまえば動けないのだが、つのドリルの他にサイドンはパワーと頑健な肌がある
湖という大きな氷を砕きながら、外へ出てくるのは容易いのだ
ただし、相当に身体はぼろぼろだが・・・・・・
「陣がうまく機能すれば、この通り。水上・水中で活動するポケモンは一掃出来る。
あぁなかなかだとは思わないか?」
「・・・・・・」
クリスは必死に考えていた
急いでグリーンを助け出さないと、命に関わる
その為には、ウマカタを倒さなければならない
「動くなよ。ポケモンも出すな」
ウマカタは穏やかな表情でそう言う
従うわけがない、仲間の危機なのだ
「でなければ、サイドンに『じしん』の指示を出します。
あぁこの意味がわかりますよね?」
サイドンが無理やり氷を割って進んできた、ひび割れた氷の湖
そこにじしんなどしたら、間違いなくグリーンやゴルダックごと粉々になってしまう
この陣は水上・水中にいたポケモンを行動不能にするほか、それらを人・ポケ質にするためのものなのだ
サイドンがいくら陣発動の為にぼろぼろになろうが、これ以上は相手からダメージを与えられないのだから構わない
「動かないでくださいね」
丁寧に言い直したウマカタはボートから降り、そしてそれを蹴飛ばした
氷のリンクを滑走し、ボートがクリスの横を、サニぴょんにぶつかった
水・岩タイプのサニぴょんには大したダメージではないかもしれない
しかし、クリスは悔しかった
グリーンの軽率な行動を責めるべきだろうか
いや、彼は湖に何かあると見ていち早く行動しただけだ
クリスと会話すれば警戒されると踏んで、即座に動き即座に離脱する気だったのだろう
相手の仕込みが万端でなければ、うまくいっていただろうに・・・
ここは相手に有利なキューブ
侵入者であるクリス達はその理不尽な条件を跳ね返せるくらい強く、圧倒的でなければならない
公平なバトルばかり臨めないこと
わかっていた、はずなのに・・・
氷から出てきたサイドンをすぐに戦闘不能にしていれば、悔やみきれない
湖のキューブだからといって気温や他の条件に目を配ればよかった
「ごめ、んなさ・・・」
ウマカタは嘲
「『陣』つーのは、一般トレーナーが能力者に対抗するために作り出す戦術だ。
ポケモンの生態や技の仕組みを理解、組み立て上げることでその威力を何倍にも高め、能力者のチカラに対抗する。
故に絶対的に効率的なものでなければならず、仕込みや下準備は必須。
型にはまれば強いが、戦いの出鼻をくじかれ最初から陣を崩されたら為すすべはない」
笑うのをやめた
その聞き覚えのある声に、クリスは振り向きざまに思わず声を出す
「悪い。教えそこなったか?」
「ガイクさん!」
突然の侵入者
「ハリテヤマァ!!」
そのあがった怒号、
「ぶちかませ!」
ボールから出たその初動の速さ、
「特能技!」
氷の上を滑走し距離を詰める、
「あぁサイドンじしんだ!」
ハリテヤマの掌が、
「『破 璃 掌』」
サイドンの頑健な肌に触れた
瞬間的な爆発音、
それよりも噴火といったような、
キューブを内側から破裂させてしまうような、
ドッ、ゴッ、バッ、ガッ、ジッ
そんな音が入り混じった破裂音のような・・・・・・後に残ったのはクリスの頬を撫でるようなわずかな風
じしんと浮かせた足を踏むこともないままサイドンは後方のキューブの壁にめり込み、その衝撃で背中の頑健な肌にひびが入っていた
それから腹には大きな掌の、黒い痕がくっきりと残っていた
ガイクの特能技、発音はハリテと聞こえたが・・・・・・生やさしい威力ではない
ウマカタは立ち尽くし、いや気絶していた
あれだけの音を、真横で聞いていたのだから・・・鼓膜が破れているだけで済んでいればいいのだが・・・心臓もショックで止まってはいないようだが・・・
ガイクはハリテヤマにねぎらいの言葉をかける
「・・・3体目のポケモンを出してなかったから、俺はここに来れたんだろう。
あいつもさっさと3体目出させて、条件を満たさせることでワープ装置にロックかけりゃあな・・・。
ともあれ、無事で良かった」
「っ! 無事じゃないで、す! グリーンさんが!」
クリスが凍った湖を覗き込み、ウインぴょんの炎で溶かせるか目算する
それを見たガイクが、湖のほぼ中央にいたハリテヤマに指示を出す
「じしんだ」
重量級のハリテヤマの四股が、湖の氷を圧砕した
縦横無尽に亀裂がはしり、大きな大きな氷柱が何本も立った
衝撃の余波でウマカタはぽーんと無防備に投げ出され、端の茂みにナイスイン
その光景にクリスは声を失い、そのままガイクにつかみかかる
なんてことをしたんだ、どうするの、と目で訴えかけている
「心配するな。あいつは無事だ」
声の出ないクリスに、ガイクはつぶやく
「何の策も為しに飛び込むやつじゃねーよ。懐に酸素ボンベを隠し持ってた。
凍らされる瞬間に、ゴルダックのエスパーの力でそいつを破壊。
あふれ出た圧縮空気で水を撥ね退けるバリアーボールを周囲につくった」
空気の膜で己を包み、氷漬けにされることを回避したのだ
ただし、分厚い氷の壁があるのには変わらず、ゴルダックでは脱出不可能だった
ウマカタでもガイクでもクリスでもいい・・・早い内に氷を砕いてもらう必要があった、というわけだ
「俺にはこの眼があるのを忘れたのか?」
ガイクが右の指先で示すトレーナーアイ、その眼はポケモンの身体能力値や状態を視ることが出来る
たとえ凍った湖のなかでも、ポケモンがどういう状態でいるのか・・・こおり状態ではないポケモンがいれば想像がつく
かつて組織に在籍していたからか、こういうあり得ない状況の把握は早かった
「グリーンを引っ張り出すのは俺に任せと」
左腕と胴をがしっとクリスに抱きつかれ、ガイクが固まった
がっがっががくがくと震わせつつ眼を示していた右の指先だけをちょいちょい動かし、ハリテヤマにグリーンの捜索を指示する
それに頷き、行動に移してくれたハリテヤマを見てからあさっての方を見てクリスに話しかけた
「破璃掌て、てーのはつっぱりとはかいこうせんを組み合わせた特能技だ。
本来エネルギー充填が溜まるまで放てないはかいこうせんを、充填途中のを無理やりつっぱりすることでエネルギーを炸裂させる。
つっぱりの連続攻撃同様だな、半端なはかいこうせんだから複数回炸裂させることが出来るわけだ」
ガイクはこの特能技により白の試練を突破した
威力のある炸裂張り手、巨体に似合わぬフットワークとそれにより自重を乗せた一撃はサイドンも吹っ飛ばすほどだ
両手による連続攻撃故に攻撃範囲も広く取れ、敵をまとめて一掃する
必死になってガイクが説明しているなか、ハリテヤマが大きな氷柱を倒す
がらららと倒れた根元に、ゴルダックがグリーンを肩に担ぎながらふんばっているのが見えた
ハリテヤマが手を伸ばすとグリーンがそれをつかみ、凍えた手でゴルダックをボールに戻す
それからグリーンがハリテヤマに引っ張りあげられ、見つかったことがわかったがクリスは固まったままだ
ガイクは宙ぶらりんな右腕を、クリスの頭の上に乗せた
「・・・飯、うまかったか?」
「え」
「別荘にあった食事、俺が作ったんだ。1人1人好みに合わせたつもりなんだが、そ」
「あ、は・・・おいしかったです・・・」
「そいつは良かった。ほら、グリーンのやつ見つかったぞ」
クリスがくるっと振り返り見ると、グリーンが少しよろつきながら立っていた
遠目だが「迷惑を、心配をかけたな」と言っているようだ
無事な姿を見て、彼女は今度はその場に座り込んでしまう
サニぴょんがクリスの様子を心配し、その膝に乗っかって顔を覗き込んでいる
良かった、無事で・・・
ガイクはふーーーっと長く息をつき、ハリテヤマをボールに戻した
「一般トレーナー・ウマカタのキューブ」
侵入者クリス&グリーン&ガイク、勝利
・・・・・・
このキューブはボクシングのリングをそのまま大きくしたような様式で、侵入者と主がそこに上がってタイマンバトルを張っていた
「運がなかったな、侵入者!」
赤コーナーでどんと叫ぶ男がいる
その相手、青コーナーに立つのはダイゴだった
「某所で髪を剃られ、梵字を全身に刻むというチャレンジを成し遂げた俺に敵はいない!」
マウスピースまで付けたボクサースタイルで直立不動
その男、チャレンジャーなり
名はバルー
手持ちポケモンはカクレオン
そんな彼のトレーナー能力は・・・
ひらりひらりと一枚の羽根のような軽やかな動きで翻弄し、見事カクレオンの背後を取った
ダイゴのポケモン、ヨルノズクのシショーのサイコキネシス
しっかりと決まったはずなのに、カクレオンは無傷だった
シショーは悪タイプの技は覚えておらず、カクレオンもへんしょくで悪タイプになっているわけではない
「ついに完成したのさ! 俺の能力、『特攻無効』!
特殊攻撃を半減どころか無効にしちまう無敵能力!」
「いや、そんな能力は存在しない。
おそらく特殊攻撃を半減以上、そうだな・・・目測にしておよそ1/5ほどまで威力を落とすんだろう。
そして受けたダメージも、カクレオンに持たせたたべのこしによりすぐに回復してしまうわけだ」
ダイゴはあっさりと見破る
バルーはぐっと詰まった
しかし、それにしても脅威の能力には変わりない
見破られたってへこむバルーではない
「だが! 俺の無敗チャレンジはまだ終わっちゃいねぇぜ!」
特殊攻撃の効果が薄いなら、攻め手は物理技
相手のカクレオンの攻撃を読み取るように、ダイゴは突き出した左腕をふわ・さささっと揺らめかせ動かす
それが指示に繋がるようでシショーはまた風に舞う羽根のような動きではがねのつばさを決め
「カウンター!」
られたカクレオンが、逆に物理攻撃を受けるとその威力を即座に相手へ倍返す『返し技』をお見舞いする
直接相手に接触するというはがねのつばさのシショーは逃れられず、まともに食らってバッツンと弾かれる
危うく床にダウンしてしまうところを、なんとかこらえて再び空を飛ぶ
「物理攻撃は倍返し、特殊攻撃は1/5まで威力低下・・・か」
「言ったろう。俺は無敵だと。このチャレンジは絶対に成功させる!」
つるっぱげで全身に梵字と耳無しホウイチ以上の容貌だ
それは某所で行われたチャレンジのせいだ、と大事なことなので2回書く
・・・シショーの体力が大幅に削れてしまった
鍛え上げた鋼の技だけあって、跳ね返されたらこちらもまずい
その上、はがねのつばさによって現在カクレオンは鋼タイプに
物理に強いタイプでもあるし、エスパーの攻撃も効果が薄い・・・
確かに言うだけのことはある
たべのこしの効果で、はがねのつばさのダメージも回復しつつある
元々カクレオンは特防に優れたポケモン、能力との相性もいい
更にそれを活かすべく、性格も合わせての防御特化に育て上げられているはずだ
「カクレオン、だましうち!」
受けてばかりではない、攻撃の手もある
へんしょくという体を表したように、多彩なタイプの技をおぼえられるのがカクレオンの特徴だ
いい戦い方を得ている、そう思える
それでもダイゴは目の前のチャレンジャーを見据え、何のことなしに言う
「さて、反撃といこうか」
・・・・・・
ゴールドはいかめしい門の前に立っていた
なんか細長く、紋様のある何かが彫刻された門だ
「ほっほ、おっりゃ!」
金輪のドアノブを引くと、意外にも軽く門が開く
勢いあまって、後ろに転んでしまいそうになるのをぴんと腕に力を込めこらえる
開いたそこから冷たい風が吹き出し、体勢を整えなおしたゴールドはキューブのなかに入っていく
入ってすぐ、下へ続く白い螺旋階段がある
ゴールドは階段の上に立ち、すぐ上を見上げた
どうもキューブの床よりも天井に近いところに門をつくったようだ
なんでそんなことをしたかは、入ってすぐにわかった
天井と四方の壁の境から、薄く水がカーテンのように流れ落ちていた
さぁあぁぁあと軽やかな音が響き、清らかな空気がキューブ内に満ち溢れている
流れ落ちていく水のカーテンに見とれながら、ゴールドは螺旋階段を下りていく
「すげ」
下りていくとわかるが、カーテンの水はそのまま床を浅く浸している
まさに水のフィールド、というやつだろう
階段の一番下の段まで来て、ゴールドは水の深さを見た
深さは5cmくらいだろう
靴や靴下がびしょ濡れるが、滑って転ぶよりマシだ
思い切り良くざぶざぶと足を突っ込んで一歩二歩三歩と歩いたところで立ち止まり、キューブを下から見上げてみる
天井はその一面が太陽光に似た照明具であり、よく見るとそれも揺らめいている辺り・・・あれもガラスではなく薄い水で覆われているのかもしれない
6面を水で囲まれた内部はこの建物が海の地下にあることを思い出させ、それでいて何もかも澄み切っていた
呼吸するたびに肺が洗われるようで、本当の大自然のなかにいるような・・・別世界だった
またこのキューブ自体、かなり大きい
高さ30m、横幅は60m、奥行きだけで120mはありそうだ
いやいやどこかの学校の、校庭より広い
そんな広いキューブの主は、その真ん中で、座って、侵入者のことを見つめていた
ゴールドもその視線に気づき、見上げていた視線を真ん中へと移す
「・・・・・・」
声を、時間の感覚を、呼吸の仕方を、失った
「侵入者か」
水音も立てず、飛沫もあげず、その主は立ち上がる
「ッハァ!」
ゴールドが失ったものを取り戻すと、今度は心臓の動機が・・・鼓動が速くなった
ドンドンドンドンドンと身体の内側から、衝動のまま叩いているかのように
身体も、声も震えた
この清廉とされたキューブの主は、それに相応しい風格と品格を持ち合わせていた
腰までくる長髪と瞳の色は紺色で、きゅっと引き締まり凛とした・・・整った顔立ちの女性
お、まさか、そんな、あれ、その・・・・・・う、あ
「・・・・・・ク、レ・・・ア・・・?」
ゴールドの目は見開き、その女性に良く似た子の名前を思わずつぶやいていた
その主は目を細め、ほうとつぶやいた
「驚いたな。私の本名を知るものが、お前達のなかにいるとは思わなかった」
その言葉に、更にゴールドは言葉を失う
ゆ、っくり、と浅く、深呼吸を繰り返す
信じ、られ、ない
「改めて、名を名乗ろう」
呆けているゴールドに少しばかり妙だな、という表情をしつつも女性が話す
「私の名はクレア。四大幹部をはじめとす皆からは聖二十方位の称号が『巽(タツミ)』と呼ばれている」
タツミ、という響きがいかにも彼女らしいものなのでいつの間にか定着してしまったあだ名だ
本名の方は知る者は同じ四高将かそれ以上の四大幹部、あとは殆ど知る者はいないはずと思っていた
どこかで組織の情報が漏れたのだろうか、とゴールドを倒した後で尋問し訊くことに決める
「これより侵入者ゴールド、厳正なるダブルバトルをもって排除する」
クレアは自分を見てから、途端に覇気と呼べるものが失せてしまったゴールドに凄みを入れた声を出す
「(・・・・・・声は違う。けど、いや、ちょっと似てる)」
あり得ないのだ
クレアは・・・トレーナー能力から生み出された『意思を持つみがわり人形』だった
ゴールドと出会い、恋に芽生えた女の子は実在なんてするはずがない
じゃあ、目の前にいる相手は何だ
いるはずのない女性が目の前に立っている
いや思い出の彼女とは大人びて見えるし、声も違うように聞こえる
だが、別人とは言いがたい
確かにクレアなのだ
ゴールドは頭を振って、思い直す
違う、あれはクレアじゃない
じゃあ、何だ
・・・トレーナー能力によって作られたクレアの、モデルになった人物・・・・・・!!
・・・・・・なのか?
「どうした。始めてもいいのか」
クレアが両の掌からボールを解放し、出したポケモン
ギャラドス
ミロカロス
部屋に満ちる水をまとい、
優雅に、
華麗に、
荘厳に、
クレアを中心に舞い踊る
「四高将以下十二使徒16名、各々が方位を象るポケモンとそのタイプのエキスパートだ」
四高将が巽、クレアのエキスパートは水
ゴールドはハッと、衝動的に腰のボールを2つ投げる
出てきたのは
マンたろう
ニョたろう
まだ少し呆けているゴールドを不安そうにしているものの、2体は臨戦態勢に入っている
一度出したポケモンは最早変えることは出来ない
―――水ポケモン同士の対決!
組織のなかでも最高位に近い存在の、エキスパートタイプでの挑戦
タイプも水・飛行と水のみの2体で一致している
「・・・面白い」
この地位に立ってから、そうしてぶつかってきた者はいなかった
久しくなかった高揚と期待がクレアの身の内で起こるものの、それは何の影響もない
広く大きな器に満たされた心の水により表に出る前に静まりかえり、明鏡止水がままに・・・・・・
「行くぞ」
「お、おう!」
ゴールドが意気込み、わずかに顔を落とす
再び前を見た時、クレアの姿はなかっ
「どこを見ている」
ゴールドの背後に回りこんでいるのはクレアと、そのポケ
「終わりだ」
反応が間に合
ギャラドスの咆哮で床を浸していた水が舞い上がり、ゴールドとニョたろうとマンたろうを包み込む
呼吸がd
「『ミヅチ』」
振り上げたギャラドスの尾が、ゴールド達を包んでいた水球を真っ二つにし、それごと床に叩きつけた
がぼっと、赤が混じった水を彼が口から吐き出す
それも床に浸された水があっという間に薄め、さっと消えた
「・・・私のトレーナー能力名は『流宮京(リュウグウキョウ)』。
そのポケモンがまとう水と放つ技の水流と水圧を自在に操る」
床を浸す水に水流を生み出し、それに乗ることでゴールドの背後に一瞬で回りこむ超高速移動
水流と水圧を調節し作った水球で束縛、尾で叩きつける瞬間に水圧を上げることで身体の内部への破壊力をも高めた
そのどれもが能力の一端、まだその引き出しは多く残されている
否、引き出されるわけがない
この環境下で彼女に勝てる者は存在し得ないのだ
「・・・・・・」
これが四高将の一角、巽ことクレアの戯れ
To be continued・・・
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