〜最終決戦・十〜



 「んだよ、こんなんはよぉおおおぉ――ッ!!!!」


 ・・・・・・


 「よっと」

 ブルーがしゅん、と軽い電子音をたててワープ装置から現れた
 そこは、いわゆる電話ボックスのなかだった
 今までロッカーに似たものやパネルだけといったものばかりだったので、少し面白い
 透明のドアを押して出ると、そこは市街地・・・いや十字路の道路を切り抜いた様なキューブだった
 横断歩道と信号機や交通標識は飾りだろう、あれにまさかポケモンの技やトレーナーの行動を制限する機能があるとは思えない

 「下はアスファルトか。うまく砕ければいい武器になるかも」

 キューブの中心にある道路以外の周囲はすべてビル、その1階部分のテナントまで再現されたまさにご町内バトルフィールド
 ビルを陰にして戦うのは難しそうだし、他に遮蔽物と言えるのは信号機や交通標識の細い支柱くらいだ

 ブルーは電話ボックスを振り返り、見る
 あの帝王はもう追ってこない
 トラップ→ガーデンキューブとブルーの後についてこられたのは、跳んでから1分くらいだったからだ
 ワープ装置は1回跳んだら別の跳躍先に設定・前回分の履歴は完全消去されるらしく、タカムネはライコウの電気と自身の工学知識から前回の跳躍先を探り当て消去される寸前で止めた
 完全にこのランダムワープの仕組みや組織アジトの構造を把握したわけではない、といった
 まぁ消去されたはずの前回の跳躍先が、次の跳躍先になることもあるらしいが・・・・・・ランダムとしても稀だろう


 「どーぅもーっ、侵入者の方ですかー?」

 明るい調子で声をかけられ、ブルーは電話ボックスのはす向かいにいる男に目をやった
 灰色の団服で腕輪は2つ、部隊長クラス
 腰にモンスターボールを6つも付けている

 「トーヤといいます。侵入者のお姉さんの名前はなんゆーの?」

 「ブルーよ」

 「ブルー! あー、思い出したうん」

 遠くでトーヤがうんうんと頷いている
 手元に灰色の図鑑を持って、何かピコピコと操作して、また頷いた
 どうやら侵入者のデータなども入っているようで、電子手帳的な機能も備わっているらしい
 最近は色々小型化が進んでいるからそのくらいの増設は可能だろうし・・・・・・少し羨ましい

 「戦いの形式は?」

 「あ、もう始める? ・・・2対2のダブルバトルでいこうか」

 6体も持っているから、もう少し数多いバトル形式と思ったが・・・変則的なものよりかはわかりやすいか

 はははは、と笑うトーヤの表情にブルーは少しだけおぼえながら両者は同時にボールを2つ投げ放った


 道路に立ったのはケッキング、メタグロス、プリン、メタモン
 重量級VS軽量級

 「メタちゃん、へんしん」

 「メタグロス、かわらわり」

 うにょんと変身しだすメタモンに振り下ろされる鋼の腕を、プリンが止めた
 まもる、のようだ

 「(ケッキングの特性はなまけ、なら・・・)」

 メタモンの変身が終わるとそこにはメタグロスがいた
 寸分違わぬその姿、ブルー素早く図鑑で技構成をチェックする

 「メタちゃん、サイコキネシス。ぷりり、トライアタック!」

 「メタグロス、サイコキネシス。ケッキング、いばる」

 シミシとアスファルトがめくれあがり、ひび割れる音がする
 サイコキネシス、同じ技の激突
 
 しかし、押されているのはメタモンの方だった
 ミシミシとアスファルトがめくれあがり、ひび割れる音がする
 念波の圧力にメタちゃんが、じ・りと押されていく

 メタモンのへんしん、その後はHPのみ反映され他のステータスは写し取った相手と同じになる
 同じとは性格による補正、レベル差も関係ないということ
 タイプ一致や相性までも同じなのだから、考えられる要因は2つだ
 
 道具による補正か
 能力による補正か

 メタちゃんに持たせている道具はオボンのみ、攻撃力や技の威力を上げる為の道具ではない
 しかし、相手のメタグロスもそれらしい道具を持っているようには見えないのだ

 「ぷりり、大丈夫?」

 いばるを受けたようだが、うまく決まらなかったようだ
 交代の出来ないこのバトルでは状態異常になるのは非常にまずい
 あくびでなかったのが幸いしたが、どちらかというと混乱の方が厄介だと思う
 攻撃成功が五分五分という確率が、中途半端に交代を妨げさせるからだ・・・

 向こうのケッキングにトライアタックは命中したが、ダメージはそれほどでもないようだ
 いばるでぷりりがちょっと驚き、当てどころを少しはずしたのかもしれない
 なんにせよ、技を使ったら1ターンお休みという特性なまけの隙は大きい
 
 「(・・・ケッキングがまずい)」

 トーヤは思い、考える
 先程のトライアタックはしのいだし、普通に戦う分には問題ない
 しかし、あれを使うには厳しい感じがなんとなくする
 
 いずれ、相手も気付くだろう
 その前に、やっておこう

 「メタちゃん、コメットパンチ」

 メタグロスがおぼえる最強技をブルーは指示する
 へんしん後のPPは5ずつしかない、決められる時には決めておきたいということか
 標的はやはりケッキングだった

 「メタグロス!」

 メタちゃんの一撃をメタグロスが身体を張って止めさせた
 バキィインと鋼同士がぶつかり合い、いい音を響かせる
 そこにぷりりはものまねでサイコキネシスを真似て、予測通りケッキングを集中砲火してくる
 かばったメタグロスのタイプ的にもダメージ的には大したことはないのだが、それは相手もわかっているはずだ

 「かたまったわね。ぷりり、かえんほうしゃ」

 かわいい顔の意外な一撃
 メタグロスをめがける直線状の炎、背後にはケッキングがいるので下がれないし避けられない
 
 「やっば!」

 メタグロスにまもるはおぼえさせていない、へんしんされたから相手にはそれがわかっているのだ
 弱点である炎の攻撃をまともに受け、メタグロスはうめいて四肢をがくんと折りかけた
 同時攻撃の時であれば、もっと深刻なダメージを受けたろうが・・・常時型でなくて良かったと思う
 ぶすぶすと煙があがっているが、やけどにはなっていないようだ

 さすがにここまで来た侵入者、ポケモンリーグ上位入賞者
 ダブルバトルの定石をよく分かっている、やはり決めないと駄目だ

 トーヤがぐしゃと前髪をつかむ、その仕草と腕に隠れた表情
 そして腕を降ろした後の決意の眼

 「ダメダメ。なってないよー」

 軽く笑うようにトーヤがブルーに話しかける
 ちょっと焦げたメタグロスがのそっとした動作のケッキングの身体を借りて起き上がり、ズンと地面に足を突き立てた

 「本物のコメットパンチを見せたげる」

 それは鋼の全身をゴムのようにしなやかで強く、緩急のある予備動作だった
 そうしてひねった身体、生み出される力を腕一本に溜めて、
まるでせき止められたかのような緩慢な時間の流れごと、はじけた

 
 まさに彗星の一撃

 衝撃波より早く届いた低重音、そしてブルーがとっさに顔を覆ったが直後の突風で体勢を崩して尻もちをついた
 覆った腕を降ろしてみれば、アスファルトは無残にもひび割れ・・・いや地割れを起こしていた
 メタちゃんの放った一撃とはまさに雲泥の差
 どれだけ技を強化する能力なのか、とブルーは言葉を失う
 だが、これだけの威力で彼女のポケモンも誰も狙わず、直撃をさせなかった
 
 「・・・そのとーりっ」

 メタグロスの後ろに控えていたケッキングはもうばっちりだった
 ブルーがその光に気づいた時、まもるという技名もどんな声も出なかった
 息を呑んでしまって、のどがひきつってしまって

 「ケッキング、はかいこうせん」






 ・・・・・・


 「さて、そろそろ俺も行くか」

 紅茶を飲み干し、すくっと立ち上がるタカムネをイーティが見送る
 
 「またな。御馳走さん」

 「いえいえ。ご武運を」

 いまだに薔薇の牢のなかでお茶を楽しむイーティは、ぞんざいかつ皮肉めいた言葉を彼に投げかけた
 しかし、それを言ったイーティは少し落ち込んだ

 再会を思わせるまたな、に何を持たせたのか
 ただタカムネが言うと、喉が渇いたらここにいつでも立ち寄るかというあり得ない気ままさを体言したも同然だった
 それを成してしまいそうな空気と存在感を彼は持ち合わせている
 この男は世界に立ち向かい、その手と圧倒する力で道を切り開いていくのではない
 この男のために世界があって、その目の前に必ず道が生まれてくるのだと・・・そう思わせるほど
 他を圧倒する力はその理由づけにのみあり、自ずと格と位の違いが目に見える


 「・・・」

 タカムネがワープ装置の前で立ったまま動かない
 まさか使い方がわからない、ということはないだろうが一応イーティは聞いてみる

 「何をしておいでです?」

 「いンや。ワープ装置がツタに絡まってたのさ」

 「それは失礼。しかし、むやみに引っこ抜いたりしなさらぬように」

 「ああ」

 それからしばらくしてタカムネがワープ装置に乗り、その姿をガーデンキューブから消した

 「・・・・・・ふぅ」

 やや気落ちしたままのイーティはため息をついた
 自分が敗退した以上、幹部以下の者には到底止められないとわかった

 皇帝を名乗る彼を止められる者は、それ以上の位を持つ者か
 ならば、早々に当たって、長期の膠着か即座の敗退をしてもらいたいものだ
 そう何度もここへ水分補給に来られては、イーティが楽しむ分が無くなってしまう


・・・


 タカムネが跳ばされた先、そこはキューブなのかわからなかった
 その呼称で正しいのか、定義として外れていないのか

 吹く風とわずかにも感じない閉塞感が、ここを『外』だということをタカムネに知らしめる
 ワープ装置の故障で支部の外へ放り出されてしまったのだろうか、となると戻るしかない

 「・・・・・・」

 人の視線を感じた
 タカムネは背を向けることをやめ、その視線を手繰った

 「・・・・・・」

 そこに立っていたのは仮面をつけた男
 装飾でもなければ、隠蔽のための仮面でもない
 仮面は彼そのものを表していた

 「そこのにぃちゃんよ、ここはどこでお前がここの主か?」

 「主と聞かれれば、そうだ」

 タカムネは周囲を見渡す
 風が告げている
 海に囲まれていると、ここは島だと

 「ここは支部の外、しかしキューブと同義」

 正確に言えば、仮面の主のためにあつらえた舞台であり特例のキューブとして認識された場所
 ワープ装置はタカムネが跳んできたもの1つしかなく、今は電源が落ちて使えなくなっている
 再起動させるには主を倒す以外にない
 通常キューブのように装置が2つあれば主さえ許せば通過ということもあるが、その選択肢はここにはない

 「・・・ここは、ああ、スオウじまか」

 タカムネは記憶のなかにある風景と今を合致させ、そう当たりをつけた
 島の奥底から溶岩の胎動が、足に響いてくるのを感じたのも大きい
 
 「名乗りが遅れた。青龍組組長を務める『鉄仮面、シ・ショウ』」

 幹部十二使徒、辰のシ・ショウのエキスパートタイプはドラゴン、象るのは竜
 マントの留め具にフォースEバッジが光る
 翻したその背後から現れたポケモンはプテラ、カイリュー、フライゴン

 「すべての力でかかってこい。すべてを討ち果した者を勝利とする」

 「そうか。わかった」

 タカムネもすべての手持ちポケモンをもって戦いに挑む
 彼の傍にあるのはオニドリル、ライコウ・・・そしてバンギラス

 「行くか。帝王の翼、牙、右腕」

 なんとなくシ・ショウの正体はわかった
 おそらくカントー四天王の将、ワタルだろう
 そして、能力者の威圧感とは何か違う力を彼から感じる・・・・・・あのバッジか?

 何だろうと構うことはない
 帝王の前に自ずと道は生まれる
 そういうものだった

 「まずは一手目、鉄槌」

 機先の一撃
 タカムネの言葉の後に、バンギラスが唸りを上げる

 そして、シ・ショウがこの戦いの先手を取った・・・


 ・・・・・・


 クリスが次に訪れたキューブは噴水広場が内包されていた
 どこかの観光名所を思わせるような、石畳のある街並みが背景としてある
 中央の噴水の周りにいるポッポを追いかけ駆け回る子供達は、立体映像か何かだろうか・・・

 「・・・!」

 違う
 あれは
 違う

 「・・・どうして、みんなここに!?」

 見覚えのある、どころではない
 その10人ばかりいる子供達は、クリスの知るジョバンニ先生のいる塾の子供達だったからだ
 安否が気になっていたが、どうして、よりにもよって組織のキューブのなかに

 「みんな、どうしたの」

 呼びかけようとしたら、向こうがクリスに気付いた
 しかし、その眼差しは「よく知ったクリスお姉さん」を映していない
 知らない、異物を見るようなものだった

 わーっと、無邪気な声をあげてクリスや噴水から子供達が駆けて離れていく
 どうして、どうしたの、みんなとすがるように手を伸ばすクリスの前に現れた妙齢のドレスを着た女性
 子供達はその女性の周りに集まり、きゃっきゃと笑っている

 「ようこそ、私のキューブに」

 「・・・あなた、子供達に何をしたの?」

 「何を。心外ですわね。あなたが単に嫌われているだけでなくて?」

 クリスの胸にその言葉が突き刺さる
 そして、首を振って否定した
 そんなはずない、そんなわけがない
 過去の思い出を、クリスは心に浮かべる

 「まぁ他人の記憶や思い出なんて、いつだって不確かなものですよの。
 自分のジョークに笑ってくれても、本当に喜んでいるかなんてわからない。
 おぼえがなくて? 自分のしていることが、独りよがりで誰からも必要とされていない不安を」

 クリスは図鑑完成を約束に塾の建て直し、援助をオーキド博士に頼んだ
 しかし、それはジョバンニ先生の経営手腕を信頼しなかったからではないか
 ジョバンニ先生は本当に誰からもわからぬ援助を、喜んでくれた?
 いつか知らせることになる真実に、逆にジョバンニ先生を苦しませたり悩ませたりする結果にならないか?
 塾にいるみんなを助けたくて始めたことが、必要のないことだとしたら・・・・・・

 くす、とクリスを見て女性が笑った
 3色の腕輪を持つ、幹部候補

 「私の名前はアーシー。シングル1対1を、でははじめましょう」

 アーシーが出したのはシャワーズ、クリスが出したのはネイぴょん
 噴水がぶわっと大きく水を噴き出したのを合図に、バトルは始まった

 「シャワーズ、みずのはどう」

 「ネイぴょん、ドリルくちばし」

 シャワーズの放つ水流を突き破らんとネイぴょんが高速で自身を回転させる
 ぶつかり合い、スッパアンと音を立てて見事水流を破ってシャワーズめがけて突進
 距離があったから相手の回避行動も若干間に合い、シャワーズには尾のところがかすった程度だった

 「ネイぴょん、続けてサイコキネシス」

 連撃、追撃
 しかし、ネイぴょんはそっぽを向いた
 
 そっぽを向いた・・・・・・!?

 「えっ」

 クリスが驚くのも無理はない
 こんな反応は初めてだったのだ
 トレーナーの指示に従わない、というのはポケモンのレベルが高すぎる場合が殆ど
 これまで共に戦ってきた、ずっと一緒にいた家族同然のポケモンなのに

 「ネイぴょん!」

 『!』

 クリスの呼びかけに何かハッと気づくようにキョロキョロと周囲を見る隙に、シャワーズのみずのはどうが再び放たれる
 避ける間もなく、それは直撃した
 ネイぴょんの小さな身体が吹き飛ばされ、びたんと石畳の地面に打ち付けられる
 ものの、すぐに翼をはためかせて体勢を立て直す

 「大丈夫?」

 今度のクリスの問いには気づいて、ネイぴょんが頷いた
 しかし、さっきの反応はいったい何だったのだろう
 妥当に考えればみずのはどうの追加効果、混乱のようだが・・・自傷という反応ではなかった

 「ジューンプライド」

 ホホホホと微笑うアーシーがわざわざ教えてくれる
 優位と見ての考えなしか、教えたところでどうにも出来ないと踏んでいるか

 渦巻く水流で混乱を招くみずのはどう
 更に一歩踏み出し、混乱に乗じて自意識を揺らす
 つまり、催眠や思い込みしやすくさせる状態をつくるのだ

 ポケモンなら『おや』の認識を揺らがし、ほんの一瞬だけトレーナーからそっぽを向かせるくらい
 バトル中に完全におやを忘れさせることは出来ない、ただ混乱と併せて別のものをおやと視覚的誤認させることは可能だ
 人間に連続的に使えば、催眠誘導による・・・一種の洗脳まで至るトレーナー能力

 
 「・・・! そうやって、みんなを・・・!」

 「そうね。でも、本当はあれが真実なのかもしれないのよ?」

 他人に抱く感情や自意識で押し殺された埋もれた本当の想いを、アーシーの能力で揺らしたことで表面化したのかもしれない
 砂に埋もれた石が、流れですすがれ揺すられ表立って露わになるように

 「それはそうと、あなたのネイティ、混乱したみたいよ」

 アーシーがくすと笑って指摘する
 みずのはどうの追加効果確率は高めで、確かになりやすい
 あとからじわじわ効いてきたようだが、これも能力の一端・・・最初に突っ込んだ時から影響を受けていたのかもしれない
 
 ぐるぐるくるくると目も身体もふらつくネイぴょん
 今のところ、自力で早々に目覚めてくれるのを待つしかない

 「シャワーズ、ふぶき」

 広範囲に及ぶ氷の息吹にクリスが咄嗟に「はがねのつばさ」を指示する
 混乱の影響もあったが、なんとか自傷をおさえ、鋼鉄と化した翼でネイぴょんはふぶきを切り抜ける
 タイプ相性で有利な鋼で、飛行の弱点である翼を凍らせられる事態はどうにかまぬがれたがダメージはある

 ・・・このアーシーとの戦い、厳しい
 シャワーズはタイプ相性的に攻めきれず、向こうは『弱点の氷技』ふぶきという大きなアドバンテージがある
 くわえてみずのはどうによる『混乱での自傷』、そして混乱でますます酷くなるだろう『おやの誤認』という危険な三要素を相手に戦わなければならない

 だけど、アーシーを倒さなければさっきまでいた塾の子供達や他にもいるだろう催眠誘導させられた人達を救いだせない
 そういう能力は術者を倒せばどうにかなるのが、大体の常だ

 ・・・そうだ、今は何も考えないことだ

 アーシーの言葉が虚実かなど、その本人に聞いたところでわかるものでもない
 一理として他人のことは一生わかりあえない、他人とわかりあえたふりをしていくだけなのかもしれない・・・

 他人にどう思われているにせよ、自分の成すべきことは果たそう
 自分を見失うな、他人と自分は違う
 
 クリスの脳裏をよぎるのはオリフの石室で見た白昼夢
 

 ・・・・・・





 視界のすべてが真っ白になった

 ブルーはその威力に腰を抜かしかけ、ゆっくりと呼吸する
 ケッキングのただのはかいこうせんに、これほどの威力があるとは思えない
 やはり能力による補正がかかっているのだ

 「・・・! ぷりり、メタちゃん!」

 あのはかいこうせんはギリギリでブルーには当たらなかったが、ぷりり達はその軌道上にいたはずだ
 1体しか目標に出来ない技のはずなのに、あまりに巨大なエネルギーで2体まとめて当たった

 シュウウウゥとエネルギーに左半身を焼かれ、身体を震わせるメタちゃん
 鋼タイプを持つメタグロスにへんしんしていたこともあって、ノーマルタイプの攻撃は半減出来たが・・・あの威力では当倍以上のダメージを受けてしまったろう
 それでも戦闘不能にはならなかったようだが、もうまともに渾身のコメットパンチは打てないだろう

 そして、ぷりりの姿は見えない
 まさか、あの攻撃で消滅してしまったのでは・・・・・・ということはない

 『〜〜〜@』

 ぷゅるるるるるると軽い音と共に、上からぷりりが落ちてきた
 ぽてんぽてんと地面にパウンドし、目を回している

 まもるは使っていない
 はかいこうせんの威力と起きた風に圧され、風船のように軽いぷりりは宙に舞い上がったのだ
 ただし、そうやって舞い上がれたのはぎりぎりのところで、メタちゃん程ではないが攻撃はきちんとかすってはいる
 威力が高すぎたこともあったのかもしれない、運も良かった

 「こぉーれでわかったろ? 実力差ってやつがさー」

 トーヤがへらへらっと笑い、ブルーを指差す

 「ここまでこれたことはすげーしほめたげるから、ここいらでやめときなって」

 「やめる? そんなわけにはいかないのよ」

 ブルーがキリッとした姿勢と雰囲気を見せると、トーヤはそれを一瞬悲しげな目になりながら、すぐにらみつけた
 
 「わっかんないかなぁ〜、もう。さっきの威力見たでショ? あの威力を越えること、それが勝利への絶対条件なのよ?」

 「威力だけが勝利条件とは限らないわ」

 ポケモンのHPをゼロにするほか、戦闘意欲を失くす、逃亡などもある
 満身創痍、といってもいいくらいダメージを受けているブルー側が言ってもあまり説得力はない
 そして、トーヤと話している内にだからこそブルーには何かが見えてきた

 「・・・あんたも能力者、トレーナーなら引き際を見極めるのも大事だってーの。後悔ってのはいっつも遅いもんだよ」

 「おあいにくさま。アタシったらそういうのが得意でね、引き際はもちろん勝てると思ったら勝つのよ」

 その言葉にカチンときたようで、トーヤが舌打ちする
 
 「じゃあ、やってみろよ」

 トーヤのメタグロスがずしんずしん、と動きだす
 ケッキングは反動で動けないでいる
 ・・・それだけだろうか?

 「ぷりり、まだいける? メタちゃん、もう一息頑張って」

 2体は起き上がり、メタグロスを見る
 メタちゃんはオボンのみで体力を回復し、半身の自由が少し戻ってきたようだ
 相手の性別は無い、出来れば・・・・・・攻撃で倒したい

 これから試みることは確定ではないのだから


 ・・・・・・


 「ねぇグリーン。男と女の友情って成立するものなのかしら?」

 「・・・いきなり何だ」

 「アタシの能力よ。フェ・ロ・モ・ン」

 ガイクのもとで修行中のこと、ブルーがソファーで休むグリーンに話しかけてきた
 それに、あぁとグリーンが頷く

 彼女の能力はフェロモン、異性を高確率・同性を低確率ながらメロメロにする
 らしい・・・詳しいことはまだわかっていない
 
 「お前の能力は単純に『メロメロボディの特性付加』、というわけじゃなさそうだからな」

 「そうそう。で、グリーン先生は何か理屈づけられそうなこと思いついたり思い出したりしない?」

 「いや・・・特には。そもそもガイクに聞けばいいだろ」

 「そのガイクにあんたに聞けって言われたのよ」

 何故俺に、と後ろにいるブルーを見ながらグリーンが考えこむ
 トレーナー能力についてなど、ここにいる皆と同レベル程度でしかないというのに

 「いや、メロメロボディに近いものだから、能力より生態じゃないかって。
 オーキド博士からそういう蘊蓄とか聞いてない?」

 「・・・あった気がするが、何故男女の友情なんだ」

 「同性もメロメロにしちゃうって変かなー、と思って。
 だって、子供作れないし」
 
 ぶっ、とグリーンが噴き出す
 ブルーはアッハッハッハと笑っている

 「やーねー。タマゴグループだって。
 異性でそれが違ってても関係なくメロメロになるしさ、どっちかっていうと友情に近いのかなーって」

 「・・・まぁ、確かに」

 ポケモンのメロメロ状態というのはタマゴを作れない間柄でも、「異性であること」だけで作用する
 語呂的にも愛情、相手に自分を惚れさせると捉えたくなる
 ブルーの場合、それに加えて同性でも通用するのだ
 
 「だが、同性でも愛情はあるだろう。可愛らしいものを愛でたりするのはよくある感情だ」

 「仏頂面のあんたが? あんまり想像つかないんだけど」

 「茶化すな」

 グリーンが真面目に聞け、と言うとブルーが「はい」と言ってその場で正座した
 振り返って見ていたが、それについては何も言わず続ける

 「そもそもメロメロ状態とはどんなものなのか、だな」

 「はい。アタシが思うにタマゴつくりたいとか恋愛感情とか、そういうようなラブいものではないと思います」

 ブルーが手をあげて発言すると、何故かソファーに座っていたグリーンもそこから立ってブルーの正面に正座した
 正座し、向き合う2人が話を平然と続けるのだから絵面的にはおかしい
 本人達はいたって真面目に、見える

 「ああ、じいちゃんもそう考えてた。
いわく、互いの気が合うようなものではないかと」

 異性で気が合うとくれば、仲が悪くなるわけがない
 愛情というより、確かに友情の方が近いかもしれない

 「雰囲気というものがある。人それぞれ感じたり、その感じ方が違ったりするものだ。
 がポケモン・ポケモン同士には、もう少し明確なそれがあるらしい」

 先に言った気が合う、の意味が多分わかった

 「文字通り、自分と相手のまとう雰囲気を似たものか同じにして親近感をわかせるってことかしらね。
 他人とは思えない、なら、うん、そうね。攻撃するの躊躇っちゃいそう」

 「まぁそういうことらしい。類友と言いたいが、同属嫌悪という言葉もある。
 深く考えずに『異性に対し、自分の雰囲気などの氣か何かを相手側に同調させることで攻撃意欲を失くさせる』程度で認識していればいい」

 なるほど、とブルーが頷く
 ブルーの場合でも、異性が同性に変えても『気が合う』ことに問題なさそうだ

 「同調させるのに接触のみ、ってのが問題か。
 ま、メロメロボディもそうだし仕方ないか」

 うーむ、と腕組みするブルーにグリーンがはぁとため息をついた

 「お前な、メロメロという技があるの忘れてるだろ」

 「あ」

 接触で気を合わせるのがメロメロボディなら、同調させる波長のようなものを飛ばすのがメロメロだ
 どちらであっても、もたらす結果は同じだ

 「うん、てことはアタシの能力も」

 「メロメロそのものをおぼえさせると技スペースを圧迫するんだ、むしろ『可能性』にかけるのもありだろう。
 かえんほうしゃのような技に、同調させる氣なんかをまとわせて伝わせることも出来るようになるかもしれんな。
 フェロモンという名前も、それを暗示しているぞ。そもそも知ってつけたわけじゃないだろうから、偶然か・・・」

 「うーん! それが出来たら、戦略に幅が出るわ」

 異性同性、接触否か関係なくメロメロにしてしまう
 可能になれば、バトルを有利に進められそうだ

 「・・・ふむ、性別なしのポケモンでも感情はあるから、もしかしたら技やその効果の範疇を越えたこともトレーナー能力では可能になるかも」

 ブルーよりグリーンの方が面白そうに、彼女の能力を推察している
 正座のままそうしていると、ふと視界が暗くなった

 「あっりがとー、なんかやる気わいてきたわー!」

 「っ!!」

 話すことで整理・先が見えてきたことに舞い上がったのか、ブルーがグリーンに抱きついた
 彼女の柔らかい身体がグリーンの顔面に当たり、彼はあっけにとられて声を失って固まっている

 「・・・あら」

 ブルーがはしゃいだことに気付き、すぐに離れた
 が、グリーンは少し下を向いて押し黙ってしまっている

 「・・・・・・ね、もしかして照れてる?」

 「・・・」

 「ね、ね、ね」

 「・・・」

 「顔隠してるのばればれよ? 鼻血出してない?」

 「・・・」

 「あぁ、こういうのが可愛いの愛でる気持ちかしら」

 「・・・うるさい女だ」

 グリーンがようやく声を絞りだすと、ブルーは笑って彼の頬をえいとついた


 ・・・・・・
 

 「ぷりり、かえんほうしゃ!」

 「メタグロス、サイコキネシス」

 不一致と一致
 威力の上で差が出るのは当然
 特典が作用したのか炎をかき消し、念波がいっそう強まる
 
 ぷりりが強大な念波に巻き込まれ、残りのHPがどんどん削れていく
 追撃のかわらわりを指示したところで、メタちゃんが隙をついて横から身体をぶつけた
 この速さは、こうそくいどうによるものだ
 
 「ケッキング!」

 は、まだ動けない
 反動もそうだが、トーヤの目にはそれ以外の要因を見抜いた

 メタちゃんががんっと音を立ててぶつかったら、メタグロスの身体が思いのほかかしいだ
 技でもないただの体当たりに、そこまで揺らぐとは・・・・・・

 「(やべっ、発動解除忘れてたっ・・・)」
 
 トーヤの能力は専攻不防、自分の技の威力を上げるかわりに防御力が下がる
 レヴェル1は物理技の威力を20%上げ、物理防御を15%下げる
 レヴェル2は特殊技の威力を20%上げ、特殊防御を15%下げる
 発動型なので、タイミングを合わせれば下がった防御力で相手の攻撃を受けることがない
 ただ同時攻撃に押し切られる時、発動解除のタイムラグはどうしようもない
 かわらわりは物理なので防御が下がり、メタちゃんの体当たりは完全に不意を突かれた

 「コメットパンチ!」

 不意を突かれついでにもう一撃くらってしまった
 鋼タイプに鋼の攻撃は有効ではないが、下がった防御にはそれなりに効いた
 
 こんな至近距離じゃ殴り合いになる

 「っ、メタグロス、下がれ」

 ケッキングはターン的にももうなまけていないはずだ
 出来ることなら、指示を

 「いばるだ、ケッキング!」

 「あら、あのはかいこうせんはもうしてこないの?」

 ウオッホォォンとメタちゃんに向けて声を出すが、またはずれた
 命中精度に甘さが出ているのは、やはり・・・・・・

 「やっぱり。・・・そうなのね?」

 ブルーがトーヤを静かに、落ち着いた目で見る
 それだけなのに、トーヤは低くうなる

 「さっきのはかいこうせんも、今のいばるも、ポケモンが当てにいってない。
 はかいこうせんは2体まとめて攻撃出来るほど巨大なのを見せつけたかったんじゃない、直撃を避けたから2体の間に撃ち込んだのね」

 きちんと狙っていれば、メタちゃんかぷりりのどちらかを確実にきぜつさせられたはずだ
 威力と規模を見せつけるように、あえて半端な照準を定めた結果があれなのだとしたら

 「ポケモンバトルは正直よ。あなた・・・本当にこの戦いをしたいの?」

 ぐ、とトーヤが詰まった
 ポケモンはトレーナーが何かに迷い、心を揺らしているがわかっている
 だから、ポケモンの方がわずかに技の狙いを外しているのだ

 「アタシに負けを認めさせる口ぶりもそう。これだけヒントがあれば、何かあると思うわよ」

 言うなれば思い切りが足らない
 なるべく互いが傷つかないように、と矛盾し変に気遣っているのが丸わかりだ
 
 「・・・ま、いいわ。話はあとで聞かせちょうだい」

 「・・・メタグロス、コメットパン・・・」

 ブルーが腕を振り上げ手首を返し、ぷりりに指示を出す
 負けじとトーヤも動くが、メタグロスの方は動かない
 ケッキングもただ怠けているだけには見えない、何かにほだされているような感じがする

 「これは・・・」

 まさか、メロメロ状態か
 ありえない、無性別ポケモンであるメタグロスがこの状態異常にかかるなんて

 「アタシの能力はフェロモン。その魅惑はどんな性別にも抗えさせない」

 うふ、とブルーが軽く微笑んだところで、ぷりりが全力でトライアタックをケッキングにぶつけた

 この時、この場にいる者達の目には映らなかったが、その技の放出と共に『ぷりりの雰囲氣』が流れていた
 トライアタックを包み込むようなそれがケッキングに当たりはじけて、ケッキングを・周囲を包み込んでいく
 柔らかで、どこか和ませるような安心感に近いものに・・・完全に包まれる
 
 ・・・ケッキングはついにメロメロ状態だ
 
 「・・・・・・性別関係ないメロメロなんて反則だろ」

 「あら、似た状態異常のこんらんはそんなのないじゃない」

 メタグロス、メロメロ状態
 ぷりりはかえんほうしゃをおぼえていて効果抜群、火傷ともなれば攻撃もダウンする
 ケッキング、メロメロ状態
 特性のなまけに加え、攻撃成功率が50%にまで落ちるこの状態異常になったらまともに戦えない

 何より、見抜かれた
 
 トーヤは前髪をぐしゃ、と握りつぶした

 「ああ、負けたぁ」

 がくっと肩の力を抜き、腰からへたんと座り込んだ
 何かに解放されたような、緩みきったあきらめの表情を見せている

 「負けたじゃないわよ。本気でやんなさい」

 「最初はそうだったよ。でも、駄目だった」

 トーヤはメタグロスとケッキングをボールに戻し、カチャと指の間に挟んで眺めた
 同じようにブルーもボールに戻し、道路脇にあるねじ曲がった交通標識に寄りかかった

 「話聞くわ」

 「そう? ふがいない話だよ。
 この戦いのメンバーに選ばれようとして、頑張りすぎて、手持ちポケモンを・・・再起不能にしたのさ」

 明るく言おうとして、失敗した声だ
 トーヤは足元の瓦礫、小石をつかんでぽーんと上に放った


 他の手持ちポケモン、エーフィ・サーナイト・ピジョットはその前の任務から身体に不調をきたしていたように思う
 気付けなかったのは能力者に似て、ポケモン達がそれを隠していたから
 そして、その溜まったツケがあのリーグ会場でのサバイバルで爆発した
 
 無理を押した結果でも残った手持ち3体、ケッキング・メタグロス・バンギラス
 バンギラスも、このバトルの直前でわずかな仕草が気になった
 もう二度と無理をさせたくない、だから他の2体でのダブルバトルにした
 でも、結局ケッキングも本調子といえるか内心不安でたまらなかった
 
 だから、早期決着を求めて特能技である『フルインパクト』で相手を揺さぶったのだ
 通常の3倍の威力を出せるが身体への負担も大きく、元となる技へのPP消費も激しい
 本来ならとどめ用、先に見せれば警戒されてしまうからだ
 しかし、今の心境からこのバトルの早い段階で使うことにためらわなかった
 終盤にもなれば疲労も出て、また何が引き金になって再起不能になるかもわからないからだ

 ポケモンバトル、そして手持ちポケモンを気遣うばかりに生まれた疑心
 能力者が本気になれずに、ポケモンが先走って本気になることはない

 今は再起不能でも回復の見込みはある、再生の能力者に頼めば何とかしてくれるかもしれない
 確実にその話を通してもらうために、戦果が欲しかった・・・

 「バッカじゃないの。何が戦果よ。
 ポケモンをあんたの虚栄心に付き合わせるんじゃないの! 
 必要なら土下座! それでこんな戦い、最初から出なければいい」

 ブルーが怒ると、トーヤは頷いた

 「そーかもねぇ。でも、強くなりたかった」

 『上には上がいる』
 サナギラスやメタングが手持ちにいた、一般トレーナー時代
 ちょっとばかり周りより強かった時分を、その事実が打ち砕いた

 だったら、上の上を目指してみたくなった
 幸い、そこへ至るための一歩目の才能はあると言われた
 この道の一番になりたい、という憧れは誰もが抱く夢だ
 そんな夢に、自分についてきてくれるポケモン達が嬉しかった

 「・・・・・・夢が、現実を壊すんだ」

 ぽつり、とトーヤがつぶやいた
 え、と聞き取れなかったブルーが言葉を漏らした

 「夢って怪物と対峙する時は気をつけな〜。そいつぁまともじゃない。
 対峙してるつもりで、実は試されてるのさぁ」

 打ち倒し、得るだろうものに惹かれて幾度となく人は夢と対峙してきた
 しかし、夢に破れて何かを失った人がいる
 時間、仲間、家族、生命、矜持・・・
 夢に夢見て、人は夢に内包された夢を求めてしまう
 そして、夢は常に対峙する人を試している

 逃れるにはさめるしかない、二度とその夢が見られなくなることでしか逃げられない
 半端な意識下は、いくつもの何かを失うことになる

 「・・・・・・なんでだろうなぁ。一緒に強くなるために組織に入ったのに、一緒に強くなっていこうと決めた仲間がいなくなった」
 
 「そう」

 悲壮感のにじむ声を出すトーヤが何度も上に放り投げていた小石を、パシッとつかみぎゅうううと強く強く握った
 そして、そのままごろっと天井を仰ぐように倒れた

 「・・・引き際とか、見極める目が必要なのは俺の方だったなぁ」

 「アタシもそれほどじゃないわ。だから、いつかあんたも身に着くわ」

 ブルーはいつの間にか出てきていた回復マシンと、もうひとつの電話ボックスが光っているのを確認した
 次に進めるのだ

 「そしたら、また戦いましょ。今度はきっといい勝負よ」

 「・・・・・・だといいんだけど」

 あーあ、とトーヤは声を出した
 青く染められた天井という偽物の空と太陽なのに、目にまぶしい
 
 ・・・マイったなぁ





 To be continued・・・
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