〜最終決戦・十二〜



 「戦うぞ」

 「ああ」


 ・・・・・・


 シュンとブルーが跳んできた先、パネルから一歩前へ出るとそこにはグリーンがいた
 誰か跳んでくるとわかって気を張っていたようだが、それもすぐに緩められた
 彼にしては珍しく、へたれているようだった

 「あら、どうしたの?」

 「・・・・・・別に」

 「そうでもないでしょ」

 「・・・少し、な」

 声に張りがない
 
 「どんな相手だったの?」

 「同じ理力の使い手だった。それも地のな」

 「!」

 同じ能力を持つ者同士の戦いか
 パークルの件もあったことだし、感じるものがあったのかもしれない
 そして地というのはグリーンの空と海のパークルに並ぶ力で、理というか相性の問題で不利とも聞かされていた

 「確かに何かそういう感じもしたが、まぁ能力の相性以前にポケモンバトルであることには変わらないことだ」

 「ん?」

 「要するにポケモンのLv的に勝った」

 「・・・・・・ああ」

 確かにタイプ相性はポケモンのLvで押しきれるものだが、それは一回りほどの差は必要になってくる
 そこまでグリーンの相手、そのポケモンは弱かったのだろうか

 「大きな要因としてはそういうことだ」

 グリーンが座り込み、寄りかかっていた壁を支えに立ち上がる
 この通路の先に、わずかに見える壁の先に次の組織の・・・敵がいるのだろう

 「アタシもここに来られたってことは、2人でもオッケーてことかしら」

 「そうなんだろう。それか、ここの流儀的にバトル形式と関係しているのかもしれん」
 
 グリーンの言葉にブルーが頷き、とりあえず並んで通路を歩く
 なんとなく無言になる
 何か言おうとブルーが口を開きかけて、やめた
 
 遠目で見えていた壁が、扉とわかる距離まで来た
 その金属製の扉の周囲にはパイプ、チューブのようなものが張りめぐらされている
 わずかだが、何かの気配を感じるように2人は思う

 「いくぞ」

 「ええ」

 グリーンが扉を手で押し、開ける
 グァっとなかから少し強い風が噴き出し、顔を腕で覆った

 そのキューブのなかは、何かの工場のようだった
 よくわからないチューブやパイプがうねうねと絡み合い、何がどんな役割を果たしているのか皆目見当がつかない
 しかし、何故かこういった造形には心惹かれるものがある
 
 「・・・グリーンなら、こういうところでどんなポケモン使う?」

 「遮蔽物が多いな、大型ポケモンはきつい。工場というイメージ的にはゴースト、もしくは電気・・・」

 壁周りのパイプに気を配りながら、奥まで進んでいく
 扉の目の前がすぐに戦えるフィールドになっていない、それまでパイプやチューブの壁で出来た迷路になっている

 「・・・そろそろだ」

 先を警戒し、歩いていたグリーンが迷路の終わりを見つける
 
 そこも足元から周りまで、整理されているとは言い難いパイプとチューブのジャングルだった
 足で蹴飛ばしてみると、パイプもチューブのなかは空っぽだ
 
 「ィよゥこそ、俺のキューブに」

 声がする方、上を見るとパイプに座っている男を見つける
 革のジャケット、ピアス、剃りあがった絶壁頭
 痩せた、そして物凄い猫背だった

 「な、何あれ・・・」

 ブルーがぎょっとするほど、その男の風貌は異様だった
 構わず、グリーンが聞いた

 「腕輪の色が黒だ。あれは?」

 「・・・幹部十二使徒ってやつだと思う」

 ブルーはつい先ほど申の宝珠が付いた幹部と遭遇した
 幹部候補の上ならば、相当な実力者の証だ

 「ヒャ、ハッ! 俺は幹部十二使徒、巳のジャチョ様だ」

 「巳・・・」

 もし幹部十二使徒というものが、それぞれ干支になぞらえたポケモンを使ってくるのなら
 グリーンもそれを察し、ブルーと顔を見合わせる

 「ハッサム」

 「ニドちゃん」

 この中身が空洞のパイプとチューブに囲まれた空間
 そして巳、蛇を名乗るなら・・・・・・アーボックかハブネークの身体はこのフィールドはまさにうってつけだ
 もしくはアーボを複数操るのかもしれない

 「ヒャ、ハッ! 鋼に毒か、なーるほどなぁ」

 ジャチョは笑う
 余裕をこいてなのか、微動だにしない
 両腕を広げ、上を向いている

 「どうした。お前も早くポケモンを出せ」

 「ヒャ、ハ!」

 ブルーがジャチョに向かって攻撃しようか、と窺っていたのでグリーンはそれをそっと制した
 あくまでポケモンバトルの形式に則り、出方を待つべきだと判断したのだ
 
 「もう出してるぜェ。そして、能力も使用済みだ。2対1でも構わねェよ、こっちはな」

 ヒャ、ハッ!と嘲笑うように、2人を指差してジャチョが言い放つ
 やはりというべきかこのキューブの遮蔽物、空洞のあるパイプやチューブを有効活用しているのか
 今のところ物音はしない、気配も感じられないが・・・ここに入る前に感じたものが気になる
 2人は警戒し、こちらを向いているパイプ口を見ている

 そうやって周囲を見回すグリーンはブルーの方を見て、文字通り噴き出した
 彼女はまだ気づいていないのか、それでも彼のらしからぬ行為で何事かが自分に起きているのだと気づいた
 そして、ハッと自分の足元より上を見る

 ズ、ズズズとゆっくりとブルーのスカートの端が持ち上がっていっているのだ
 太ももの殆どが露わになりかけていて、慌てて彼女は股下を抑えつつグリーンを睨む
 もう彼はこちらを見ていないようだが、心なしか顔が赤いのはどこまで見えたということなのか
 流石にこれは恥ずかしい、と彼女が太ももを閉じようとするが・・・・・・動かない
 ブルーがいくら力を入れても、足が閉じないのだ
 彼に見るな見るなと身振り手振りスカートの端をどうにか押さえようとぱたぱた動き、座りこもうとすると、やっと・・・はっきりわかった

 ブルーの両足に何かが絡みついているのだ
 見えない何かが、そこにある

 「何よこれ!!?」

 「ヒャ、ハッ! お楽しみですかァ!」

 ジャチョがからからと笑う
 間違いない、奴の仕業だ
 
 ブルーの太ももがへこんでいく、いや絞めつけられているのか
 苦悶の表情に変わってきたブルーに、グリーンはハッサムに向けて指示した

 「『ディス・カイ・クロー』!」

 見えないものを斬る空の理力、その絶技
 ブルーには当たらないよう、注意を払い目星をつけてハッサムが刃で叩き斬る

 ガキイィインと絶技の威力でブルーの足元にあったパイプが斬れ、床に刃が当たって金属音が響く
 しかし、ハッサムは手応えを感じていなかった

 逃げられた、らしい

 「ヒャ、ハッ! 見当違いだゼェエ」

 ジャチョがピアスの付いた舌を見せる

 見えない何か、即ちエネルギー体がブルーに巻きついている
 グリーンはそれを考慮に入れ、特能技を使った
 ジャチョはそれを示して言っているのか

 だが、まだ意味がわからない

 「・・・で、ブルーもういいか」

 「うん。・・・平気」

 もぞもぞとブルーが裾を取りつくろったことを、グリーンに伝える
 ようやく彼女の方を振り向いてみると、なんだかジト目でまだにらまれている気がする
 グリーンが何か言おうと、口を開こうとした時だった

 「ひゃぅん」

 ビクンとブルーの肩が跳ねあがり、妙に艶っぽい声が漏れた
 グリーンが固まった

 「・・・あのさ」

 「・・・・・・」

 ブルーがこの場の雰囲気を変えられないものか、物凄い勢いで頭をフル回転させる
 あれもこれもジャチョの仕業とわかっている
 でも、うまく言葉が出てこない

 「ヒャ、ハッ!」

 キューブの上の方で、ジャチョは楽しそうに2人を見ている
 まだパイプに座って、余裕でいる様子だ
 
 ジャチョのポケモンはもうボールの外に出ていて、その姿は未だに見せない
 なら、パイプやチューブに隠れていると見るべきだ
 だが、物音ひとつしない
 巳/蛇というのも向こうがそう言っただけで、相手を欺く為だけかもしれない

 「(・・・・・・能力か、ポケモンの生態か)」

 今まで出会ってきたポケモンや能力、思い当たるものがない
 素早いポケモンでも、その移動音はするはずだ

 ガタンとジャチョが超猫背のまま座っていたところに立ち上がり、だらんと頭を下げて2人を覗き込む
 何も仕掛けてこない

 「ヒャ、ハッ! どうよ、わかったか俺の能力は」

 「アンタがいやらしいやつだってことはよくわかったわ」

 ブルーがニドちゃんに技の指示を、ヘドロばくだんの照準を合わさせた
 狙いは間違いようのない、あの男だ

 「ヘドロばくだん!」

 ニドちゃんの身体、口から技が分泌され放たれる
 充分射程距離内、はずさない
 ジャチョも避けようとする、その予備動作すらしようとせず立ったままだ

 「ヒャ、ハッ!」

 その眼前、ジャチョの目の前でヘドロばくだんがはじけて消えた
 
 「!」

 あの感じは見覚えがあった
 長くポケモントレーナーをしていれば、必ず見ることのあるもの

 技で相殺するのでもなく、まもるで防いだのでもない

 
 タイプ相性による技の消失

 毒タイプであるヘドロばくだんを消失させられるタイプは1つ

 「鋼タイプ!」

 鋼、巳・・・蛇・・・まさか・・・・・・

 「ヒャ、ハッ!」
 
 ジャチョが何もない空を、撫でるように愛でた
 そこには確かにポケモントレーナーとして、能力者として相棒を慈しむ空気があった

 「・・・お前は、そうか」

 グリーンもようやく見えた、見えない何かが見えないまま何者なのかが・・・

 「俺は幹部十二使徒、巳のジャチョ。象るのは蛇、エキスパートは鋼」

 ジャチョの周りに気配を感じる
 それに近い、何かだ

 「悪いな、俺の能力は常時型。お前らにはほぼ一生見る機会はないだろーなァ、残念!」

 グリーンとブルーが、そこに見えない見知ったポケモンがいることに戦慄をおぼえる

 「トレーナー能力、『ステルス』。俺のポケモンは不可視聴になる」

 その姿を見ることも、移動音も聞くことが出来ない

 「てつへびポケモン、ハガネール・・・」

 「でも、ちょっと待って、こんな遮蔽物だらけのところでハガネールって」

 周りにあるパイプやチューブを見ても、どこも潰れている形跡はない
 あんな巨大なポケモン、見えなくても聞こえなくても体重がなくなるわけではないはず
 それほど丈夫なパイプやチューブばかりでもない、ハッサムの刃で斬れることからもそれは証明済みだ
 なのに、どうして重量級ポケモンが「移動した跡」が残っていないのか・・・

 「謎解きの続きは檻のなかでしな」

 ジャチョの本当の脅威、その攻撃が始まる

 
 ・・・・・・


 「・・・こんなものか、侵入者ゴールド」

 ゴールドは立ちつくしている
 
 ドダイは圧倒的だった

 ・・・

 
 吹っ飛ばされたウーたろうをゴールドが見遣った
 流石頑健なポケモン、まだ戦える
 ガラガラと瓦礫をどかしつつ立ち上がろうとするウーたろうを、ドダイとケンタロスは黙って見ている
 
 「・・・ウーたろうや俺に攻撃しねーのか?」

 今の状態は隙だらけのはずだ
 勝利は確定事項、なのにわざわざ待ってくれている
 ドダイは表情を崩さず答えた

 「トレーナーを攻撃するなど、信条に反する」

 「そーかい。そりゃ結構なことで」
 
 じろっとゴールドがドダイを睨みつけ、すぐに諦めに近い表情に変わった
 どうでもいい、どちらにせよ危ないバトルになる
 もっとも彼の言葉は信用出来そうだ、とも思う
 ウーたろうをケンタロスが吹っ飛ばした時、ゴールドの方にやることも出来たはずだからだ
 あの速さでウーたろうと衝突・一緒に建造物にぶつかっていたら、間違いなく死んでいる

 ウーたろうがゴールドの傍に戻ってくる
 さて、仕切り直しだ

 「いくぜ」

 「・・・・・・」

 ウーたろうが走り、前に向かって跳んだ
 狙うは『ばくれつパンチ』による混乱、真正面からやり合うには分が悪すぎる

 「ケンタロス、まもる」

 でかい図体を直進させたと思いきや、指示は防御
 ガンッとウーたろうの拳はぶつかったが、文字通り足元にしか及ばない
 たとえまもるをされていなくても、大したダメージにはならなかったろう

 「ふみつけ」

 足元にいるウーたろうに躊躇いなく振り下ろされる蹄
 ごろごろと必死に転がって避けると、すぐに次がやってくる
 大きい股だから隙間も大きい、わけではなかった
 むしろ間断なく続くふみつけの嵐に四肢のなかに追いやられ、逃げ場を奪われる
 ステップを踏むような軽やかさで地面を踏みぬき、岩盤を砕く一撃の重さは洒落にならない
 
 このケンタロスの巨大さは、何をしても必殺
 
 恐るべきはこの図体で素早さがまるで落ちていないこと
 

 「辟易しているか?」

 「・・・・・・」

 ケンタロスが暴れると風が吹き、
 ドダイの声はまるで落雷のように落ちてくる

 ゴールドは突破口を探していた
 1秒でも早く、2秒より前に

 あの図体は間違いなく能力によるもの
 自然のなかででかいのが生まれるのはしばしばあるが、あれは常軌を逸脱している
 だから、能力はそういうものだと思われた

 「ウーたろう、やつの向こうずねを思い切り叩いてやれ!」

 岩盤を砕くステップをなんとか避けつつ、まるで丸太のような足に果敢に立ち向かう
 図体が大きくなっても、ポケモンはポケモン
 急所は必ず存在する、と踏んだ

 「狙いは悪くないが、素早さが足りない」

 ドダイのアドバイスは的確だった
 
 ウーたろうはとっさに身体を丸めた
 それは相手の蹴り飛ばしが来る前だったのに、どんな指示よりも早く行われた
 しかし、それをしていなければ向こうずねを叩けたかもしれない
だが、それと引き換えにウーたろうは粉々になっていただろう
 
 ケンタロスの攻撃、ウーたろうは再び吹き飛んだ
 道を歩いている時に小石を蹴飛ばし、壁にぶつかってハネる
 そんな感じに、また

 ドガッゴゴッ、とウーたろうはぶつかって転がった
 サイズ比較としては小石だが、ウーたろうはウーたろうだ
 ゴールドに当たらないよう、配慮されているようだった


 「・・・身体を丸めたおかげで、少なくとも今一度立ち上がれるようだな」

 質量差が違いすぎる
 タイプ相性もへったくれもない

 「身体を丸める。それはポケモンの防衛本能といえる」

 ドダイはウーたろうの方を見る

 「エネルギー体であるポケモンが収縮されてボールに入る時も、身体を丸めるようにして出来るだけ小さくなるように努める。
 野生で出てきたポケモンがやられた時、身体を丸め一時的に小さくなることで体力の回復に努める」

 草むらがきぜつしたポケモンで溢れかえることがないのは丸まって目に見えないくらい小さくなるからであり、その後踏まれないよう逃げる
 同じ個体値のポケモンが出るのは、あれから体力を回復させた本当に同じポケモンなのだろう

 「・・・お前のケンタロスはその逆。ボールから出てくる時、余計にエネルギーか何かを取り込んででかくなるわけか」

 「逆ではないが、そういうことだ」

 彼の能力はエネルギー体であるポケモン、その身体を作るエネルギー量を操作する『巨細集散』
 ドダイのケンタロスはボールから出てくる時、必要以上のエネルギーを必要なものとして取り込むことで身体が大きくなる
 その為種族値はそのままながら、身体が大きい・防御と特防が2段階上昇した状態で出てくるのだ
 性格はようき、個体値努力値振り最速の巨体を止めることは何よりも難しい
 
 「(・・・同じ岩タイプの使い手なら、あの男の方が強かった)」

 ドダイは馳せる
 彼と同様、この図体に立ち向かってきた熱い男達のことを

 ―――

 ケンタロスの猛追、突撃によって岩が飛び散る

 「くぅ」

 「お嬢、大丈夫ですかっ」

 糸目の男が和服の女性に声をかけた
 イワークはがららららと岩の身体でとぐろを巻くようにし、2人を守りつつその顔色をうかがった

 「ええ、大丈夫です。ありがとうタケシ、イワーク」

 「良かった」

 糸目の男タケシはほっとし、和服の女性ことお嬢エリカは微笑んだ

 シオンタウン
 ラジオとうというカントー本土制圧なら狙ってくるだろうそれを守るために、ここには2人のジムリーダーが警護に当たった
 リーダーズシャッフル、タイプ相性も考慮しタケシとエリカが選抜される

 そこに現れた幹部は丑のドダイと寅のシャララ
 だが、実際に戦っているのはドダイとケンタロスのみ
 シャララはポケモンこそ出しているがこの4人の『戦う環境』を作ったら早々にお酒を飲んで、高見の見物をしていた
 
 ジムリーダー2人を圧倒的な撃力で止めてみせている

 「くそっ、何なんだこいつら」

 「落ち着いてタケシ、相手は四天王以上の実力と特殊能力を備えています。
 正攻法ではとても厳しい、だから冷静にならなくてはいけません」

 エリカはキレイハナの優しい香りでタケシ達を落ち着かせる
 彼は頷き、その巨大な相手を見た

 「しかし、このでかさは半端じゃない・・・!」
 
 「ええ。とても自然的なものには思えません」

 ドダイのケンタロス、その異常さに2人は最初目を見張った

 タケシのイワークですら、そのケンタロスの巨体に対抗しきれない
 なんとかその岩が連なったような身体をうまく使い、ケンタロスの攻撃をいなし巻きつくなどして大ダメージを避けてはいる
 しかし、相手への決定打は未だにない

 「もう終わりか、ジムリーダー達よ」

 ドダイの眼に2人が映る
 期待ではなく、卑下でもなく、ありのままを見ていた
 まだ2人の目は死んでいない、気力も失せていない

 先程ケンタロスが飛ばした岩でタケシ達が砂まみれ、かすり傷を負っている
 イワークがエリカとタケシのことを覗き込むと、彼女が微笑む

 「大丈夫よ、イワーク。トレーナーに似て優しいポケモン・・・」

 エリカの言葉にタケシが照れ、彼女はイワークの頭に触れた
 そのツノにひびが入っていることに気付き、彼女が手持ちの布でそこを縛ってやる

 「さぁ、タケシ、いきましょう」

 「・・・! はい」

 2人がケンタロス、その後ろにいるドダイを見る
 見た目に圧倒され、気持ちから負けては駄目だ
 この2人には、今カントー本土に住む人達の生活がかかっている

 すべてのトレーナーに対しての手本であれ、街を守る象徴たれ
 その重責を常日頃から負うジムリーダーの宿命
 重荷であるのは間違いない、それでも皆の笑顔の為に戦ってきた

 これからも、この先も

 
 「ケンタロス、すてみタックル」

 あの巨体で繰り出されるその技は通常のものとは、まさに別物だ
 おそらく『まもる』や『みきり』でも防ぎきれない、通常のそれらではおそらく不可能
 2人の背後には民家、ラジオとうがある

 まともに止める手立てはない、ならば・・・・・・受け止めるしかない

 「にゃははは〜、どうすんのかにゃ〜」

 くいっと酒をあおるシャララが笑って、この勝負の顛末を見届ける

 「イワーク!」

 『ゴォオオォオ!』

 ガララララララとイワークがうなり、身体をひねらせる
 この体勢、同じすてみタックルではない

 「いくぞ、渾身のロケットずつきだ!」

 回転を加え、身体ごと投げ出すように直進する
 一点集中の破壊力に懸ける

 威力だけでみれば・・・・・・タケシの負けだ
 ケンタロスはタイプ一致、イワークはタイプ不一致という時点で勝負にならない
 

 「にゃは?」

 シャララはちょっと驚く
 ロケットずつきの初速、いや突撃が通常より速い

 「むぅ」

 ドダイもそれに気づく
 
 バガガアアァアアァァアアッと激しい激突音がシオンタウンに響き、イワヤマトンネル内部まで震えるほどだ

 「お嬢、感謝します・・・!」

 「いえ」
 
 2人は固唾を飲んだ
 
 タケシのイワークが速くなったのは事実だった
 それはエリカの功績
気づかれないよう悟られないよう

 イワークのツノに巻いた布、それはこだわりスカーフ
 1つの技しか使えなくなる代わりに、ポケモンの素早さを高めるアイテム

 相手に知られたら、対策を打たれる
 その前に勝負をつけなければならなかった

 ギジジジジ、ケンタロスとイワークがぶつかり、せめぎ合う

 ・・・ケンタロスは止まらなかった

 ―――

 ウーたろうが起き上がってくると、ゴールドもドダイもそれを見た

 明らかに、不自然に、ウーたろうの身体にひび割れが出来ていた
 岩だから欠ける、というわけではないのに

 「私の特能技だ。相手の身体に高エネルギーを無理やり取り込ませ、内部的圧力を作る。
 それは外部からのダメージによって徐々に抑えが効かなくなり、最後には内側から身体が崩壊する」

 ゴムボールに近いものをイメージすればわかる
なかの空気はゴムによって抑えられているが、新たに空気を押し籠められれば余計な空気は外に出ていこうとする
 そして、ゴムのどこかが傷つけばそこからゴムボールは変形し、崩壊する
 ウーたろうの身体はそのサイズに見合わない、無理にエネルギーを取り込んだことで身体のバランスが不釣り合いなのだ(巨大化はあくまでボールから出た時限定、また能力値も上がらない)

 「この技を食らった以上、お前に出来ることは」

 「・・・・・・これ以上、攻撃を食らわなきゃいいんだろ」

 ドダイの言葉を無視し、ゴールドは戦闘を続ける意思を見せる
 吹っ飛ばされたところは円形競技場、観客席上段
 充分な距離がある

 「ぶちかませ、『ヴァリオスロウ』」

 ウーたろうが縦一列に雪崩れる岩の連なりを、ケンタロスに向ける
 クレアで見せた2つ目の特能技
 
 どこまでも真っ直ぐに貫く撃力

 「ケンタロス、すてみタックル」

 岩の連なりの一撃に、ケンタロスが真っ向からぶつかっていく
 数珠と巨体の衝突
 

 技の特性上、ゴールドの特能技は曲がらない
 何があろうと直進する技は、ケンタロスが折れるまで拮抗するだろう

 「いっきやがれぇええぇええ!!」

 ゴールドは握りこぶしを固め、振りかぶる
 その叫びが円形闘技場に反射した

 『ブモォォオォオオォオオオッ!!!』

 ケンタロスの巨体が止まり、ガガガガとその身体を前に突きだそうと蹄で地面をかき潰す
 額にぶち当たった岩の連なりが、あの巨体を押していく

 ドダイが力強く頷いた

 「お前達のその意気、しかと受け取ったぞ!」

 同じ言葉をあの2人にも告げた
 直後、彼らはポケモンごと砕けて潰えた

 確かにケンタロスをヴァリオスロウが圧している
 優れた特能技であることに間違いはない、認められるべきものだ

 「ケンタロス、だいもんじ、ふぶき、いわくだき!」

 ドダイの指示がケンタロスの身体を奮い立たせる
 全身を使って、瞬間的に炎と氷を吐き出す
 そして、額を小刻みに動かす

 高熱、そして冷却・・・・・・温度差による脆性劣化、そこへ岩を砕く攻撃
 なんという繊細かつ緻密な動きだろうか

 岩のヴァリオスロウは、ケンタロスの次の踏み込みですべて粉々に砕け散った

 その勢いのまま、ケンタロスは猛然と・・・・・・ウーたろうのいた観客席ごと押し潰した
 観客席、そこにあるものを打ち砕き圧し砕くビシビシッガラガラという崩壊音が聞こえる
 
 
 「・・・私はフォースNバッジを所有している。
 このキューブにいる時のみ、ポケモンにおぼえさせる技の数に制限がなくなるそうだ」

 これが「今の」ドダイの実力の全て
 全てをもって、信条を守り、指示のままに行動する


 ドダイは大きい、巨大だ

 彼にかなうものはいなかった
 何をしても、彼の持つものでは反則になった
 それでも手加減をすることは、向かうものに対して失礼になる
 
 彼と同じものはいない
 他とはかけ離れた存在

 だから、彼はルールを尊守する
 相手と同じ土俵に立ち、行司に戦いを組んでもらう
 それを信条としてもなお、彼にかなうものはいなかった

 今は違う
 彼よりも強く、凄まじいものが数えられるだけ存在する

 彼の持つ巨体、才能が反則にならない僥倖

 
 「意気や良し。だが、届かなかったな」


 崩壊した観客席から砂煙が上がるなか、ゴールドは膝から崩れ落ちた
 

 ・・・・・・


 「サンドパン、砂霧、砂斬り」

 浅いところを高速で動きまわり、ぼうんと音を立てて砂を舞い上がらせる
 目も開けていられないほど濃い砂煙が周囲を覆ったところで、地中に潜っていたサンドパンが姿を現し、ニューラに斬りかかる

 「きりさくで受け止めろ!」

 その指示はするが、砂煙のせいでどこにいるのか見えない
 だが、ニューラはサンドパンの爪を止めた

 「!」

 「こういう時は死角からの、背後からと相場が決まっている」

 背後を振り向く勢いをそのままに、サンドパンの爪を受け止めると同時に『こごえるかぜ』を放つ
 効果は抜群、サンドパンも防御の姿勢を取りつつ後方へ飛んで逃げるがそれで防げるものでもない
 爪から凍りつき、頭から後方へ逆でんぐり返しで倒れる

 「サンドパン」

 チトゥーラの呼び声に応え、サンドパンが起き上がるものの戦闘続行は厳しそうだった
 やがて砂霧も晴れてくる

 「・・・・・・」

 ・・・気のせいか

 シルバーはこのキューブ全体を見渡し、それからチトゥーラをにらむ
 彼は余裕そうに、シルバーを見る

 それもそのはず
 このバトルは2対2、お互いまだ1体しか出していない
 いや、チトゥーラのポケモンはシルバーの目には見えていないというだけか

 「・・・いえ、まだあなたに見せるには早いです」
 
 チトゥーラが微笑むと、サンドパンが固まった身体を無理やり動かしながら熱くなった砂のなかに頭から突っ込む
 砂の熱と力任せに凍り付けな身体をどうにかしようとしているようだ、させるわけにはいかない

 「ニューラ、逃がすなっ」

 凍った身体なのに思いのほか速く動き、ニューラが追い撃ちをかける前に砂のなかに潜り込まれてしまう
 この高気温では効果は抜群でもそこまで硬い氷は形成出来なかったのか、それとも向こうが規格外だったのか
 これでもうサンドパンが地表に上がってくることはないだろう
 
 「デザードウェーブ」
 
 また足元の砂がごっそりと移動し、呑み込む砂の大波を生みだす
 今回のそれは指示から放つまでが速い
 ・・・だからか、最初に見たものと比べると小さい気がした

 「ニューラ、まもる」

 まもるの防御を発生させ、こごえるかぜで更に威力を弱めさせる
 まるですり抜けるかのように、デザードウェーブは2つに割れた

 ニューラとシルバーの背後にいった特能技は、ここのキューブの壁にぶつかって低い音を出した
 
 シルバーは気になって、足元をざりと踏みしめるように爪先を左右に擦る
 わからない、しかし、今の状況からするとほぼ間違いない

 
 ここのキューブの砂が減っている
 最初に違和感を感じたのは天井だ、最初より高くなっている気がした
 そして、デザードウェーブの速射性・・・あれは扱う砂の量が減ったからその分速くなる

 砂がキューブから排出されているのか、それとも他の要素によるものか
 
 「頃合いです」

 パンパンとチトゥーラが手を叩く
 
 「・・・!?」

 何も起こらない

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 チトゥーラがもう一度パンパンと手を叩く
 しかし、何も起こらない

 「・・・しようのない子だ」

 額に手を当てチトゥーラがため息をつくと、シルバーはその足元を見た
 
 キューブが突然、震撼する

 ビリビリと足元の砂が震え、波打ち立つ
 わずかだが、このキューブの砂が中心部に流れていくのが目に見える
 異常と感じたシルバーがダンッと後ろに一足飛び、距離を取った

 キューブの中心から、少しくぼんでいる
 何かが砂を吸いこんでいるようだ

 「聞こえているはずなのに、困ったものです」

 嬉しそうに、チトゥーラは再度手をパンパンと叩いた
 
 砂の流れが止まり、その中心がぼこっと盛り上がった
 盛り上がったそこから棒、いや小さなツノが見えた

 小さなツノ、手、そして頭がすべて見えてきた
 砂のなかから、全身を出したのはヨーギラスだった

 「!」

 「・・・もしかして寝てましたか?」

 チトゥーラが声をかけると、頷きかけたヨーギラスから光がはしる
 その一瞬で形を変え、サナギラスに進化した

 ヨーギラスは山ひとつ食べることでサナギラスになるという話は聞いたことがある
 このキューブに満たされていたのは地面タイプの技の威力上げる『やわらかいすな』、つぶてとして飛ばしたりしたのは岩タイプの技の威力を上げる『かたいいし』
 進化させる為というなら、上質な餌といえる

 「私の最高の美学をお見せしましょう」

 チトゥーラが華麗なポーズを決めてみせると、サナギラスに異変が起きる
 サナギラスの身体、その背からヒビが入ると凄まじい光が放出された
 その光は大きくなり、やがてキューブを半分ばかり覆う程のものとなった

 その光幕を破り、現れたのはバンギラスだ

 2段階連続進化・・・!

 「私の能力はLvや条件に関係なく2段階連続進化を可能にする能力」

 地面や砂をここまで操るのはチトゥーラが身に付けた特技
 本来の能力とは何の関係もない
 しかし、『子』として君臨する為には必要だった
 それだけだ

 伝説のポケモンに次ぐ種族値、強力なポケモンの登場にシルバーがわずかに後ずさる
 初めて見るわけじゃない
 しかし、このバンギラスは何か様相が違う気がする
 
 「どうです、侵入者。まずお目に見ること出来ない、最高のバンギラスですよ」

 「・・・どういう意味だ」

 このバンギラスからにじみ出るものは完璧さ、隙の無さ
 チトゥーラが求め続けた最高の美学

 「6Vの美学です」

 6V
 それは個体値と呼ばれるポケモン個々が持つ才能を0〜31までに数値化
 才能とはHP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さの6ステータス、それらが最大値であること
 31であれば理論上行える・与えるダメージ、その防御を可能とする理想上の数値
 勿論、確率的にも自然的にも生まれるものではない

 このバンギラスは、チトゥーラの重ねられた育成と孵化によって生まれた、組織唯一であろう6Vポケモン
 性格はゆうかん、努力値も既に振った上でこの砂漠キューブに放置し、砂と石を食べさせこの機会を待っていた
 ちょっと寝てて、手を叩いた時に起きてわざと出てこず食事を再開してみせたりと・・・・・・ちょっと悪戯が過ぎる

 「素晴らしい・・・!」

 バンギラスの登場により、足元に残る砂が舞い上がって砂塵を生む
 特性すながくれが作用し、すなあらし状態になったのだ

 「さぁ、お行きなさい」

 暴れてやるぞと咆哮をあげ、シルバーとニューラを睨む
 流石の巨大さ、ニューラでは対抗出来ない
 グォッと拳を振り上げ、2人めがけて叩きつける
 シルバーが腰に付けているボールのなかから、一番端・それも他の連なっているものからボール1つ分離れたボールを取った

 バッシィンと、バンギラスの拳が止まる

 「!」

 すなあらしのなか、バンギラスの拳を受け止める大きな影が見えた
 そのやや荒んだような眼光が、拳を叩き落とした相手とチトゥーラを射抜いた


 「・・・頼むぞ、バンギラス」

 シルバーの出した2体目、ハイパーボールに収められたそのポケモン
 そう、それはチトゥーラと同じバンギラスだった

 その登場に驚きを隠せなかった彼だが、少しずつ声が大きくなり・・・笑った

 「なんと! あなたもバンギラスをお持ちでしたか。いや、これは願ってもない」

 「・・・・・・」

 「いいでしょう。同種族対決。そして勝つことで私の美学は真に完成する」

 チトゥーラは勇ましく、堂々たる宣言をもって今一歩踏み出した 
 初の6Vポケモンを前にしていたが、対するシルバーの意識の3分の1は手のなかにあるボールに向けられていた

 ハイパーボール バンギラス

 バンギラス同士の戦いを見るニューラはすなあらしに身体を痛めつけられ始めていた
 気づいたシルバーも服のジッパーをあげ、オーレ地方でも使った防護マスクを口に当てる
 すなあらしは激しさを増し、本当に目も開けられない状況になっていく


 ・・・つらく、厳しく、悲しく、寂しいことは沢山あった
 信じられると思えるのはニューラとブルー姉さんくらいなもので、他のものはすべて敵か利用するされるだけだった
 苦労もなく平穏に温かに育ったあの金目の男を反目する半面、嫉ましく思ったこともある
 だが今は、そういった彼を痛めつけてきた過去やしがらみ・・・・・・出会い培われた縁が「彼の力」になっている

 「「バンギラス、じしん!」」

 がっつりと取っ組みあっていたバンギラス2体が、そのまま足を力強く踏みつけた
 強大な地面エネルギーがこのキューブ全体に伝わり、砂が間欠泉のように噴き出す

 「忘れていませんか」

 猛然と叩きつけるようなすなあらしのなか、サンドパンがシルバーに斬りつけてきた
 熱い砂のなかで氷を溶かし、じしんの前に地上に出てきたのか、ニューラがそれを間一髪受け止める


 バンギラスVSバンギラス
 サンドパンVSニューラ
 
 ここ、砂漠キューブ
 照りつける天井にある灼熱の疑似太陽よりも、地上の方が熱く容赦のない激烈なものとなっていた





 To be continued・・・
続きを読む

戻る