〜最終決戦・二十〜

 「さあ行こうぜ! ・・・相棒!!」

 

 ・・・・・・

 
 そのキューブで、彼は膝をついた

 「ありがとう。・・・これで私は、またひとつ強くなれたわ」

 灰色を基調とした迷彩柄で首回りにファーの付いたフライトジャケット、その下は赤い丸首シャツ
 赤い髪をくくった女性は彼を見降ろし、目をつむった

 「侵入者グリーン。あなたは捕虜として、誰かが解放しに来るまでここに留まってもらうわ。
 大丈夫、牢でもここよりずっと快適だから」

 フッと微笑み、彼女のポケモンが膝をつくグリーンに触れようとすると彼はぱしんとその手で払いのけた
 まだ立ち上がる気力が残っていたのか、と感心する

 「手など要らん。・・・自分で入る」

 「そう。私はあなたに勝てたことを誇りに思うわ」

 「・・・・・・そうか」

 グリーンの足取りはふらつき、このキューブではかなりそれが危険に見えたが彼女ことリサは手を貸さなかった
 その掌のなかでポケギアを操作すると、赤い虫籠のような牢が頭上から降りてくる
 がしゃんと開いた扉からグリーンはなかに入ると、閉じたそれは再び上昇する

 リサは手に持ったポケギアで、ついで誰かに連絡を取っているのをグリーンは牢のなかで見た
 
 「(・・・確かに快適だな)」

 外から見たら格子状でにわかに信じられなかったが、どうやら外気をシャットアウトする仕組みらしい
 ふぅとひと息ついたグリーンは座り込んで目を閉じ、今までの・彼女との戦いを反芻する
 現在の状況によって取り乱したり、悔いることはしない

 誰かが来てくれることを、助け出してくれることを信じているからに他ならない

 そうやって彼は次の戦いに備えて、疲労の溜まった肉体とすり減った精神を休め始めるのだった・・・


 ・・・・・・


 「テメーの能力は、(ポケモンの)ステータス補正の超強化だ!」

 ジークに対し指を指し、ゴールドはそう言った
 
 ・・・

 5のしま、ゴージャスリゾート

 最終決戦に向けて、皆で食事を取ったりしている時のことだ

 そう、最終決戦に向けて話し合っておかなければならないものがあった

 「四大幹部の能力」

 この戦いに置いて最大の障害となる4人の実力者
 数度にわたって目にしたが、その能力は依然として謎に包まれている
 
 「あいつらに関しては何らかの対策を、予め練っとかなきゃなんないと思うんだ」

 「同感だ」

 普通能力者同士の戦いに置いて、何らかの対策を事前に練られるわけではない
 しかし、やれることがあるのならしておくべきだ

 「とはいえ、判断材料が少なすぎるわ」

 「ですよね」

 ブルーが肩をすくめると、クリスも同意する
 まともに戦ったのは一般トレーナーだった最初の時だけ、実力差が開き過ぎていて本当に一瞬で終わってしまった

 「いや、今回はそのまま考えてみよう」

 レッドがそう提案する
 あの時は確かに無能力者だったが、一般トレーナーとしてはレッド達は抜きん出た実力者ではあった
 能力者といえど、そこまでぼろ負けしたのには何か要因があると見ていい

 「例えば、あの戦いを・・・・・・野性のポケモンと俺達、低レベルと高レベルのポケモンの戦いとしたら」

 草むらで出現するLv5のポケモン、鍛え上げられたLv40以上のポケモン
 どれだけLv5ポケモンの数がいても、Lv40のポケモンには勝てないし一瞬一撃でバトルは終わってしまう
 確かに似通ってはいるが・・・

 「本当に、そのまま置き換えられるか?」

 「!」

 普通のポケモンバトルであり得る範囲ではないことが起きた、それが四大幹部達の能力に関係してくるかもしれない

 「リサは本当にLv差そのままね。こっちは弱点ついたのに、まるで効いてないように見えた」
 
 ブルーのカメックスのハイドロポンプが直撃したのに、リサのバシャーモはものともしなかった
 そして、そのまま一蹴された

 「でも、そこまでLv差は開いてないように思ったんですが・・・ブルーさんが図鑑で確認しなかったのでボクにはよくわかりませんが」

 ある意味まともにやり合ったブルーとイエローが軽く頷きつつ、考える
 彼女、リサに能力を使わせるまでもなかったのか

 「・・・あのジークってヤロウの場合は、圧倒的なスピードでこっちの3体をぶっ倒しました」

 「ディックも似たような感じで2体。だけど、話を聞く限りこの2つはちょっと違うところがある」

 ゴールドとクリス、レッドとグリーンそれぞれが話を照らし合わせるとこうだ
 ジークのスピアー(ジーク)はかろうじて目に映る速さ、ゴールド側の最後の3体目が倒されたところは見えた
 対してレッド側は、ディックのブラッキーは技も何をしたのかすら見えなかった・・・知覚出来なかった
 この差は大きい

 「俺とレッドの2人がバトル中に何をされたのかわからない、というのは確かに妙だ。
 能力者になった今、その記憶を探ってもわからない・・・ディックの能力の秘密がそこにありそうだな」

 「ジークとリサの場合は、まさに高レベルのポケモンと低レベルのポケモン同士の戦いに置き換えられる」

 弱点の技でも大して効かない、バトルがあっという間に終わる
 だが、この場合の低レベルのポケモン・・・ゴールド達のポケモンはLv40クラスかそれ以上だということ
 たとえ相手のポケモンのLvがそれ以上だとしても、そこまで圧倒されるわけがない
 Lv100まで到達しているポケモンを持つトレーナーは、歴史上かつ世界に3人しかいないものと言われている
 
 「でも実際はそんな風に圧倒された」

 あたかもLv5とLv40の戦い、四大幹部のポケモンとLv差が8倍以上あるかのように

 「・・・そんな風になる、それが通常のポケモンバトルでもあり得ないことじゃない」

 「・・・・・・あぁ」

 言わんとしたいことがわかった

 それは身体ステータスの強化
 こうそくいどうによるすばやさ2段階アップ、とおぼえによるこうげきアップ、からにこもるのぼうぎょアップ

 もしくは相手の身体ステータスの弱体化
 しっぽをふるのぼうぎょダウン、なきごえのこうげきダウン

 2段階のアップでステータスは実質2倍となるし、2段階のダウンなら半減する
 素早さが上がれば130族でも先手は取られるし、攻撃力が下げられれば相手に対しての弱点攻撃でも通じなくなる
 そういう戦い方もある

 ジークかリサ、この2人は何らかの能力でポケモンの身体ステータスに影響を及ぼしている可能性が高い

 「その場合に立てられる対策は1つだ」

 それは相手と同様に、対応するステータスを上げること
 
 ステータスを下げられたなら、自ら上げることで戻せる
 相手がステータスを上げてきたなら、こちらも上げて対抗する

 「念の為、戦闘用アイテムの用意がいるな」

 「ダイゴさんに言って、用意できる所へ寄ってもらおう」

 バトルではアイテムが使えないこともあるが、能力者とのバトルなら出来る時があるかもしれない
 皆が改めて手持ちの道具を見せ合い、それを分配し始めるなかでゴールドはクリスに声をかけた

 「ちょっと頼みてーんだが」

 「・・・何よ?」
 
 「いや、お前の能力で技を変更したいんだ」

 先程の話、四大幹部との対策で何か思いついたのかもしれない
 クリスは小さく頷き、小首を傾げた

 「じゃあ問題です」

 「・・・・・・あー、そっちもお手柔らかに頼むわ」

 忘れていたクリスの能力発動条件に、ゴールドは深々と頭を下げた

 ・・・

 バクたろうの火力は最大に上がり、首回りから噴き上げる炎が猛々しい
 それをジークはフと微かに笑った気がした

 「それで」

 「・・・・・・」

 「俺がその指摘に、ご丁寧にも答えるとでも思ったか」

 他の幹部はいざ知らず、ジークはそうやって能力の詳細をべらべら喋るような人間ではない
 ゴールドはジリ、と後ろ足で地面をがっしり踏みしめていることを確認する
 それからこっそり、バクたろうの背後からディフェンダーを打ち込む
 ぼうぎょのステータスを1段階上げて、それを1,5倍にした
 スピアーのおぼえる攻撃技は物理系が殆どを〆るから、本当は6本まとめて打ち込みたいのだがドーピングというものはそうはいかない
 無理やり力を引き上げる故にポケモン側の負担を考慮された遅効性で、打ち込んでからポケモンの身体に馴染むまで1ターンほどの、若干の時間を要するのだ
 
 ゴールドがジークを見据えながら、空になったアイテムをぽいと地面に捨てる
 ジークが身構え、お尻の針を突き出す

 「ミサイルばり」

 それは日常動作ではない
 初めての、ジークによる明確な技の指示

 放たれた5つの針がゴールドとバクたろうめがけて、まさにミサイルのごとく狙い撃たれる
 ただのミサイルばりではない、ステータスが上がっているからその威力は2倍・・・それ以上のはずだ

 「バクたろう、かえんほうしゃ!」

 真正面からめがけてくるミサイルばりを、バクたろうが噴く炎で焼き散らす
 どれだけステータスが上がっていても技の威力では勝っている、跡形もない
 はずれた1本がゴールドの脇をすり抜け、地面に突き刺さったのを横目で見る

 「・・・!」

 地面に突き刺さった針が、深くめり込んで見えなくなった
 恐ろしいまでの貫通力、こんなものを一撃でも喰らったら・・・・・・死んでしまう
 ぞっとする、これが14という最低クラスの威力の技に分類されるのだ

 確かにスピアーのおぼえる技の威力は総じて低く、ステータス補正がかけられていてもそれなりにしかならないのだが・・・・・・
 
 「(流石は四大幹部ってことかよ・・・)」

 本当にただのステータス上昇がその能力とは断定しない方が良さそうだ
 少なくとも2段階ではない、そんな半端なものではない
 ゴールドがタイムラグに焦れながら、9ターン費やしてとくこうとすばやさを限界まで上げたのは・・・・・・ジークのスピアーも同等かそれ以上の補整をかけているとみたからだ

 「ミサイルばり」

 考える間も与えない、息もつかさない
 ゴールドがバクたろうにしがみつき、限界MAXのダッシュで回避と首回りの炎で焼き払う
 当たらなかった針はすべて地面に深く埋没し、見えなくなった

 ・・・最低でも、ジークのスピアーはこうげきとすばやさの6段階上昇
 それから技の威力アップの能力も想定し、その上で戦い方を考える

 スピアーの武器は両腕の槍とお尻の針、空を飛べないにしても羽根は高速移動の補助を担える
 接近戦では勝ち目がない、ミサイルばりは脅威だがかえんほうしゃでどうにかなるのは実証済みだ

 「バクたろう、かえんほうしゃ」

 距離を開けられる炎の攻撃を中心に攻め、隙を見つけるかカウンターでかみなりパンチを使って麻痺を狙う
 現状ではバクたろうが一番力の出せる、この戦闘スタイルが最適に思えた
 スペシャルアップのおかげで、かえんほうしゃの射程距離も伸びている
 
 かえんほうしゃが届く前に、ジークは移動してしまっていた
 中・遠距離同士の戦いでは、いかに相手の行動を先読みして当てるかが勝負だ
 
 「先読みなど不要」

 ジークは見据える

 ディックは面倒臭いと、物事の始まりで干渉を止める
 それ以降の、過程も結果も興味を持たない

 リサは律儀に、過程を重視する
 正しい筋道さえ辿れば、結果に間違いはないとする

 ジークは全てを差し置き、結果だけを取ってみる
 始まりも過程も、どうでもいい

 この最終決戦ならば
 敵の殲滅
 その結果さえ出れば良い

 ・・・・・・先を読む必要はない


 「・・・」

 ふっとゴールドとバクたろうの顔に影が落ちた
 否、そうではない

 身体全体に、いや周囲の地面に大きな大きな陰りが出来ている
 嫌な予感が腰から脳髄にせり上がってくるよりも早く、振り向き見上げていた

 2人の視線の先にある天井をすっぽりと覆うような、黒い紫雲
 キューブに雨雲が出来るわけがない、そもそもあれは雲ではない

 「ヘドロばくだん」

 まるで雲とアメーバを合わせたような、言いようのない脅威が2人に降り落ちてきた
 自重によって加速し、ぼたぼたっと溶解液が垂れてくる

 これだけの規模なら、従来の毒の塊というより実は薄く伸ばしている可能性もある
 ならば、かえんほうしゃで散らして突破するか?
 無理だ、真上にあるものではこちらの被害は絶対に免れない
 むしろ塊よりも突破しやすいが為に、更に広範囲に毒液が飛び散るだろう
 通常よりも薄く広くしたところでステータス補正がかかっているなら、威力も殆ど変化していない

 ゴールドの指示よりも早く、バクたろうが力強く後足で地面を蹴って加速する
 有効範囲からの速い脱出、それ以外に行動が残されていない
 それ以外をする時間がない

 ステータス補正で威力・射程距離・射出速度が増した上で、薄く広範囲になったヘドロばくだんを背中から1mも離れていない真上に放たれたのだ
 いくらバクたろうのすばやさがMAXでも逃げ切れない

 相手の行動を先読みする必要はない、そのものを丸呑みにしてしまう
 
 陰りからギリギリ後足が飛び出たところで毒の絨毯が着地し、バシュウゥウと草原を溶かして異臭を放つ
 それによって飛び散ったヘドロばくだんが、バクたろうの後足にかかった
 うめくのを堪え、ゴールドを安全な場所までと走り続ける

 「ダブルニードル」

 回り込まれている

 ジュィィィィインと振動するジークの羽根、ヘドロばくだんを放った直後に行動を開始していたのだろう
 ゴールド達は逃げるばかりで、迎撃態勢になっていない

 やっていることは普通のポケモンバトル、ターン制のバトルだ
 だが、ステータス補正によって極限まで上げられたすばやさによってそのサイクルが異常に速い
 その戦いにジークは一日どころか千秋の長があり、ゴールドは殆ど経験がない

 最初のバトルと同様の目にもとまらない高速バトルに、ゴールドの指示が追いつかないでいる

 バクたろうが口を開けて炎を吐こうとする前に、ジークの右の槍がその左足を貫いた
 
 「バクた」

 2回連続攻撃だから、ダブルニードル

 ゴールドが声をあげるよりも早く、左の槍がバクたろうの右首筋をえぐっていた
 噴き出した血、衝撃でバクたろうが仰向けに倒れゴールドはその下敷きとなる

 「っ」

 バクたろうもゴールドも必死に地面を転がって、その場から離れようとする
 それを追いかけることをせず、ジークは止まっていた

 「・・・・・・」

 折角上げたステータス補正が何の役にも立っていない事実に、ゴールドは八つ当たるように手につかんだ草をちぎった
 対等のスタートを切れた、と思ったのが甘かった

 ジークの能力がわかってきた
 スピアーの攻撃に使われるこうげきとすばやさ、そんな要所を6段階上げる能力ではない

 
 こうげき・ぼうぎょ・とくこう・とくぼう・すばやさ
 ポケモンの技やアイテムによるドーピングで上げられるステータス
 その全てを常時、6段階上げ続けるトレーナー能力
 ポケモンにかかる負担もなく、むしろそれによって常に限界以上に鍛えられて・・・・・・通常のスピアーよりも遥かに高い種族値を得ている可能性も高い

 超身体能力による超高速サイクルバトルのプロフェッショナル
 誰も、かつて登りつめたことのない領域に常に身を置く

 『未踏の常時型』
 
 それが四大幹部、ジークという男なのだ

 こんな能力者、二度と戦いたくなくなるのも道理だ
 能力の概要を知られたところで、小細工も仕掛けられないシンプルな能力

 四大幹部は皆、こんな化け物ばかりなのか・・・・・・

 対してゴールドは戦闘に特化もしていない、未だにまともに自身の能力を発動させたことのない男
 頼みの綱のステータス補正も満足に扱いこなせず、こうして地面に這っている

 「・・・それでも、よぉ」

 ぐぐっと身体を起こし、バクたろうを肩から支えて一緒に立ちあがる

 「負けられ、ねーんだッ!」

 満身創痍になりながらも吼えるバクたろう、その眼はまだ死んでいない
 だが気迫も殺気もまるでジークへ届かせるには足りない、本人達は必死なのだろうがそこは仕方ないことだ

 しかし窮鼠猫を噛む、追い詰められた獲物は危険と考える
 結果をもたらす為に、いかなる労力も慢心も捨て去るべきだ

 ジークは構えた

 「受けろ。特能技『ジークスピアーガン』」

 
 ・・・・・・


 「ガルっち、メガトンパンチ改!」

 どおおぉおんと土煙があがる
 そこからドードリオとメガぴょんが飛び出し、続いてイエローとクリスも出てきた
 
 「っぷぅ! 大丈夫ですか」

 「ドドすけ、ドリルくちばし!」

 走り抜けるドードリオが向きを変え、脇からガルーラを攻撃する
 その攻撃は命中、ダメージにガルーラが声をあげた

 「オオタチ! たたきつける!」

 ウツギ博士の指示で、体勢を低くして走ってきたオオタチがその場でぐるんと回って太い尾をドードリオの脚に叩きつけた
 早く走る為の細い脚を攻撃され、3つの頭が同時に悲鳴をあげてドードリオが崩れ落ちた
 追撃が来る前に、メガぴょんがその巨体をガルーラにぶつけて吹っ飛ばしてドードリオをかばう

 「ふむ、たたきつけるか。かいりきの方が命中力も上で、安定しとるぞ」

 「いえ、そうなんですけど……僕は気に入っていて」

 オーキド博士の言葉にウツギ博士が返すと、ウワッハッハと笑った
 
 「そういうトレーナーとしてのこだわりは大事なもの。どんな技も使いようじゃ。ウツギくんもトレーナーらしくなってきたのぅ」

 「もう、お祖父ちゃんったら」

 楽しそうな談笑をしているなか、イエロー達はそれを横目で見ている

 「・・・っ、やっぱり強いですね」

 イエローが駆け寄り、ドードリオの脚に手をかざしてトレーナー能力を発動
 ぽうと暖かな光、その患部が治っていく
 その間、メガぴょんがオーキド博士チームをにらんでけん制する

 「(・・・ううむ、流石に分が悪いのぅ)」

 談笑を止めがしがしとオーキド博士は頭を書き、困ったようにつぶやく
 ナナミのハピナスでは、イエローのように他のポケモンを回復させることは出来ない
 このままジリジリと押されていくだろう
 
 しかも、あの女の子2人は出来る限り穏便にバトルを終わらせようとしているようだ
 時間をかけて、オーキド博士側が何か思い出してくれたらすぐにでもバトルを中断しようと考えている
 それが見え透いているから、本気を出させようとピヨピヨパンチ改なんて放ったのだが・・・・・・

 「(出来れば全力でバトルしたいんじゃが・・・酷な話かのぅ)」

 あの女の子2人の心境を考えると、そうかもしれない
 このバトルに勝っても負けても、それらが救われるとも限らないのだから
 押されるまま負けて、折れてしまっても・・・望む結果にはならないだろう

 
 ふとオーキド博士の視線が彼女達の後ろ、ワープ装置に目がいった
 機械が作動している、つまり誰かがここにやって来るということだ
 イエロー達も気づいたのか、後ろを振り返る

 「・・・・・・!」

 「!」

 そこにいた人を見て、誰もが息を飲み言葉が出せなかった

 
 「クリス・・・イエロー!」

 「シルバー!」

 ガイクのところで再会し、またすぐにいなくなってしまった
 この最終決戦に来るだろうと思ってはいたが、まさか・・・・・・でもようやく会えた

 シルバーもまたイエロー達、そしてオーキド博士達がいることに面食らっていた
 それもバトル中と見受けたから、少し混乱しそうになった
 だが、組織や置かれた状況から推察するに何らかの形でオーキド博士達は敵なのだと理解した

 ワープ装置から離れ、彼は真っ先に彼女のもとへ走る
 
 「・・・っ」

 シルバーはしゃがみこんでいた彼女の腕を取り、立たせた
 離れている間に随分とたくましくなった彼に戸惑いながら、イエローは顔をあげた

 「ここは俺が引き受ける。イエローは先に進むといい」

 「!?」

 また、この場を託して先に行けと言われたイエローは更に戸惑った
 だが、少なくとも彼女はまだ充分に戦える
 このキューブではポケモンの上限数だけが設定され、トレーナーはいくら増えても構わないのだ
 シルバーの提案は飲めない、そう口を開こうとした

 彼が、イエローの掌にボールを握らせた

 「これを、託された」

 「・・・!」

 ボールのなかにいたのは、伝説の氷鳥フリーザー
 このポケモンは・・・・・・今の持ち主は・・・・・・

 「災厄から託されたものだ」

 「どこでっ、いやまさか・・・ここに来てるんですかっ」

 災厄は治癒の能力者イエローの対となる人物だ
 これまで二度、皆と共に助けられてきた
 
 「彼がどうして俺を通して、イエローに渡せと言ってきたのか・・・よくわからない」

 あれでは理解からは程遠く、あまりにも言葉が足らない

 「けれど、何か意味がある。きっとこのフリーザーが、この最終決戦で・・・必要になるんだ」

 シルバーはイエローから目を離し、オーキド博士達を見た
 こうして空気を読んでくれている辺り、完全な悪へと洗脳されたりしているわけではないとわかる

 「災厄が見据えた、イエローの戦場はここじゃない」

 彼女の肩を引きやり、ずいっとその前にシルバーが立つ

 「ここは引き受けた」
 
 シルバーがオーダイルとキングドラを出し、問答無用で取っ組みにかかる
 オーダイルをガルっちが、キングドラの放つ水流をナナミのハピナスが受け止めた

 「むっ」

 「・・・・・・」

 随分と遠慮のない、荒々しい攻撃だ
 だが、決してポケモンへの配慮が欠けているようなものではない
 
 「イエローさん・・・」

 シルバーの猛攻に目を奪われながら、クリスが彼女に声をかける
 返事がなかったので、覗き込んで見るとイエローは渡されたフリーザーの心を読み取っていた

 「・・・・・・すみません、クリスさん。ここはシルバーさんと2人に任せても良いですか」

 「え・・・はい。行ってください」

 申し訳なさそうに言う彼女を後押しするように、クリスはぐっとポーズを取って答えた
 理由は聞けなかったが、今は時間が惜しい
 それを見てありがとうございます、と言ってイエローはドドすけをボールに戻す

 だだだだっと走って、ワープ装置の方へ走る
 そして、すぐにそのなかへ飛び込んで・・・姿が見えなくなった

 見送ったクリスは向き直り、オーキド博士達の方を見た

 「選手交代か・・・」

 「すみません。大丈夫ですか?」

 使うポケモン数の変化もある、クリスは思わず聞いてしまう
 しかし、オーキド博士はにこにこしていた

 「構わんよ」

 「何をおしゃべりしている」

 「シルバー! 博士達は今ね」

 「関係ない。・・・・・・全力で倒すだけだ」

 「ふむ・・・構わんとも!」

 組んでいたガルっちに力が入り、オーダイルにのしかかるように押していく

 シルバーの心境はクリスやイエロー以上に複雑だろうか
 思うところはあるにしても、そこには一本の明確な線がはしっていた

 「良い眼じゃ。さーて、またバトルを楽しむとするかの」

 オーキド博士とシルバーのやり取りに他3人がため息のような、呆れのような嬉しそうな・・・喜怒哀楽が絡んだ納得をしてみせて、同じように再び戦いの渦中へ戻っていく
 

 ・・・・・・


 ジークの言葉にゴールドは耳を疑った

 「特能技・・・?」

 ただでさえ強いジークが、これ以上規格外の技を使うというのか
 冗談ではない、そんなもの出させる前に潰すべきだ

 しかし、どうしてだろう
 妙に、胸が騒ぐ

 騒ぐのだ


 ゴールドが胸の辺りを押さえ、服のたわみを握りしめる
 わかっている、いや本当にわかっているのか

 「・・・バク、たろう」

 バクたろうは四つ這いになる
 苦しくなったからではない

 迎え撃つ為の姿勢を取ったのだ


 察するにジークの特能技は自慢の槍か針を用いた近距離攻撃、接近技
 どのみちバクたろうは、この身体ではいくらすばやさMAXでも満足に走れない

 ならば向かってくるところを・・・・・・こちらも特能技で、炎タイプのヴァリオスロウで対抗・迎え撃つのだ
 ジークのとくぼうが6段階上がっていようと、バクたろうもとくこうが6段階上がっている
 当たれば効果は抜群、絶対に効く

 
 「穿て、ジークスピアーガン」

 もう飛び出してきた
 
 「ヴァリオスロウ!」

 
 それはコマ送りに見えた

 勝負は刹那のなかに収まった

 コマ送りのように、わずかずつ両者の距離が縮まっていく
 
 ジークの目前まで炎の槍が迫ったところで、世界は停止した

 そして、コマ送りを更にコマ送りにするように


 ヴァリオスロウをすり抜けるように、最小限の動きでジークは避けた

 射出速度はジークにも劣らない、ただ渾身と勢いのまま突っ込むジークではあり得ない動きだ
 
 あまりにも不自然だった

 コマ送りのコマ送りが途切れ、再びコマ送りに戻る
 しかし、その時点でゴールドは目に追えなくなっていた


 次に目に映ったのは、ジークの槍がバクたろうの身体を貫いていた光景だった

 容赦のない渾身の連撃によって、身体の原型をかろうじて保つ程度に穴を開けられていた

 無惨

 ジークの全身がまるで炎を浴びて燃えているかのように、赤く染まっていた
 




 ああ、ゴールドは気づいた

 ジークの能力は、そんな能力ではなかった

 こうげき・ぼうぎょ・とくこう・とくぼう・すばやさの6段階上昇
 それではヴァリオスロウの回避行動に説明がつかない

 ゴールドは気づいた
 
 ジークのその能力はレヴェル1に過ぎないのだと

 そればかりでない
 クリティカル率・命中率・回避率

 気づいた

 ポケモンの技によって6段階まで上げられるステータスは、身体能力値だけではないことに


 その時、既に遅かったことに


 ・・・

 「おまえは背中が爆発してんだな。だったら『バクたろう』で・・・どうだ!?」

 ・・・

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 物言わなくなったものは何を思い何を感じるのか、それを見るものは何を思い何を感じるのか


 ・・・・・・


 『……100%。デバッグ完了。ワープシステム修復完了。ワープシステム修復完了』

 冷たい機械音声が全てのキューブに響き渡った
 それは救いのない、無情の宣告


 ・・・・・・


 この先は見ずとも良い物の語り
 覚悟しないのなら、1つ飛ばせ

 これより覗き見るのは、戦場に生まれた男の過去
 語らずとも、知る必要もない憂きもの

 過ぎたことは取り返せない、終わったことに求めるなかれ
 何もかも

 覚悟しないのなら、1つ飛ばせ
 この先は見ずとも良い物の語り





 To be continued・・・
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