〜最終決戦・二十四〜



 ああ、お前は確かに運命で俺に勝ったのだと


 ・・・・・・


 天才は実在する

 神から、もしくは天から与えられた才能

 天賦の才

 凡人は到底追いつけない、秀才は準ずるばかり

 
 その他が天才に勝ろうと努力を積み重ねている間に、天才はその上をいく
 その他の到達点が天才の出発点だから

 たとえその出発点に追いつけたとしても、それまでに要した時間は戻ってはこない

 いつか凡人が努力によって天才に勝った、と称して誇ろうとも
 周囲の誰もが認めようとも、その天才が賛辞を送ったとしても

 費やした時間は、努力したものはこぼしたまま
 したかったこと、してみたかったこと
 その遅れはどうにもならない
 
 凡人は天才に何か勝った、それを胸に抱いて死んでいく
 誇らしげに、満足げに、納得したように

 天才は凡人に何か負けた、それを胸に抱いて死んでいくだろうか
 それ以外のこと、その多くのことで自分の人生を自分のまま過ごして逝けることに充足してるのではないだろうか

 凡人は天才に勝る為に自分の人生を費やす、自分の為のようで自分のものではない
 天才は凡人に勝る為に自分の人生は費やさない、あくまで自分の為にある


 10年前から・・・10年費やした構想で作った発明品を、人を助けることに使う凡人
 今自分に出来ること、その発想で作った発明品で人を助けられる天才

 凡人は天才に追いつき、同じように人を助けられたのだと・・・・・・それを心の底から誇れるだろうか

 努力に費やした時間は無駄じゃない、そうだろう
 だけど、その努力する時間で凡人は凡人らしい人生を送れたのではないだろうか
 早々に天才に勝ることを諦めていれば、違う舞台に立っていると自覚していれば・・・・・・


 天才に与えられるのは才能だけではない
 むしろ才能よりも素晴らしいもの、取り返せないもの

 凡人その他よりも、多くの時間を・・・・・・限られた人生に使える自由を与えられているのだ


 残酷な現実


 ・・・

 これは神による視点

 あくまでも視点であり、比喩である

 それを名乗り、1人の視点も借りて、わかりやすく見せるだけである

 わかりにくいかもしれない、その1人はどこまで知っているのか混同するかもしれない


 そのすべてを語るわけではないが、ただあったことだけを語るに留める

 ここに書かれることは真実ではあるが、全てを含んだ現実ではない

 一方は語られるがもう一方が片手落ち、そのまた逆もしかり

 思い入れや思考の差、現実とはズレが出るかもしれない

 ただ、ここにあった台詞も事象もはすべてあったことなのだと・・・それだけである


 ・・・


 「くそー、またはじかれた」

 目の前にいるポケモンに、ボールを投げた男の子がしょぼんとする

 「よーし、今度は私の番だ」

 その子の後ろから、大人の男性が腕を回しながらずいっと前に出てくる
 エアームドの足元に転がる複数のボールを見て、子供達が不安げな表情でその大人を見た

 「そのエアームド、ほんとにつかまえられるの?」

 「見てろ、おりゃっ」

 子供達のなかにいる女の子がそう声をかける
 男性は更に腕を振り回し、その勢いのまま渾身の力で投げたボールは一直線にエアームドに向かい・・・・・・それだけだった
 かきんといい音を立てて、ボールははじかれてしまった

 「・・・ああ、だめだぁ」

 「失敗か。こりゃあの子呼んで来ないと駄目だな」

 大人は頭をかき、目の前のエアームドの対処に困り顔だ
 このエアームド、野生なのだが最近街に頻繁にやって来ては悪さを繰り返したので住人で追いかけていたりした
 今日の今、街のはずれで見つけたので・・・

 「そうだよ、やっぱりあいつがいないとさー」

 「むーちゃんのくろいまなざしもおしえてくれたんだよ!」

 男性は腕を組み、考え込むように唸った

 今度エアームドが現れたら、ムチュールのむーちゃんの、くろいまなざしを使うといい
 大人も知らなかった、そんなテクニックを教えてくれたのは男性の周りにいる子供達と同い年の・・・子供だった

 「・・・すまんが、あの子の家に行って」

 「だめだよ、ポケモンをつかまえるときは、もっとよわらせてからじゃないと」

 その声に皆が振り返る

 「こんなふーにね! いけ、イーブイ!」

 ボールからイーブイを出したその子供に、エアームドが警戒する
 
 「イーブイ、すなかけだ」

 エアームドの目の前に立つイーブイは尻尾を向けたかと思うと、その後ろ足で思い切りエアームドにすなをかけてやった
 目に砂が入り、エアームドは嫌そうに首を振った

 「はやい、あのエアームドがひるんだぞ!」

 「でもたいりょくはへってない。ぼくのイーブイじゃ、あのエアームドにダメージはあたえられないから」

 「それじゃどうするの?」

 女の子がその子に聞くと、彼はにこっと笑った

 「きみのアチャモをつかおう。ほのおタイプのこうげきは、はがねタイプにはよくきくからね」

 そう言われるがままに女の子は自分のボールからアチャモを出す
 すなかけを受けて気が立っているエアームドがひと鳴きすると、女の子はビクンとおびえた
 
 「だいじょーぶ。ぼくがしじするからね」

 「で、でも、わたしのアチャモよわいよ。あんなこわいポケモンとたたかったらけがしちゃう」

 「きみがしじして。アチャモ、ひのこだって」

 「・・・・・・」

 女の子は、彼に言われるがままに・・・アチャモに攻撃させた
 まだか弱いアチャモのひのこ、射程距離が短いのでトテテテテテとかわいらしい足音を立てながらエアームドに突っ込んでいく
 
 向かってくる敵に反応したのかエアームドの周囲が、ざくざくっと斬れた
 恐らくエアーカッターだ、男性も子供達もびっくりしているが彼はにこにこしている

「イーブイのすなかけでめいちゅうりつはさがってるし、あんまりあたるようなわざでもないからだいじょーぶだよ」

 確かに彼の言う通り、その技はアチャモに一度も当たらなかった
 そしてアチャモの射程距離に入ったエアームド、ひのこが炸裂する

 「やった!」

 「こーしてよわらせてから、ぼーるをなげる」

 彼はエアームドにボールを投げた
 あれだけはじかれ、苦戦していたエアームドはあっさりとそのなかに収まってしまった

 「すごい!」

 「うぅん、まいったな」

 エアームドの入ったボールを拾う彼を取り囲む街の子供達、うなる大人

 「もどれ、アチャモ」

 女の子は頑張ったアチャモをボールに戻し、その輪に駆け寄った
 彼は彼女の姿を見て、ありがとうと微笑んだ





 彼は天才だった

 彼は都会からはずれ気味で、刺激も少ない、それほど大きくない町に生まれた

 環境が才能を伸ばすというなら、彼の才能はそんなものに頼らないほどのものだった
 否、彼自身がそれ相応の環境を整えてしまったのかもしれない

 それでいて朗らかで、ちょっとガキ大将が入っていて、皆から好かれる良い子
 同世代の中心で、大人からも信頼される、話していても気持ちの良い子だ

 
 彼の天才の分野、それはポケモンバトルだった

 まるで物事の先、起点がわかるかのような指示
 対する相手の攻撃や防御を寸前で止め、どんな巨体でも鮮やかに倒してみせた

 大人顔負けのポケモンバトルの実力に、同世代の誰もが彼を尊敬した

 彼はポケモンバトルを教わったことがない
 むしろ大人側が、彼にポケモンバトルを教えてもらう方だった
 親からパートナーポケモンを与えられ、毎日触れあうことでポケモンを理解していったのだろう

 ポケモンと共に町や野を駆け、呼吸も世界も共有した
 

 彼は不変だった

 彼が天才である、という一点において不変だった

 彼の住む町の方は変化した
 有名なチェーン店が入ったり、新しい集合住宅が出来あがったり

 彼自身の噂を聞きつけ、隣町から勝負を申し込む子供も現れ出した
 これまで、彼は同じ町の住人としかポケモンバトルをしてこなかったから嬉しかった

 寂れ気味の町、10歳にも満たない子供がポケモンバトルの天才という噂が流れても微笑ましい親ばか話にしか受け取られない
 ただ同世代の子供なら、それをそのまま受け止めて勝負してみたいと思うのはごく自然の流れだ
 だが野性ポケモンがいきなり飛び出してくる草むらのある道路を通って、町から町へ移動するのは親の許可やそれなりの歳でなければならないこともある


 歳を重ねて、彼の世界は拡がった

 そして、それは彼の天才を知らしめ不変不動のものへと裏付けることとなる


 誰も彼にかなわなかったからだ

 
 小さな町が誇れる、天才ポケモントレーナー
 将来はチャンピオンにだってなれる、と彼の周囲の期待と夢が膨らんでいく

 彼の胸中は、誰も知らない
 天才の考えること、感じることなんて凡人その他にはわからない
 同じ世界のものを見ていても、何かが違うんだろうと思う
 何しろ次元が違うのだから



 そして彼が天才であることに変わりはないまま、それでも転機は訪れた


 きっかけは、子供の喧嘩だった
 彼に負けた、別の町から来た子供が彼にくってかかったのだ

 「おまえのポケモンおかしーぞ!」

 胸ぐらをつかまれてもなお、彼は動じなかった
 何も彼に恥じることはなく、これまで通り自然に出来ることをしただけだった


 「なんで、お前のポケモンはそんな風に動けるんだよ!? おかしーだろ、俺のポケモンの方がずっとずっと速いのに」

 「・・・」

 「どうして、お前のイーブイのとっしんが俺のテッカニンより先に攻撃出来たんだよ!!」
 

 彼の天才は、小さな町に留まることのないレベルだった
 どんなに世界が拡がろうと、何の差し障ることなく不動不変のものだった

 拡がった世界でされたことは、天才である彼がおかしいと指摘された
 それだけだった

 天才には出来ることが凡人には出来なかった
 そう片付けられるくらいの、言いがかり


 ・・・・・・時として、天才は受け入れられない

 違ったものを排除する、生物としての本能
 同じものに思えない、嫌悪感や嫉妬
 
 有無を言わせないほど、愕然とする程の天才もなかにはいる
 彼も充分その範疇に入れただろう

 時代、時期が悪かった

 後世になってその真価を認められた天才の例は多い
 過去現在未来、どの時代でも通用する天才もいる

 彼のポケモンバトルに関する才能は、どの時代でも通用する
 だが、時期が悪かった

 時期が悪ければ、天才も糾弾され、処刑される
 大多数という数の暴力、暴論によって

 彼もその類に入った


 大人も子供も、拡がった世界でポケモンバトルをより詳しく知っていった
 今まではそれほど必要にかられず、なあなあで通じてきた
 けれども通信が発達し、手に入れられる情報が増え・・・・・・彼の天才が更に浮き彫りになっていく

 彼の天才を、異質・・・異常ととらわれ出した


 天才には出来て、凡人には出来ない
 たった、それだけのこと

 それがこの世で、彼1人にしか出来ないというだけであって


 彼は卑怯なことは何もしていない
 彼は自分に出来ることを、最善を尽くしただけだ

 それがポケモンバトルにおける礼義である、と信じていたからだ
 誤魔化すことは出来る、しかしそれは失礼である・・・・・・

 気持ちの良い子だ、とてもいい子だ
 彼の思うところを理解すれば、それはわかることだった

 いつしか彼は、気持ちの悪い子になっていた
 ポケモンバトルでずるをする悪い子に思われだした

 対人戦で戦闘用アイテムをこっそり使っているのかもしれない、卑怯者だね
 何か特別な方法でずるしてるのかもしれない、きっとそうだよ
 私達凡人には思いつかない、そんな方法があるに違いない

 イカサマは、イカサマであるとばれなければイカサマではないのだから
 
 それを子供の頃からずっと続けていた、皆を騙していた


 彼の両親は、彼の救いにはならなかった
 良くも悪くも普通の人で、凡人で、彼の味方にはなれなかった

 出る杭は打たれるものだと、それがまして納得のいかないものならばなおのこと・・・





 「面倒臭い」


 彼はつぶやいた

 ポケモンバトルが大好きだった
 皆も、この町も大好きだった

 今は、何もかも面倒臭い

 彼が天才であることは不変不動、揺るがない
 それ故に彼を縛る、周囲から離れさせる

 天才には凡人よりも多くの自由と選択肢がある
 彼は、最高にして最低の選択肢を自ら選んだ

 『何もしない』

 天才であることを利用せず、活用させず

 凡人よりも多く与えられる時間を、無為に過ごす
 それでも彼に追いつけるものはいない

 天から与えられたものを腐らせる

 与えられなかったものが最も羨ましがり、苛立たせる行為

 それでも彼が選んだこと、天才である彼は確かに自分の人生を自分のものとしていた
 凡人その他の誰よりも、何よりも


 面倒臭い、それで片付いた





 ・・・


 彼に再び転機が訪れる


 その人は、否・・・あの人は彼の元に現れた

 天気は雨、場所は彼のお気に入りの土手
 傘も差さず、雨にうたれながら座りこんでいた彼の目の前にあの人は現れた


 この世界に不満を見せるわけでもなく、かといって口癖のように諦めや絶望しているわけでもなく
 彼の表情は、その胸中を理解するに足るものは今もいなかった

 あの人は座り、見上げる彼へ手を差し出した
 余計な言葉、飾ったものは何ひとつない
 
 「―――来ないか?」

 その一言

 そして、彼はあの人の求めに応える

 あの人の手をつかむ前に、彼はあの人に言った
 微笑むように、何の気もなく言った



 「リサも連れて行っていい?」

 あの人は笑った
 雨足は一層激しくなり、彼もあの人の表情も見えないくらい
 そう、雨で溺れてしまいそうなくらい

 「君は優しい子だね」

 彼の幼馴染の名前を聞いても、あの人は動じなかった
 それからという接続詞は聞こえないくらい小さく、けれども続く言葉ははっきりと・・・あの人はつぶやいた



 「ひどく残酷だ」

 彼はあの人の手を取った
 
 
 そして、シナリオの流れに乗せられていく


 ・・・


 「私は勝ちたい・・・」

 勝たなければ、ディックの傍にはいられない
 
 凡人その他である自分が、どうしてディックに選ばれたのかがわからない
 ただの幼馴染、それ以上でもそれ以下でもない自分
 周囲に流され、出る杭として疎遠になったこともある自分

 連れてこられた世界は別世界だった

 ひしめく天才、秀才達
 そんなかに1人置いていかれないように、ディックだけがリサの拠り所だった


 これは天才が与えた罰なのだろうか
 
 町に戻る選択肢もあった
 けれども、戻る気にはなれなかった

 天才、秀才がひしめく別世界は素晴らしかった
 皆が優しかった、厳しいなかに垣間見える溢れる人間性と個性
 出る杭を打たない、むしろ共に引き出してくれるような感覚

 憧れた、もしかしたら自分もなれるかもしれないという淡い希望さえ抱いてしまう程に

 この世界に留まっていたい、それ故に努力した
 一度知ってしまったから、いつまでも浸っていたかった

 うちひしがれるだろう、そうわかっていながらも

 何よりも、誰よりも、凡人その他そのものであるのだから



 ずるをして、遅く目覚めたトレーナー能力
 『自分の持つ草タイプへの攻撃相性無効』、それだけだった
 手持ちの、アチャモに何の関連性もなかった

 宗旨替え・・・草タイプ、それも耐久型に特化すればそれなりにいいかもしれなかった

 けれども、それでは駄目だった

 だから、あがいた

 シロガネやまにこもり、サバイバル生活を過ごし、自らを鍛えた
 ポケモンの攻撃をまともに受けて、意識を失うこともあった
 薄皮のようなもので傷口を隠してはいるが、本当の身体は無数の傷だらけだ
 とてもじゃないが、乙女のものではない
 腐女子のメグミは女性の性癖としてはあんなのだけれど、彼女はこんな傷ものではない
 
 羨ましかった

 傷を重ね、経験を重ね、過剰なまでに自己を奮い立たせた
 醜い執念と汚い意地で、可能性にすがりついた

 ポケモンバトル以外にも、茶道をはじめとする礼儀作法を学んだ
 事務仕事、取れる資格など高めるという行為に勤しんだ

 手足を常に動かして、やっとその別世界に留まっていられる
 何よりそうしていることでそう実感出来た、自分を褒められた


 そして、今の地位がある

 奇跡のようなアンバランスさで、私はここまで上り詰めた
 最強の発動型と称されるまで、四大幹部の1人として


 決して、ディックの幼馴染だからという評価ではなく・・・・・・そのはずだ


 だけど、まだなのだ
 まだ、ディック・ジーク達に置いてかれている

 まだ同じ世界が見えていない

 同じ世界に立っていない

 アウィルの暴走の真実も、ディックとジークとの会話に混ざることさえ出来なかった
 あの疎外感、今でも立ち位置が違うものとはっきりわかる


 勝ち続けなければならない
 どこまでも、どこまでも、どこまでも、勝ち続けるのだ


 夢を見なければ良かった、諦めれば楽だった


 『夢を見るな、凡人その他
  出来ないことを出来るようにするのはいい、だけど望みすぎるな

  お前が今出来ないことでも、他に・・・上にいる誰かは出来る
  お前が今出来なくても、それはそれで世界は回る


  けれども諦めきれないのなら、振り払いきれないのなら
  捨てろ、全ての一切を

  天才に勝つ負けるでもなく、ただ上に行け
  上だけを向いて、そのまま死んでいけ

  どうせ、そんな自分より上がいるんだから

  何も求めるな、何も見るな、何も振り返るな』


 ・・・そんな声が、いつだって聞こえた
 

 これは罰なのだろうか

 残酷で、甘美で
 身の程を知らない、わきまえなかった凡人その他に対する

 無理やり連れて来て、素晴らしいものを教えて、

 何を恨めばいいのかわからない
 どうしたら良かったのか


 今はもう、ふっきれた
 
 立ち位置とか、そんなことでは悩まない
 ひたすら、ついていくだけだ
 充足感と虚しさが常に同居する、今現在の為に勝ち続ける

 そうすることであの人のシナリオのなかに留まり続ける
 
 何故?

 最終決戦で選別されるかもしれない、そう思ったから
 だから負けられない

 あの人の為でもなく、シナリオの為でもなく、鍛錬の為でもなく、組織の為でもなく、ディックの為でもなく、幹部達の為でもなく
 ましてや自分の為になるとも思えない

 ひたすら上に留まる為に上だけを目指して行く自分に、道を踏み外した・間違えたという言葉は合わない気がする

 勝ち続ける、それだけでいい
 いいのだ





 ・・・・・・


 「フライゴン!」

 「ルーすけ!」

 イエローのボーマンダとリサのフライゴンが激突する
 激しくぶつかり合い、その衝撃で双方がふらつく

 呼吸の乱れ、疲労が出てきた
 いつ、どちらのポケモンが落ちてもおかしくない

 一方でトレーナーは、明らかにイエローの方が消耗していた
 リサはまだ余裕があるように見える、体格や年齢的な開きが若干影響しているのかもしれない
 こまめにボーマンダの回復を行っているのもあるだろう、それでもリサの方が優位に立っている

 向こうのドラゴンタイプの技は弱点で2倍ダメージ、けれどもイエローからのドラゴンタイプの技は等倍ダメージ
 この差は大きい、四大幹部の名は伊達ではない

 このままでは負ける
 イエローはそう直感した

 このポケモンバトルは変則的な3VS3
 サカキは1体でいいと言い、ボーマンダとあと1体だけイエローは使える
 次の1体・・・・・・それは別にルーすけがきぜつしなくても出せるのだ

 マグマの熱気にもあてられている、イエローはぐいっと右腕で汗をぬぐった
 
 3体目で一気に決める、このキューブでは使うのに不安はあるが・・・やってみるしかない


 「ルーすけ、飛んで!」

 イエローの指示でボーマンダはその翼で更に上昇し始める、リサもそれを見てその後を追う
 
 この行動に特に意味はない
 しいて言うなら、一旦ルーすけをボールに戻すわけだから、イエローは落下する
 不手際や万一のことを考えて、ちょっとでも滞空時間を長くしたかっただけだ


 「戻れ、ルーすけ!」

 「!」

 イエローがルーすけをボールに戻し、重力が仕事をし、自由落下が始まる
 その行動にリサが反応するのと、真っ逆さまに落下してきたイエローとその視線が合致したところで・・・イエローは3体目を出した

 
 開閉スイッチが押され、ボールが開いて生まれる隙間から美しい光が漏れだした
 それはボール開閉に出るものなのか、なかのポケモンによるものなのか
 どちらなのかは、すぐにわかった


 「フリーザー!」

 氷のような輝き、涼やかで優雅な青い翼
 穏やかで、流れるようで冷たく澄んだ瞳

 伝説のポケモンが1体、氷鳥フリーザー

 災厄の能力者が捕獲し、シルバーの手を介して、イエローの元に来た

 かつてレッドとも接触し、その素質を見取ったこともあった


 リサは目を奪われた
 フリーザーの輝き、そしてイエローの持つ輝きに・・・目を閉じた
 
 間を入れず放たれるふぶき、4倍ダメージではないが蓄積されていたダメージでフライゴンをひんしに追い込むには充分な威力がある
 

 リサは、フライゴンをボールに戻した

 イエローは思わずふぶきを止めてしまい、フリーザーも意を汲んでそれに従った
 悪く言えばフライゴンが盾になるだろう、そう思っていたから
 
 リサは狙ってやった
 彼女の心優しい性格から、技を途中でも止めさせるだろうと踏んだから

 盾がなくなったおかげで自分が凍りついてしまいそうだったが、このキューブの熱気もあって大して酷いことにはならないとも予測していた
 関節や頬、髪が凍ってぴしぴしいわせながらも3体目のポケモンの入ったボールに手を伸ばす
 
 
 「来なさい、サンダー」


 リサの出した3体目に、イエローの目は見開かれる

 レッド達の目の前で、漁夫の利のように捕まえられてしまったポケモン
 伝説の電鳥サンダー

 タイプ相性的にも最悪だ

 リサはサンダーの背に乗り、再び上空へと舞い戻る


 「・・・そういえばあなたも天才、その内に入るんでしょうね」

 イエローとフリーザーを見て、リサはつぶやく
 彼女には聞こえない、唇でというよりその殆どは心のなかでだった


 自分の戦いを終え、サカキはキューブの空を見上げていた

 リサのサンダーとイエローのフリーザー

 どちらも、一度はR団の手中に収めたことのあるポケモンだ
 その実力や性能は解析済み、理解している

 控えにいる2体目は、互いの3体目にタイプ相性的に非常に弱い
 そして同じカントー、伝説のポケモンを持ち使うことで土俵は整った

 差を分かつのは能力者自身、か

 「(この3体目同士の決着で、このキューブの勝敗は決まる)」

 回復能力か、タイプ相性無効化か
 そして、どちらが伝説のポケモンの力をより引き出せるか


 「・・・・・・」

 「・・・・・・」


 
 
 
 To be continued・・・
続きを読む

戻る