〜最終決戦・二十六〜
「レッド、君を倒すよ」
・・・・・・
そこに連なるのは太く、高い氷の塊だった
そびえるように、塔のように立っていた
灼けた大地も凍てつき、赤熱の輝きも失われている
夢でも幻でもない、触れれば感じることの出来る現実だ
「・・・・・・」
・・・
リサのサンダーが、その全身を震わせる
くちばしの先から尾の端まで雷が漲り、迸った
翼から雷の束が幾重にも空へはしり、地面に雨のように降り注ぐ
まさに力の権化、属性さえ抗わせない最強の力
爆音と閃光がキューブのなかに轟き、身体の内外を叩き弾かんとする
そして、彼女のフリーザーはそれを包み込んだ
雷を形あるもののように、そのものの形を取るように
諌めるように、抑えるように、留めるように
氷のなかに閉じ込められた雷が放電され、消える
水晶のような氷、内部から金色に乱反射して輝く雷
その時までそのキューブのなかは、まるでファンタジー世界のような幻想的な光景であった
「・・・束ねる力か」
彼女の持つフリーザーの、元の持ち主は災厄の能力者
破壊に等しい全体氷結といったものになるかと思いきや、随分と違った
随分と、優しいことだ
「それで、どうしてあなたはここから出ていかないのかしら」
氷柱の間を歩くサカキに、リサが聞いた
それを横目に、しかし軽く無視をする
敗者に興味はない、とそう言わんばかりに
「・・・・・・お前は侵入者に敗北し、このキューブの主ではなくなった」
「そうね」
つぶやくように、リサは答える
サンダーがフリーザーに敗れ、勝敗は決した
その戦闘は例えるなら閃光弾や炸裂弾
一瞬の内に強い光と音が放たれて、その場にたなびきつつ消えた
雷のように見えない過程、後に残ったのは氷の結果
力が足りなかったのか、才が及ばなかったのか
勝者は驕らず、敗者も語らなかった
四大幹部の一角が落ちたのだ
「主のいなくなったここは、俺が貰う」
「・・・何の為に?」
サカキが出ていかないことに、少なからず疑問が残る
戦闘用キューブを調べたところで、組織の中枢に関する情報を得られるなんてことはない
「答える気はない」
つれないサカキにリサは口を閉じた
先程まで熱気に包まれていたキューブなのに、肌寒さが勝る
リサは踵を返し、サカキに背を向け歩いていく
どこへ行く、とも聞かない
しかしリサは独り言を、勝者の片割れにささやいた
「・・・先に進んだ彼女が、すぐに玄武の元へ行けるとは限らないわ。
ディック、ジークが負けなければ、そのキューブへは行けない」
ロックがかかっている
それまでは、これまでと同様にランダムでワープされてしまうのだ
四大幹部や四高将との戦闘後、消耗した気力体力では幹部候補に返り討ちされてもおかしくない
わかっていただろう、それでもイエローは先に進んだ
眠そうな目をこすり、解放されたグリーンと共に、次のキューブへと進んだ
「助かった。感謝する」
リサに負けたグリーンが、イエローをねぎらって礼を言う
かつてキャタピー1体も捕まえられなかった彼女、教えた方も思うところがあったろう
だがトキワジムの若き後継者は、もう1人の功労者である先代とは顔を合せなかった
ただ「もう1人の協力者も、感謝する」と素気ないものだった
「いいんですか?」というイエローに、グリーンは「何がだ」と言うので話はそこで終わってしまった
温度差で生まれた霧と、幾重もの氷柱が重なってグリーン達とサカキの立ち姿が歪む
過去と現在の2人の、この邂逅が未来へどう反映されていくのか
「――――」
リサはキューブを仰ぎ、何かつぶやいた
・・・・・・
「メガぴょん、のしかかり!」
オーキド博士のガルーラに、クリスのメガぴょんの技が決まる
全体重を乗せ、起き上がれないように四肢を使って必死で押さえこむ
「ガルっち!」
オーキド博士が活を入れるように、力強く呼びかける
押さえこまれ、動けないガルーラだが目は死んでいない
力を振り絞ろうとうなり声をあげるが、やがてあがいていた腕が地面に落ちた
そして、オーキド博士は目をつむって腰を押さえて天井を見上げた
クリスの方へ視線をまた移すその表情は、全てを出しきったとわかる穏やかなものだった
「強く・・・なったのぅ、クリス」
「か、った・・・・・・」
メガぴょんがよろよろと足をふらつかせながら、ガルーラの傍を離れる
自分のポケモンが気絶してしまったシルバーはクリスの横で、その健闘を見ていた
「・・・って」
クリスがオーキド博士のことを見つめる
さっき、彼女の名前を言った?
いや名前ならバトル中で何度もシルバーが言っていたから、いやそうじゃない
その言葉の端に、クリスの知るオーキド博士を感じ取ったのだ
「・・・元に戻った、んですか?」
ゆっくりと、自分の言葉をも確かめるように彼女が聞く
オーキド博士は頭をかき、少し申し訳なさそうな表情を見せた
「実はのぅ、バトルの途中から、まぁ正気には戻っておったんじゃよ。
じゃが、クリスやシルバーとポケモンバトルをしてるのが楽しくて、最後までやりたかったんじゃ」
「・・・」
クリスがナナミとウツギ博士を見ると、その2人もオーキド博士と同じような表情をしていた
同じ気持ちで、同じようにこのポケモンバトルを続けていたかったらしい
「クリスちゃん、シルバーくんの私達やポケモンバトルに対する真摯な心が、伝わったのよ」
その人の根幹までは変わらない
変わらないからこそ根幹なのだ
クリスとシルバーの心に・根幹に触れ、オーキド博士達の根幹が惹かれたのだろう
ポケモンバトルを通して語り合った
「・・・まったく、とんだ茶番だ」
シルバーが呆れたような声を出し、オーキド博士達の横を素通りしてポケモンの回復マシンに手持ちポケモンを乗せた
その物言いにクリスが何か、口を開こうとするとウツギ博士が眼鏡をかけ直しながら言った
「シルバーくん、オーダイル、強く優しく育ったね」
「――」
「僕は研究者であって、トレーナーじゃなかった。今でもオーキド博士やナナミさんに比べたらにわかもいいとこだ。
けど、今ならわかる。いやもう誰にでもわかるくらい、きみときみのポケモン達は素敵だって」
盗まれたワニノコ、勝手に連れていかれたヒノアラシ、気づいたら手元から去っていたチコリータ
とっても不安になるようなお別れ、託し方だった
けれどもいうならば運命、三者三様の在り方があって、そして間違っていなかった
「助けに来てくれて、ああ、色々ありがとう。これからも、オーダイルのこと宜しくお願いします」
ウツギの言葉に何も返さず、回復が終わったようでシルバーはさっさと腰にボールをつけ直す
無言で、次のキューブへと跳ぼうとする
クリスが止めようとするが、足が止まり、わずかに振り向いて頭を下げた
無愛想なシルバーに彼女は息をつき、オーキド博士達と顔を見合わせる
困ったような表情から、ふっと真顔になった
オーキド博士はクリス、ワープ装置に乗る姿を順に見る
「・・・クリス、能力者になったんじゃな」
「はい」
「そうか。・・・・・・そうか・・・」
オーキド博士は空を仰ぎ、何かつぶやく
ナナミもウツギ博士も、その意味をつかみ損ねていた
そして、改めてクリスと向き合った
「ワシが、知る限りのことを教えよう。いや、それは長くなる。
手短に、この組織のことで、今一番重要になることだけを教えよう」
「!!? 博士は、博士は知っているんですかこの組織のことを」
「うむ、知っておる。ああ、恐らくは・・・この組織の中心人物いやリーダーのことも」
その言葉に、クリスの鼓動が速くなる
オーキド博士はひとつ息を吐き、それから言葉にする
「この戦いを終わらせる。その為に、おぬし達がこれまで見てきた組織のことも教えてほしい」
「はい」
・・・・・・
シルバーが見た光景は、氷柱の世界
ただの氷ではない、透き通った水晶のようで黒い地面を覆っているがわかる
「ここは・・・・・・」
キューブの主を探し、辺りを見回す
氷柱で探しにくい、これがこのキューブを乗り切る為の鍵か
「・・・ククク、思いのほか早かったな」
声が聞こえた
シルバーは何か、どこか不思議な感覚に一瞬とらわれる
だが、それも臨戦態勢に入ってしまいかき消された
「問答は、無用」
キューブの主がニドクインを出すと、シルバーもまたニューラを出した
氷柱を挟みながら、互いの間合いを詰めていく
――さあ語り合おう
・・・・・・
次にディックのブラッキーを見た時、まひ状態が回復していた
否、万全の状態にあった
「・・・」
レッドの応戦も間に合わず、本来の時間差に敗れてフッシーはきぜつした
ディックが回復アイテムを使う素振りはなかった
過程がわからないまま理不尽な結果を示されるが、それでも目の前の現実は確かに正しい
思い当たるものはあるが、それは当たって欲しくない理不尽さだ
「・・・・・・まいったな」
残る手持ちはピカ1体だけ、それもひんしに近い
トレーナー能力でも、負けん気でも、付き合いの深さでも負ける気はしない
それでも体力や疲労度の差が、この勝負の決着をもたらすだろうとわかった
何しろ向こうは『ねむる』で体力を回復し、眠っている2ターンを自らの速度のなかで終わらせたのだから
推測だが、それで合っているはずだ
フッシーが攻めるチャンスはあった、だが向こうに機先を制されてそれを逃した
手痛いミスだった
降参は出来ない
打つ手はない
それでもレッドは微笑んでいた
仲間を、友達を信じているから
諦めることをしない、諦めない
「ピカ、頼む」
レッドはピカを出し、頭を撫でる
目を細め、そして身体を奮い立たせる
小さな体にいっぱいの電気を溜め込み、そしてはじけさせる
八舞の軌道は3種類ある
衝撃波が外側に向く右回転と内側に向く左回転、そして直線
威力や性能に差があり、状況に応じて使い分けることはもちろん可能だ
「ブラッキー」
ディックの呼び掛けに、ブラッキーが応える
体色の黄色が薄らと青みを増していく
最初から色違いではなかった、しかし体色の変化は本来あり得ないことだ
能力者のポケモンだからか、それとも体質なのか、それとも生態なのか
今更関係ない、驚き疲れるばかりだ
これが、最後の激突だ
勝敗は目に見えているけれども、実際に見えているわけじゃない
目に見えるものでもつかめないものはある
試さなければ始まらない
距離はある
だけどディックの前に距離なんて関係ない
だから迎え討つ
「ピカ、大恩の報」
「ブラッキー、八舞」
音が遅れて聞こえてきた
・・・・・・
ィー、ウィー、ウィー
「・・・っつ、もう起きなきゃ」
ブルーがゆっくりと顔を上げ、腕を支えに身体を起こしだす
辺りを警戒するように見回すが、何もない
倒したキューブの主がいなくなっていることぐらいだろうか
「・・・・・・みんな大丈夫かしら」
と、その時になってようやく妙な音がしていることに気づいた
甲高い警報音とは違う、何か振動アラームのような低い音だ
「何・・・?」
罠や時間制限、いやそういうものではなさそうだ
ブルーはきょろきょろと目と首を動かし、音の発生源を探した
「・・・」
そして、それを見つけた
・・・
「ほぅ」
草原キューブ
ジークが音に気づき、不敵に笑う
「おい、何の音だこれ!」
ゴールドが噛みつくように、開かない目とその表情がいかにも余裕あるすました顔になるジークに聞いた
「それを見るがいい」
ジークが指を差したそこにあるのは、
・・・
「!?」
グリーンが跳んだキューブ、その眼前には斬り崩された日本家屋があった
もはや原形をとどめておらず、更地も同然となっている
そこでポケモンと共に争う男が2人
まるで武器そのものが競り合っているような、剥き出しの魂との激突に見えた
斬撃音と反響音、時折突風のような風が土ぼこりを舞わせる
一手一手が決めごとのように噛み合い、洗練された舞いのような死闘だ
既に対戦相手がいるキューブに跳ばされたのは何故か、わからなかった
グリーンがどうするか見ていると、ふいに後ろから音が聞こえた
・・・
「これは・・・」
キューブの回復マシンの前に立つダイゴが、それに気づいた
「ついに・・・!」
・・・
「ええと、うーん」
イエローが跳ばされた先は見覚えのある音叉のあるキューブだった
そうだ、最初に跳ばされたレッドとタッグバトルをしたところだ
これは再戦しろ、ということなのだろうか
しかしキューブの主は見当たらない
既に戦える状態ではなく、撤退したと見るべきなのだろう
「次行っていいんですよね?」
とりあえず誰もいないが、誰かに聞くようにイエローが自問する
そしてすぐ後ろにあったワープ装置から、妙な音がしているのに気づいた
「?」
なんとなしにワープ装置に触れてみる
すると何かモニタのような立体映像が浮かびあがり、イエローはぴょんと小さく後ろに跳びはねた
「・・・なんだろ」
浮かび上がった立体映像に、何か文字が映し出された
「四大幹部、朱雀リサの火山キューブ」
侵入者イエロー・サカキ、勝利
捕虜グリーン、解放
「四大幹部、白虎ジークの草原キューブ」
侵入者ゴールド、敗北→但し運営続行不可
「四大幹部、青龍ディックの球体キューブ」
侵入者レッド、敗北→通行許可
▼玄武ルート解放
・・・
「負けたぁ・・・」
頑張ってくれたピカをボールに戻す
レッドが倒れてその場に寝ころび、ふーっと息をついた
あがいたけれど、勝てなかった
「・・・うん、レッドの負けだね」
ディックがだるそうに階段を降り、向かい側にいるレッドの傍に歩み寄ってくる
ブラッキーもボールに戻し、目の光も元に戻っているように見えた
「っと、俺捕虜になるんだっけ?」
レッドがあっさりとそう聞く
まるでそういうルールのごっこ遊びのように
「んー、そういうのは面倒臭いからいーよ」
「面倒臭いって・・・そっちが決めたルールじゃん」
むくりとレッドが起き上がり、ディックの目を見た
互いに動かず、しかしディックはあくびするのでまるで緊張感が漂わない
「通っていーよ」
「・・・はぁ?」
「このキューブを通っていいよ」
ディックは自らの首をかき、腰に手を当ててもう一度つぶやく
「おめでとう。玄武ルートが開放された」
面倒臭そうに、事務的な感じに言われ・・・レッドは固まった
どういう意味か、つかみそこねた
「俺、負けたよな?」
「嬉しくないの?」
あー、と面倒そうな表情を見せるディックにレッドはまだ戸惑う
レッドは負けたが、他の皆が四大幹部を倒したとかそういうのだろうか
「先に進みなよ、いーから」
「あ、あぁ」
レッドはどうしたものか、立ち上がれずに少し考えている
ディックの真意が読めない
彼とのポケモンバトルを通して感じられたのは、狂気に似たもの
自分に似た根本的な何か、それでいて真逆の在り方
「・・・いいのか?」
レッドは正直に聞いた
ディックは面倒臭そうに、その場に座り込み、ごろんと背伸びするように横たわった
もはややる気も狂気も感じられない
「いーってば」
くあぁっとまた大きな欠伸をひとつ、そして天井を見上げた
「それが玄武の望みだから」
・・・・・・
「玄武ルート開放・・・これはそのままの意味か」
グリーンがワープ装置の上に立つ
画面上の勝敗からはにわかに信じられない話だが、跳び込んでみるしかない
グリーンの姿が、そのキューブから姿を消した
・・・・・・
「ここが、ラストステージ?」
最初に跳んできたらしいブルーが、目の前にある切り立った崖を見た
高さ20mあるかないかくらいで、ここは崖の下か
いや、よく見るとブルーの後ろや右手にも所々で高低差が激しい岩壁が見えた
どうやら三方を岩壁に囲まれた、実に侵入者に不利な地形であることがわかる
「随分な設定ね」
恐らく組織でも最も強い能力者が、こんなことをしていいのだろうか
岩壁もひびがあったり、ポケモンによる跳躍なら何とか上へ行けそうな低いところがあったりもする
どこに自分の陣地を置くか、逆に利用してやるかが勝負の鍵になるか
今のところキューブの主らしき能力者は見えない、ブルーはもう少し探索することにする
ざりっと地面を踏みしめたところで、ワープ装置が起動する
「!」
次に現れたのはダイゴだった
「・・・あなたか」
「どうやら復数人で戦えるキューブらしいね」
ダイゴが、先客のブルーの存在からそう察する
彼女も頷き、あごで周囲の地形を見るように促す
「なるほど、これじゃあすぐに敵は見つけられないね」
例えば崖の上で伏せていたり、隠れるようなことをしていたら見つけられないだろう
三方を囲まれた岩壁、その上がどうなっているのかもここからじゃ見えない
「ピッくんが反応を見せないから、まだ平気だと思うけど」
ブルーはボールのなかのピクシーを見た
数km先で落とした針の音さえ聞き分けられるポケモンだ、わずかな物音も聞き逃さないで教えてくれる
「ちょっと飛んで見てこようか」
「危険よ」
と、そこでグリーンがワープ装置から跳んできた
その後に続いて、すぐにイエローもやって来た
「あら」
「・・・無事だったようだな」
「ブルーさん! ダイゴさんも!」
イエローが嬉しそうに、ブルーに抱きつく
グリーンはクールに、周囲の地形を見て警戒を強めている
「敵は」
「今のところ見当たらない」
ダイゴがそう答え、グリーンはそうかとつぶやく
「妙だな」
キューブの主がいない、わけがない
それとも特殊なルールがあるのか
「(全員が揃うまで、姿を見せない気か・・・?)」
これまで対する組織の玄武と接触したことはない
姿も能力もまるで未知数
ボンッと音がしたかと思うと、ダイゴがヨルノズクをボールから出して宙に浮いていた
「とりあえず様」
ヨルノズクごとダイゴが吹き飛ばされ、後方の岩壁へと吹き飛ばされた
岩壁のひびにちょうど挟まるように、彼らは叩きつけられた
誰も目を離していなかったし、ピッくんも反応しなかった
何もかも唐突に、ダイゴの腹に遠目でもわかるくらいの・・・穴が開いたのだ
何も言わず、うめき声ももれず、ダイゴは動かなくなった
「・・・!!!?」
「ダイゴさっ」
「ダグたろう!」
叫び声と共に、グリーン達の前に土砂が噴き上がった
突然のそれに目を覆い、口のなかに泥が入って顔をしかめる
だが、その土砂の隙間から何か焦げるような臭いと光が漏れて見えた
「これは・・・!」
何者かからの攻撃、そして防御
ダグたろう、そのニックネームは
「ゴールド!」
「おうっ、だいじょぶかみんな!」
へへっと笑う彼が手をあげて、それに応える
グリーンとブルーの足元にいるのはダグトリオ、土中から土砂を巻き上げて防壁を作ったのだろう
「なんかやべぇと思ったんで、とっさにやらせてもらいましたッス」
「ああ、助かった」
まさか不意打ちとは卑怯、しかし侵入者排除の手段としては至極真っ当
グリーンが崖の上を見上げ、イエローはダイゴの挟まっている岩壁の方に駆け寄る
しかしブルーがいったん止める、そして一緒にじりじりと少しずつ移動するように耳打ちした
目つきを更に鋭く厳しくさせるグリーンの視線の先に、人影が見える
間違いなく、あれがキューブの主
最後の四大幹部
「ゴホゴホ」
小さくせき込み、グリーン達を眼前で見下ろす細い影
威圧感はない
「・・・」
既に3体のポケモンが、その影に寄り添っている
エレブー、ルージュラ、ブーバー
小さくか細く消え入る程の声で何かつぶやいたように、唇が動いた
「あれが・・・・・・玄武・・・!」
「いきなりトレーナーへ攻撃って・・・!」
後ずさるように、警戒しながらブルーとイエローが移動しながらつぶやく
合意も無しに始まるなんて、戦争でも卑怯だ
「・・・ポケモンを先に出したのはどっちですか」
ゴールドがそう言うことで、皆が理解した
戦争で言うならポケモンは武器、指示は操作
トレーナーにとって、ポケモンを出すことはポケモンバトルへの合意
そういうことなのか
遠く高いところにいる、あの人間の真意はわからない
「あいつ倒せば終わり、なんでしょ」
だが、敵なのは明白だ
「だといいが」
ゴールドとグリーンが玄武をにらみつけ、ダグトリオとリザードンに構えさせておく
まずは高いところから、引きずり落とそう
そんな2人を眼下に見下ろす玄武は動かない
本当に静かな男だった
・・・・・・
「オーキド博士・・・」
「ウム」
ワープ装置が伝える玄武ルートの開放
オーキド博士とクリスの情報交換はまだ終わっていない、しかし時間がない
「残念じゃがワシらは行けん。他に捕まっとる人達を助けに行かねばならんし、ワシらじゃ足手まといにしかならん」
「足手まといだなんて・・・」
クリスの言葉にオーキド博士は首を横に振る
正直なところ、体力の方が厳しいのだろう
「戦いがすぐに始まるとも限らんが、行きなさい」
オーキド博士が簡潔に話したものは、この戦いを止めるきっかけになるとは思えない
しかし、それで何かがたぐれるかもしれない
「はい・・・! 博士もお気をつけて」
「わかっておる」
クリスは駆け足で、ワープ装置の上に飛び乗った
シュンと軽い音を立て、そのキューブから彼女は姿を消した
「・・・・・・お前の言う通りになってしまったな、――」
オーキド博士のつぶやきは、呼吸と共にかき消された
To be continued・・・
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