〜最終決戦・二十七〜
「・・・・・・お前の言う通りになってしまったな、――」
・・・・・・
最後にして最強の敵、玄武
それは間違いない
崖の上にいるので遠目でしかわからないが、黒髪の男性だ
線の細い、たびたび小さく咳き込むなど見かけからは強さというものを感じ難い
しかし傍らにいるブーバー、エレブー、ルージュラからほとばしる圧倒的な存在感とプレッシャーはグリーン達を威圧する
「・・・・・・」
まずはあの敵のトレーナー能力をさぐろう、そう皆は考えた
目にもとまらぬ速い攻撃も、タネがわかれば防ぎようはあるかもしれない
ただ、だからといって相手の出方を待っていたら全滅してしまうだろう
つまり、ここは
「先手必勝だ、ダグたろう! あなをほる!」
ゴールドの指示でダグトリオが地中に潜り、その姿が見えなくなった
厄介な崖も距離も、地中を進めば危なげなく縮められる
更にあなをほるで崖の中腹内部で止まり、そこから自爆覚悟のじしんで崖を崩すのが狙いだった
「ルージュラ、れいとうビーム。ブーバー、かえんほうしゃ」
ゴールドの指示とほぼ同時、その2体が技を放つ
どちらも直線軌道の技だ、トレーナー狙いもしくはグリーンのハッサム狙いだろう
次に起きたのは、信じられないことだった
「!!?」
グリーン達の足元が、凍りついた
いや、玄武のいる崖とグリーン達がいる地面一帯がまるごと凍った
薄く張ったものだから、足ごと凍ったわけではないがかなり硬い氷だ
地中にいてわからないダグトリオは、ゴールドの意図通りに崖の内部でじしんを放つ
だが、氷に覆われた崖は形を保ったままだ
この状況になり、グリーンはリザードンを出す
そして炎で、自分やブルー達の氷を溶かした
足首まで熱くなり、顔をしかめるが皆お礼の言葉を述べる
「っつ、サンキュッス」
「・・・あれが奴の特能技か」
かえんほうしゃ、れいとうビーム、その本来の技とはかけ離れた効果を発揮した
どういう能力なのだろう、技の効果範囲を拡大させるというようなものだろうか
「エレブー、10まんボルト。ルージュラ、れいとうビーム」
その指示通りに2体のポケモンが技を放つ
そして、また変化が起きた
10まんボルトはルージュラに触れ、放つ前で手元で留まる冷気の塊が・・・・・・その形を保ったまま分離した
「ロケットパンチだっ?」
イエローがびっくりするように、そういったようなものだ
めがけてくるのはリザードン、グリーンのようだ
高速で飛んでくる冷気の塊に対し、リザードンに再びかえんほうしゃを指示して迎え撃つ
炎が氷にぶつかる前に、電気がバチバチッと炸裂する
かえんほうしゃはそれによって相殺されてしまい、冷気の塊は止まることなく彼に向かう
「ぷりり、トライアタック!」
ブルーの支援、だがその技でも止まらない
少し軌道が変わっただけで、傍にいたゴールドの足元が吹っ飛ばされる結果になってしまった
余波で周囲の地面が霜柱のように氷が隆起し、更にわずかながら電気までほとばしり、衝撃で彼が宙に浮く
「ピーすけ」
イエローのバタフリーが優しくゴールドを受け止め、事なきを得た
ブルーがごめん、と謝ると彼は気にすんなと答える
しかしタイプ一致の技でもっても、ただ軌道をそらすのが精一杯というのは・・・・・・
「どうやらレベル差は相当なものらしいな・・・」
玄武のトレーナー能力はわからないが、ポケモン自体のレベルはかなり高いようだ
皆は冷静をつとめて見せているがこれはやばい、分が悪すぎる
「とにかく、あいつをあの崖の上から引きずりおろしてやんよ」
やられっ放しは性に合わない、ゴールドに火がついたようだ
・・・
「玄武は強いよ〜」
他のキューブでは決戦の真っ只中だというのに、ごろごろしているディックがつぶやいた
確かに自分は勝ったし、玄武へのルートが開いた今、役目は終えたのかもしれないが・・・だらけすぎだろう
「そんなに強いのか?」
能力者というのは我が強い人が多い、自分が強いと信じる心が力を生む
勿論ディックの性格もあるだろうが、四大幹部というこの組織の頂点に立つ能力者がそう言うのだから・・・
「まずレベルが違うなぁ」
寝転んだままディックが銀色のポケモン図鑑を開き、一本指でそれを操作する
そうして、レッドに向けて最後のボタンを押した
何かデータを転送したらしい、レッドは自分のポケモン図鑑を開いて見る
そこにあったのは、文字データだった
「・・・これは」
ディック:ブラッキー Lv87
リサ:バシャーモ Lv85
ジーク:ジーク(スピアー)Lv90
それぞれのパートナーポケモン、そして手持ちのなかの最高Lvだろうか
この数値は相当高い、個人で持つレベルでは最高峰に近いはずだ
「レッド達のポケモンも高かったけど、ま〜平均して75前後。一番高くてもLv80前半って感じでしょ〜?」
とりあえずレッドも自分達のデータを、最初のワープ部屋までのデータを見てみることにする
そして、そのデータを律義にディックにも送信した
レッド:ピカ(ピカチュウ) Lv85
グリーン:リザードン Lv84
ブルー:カメックス Lv80
イエロー:ラッちゃん(ラッタ) Lv70
ゴールド:バクフーン Lv77
クリス:エビぴょん(エビワラー) Lv78
確かにディックの言う通りだった
仮面の男事件から、相当レベルが上がっているのもいる
能力者のポケモンは育ちやすい、そして高レベルのポケモンと戦えば貰える経験値も多くなるからだ
またポケモンのレベルは湯水と同じ、人間の筋力みたいなものだ
高レベルを維持するには、そのレベルと同等か近いレベルと戦わなければならない
ひとつの草むらで出てくる様々なポケモンのレベルが似たようなのは、そこに起因している
それに野生ポケモンでLv50を越えるものは殆どない、長く生きているか身体の作りが違う伝説のポケモンくらいだろう
実はレッド達のポケモンのなかには、仮面の男事件からレベルが下がったものもいる
だがこの旅と戦いのなかでそれを取り戻し、更に上を行った
1体だけを重点的に鍛えたわけでもなく、平均的に高レベルまで押し上げた
それはイコール挑んでくる者達が高レベルだったということ、いかに過酷な旅だったかがうかがえる
「玄武のポケモンは全部Lv90台だし」
「!」
10の壁というのがある
各Lvの9から、次の繰り上がりLvの0になるごとの壁だ
高レベルになればなるほど、その壁は厚く乗り越えるには苦労がある
そしてそこまでいくと落ちるのも更に早くなるとか、逆に維持するのが楽になるとか噂でしか聞けなくなる
Lv89とLv90の壁は相当なもののはずだ
そして、それを維持する為にはどれ程の修練が必要になるのか想像もつかない
今までで一番強かった四大幹部3人でも、ジーク1人だけが手持ち1体に絞ってようやく90台という世界だ
「そんなのが相手なのか・・・」
レッドはその気持ちが逸る、のんびりしていないで皆と合流するべきだとますます思う
それでも身体がまだつらい、そしてまだディックには聞けるなら聞いておきたいことがある
・・・
「ルージュラ、れいとうビーム。ブーバー、かえんほうしゃ」
玄武が先程と同じ指示をする
だが、グリーン達はとにかく警戒するしかなかった
技が重なり、濃霧が発生した
自分の手も見えなくなるくらいで、少しでも足を動かすと玄武や仲間のいる方向がわからなくなってしまいそうだった
「エレブー、10まんボルト。ルージュラ、れいとうビーム」
濃霧を切り裂く、幾重もの電撃のムチになってグリーンのリザードンを襲う
苦しそうに声をあげ、HPがガリガリと削れていくのがわかった
きぜつする前にグリーンはリザードンを戻し、再びハッサムに替える
「(どういうことだ・・・!?)」
玄武の特能技はひとつじゃないのか
いや、同じ技の組み合わせで別の効果をもたらした時もあった
だから、それから予測しての回避を狙えないから警戒するしかないのだ
それに同じ組み合わせであっても、威力や速度が微妙に異なることも・・・・・・避けるタイミングが合わせられない
「まさか」
ブルーが、何か思い当たったようにつぶやく
・・・
「玄武のトレーナー能力?」
「そうだ。教えてくれないか?」
レッドがにこやかに、爽やかに聞いた
敵方に、その大将の能力を教えてくれというのだから大胆にも程がある
それも聞いた相手は、これからその大将を討ちに行くところなのだから
「えー面倒臭い」
聞いた相手はこれである
守秘義務からはぐらかせたのか、ただ面倒だから答えたくないのか
おそらく後者だろう
トレーナー能力を、他人に教えることはメリットもデメリットもある
能力の弱点や対応範囲をばらせば、その対策を練られて勝率は下がってしまう
逆にジークのように対処不可能な、自分の強さを知らしめるだけのものもある
もしもディックの答えが答えるのが面倒なのだとしたら、それにも二通りある
話すことが面倒、もしくは教えても対処が出来ないから意味がない・・・そう言っている可能性もある
「いいじゃん。そのくらい。ボーナスボーナス」
「ボーナスなら、俺に負けたけどー玄武ルート開けてあげたからなーし」
レッドはゲームにある、そんなようなことで引き出そうとする
それに対してディックはだるそうに間延びしながら、そんな言葉を返す
「う」
そう言われるとその通りだ
流石に諦めるか、と思い出すとレッドの背後からシュンという音がした
「・・・ディック、様」
振り返ると藍色の長髪、凛とした雰囲気のある美女だった
何故かびしょ濡れで、苦しそうにしている表情と相まって妙な色気がある
・・・そうその雰囲気こそ違うが、その姿に既視感があったのでレッドは驚いた
「・・・キミはクレア・・・?」
「あれ、タツミ、どしたの?」
ディックの軽い言葉に、クレアは頭を下げた
「申し訳ありません。敗北、しました」
レッドの存在を無視し、彼女は跪いて深く頭を下げた
その濡れた身体は震え、無念にうちひしがれ、真に謝っているのがわかる
「いーよー、別に」
その言葉は、あまりにも軽すぎた
部下をねぎらうわけでもなく、ただただ興味がないといったものだった
まるで心がない、そのことにレッドは少し憤りを感じる程だった
「・・・」
その言葉を受け止め、それでもなお彼女は動かない
レッドは、先程の戦いと合わせてディックへの理解を更に深めた
あること以外、彼の興味も心もない
自分がそこに触れ、関わることすら面倒臭いのだ
とりあえずあることに必要だから、おざなりに構うだけ
報われない、それでもついてくるのだろう
無情な上司に跪く彼女には、その彼への深い感情を感じずにはいられない
そこまで彼のなかを占めるもの、それはもうわかっている
『シナリオ』
その言葉からわかるのは、この決戦すらも誰かが描いた予定調和であるかもしれない空恐ろしさ
そして、その誰かこそが・・・・・・褒められたい、ディックの心酔する何者かだろう
「・・・クレア? タツ、ミ?」
レッドが彼女に声をかける
どちらなのかわからないから、その声かけも疑問形だ
だが、彼女は動かないし答えない
当然だろう、だけど声をかけずにはいられなかったのだ
「・・・・・・あー、じゃー、代わりにレッドの相手でもしてよタツミ」
適当に、思いついたみたいなようにディックは言う
彼女の方を見ず、どうでもよさそうな態度は不動のままだ
その言葉で、彼女は立ち上がってレッドの方を見た
「私に何を望む? 戦いか、それとも」
「あ、ああいやちょっと話を聞かせてほしいなみたいな」
まだ震えている身体をおして、毅然とした態度を取ろうと努める彼女にレッドは戸惑う
ディックの部下として、恥ずかしくない、誇るべき部下に見せようとしているのか
どこまでも忠臣である彼女とあまりにディックは対照的で、1人の為にあるという点では似ていた
「話?」
「ああ、お前達の組織のこととか・・・玄武の能力とか」
守秘義務とかあんのかな、と聞くレッドを彼女はじっと睨むように見つめている
それから口を開いた
「能力に関しては、守秘義務はない」
ということは組織に関しては教えられないことがある、ということだ
指揮系統など、軍としては外部に漏らせないものだろう
「・・・じゃ、玄武について教えてくれ。出来たらでいい」
敵にそんなことを何度も聞くのは、確かに恥ずかしいことではあった
ただレッドは今の自分の状態、遅れていかざるを得ない故に少しでも情報アドバンテージが欲しかった
この間にも仲間は全滅するかもしれない、と不安に思うことはある
否、全員が揃うまで皆玄武のキューブに立っているものと信じている・・・
彼女は再び答えた
「玄武の名前はグライド、四大幹部のなかで最も強い能力者だ」
手持ちポケモンのレベルは全て90台、他の四大幹部3人が同時にかかっても勝てないという実力者だとも言った
「四大幹部の能力は、相手に知られたところで支障はない。
そのすべてが、既存のポケモンバトルの根底を覆すものばかりだからだ」
ジークの能力は、ジーク1体のすべてのステータスを6段階上げる未踏の常時型
リサの能力は、対戦相手にも影響を及ぼすタイプ相性の無効化という最強の発動型
ディックの能力は、絶対先制攻撃に時空を捻じ曲げるが如くの1ターン3回攻撃という不測の特殊型
「玄武の能力は『重合』」
彼女は顔色を変えずに、続けて話す
「例えるなら錬金術師。いや造形師かもしれない。
既存の技をいくらでも組み合わせることが出来、そうした全ての技が特能技となる能力」
同じ技の組み合わせであっても、その性質・速度・効果・威力・範囲を変化させられる
相殺するタイプ同士でも、能力者の特典で片方を増幅させる以外に共存させることも可能
すべては玄武の思うがまま、その気になれば同じものはひとつとしてない
特能技と言えば個別に名前を付けるくらい、ポケモンや能力者1人1人とって特別なものだ
だが、玄武にとってそれはごく当たり前のものでしかない
能力に依存、本来のポケモンの技にないものを付加するような特能技以外、理論上では玄武はすべて再現することが出来る
この組織内、誰もが手持ちポケモンのレベルでも技でもかなわない絶対的な存在
無尽の条件型
「おそらく、玄武は侵入者と距離を取って戦いに臨んでいるはずだ」
彼女は付け加える
「でなければ、お前達に勝機が作れない」
ゼロ・ゲームは誰も望まない
クリアへの分がない・勝てないキャラのいるゲームなんて、ワゴンに積まれるだけだ
・・・
「あいつ、技を相殺せずに組み合わせて変化させられるのかも」
「組み合わせ、って同じのもあったじゃないッスか」
ブルーの予測はほぼ正しい、ただにわかに信じがたい
「同じ数字を使っても、足し算や引き算じゃ結果は違うじゃない? た、多分そんな感じ!」
言いたいことはわかるが、だとしたら最悪だ
とすれば組み合わせから技の予測はほぼ不可能、というか技をどう組み合わせたらああいう芸当になるのかさっぱりわからない
ブルー達には想像もつかない、無限とも無尽ともいえる可能性が相手にはあることになる
「勝機があるとしたら、相手の持つポケモンの技タイプが限られていることだな」
グリーンが横から、ブルーの推測に付け加える
無限の組み合わせと無尽の答えがあろうと、これまでは技のタイプそのものを変化させたものはなかった
ブーバーの炎単、ルージュラは氷・エスパー、エレブーは電気単
もしニドキング、ギャラドス、ハピナスというような複数タイプの技をおぼえられるバリエーション豊かなポケモンだったら更に厳しいことになっていただろう
「うぅ、でも向こうの技を一度も止められないままじゃ・・・」
イエローがちらっと後ろを見る
ダイゴは未だに助けに行けていない、このまま放置が続けば死んでしまうかもしれない
ポケモンの技のなかには、合体することで強くなることが能力者の特典以外でもある
そうやって発生したエネルギーはどうしようもない、対処があるとしたらそれ以上のエネルギーで吹き飛ばすこと
「・・・合体攻撃、か」
グリーンはつぶやいた
可能性があるとすれば、それか
向こうが技の合成でくるなら、こちらもそれで返す
シルフカンパニーでの決戦
サ・ファイ・ザーのゴッドバードに対抗して、レッド・グリーン・ブルーの草・炎・水の合体技をもって破った
これなら、通じるかもしれない
そして、その作戦の鍵となるのは・・・
ブルー、グリーンの視線の先にはイエローがいた
それに気づき、彼女はびっくりしたように声を出した
「ええっ? ボクですか!?」
四天王事件、ワタルとの決戦でレッド・グリーン・ブルーのポケモンのエネルギーを受け取って10まんボルトの上をいく100まんボルトを放った
それはトキワの癒しの力、そして技を束ねるという災厄の欠片とも聞いた
「よっしゃ、乗った!」
ゴールドがガッツポーズを取り、イエローに向かってサムズアップを見せた
このままでは押し切られるだけだ、どこかで賭けに出るしかない
「かみなりパンチ。れいとうビーム」
この間も向こうの技は途切れない
今回の組み合わせは、何故か2つに分かれて飛んでくる雷の拳だった
「ダグたろう!」
「カメちゃん!」
まずダグたろうが土砂を掘り、ぶちまけることで目くらましと壁を作る
無効タイプのはずなのだが、氷タイプが土砂を凍らせることで雷の拳はそれをほぼノータイムで突破してくる
そして4人は今、ブルーのカメちゃんの狭いお腹の上に乗っている
彼女の指示でカメックスの甲羅の大砲から水を全力で噴射し、凍った地面の上を滑らせる
玄武との距離が開いていたこともあって、今回もぎりぎりで避けることが出来た
距離を詰めなければこちらは決定打も当てられないが、向こうからの攻撃を避けることも出来なくなってしまう
「つーか、こっちからの攻撃はまだ一度も当たってないんスよね!」
ゴールドの言葉通り、こちらは防戦一方だ
今のカメックスのように、手も足も出ない状態・・・・・・うまくないな、と思ったグリーンは口には出さなかった
「今のカメちゃんみたいですね」
「うまくないわよ、イエロー」
あきれたようにブルーにたしなめられ、イエローがえへへと微笑む
グリーンは玄武を見上げ、考える
「イエロー。ルーすけは使えるか?」
ボーマンダのルーすけ、最強の技はドラゴンクロー
特性のいかくで相手の攻撃力を持下げる、ドラゴン・ひこうの頼れるポケモンだが氷タイプや電気には滅法弱い
「この状況じゃ出しにくいけど、バタフリーと比べると速さと技の威力で上回るもんね」
それはそうなのだが、ドラゴンクローは近接攻撃だ
あの玄武の攻撃を一度避けて近づいて一撃!は、まず無理なんじゃないかと思う
「ああ、だから・・・・・・」
グリーンの説明に、イエローが頷く
それでいくしかない
「ゴールド、お前はキマたろうを使え」
「おう!」
合体攻撃にグリーンのリザードン、ブルーはカメックスを使う
別に草・炎・水でなければならない明確な理由は無いが、成功率で見れば一番高いだろう
レッドのフシギバナのいない今、ゴールドのキマたろうがその代わりを務める
「ブルーのカメックスをこうして回避に使ってきたせいで、大砲の水も残り少ない。
一度きりと考えろ」
カメックスから4人が飛びおり、ブルーは一旦ボールへ戻す
代わりにピクシーを出し、早々にゆびをふるを指示した
出たのははねる、しかし何も起こらない
「あくまのキッス、10まんボルト」
10まんボルトによって電磁の網が出来、それに乗ってあくまのキッスが分散する
効果範囲はこのキューブを覆う程で威力はでんきショックよりも弱くなっているが、どれかひとつでもその端に触れれば痺れよりも眠気が襲う
そうして動きが鈍れば、他のところにも捕まって完全に眠ってしまうだろう
ここに来て逃げ場を奪う技、しかも威力は弱くても拡がっていくのは速い
「チュチュ!」
イエローがピカチュウのチュチュを出したのを、しっかりと玄武は視認していた
いくら同じタイプであっても、この技の前では眠ってしまう
だが、彼女のポケモンなら対処は可能だろう
「10まんボルト!」
普通の技の指示、ゴールドの最初はその意味がわからなかった
グリーンとブルーは、少し思い当たることがあった
電気の性質を利用して、あの電気の網を絡め取って流れを誘導する気だろう
そう考えた
そして、それは途中までは想像通りだった
しかし、グリーンとブルーの考えとは裏腹にその電気の網はイエローの10まんボルトを吸収して強くなるばかりだった
能力者の特典、強い技が弱い技を食らう・・・・・・玄武はそれを誘発させることが可能なのだ
イエローは、その上をいった
「チュチュ、シグナルス!」
10まんボルトを食われ、強化された電気の網に自らの特能技を放つ
それが電気の網に触れる前に、玄武はそれを霧散・・・・・・解除した
「!?」
「よしっ、いくよルーすけ!」
その隙をついて、イエローがキューブの宙を舞う
グリーンもリザードンを出すと、2人もカメックスとキマたろうをスタンバイさせる
「どーいうことッスかっ?」
「わかんないけど、イエローが活路を開いたことは間違いないわよ?」
ルーすけは飛びあがり、射程距離まで切り込むように鋭角に攻める
タイミングを見計らうとか、左右にジグザグに進むなどをまるでしない
とにかく距離を詰める、次の技が来るまで1mmでも近づくだけだ
イエローがあの電気の網を攻略出来たのは、チュチュのおかげだ
そして最初はグリーンやブルーと同じようなことを思いついたので、10まんボルトを指示した
だけど、放ってから気づいた
あの技は『シグナルス』に近い、そう見抜いたのは彼女自身の経験が活きたからだ
だから吸収されたら、すぐにシグナルスを指示した
電気の網を逆に利用して、相手の行動をストップさせる気だった
イエローの目論見は成功すると踏んだ玄武は解除するのが一番安全だと、そう判断
ついに来たチャンス、イエローは果敢に玄武の目の前まで攻め込む
その距離、作戦を活かせるだろう5mだ
ここに来て、侵入者側は初めて玄武と同じ視線になった
そうして見たイエローの、彼の印象は・・・・・・古城だった
人に当てはめるにはおかしいかもしれないが、彼の背後に見えたのではなく彼そのものがそう思えたのだ
「行くぞ」
グリーンはリザードン
ブルーはカメックス
ゴールドはキマたろうを出し、技を指示する
「ブラストバーン!」
「ハイドロカノン!」
「ヴァリオスロウ!」
炎の究極技、水の究極技、貫く草の特能技
3人の心と共にひとつとなって・・・・・・その合体エネルギーが上空へいるイエローの元へ届く
ルーすけの背に乗る彼女は、それを一身に受け止める
「行くよ。ラッちゃん」
イエローは初めて捕まえたポケモン、ラッタに全てを託した
その最強の技は、自慢の前歯から繰り出すひっさつまえば
究極の3つのエネルギーは小さな身体いっぱいに溢れ、金色の弾丸が玄武へ向かう
このラッちゃんを選んだのはイエローだが、後押ししたのはあのグリーンだった
彼女が一番信じるポケモンに、3人のエネルギーを託すと彼は言った
「じゃあラッちゃんでいきます」、迷わずすぐに返したその選択にブルーもゴールドも反対しなかった
玄武は、避けなかった
「ブーバー、かえんほうしゃ。エレブー、10まんボルト。ルージュラ、サイコキネシス」
彼もまた、3体の最高の合成攻撃で挑む
まるで神の咆哮
十字と環を組み合わせた文様から光線が伸びてくる、美しい攻撃だった
真正面から見たイエローは、後でそうはっきりとそう教えてくれた
ポケモンの技は自然的な感じがあるけれど、あれは本当に人間が作り出した創造物に近いとも言っていた
神様はいるかもしれないけれど、その姿は人間が考えたものだからかもしれない・・・よくわからないけれどと彼女は微笑んだ
技の、素の威力合計ではイエロー達の方が上だったろう
しかし、ポケモンのレベルの高さからくるエネルギーの総量が、玄武の勝因
ラッちゃんと、イエローは白い光のなかに呑み込まれた
あれを直撃して、イエローが助かったのはグリーン達が託したエネルギーがあったからだ
攻撃が最大の防御、ラッちゃんの根性が神の咆哮を途中までぶち抜いたことは称賛に値する
更にボーマンダがその身を、背中にいる彼女を守る為に無防備な腹部を差し出した
イエローは気を失っただけ、余波で服の裾を焼いたが重傷ではない
玄武はそれ以上の追撃を、彼女に対してしなかった
落ちてくるイエローとポケモン達を、ブルーは叫ぶのをこらえてぷりりを出して膨らませ、その大きく柔らかなクッションで受け止めた
ドクン
優しく彼女を抱きしめ、心音を身体で感じて、ブルーはその無事を喜んだ
ドクン
「・・・・・・」
心音が聞こえる
ぐっと、その胸の上で握り拳を固めた
全身に響く鼓動
まるで自分のなかで膨らんで、飛び出してしまいそうだった
なんだ、この感覚
あの攻撃を見ただけだ
3人の合成エネルギーをもってしても、半分も止められなかった
怖いと思うのが普通だ、頭のなかで理解している
背筋に走る電流が全身をはしり、それが心臓で発火する
彼の心はもう決まった
ドクン! ドクン!! ドクン!!!
ゴールドが一歩、一歩と足を踏み出す
キマたろうを傍らに、玄武の方へ駆けだしていく
無謀だ
下手に距離を詰めるな、グリーンが制止を叫んだ
その後ろ姿は、まるで遊び場に行く子供のようにはしゃいでいるように見えた
彼の背負うナップザックが大きく上下しているのが、そう思わせるのかもしれない
ドクンッ!
・・・
タカムネが自らのボールから、オニドリルを出した
そして、そのポケモンに持たせていた道具を自分の手元に戻した
それは中くらいの石だった
「なんです?」
「んー」
彼の大きな掌のなかで、変化が訪れた
・・・
玄武が、自らのポケットから小さな石・・・・・・否、丸いタマゴ型の石を取り出した
それが彼の掌のなかで、ピシピシとひび割れていく
ゴールドへ向けて、玄武は指示をする
「ルージュラ、れいとうビーム。ブーバー、スモッグ」
崖下にいる侵入者を狙い、その攻撃はぶれることなく直線軌道で放たれる
まるで紫水晶のような光線は槍のように鋭い
「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
タカムネと、玄武の掌にあった石がひび割れて真っ二つになった
そしてそれは砂となって、さらさらとこぼれて消えていく
ゴールドのいた場所に、紫水晶がまるでタケノコのように地面に生えた
気温差で生まれる白い霧が、毒々しい紫色をしていて・・・・・・
「・・・っおおおおおおおぉぉおおおおっ!!!!」
紫色の霧を払って、ゴールドが垂直に飛び出した
その背中には、薄く桃色のかかった・・・・・・炎の翼があった
「あれは・・・」
ブルーが目を見開く
見たことがある、けれど体色が微妙に違う
それでも、確かにあれはそうだ
「孵ったか」
玄武は砂一粒も残らなかった掌を軽く握りしめ、つぶやく
ゴールドは勢いのまま崖を平行に飛んで、玄武の上空へと躍り出た
「ファイヤー」
To be continued・・・
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