〜最終決戦・二十八〜
「孵ったか」
・・・・・・
ゴールドのナップザックから炎の翼を持ったポケモンが飛び出し、彼の背中と肩をつかんで飛び上がった
紫色の光線を避けて、一気に制空権を奪いにかかる
「あのポケモンは」
グリーンの眼に映るのは、炎・飛行タイプのファイヤーの姿だった
ともしびやまで、既に何者かによる戦闘の跡があって、生死も行方も不明だった最後の伝説の鳥ポケモン
「まさか、あの石から・・・!?」
ゴールドがオニドリルの群れにさらわれ、その先で見つけて持ち帰ったダメタマゴの化石みたいな石
なんだかいわれがありそうだったものだが、調べた限りではあれは確かにただの石だった
だが、それ以外に思いつかない
「しかし、厳しいな・・・」
グリーンがリザードンを戻してゴルダックを出し、サポートに回ろうとする
通常タマゴから孵ったポケモンのレベルは5、直接的に戦闘するには不向きだ
伝説の鳥ポケモンで種族値は高くても、それに則っているのならとても玄武とは戦えない
「でも、なんかあのファイヤー・・・変じゃない?」
イエローを抱きかかえながら上空を見るブルーが、その体色を指摘する
身体を構成する炎のなかに、ピンク色が混じっているのだ
あれは本来の色ではない、そこに何かあると彼女は見ていた
それは正しい
わけがわからないだろう侵入者側に比べ、玄武はこの状況をほぼ把握していた
・・・
ファイヤーは、時代の節目が訪れるごとにその身を焼く
もがき苦しみながら、肉体を捨てて原初の姿へと返していく
それは魂に近いエネルギー体、そしてそれはタマゴを模した石に宿る
タマゴ型の石はともしびやまのオニドリルが、その時を待って作り出したもの
各時代ごとに複数個作られるそれらに、ファイヤーはそれぞれ宿る
全てが本物であり、偽物ともなりえるのだ
まず独特の習性を持つオニドリルは、かつてファイヤーに仕える神官が飼っていた子孫
ファイヤーの生まれ変わりの儀式は人間が管理していた時があり、ゴールドが迷い込んだ場所はその名残
オニドリルのドリルくちばしで洞窟を拡げ、作りだした神殿
ファイヤーの宿った複数個の石は、見た目はただの石でしかない
それらの石は族長候補など、次の時代を切り拓いていくだろう若者に託される
そして、託された若者は自らを鍛え切磋琢磨していく
時が来ると、石のひとつがファイヤーのタマゴとなる
他の石に宿っていたエネルギーはそのひとつへといってしまい、ひび割れ砂に還る
孵らせたものはファイヤーに選ばれたものとして、次の族長に選ばれる
人間がその儀礼を忘れてしまった今では廃れてしまったが、ファイヤーは同じことを繰り返していた
別に人間がいなくても、ファイヤーは時間がくれば孵るのだ
複数の石に宿るのも、不慮の事故に遭っても、どれかひとつが残れば復活を果たせる合理的な理由だ
ファイヤーの習性を、人間がただ決めにくいことを決める手段にしていただけに過ぎない
今回、タマゴ型の石を持っていたのは3人
オニドリルによって、いきなりさらわれたゴールド
人間がいなくても孵るのだが、先祖のオニドリルがその候補を選ばせた時もあったようだ
勿論、明確な理由をオニドリルに求められるわけもない
昔は選ばれたかった若者が、自らにオニドリルのえさを擦りつけたことで見事さらわれたそうだから
同じくともしびやまで、そこのオニドリルの長を捕えたタカムネ
ゴールドをさらったオニドリルは、もしかしたら本当に人間の才能を見抜く力があったのかもしれない
自らを捕まえたタカムネを、そこに案内してタマゴ型の石を持たせた
最後の1人が玄武
シルバーと共にともしびやまの温泉に入り、勧誘した人間だ
その前、自力で隠れ神殿を見つけてタマゴ型の石を持ち帰った
時はきて、たまたまゴールドの持っていた石がタマゴになったのだろうか
否、そうではない
ファイヤーの求める資質『勇気』と『闘志』に、エネルギー体が惹かれたのだ
単純なものに思えて、ひとつ間違えれば、どちらもその本質から大きくはずてしまう
そして彼の持つトレーナー能力が、ファイヤーの孵化を早めた
更にその体色は色違いに近い、それはディックのブラッキーのように能力者の影響を色濃く受けたという証
確かにゴールドは、ファイヤーに選ばれたのだ
・・・
「ファイヤー、かえんほうしゃだっ」
きりもみするように滑空し、ファイヤーは凄まじい炎を吐きだした
玄武は合成技で迎え撃たず、ぎりぎりまで引き寄せてエレブーのかみなりパンチで防ぎきった
「行けんぜ、ファイヤー!」
ゴールドがファイヤーを褒め、下のグリーン達にガッツポーズを取って見せた
確かにあの技、その威力はLv5のポケモンのものではない
「・・・もしかして、あれがゴールドの孵化能力のチカラ?」
そういえば、仮面の男との戦いで孵ったピチューも生まれたばかりだったのに強かった
ライコウの電気エネルギーを貰っていたこともあったが、通常の個体では見られない特徴的な毛並みも確認された
「孵化するゴールドの想いが、生まれてくるポケモンに影響させる・・・」
グリーンはポケモン図鑑でファイヤーのLvを確認する
Lvは50、これは特殊な伝説のポケモンのタマゴだからだろう
しかし、そのステータスを活かしている姿は生まれたてとは思えなかった
野生動物であっても、生まれてからノータイムでは立てないし、筋肉はあっても親のように速く駆けだせない
性別は変えられないが、その性格はゴールドの感情に色濃く影響される
そして、生まれてくるポケモンは初めからそのポテンシャルを十二分に発揮出来る
「それがゴールドのトレーナー能力・・・『インポッシビリティ』・・・?」
彼の注がれる感情と愛情によって、不可能を可能にしてしまう
心を、運命を共にするベイビーポケモンへの祝福
「ファイッ、ヤァアアア!」
ゴールドの怒号で、ファイヤーは大きく羽ばたく
雄々しく、赤とオレンジと白とピンク色の火の粉を振りまいた
だが、玄武は意にも止めずに口を開きかける
「ゴルダック、サイコキネシス!」
距離は遠いが、グリーンはそう指示する
伝説のポケモンでレベルもそこそこ高いが、玄武のポケモンはそれ以上だ
このまま真正面から挑むには、あまりにも分が悪い
だが、グリーンは計算外のことにも気づいていた
『ヴァリオスロウ!』
合体攻撃の時、ゴールドが指示した技は・・・明らかに特能技だった
そのエネルギーをイエローに渡しただけ、あれでは彼のその技の性質は殆ど現れないはずだ
それをファイヤーに使えば、もしかしたらの可能性がある
不可能を可能にする、ゴールドの不屈の意思がさせるかもしれない
どういう技なのかわからないが、その為の隙を作ってやりたい
最後の戦いに、勝つ為に
サイコキネシスは当たらなかった、玄武の足元にも及ばないはるか崖下にぶつかった
射程距離としてやはり遠いし、キューブの建造物とはいえあんな岩盤そのものを動かせるわけがない
「エレブー、10まんボルト。ルージュラ、サイコキネシス」
念波によって、10まんボルトの電流が形を変える
まるで巨大な掌のようで、うっとうしいハエをはたき落としてやりたい気が目に見えるユーモアさにあふれていた
勿論、つかまれてもはたかれても大ダメージを受けるだろう
「あんなことも出来るの・・・」
その造形にブルーはあきれたような、困ったようにつぶやく
グリーンも同感だった
見た目以上に速い動きで、ファイヤーへと電気の掌が伸びてくる
それをゴールドは軽々避けようとするが、その動きが鈍い
グリーンは図鑑とゴルダックの念の力で、その技を視た
完全に分析するなんて出来るわけないが、少しでも玄武について知りたかった
「・・・・・・」
信じられないものを見るようだ
あの電気の掌は生きている風な、まるで人間の神経構造を模しているようだった
それにサイコキネシスもまだ充分な余波があり、それが掌を動かすのと同時にゴールドの行動を阻害しているのだ
「どういうレベルなんだ・・・」
同じポケモンの所業とは思えない
これが極限まで鍛え上げた能力者とポケモンの実力なのか
「っ、カメちゃん! ハイドロポンプ!」
ブルーの指示、指の先にあるのは電気の掌だ
力いっぱい放ち、噴き上げる水流がそれに触れると・・・導電してカメックスにダメージがはしった
すぐにHPは尽き、カメちゃんは倒れた
それによって電気の掌が小さくなって、つかまれかけたゴールドが逃げられた
ゴールドは感謝の意を手で示し、ブルーはそれよりも前見なさいとジェスチャーして伝える
「前?」
玄武とそのポケモン達がいる
ゴールドが最初に彼を見て思ったのが、見かけによらないだった
若い容貌をしているのだが、明らかに雰囲気は老成している
例えるなら亀、あれは長生きするというが見た目は全然変わらないからだ
「ルージュラ、あくまのキッス。ブーバー、かえんほうしゃ」
ルージュラの投げキッスに、唇を突き出したようなブーバーの口から炎が追随する
情熱的なキスといえば聞こえはいいが、対面してみると恐ろしい
あれで眠ったら二度と起きられなくなりそうだ
唇型の炎が迫る、しかも上下がわずかに動いている
妙にリアルで気持ち悪い
「んなもんゴメンだぜ」
ビッと人差し指を向け、ゴールドがファイヤーに正面を向けさせる
ファイヤーの特性はプレッシャー、こうして技を使わせていけば玄武のポケモン達のPPは倍減る
PPがなくなれば、こんな合成攻撃も出せなくなるはずだ
「ヴァリオスロウ!」
直線軌道に、真っ直ぐ放たれる4色入り混じった炎
見た目は先程のかえんほうしゃと変わらないように思える、それが唇に向かう
だが、それは下手すれば呑み込まれてしまう
「真っ直ぐ、狙うは真っ直ぐだ」
ゴールドの金色の瞳の先にあるのは唇ではない、亀だ
ドス、とその言葉通りにゴールドの特能技は唇へ向かって真っ直ぐ突き刺さった
炎同士が接触した周辺の炎の色が変化し、ボボボォオと音を立てた
その音は焚き火に、新しい燃え種を与えた時のものにそっくりだった
いちごポッキーを食べる女性、そんなタイトルが頭に浮かぶ光景だ
あの様子では、ゴールドの特能技は不発に終わって呑み込まれてしまったか
「・・・!」
ゴールドの攻撃が、唇の後ろから突き破って出てきた
その攻撃、速度は速くないのにファイヤーが放った形状を保ったままだった
つまり、そういう攻撃なのだろう
「なるほど」
玄武は余裕を持って、ポケモン達を連れて歩き出した
貫通力こそ最高だが、真っ直ぐにしか進めないことを見抜いたのだろう
だが、対処としてはずさんな気もするが・・・・・・
「この辺りだ」
玄武は爪先で地面の感触を確かめ、軽く頷いた
それとほぼ同時だったろうか、彼の足元の崖が揺れ始めた
彼の爪先は地面を蹴った
最初の技で、崖ごと凍らせたはずの地面が・・・固い氷が溶けて剥き出しになっている
玄武のいた崖が大きな音を立て、崩壊が始まった
薄く張った氷がきらきらと光を反射しながら、土煙をあげていった
「・・・ん」
キューブを揺らすその衝撃に、イエローは薄く眼を開けた
外傷は殆どなかった、頭を揺らさないようにしていたが、ただ意識を失っていただけだったようだ
「イエロー、大丈夫・・・?」
「ぶ、ルーさん。・・・っ、なんですかこの揺れ」
玄武の合成攻撃を受けてから、何もわからない状況で未だに響く激しい物音にびっくりしている
ブルーも何から説明したいいものか迷ったが、とりあえず「ゴールドがやってくれたわ」とだけ言った
ファイヤーの炎、辺りに降り注いだ火の粉がじわりじわりと溶かしていたのだ
薄くなった氷は、ダグたろうのじしんで崩れかけた崖を支えきれない
グリーンのサイコキネシスでそれは更に進行し、崩壊は時間の問題だった
そして、その時がやって来たというわけだ
崩壊が収まり、土煙もあっさりと晴れた
上空から様子を窺うゴールド、グリーンが警戒するように覗きこむ
「ルージュラ、サイコキネシス。エレブー、かみなりパンチ」
わずかに残る土煙のなかで、カニのような多脚が玄武達を支えていた
いやカニの多脚でもない、広げた両掌を手首でくっつけたような形の電撃だ
更によく見れば砕けた崖の破片を電気の磁気と念波でまとめ、玄武が立てる台を作っているのだ
「・・・えーと」
目をぱちくりさせているイエローが、それを見て一言
「芸人さん?」
確かにあれは派手なステージやゴンドラに乗って下りてくる歌手などを連想させる
ただ笑えないのが、あれがポケモンの技でほぼ即席に作られていること
ゴールドの狙いをしっかりと読み切っていたということだ
なんだか足元がおぼつかない感じに、即席のゴンドラから玄武が下りてくる
グリーンとブルーは、ここで初めてまともに玄武の顔と対面したこととなった
その印象は2人揃って、誰かに似ている・・・だった
口に出さなかったけれども、まだわからない
「さて、同じ視線に立った」
侵入者達と同じ地面に立った玄武が、その両手を拡げて言った
「これからが戦争ゴホゴホ」
土煙にむせて、咳き込んでいる
ルージュラが背中をさすり、ブーバーやエレブーはじっと玄武の咳が収まるのを見守っていた
うっわぁ、と生温かい視線をイエローとブルーが彼に向ける
「・・・」
黙った、玄武が黙った
ゆっくりと呼吸し、激しく胸をうつ鼓動を押さえているようだ
一方で下の様子が気になるゴールド、攻撃がやんでいるので玄武とグリーン達の間に何か起きているだろうことはわかる
とりあえず攻撃した方がいいのだろうか、遠目でわからないが・・・玄武がダメージを受けているように思える
先程イエローへ追撃しなかったことを思い出し、もう少し様子を見ることにした
「・・・上の彼は、攻撃してこないな」
玄武はやや不満そうに、見上げながらつぶやいた
呼吸も落ち着き、普通に話せるようになった
「自己紹介しておこう。四大幹部の玄武、グライド」
頭を下げず、視線を誰からも外すことなく挨拶をした
堂々たる姿はリーダーの風格を感じさせ、思わずブルー達は息を飲んだ
「第1ステージ攻略、おめでとう」
「・・・は」
耳を疑った
まさか、そういう言葉が飛び出すとは思わなかった
「まだすべての技を使っていない。そういうことか」
グリーンの一言で、今まで玄武が使ってきた技を思い出す
ルージュラはれいとうビーム、サイコキネシス、あくまのキッス
エレブーは10まんボルト、かみなりパンチ
ブーバーはかえんほうしゃ、スモッグ
「四高将クラスから、四大幹部クラスへ上げていく」
その時、ゴールドが動いた
玄武が戦える状態、何かし出すと踏んだらしい
ぐん、とファイヤーが翼を傾けて地上にくちばしを開いた
「ヴァリオスロウ!」
落下に近いきりもみ滑空からの、垂直姿勢での炎の投擲
まだ地面へ向かってやったことはない、地面に突き刺さって地球の反対側までいってしまうのだろうか
4色の炎が真っ直ぐに、玄武の頭上めがけて襲い来る
「ブーバー、めざめるパワー。エレブー、めざめるパワー」
玄武の指示で、2体のポケモンのエネルギー体が真上に向かって放たれる
その2つが絡み合い、交差して・・・球状だったそれらが1つとなった
エネルギー体は蛇いや竜のようになり、炎を絡め取る
宙でしめつけ、そのまま炎を握り潰してしまった
「その攻撃は貫く縦方向に特化しているけれど、横方向には弱い」
「な・・・っ!」
「正確に言えば螺旋軌道なのかな。弾道を一定に保つには最適の動きだ」
しかも炎を絡め潰した竜は、まだ生きている
ぐぐんと伸びてきた先端が、本当に口を開いた
落下するように近づいてきたゴールドをそのまま飲み込む、かと思われたがなんとか逃げた
が、追ってくる
その、まさに生きた動きに気づき、ゴールドが振り向いた時には遅かった
バシュと軽い音だったが、ゴールドとファイヤーにはかなりのダメージを与える
不安げに上を見ていたイエローだが2人にはダメージはあったが、墜落する程ではなく体勢を立て直すのが見えた
「めざめるパワーか・・・!」
すべてのポケモンが、全タイプの内1つを得られる技
威力に期待するには、高い個体値が必要とされている
だが、そもそもあんな竜に似たものを生み出せる技ではない
「エレブー、でんこうせっか」
玄武の言葉よりも速く、エレブーがグリーン達の視界から消えた
そして、3人とポケモン達が密集するその真ん中にその姿を現した
「ルージュラ、れいとうビーム」
エレブーが皆に姿を現すか否かのタイミング、ルージュラが指先から放つ
指よりも細いそれは密集しているところの隙間を縫って、エレブーが現れた瞬間に直撃した
その正確性、しかしこれだけではない
れいとうビームを浴びたエレブーが、その身体を震わせる
でんこうせっかのエネルギーと普段から包む静電気が、れいとうビームを拡散させた
「ぐっ」
咄嗟にトレーナー達は目や顔を隠し、急所を避ける
ポケモンのぷりりが少し膨らみ盾になり、ゴルダックはポケモンを出していないイエローをかばう
身体に無数の氷の針が刺さる、しかも身体が痺れる
だが、血は出ない
「戦争でなければ、キミ達の身体を健康にしてあげたんだけど」
そう笑う玄武の前に、針が刺さったところから力が抜けていく侵入者達
意識はあるのに、力が入らない
技の合成は3つ以上も可能、それらの技のタイミングがずらしても可能
先程のめざめるパワーの合成、恐らく片方は水だろう
そうして弱点を補い、更に相手の攻撃の弱点を的確に見抜いて対応
神の咆哮は四高将クラスではなく四大幹部クラスのものだったが、防ぐだけなら四高将でも出来る
単なる技の合成で、よくある威力のインフレをしただけなのだから
「第2ステージ攻略、ならず」
ここまでか、そう覚悟しかけた
しかし、まだゴールドがいる
「ファイヤー、ほのおのうず!」
上空から降り注ぐ炎の渦、エレブーが素早い動きで逃げる
そして、ブルー達を包む壁となった
「攻撃ではなく防御、今の内に態勢を立て直してくださいッス!」
「ああ」
渦の上からゴールドが皆に呼び掛けると、返事が返って来た
一安心、そして彼は玄武をもう一度見る
「ニャロゥ、負けねーぞ」
ゴールドは自分の図鑑を開き、ファイヤーのステータスを初めて確認してみる
そして、次の技を決めたようだ
「あさのひざし!」
全身で光を受け止め、その体力を回復させていく
こんな技をおぼえるなんて知らなかった、おかげでまだ戦える
技名は聞こえなかったが、玄武はファイヤーの身体が薄く光っているのを見て、何の技をしているのか察した
あれは、ファイヤーがおぼえている技としては、これまで確認されていない
能力者の元で孵った影響だろうか、それともゴールドの孵化能力にまだ自分と同様に何かあるのだろうか
「ブーバー、めざめるパワー。エレブー、10まんボルト」
2つのエネルギーが合成され、今度は電気の竜のようになった
もしかするとブーバーのめざパはドラゴンかもしれない、それでもこうなることが不可解だ
電気の竜がゴールドめがけて、一直線に追いかけてくる
先程のものよりも速い、しかもまた追ってくるだろう
「逃げるか!」
ゴールドとファイヤーが旋回し、その攻撃の目の前に飛んだ
無謀かもしれない、それでもやってやろうという彼の意気込みがファイヤーの全身を震わせた
「ゴッドバード!!」
有人飛行でその技は危険すぎる
だが、一心同体
かつてグリーンがシジマより教わったものが、ゴールドとファイヤーが今得た
口を開く電気の竜を真っ向から破った
「や、った・・・」
ゴールドは消えゆく電気の竜を振り返りつつ、つぶやいた
合成攻撃で技の威力も上がっていた
流石に真っ向からは厳しかったが、ゴールドとファイヤーは破った
ゴッドバードに包まれていたのに、電気による痺れが残っているがまだまだいける
そうやって、前を見た
目の前に、もう1体の電気の竜
「影撃ち」
目に見える攻撃は囮、その後を追うように放たれる影の一撃こそ本命
昔からよくある古典的な攻撃手法だ、驚くものではないと玄武は思う
今回作ったのは尾のない、それがあるべきところに頭がある電気の竜
ゴールドが破ったのは先頭の方だけ、破られてから尾の方にあった頭をもたげたのだ
もうひとつの頭に、不意をつかれた無防備なゴールドとファイヤーは呑みこまれた
こんなものか、と玄武が首を傾げる
「ハッサム、ディス・カイ・クロー」
炎の渦を突き破り、グリーンのハッサムが玄武めがけて突進する
グリーンの特能技、それで勝負を仕掛けにきた
タイミング的に言えば、これは・・・・・・影撃ち!
ハッサムの動き、タイミングはまさに虚をついた絶妙なタイミングだ
それに相当速い、普通のハッサムの速さではない
「オムすけのハイドロポンプ・・・!」
玄武にタイミングを悟られないように、防御を兼ねるほのおのうずをどうこうするわけにはいかなかった
虫・鋼タイプのハッサムの4倍弱点、突破するだけダメージは必須
ほのおのうずを突破するのに何かの技を使ってしまっては、その勢いや威力が削がれてしまう
だから、オムすけのハイドロポンプで身体を濡らして少しでも耐火力を上げるのと同時に加速を狙ったのだ
更にブルーからの提供で、カムラのみを持たせている
ルージュラが前に出た
「ルージュラ、サイコキネシス。ブーバー、かえんほうしゃ」
ブーバーの直線軌道であるかえんほうしゃがねじ曲がり、凸レンズのような防御壁となった
そういう防御は読めていた、だからハッサムを選んだのだ
ハッサムの左挟みの一振りで、その防御壁は真っ二つになった
掌を突き出したまま動きが止まっているルージュラが、ハッサムの視界に入った
グリーンの特能技はエネルギーを切り裂く
そしてその向こうにいる相手をさらけ出し、ダメージを与えられる
真っ二つに割った炎の防壁に足を踏み入れ、右挟みを大きく伸ばす
ルージュラの肩を、挟み切った
・・・
レッドはまだディックのキューブにいた
玄武について話を聞けたので、そろそろ行こうかと立ち上がる
タツミにお礼を言って、寝転んでいるここのキューブの主に声をかけた
「なぁ」
「んー」
ディックは生返事をする、が答えてくれた
タツミが何かを言いかけるのを掌で止めてレッドは彼に向かって、問いかけた
「お前が心酔してる、その相手・・・・・・そいつは玄武なのか?」
その問いの意味は、あることを確信しているようだ
「・・・」
ディックは微笑んだ
「―――」
その笑みにレッドが何か言いかけたところで、このキューブのワープ装置の作動音がした
後ろを振り向くと、目をぱちくりさせているクリスだった
「あれっ?」
「レッド先輩! と・・・!?」
やっぱりタツミ、クレアを見てクリスが驚く
それでレッドがついでに聞いておいたことを、彼女に説明する
あのクレアのモデルになった人間で、実は四高将なのだというものにまた目をぱちくりさせた
「・・・ゴールドは知ってるんですか?」
「知ってるも何も、戦ったのは私だ」
彼女の言葉に、レッドに小声で聞いたクリスは言葉を失った
あのクレアと見た目はまるで同じなのに雰囲気が全然違う、2人が並んでも同一人物には思えないかもしれない
ちなみにゴールドが勝ったことをクリスに耳打ちすると、クリスはまたびっくりした
「それより、ここは玄武のキューブじゃないんですか?」
「違う」
ディックがいる時点で、青龍のキューブだろうことはわかる
だが、玄武ルートが開放されたのではなかったのか
クリスはオーキド博士のキューブから、2つも経由してここに来てしまった
「! って、オーキド博士いたのか! 無事だった?」
「あ、はい。それは大丈夫です。それから・・・シルバーにも会いました」
「!!」
今度はレッドが驚く番だ
オーキド博士の無事、それからシルバーもこの最終決戦に来ていることも今知った
「私とタッグでオーキド博士達と戦ってました。で、シルバーは先に出たんです。私は博士と少し話をしたので」
その後、崩れ落ちた日本家屋のあるキューブへ跳ばされた
ここで誰かが戦っていたようだが、どちらもよくわからなかった
その次に跳ばされたところで、シルバーがまた戦っていた
相手の容貌ははっきり覚えている、切れ目で黒髪を刈り上げている風な男だ
「で、ここに来た」
「はい。どちらもワープ装置がさっきみたいに作動出来たので・・・」
つまり、どういうことなんだとレッドがタツミの方を見る
彼女がきちんと答えてくれる
「玄武ルートが開放されたとはいえ、まだ稼働しているキューブは存在する。
そちらに跳ばされることもある、ということだ」
タツミは更に付け加えた
「ワープ装置にも、それぞれ跳ばされるキューブの確率がある。
下位幹部キューブから最上級幹部キューブへ跳ばされる確率は低く、同じクラスのキューブへは高確率。
跳ぶ先に同じクラスのキューブが大幅に減ると、ひとつ上のクラスへ行く確率が上がる」
キューブの主がその機能を停止させていない限り、主が健在なところへは跳ばされるようになっている
最初の部屋にあったワープ装置は、幹部候補クラスのキューブに置かれているものと同じもの
ゴールドがいきなり四高将のタツミのキューブへ跳んだのは、かなりの低確率だったのだ
その確率は1%未満、大当たりなのかはずれだったのか悩ましい
「玄武キューブへ行くには、上級幹部クラスのキューブの方が行きやすいのか」
「四大幹部のキューブからなら、ほぼ確実に行ける。
とはいえ、現時点で主が残っているキューブはもうそのくらいだろう」
「私は運が無かったんですね・・・」
タツミの言う通りだろうが、その数を詳しく教えてくれているわけではない
「もう行け。現時点で必要な情報は渡したはずだ」
そうなんですか、とクリスがレッドを見るので頷いた
玄武のトレーナー能力もおおよそ聞いた、とはいえその応用力は目で見なければ納得も理解もし難い
「んじゃあ、ディック。クレア」
レッドが手を上げると、タツミが「私をその名前で呼ぶな」と言った
その言葉は淀みない清流から、とげのあるものになったのがわかった
「そっか。タツミ、またな」
行こう、クリスとレッドに促されて彼女はそれに従う
ディックとタツミ・侵入者レッドのことを交互に見ながら、何か言いたげだった
そう「変じゃないですか、またな」なんて・・・そう言おうとして飲み込んだ
そうして、レッドとクリスは青龍のキューブを後にした
・・・
シュン、と軽い音を立ててワープ装置から誰かが転送されてくる
「ここが、玄武のキューブですか・・・?」
「みたいだな」
クリスがまずのぞくと、足元のひんやり感にちょっと驚いた
レッドが一瞬先に来ていて、まず状況を把握しようとしていたようだ
すぐに彼女もグリーン達と、玄武の姿をとらえて構える
戦況はよくわからないが、グリーンのハッサムが玄武のポケモンを切ったところだ
足元の地面はところどころ凍っているし、目の前にはごろごろとした岩の塊がある
空は電撃か何かで光っているし、グリーン達の後ろの崖にも何かあるような気がしたが影になっていてわからない
「・・・?」
クリスは首を少し傾げ、何か考え込んでいる
レッドがその様子に気づく前に、玄武が新たに来た侵入者に気づいたようだ
こちらをはっきりと見て、見定めしているようだった
「あの人が、玄武ですか」
消去法ではそうなるのだが、レッドがなんで?と聞くと彼女は首を振った
玄武は、笑っていた
To be continued・・・
続きを読む
戻る