〜能力者への道17・温泉〜

 


 ・・・バルーを倒し、ひとときの勝利の余韻を味わうレッド達だったが・・・・・・


 突然バルーとそのポケモンが光り出し、機密保持のために自爆しするのではと、皆が岩陰に避難する


 だが実際は『テレポート』の光であり、新たな情報を得ることなく・・・ダブルバトルは完全に幕を閉じた


 そして新たな問題が・・・バルーはどうしてレッド達の目の前に現れることができたのか、というもの・・・


 監視が付いているのか、バルーが自力で捜して来たのか・・・その判断がレッド達にはつかないのだ


 ただどちらにしても今回のことで、完全に位置と行動が知られてしまうだろう・・・誰もがそう思った


 そして・・・気付かれるかもしれない、レッド達もまた伝説のポケモンを求めていることに・・・


 ・・・とりあえず皆は前に進むことにし・・・ずっと『ほてりの道』をひたすら歩き・・・・・・そして・・・・・・










 「・・・いいんでしょうか、こんな所に寄って・・・」

 『ははっ、良いんじゃないかな・・・骨休めには丁度良いかも』

 「・・・・・・前にも似たような会話しましたね、確か」


 テントを張りながら・・・・・・イオウの匂いが鼻についた、イオウでわかるだろう・・・
 そう此処は・・・・・・


 「ひゃっほうっ!! 温泉だぁ〜〜〜!!」

 「おいコラ、ゴールド、まだキャンプができてないっつーの、準備手伝え!!」

 「んじゃ、アタシらは先行くわね・・・後はよろしくね?」

 「・・・ブルーも人の話聞けよ!!」

 
 早速女性陣は湯煙の上がる方へと歩いていった・・・諦めた男性陣は黙々と作業を続けた
 そう此処はともしび温泉、天然の洞窟風呂で有名な場所だ
 何故こんな所に寄ったのか、それは・・・・・・むろん、ゴールドとブルーの発言によってだ


 「やっぱさ〜汗かいたまんまじゃ気持ち悪いッスよね? 
 今日は俺が一番動いたし・・・ちょっとぐらい言うこと聞いてくれてくれたって良いじゃないッスかぁ〜?
 ・・・・・・ねぇブルーさんも、そう思うでしょ!!?」

 「・・・そうね、ゴールドの言う通りよ!!
 滅多に来ないんだし、せっかくタダなんだし・・・ここで入らない手はないわ。
 ・・・年頃の乙女が汗くさいなんて・・・許される行為じゃないわよ!!?」


 ・・・・・・誰に対して許されない行為なんだろうか、一体・・・でもまぁ、言いたいことはわかるけどさ
 一応急ぎの旅なの、そう説得して・・・ふくれっ面の2人を連れて先を少し進んでみると・・・・・・そこは海でしたとさ・・・


 ・・・辺りも暗くなったので、ゴールド達の意見に賛成することになった・・・いいのかなぁ、こんなにのんきで・・・


 ・・・とここまでは良かった、正確には温泉までは良い・・・洞窟風呂だが男女がしっかり分けられ、女性客も安心
 それだけではなく、地熱を利用した天然のサウナまであってなかなか良い温泉なのだが・・・


 ハッキリ言えば温泉が沸く所には必ずある『宿』が無い、一軒もだ
 建物を建てるには狭すぎる道の途中にあり、なおかつ1の島からそんなに離れていないのが理由だろうか
 故にここの温泉の利用客は1の島を朝出発し、昼間に温泉に浸かり・・・夜には1の島に帰る、そういったものなのだそうだ
 だが俺達はそう言うわけにもいかず、ここで野宿することになった・・・何処かが矛盾している気がするのは何故だろう


 「・・・・・・そこまでして温泉に入りたいのかね、全く」

 「無駄口叩くな、こっちはもう終わった・・・先行くぞ」

 グリーンとシルバーがさっさと行ってしまうのを見て、慌ててレッド達も作業を終え後を追った
 ま、なにはともあれ・・・・・・温泉だ!!










 「良い湯ね〜」

 「そうですね〜」

 「生き返りますね〜」

 3人とも語尾が伸びる程まったりとしている、こちらは女湯・・・一足先にブルー達が入浴中だ
 なにしろ天然の温泉、広くて・・・昼利用する客が多いからか他に客がいない、今はブルー達の貸し切り状態だった
 湯加減も熱いくらいで・・・苦労の多い旅の疲れが癒されていくようだ、寄って良かった・・・皆がそう思っていた
 そんななかでイエローが言った


 「・・・バルーさん、今ごろどうしてるんでしょうね〜」

 「そーねぇ・・・多分生きてるでしょ〜」

 「でもその場合・・・私達がここにいることとか、色々ばれちゃうんですよね〜」

 「やっぱり心配ですよね〜、あんな危険なバトルになるなんて・・・思ってもいませんでした」

 「それだけイエローが強くなったのよ、成長したわね〜」


 誉められてえへへとイエローが照れた、やっぱり嬉しいものは嬉しいから・・・
 と、ブルーがぴくりと何かに反応した・・・隣で声がする、男連中も入ってきたか

 「・・・・・・イエロー、ポケモン準備」

 「わかりました、チュチュ」

 「・・・・・・」

 
 クリスは黙ってみている、何が起こるかは予測がついた
 ・・・何だか隣が騒々しくなってきた、ブルーはプリンを出し、準備させた


 ・・・・・・声がより一層大きくなった、周りが止めているのだろうか・・・
 そして期待を裏切らずに・・・・・・男湯と女湯の境の壁に、誰かの手がひょっこり現れた


 「・・・・・・プリン『サイコキネシス』!!」

 「チュチュ、『10万ボルト』!!」

 
 誰かが壁の上に顔を出す瞬間という絶妙なタイミングに、2人の技が同時に炸裂した
 チュチュの技ポイントはすでにアイテムで回復済みだ、それは相手にとっては不運としかいいようがない・・・


 ・・・・・・しばらくしてから激しい水音、男どもの悲鳴が響き渡ったという・・・
 大分静かになってきた所で、ブルーがにっこりと微笑んで言った


 「本当に強くなったわね、イエロー」

 「そんな・・・照れます」

 「(・・・・・・この2人って何か似てるんじゃ・・・?)」


 クリスの思案なぞ知るよしもなく、イエローはひたすら照れていた・・・
 だが・・・・・・この先ある意味試練がイエローに待ちかまえていた、ブルーが言った





 「そういやさ、アンタ・・・レッドとどこまでいってるの?」

 「ぶっ、ガボゴボボボボ・・・」


 イエローが湯の中に沈んでしまう、ブルーがオホホホと笑った

 「結構気になるんだけど・・・どうなのよ?」

 「あ、私も気になります、やっぱり・・・」

 「ブゴボゴボ、プハッ・・・・・・わかりません」


 息が続かなくなり、顔を出した瞬間に・・・ポツリと言った


 「わかんない?」

 「まだカスミさんとか・・・シロガネ山から帰ってきてから、あまり話をしていないんです。
 ・・・本当になにもわかんないんです、この気持ちが恋愛なのかどうかも・・・」


 ・・・レッドへの強い憧れ、一時期は男として生活していた所為だろうか
 それとも元来の性格に加え、恋愛についての知識が全くない所為だろうか
 しかし、それでも・・・年頃の女の子なら、そのぐらいの判断はつくと思うのだが・・・・・・ブルーはポツリとつぶやいた


 「・・・アンタらって何?」


 ブルーが半ば呆れている、微妙というか複雑というか・・・・・・乙女心は難しい





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「おぉ〜〜〜!!? 広ぉ〜〜〜っ!!?」

 「確かに、広いな・・・どこをどう見ても温泉だ」

 
 話は少し戻る、レッド達が男湯に入った辺りまで・・・・・・ほんの10分ぐらい前まで


 レッドはイエローを途中までおぶり、船酔いやら何やらで極限まで疲労していた
 グリーンはさして疲労していないようで・・・風呂に入る前にと、髪を洗い出した
 ゴールドは温泉にはしゃぎまくっていた、体も流さずスグに温泉へと飛び込んだ
 シルバーはと言えば・・・もちろんと言えばいいのか、ゴールドを注意していたという


 一通りの注意が終わったのか、グリーン以外は皆湯に浸かっていた・・・
 ゴールドは湯船で泳いで、また注意を受けている・・・どうやらまだ懲りていないようだ
 まあ他に客がいなかったからといって、マナーは守るべきだとレッドが言って・・・ゴールドも大人しくなった





 ・・・・・・それも数十秒程だったが、何故なら・・・隣から声が聞こえてきたからである 


 「・・・・・・いきましょう、先輩」


 ゴールドの眼はらんらんと輝きに満ちている、レッドが訊ねた


 「? どこへだ」

 「決まってるじゃないッスか!!? のぞきッス!!」

 
 レッドとシルバーが顔面から湯船に突っ込んだ、それは犯罪だぞ、そう叫んだ


 「何言ってんッスか、温泉=のぞきは相場でしょうが!!?」

 「誰が決めた、そんなこと・・・隣には姉さんもいるんだ、やめんか!!」

 「そうだな、隣には・・・・・・いや、とにかく行くな!!」


 レッドとシルバーの顔が赤い、何を考えているのやら・・・・・・
 そんな制止の声を聞くことなく・・・ひとり器用にゴールドが壁をよじ登っていく・・・


 「ここで逃げたら男がすたるッス、美女2人+1がこの壁の向こうに・・・」

 「やめんか、変態!!」

 「最低だ、降りてこい!!」


 苦労の末、ようやくよじ登り・・・顔を出そうとした瞬間・・・
 ・・・・・・そして見事に技を喰らった、というわけだ・・・


 だがここまではゴールドだけで被害はすんだ、だが使用された技が問題だった
 ゴールドの体がフラフラになった、そして・・・・・・レッドが叫んだ


 「おい・・・あの技は・・・・・・やべっ、おいゴールド!! 踏ん張れ、落ちてくるな!!」

 「え・・・・・・そうかっ、おい俺達まで巻き込むな!! 耐えろ、しばらく上にいろ!!」


 そしてそれが無理そうだと悟ると、今度は慌てて温泉から出ようとしたが・・・間に合わなかったようだ
 ・・・レッド達の努力は虚しく・・・ゴールドはバッシャアァァンと激しい水音を立てて落下した
 別にこれだけなら良い、だが・・・・・・ゴールドが受けた技が問題だった


 そう・・・『10万ボルト』、帯電したゴールドが温泉に落ちたことで・・・電気は水を伝わって・・・
 ・・・・・・もれなく、レッドとシルバーまで電撃のとばっちりを受けるハメとなった
 そして3人・・・仲良く温泉に浮かんだ・・・湯船にまだ入っていないグリーンだけが無事だったようだ
 そんな様子を見聞きながら・・・シャンプーを洗い流しながら、ポツリと言った


 「温泉=のぞき、なら・・・こうなることもまた相場だったな」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 舞台は再び変わる、此処は『The army of an ashes cross』のアジトの一室・・・ 


 「・・・お呼びですか、『玄武』」

 「ああ」


 暗がりの部屋の中にジークが顔を出した、この部屋はそう・・・『玄武』の部屋だ
 滅多に上がることのない部屋で、居心地の悪そうにいると、闇の中で部屋の主の声がした


 「・・・これを大量生産して貰いたい」


 受け取ったのは鈍い銀色の手帳のようなもの・・・・・・もしやこれは!!?
 闇から伸びた手の内のものをジークが受け取った、初めて持った・・・これが噂の・・・


 「大量生産し・・・組織総ての戦闘能力者全員に配って欲しい」

 「わかりました、スグにでも・・・」


 なかでうなずくのがわかる・・・そしてジークに言った


 「・・・この後用があるのでね」

 「行ってらっしゃいませ、お体に気をつけて」

 「わかっている」


 そう言って・・・その部屋のなかにはジークの気配だけが残った、体からぶわっと汗が滲み出た
 なんというプレッシャー・・・いつになったらあの人を追い越せるのだろうか、自問自答してみる
 ・・・一生無理かもしれないと、いつもの答えが出た・・・遠すぎる存在だ


 「・・・どこへ行かれたのだろうか、いや・・・それよりも言われたことをやらねば!!」


 と急ぎ足で部屋を出た・・・手中の何かがジークの汗でキラリと光った





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