〜能力者への道33・結晶〜
ともしびやま山頂には、何も居なかった・・・そして辺りの光景は寒気を覚える程酷かった
此処に何が居たのだろうか、シショーの予測通り『ファイヤー』が居たのか・・・それも知り得ない
もう誰かが捕獲したのか、それとも・・・この世にも居ないのか
絶望の中で1の島本島に戻り、ニシキから幾つかの情報を得る
そして『宝探し』を勧められる、気分転換にと・・・ニシキの心づかいだった
・・・翌日、『たからのはま』で・・・・・・大はしゃぎで宝探しをする皆、フリかもしれないが・・・それでもいい
そして、新たな手がかりが・・・・・・
「シ〜ぃショ〜〜〜ォ〜」
ゴールドが気の抜けた声でシショーを呼んだ、『ん? なんだい?』と振り返った
シショーが突然、『2の島』行きをやめ、『1の島』の離れ『たからのはま』から南東へ移動中
つまり現在位置は海の上、『なみのり』の真っ最中なのだった
しかも、この進路の海流はかなり激しい、下手すれば流されてしまう・・・
どうしてわざわざ、こんな進路変更についての詳しい理由を聞いていなかった
・・・シショーが『たからのはま』でいきなり・・・
『ようし、新たな手がかりを発見だ! 皆、進路変更して、此処から南東方向を目指すよ!』
って、シショーが言ったら、グリーンさんが・・・その大きさ20cmぐらいの『とけないこおり』を見て・・・
「ああ、わかった。 皆、そういうことで、『なみのり』準備」
「「「「「おーーーーーーっ!!!!!」」」」」
皆がテキパキと動きだし、気持ちを完全に切り替えた・・・ただ1人を除いて
「え? ちょ・・・何で? もう宝探しは終わりッスか!!?」
『さー、急がないと、海の上で野宿になっちゃうよ』
「ちょ・・・話聞いて下さいよぉ〜!!?」
・・・・・・と言うことで、ゴールドは1人完全に・・・取り残されてしまったのだった
「・・・あの『とけないこおり』がどうかしたんッスか?」
『うん、じゃあ聞くけど、「とけないこおり」って何だか知ってるかい?』
唐突な質問にゴールドがしどろもどろになりながら、答えてみた
「ええと、確か・・・『ポケモンに持たせると、氷タイプの技の威力が上がる』んじゃなかったッスか?」
『うん、正解。 では、その「とけないこおり」は何で出来ているのか?』
「・・・・・・え?」
言われてみれば、確かにそんなこと考えたこともなかった
わざわざ『こおり』って言っているのだから、やはり氷で出来ているのだろうか?
いや待てよ・・・『とけない』氷なんて、あるわけがない
となると、氷のような『水晶』で出来ているのだろうか・・・・・・
ゴールドはしばらく悩み考えていたが、やがてポケットからハンカチを取り出しヒラヒラと振った
意味は言うまでもない、『降参』だ・・・ただし、そのハンカチは白くはなかったが
『・・・「とけないこおり」はね、氷ポケモンが無意識に生み出す「結晶」なんだ』
「無意識・・・ッスか? それはどういう・・・」
ゴールドが乗っている『オーダイル』に、『ゴルダック』に乗ったグリーンが近づいてきて言った
「氷ポケモンというのは、技を放たなくとも常に冷気を帯びているモノが多い。
これは一種の『自己耐熱システム』と言われている。 意識的に行っているわけじゃない、無意識にだ。
氷ポケモンが何故、例えば『ホウエン』地方のような気温の高い所でも活動が出来るのか。
まぁ大抵はその地方でも比較的、気温の低い場所を選んで生息しているものだが・・・。
しかし、活動・生息区域は多い方が良い。 その為にはある程度の高気温に耐えられねばならなくなる。
そこで常に冷気を放つことによって、高気温から身を護る・・・これが『氷ポケモンの自己耐熱システム』だ」
成る程・・・んで、『とけないこおり』との関係は?
「この『自己耐熱システム』は、その氷ポケモンのレヴェルが高ければ高い程、帯びる冷気も強くなる。
・・・そして、その冷気が水中や周りの空気中の水分を凍らせることがある」
「わかった! それが『とけないこおり』ッスね!!?」
ゴールドが手をポンッと叩いて、言った・・・しかし・・・シショーとグリーンが同時に言った
『「違う」』
「へ?」
「早とちりするな、莫迦者。 確かにそれは『とけないこおり』と呼ばれることもある。
しかし、所詮氷は氷だ。 暑けりゃ溶けるんだよ、ちょっと特別な氷とはいえ・・・な」
・・・・・・そりゃ、そうか
「しかし、まれに『自己耐熱システム』から放たれた冷気そのものが凝縮し、冷気の塊とも言える『結晶』が出来る。
その結晶が出来るのは、氷ポケモンの中でもレヴェルが高いモノだけ、進化前のポケモンじゃ決して出来ることはない。
そう、『とけないこおり』とはその冷気の塊、『結晶』のこと。 だから『氷タイプの技の威力が上がった』りするんだ」
冷気が凝縮した塊・・・・・・そうか、そうだったのか
ゴールドがふんふんと、うなずくと・・・シショーが言った
『ゴールド、ちょっと下の海、触ってみてよ』
「・・・?」
ゴールドがちょんっと、指先を海に手をつけてみる、ん? ・・・・・・あれ!!?
「なんかちょっと・・・あったけぇ・・・」
「そう、この海流は『暖流』と呼ばれるものだ。 暖かい地方から流れてくる、水温の高い海流のことだ。
こんな海流に、氷が浸かっていれば・・・あっという間に溶けてしまうハズだ。
しかしこの『とけないこおり』は溶けなかった、しかもかなりのサイズだ(※通常は10cm以下)。
仮に溶けてしまった後だとしても、その元の氷のサイズが莫迦でかくなってしまう。 だからこれは『結晶』ということになる」
『でもね、結局は「冷気の塊」なんだから、温かければ溶けたりするんだよ。
でもこれは溶けたとは思えないんだ、何故なら「カド」が残っているからね』
要するに、氷でも結晶でも出来た当初はとがったカドがあるという
しかし溶けていけば、そのカドは無くなり丸みを帯びてくるのだ・・・ジュースの中の氷と一緒だ
でも、この拾った『とけないこおり』はそのカドが全く失われていないと言うのだ
『しかも恐ろしく透明で、濁りが全く無い。 こんな見事な結晶が出来るポケモンはそうは多くない』
・・・・・・ああ、ゴールドにもようやく話が見えてきたようだ
つまり、この『とけないこおり』は・・・・・・
「伝説の鳥ポケモン、『フリーザー』のモノだって、言いたいんッスね?」
『その通り、前置きがかなり長くなってしまったね。
今現在の進路はこの「とけないこおり」が流れてきた方向を、さかのぼっているんだ。
「たからのはま」へ流れ込む海流は以前に比べて少ないから、特定はわりと簡単に出来る。
この先にあるのはいろは48諸島がひとつ、「ちー島」・・・今日はそこを目指す』
「へぇ・・・どのくらいで、着くんッスか?
『このペースだと着くのは大体、真夜中になるかな? ・・・・・・しかし・・・・・・』
・・・・・・おかしい、この辺りの海流はもっと穏やかだったはずだ
いや、それだけではない。
むしろ「ナナシマ」付近の海流そのものがおかしくなっていると、考えた方が良い
・・・これは、失敗だったかもしれない
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
時は同じく、場所は海上
灰色の装束を着たセイルス直属の兵士達が、ある島へと向かっていた
「指令だ・・・奴を始末しろ。 我ら『The army of an ashes cross』の力にかけてな」
兵士達の頭に、セイルスの言葉が響く。 負けることは出来ない・・・
我らはエリートだ、『幹部候補』に認められた兵士・・・・・・全員、赤と青の腕輪を付けていた
兵士達は乗っている『なみのり』ポケモンの速度を上げた、目指すは・・・・・・
・・・・・・「ちー島」・・・・・・いろは48諸島で有数の面積を誇る『灰色の島』へ・・・・・・
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
「シ〜〜〜ショォ〜〜〜」
ゴールドがヘタリと横たわって言った、『ん? なんだい?』と振り向いた
進路変換の理由を述べてから、かれこれ6時間は経過した・・・目指す「ちー島」はまだ見えない
海流の所為で前に進めないという理由もあるが、それでなくとも・・・かなり「ナナシマ」から離れた島なんだそうだ
「島はまだッスか〜〜〜〜?」
『まだ当分先だよ、今ようやく3分の1ってトコかな?』
「おい、ゴールド。 ヘタレ過ぎだ、もう少しシャッキッとしろよ」
「そうは言ってもねぇ、レッド先輩・・・流石に腹も減ったし・・・」
「ちょっとゴールド、お腹がすいているのは皆同じ! 1人だけワガママ言わないの!」
クリスにそう言われ、ゴールドは内心文句を言いながら黙った
でも確かに、朝から『なみのり』しっ放しだ。 今日も日差しが良くて、のども渇く
どこかで休みたい気分なのだが・・・・・・そんな所があるわけない
皆は仕方なく、ビスケットと水筒の水で空腹感などを紛らわせているが・・・疲れてきた
・・・・・・やがて、日も暮れかけ、皆の疲労がピークに達し始めた
誰もが無口になり、1人グリーンをのぞいて『なみのり』を満喫出来なくなってきた
「・・・ど〜〜〜して、グリーンだけ平気なのかしら? タフすぎよね、イエロー?」
「そ〜ですね」
・・・・・・夜8時・・・・・・
皆がグッタリとしてきた、『なみのり』ポケモン達も同じだった
このままでは、皆海流に流され、海の藻屑となって沈んでしまう・・・
『(うん・・・皆そろそろ危ない。 海流が激しくなってたのは、計算外だったな)』
そう、皆のレヴェルならもう「ちー島」に着いていてもおかしくなかったのだ
だが・・・海流に阻まれ、到着が大幅に遅れてしまった
「・・・シ〜〜〜ショォ〜〜〜」
困り果てたシショーが辺りをキョロキョロと見回した、が・・・島なんてあるわけがない
自慢ではないが、シショーはこの辺りの海域の島の位置を全て把握している
・・・この辺りに、他に島があるわけないのだ
「ちー島」まで、あと3時間あれば着く・・・が、それまで皆は保たないだろう・・・
・・・・・・このまま、どうかなってしまうのか? 下手すれば死んでしまう・・・
『(皆、ゴメン・・・)』
突然、レッドの頭の中で響いた、低い男の声
<島がある。 其処で休め>
「(・・・・・・)」
<意識を保て、この声聞こえるならば、お前はまだ死ぬべきではない>
「(・・・・・・)」
<この声聞こえるならば、お前の声に出せ>
「・・・・・・島がある」
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