〜能力者への道41・氷鳥〜




 自称、『この島に着いてから、レッド達の後ろに居た』という男が現れた


 そんなことはありえない、だが・・・・・・この男ならありえてしまうのだ


 皆が謎の男に対して緊張する、こんなふざけた軽そうな男に・・・何があるのだろうか?


 一方、イエローは『対の者』の手持ちポケモン、アブソルに懐かれる


 そして初めて訊かされた・・・アブソル一族の悲しい誤解、目の前にいる子に対して涙を流すイエロー


 そしてフリーザーは『砂漠地帯』で謎の砂嵐に巻き込まれた兵士達を助けた


 争いを好まぬハズなのに、わざわざ争いの原因を・・・・・・フリーザーは何を求め、何を考えているのだろうか










 ・・・・・・10人
 俺に敵意を持つ者が此処に向かっている、この地に来るべきではない者達


 ・・・・・・8人
 ヨルノズクを含めて・・・『砂漠地帯』に居る、俺に敵意はないが・・・1人を除いて『イエロー』を探している


 ・・・・・・対処法は既に決まっている





 男がスッと一方向を見据えた、見えるはずのない敵が居る方向へと・・・
 アブソルもそれに反応し、そっとイエローから離れた


 「? どうかしたんですか・・・?」

 「下がっていろ、イエロー」

 「・・・・・・あれぇ? ボク、名乗りましたっけ?」


 男は黙っている、イエローは何となくうなずいて・・・男の後ろの方へと下がった
 男とアブソルが目をつぶり・・・・・・そっと息を吐いて男が言った


 「アブソル、『はかいこうせん』」










 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「放して下さいッス! 俺、ど〜してもあのふざけたヤローをぶちのめしたいんッス!!」

 「バッ、よせと言っているだろうが!」

 「・・・おもろいな〜、あんさんらは」


 ゴールドがジタバタとグリーンの腕のなかで暴れている、そしてそれを楽しそうに眺める謎の男
 ・・・何故かゴールドはどうも・・・謎の男が気に入らないらしい、森を出る時に1番を取られたコトもあるかもしれない
 いやむしろ・・・・・・同族嫌悪に近いモノも感じるのだろうか


 そんな・・・ゴールドの様子を眺め、今まで笑っていた謎の男の顔がぴくりと反応した
 頭をぼりぼりとかきながら、ポツリと言った


 「ん〜、なかなか楽しい島やと思ってたんやけどなぁ。 ・・・案外、物騒やないか。
 ここはひとつ、巻き添え喰らわん内に・・・また流れましょ♪」

 「待て、テメェ逃げるのか! 俺と勝負しやがれ!!」


 グリーンの腕の中でゴールドが吠えた、謎の男が「あははは〜」と笑った


 「・・・なんや、あんさん・・・わてが恐くないんでっか?」

 「当たり前だ! 誰がテメェみたいな軽そうな男を、恐がるかよ!」


 謎の男が面食らい、そして「んっふっふふ」と不気味な笑顔をした


 「・・・いいなぁ、そのタンカ。 気に入りましたぇ、あんさん・・・名前は何どすか?」

 「・・・ゴールド。 テメェをぶっとばす男の名だよ、逃げるんじゃねぇぞ!」

 「・・・・・・あんさん、イイコト教えてあげましょ〜か?
 『逃げる』っちゅー言葉使うのはなぁ、自分よりレヴェルのたか〜い相手に出くわした時に使うんやて。
 この場合、ゴールドはんが使わなイカン言葉は、『逃げる』やのぅて『見逃す』や・・・」


 途端、ぞわっとした何かがゴールドを襲った・・・・・・もの凄く気持ちの悪い嫌なモノだった
 殺気でもない、これはまるで・・・肌にまとわりつく感じは、感じたことのない妖気みたいだ
 謎の男がまるで手品のようにボールを取り出し、中から『ウソッキー』を出した


 「テメッ、俺のパクリかよ!! ジョートーだ、コラ!」

 「ゴールドはん、そのカッコで幾ら凄んでも・・・こ〜か無いで?」


 ゴールドが「うるせいやぃ!」と叫び、グリーンの腕からまた出ようとジタバタする
 謎の男の周りに砂煙が立ち上り始めた、ゴールドが叫んだ


 「テメェの名前は何だ、訊き逃げかよ!!」

 「・・・・・・『りゅ〜りし・キョウユ』」


 そう言うと、謎の男の姿が砂煙の中で消えた・・・・・・そして突然ゴールドが解放された
 バランスを崩し、少々ふらついたゴールドをグリーンが呼んだ


 「何ッ・・・」


 言い終わらない内にバキィッともの凄い音がして、ゴールドが後方へ飛んだ・・・グリーンが肩で息をしている
 ・・・・・・殴られたのだ
 ゴールドが殴られた頬を手で触れてみると、少し血が出ていた


 「・・・な、何するんッスかぁっ!!」

 「ゴールド、お前の無鉄砲さ・・・今まで大目に見てきたが、今日はもう我慢が出来ん!!」


 グリーンがゴールドに掴みかかろうとするのを、レッドが後ろからその腕を押さえつけた
 今度は立場が逆になった、あの冷静さがウリのグリーンがレッドに押さえつけられジタバタしている
 ・・・・・・もちろん、ゴールドは何が何だかわからない


 ・・・やがて少し落ち着いてきたのか、グリーンがポツリと言った


 「・・・お前は、皆を殺すところだったんだぞ・・・」

 「・・・・・・え?」

 「殴ったことは謝る、しかしお前はあの男に・・・殺される寸前だったんだ」

 「・・・どうしてッスか? あんな軽そうな男、そのまんま・・・威圧感も何も、強そうな感じがしなかったんッスよ?」


 ゴールドの頬が赤く腫れ始めた、ブルーが救急箱から冷却シートを取り出して・・・ゴールドに手渡した
 

 「・・・そこまでわかって、何故気付かないんだ」

 「? だから、何がッスか?」

 「・・・・・・あの男は、人間じゃない。 少なくとも、『気配』がしないんだ」

 「はぁ? 漫画とかじゃ・・・気配って隠せるモノじゃないんッスか?」

 「呼吸音も、生きている気配も、攻撃出来るスキも・・・『何も無い』んだ、まさしく『空気』そのものとしか言い様がない・・・!
 ゴールド、お前は空気を倒せるか? 幾らけしかけても、何にも動じないモノに勝てるのか?
 今回はあの男レヴェルの人間にしかわからない『何か』を感じて、この場から去ってくれた。
 しかし、気が変わって・・・戦うことになれば、絶対・・・・・・俺達は骨も残さず、死んでいた・・・」


 グリーンや皆も、あのぞわりとした妖気で、冷や汗が出ていた・・・


 ・・・・・・んな、莫迦な・・・呼吸音もしないって、そりゃ幽霊とか
 しかし幽霊はポケモンを扱えない、そもそも幽霊がいるかどうかもわからないのだが
 間違いなくこの場にいた人間、しかし俺達では敵わないレヴェルの力を持ち、存在が空気そのものだという男
 

 ゴールドもようやくわかった
 あの男には勝てないことが・・・・・・少なくとも今の俺達のレヴェルじゃ・・・


 「・・・・・・俺が、莫迦でした。 皆を、そんな危険な目に遭わせちまう所だったんッスね・・・」

 『名前、何て言ってたっけ?』

 「確か、『流離士・キョウユ』って名乗っていたわね・・・」

 「・・・『さすらう者』か、出来れば二度と会いたくない・・・な」


 ・・・重い空気が流れる、また新たなる・・・大きな壁と出会ってしまった
 世界は広い
 これ以上の壁もまた存在するだろう、その時こそ・・・乗り越え、どの壁よりも強くなってみせる


 「・・・イエローが心配だ、まだあの男がこの島にいるかもしれないし」

 「だな、今も俺達を見ているのもかも・・・な」

 「ちょ、恐いこと言わないでよ・・・」


 とりあえず皆は立ち上がり、『中央地帯』へと向かおうとした・・・その時だった
 また皆の目の前にフリーザーが現れ、そして導くようにまた前の方を飛び始めた


 「・・・どういうつもりなんだ?」

 「また、道案内をしてくれるんでしょうか?」

 「さてな、まぁ・・・ついていっても良さそうだ」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 イエローは唖然としていた、いったい何が起きたのだかさっぱりわからなかった


 「・・・・・・あのぅ、いったい・・・何をしたんですか?」

 「『はかいこうせん』を放った」


 いえ、それはわかるんですけど・・・じゃあこの威力は何ですか?
 ・・・・・・目の前に、何も無くなっちゃったんですけど・・・



 


 ・・・アブソルが放った『はかいこうせん』、その威力はレッドやワタルの比ではなかった
 その光線の大きさはアブソル自身の2倍以上はあり、通常の5倍以上の威力があるに違いない
 それ以上に驚くべきコトは、『音や衝撃音などが一切無かった』コトである


 通常、モノがぶつかった時には必ずと言って良い程、それに応じた大きな音が出るモノだ
 この場合、『はかいこうせん』ならば、『放つ瞬間』『対象物にあたった瞬間』に・・・もの凄い爆音が辺りに響く程の威力がある


 しかし、アブソルが放った『はかいこうせん』は違った
 確かに大きなエネルギー波だったが、必ずあるはずの溜めの時間が全く無かった
 放つ瞬間は音がしなかった、そして気付いてみれば・・・目の前にあった岩や砂や森や海が・・・全部消えて無くなっていた
 例えれば、鉛筆で書かれた背景を消しゴムで一直線に消した・・・・・・そんな感じだ


 島が消えたのはまだわかる、ワタルも『はかいこうせん』で街を消し飛ばしたコトがあるからだ
 しかし、海を割ったというのは・・・・・・信じられない
 ・・・・・・これがボクの『対の力』である・・・『災厄』の力なんだろうか・・・
 恐すぎる力・・・でも、放ったアブソルも、この人も・・・全く恐く感じない


 むしろ優しくて、哀しい感じがする・・・・・・





 そこでイエローがハッと気付いた、技を放ったということは・・・必ず理由があるハズなのだ


 「・・・・・・誰か、いたんですか? ・・・もしかして、レッドさん達!!?」

 「違う、だが生きている。 『テレポート』で逃げたようだな、まぁ・・・無傷では無いだろうが」


 ・・・・・・『テレポート』、ということは・・・あの組織の人達が?
 この人は狙われているんだろうか、だとしたらやっぱり・・・組織と関係があったからなんだろうか?


 割れた海が元に戻り、消えた島の一部に海水が・・・目の前まで流れ込んできた
 『ちー島』が・・・ドーナッツ型から、欠けた円グラフみたいな形になってしまったようだ


 「・・・・・・イエロー、仲間が迎えに来たようだぞ」

 「え?」


 イエローがキョロキョロと辺りを見回したが、その姿は見えなかった
 そして、気付いてみれば・・・アブソルと共に男の姿も消えていたのだった


 誰かに追われていて位置を知られたから・・・姿を消してしまったのだろうか?
 本当に謎の多い・・・多すぎる『対の人』だ、それに・・・・・・


 「・・・・・・名前、訊きそびれちゃったなぁ」




 
 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 ・・・30分程経った時だった
 イエローがボーっと青い泉でばしゃばしゃ寂しそうに遊んでいると、コツンと頭に何かが当たった

 
 「う〜? ・・・ってあれ? これって・・・『とけないこおり』・・・」


 イエローが見上げると、本当に・・・頭の上をあのフリーザーが飛んでいた
 そして地面すれすれまで降りてきて・・・イエローの周りをふわりと飛ぶと、また上空へと上がっていった
 

 「・・・あ、イエローがいた!」

 「ああ、ホントだ・・・やっと見つけたぁ」


 ・・・今度こそ、皆が迎えに来たようだ
 いや、彼は言うのが早すぎたのだろう・・・・・・ということは、彼は皆が来ることを知っていたことになる
 そんな千里眼みたいな真似は出来るものなのだろうか・・・それとも、それも能力の内に?


 皆がぜいぜいと走ってやって来た


 「あ・・・皆さん、どうしたんですか? 息を切らして、走って来て・・・」

 「「「「「「『イエローが急にいなくなったからだろーがぁっ!!!』」」」」」」


 ・・・すっかり忘れてました、そう言えばそうでした・・・


 「・・・すみません、でもおかげで『対の人』に会えました」

 「えっ! 会ったの、会ったの!!? どんな人? 顔は? 名前は? 何かされなかった!!?」

 「え? あの・・・・・・それが・・・」

 「ああっ、イエローさん! それより、こっちにフリーザーが来ませんでした!!?」


 すっかりクリスは『捕獲モード』に入っている、しかしこの場からいなくなったことを告げると・・・がっかりしたようだった
 グリーンとシショーが「またフリダシか」とつぶやくと、イエローが首を振った


 「追わないであげて下さい、だって・・・もう心に決めたヒトが居るんですから」

 『・・・え? それはどういう・・・』




 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 ・・・何処かの海上、イエローの『対の者』がその上に立っていた
 既に『ちー島』は跡形も見えない、灰色をした海でもない・・・そしてフリーザーが現れた


 「・・・・・・俺と来るか」


 フリーザーがバサリと男の肩にとまった、男がフッと・・・・・・息をついた
 男がそのまま先へと進んでいく、彼は何処へ行くのだろうか・・・・・・
 それを知るのは・・・彼とそのポケモン達だけだった


 


 残された伝説のポケモン、サンダー、スイクン、ライコウ





続きを読む

戻る