〜能力者への道50・闘七〜




 レッドVSバウの戦いは完全に終わった


 結局、新たな手がかりは殆ど得られず・・・・・・レッドは一旦、2の島へ戻ることにした


 一方、イエローの方でも<声>が響く・・・が、イエローにはまだそれは聞こえなかった


 <声>の主はイエローに歌を贈り、平静を取り戻させ・・・・・・勝機へと導く


 その勝機を逃さず、イエローは相手の弱点をついた・・・・・・が、完全には倒すことが出来なかった


 相手の女性は自らの名、シールと名乗り・・・その姿を消し、この戦いはイエローの勝利で終えた


 ・・・・・・さて、時は少々さかのぼる










 「エビぴょん!」


 相手の存在を確認するやいなや、クリスが素早くボールからポケモンを出した
 相手は能力者、能力も何もわからない以上・・・・・・こちらが不利なのはわかりきっていることだ
 ・・・となれば、先手必勝!!!


 「『マッハパンチ』!」


 クリスの指示で、エビワラーが相手のむさくるしい男目がけて走った
 そのままその拳が男に当たる直前だった・・・・・・


 ガキィイィィンとイイ音がした





 「なんじゃ、せっかちな嬢ちゃんだのぅ」


 男ががっはっはっはと笑った、エビぴょんの拳は届かなかった
 そう、突如現れた『氷の壁』によって、阻まれたのだった・・・・・・


 「ワシのポケモン、『ジュゴン』じゃあ!」

 「(・・・・・・氷ポケモン!)」


 クリスがエビワラーを出したのは、相手の風格というか、見た目であった
 山男といえば、出してくるのは『ゴローン』や『イワーク』のような岩ポケモンが中心だ
 もちろん、見た目だけでは痛い目を見る時だってある・・・・・・だがここは、自らの直感を信じたのであった
 しかし、予想とははずれ相手は氷ポケモンを出してきた・・・
 だが、こちらは格闘タイプ・・・タイプ相性では有利かもしれない


 クリスが叫んだ


 「・・・エビぴょん、一旦戻って!」


 その呼びかけに応え、エビぴょんがクリスの元へと下がった
 ・・・男がにやりと笑った


 「い〜判断だ。 よっし! ここはひとつ、ワシの『特能技』を特別に見せたろう」

 「!!!?」


 瞬間、クリス達がいる洞窟内部が・・・・・・凍り始めた!
 もの凄い冷気にクリスは思わず身構え、目を閉じた


 閉じた目はすぐに開けたが、そこはすでに・・・・・・別世界だった
 辺り一面、見渡す場所総てが氷に覆われ、密閉された箱のような空間に逃げることのない冷気が満ちている
 圧倒的な冷気が、クリスの素肌をチクチクとさした
 一言で例えるなら、そう・・・・・・巨大な冷凍庫の中にいるかのような


 「見たか、ワシの、ヒョガンの『特能技』を!
 こいつは『氷箱』という、『ジュゴンの「ぜったいれいど」のPPを総て放出することで生み出した、氷の世界』。
 ・・・その力、『氷箱』内部にいる氷ポケモンの技の威力をあげるのだ」

 「氷の世界・・・・・・」


 まさかこんな『特能技』があるとは思わなかった、自分に有利なフィールドを生み出す力、か
 

 「さぁて、勝負じゃな・・・」

 「わかりました。 あなたを・・・倒します!
 エビぴょん、『れんぞくパンチ』!」


 クリスの先攻か、もの凄いラッシュがジュゴンとヒョガンを襲おうとしていた
 ・・・・・・が


 「ジュゴン、『とっしん』!」


 相手のジュゴンのとっしんで、エビワラーごと『れんぞくパンチ』が吹っ飛ばされてしまった
 その身体を全体重をのせた『とっしん』、氷の床がその速度と威力をあげる・・・
 ・・・・・・パワーが違いすぎる、ただでさえ足場の悪いこの場所では、エビワラーの拳の威力も落ちてしまう


 「次! 『なみのり』じゃあ、ジュゴン!」

 「!」


 ビキビキと『氷箱』の一部が割れ、地下水があふれ出してきた・・・・・・
 その波に乗って、ジュゴンがさらなる『とっしん』をしてくる
 避ける間もなく、クリスとエビぴょんに直撃した


 ・・・・・・水がひくと、急激にクリスの体温が下がってきた
 当然といえば当然なのだが・・・今の状態では非常にまずいことである


 「(・・・身体が、このままじゃ凍死しちゃう・・・)」

 「がははははは、軟弱じゃのぅ!
 見よ、ワシの『トレーナー能力』を。 ジュゴン!!」


 ヒョガンが『れいとうビーム』の指示を出す、エビぴょんがクリスの前に立ち、かばおうとした・・・が
 ・・・・・・その攻撃の矛先は全く別だった


 「!!!?」

 「どうじゃ?」


 ジュゴンの攻撃、『れいとうビーム』はおやトレーナーであるヒョガンにだった
 しかし、一向に凍る気配もなく・・・ピンピンしている


 「ポケモンのとくせいに、『あついしぼう』・・・氷・炎のダメージを軽減するのがあるじゃろ?
 ワシはそのトレーナーヴァージョンで、しかもパワーアップ版!
 『氷属性のトレーナー攻撃を無効化する』能力、雪山育ちのワシにはぴったりじゃ!」

 「(ただの山男じゃなくて、雪山男だったってこと・・・!!?)」


 なんてくだらないシャレだ、しかし・・・それがどうしたというのだろう
 こちらのポケモンはエビワラー、言うまでもなく格闘タイプで・・・相手のトレーナー能力とは全く関係がない
 ただ単に見せびらかしたいだけかもしれない、それならいいのだけれど・・・・・・


 「(ううん、弱気になっちゃ駄目! 早めに勝負をつける以外、この『氷箱』から抜け出せないのだから)」


 クリスが次なる指示を与えようとした時だった、その異変に気づいたのは
 もちろん、これはクリスだけでなく・・・・・・エビワラーにも言えることだった


 「・・・あ、足が・・・・・・動かないっ!!?」


 よく見れば、つま先の方から段々と身体が凍っているではないか
 凍った地面と靴が一体化し、動くに動けなくなっているのだ・・・


 「・・・まさか、これが・・・」

 「その通りじゃ。 これが真の『氷箱』の力。
 その強力な冷気によって、氷・炎ポケモン以外は・・・身体が凍り付いてしまうのじゃ。
 加えて、嬢ちゃんは『なみのり』を受け、身体が水浸し状態。
 体温が奪われ、通常より早く凍り出した・・・というわけじゃ。
 今、この場にいる中で、『氷箱』の呪縛から逃れられるのは・・・このトレーナー能力を持つワシとそのポケモンだけじゃ」


 確かに、クリスの身体はどんどん凍っていっている・・・
 よく動かす関節部位は未だに凍ってはいないが、それ以外の・・・2の腕なんかはうっすらと氷が張っていた
 もうすでに身体の感覚がゼロに近い、無理に身体を動かそうにも・・・


 「エ・・・ビぴょん、『・・・」

 「トドメじゃ、『れいとうビーム』」





 かわすことの出来ないクリスとエビワラー、れいとうビームをその身に受け、見事に凍り付いた





 「・・・・・・完全に凍り付いたのぅ」


 じっとクリスの氷像を見て、決意したようだ
 ジュゴンの攻撃の矛先を、そちらへ向けた・・・・・・


 「嫁さんに出来なくて、残念じゃ・・・・・・。
 ジュゴン、『とっしん』で・・・打ち砕け」


 ジュゴンが氷の床を滑り、そして・・・・・・










 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・




 
 ・・・ここはどこだろう、暖かい・・・



 クリスはいつの間にか春を感じる野原で、ふと目を覚まし・・・むくりと起き上がった


 チョウチョが花の間を飛び、小鳥の声がチチチとさえずる
 ・・・・・・一匹の野ウサギがクリスに近づいて、その膝の上にちょこんと座った
 その体温が直に伝わってきて、とても温かい・・・クリスが膝の上の野ウサギをなでた
 
 
 「可愛い・・・」

 「なァにが『可愛い』だ! 真面目ギャル、現実逃避してんじゃねぇぞ! ゴラァ!!」

 
 クリスがハッとなって、声のする頭上を見た


 「!!? ・・・・・・ゴ、ゴール・・・ド・・・」

 「とっとと目ェ覚ましやがれ。 テメェは今、戦ってる最中だろうがよ!!」


 突然、目の前にあったのどかな風景が消えていってしまった
 チョウチョも、草も、木も、小鳥も、温かい日差しも、この膝の上にいた野ウサギも・・・
 ・・・・・・残っているのはゴールドとクリス、そして何も無い・・・暗い空間、世界・・・


 「・・・・・・どうして?」

 「あ?」
 
 「どうしてあのまま夢を見させてくれなかったのよ!!」

 「バァカ。 それが『現実逃避』ってやつだろーが」

 「私はあのまま・・・・・・あの場所にいたかったのに」


 ぐすんぐすんと、クリスが泣き出した・・・ゴールドは流石にバツが悪そうな顔になった
 

 「・・・・・・皆に会えなくなっても、あのまま・・・あの世界にいたかったのか?」

 「・・・勝てないんだもん」

 「はぁ?」

 「相手、能力者なんだよ。 私、能力者じゃないもの」

 「・・・・・・んで?」

 「強いの。 手も足も出なかった」

 「はぁ、そうなんですか。 へぇー」

 「・・・わかるでしょ?」

 「わかんねぇ」


 クリスがムッとした、自分から聞いてきたくせに生返事ばかりで・・・


 「当たり前だろ。 お前、まだ何もしてねぇじゃん」

 「したわよ!」

 「何を」

 「それは・・・・・・」


 言葉に詰まった、確かに戦ったんだけど・・・あまりにやられるのが早すぎて


 「だろ? あれがお前の全力か?」

 「・・・・・・」

 「全力出さねぇ内から、敗北宣言? ふざけるのもいい加減にしろよ」

 「だって・・・相手は・・・」

 「ああ、そうかよ! だったら、勝手に死んでろ!!」


 クリスがビクゥッとそのゴールドの言葉におびえた
 ゴールドの目は怒りでみなぎっていた・・・


 「あばよ」

 「・・・いや、待って・・・・・・1人に、しないで・・・」

 「知るか。 弱音吐き続けるヤツのことなんざ、いつまでいたってつきあいきれるもんじゃねぇからな」

 
 ゴールドの姿までもがスッと消えた、本当の闇が・・・・・・クリスを覆いだした


 ・・・・・・イヤ、まだ死にたくない


 会いたいよ、皆に・・・・・・生きて! 会いたい!





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 ジュゴンの『とっしん』がクリスの氷像に激突した瞬間、もの凄い音がした


 「・・・・・・いつになっても、この氷像砕きは、嫌な音がする・・・」


 いや、待て・・・・・・この激突音、いつものとは違う!!?
 これは・・・・・・いったい、どうなっているんだ





 「・・・・・・『ほのおのパンチ』」


 エビぴょんの拳がメラメラと燃え上がっている、氷像になったはずなのに・・・その氷が溶けていた
 完全に凍り付いたはずだった、それをエビワラーの『ほのおのパンチ』で自分自身の氷をも溶かした
 ヒョガンは驚愕していた、まさか・・・・・・そんな莫迦な話があってたまるものか!


 「『れいとうビーム』!」

 「エビぴょん、跳んで!」


 クリスが叫ぶと、エビワラーが宙に跳び・・・れいとうビームをかろうじてかわした
 そのままエビワラーが相手目がけて、拳に力を入れ始めた
 ・・・・・・それを見て、ヒョガンはがはははははと笑った


 「『ほのおのパンチ』で窮地を脱したことは認めてやろう!
 だが、その後がいけないのぅ! 何がって? れいとうビームを跳んで避けたことじゃ!
 そしてそのままワシらに攻撃を加えるつもりのようじゃが、あまいあまい。
 まともな体重移動も出来ないパンチなぞ、蚊が止まる!」


 確かに、パンチのような突き系の技はしっかりと地面に足をおろし、その威力を発揮するものだ
 何故なら、拳は足技に比べて力が無い・・・更に爪や牙などと言う直接的に殺傷力を持つものではない
 ・・・そのため、腰をひねって全体重を拳に上乗せする・・・いわゆる『体重移動』が鍵となる
 この体重移動がなければ、パンチは何よりも威力のない貧弱な技となってしまうのだ
 故に足場が凍っていたり、宙に跳んでいる時などは・・・充分な威力を持つ技にはなり得ない





 「・・・そのことをわかっておるのかぃ、嬢ちゃん!」

 
 しかも宙に浮いているモノほど、狙いやすい存在もない
 ヒョガンのジュゴンが再び『れいとうビーム』を放とうとした





 「・・・ヒョガンさん、『キックボクシング』って知ってます?」

 「・・・・・・はぃ?」


 クリスがエビぴょんに指示した


 「『まわしげり』!!」


 予想もしていなかった技が、ジュゴンとヒョガンごとにクリーンヒットした
 そしてそのままいきおいづいてしまい、彼らが『氷箱』のあちこちを滑り、体をぶつけていた
 ・・・・・・流石、氷の床はよく滑る・・・まるでアイスホッケーのようだ


 何度も体をぶつけている内に、目を回し・・・・・・気絶してしまったようだ
 この戦いの中で一番情けない負け方だった、テレポートの光が彼らを包んでいく・・・
 

 「・・・・・・勝ったよ、ゴールド。 ・・・ありがとう」


 そう1人でつぶやいているのに気づき、クリスの顔がかあぁと熱くなった
 ぶんぶんと顔を振って、落ち着いて・・・何故、あんなヤツがあんな場所に出てきてしまったのかを真剣に悩み始めた


 「と、ともかく・・・早い内に、皆の所へ戻らないと・・・」


 皆の安否が気にかかる、一旦・・・・・・2の島へ戻ってみよう
 ・・・・・・それに、夢の中とは言えゴールドはあんなことを言ったんだ
 何かしらの暗示だったとすれば、ゴールドはすでに敵を倒しているに違いない・・・
 そうクリスは確信していた、少なくとも・・・今の私より強いゴールドが負けるはずがない、と


 







 シングルバトル決着 〜フィールド・洞窟〜

 クリス&エビぴょん♂(エビワラー)VSヒョガン&ジュゴン♂

 勝者クリス 敗者ヒョガン


 使用したトレーナー能力

 クリス『無し』

 ヒョガン『自身攻撃氷属性無効』・・・氷属性のトレーナー攻撃を総て無効化する。


 使用した特能技

 ヒョガン『氷箱』・・・使用ポケモン・ジュゴン

 ジュゴンの『ぜったいれいど』のPPを総て消費することで生み出す強固な氷の結界。
 その内部にいる氷ポケモンの技の威力を上げる。
 また、内部に長い間いると氷・炎ポケモン以外は総て凍り付いてしまう。
 脱出するには炎タイプの技か、所詮は氷製なので、圧倒的な威力を持つ技の前では砕かれるのみ。
 
 




 



 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 ずぶずぶと地面の中へと沈んでいく子供の手があった
 その手は助けを求めるかのように、必死であがいて・・・動いていた


 そんな様子を顔色ひとつ変えずに見ている少年がいた
 

 完全にその子供の手が地中に埋まった
 それを確認すると・・・・・・ポケギアを手に取った
 慣れた手つきで番号を呼び出し、かけている・・・・・・それはすぐにつながったようだ


 「・・・ゴールド抹殺任務、完了しました。 ディック様」

 『ご苦労さん、シルバー・・・』
 




続きを読む

戻る