〜能力者への道52・闘九〜




 ゴールドVSシルバー!!?


 そのことが信じられぬゴールドは、偽者だと糾弾する


 ・・・・・・が、一笑される


 仕草も特徴も声までもが本物そっくりで、誰が見ても正真正銘の・・・・・・


 シルバーを勧誘したのは、驚くべきことに『四大幹部・青のディック』・・・場所はともしび温泉でのこと!


 明かされる『ゲーム上の正義』、それこそがシルバーが裏切った原因!?


 ヤツらの組織にシルバーを渡さないためには、勝つしかないんだ・・・ゴールド!










 「いくぜ、バクたろう」

 「・・・思い出すな、あの時の『エンジュシティのタイマン』を」


 ゴールドとシルバーは互いのパ−トナーを見た、そう・・・あの時も先鋒はこの2体だった
 その時はバクたろうの分身騙しに翻弄されつつも、力押しでアリゲイツが勝った
 ・・・・・・今回も、そうなってしまうのだろうか
 ただでさえ、タイプ相性が最悪なのに・・・2人のトレーナーレヴェルは以前のままならほぼ互角
 

 勝利の女神がいるならば、そのどちらに微笑むのだろうか
 ・・・・・・まぁ、タデ食う虫も好きずきというし、ゴールドにも可能性はあるだろうがねぇ





 「・・・戦いの合図は、コイツでどうだ?」


 シルバーが取り出したるは鈍い銀色を放つコイン、ゴールドはうなずいた
 ・・・・・・覚えてはいるだろうか、この『合図』は〜レッド&グリーンVSディック戦〜の時と全く同じだと言うことに
 ディックがコインを弾いたその時の勝者は・・・・・・言わずとも知れているだろう


 ピィィイイィンと指で弾かれたコインが、飛んでいく・・・・・・




 
 そのコインは2人の間などには落ちず、ゴールドから後方2〜3mという所の地面にカチャンと落ちた
 全くの見当はずれの方角だったが、2人の感覚は緊張感により研ぎ澄まされ、その音を敏感にキャッチした





 シングルバトル・スタート! 〜フィールド・廃墟〜


 ゴールドとシルバーがいる場所について、説明しておこうと思う
 ゴールドが落ちてきた地点、そこはある孤島の神殿跡・・・廃墟地だった
 量はそれ程でもないが、その孤島にも『ちー島』同様に灰が降り注ぎ、この辺の地面は火山灰などの層で出来ていたりする
 廃墟を詳しく見れば・・・天井がドーム上になってはいるがあくまでの自然物、といった感じの場所だった
 そう、ここはその昔この島の住民だった人達が『神殿』として使われていた場所であった
 あくまで自然に造られた天然のドーム、晴れた日には採光も出来る・・・神聖な土地と考えたようだ
 そして人々は此処に祭壇などを設けたが、数十年程前に流行病かで住民は全滅したか、他の島に移住した様子・・・
 今では昔の神殿も見るに耐えず、祭壇などの建築物は地面に9割方埋まっている始末だ
 ・・・・・・住民がいなくなり、そして現在でも無人の状況は続いている・・・そんな場所だ


 


 「バクたろう、『かえんぐるま』!」

 「莫迦め、水が炎に負けるとでも? 『ハイドロポンプ』だ、オーダイル」


 シルバーの理にかなった技の選択、バクたろうの技がかき消されてしまう
 それでも勢いの衰えぬ水流に、ゴールドとバクたろうは後ろに跳び、それをかわした
 オーダイルと共にシルバーが廃墟の跡、がれきの上に跳び・・・追撃を指示した


 「『うずしお』!」

 「うわっとォ!!?」


 ゴールド達は渦から逃れるべく、一旦跳ぼうとしたが・・・・・・足下では何も起こらなかった
 どうやら技は不発に終わったようだ、そもそもシルバーがオーダイルに『うずしお』を使わせるのは初めてのことだった


 「(・・・ヤロォ、なにか狙いが?)」


 少々思案したが、足下に先ほど落ちたコインが地面に半分以上埋もれかけているのを目ざとく見つけた
 ゴールドが「勿体ない」と言いそれを拾う、残念ながらその所為で思案が続かなかった・・・
 その様子をシルバーは半ばあきれながら見ていた


 「・・・・・・エンジュシティの時と同じ行為を繰り返すか、つくづく成長しないな、お前は!!」

 「へっ、バトル中の拾いモンは縁起が良いんだぜ・・・?
 確か・・・あン時も、テメェの落とし物を拾って、俺が負けてやったんだっけか?」

 「・・・言ってろ、莫迦が」

  
 シルバーとのお喋りの間にスキを見たのか、ゴールド達がそのままがれきの上にいるシルバー目がけて突っ込んできた
 タイプ相性で負けてしまうならば、とにかく攻撃回数を多くし・・・勝機を見つけるしかない、との判断だろうか
 しかし近づけば近づくほど、シルバーにとっても狙いやすくもなるのだった


 ゴールドは技の指示をしようとしたが、すぐには言葉が出てこなかった
 ・・・・・・やはり、まだためらいが残っているのだ
 共に旅をし、戦ってきた・・・・・・ライバルを、友を、戦友を攻撃することに
 だが、シルバーの方はそう甘くはなかった





 「『かみつく』の攻撃!」


 オーダイルの口がグワッと開き、ゴールド達に襲いかかる
 ・・・そこを何とか回避するが、そのあまりの迫力にゴールド達はひるんでしまった
 更なる追撃として、シルバーは『おんがえし』の指示を出す・・・・・・ゴールド達は軽く吹っ飛んだ


 「うわ・・・・・・と、っととォッ!!?」


 ぬちゃっと音がして、ゴールド達は無様な格好で地面に衝突した・・・
 だが、これでわかった・・・オーダイルの覚えている技が、だ
 『ハイドロポンプ』『うずしお』『かみつく』『おんがえし』・・・か、いつぞやの『れいとうパンチ』はハズしたようだ
 ・・・・・・完璧にゴールドの、バクたろう対策に技をカスタマイズしている
 それにこれからの戦い、なるべくパーティのタイプを増やしたい、とシルバーが言っていた
 それで・・・『赤いギャラドス』を旅の前にハズしたことを今更ながら思い出した
 ということは、あの『うずしお』はハズしたギャラドスの代わりに覚えさせた、ということか
 

 しかし、それにしても・・・・・・
 

 「・・・何、今の・・・『ぬちゃ』って音・・・」

 「今頃気づいても遅い! 『うずしお』!」


 ゴウッと辺り一面に広がる大きな渦潮が発生した、今度は不発じゃない・・・?
 ・・・このままだと、足下が・・・身動きが取れなくなる!!?





 ・・・・・・と思ったのだが、違った
 足下が、足下から・・・・・・ズブズブと沈んでいっているのだ
 そう、まるで・・・『底なし沼』のように


 「・・・何だこりゃ、オイ・・・いったい・・・」

 「数々のがれき、何故その殆どが沈んでいるのか・・・考えなかったのか?
 年月により風化、埋没はよくあることだが・・・此処の地面は火山灰や砂が多く混じっている。
 故に、雨などの水を含むと簡単にその地盤としての機能を失い、上にある建築物などを呑み込む。
 ・・・つまり此処は水分を多く含むと『底なし沼』と同じようなモノになる、ということだ。
 そして、その『底なし沼化』が一番激しい所、その目印となったのが『コイン』だ。
 一度目の『うずしお』は失敗ではない、ここら一帯に『水を与える』ことだったんだ。
 ただでさえ、火山灰地層は水はけがいい・・・・・・だがまぁ、コインが沈み始めたのでその確認したがな」


 ・・・・・・あの時、ゴールドが拾ったコインは確かに・・・半分は沈んでいた


 「『かみつく』でひるませ、『おんがえし』によりそのコインがあった位置まで吹っ飛ばす。
 その位置まで飛ばしたことを確認した後、再び『うずしお』を放った、というわけだ・・・。
 莫迦以上の根性を発揮するお前を完全に始末する為には、こういった方法が一番だと思って、な・・・」

 「んなろォ・・・脱出したる!」


 だがズブズブと身体は沈み続けていく、思うように身体が動かない・・・『うずしお』の効果だろうか
 バクたろうの方も苦しそうだ、水攻めはやはりこたえるのだろう・・・


 「・・・・・・お別れだ、ゴールド。 オーダイル、『ハイドロポンプ』」

 「シ、ルバァアァ・・・」


 ゴールド達に水流は直撃、バクたろうのHPはもうないだろう・・・力尽きている
 ・・・最後の手も出すことなく、ゴールド達は土中に・・・・・・沈んでいった
 





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・



 


 シルバーはそのゴールド達の沈みゆく手が、完全に視界から消えたのを確認した
 くるりと背を向け、ポケギアを取り出し、番号を押し・・・・・・コール音を聴き、相手が出た


 「・・・任務完了しました。 ディック様・・・」

 『ご苦労さん、シルバー・・・』

 「・・・・・・これからどうしましょうか」

 『そうだねぇ・・・・・・』


 ディックが思案している間、シルバーは汗が止まらなかった・・・・・・汗が?
 ハッとなって振り返った・・・・・・そんなハズはない、だがこの汗は何だ・・・!
 明らかに地熱、地面が熱くなっているのようだ・・・・・・


 『・・・・・・おーい、どーしたのォ?』


 ディックの呼びかけも耳に入らない、シルバーが一点をただ凝視している



 


 ・・・・・・そして、大地がひび割れた


 「・・・だ、ダァアアーーーーーッ、スッキリしたァアアッ・・・!!!」

 「!!? 莫迦な、何故生きている・・・」


 大地がひび割れ、現れたるはその身を沈めたはずのゴールドとバクたろうだった
 動揺を隠せぬシルバー、そして何故か「スッキリした」と叫ぶゴールド
 

 わけがわからない


 ・・・・・・シルバーは驚きはしたが、すぐに体勢を立て直した
 おそらくゴールドは自身の危険をかえりみず、消えかけたバクたろうの炎で土を乾かした
 更に、固まった大地を『あなをほる』して・・・地上に出てきたに違いない・・・!
 そして冷静な判断のもと、オーダイルに指示をした


 「死に損ないがッ! 『ハイドロポンプ』!!」

 「突っ込め、バクたろう!!」


 また同じことの繰り返しか、シルバーは冷笑した・・・結局、何ひとつ変わっていないではないか
 4つ足で激走するバクたろう、水流に激突する瞬間に今度は2本足で立ち上がり、更に突っ込んでくる


 ・・・・・・水流との激突





 更に驚くべきことに、『ハイドロポンプ』の水流をその身に受けながらもバクたろうは立っていた
 何かおかしなアイテムでも使っているのか、そんなアイテムなんかあるわけが・・・・・・
 思案するシルバー・・・突然、ゴールドが話し出した


 「俺は莫迦だった。 いや、マジで冗談抜きで、だ。
 シルバーだから手が出せない、今まで一緒に居た仲間だから・・・?
 ・・・・・・俺は莫迦だったのさ、土ン中に居て反省したよ」

 「・・・ッ! なら、もう一度沈んでこい!!」

 



 「・・・よーやく目ェ覚めたぜ、あんがとよ・・・シルバー。
 いや、もうシルバーなのか、偽者なのかなんざ、もうどっちだっていいんだよ。
 ただ、あんな腐れ組織に手なんか貸すようなヤツの・・・その、ねじ曲がった根性を叩き直してやる!!
 ・・・そんだけだ、こンのバカヤローがァアァァッ!」


 瞬間、バクたろうの周りに変化が起きた・・・・・・あの水流が蒸発していく・・・!!?


 「・・・・・・コイツが俺の奥の手だ。 バクたろうの『かみなりパンチ』ィッ!」

 「・・・ッ!!?」

 
 シルバーの方の『ハイドロポンプ』がみるみる内に蒸発、いや・・・・・・『電気分解』されていく!
 そしてその水流が消えていくたびに、バクたろうの拳がまとう電撃が大きくなっていくのだ


 「ちんけなヤローの水流なんざ、呑み込んじまえよ・・・」

 「(しまった・・・! 能力者の特典か・・・!!?)」


 そしてついに、オーダイルとバクたろうの距離がゼロになった
 極大の『かみなりパンチ』を受け、オーダイルもろともシルバーが吹き飛び・・・ポケギアがガシャンと落ちた


 「・・・・・・くそっ!」

 「・・・・・・トドメだ、『オーバーヒート』ォオォォッ!」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 
 

 「・・・・・・あーららぁ、壊れたな。 向こうの」


 ディックが頭をボリボリとかいている、そして自分のポケギアも放り投げた
 立方形の箱ような暗い部屋、未だに全貌を明らかにされていない彼らのアジトの一室だろう・・・


 「・・・くだらん茶番劇はもう終わりだ、ディック」

 「あ、ジーク。 ・・・そう言わないでよ、結構面白かったんだから」

 
 ディックが苦笑しながら言う、いったいいつの間にジークは背後に立っていたのやら
 だが、それだけではなかった


 「ホントよねー、勝手に兵士達を動かしてさぁ? 色々仕込んでいたのに、残念だったわね・・・」

 「せめて私にぐらい、作戦の全貌を教えておいてください。 困るんです、正直に言いますと」

 「・・・・・・げ。 リサにタツミまで・・・」


 ディックが後ずさるが、逃げ場はもうすでに無い・・・
 諦めたように、ディックはポケギアを拾い上げると、再び耳を当ててみた
 ・・・・・・ため息をついて、通話ボタンを切った


 「・・・通話不能。 おそらくやられたね。
 ゴールドの決め技はおそらく『かみなりパンチ』、続けて『オーバーヒート』かな」

 「聞こえていたのか?」

 「まさか。 推理だよ、ス・イ・リ」

 「それはともかく、ディック様はいったい何をお考えなんですか・・・」

 
 タツミの問いかけに、ディックが「んー」と猫のように目を細めて言った


 「この作戦の、本当の目的はねー・・・・・・」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 辺り一面黒こげになってしまった、相手のシルバーはもう立ち上がれないだろう
 ・・・ゴールドはシルバーに歩み寄った、さて・・・どうやって運ぼうか
 そう思い、シルバーの顔に触れた瞬間だった!


 「・・・・・・オイオイ、ンなのアリかよ・・・!!?」


 ぬるりとした質感、べろりとシルバーだった顔の皮がはげ・・・別人の顔が出てきた!!?
 傍らでのびているオーダイルも同時に溶けてしまい、残ったのは別人28号ときぜつした『メタモン』だった
 驚きを隠せず、思い切り動揺するゴールド・・・


 「・・・トレーナーごと『へんしん』する能力ってヤツなのか・・・?」


 ・・・・・・ってことは、今、本物のシルバーはいったい何処に・・・
 いや、そんなことよりも・・・・・・


 「・・・へっ、やっぱりシルバーは裏切ってなかったじゃねぇ・・・か・・・」


 本当に安心し、緊張の糸が切れたゴールドは、バクたろうと共にその場に崩れ落ちた
 一度は本当に土中に沈み、まともな息も出来なかったろうに・・・その後の大奮闘
 ・・・今まで倒れなかった方が不思議である
 

 ・・・・・・だが、倒れているゴールドの顔は満足げだったという・・・
 
 








 シングルバトル決着 〜フィールド・廃墟〜


 ゴールド(バクフーンの『バクたろう』♂)VSシルバー〔偽〕(オーダイル〔メタモン〕)

 勝者ゴールド 敗者シルバー(偽)


 使用したトレーナー能力


 ゴールド『携帯獣孵化』だが、バトルでは使用せず。

 シルバー(偽)『人真似』・・・メタモンの『へんしん』に関する能力。


 使用した特能技

 シルバー(偽)『トレーナーへんしん』・・・使用ポケモン・メタモン

 基本的なことは通常と変わらないが、その『へんしん』の対象はトレーナーまで含まれる。
 対象ポケモンにへんしんした後、自分のトレーナーの体表面にメタモンの身体が巻き付き、その対象ポケモンのトレーナーにへんしんする。
 息などは普通に出来るが、声や仕草まではへんしん対象にはならない。
 また、メタモンの身体はひとつしかないので、本体から半径1m以上離れることは出来ない。





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・がはっ、ゴホゴホッ・・・・・・」


 鮮血、幾度切り刻まれたのだろう・・・俺の身体は
 遠くの方にニューラが血まみれで倒れている、何度も俺をかばって・・・・・・


 ・・・・・・目が霞む・・・・・・





 彼処に見えるは『黒いストライク』・・・・・・


 飢えた野獣の眼、その黒髪は死に神の・・・・・・喪に服する色と同じ色





 「立て」


 恐怖によるせいか、断片的に聞こえる・・・地獄の底から響き、這い上がってくるような声


 「殺死合(ころしあい)を続けるぞ・・・」


 「立て」


 「でなければ、楽には殺さない」


 「立て」


 「俺の任務は・・・・・・」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・・・・本当の目的とは?」


 ディックがにやりと笑って言った


 「シルバーの暗殺。 そう・・・完全なる抹殺命令


 リサがふぅんとうなずき、問い返した


 「差し向けた相手は?」


 ジークがフンと鼻で笑い、言った


 「予想は出来るさ、彼奴だろう・・・?」

 「うん、彼にかなう人間は・・・そうはいないよね」





 「・・・・・・『幹部候補』最強の男、『ジン』にさ」





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