〜能力者への道54・闘終〜




 謎の男、『フリッツ』の報告により、ジークはディックの悪巧みをようやく知った


 そして問いつめ、訊きだした計画の詳細


 この計画、実はレッド一行のトレーナーとしての、また能力者としてのレヴェルアップのためだという


 その為に下級兵士を選んだ事実、その裏に隠された『幹部候補』最強の男、ジンの手によるシルバー暗殺計画!


 この計画に狂いは生じてくれるのか、でなければ・・・


 何処ぞの地にて、シルバーとジンの戦いも終盤に突入した


 明かされたジンの能力は『斬り裂き魔』、名の通り「きりさく」に影響する能力


 勝てぬ相手、格が違いすぎた


 深く斬り裂かれたシルバーは意識を失い、ジンがトドメをさそうとした瞬間に


 謎の人影が4つ、シルバーの前、ジンの前に現れたのだった










 「いやぁ〜、ナナシマ全海域なんて、範囲が広すぎるよ〜」

 「ウム、おかげで大分遅れてしまった・・・」

 「うわっ、ちょ・・・これ間に合うのかい、シルバーの治療!!?」

 「・・・さて、コイツの相手は・・・どうする?」


 人影4つはジンの方を見た


 「殺死合うか」


 黒き獣、ジンがにやりと笑った
 謎の人影達はシルバーとジンの間に立ち、血まみれのシルバーをかばっているようだ


 「・・・だが、相手をするのは後だ。
 人間は脆く弱いくせに、時に信じられないまでの力を出すことがある。
 そう、俺は人間でも何でも、その首を斬り飛ばすまで安心出来ない。
 だから、先にそいつの首を斬り、任務を完遂してから・・・殺死合おうか」

 
 ジンがストライクと共にザッザッザッとシルバーの方へ歩み寄ってくる・・・
 その眼にはやはり尋常じゃない殺気がこもっている


 「・・・厄介な相手だ。 行動そのものはぶち切れてはいるが、頭は冷静そのものとは・・・」

 「で、どうするのさ。 早くしないと、コイツの命が・・・」


 人影達が互いに目配せし、同時にジンの方にも注意を向ける・・・が
 

 「・・・なら、先鋒はボクがいくよぉ〜!! 『ネイティオ』!」


 突然、人影の1人、男がジンの前に飛び出した!
 ジンのストライクがその刃を突きだし、牽制し・・・同時にネイティオとそのトレーナーに斬りかかってくる


 「任務遂行の邪魔だ、消えろ!」

 「消えないよ〜だぁ! いっけぇ〜、ネイティオ」


 ネイティオが『サイコキネシス』で反撃を始めた、接近戦では不利だと判断したのだろう
 そんな戦いの様子を見て、人影の内にいた女性が舌打ちした  


 「あの莫迦! アンタじゃタイプ相性的にマズイじゃないか・・・ッ!」


 ・・・シルバー、ジン、そして後ろにいた残りの2人と、順に目を向けて言った


 「1対1はマズイ、ここはアタイも加勢する。 だから・・・・・・コイツのこと、頼んだよ」

 「承知した、全力を尽くす」

 「ウム、其方も2対1とはいえ・・・気を抜くなよ!」

 「・・・誰に向かって言ってるんだい、その言葉を、さ。
 奴の技は『ノーマル』タイプの『きりさく』主体の能力なんだろ?
 ・・・なら、行くよ! 『ヤミラミ』!!」


 女性もバッと同じように飛び出し、ジンの前に立ち塞がった
 ジンもまた舌打ちした、何故邪魔をするか・・・!


 「あははは〜。 待ってたよぉ、カリン〜」

 「ッたく、何やってんだい、イツキ!
 ・・・アンタは後方支援に回りな、はっきり言って邪魔!
 それに『あく・ゴースト』タイプのヤミラミなら、奴の技をかわせるだろ・・・」

 「・・・・・・『イツキ』、『カリン』・・・」


 そう、確かに聞き覚えのある名だ・・・・・・シルバーとの関連は・・・


 「・・・ククク、アハハハハハ・・・」


 ジンがいきなり笑い出した、イツキとカリンは顔を見合わせた
 ・・・笑い、顔を伏せ・・・黒髪がバサリと揺れた


 そして、異常なまでの歓喜と殺気に満ちた眼が、髪の隙間からのぞいた
 それにひぃっとイツキがおびえた


 「・・・思い出したぞ! 資料にあった顔だな、覚えているぞ!
 そうか、貴様らは『マスク・オブ・チルドレン』の使い走りか!
 成る程、かつての同門のよしみで助けに来たか・・・!?」

 「・・・・・・よそ見をしてる場合かい!!?」


 カリンのヤミラミの攻撃が、ジンのストライクに思い切りヒットした・・・





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・



 

 「・・・そういやさ、ジンが上に来ない理由って何? ジーク、アンタが原因なんでしょ」

 「そうだ」

 「じゃ、理由話してくれる?」

 「・・・・・・別に。 奴がただ『負けず嫌い』なだけさ」

 
 ジークがしれっと言った、リサが首を傾げている


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 血腥い噴煙
 夥しい数の武器の残骸
 無惨に山となった肉の塊
 乾いた風が吹き抜けていく荒野で
 渇いた欲望が叫ぶ戦場の地にて
 俺達は戦い続けた
 己の肉体を
 相手の肉体を
 己の精神を
 相手の精神を
 削り取りながら
 磨り減らしながら
 幾日も
 数十日も
 何度でも立ち上がり
 高ぶる意識と
 暴走する本能と
 壊れた理性を保って
 

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 「奴は負けず嫌いなのさ、それこそ極度の、な。
 俺が上にいるならば、奴は下で強くなり・・・俺の総てを完全に越える気なんだ。
 そうやって・・・俺達は進歩のない精神と、限りない闘争を繰り返してきたんだ」

 「・・・・・・あー、成る程。 そーいうことなの、へぇー」


 もうやってられるか、と言わんばかりにリサは棒読みで言った
 ・・・しかしまぁ、何故だかディックは知っていたようだ・・・もう興味もないようで寝ていた
 タツミも聞かされてはいたのだろう、要はリサだけ知らず、仲間はずれ的疎外感を憶えた


 「(うーん、これは結構ムカつくかも)・・・・・・要はアンタら、似たもの同士なわけね」

 「不本意ながら、そうだ。
 だから、彼奴は俺以外の誰にも負けることはないし、本人もそれは許さないだろうな」


 ジークがフゥとため息をつくと、ディックが寝言のように、ポツリと言った


 「・・・でもひとつだけ、ジンを負かす方法があるんだよねぇ」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
 
 



 カリン達が前線で戦い始めた頃に、残りの2人も動き始めた
 大岩にもたれかかり、血まみれのシルバーを慎重に2人がかりで平らな地面へと寝かせた
 ・・・人影の男がシルバーの身体に手を触れた


 「・・・具合は、どうなんだ」

 「・・・マズイな、重度のショック状態だ」

 
 手当を担当するのか、人影の1人がシルバーの身体の傷を空でなぞった


 「肩口から斜めに斬り裂かれた傷、明らかに致命傷だ。
 他は、そうだな・・・この下腹を横一文字に斬り裂かれた場所も厄介だな。
 そしてこの状態、それでなくとも出血死となる危険も高い。
 兎に角、先ずは主だった斬り傷の止血だ!」
 
 
 ビリッと白布を噛み切り、包帯状にしていく
 それを手早く巻き付ける、同時に止血作業も行い、それらを繰り返す・・・
 だが、何せ傷の数が多すぎる・・・生きている方が不思議なぐらいだ
 

 とたん、シルバーがガハッと血を吐いた


 そしてそれと同時に、カリンがズシャアァアッと地面をこすり、倒れ込んできた
 何とか起き上がるが、やはり驚きは隠せない・・・


 「ク・・・ッ、ヤミラミが、まさか・・・」


 先に攻撃を当てたのはヤミラミの方だった、しかし全くと言っていいほど効いた様子は無かったのだ
 斬り裂かれたヤミラミの身体、ノーマルタイプである『きりさく』がゴーストタイプにヒットするなんて・・・


 「レヴェル4・『如何なる相性もこの刃の前では無効と化す』」

 「「「「!!!!!!!!????」」」」
 
 
 なんてことだ


 ノーマルタイプはゴーストタイプをのぞけば、ほぼ万能に扱えるタイプ相性として知られている
 が、それでも効果や威力が薄いタイプは存在するし、何度も言うがゴーストタイプの前では、無力だ
 しかし、奴の能力は・・・・・・それを越えた、超えたものだっったのだ
 ゴーストタイプの身体にさえ、ヒットする・・・「きりさく」に対してだけ、相手の抵抗力を無効にする能力
 通常の威力は70だが、奴の能力で2倍の『140』
 更に間合い内とは如何ほどかはわからないが、その中なら必ず命中する能力に加え、そんな能力まで・・・!!?


 圧倒的な超攻撃的能力
 まさに戦い、相手を斬り裂き、殺すためだけに特化した能力・・・・・・





 「・・・となれば、ここはオレも行くしかあるまい。
 キョウ殿、すまないが後は・・・」

 「わかっておる、シバ殿」

 
 後方にいた2人の会話を聞き、ジンの頭の中で何かがはじけた


 「・・・! そうか、何処かで見覚えのある顔だと思えば!
 片側は以前の『四天王事件』の男、もう片方は行方不明となったジムリーダーか!
 ・・・・・・何故、貴様ら4人がつるんでいるのかは知ったことではない。
 が! 任務の邪魔だ、斬り伏せてくれる!」

 「求めるは熱き戦い、やれるものならばやってみせるがいい・・・!
 ・・・ウーーーーー、ハーーーーーッ!!」


 シバがイツキと共に戦いに加わる、一方でカリンは一時的にだがキョウの治療に参加することにした


 「どうなんだい、大丈夫なのか!?」

 「急かすな、傷の治療は終わった・・・が、失血が多すぎる!
 輸血する機械も無い、ここは手持ちの薬で何とかするしかない・・・」


 ごそごそと懐から『丸薬』を幾つか、それと水を取り出した
 そんな様子をカリンが見て言った


 「な、注射するんじゃないのか!」

 「我が家に代々伝わる製法による秘伝の薬だ、そこらの薬よか効く。
 そしてこれは『強心剤』と輸血が出来ない為・・・『増血剤』だ。
 ・・・この水は霊水、大自然に宿る霊気が傷をより早く癒してくれる」


 キョウが薬と水をシルバーの口元に持っていくが、やはり受けつけないようだ
 何度も薬を吐き出してしまう・・・


 「・・・ええいッ! まだるっこしいねッ!!」


 見かねてか、キョウから薬と水をカリンがひったくると、それを自ら口に含んだ
 そして、そのままシルバーに口移しした・・・・・・無理矢理だが、何とかのどを通ったようだ


 「・・・これで平気だろ」

 「・・・・・・う、ウム! あとは病院へ急いで運ばないと・・・」


 ぐいっとカリンは口をぬぐうと、安心したのか戦列へと加わっていった・・・
 

 「ひゅ〜、シルバー坊や、役得だなぁ〜」

 「莫迦言ってんじゃないよ! ちゃんと前見ろ!」

 「だ〜いじょうぶだよぉ。 今、シバが『嫌がらせ』してるから」

 「何?」


 見れば、成る程・・・・・・ジンとストライクが思うように戦えていないようだ
 シバのポケモンはカポエラー、その戦いの様子をじっと凝視して見ると・・・・・・


 「! 『みきり』と『でんこうせっか』、それに『トリプルキック』か」

 「ピンポーン、シバのカポエラーのコンボだよ」


 避けられないジンの攻撃を『みきり』で避け、『でんこうせっか』で素早く相手の懐に入る
 そして『トリプルキック』、反撃してくればまた『みきり』か『でんこうせっか』で逃げる・・・
 そのトリッキーとも言える『ヒットアンドアウェー』攻撃に、ジンは先に進めず苦戦しているようだ





 「・・・でもさ、シバはああいう戦い方は好まないハズだけど?」

 「そりゃそうさ〜、でもこの戦いは何を隠そう『時間稼ぎ』が目的でしょ、シルバー坊やのためにね。
 その為なら、戦い方のひとつを変えることぐらい・・・・・・仕方ないんじゃないかなぁ〜」


 確かに、この攻撃はシバの好みに合うとは言い難い
 だが、今は仕方ないことかもしれない・・・・・・ッ!!?


 「戻れ、カポエラー!」


 シバの言葉にカリン達が驚いた、ジンが無表情で言った


 「いつまでも、そんな小細工が通じるとでも・・・?」


 ・・・懐に入り込み、『トリプルキック』を・・・3連撃の後、スキがわずかに出来ることをジンは見逃さなかった
 その瞬間に『きりさく』、シバの反応も早く、とっさにカポエラーの身体の内でもっとも堅い『頭のツノ』で攻撃を受けていなければ・・・
 ・・・・・・胴体をまっぷたつにされていたに違いない


 その証拠に見るがいい


 ・・・・・・刃によって斬られた、大地の姿を・・・恐るべき攻撃力を


 「・・・・・・やっぱ、3人同時にかかるきゃないんじゃない?」

 「同感だね」

 「同感だ」

 



 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・え、ちょ・・・ディック!? ジンが負かす方法って!!?」


 リサが慌てて訊く、ジークも少々驚いているようだ


 「うん、あるよ〜」

 「何なのよ、その方法って・・・」

 「そうですね、たとえば・・・『強い能力者が複数人数、しかもコンビプレーをした時』ですか?」


 タツミがそう言うと、リサが「ああ、成る程」とうなずいた
 確かに、ジンと言えども『四高将』クラスが3,4人まとめてかかってきたら、ひとたまりもないだろう・・・
 更にコンビプレー、それが完璧なものならば幾らジンでも、苦戦は必死だろう・・・
 しかし、相手は能力者にもなっていない子供1人
 それにそんな凄腕の能力者があちらの味方にいるなど、聞いたことも調査にでたこともない


 「・・・なんだ、ディックの取り越し苦労じゃないの?」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 シルバーの治療を一通り終えたキョウは、ベトベトンに清潔な板きれを載せ、その上にシルバーを安置した
 これなら大きく揺れ動かすこともなく、静かに運べるはずだ
 ・・・ただし、板きれの上とはいえども、ベトベトンの毒素が染み出してくると思うのだが・・・どのみち、時間は無い


 「(・・・それに、シルバーの体力も保つかどうか・・・)」


 そこは賭だった
 幾ら治療したといっても、完全な治療は不可能で・・・応急処置に毛が生えた程度だ
 幸い、この岩場のすぐ先には海がある
 早急に海へ行き、シルバーを『2の島』まで運ぶのだ・・・


 「・・・シバ殿、これからシルバーを輸送する! 援護を頼みたい!」

 「承知した。 が、手はも打ってある・・・!」


 不意にジンの足下が揺れ動いた、危険を察知し、前に飛んだ
 ・・・普通ならば後ろに下がるだろう、しかしジンの狙いは最初からひとつなのである
 危険をかえりみず・・・・・・そう、狙いは最初からひとつだ


 もの凄い速度でジンとストライクはシバ達3人の間をすりぬけ、キョウとシルバーの元へ走った
 狙いは最初からただひとつ、任務完遂の証拠である・・・シルバーの首そのものだ


 「(・・・・・・速すぎる!)」


 鍛え抜いたキョウでさえ、ポケモンを出すのが一瞬遅れ・・・それが命取りとなった


 これがジンがストライクを進化させないわけである
 通常、『ハッサム』になれば・・・成る程、その鋼のボディーになることで体力、攻撃、防御は格段に上がるだろう
 しかし、その面で『素早さ』の個体値が減少傾向になるのだった


 ジンはこれを嫌ったのだった
 体力や防御など相手の技を喰らわなければいいことだ
 攻撃は進化させないことで有り余る素早さが手に入り、それが充分に補ってくれる
 だからジンはストライクを進化させないのだ
 そして何よりジンは鎧のようなハッサムの鋼の身体を嫌っていたのだった
 そして何よりジンは『鋏む』ことより直接的な『斬れる』印象を持つストライクの刃を気に入っていたのだった


 キョウの、シルバーの目前に迫った凶刃・・・・・・避けられない!





 次の瞬間、キョウ達とジンを何かが遮った
 そう、それはシバの持つ・・・・・・大きく堅い身体を持つ『ハガネール』によって
 おそらくはこの闘いの前から、地面の中に放っておいたのだろう・・・先ほどの揺れはこれの所為か


 「・・・・・・むっ!?」

 「助かった。 礼を言う、急げ・・・ベトベトン!」


 流石にハガネールの身体は斬れなかったようだ、ギィンと刃が弾かれる・・・ジンの視界を遮る鋼の巨大な蛇
 その向こうでキョウは海岸線へと走っていく、それを追おうとジンがハガネールの身体を踏みつけ飛んだ
 それを待っていたのか、シバがにやりと笑った


 「『かみくだく』!」


 ハガネールの顔が持ち上がり、空で身動きが取れないジンをめがけてその大きな口をガバッと開けた
 しかし、それでも『百戦錬磨』のジンは冷静だった


 「『きりさく』」


 そしてハガネールの首が落ちた
 

 「幾ら鎧が厚かろうが、その人間が動くための関節部位は脆い。
 ハガネールとて同じこと、そこならば我がストライクならばたやすく斬れる。
 これを『介者剣法』という、覚えておけ・・・」


 ジンが再び・・・姿を見失ったキョウを追っていく、だが立ち塞がるシバ達の姿


 「まだ終わってはいない」

 「そうだよぉ〜、勝ち逃げは許さないぞぉ」

 「アタイ達の『トレーナー能力』、特別に見せてあげるよ」

 「邪魔だ、死ね!」


 ジンが背中から日本刀を抜き出した
 流石にこれは・・・・・・


 「は、反則だよぉ〜」

 
 ストライクと共に幾度も邪魔をするシバ達に突撃していく・・・





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 


 「それは違うな」


 ジークがぴしゃりと言うのに、リサは虚をつかれた


 「え?」

 「ジンの能力は多対一でも、勿論1対1でも通じ、幾らでも応用の利く能力だ。
 それでジンが負けることはない。
 奴はそういった苦戦する状況下でこそ、燃えるタイプでな・・・更に強くなるぞ。
 ディックが言いたいのは、もっと積極的でかつ消極的な戦法だ」

 「・・・・・・何なのよ、それ」


 ディックが言った





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 海岸線、キョウは無事にシルバーと共に到着した
 もっともシルバーの身体は無事じゃない、一刻も争うのだ


 「・・・イツキが『テレポート』を使えるポケモンを持っていれば、もっと早かったろうに」


 しかし今さら愚痴を言っても仕方がない、キョウがモンスターボールを海に投げた
 ・・・・・・出てきたのは『ドククラゲ』、水上移動が可能なポケモンだ
 更にキョウの『トレーナー能力』ならば、驚くべき効能があるポケモンで・・・シルバーを運ぶには最適のポケモンだ


 「・・・頼むぞ」


 ドククラゲにシルバーを安置させ、その沢山ある触手を巻き付け、完全に固定させた
 そして・・・ドククラゲは、大海原に全速力で泳ぎ始めた・・・・・・





 ・・・そしてキョウは驚愕した


 ジンのストライクが、海上にて待ち伏せていたのだった!!
 それを視認すると同時に、カリンからポケギアの電話がかかってきた


 「何がッ! いったいどうしたと言うのだ!!?」

 『冗談じゃないよ、コイツ・・・! 
 日本刀一本で・・・アタイ達3人のトレーナー能力と闘える全ポケモン相手に戦ってるんだよ、1人で!!!
 おそらくストライクだけが・・・そっちへ向かってるハズだ! ・・・しくじった・・・ッ!
 ・・・今、キョウは何処にいるんだ!!?』

 「もうすでに海だ、目の前にもう・・・シルバーを完全に殺す気だ!」


 何という執念、ストライクは『むし・ひこう』・・・少しの間なら、飛んで攻撃出来る・・・迂闊だった!
 海上では手出しは・・・ドククラゲとの間は広く、今からではとても応援は・・・・・・





 『・・・もう海か、なら良かったよ』

 「何?」


 キョウが海上をハッと見た、ストライクの動きが止まっている・・・
 

 ・・・・・・いや、止められているのだ
 カリンの『シザリガー』に、イツキの『スターミー』に!
 事態を予測してなのかはわからないが、キョウは知らなかったことだ
 思わぬ『伏兵』、トレーナーのいないストライクは苦戦を強いられている・・・
 その間に水上を駆けていくドククラゲ、もう追うことは出来ないだろう・・・・・・


 これにて、こちらの任務は完遂出来たわけだ・・・


 『・・・キョウ、どうなったんだい!!?』

 「ウム、お主らの伏兵のおかげで・・・無事に向かうことが出来たようだ!」

 『となれば・・・・・・』





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「ジンを負かす方法、それは・・・・・・」


 寝ころびつつ、ディックはにかっと笑って言った





 「『逃げるが勝ち』





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 


 「・・・・・・逃がしただと? この俺が・・・」


 伝えずともわかる、我がストライクが獲物を逃がしたのだ・・・
 呆然と立ちつくすジン、それをチャンスと思い・・・カリン達もその姿を消した





 「・・・ウ、ウォォオォオォォォオォォオォオオォォォォォオォオオオォオオォォオ・・・・・・ッッッ!!!!!!」


 もの凄い咆吼が辺りに響き渡る、その声に応じてかストライクも素早く還ってくる
 

 何が
 何が
 何が原因だ
 この俺が
 この俺が
 この俺が負けただと
 戒めを
 戒めを
 恥ずべき己に戒めを


 ジンが己の手に持った日本刀でストライクの身を切り刻んだ
 幾度も幾度も幾度も幾度も、そしてそれは文様を形作っていった・・・


 「・・・・・・ストライクゥッッッ!!!!!!」


 その呼応にストライクが飛び、3種の腕輪の付いたジンの左腕を即座に丸ごと斬り落とした
 赤い血飛沫が腕からほとばしる、が、ジンはよろけもしない
 ドサリと落ちた腕を踏みつけ、なお・・・叫び続けた


 ジンを斬ったストライクの方にも変化が起きだした
 その・・・ジンの血を、ストライクの刃が・・・その血を吸っていく
 ・・・そして、吸うにつれて・・・自身に斬り刻まれた文様が、赤く浮き出した


 黒き身体に赤き文様、そして自ら隻腕となりし男





 ・・・・・・闘いは終わった


 


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