〜能力者への道55・集始〜




 ジンとシルバーの間に入った謎の4つの影


 彼らは敵ではなく、それどころかシルバーの応援だった


 影達の名はあの・・・・・・『イツキ』『カリン』『シバ』『キョウ』・・・


 キョウはシルバーの治療を、残りの3人でジンを迎え討つ!


 一方、ディック達の方で少々・・・ジンの心配をしていた


 ジンを唯一負かす方法、かつてのジークの好敵手にそんなものがあったのか


 ・・・・・・そしてそれは実行され、ジンは負けた


 『逃げるが勝ち』という言葉のもとに


 シルバーは何とかジンの凶刃から逃れ、キョウのドククラゲで2の島へ向かう


 それを確認したキョウ達4人も戦線を離脱、残されたジンは自らの左腕を斬り落とし叫んだ


 ・・・・・・闘いは終わったのだった










 陽は頂点に達し、そしてまた傾きだした
 時刻は昼過ぎといった所だろうか、天気は快晴といってもいいぐらいに晴れやかだ
 そんな天気の下、ひと・・・いや1体のヨルノズクが憂鬱そうに浜辺に海を眺めていた


 『・・・そろそろ2時間48分15秒経つけど、皆大丈夫かなぁ?』


 シショーはふぅとため息をついた、彼の体内時計は正確そのもので狂いという言葉を知らない
 ・・・・・・皆が各孤島にトバされてから、もう3時間近く経っている、ということだ
 もちろん、シショーにも敵さんからの刺客はいたが、相手にならなかったそうだ
 彼の正確な体内時計によれば、わずか6分29秒53しか保たなかったとか
 ・・・そしてシショーは相手を倒した後、こうしてずっと浜辺でけなげに皆が帰ってくるのを心待ちにしているのだった


 ・・・・・・


 ・・・あれ、この声は?
 聞き覚えのある声が、シショーの耳に届いた
 でも声はまだ遠いみたいだ、海の向こう方から聞こえるらしい、でも『なみのり』の音はしない
 『なみのり』している時はもっとシュパーッといういい音がして、もっと早く気づくはずだ
 しかし声はどんどんはっきりと聞こえてくる、空を飛んでいるわけでもない・・・
 その姿が肉眼で見えた時には色んな意味で驚いた


 『・・・・・・レッド!!?』

 「・・・ああ、良かった。 居たいた」


 シショーの姿を確認して安心し、一気にラストスパートをかけたようだ
 その声の主であるレッドはすぐにシショーの居る浜辺に着き、その身体を海からあげた
 

 ただしその格好はちょっとおかしかった
 頭の上にリュックやら服やらが乗っかっていて、レッド自身はパンツ一丁だったのだ
 ・・・・・・『なみのり』の音無し、それにこの格好・・・


 「ふー、疲れたぁ・・・」

 『・・・・・・なんで泳いで帰ってくるの? 「ギャラ」はどうしたのさ?』

 「んー? いやー、あははははは」

 『いやいやいやいやいや、笑ってごまかさないで』


 シショーは右の翼をまるで人間の手のように横に振り、首もそれに合わせて動かした
 まるで人間の動作のように、鳥の身体にしてはもの凄く器用なことをする
 もっともな問いにレッドは笑ってごまかすフリをしてから、答えた


 「最初はギャラに乗ってたんだけど、途中で体調が悪くなったみたいでさ。
 そんで海流に呑まれそうになって、沈みかかったんだわ。
 2の島が一応見えてたし、しょーがないからギャラを引っ込めて泳いできたんだ」

 『・・・・・・なして「プテ」で空を飛ばなかったの』

 「空飛んじゃ身体鍛える修行にならないかなー、って思ってさ」


 それも時と場合によるだろう、いったいどれだけの距離を泳いできたんだか
 ほぼ間違いなく遠泳、並のポケモンじゃ泳ぐこともできないこの海流の中で
 それに天気はいいがまだ季節は春、『寒中』の文字も付け加えたい・・・
 シショーはぐるりと180度首を回し、ぼそりと『ホントに人間なのかなぁ』とつぶやいた
 フクロウの首は180度回るのである、初めて見たレッドはささやかな拍手なんかをしていた
 

 ふと、また声が聞こえた
 シショーは首を戻し、海の方を見てみた・・・今度は水や波を切る音・・・『なみのり』の音付きだ
 ・・・よく見れば『カメックス』に乗っている、とすれば・・・・・・


 「ヤッホー」

 『あ、ブルー・・・良かった、まともだ』

 
 ブルーが浜辺に着くと、カメちゃんをボールに戻した
 シショーがばさばさと飛んで、ブルーを出迎えた


 『良かったぁ、無事だったんだね』

 「とーぜん、アタシがそう簡単にやられるもんですか」

 「お、ブルー、ケガとかしなかったか?」

 「あらレッド・・・って、ちょっとアンタ、レディーの前でその格好はないでしょうが」

 
 パンツ一丁のレッドの姿にブルーがそう言うと、慌ててタオルで身体の水滴を拭き取った
 そして頭の上に載せておいた服を素早く着てみせた


 『・・・・・・あれ? 服は濡れてないの?』

 「ああ、頭の上に置いといたから」


 それでも普通は濡れてしまうものなのだが
 頭の上に物を載せ、それを濡らさずに泳ぐとは・・・立ち泳ぎか何かをしてきたのか?
 古式泳法とか、確かそんな部類に入るハズでは・・・・・・


 ブルーがシショーの肩らしき所にぽんと手を置いて言った


 「あんまし深く考えない方がいいわよ」

 『・・・うん、そうする』

 「?」


 レッドは相変わらずわけのわかるようなわからないような笑顔でいる、2人・・・はため息をついた


 ・・・・・・まぁ何にせよ、こうして無事に2人が戻ってきたのだ
 とりあえず此処で軽食を取りながら、各孤島で何があったのかを話すことにした
 2の島上陸地点、いわゆる海に面した場所はこの辺りだけ、待つなら此処以外無い





 「・・・じゃー、まず俺から話しとくか」


 レッドが話そうとした時、ふと考えた
 あの『幻聴』のことは話すべきなんだろうか、と
 しかしそれはためらわれた、話しても信じてくれそうにない
 しかもその幻聴と会話らしきものまでしてしまったのだ、もしかしたら病院行きかもしれない


 ・・・・・・結局、それについては話さないことにした
 別に話さずとも、話自体は進めることが出来そうだったからだ


 レッドはトバされた場所が『たからのはま』だったこと
 相手になった男、バウの詳しい能力について
 彼の使った戦法、使用ポケモンやそれに苦戦したこと
 そして能力者に完全になったことと、バウを自らの『特能技』で撃破したことを告げた


 そこまで話すと、まずシショーが驚いて言った


 『レッドが能力に目覚めたのはつい先日だよね、なかなか凄いことだよ、それ』

 「うーん、俺もまぁ驚いているんだけどさ・・・それと『把握』だっけ?
 あれも少しだけ出来たっぽいんだ、闘いの後のことなんだけど・・・」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 闘いが終わって、俺がギャラを出して2の島へ戻ろうとした時だった
 ポケットの中にあった図鑑のランプが点灯しているのに気づいたんだ


 「? どうしたんだろ・・・」


 図鑑を開いてみると、それは幾度も見たことのあるあの画面
 『ピカは「おんがえし」を覚えたい・・・』というものだった


 レッドは少々迷ったが、ピカにその技を覚えさせることにした 
 何より自分の能力が『ポケモンがよくなつく』というものだから、何か関係があるだろうと判断してのことだった


 ・・・・・・だが、それだけでは終わらなかった
 同じ画面が、ブイ以外・・・つまり『おんがえし』を覚えていない手持ちポケモン全てにその表示がされたのだった





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 『・・・へぇ。 手持ちポケモン全員に「おんがえし」を覚えさせられる能力、かぁ』


 シショーとブルーが軽くうなずき合った、結構良い能力かもしれない
 レッドの能力ならば『おんがえし』の威力は常に最高値だろう、技マシンを使用する必要もない
 

 「・・・でもその能力はそれだけじゃなさそうなんだ。
 『大恩の報』、あ・・・それが俺の『特能技』なんだけどさ。
 それを使うために、どうも『おんがえし』を覚えている必要がありそうなんだ」

 「へぇ、どうして?」

 「俺の幼なじみポケモンは『ニョロ』だろ?
 ・・・バウとの闘いで出したのも、その『ニョロ』と『ブイ』だったんだ。
 もちろん、体力なんて殆ど無かったけど、長年一緒だったんだし、俺の能力に真っ先に反応しそうだろ?
 だけど俺の能力、『特能技』を最初に使えたのは今のパーティの『おんがえし』を唯一覚えているブイだった・・・」

 『成る程、たしかにそれは関係あるかもしれないねぇ・・・』


 だが、もし本当にそう言うことならば・・・・・・条件さえ揃えばレッドの手持ちの誰にでも扱える技、ということになる
 案外レッドの能力は・・・・・・










 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・




 
 「・・・何ッ! ジンが負けた、だと!!?」

 
 ジークが声を荒げた、報告に来た伝令がひいぃぃっとおびえた
 彼らはあの後も、何か嫌な予感がしてならなかった・・・故にまだこの部屋に全員残っていたのだった


 「『幹部候補・ジン』様の元へ標的を送り届けた者と『四高将・フリッツ』様の報告によれば、です。
 標的をかばうように現れた者達が4人いまして、それぞれがそこそこ有名なトレーナーだったとのことです」


 伝令が報告書を渡すと、ジークがそれをひったくり・・・見た
 『イツキ』『カリン』『シバ』『キョウ』と名前と、わかる範囲での能力についても記されていた
 ・・・・・・だが、この能力では到底ジンが倒されるとは思えない
 ジークが吐き捨てるように言った


 「・・・・・・『逃げるが勝ち』、か。
 その後、左腕を斬り落としたジンの行方はどうした!」

 「は、はいッ! その後行方知れずです。
 迂闊に近づけば殺される・・・いえ、遠く離れていても殺気で息が詰まって・・・辺りのポケモンが一斉に逃げ出したほどです!
 もし、もし・・・追跡なぞしたら・・・間違いなく、とのことです」


 四大幹部の次に強く、格が高いと言われる『四高将』ですら・・・追うのをためらったか
 資料を面白そうに見ているディックをぎろりとジークはにらみつけ、低くうなるように言った


 「・・・さて、ディック。 貴様の思い通りに事は動いたようだな?」

 「その声・・・恐いよ、ジークってば。
 ・・・それに何さ、この展開を俺が望んでいたとでも言うのかい?」

 「違うのか


 ディックとジークの眼が対立した、もはや伝令はその迫力で失禁寸前だった
 リサもタツミも顔は平然としているが、内心はどうだかわからない


 ・・・・・・やがて、そのにらみ合いをディックの方から放棄した
 明らかに疲れた感を出しつつ、ため息までついた


 「・・・・・・『左腕』ね、てことは腕輪の所有権を放棄した、ってことかな」


 ジンはその3色の腕輪を左手首につけていた、すなわち腕ごと腕輪を棄てたと言える
 『幹部候補』が3色の腕輪をいっぺんに失うこと・・・・・・それはつまり、『組織強制脱退』と同じことだ


 「・・・・・・どうする気だ、貴様の勝手な行動で・・・」

 「わかってるってば、こう言う時は・・・・・・ね?」


 ディックがごそごそとふところからマイクを取り出した、ジーク達がハッとなった
 ・・・・・・そのマイク、まさか・・・


 『ぴんぽんぱんぽ〜ん、あーあー、てすてす・・・マイクのテストちゅ〜』


 ディックのセリフが部屋全域に響く、間違いない・・・アジト全室に流す為の、『緊急放送用マイク』だ!
 ジーク達の驚きの表情をちらっと見てから、ディックは放送を流した


 『ぴんぽんぱんぽ〜ん、お知らせします。 お知らせしま〜す。
 自室待機でヒマしてる「幹部・十二使徒」の皆さん、および「四高将」の皆さん。
 それ以外の者はこの放送を無視してね、聞いても無駄だから。
 ・・・さてさて、突然ですが予定の『カントー襲撃』の前に、何だか大変で、大変面白そうなことが起きてしまいました。
 よって、これより2時間後に<会議>を開きたいと思いま〜〜〜す。
 なお、この放送は「青龍」「朱雀」「白虎」そして「玄武」の意思の下、行われてますんで、欠席は許されまっせ〜ん。
 繰り返すよ、これから2時間後に「幹部・十二使徒」以上の者達による<会議>を開きます。
 欠席は認めません、会議はいつものとこでやるから・・・待ってま〜〜〜す。 以上。 ぴんぽんぱんぽん・・・ブッ』






 最後のマイクの電源を切る音まで口で言い、その後本当にマイクを切った


 「・・・・・・ちょっとー、もしかして『玄武』まで出席させんの?」

 「うん、久しぶりに会いたいからね〜」

 「「ふざけるな!!!!」」 


 ジークとリサに怒鳴られるのに対して、ディックはさっとタツミの後ろに隠れた
 タツミは慌てて振り返ろうとするが、ディックはじっと隠れ耐えている・・・


 ディックの放送はアジト全室に流れた





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・やれやれ、とんだいたずらっ子だな、ディックめ。
 どうしても私と会いたいのだな・・・嬉しいような、迷惑のような・・・」


 バスローブのような服を着て、ベッドに腰掛け苦笑している者が居た
 放送はこの部屋にも流れた、大音量で・・・・・・寝ていて聞こえなかったというのは理由にならなくなった
 そして、その放送の直後・・・部屋の中に誰かが入ってきた
 部屋の中に誰かが入ると電気がつくようになっている、パッと明るくなった
 明るくなった大部屋の壁一面は本棚で埋め尽くされ、入りきらない本は床に高く積み上げられていた
 そんな本の城の中に、ぽつんと大きなベットとテーブルがあるだけな・・・寂しい部屋だった


 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・何やら騒がしいのぅ、放送かね?」

 「ああ、じい・・・聞こえたよ。
 久し振りに私も彼らに会いたいんだがね、今回も欠席かな・・・」

 
 部屋に入ってきたのは見た感じがもう・・・まんま『仙人』だった
 身長は70cmぐらいで、頭が長くて顔はしわだらけ
 ひげとまゆげと耳たぶが異様に長くて、右手には身長の1,5倍はある木の杖を持っている
 服もまた古い中国の絵巻物に出てきそうなもので、まさに仙人としか言いようがない
 しかし、まるでゼンマイじかけのオモチャのようなサイズで、ちょっとおかしい・・・
 そして・・・・・・気のせいだろうか、何だか本当にカタカタカタカタといっている


 「・・・ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・」

 「それでさ、悪いんだけど・・・私が欠席することを、皆に伝えて欲しいんだけど」

 「・・・・・・ふぉ?」

 「だからね、欠席したいから、伝えてくれないかな・・・皆に」

 「・・・何か言っておるのかぃの、近頃とんと耳が遠くなってのぅ」


 じいがふぉっふぉっふぉっふぉ・・・と笑った


 「会議を欠席したいから、皆に伝えて!


 大声を出したとたんに思い切りむせたようだ、ゴホゴホッとせきをした
 ・・・・・・が


 「・・・おお、無理をなさってはいかんですぞ」


 ・・・・・・おいおい、明らかにわざとだろう・・・このじじい


 「・・・頼みますよ、今度給料ん時に1本つけますから」

 「ふぉ? 何か言ったかのぅ」

 「・・・・・・わかりました、3本でどうですか。
 その代わり、私が欠席することをキチンと伝えてくださいね」

 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・」


 そのじじいはカタカタカタカタといいながら、この部屋から出ていった・・・
 また部屋の中は1人になってしまった、やれやれ・・・あんなのだけど大丈夫かな、『タケトリ』のは
  

 「くえない爺さんだよ、全く・・・ああいうのを『好々爺』とでもいうのかな」


 いえ、全く違いますが
 そして部屋の電気が暗くなったのを確認してから、またベットにもぐりこんだ・・・・・・





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 暗がりの部屋、獣と血の臭いが充満した部屋・・・男が居た


 「・・・ようやく出番かよ、待ちくたびれたぜ」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 各部屋に流された放送、それを待っていたかのように・・・・・・組織の幹部達が動き出した





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