〜能力者への道56・集二〜




 闘いが終わり、最初に『2の島』にいるシショーの下へ戻ってきたのはレッドだった


 それに続くようにブルーも戻り、残るは後グリーン、イエロー、ゴールド、シルバー、クリス


 彼らを待つ間にレッド達は自らの闘いを報告しつつ、浜辺で軽食を取ることにした


 一方、ジンの敗北を知ったディック達が居る部屋は苛立ちと驚愕に満ちていた


 そしてディックの悪巧みは終わらず、茶番劇はとんでもない方向へと進んでいった


 会議を開くと、アジト全室へ放送される


 ・・・そう、『幹部・十二使徒』以上の者が全員集結する!


 







 「ウィーッス、『四高将』が『ヒツジサル・キョウジ』さんご登場〜」


 放送が流れてから1分経たない内に、ディック達がいる部屋に不法侵入してきた
 そして、何故か天井にぶら下がっているのだが・・・


 「コラァ、また天井にぶら下がって! 頭に血が上るわよ」

 「ご心配、どうもです。 マスター・リサ」


 身長は180cm台で、引き締まりしなやかな肉体
 年齢はどうだろう、20代後半といった所だろうか
 髪の色は白髪交じりの黒、両眼は何かにえぐられた様な生々しい傷口がある
 服装はボロボロの空手着、帯の色は黒で・・・何故か素足だった
 

 「だから、さっさと降りてこいやァ!」

 
 リサがキョウジに大声で怒鳴った
 どうもこの位置がお気に入りらしく、本人は小さく「ちぇー」と言った
 なかなかの見ものに、ディックが声をかけた 


 「随分と早いね〜」

 「へへ、そりゃあもう。 しかし、シャクだな・・・・・・オレは3番手かよ」


 天井についた両足をひょいっとハズし、クルクルと見事な回転をしながら音もなく着地した
 その軽い身のこなしにディックがぱちぱちと拍手した
 四高将のタツミはすでに居るから、本来なら2番であろうが・・・


 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・気づきおったか」


 カタカタカタカタといいながら、またしてもドアを使わず不法侵入してきた老人
 何もない所から現れるこの組織の人間・・・ハッキリ言って心臓に悪そうだ
 その老人はひげを手で梳きながら、壊れたオモチャのようにふぉっふぉっふぉっふぉと笑っている


 「『玄武』の様子はどーなの、『タケトリ』じーちゃん」

 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・」

 「何か伝言とか受けなかったの?」

 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・」


 ディックが幾度訊いてもただ笑っているだけだ、全く仕方ない・・・
 ごそごそとふところから・・・マイクと同じように黒い包みを取り出した、大きさは手に余るぐらい
 ・・・・・・いったい、ディックのふところはどういう仕組みになっているのだろうか


 「はい、この前頼まれていたモノ」

 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・今回も欠席でよろしくじゃと」


 タケトリという老人は包みを受け取ってご機嫌のようだ、ディックが「え〜」と言った
 それにしたって、あの『四大幹部』のディックを相手にあの調子で普通は許されない事だ
 もちろん、ディックはさほど気にしないだろうが、周りは違うようだ
 その様子を見て、キョウジとタツミが密かに毒づいていた


 「チッ、あんのもーろくジジイ・・・つくづく舐め腐りやがって」

 「全く、どうしようもない人ですね・・・」

 
 どうやら・・・都合の良いこと以外にも、この老人の耳には届くらしい 


 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・仲が良いのぅ、お2人さん。
 是非とも式には呼んでおくれ、仲間はずれは嫌じゃからのぅ・・・」

 「誰がッ!!」

 「こんのクソジジイが! ぶっ殺してやる!」

 
 キョウジが音もなく跳び上がり、タケトリをつかみかかる
 が、それをサッとかわし相変わらず「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・」と笑っている
 

 「ふむふむ、ムキになって否定する面はますます怪しいのぅ」

 「・・・ディック様、殺害許可を」

 「・・・・・・おーい、2人とも正気に戻れ〜」


 ディックはやる気のない制止の声を出した
 が、止めるのは無理かもしれない、特にキョウジは止められないだろう
 ジークとリサは3人の闘いを、もうあきれかえって見ていた
 かわいげのない爺さんなんて相手にしなければいいのに、と内心では思っているだろう
 しかし、キョウジとタケトリはある童話の時代から仲が悪い
 プラスして、タツミは以前からタケトリに『すきんしっぷ』と称するセクハラを受けていたという話だ
 どちらも今までの恨みを晴らしたいのだろう・・・


 しかし、止めねば・・・・・・この部屋は跡形もなくなってしまうだろう 
 なにせ、『四高将』の3人が暴れているのだから
 ・・・・・・そうあのジジイは、あの『玄武』付きの『四高将』が『ウシトラ・タケトリ』なのだ


 「・・・と、いうわけだ。 止めろ、フリッツ」

 「・・・・・・どうしろと」

 「ジーク、アンタが止めればいいじゃないの」

 「あんな莫迦らしい諍い、止める気にもならん・・・」


 『四高将』最後の男、『イヌイ・フリッツ』もいつのまにか・・・またドアも使わず入ってきたようだ
 しかし、彼の姿はない・・・・・・彼は『影』であり、主人以外に姿を見せることは無いのだ
 ・・・『玄武』を除いてだが、この部屋に『四大幹部』と彼らに付く『四高将』が全員集結した
 
 
 「わかりました。 命令通り・・・・・・止めてみせます」


 フリッツの気配が消え、そして次の瞬間・・・3人の動きが止まった
 ピリピリとした雰囲気は消せないが、どうやら莫迦らしい諍いは止まったようだった


 「・・・・・・チッ、フリッツの野郎か。 迂闊だったな、気づかなかったぜ」

 「全く、しばらくは身体が動かないようだ・・・」

 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・じゃ、その間に儂はタツミちゃんの身体の『まっさーじ』を・・・」


 何故か動けるタケトリが、両手をわきわきさせながらタツミに近づいていく
 ・・・・・・そしてセクハラエロもーろくジジイの行為もまた、一足遅く止まった
 どうして止まったのかは定かではない、がフリッツの仕業であることだけは確かである
 タケトリがポツリと言った


 「・・・やれやれ、年寄りはいたわるモンじゃぞ」

 「調子のいい時だけ年寄りにならんで下さい」

 「・・・・・・あ〜あ、何だかなー・・・」


 ディックがため息をついた、折角面白かったのに、と言った所だろうか
 何だか高レヴェルな能力者達による、色んな意味で低レヴェルなバトル・・・・・・
 ジークとリサもやれやれとため息をついた、もう此処まで来ると何も言いたくないらしい


 タケトリのまゆがぴくりと動いた


 「ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・集まり始めたようじゃのぅ」










 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「価値が無い、それは何だッ!
 それはすなわち、俺様にとって役に立つか、立たねぇかッ!
 ・・・そうだ! ただ、そんだけのことだ!
 価値の無ぇものなんざ、轢き潰せ!! 轢き殺せ!!!
 『幹部・十二使徒』が『亥・バンナイ』様のお通りだッ!!!! 道を空けろ、無価値共ッ!!!!!



 ズンズンと大声を張り上げ、廊下を闊歩する大男が居た
 身長は2m弱、毛深い身体の筋肉は盛り上がり、ボディビルダーでも通じそうなくらい凄かった
 上着として熊の毛皮をそのまま身につけている以外素肌むき出しで、ズボンもまた何かの毛皮製のようだ
 形相もまた恐ろしく、捕って喰われんばかりである
 漆黒の髪と繋がるように生えているひげが、この男の野性味と異様に合っていた・・・
 そしてもちろん、右腕の二の腕には黒の腕輪、宝珠には『亥』とあった


 ズンズンと廊下を歩く、が・・・目の前に誰かが壁にもたれて立っていた


 「・・・やれやれ、またその格好ですか。 いい加減、見苦しいですよ」

 「邪魔だ、『チトゥーラ』・・・テメェから轢き殺すぞ!

 「お好きにどうぞ。 出来たらの話ですが」


 クスクスと自信ありげに笑う、上品な男で・・・バンナイとは雰囲気からして正反対だ
 身長は170cm弱、純白のマントを羽織り・・・知的な眼鏡をかけていた
 服装総てをマントに合わせ、素材は絹で、色は純白で統一・・・
 憂いのある流し眼、肌の色も透き通るぐらいに白い・・・・・・さぞかし女性に人気があるだろう
 そしてそんな嫌みったらしい服装のようだが、総てが整い、むしろ上品に感じるのが不思議だ
 ・・・・・・右手首には黒の腕輪、宝珠には『子』と彫られていた
 そう、彼もまた『幹部・十二使徒』が1人だったのだ


 しかしそんなのも気にせず、バンナイが胸ぐらをつかんで持ち上げた
 チトゥーラはただ落ち着いている・・・何事もないように・・・ただ笑っていた
 それがバンナイには気にくわない、腕に力が入っていく・・・・・・


 『カチッ』


 何かのスイッチが入ったようだ、バンナイの腕の動きが一時的に止まった
 そして何だか聞き覚えのある音楽が流れ始めた・・・『白鳥の湖』だ
 そしてそれに合わせるかのように、女の子が踊りながらバンナイ達の目の前を横切り、立ち止まった
 しかし踊ることはやめない、その場でクルクルと回りつつ今度は歌い始めた


 「萌えやがれ〜、萌えやがれ〜〜、萌えやがれ〜〜〜、ディック攻め!!!!
 萌えやがれ〜、萌えやがれ〜〜、萌えやがれ〜〜〜、ジーク総受け!!!!
 ウ〜〜〜〜〜〜、オレッ!! 萌えっ!!!!


 最後は思い切り地面を足で叩き、ダ・ダンッとステップを踏んでポーズを取った
 最初は『白鳥の湖』、歌は某ロボット番組のパクリ、最後のノリとステップは『カルメン』とは・・・
 バンナイもチトゥーラも何かが真っ白になって、呆然とその女性を見ていた


 くるくる巻き毛な髪の色はサーモンピンク、くりくりっとした瞳は茶色
 フリルの付いた可愛らしいYシャツを着て、同じくフリルの付いた膨らんだスカートをはいている
 ・・・そう、それはフランス人形のような本当に可愛らしい女の子だった

 
 が


 「お久し振りね、『亥×子』、今日も元気にいちゃラブってますの」

 「・・・テメェ、そうやって人のことをまとめて呼ぶなっつってんだろ!!
 第一、これがどう見ればそう見えるってんだッ!!!


 「恋は盲目ですし・・・ね? キャッ、大胆っ!」

 
 バンナイの脳の欠陥がぶち切れたようだ、チトゥーラの手を離し、代わりに女の子をつかみに入った
 しかし女の子の方は余裕だ、にこっと笑って見せた

 
 「なんですの? あなたのなら、なかなかの売れ行きですのよ。
 分け前でも欲しいんですの、残念ながら差し上げることは出来ませんの?
 なんせ、同人誌ですもの、本人の意思は通らないのが普通ですわw」

 「テメェ、まだんな無価値なコトやってんのか!


 チトゥーラはパンパンッと服の汚れをはたき、止めに入った


 「待ちなさい、バンナイ。 相手は女性です。
 貴女もあなたですよ、『メグミ』、そうやって人をからかうのは悪い癖です」

 「え、チトゥーラ・・・あなたの18禁本も売れ行き好調ですわ。
 それに、からかってなんかいません。 私はいつだって真面目な商売をやってますのよ」


 チトゥーラもぴくりと固まった、今・・・・・・なんて言いましたか、貴女は
 メグミはふところからカラー印刷された髪をピッと取り出した


 「はい、これが私のペーパーです。 売り切れゴメンですので、気をつけて。
 ちなみに注文も受け付けていますわ、通販って知ってますよね・・・HPでメールも可ですわ。
 あなた達なら、割引価格でよろしくてよw いつも、売り上げに貢献してもらってますし」

 「・・・・・・貴女という人は・・・」

 
 不意にバンナイがメグミをぶんと投げ飛ばした、が難なく着地をする
 バンナイの顔が険しい、ペーパーとやらを破き、つばを吐き捨てた
 ・・・・・・駄目だ、完全にぶち切れた


 「テメェを無価値なモンと判断、轢き殺してやる!!
 チトゥーラ、止めんじゃねぇーぞ!!!


 「やめときなさい、せっかくのモデルがこの世からいなくなっちゃうなんて」

 
 バンナイはやめる気もなく、チトゥーラも止める気は起きないようだ
 ・・・・・・残念、『亥』関係の本がなくなると、売り上げが少し落ちてしまうけど・・・


 「・・・かかってきなさい。
 『幹部・十二使徒』が『午』こと、メグミがお相手致しますわ」

 「轢き殺す、轢き殺す、轢き殺す、轢き殺す、轢き殺す、轢き殺す、轢き殺すウゥゥゥッ!!!!!





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