〜能力者への道61・集七〜




 ブルーの巧みな買い物術


 イエロー専用ポケギアも買い、あとはその持ち主を待つだけである


 そのイエローは親切な漁師さんに拾われ、2の島を目指す


 そして訊いた『いろは48諸島』の真実、いったい何が、このナナシマ海域で起きているのだろうか


 世間話をしている間に目的地着、礼を言ってイエローは船を下りた


 ・・・・・・漁師に変装した謎の男、『帝王、タカムネ』とは何者か


 『シーギャロップ号』に乗っていたクリスとの合流に成功


 皆の居る浜辺に来てみれば、グリーンもゴールドも戻ってきていた


 ・・・・・・そして、瀕死状態のシルバーも・・・・・・










 <いつまで甘えている気だ、莫迦野郎>





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 シルバーがあの状態で見つかってから、もう3日が経ちます

 皆満身創痍で、各々の闘いで何があったのか、その把握も大体終えました

 ・・・そして、シルバーの意識はまだ回復していません



 「クリス」

 
 かちゃりとドアが開き、部屋の中から顔を出したのはレッド、足下には『ニドオ』の姿が
 名を呼ばれ、ハッとしたようにクリスは顔を上げた


 「レッドさん」

 「ん。 大丈夫か、身体」

 
 クリスはにこっと笑って、「大丈夫です、もうしびれも取れました」と言った


 あの闘いで無事、無傷だった人は、ブルーさんぐらいなものでした

 レッドさんとイエローさんは軽い打ち身と、幾つかアザをつくったみたいです

 私、クリスはやっぱり無茶だったんでしょうね

 氷像となった自分の無謀な脱出、ニシキさんにも隠してキチンとした対処をすぐに取らなかった所為でしょう

 全身に広がる軽い凍傷、その日は腕にしびれが少し残りました

 だけれど、ここのお医者さんの言った通りここ3日でそれも取れたみたいです

 でも、他の人達のけがはひどいものがあり、此処『2の島緊急病院』にて私達は泊まり込んでいます



 「どうしたんですか?」

 「皆のお見舞い、行こうか」


 レッドさんの申し出に、私は「はい」と返事をかえし、廊下の長椅子から立ち上がりました
 ・・・並んで病院の廊下を歩き、皆の病室に向かいました


 「・・・? そういえば、今日はお医者さんの姿が見えませんね」

 
 幾ら『緊急病院』と称しても、要するに町医者と変わらず、施設設備もとりわけ優れているわけでもない
 医者は1人、看護士が2人、木造建築で病室の数は5つか6つ
 私達が泊まり込むと言うだけで、もう病室はいっぱいいっぱいのようです


 「ああ。 今日は薬とか、仕入れにカントー本土に行ったそうだ。
 何せ、俺達が薬やら消毒液使いこんじまったもの。
 それと、カントー本土の医者に話してくるってさ・・・」


 確かに、私達の来院は医者や看護士さん達を驚かすのには充分すぎるほどだった
 血まみれで倒れているシルバーの姿、そして必死で運んできた皆の表情
 まさに『2の島緊急病院』にとっては、開院以来の大事件だったに違いない


 先ず、この部屋から・・・レッドがコンコンとノックし、ガチャリと開けた


 その部屋に居たのは、うつぶせにベッドに寝ているグリーン
 そしてその横にいるのはブルーだった


 「・・・悪ぃ、お邪魔だったか?」

 「いや、ちょうどいい。 この女を引き取ってくれ、うるさくてかなわん」

 「ちょ、何よその言い方!」

 「事実だろうが。 お前が居ると、おちおち寝てもいられん」


 ぎゃあぎゃあと2人が言い争いを始めるのを見て、私達は静かにそのドアを閉めた


 グリーンさんは背中を十数針ぬったと聞きました、それでうつぶせに寝ているのだそうです

 ジャバーさんとの闘いで、鍾乳洞の欠片が背中に突き刺さり、深く切っていたと言います

 お医者さんがあきれて言ってました、「やせ我慢にも程がある」って



 「・・・やれやれ。 何だかなー、あの2人は」

 「仲はいいんですよね?」

 「ああ。 最近はなんか喧嘩ばっかりしてるけどな。
 いや・・・ブルーの気持ちがよくわかっているから、かもな。
 ブルーは彼処にいたくても、いられないから・・・。 
 どうしてあんな目に遭ったのか、自分の所為だって・・・居たくてもいられない。
 どうしようもなくて、居場所がなくて、それでグリーンの所に居るんだと思う。
 ・・・あいつは何も言わない、ずっとブルーにつきあってやってるんだ」


 いつかに、微かに聞こえた、ブルーの泣き声・・・それでもあいつは何も言わない
 それはわかっているからだ
 ブルーは強い、必ず立ち上がることを知っているからだ


 「・・・・・・優しいんですね」

 「多分な」


 それでも


 何も言わないことは、時に残酷に人を傷つけるから


 


 次の病室に行こうと思ったが、その必要性は全くなくなっていた
 ガシャーンと物音がして、その次に看護士さんの「おとなしくしなさいっ!」の声


 「・・・・・・別にいいか、この部屋は」

 「はい」


 ゴールドは大した外傷はありませんでした

 が、一度とは言え土中に埋まったという話だったので、精密検査を受けたのです

 特に異常は無かったそうですが、とりあえず病室にて経過を看るとか何とか・・・



 「しっかし、元気だなー。 あいつは」

 「それだけが、取り柄ですからね」


 レッド達がトコトコと廊下を歩く、そしてシショーがドアの前で座っている病室があった
 この部屋だけは、絶対にポケモン立入禁止だ・・・心配しているのは決して人間だけじゃないのだけれど
 シショーがレッドに気づくと、『イエローはこの中だよ』と言った
 ・・・レッド達が軽くうなずくと、ニドオをボールに戻し、その病室のドアを開けた


 計器類で狭い病室は埋まり、その真ん中で命を維持している・・・・・・シルバーの姿がそこにあった
 その横でイエローがこっくりこっくりと船をこいでいる、様子が心配で最近あまり寝ていないんだとか
 そして、ものは試しと、自らの能力でシルバーの傷の治療を試みたとか・・・
 レッドがぽんとイエローの肩を叩く、イエローはハッと後ろを見た


 「・・・はへ、レッドしゃん」

 「もういいよ、代わろう。 クリス、頼むな」

 「わかりました、大丈夫です」


 寝不足や心労でフラフラなイエローを、レッドが病室の外へ導く
 シショーとの何か会話をしている、よく聞き取れないが・・・やがて扉がぱたんと閉まった


 シルバーがあの状態で見つかってから、もう3日が経ちます

 ・・・そして、シルバーの意識はまだ回復していません

 シルバーは重傷でした

 肩口からばっさりと斬られた傷、腹を横に割るように斬った傷

 その殆どの傷が致命傷といってもいいくらい、生きているのが不思議だとお医者さんが漏らしたほどです

 しかし、そばに誰かが居たのか、ある程度の治療は施されていたようです

 それが無ければ、此処まで持ち堪えることは不可能だったと語りました

 いったい誰がそんなことをしてくれたのか、あの発見時から考えて、少なくとも敵ではないでしょう

 どんな敵だったのか、誰が助けてくれたのか・・・シルバーは何も語りません

 お医者さんは私達に必死で、シルバーに何があったのか、状況説明してくれるよう頼んでいました

 なんでも、シルバーの傷口は良く研いだ日本刀でもこうは斬れないんだそうです

 真空状態が起こす『かまいたち』に似てなくもないが、それとも違い・・・初めて看るものだと言っていました

 シショーは明らかに熟練したトレーナー本人の手か、そのポケモンによるものと断定しました

 間違いなく、私達が闘って勝ったような団員レベルでは無いそうです

 考えられるのは、『幹部候補』クラス・・・・・・何故、シルバーだけが狙われたのでしょう

 そういった各々の闘いの話を昨日、グリーンさんの病室にて話し合いました






 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・




 
 「イエローが闘った能力は、『能力封印』で間違いないんだな?」

 「はい、本人もそう言っていましたし」

 『どうやって勝てたのさ、そんな敵に?』

 「えっと、『特能技』で」


 皆が驚いた表情になった、そしてどういうものか、説明を求めた


 「えっと、ゲンガーとかの『ゆめくい』ってあるじゃないですか」

 『ふんふん』

 「それで、生き物ってなんか神経で、電気が通ってるってグリーンさんから聞いたことがあるんですよ」

 「正確には、『電気信号』というものだな」

 「で、回復出来たらなーって。 そんな感じです」


 わかりません


 「もっと具体的な説明しなさいよ!」

 「ひゃぁっふぇ、ひょひゅひょひゅひゅふへ(だって、ボクも夢中で)」


 ブルーがむきゅっとイエローの両頬を引っ張った、よく伸びる
 ゴールドやクリスも、シショーも首を傾げている


 「・・・・・・んー、つまりはこういうことか。
 イエローは『ポケモンの電気信号をゆめくいみたいに、吸収して、チュチュを回復させる』。
 そういうことか、そうなのか?」

 
 レッドさん、何でわかるんですか・・・さっきの説明で
 イエローも「そう、そんな感じです」と返した
 それでもわからないブルーは、寝そべっているグリーンに訊いてみた
 仕方ないとはいえ・・・その体勢、何かムカつくわね


 「結局、どういう効果があるわけ?」

 「・・・そうだな。 此処に枕がある、これを持ち上げろと命令があったとしよう。
 それを受けた俺は、脳が各神経に、各筋肉へと『電気信号』にて指令を送る。
 そして腕や何かが動くのだが、イエローの特能技はそれを己の身体の回復にと奪ってしまうものだ。
 結果、電気信号となった命令は何処にも伝わらず、いわゆる『ひるむ』と似たような状態になるのだろうな」


 ・・・・・・ゲッ、そんな特能技アリですか!!?


 「じゃ、どのくらい回復出来たんッスか?」

 「ええと、ぐらいですか」

 
 ・・・・・・


 「電気信号といっても、微量なものだからな。 そう多くの回復が望めるわけないだろう。
 その特能技の利点は、『ダメージは殆ど与えられないが、相手をひるませる』という効果だな。
 『ソーラービーム』などの技を無効化することも、あるいは可能だろう」

 「しっかし、そんなことが出来るものなのかねぇ・・・」


 皆はやはり疑問だ、シショーが言った


 『特能技はトレーナー個人とポケモンによるもの、特殊すぎる何かがあっても、必ず何か理由がある。
 この場合、イエローの能力とポケモンを傷つけたくないという元来の性格が影響しているんだと思う』

 「じゃ、これでイエローの特能技はおしまい? もっと、選べば良かったのに」


 ブルーがため息をつくが、シショーはしれっと言った


 『別に特能技は1つとは限らない、むしろ手持ちポケモンの数だけある可能性だってある。
 もちろん、能力によっては1つも覚えられない時もあるけどね』


 ・・・・・・ええっ!!?


 『・・・説明にはちょうどいいかな。
 今日はトレーナー能力について、もっと詳しいこと、基礎を話そうか。
 先ず、どんな能力でもそれぞれ最大3つ、正確には4つの型に分類出来るんだ。
 「常時型」「発動型」「条件型」「特殊型」にね』

 「なんだ、それ・・・?」

 『それを今から、説明するんでしょうが。
 「常時型」はバトル中だけでなくて、育成や日常でも常に自らのトレーナー能力を発動状態に出来る型。 これはレッドが含まれる。
 「発動型」は自らの意思で、トレーナー能力を発動することが出来る型。 これはイエロー。
 「条件型」はブルーとゴールド。 バトル中など、ある条件が揃うと本人の意思に関係なくトレーナー能力が発動する型のこと。
 「特殊型」はこの3つの内、どれにも入らない型を示すんだ』


 レッドの能力は『ポケモンのなつきに関係する能力』、それはバトル中でも平常時でも、ポケモンがなついた
 それはニドオやバウとの闘いで立証済みだ
 イエローは自らの意思でポケモンを回復することが出来るが、常に回復しているワケじゃない
 必要な時だけ、バトル中でも回復させたこともある
 ブルーの能力は『フェロモン』、バトル中のみ効果を発揮する
 故に、『バトル中』などが能力を発動させる条件にあたいする
 ゴールドの能力だってそうだ、先ず何より『タマゴ』が無ければ能力の意味がない
 『タマゴ』と他の条件が揃ってはじめて、ポケモンが孵るらしいし・・・


 成る程、こうやって改めて考えてみると確かに当てはまっている
 

 ブルーがシショーに質問をした


 「この3つの型に優劣はあるの?」

 『微妙なところだね。 たとえば、「発動型」なら、その本人が何らかの形で発動する意思を失ったら、無意味だし。
 「条件型」はその条件が揃わないと、駄目。 ただし、条件が揃えば本人の行動に関係なく発動出来る。
 「常時型」が一番優れていそうだけれど、たまに常に発動しているってのが厄介になることだってあるだろうね。
 ・・・・・・「特殊型」は論外でいいよね?』

 「成る程、よくわかりました」


 シショー曰く、能力に目覚めたら、自分がどの型に当てはまるのか調べるのも『把握』の内だという
 まだ発現しないグリーン、クリスやシルバーの能力もだ


 続いて、ゴールドの闘いで起きたことを一部始終話した
 そして、その上で奴らが何を望んでいたのかを考えるのだ


 


 「・・・・・・話はよくわかった。 この場合、総てをシミュレーションするのが一番だ。
 先ず、ゴールドが負けて、シルバーも負けた場合。
 俺達はもちろん、2人を捜す。 そして、案外、ゴールドの闘っていた場所は2の島の近くだった。
 発見されたゴールド、おそらく奴らはわざと生かしておくだろう。
 そして仲間の口から、ありもしない裏切りを耳にすることだろう。
 シルバーが(おそらく)『幹部候補』に勝っても、ゴールドが負けた場合もそうだ。
 ゴールドはシルバーに攻撃されたと言い、シルバーは仲間の内から居場所を失い、本当に寝返るかもしれない。
 ゴールドが勝って、シルバーが帰ってこなければ、そのまま姿を消した=裏切りの真実を確かめるのと変わらない。
 今回はゴールドが勝って、シルバーは負けたが帰ってこられた。 それ故に、俺達はシルバーを受け入れられたんだ」

 『・・・・・・奴らの狙いは、間違いなく、シルバーだった』
 
 「何で、何でシルバーが狙われなくちゃいけないのよ・・・・・・」

 「・・・そういや、シルバー・・・なんか最近様子が変だったな」


 レッドがポツリと言った、確かに・・・いつからおかしかったのだろう
 おそらく、それが・・・・・・組織に個人として狙われる理由になったことなのではないか


 「莫迦野郎・・・」


 ゴールドがかべをダンッと思い切り叩いた


 「シルバーの莫迦野郎がッ! なんで、なんでそのことを俺達に話そうとしなかったんだ!
 俺達がそんなに信用ならねぇか、俺達がそんなに頼りねぇのか!!
 ・・・ふざけんじゃねぇぞ、起きたら一発ぶん殴ってやる!」

 「同感だ」


 グリーンがにやりと笑って言った、恐ろしい・・・本気だ
 皆が言った


 ・・・・・・早く、目を覚ましてくれ。
 
 俺達は、仲間だろうが





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 皆、シルバーのことを待ってるんだよ

 お願い、早く目を覚まして・・・・・・



 私はシルバーの手をぎゅっと握った、この体温が、このぬくもりが消えないことを願って
 いや、絶対消させたりはしない
 皆が待ってる、皆がこんなにシルバーのことを思ってる
 もう、昔みたいに1人で背負わなくてもいいんだよ・・・・・・


 お願い、目を、覚まして





 心労の所為でしょうか、私はいつしか眠り込んでしまったのです





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 そして、その期待は総て裏切られることとなった





 いつの間にか開けられた窓から吹く、春先の冷たい風
 その手のぬくもりが消えた





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「バ、バッ・・・バッカヤローーーーーオォォオッッ」


 ゴールドの叫び、グシャリと握りつぶされた手紙


 ただ小さく、震えた字で書かれた手紙


 いつ書いたのだろうか、皆が泣いた


 『今まで有り難う、またいつの日か共に』


 


 午後5時39分27秒53


 この日、シルバーは俺達の前から姿を消した


 


 一切の衣服と荷物、その手持ちポケモンを持って





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 月がよく見えた


 


 「何処へ行くのかな、シルバー殿」


 海の上で、彼の眼の前に現れたるは





 ・・・・・・ジョウト四天王





 月がよく見えた





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