〜能力者への道62・集終〜




 闘いが終わり、皆は病院にて治療を受け始めた


 そこで交差する思い、シルバーはもう3日も目覚めない


 シルバーの身に何があったのか、それすら知ることが出来ない


 ただわかるのは、シルバーの傷口からの判断で・・・・・・相当の上級能力者であったことのみ


 これからの課題と共に、皆は自分の闘いを話し合うことにした


 トレーナー能力の分類


 シルバーが狙われた理由


 皆がシルバーの安否を気遣いつつも、仲間として激しい怒りをも憶えた


 何故、俺達に頼らなかった・・・何故、1人で背負ったのだ・・・と


 そして、シルバーに皆の想いは伝わらなかったのか


 病室から姿を消したのだ










 ・・・・・・真実を語ろう


 あの日、あの温泉地にて・・・何があったのかを





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・ねぇ、シルバー君」

 「!!? ど、どうして俺の名を・・・!?」

 「はじめまして、君達の敵である組織の幹部が長。 『玄武』と言います」


 ・・・・・・!!?
 

 こ、此奴が・・・あの・・・玄武!?
 間違いない、幹部の長・・・すなわち組織の頂点に立つ者!
しかし、いったい・・・何故、こんな所に・・・・・・しかも1人で・・・


 ・・・それに、もう仮面の男以上の力は、この人物からは感じられなかった
 不思議と、その人物の周りだけ穏やかで、静かな雰囲気で・・・・・・


 そんなことよりも、と・・・シルバーはスタスタと出口の方へ歩いていった
 後ろは振り返らない、振り向けない・・・・・・早く、早く皆に教えなければ
 そして、戦うなり逃げるなりの算段をしなければ・・・!


 「・・・皆に伝えるのは無駄な行為だよ、シルバー君。
 もし、私が君達に危害を加える気なら、とっくにしていることだろうよ。
 何故なら、この男湯の出入り口は1つ、女湯にも1つ、その2つの道に通じるこの洞窟の入口も1つ。
 そして、その入口の前に君達がキャンプしているのだろう?
 私は、そんな君達に気づかれることなく、先程普通に入って来たのだよ。
 わかるかな? つまり、最初から殺す気なら・・・君達は何も出来ずに終わっているってこと。
 それだけ私と君達では大きな差がある。 外の皆へ伝えるのは無駄だってこと、理解していただけたかな?」


 シルバーの足は自然と、ピタリと止まってしまった


 確かに、此奴の言うことが本当ならば・・・外へ知らせるのは無意味だろう
 ・・・ならば、此奴は・・・此奴は何をしに来た?
 闘いに来たわけでもなく、まさか温泉に入りに来ただけ・・・!?


 「温泉はついでなんだけどね、本当の用事は・・・シルバー君に会うためだよ」

 「!!? お、俺に・・・な、何の用だ!」

 「キミの両親を知っている。 それをキミに教えに来た」
 
 「!!!??」


 な、何と言った・・・此奴は、今・・・


 「・・・驚いているみたいだね。 まぁ当然かな?
 いずれキミも、キミの仲間も知ることになるだろうが・・・私がわざわざ教えに来たのは、他でもない。
 それを知ったことで起こりうる、キミを中心とした仲間同士の内部分裂を防ぐためだ」

 「!!?」


 シルバーは固まってしまった、それもそのはず・・・シルバーを中心に、近い将来仲間同士が分裂するというのだから
 それがしかも、シルバーの両親についてだというのだから・・・驚きも倍増以上だ


 知りたくないと言えば嘘になる、しかし・・・玄武の言うことが本当ならば・・・知らなくても良い真実となる
 ・・・・・・それでも、少しでも早く知っておけば・・・・・・
 もしもこの先、起こりうる内部分裂が防げるのならば・・・!


 「条件は何だ?」

 「?」

 「とぼけるな。 お前の見返りは何だ、そう聞いているんだ」


 ・・・しばらく、玄武は沈黙していたが・・・やがて、何故か笑い出した
 シルバーは呆然としている、こんな奴が・・・・・・リーダー?


 「ああ、おかしい。 あまり笑いすぎるのも良くないんだがね。
 ・・・別に私は何も要求しないよ、言ったろう? 『教えに来た』と」

 「・・・じゃあ、情報交換ではないと?」

 「そう言ってるじゃないか。 そもそも、キミが私達に有益な情報を持っているとは思えないからね。
 だから、この情報はキミが聞きたければ無料で教えてあげるんだよ」

 「・・・・・・なら、教えてくれ。 俺の両親について」

 
 玄武が、「意外と現金だね」とポツリともらした
 少々の間を空け、玄武は静かに言った


 「先ずはキミの母親についてだ。 キミの赤髪と顔立ちはその母親譲りと聞いた。
 ただ、残念ながら・・・・・・もうこの世にはいない。 数年前に亡くなったらしい・・・」


 玄武の告白に、俺は悲しいとは思わなかった
 仮面の男にさらわれたのは、まだ大分小さかった頃だ
 微かに残る母の記憶は、俺の中では何の反応も示さなくなっていた


 「・・・・・・そして、父親のことだが。 これが、キミとその仲間に対して・・・大きな爆弾ともなりえる情報だ」

 「勿体ぶるな。 さっさと教えろ」


 玄武が「目上の人には啓吾を使いなさいよ」とたしなめたが、敵に言われる筋合いはない


 「・・・キミの父親は生きている。 そして、キミの父親も能力者であり、更にキミが仮面の男に狙われる原因ともなった」

 「・・・・・・」


  次の瞬間、俺は自分の耳を疑った





 「キミの父親の名は『サカキ』。 かの有名な暴力悪事集団、R団の首領だ」

 「!!! 莫迦なっ!」


 あ、あの・・・先輩トレーナーの宿敵であった、あの組織の・・・リーダーが俺の・・・父親だって!!?


 「ぅ・・・ふ、ふざけるなッ! 誰がそんなことを信じるか!!」


 シルバーは思わず叫んでしまった、玄武は静かに言った


 「そうだよね。 信じられるはずもないだろう。
 しかし、私はそれを知りつつ言おう。 私達の組織に入らないか?」

 「!」


 突然の提案だった、玄武はその口調を変えず、淡々と言った


 「言ったろう? もしも・・・皆がこの真実を知れば、どう反応するだろうか。
 更に残念なことに、今、この時期・・・R団は復活を遂げた。
 首領であるサカキも動き始めているとの情報も入った、もしかしたらキミに会いに来るかもしれない。
 そんな時、キミ達はそういった事態に対処出来るだろうか?
 だが、私達の組織に入ればそんなことにはならない。
 ・・・いや、完全に入らなくても良い、入ったフリ・・・でも良いんだ。
 R団も、キミの父親もそれを知れば、迂闊にキミに手を出さなくなるだろうからね。
 勿論、入った所でキミは何もしなくて良い。
 カントー襲撃にも参加しなくても良い、組織の指令に従わなくても良い。
 キミの仲間にも入ったと告げることはない、キミさえ黙っていれば構わないことだ。
 しかし、名目上はキミはスパイとなる・・・彼処に居続けるならば、ね?
 居たくないなら、皆から離れて旅に出れば良い。 勿論、組織に入ったフリでもした以上の話だけれど。
 ・・・・・・どうだろう? これ以上にない待遇だとは思わないかい?」


 玄武の言っていることは、ある意味脅迫にもとれる
 しかし、シルバーの身を案じているのは確かなことだとわかる


 ・・・・・・それが疑問だった


 何故、俺が
 R団首領の息子だからか?


 「・・・・・・キミ達を他の誰にも殺されたくないからだ。
 そして、出来れば強くなって欲しいと願う。
 強くなって、強くなって・・・・・・高みに来て貰わねば困るのだよ。
 その為に、キミには・・・あの輪の中に居て欲しくないのだ・・・。
 酷なようだが、キミが彼らと居るだけで・・・・・・必要以上の危険がつきまとうからね」


 その言葉、その声が俺を押しつけ・・・うなだれた
 玄武がざばりと温泉からあがった、すれ違い様に「それも、試練と取るなら私は構わない。 強くなってくれればいいのだから」と言った
 俺はバッと振り返ったが、湯気で玄武の姿はぼやけ、また追う気にもなれなかった


 湯気の中、また響く声


 「・・・私自身が勧誘するのは一度きりだ。 よく考えてくれたまえ。
 決心がついたなら、尾行者にその旨を伝えてくれればいい。
 だが、もしも断れば・・・・・・キミはどうなるかわからない、そう思ってくれていい」

 「・・・・・・完全な脅迫だな」

 「そう聞こえたなら謝ろう。 だが、キミ次第というのも忘れないでくれたまえ」


 それと、小さくハッキリと「ウチの組織は給料も良いよ」なんて言って・・・風呂場から出ていった
 




 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 ・・・・・・つかめない人物だったが、俺はこの先どうすればいいのかもつかめなくなっていた
 

 俺は悩んだ
 皆を余計な危険にさらしたくないならば、奴の言う通りにすればいい話だ
 だが、俺は迷ってしまった


 「皆と共にいたい」 
 

 それだけだった





その後、尾行者から一度だけ接触があった
 俺はその時、「No」との答えを出した
 尾行者は言った


 「・・・お前、死んだな」


 と
 完全な脅しだったが、俺も相手もそれ以上は何も言わなかった


 それから、皆の・・・あの闘いが始まった


 俺の相手となったのは、そう・・・・・・『幹部候補』のジンだ
 その時、向こうも未練がましいのか・・・其奴も俺をもう一度誘ってきた
 刺客の独断ではなく、ただ伝言を伝えるかのような・・・無機質で、静かな声だった


 俺は「No」と答えた


 ・・・・・・それが、一方的な死闘の始まりだった





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・・・・成る程な。 そういうわけだったのか」


 冷たい海風が俺の身体に染みた
 暗がりの中、ジョウト四天王のキョウが言った
 俺は息絶え絶えに「そうだ」と言った、大体俺は半死人なんだ・・・・・・長く話すだけでもツラい


 「・・・アンタ、他の連中にはそれを言ったのかい?」

 「言う暇もなかった。 書く気力もなかった」
 
「シルバー坊や。 それはマズイんじゃな〜い?」


 カリンにイツキ、随分と久し振りに会うではないか
 まさか、こいつらと共に行動しているとは思わなかった


 「・・・仕方ないさ。 だが、これで俺が向こうの完全な標的となった。
 姉さん達にはもう関係ない。 向こうも迂闊な手出しはしないだろう・・・」


 1の島『ともしびやま』で奴らの団員服を見て、俺は玄武の話が本当だったことを知った
 向こうは俺の存在には気づかなかったようだし、俺も敢えて口には出さなかった


 「・・・・・・それより、ひとつ聞きたい。
 あの、俺達のタビダチの日・・・『幹部候補』ブレイドを代わりに倒したのは・・・お前達なんだな?」

 「・・・その通りだ。 奴を倒したのは俺とキョウ殿だ」


 カイリキーVSカイリキー     アーボックVSアーボック


 「シショーの回復をしたのは、『回復能力者』であるキョウだな・・・?」 

「如何にも。 拙者のトレーナー能力は『発動型』である『百薬の長』。
 如何なる毒も無効にし、あらゆる薬へと転換する力。
 ベトベトンから染み出した毒素は、板や傷口への『消毒液』に変化させた。
 おぬしを2の島まで運んだドククラゲの触手からは、『気付け薬』と『鎮静剤』、『痛み止め』を送り続けた」


 シショーの毒状態はこの能力があれば、確かに助かっただろう
 それにしても凄まじい能力だ、流石は先祖代々続く忍者・・・毒の扱いはお手の物ってわけか
 しかし、出来るのは主に状態異常の回復であり・・・残念ながら傷口そのものをふさいだり、輸血などの行為は出来ないらしい
 その点では、イエローさんの『トキワの癒し』などにはかなわないと言う 


 「・・・・・・そのことに関しては礼を言おう。 だが、お前達は自分達の意志で動いているわけではあるまい」

 「ご名答。 名は明かせぬが、ある人物の命により、我々は動き出したのだ」

 「・・・それより、シルバー。 アンタ、これからどうする気だぃ?」

 「じゃ〜あ、折角だからボク達のトコ来なよ〜ぉ。 そしたら、その傷の治療も出来るしさ〜ぁ、能力者修行だって教えられるよ〜ぉ?」


 イツキの提案に、また驚いた
 周りの3人もそれは良いアイディアだと、それを了承した
 だが、俺は・・・・・・


 「・・・折角だが、その話は断らせてもらう」

 「!」

 「な、何言ってんだよ、アンタ! その傷で、1人で動くってのかぃ!!?」

 「ああ。 その方が都合が良いんでな・・・」

 「無茶を申すな。 つまらぬ意地など、今は張るべきではない」

 「キョウ殿言う通りだ。 第一、その身体で何を為すというのだ?」


 ・・・皆が俺の身体を気遣っているらしい、それは正直嬉しかった
 だが、俺にはやるべきことが出来た


 ・・・そう、この闘いで、完全敗北したからこそ、ようやく決心がついたのだ





 「仮面の男を俺は捜す」

「「「!!!!!!???」」」
 
 「正気かぃ、シルバーッ!?」


 あの男は、確かにゴールドによって・・・時の狭間へと何処かへ流れていってしまった
 それはあの戦いに、少しでもたずさわった者達なら誰でも知っていることだ


 「なら聞くが、あの男に・・・お前達は勝つことが出来るか?」


 『ジョウト四天王』を名乗る4人全員が、ぐっと詰まった


 「氷雪系最強の能力、『永久氷壁』。 あの時・・・俺達が、勝てたのは奇跡に等しいものだった。
 それは今でも痛感している・・・。 おそらく、奴ら『四大幹部』にも劣ることはないと、俺は思っている。
 だから・・・俺はあの男の元へ再び行き、奴らと戦い絶対に勝てるだけの力を得るつもりだ」

 「し、しかし・・・今、あの男が何処にいるかもわからず、しかも・・・・・・生きているのかさえわからぬのにか!!?」

 「ああ。 もう決めたことだ。 それまで・・・・・・皆の所にも帰らないと決めた」


 皆と別れるのはツラかった
 この身体を動かす以上に厳しく、ツラく・・・・・・堪えられるものではなかった


 だが、それも・・・・・・


 「決心は堅いようだな」

 
 キョウがポツリと言った、カリンやイツキは・・・おかしいことに、かつての敵だった俺を気遣い、必死で止めている
 シバもまた、キョウに賛同する形のようだ・・・いや、俺の気持ちを完全に察してくれたのかもしれない


 「・・・おぬしの気持ちはよくわかった。 
 しかし、拙者達とて・・・その身体の状態で、放っておくわけにもいかない。
 故に、これから3日間・・・拙者達の監視下におく。
 その間、おぬしがその志を遂げられるよう・・・全力でその3日間、傷の治療にあてよう。
 ・・・もしも、その条件が呑めないのであれば、力ずくで2の島へ送り返すが・・・どうする?」


 キョウの提案に、俺はフッと笑って言った


 「・・・・・・脅迫は聞き飽きた。 いいだろう。 この身体を3日で、動けるようにしてくれ。  
 もし、出来なければ・・・・・・俺はお前達を倒して、更に上を目指す」

 「お〜〜〜、恐っ! シルバー坊や、何かたくましくなってな〜い?」

 「少なくとも、お前よりはな」


 イツキがカリンのその言葉にくってかかった
 キョウやシバはそれを後目で見つつ、俺とオーダイルの先導についた





 月がよく見えた





 「・・・さよなら、姉さん。 そして、皆・・・」





 ・・・またいつの日か、共に・・・





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