〜能力者への道63・人前〜


 シルバーがその姿を消した


 彼の目の前に現れたるは『ジョウト四天王』


 明かされた、真実の『ともしび温泉』での出来事


 『玄武』の登場、シルバーの父親・・・サカキの存在


 そして、この上のない好条件で組織へ誘われる


 しかし、シルバーは総て断った


 ジンとの闘い、シルバーは完全敗北から・・・決断した


 仮面の男を捜す旅に出る、そして見つけだし強くなるまで皆の所へは帰らない


 シルバーは月のよく見える夜に、その姿を消したのだった










 「「・・・・・・右眼が疼く・・・・・・」」





 ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・なっ、何を言うか!」


 白衣を着た老人がそう叫んだ、早朝の陽射しがその部屋の中に入り込んでいる
 グリーンが背中の傷の治療を受けている、が・・・どうも様子がおかしい


 「他の皆はともかくとして、お前さんの治療はまだ終わっておらんのだぞ!
 しかも、今一番の重傷だというのに・・・何を考えておるんじゃ!!」

 「別に。ただ俺達は立ち止まれないだけだ」


 グリーンがばさりと服を着始める、老医者はその様子をぎろりと睨みつけた


 「お前さんの仲間がああなってしもうたのは、わし達にも責任がある・・・否定はせんよ。
 じゃがな、じゃがらこそ・・・もうこれ以上の好き勝手は許さん。
 おとなしく、その怪我の治療を受け続けるんじゃ・・・藪医者の忠告じゃが、聞くんじゃ!!」

 「・・・世話をかけた」


 グリーンはその部屋の扉を開け、ばたんと外へ出て行ってしまった
 残された老医者は頭を抱え、ため息をついた・・・


 ・・・・・・ ・・・・・・


 グリーンが廊下に出ると、レッドとシショーがその場に居た
 レッドの耳では中のやりとりは聞こえていないだろうが、何となく察しはつく
 それでも、レッドはグリーンに訊いた


 「・・・医者、何だって?」

 「本日付けで晴れて退院だそうだ。 直ぐに出発の準備だ」

 『待った待った。 今は、今日は幾ら何でも・・・止めた方が良いと、僕は思うよ』


 昨晩、あの闘いで一番の致命傷を受けたシルバーの姿が消えた
 その時のショックは皆大きかった、特にブルーは塞ぎ込んでしまっている
 ・・・そして、その事件からまだ半日しか経っていない
 幾ら何でも、皆を立ち上がらせるのは・・・かなり厳しいことだろう


 「・・・・・・だが、俺達は・・・進まなくてはいけない」


 グリーンが先ずブルーの居る部屋の扉を開け、中へ入っていってしまった
 レッド達は止めようとしたのだが、どうも彼の決意は固いようだ・・・
 問題は、その決意を皆がどう受け止めるかなのだが


 ・・・それから10分程経った後、何故か晴れやかなブルーがその部屋から出てきた
 レッドとシショーは顔を見合わせ、未だ出てこないグリーンの様子を見に行ってみると・・・


 「・・・腹に一発だけで済んだ」

 「『・・・・・・グリーン・・・』」


 壁に寄りかかりつつ腹を押さえるその姿に、レッド達はもう何も言えなかった・・・
 そして、そのおかげで元気を取り戻したブルーが次々に皆の部屋に乱入している姿があったという




 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・




 「・・・んで、こっから何処へ向かうんスか?」


 総ての準備を終えて、病院を出てからゴールドがそう訊いた
 確かに、そうやって出発したのは良いのだが・・・その行き先をまだ誰も聞いていなかった
 グリーンが振り向かずに言った


 「この『2のしま』に、『究極技』を教えてくれる者が居ると聞いた。
 今日はそこへ向かい、その技を授けて貰いに行く」

 「へぇ、そんな人が居るんだ?」

 「ああ。 最も、未だかつて・・・誰も授かったことがないらしいがな」


 グリーンのその言葉に皆が驚いた、そんな不確かな情報で動くのか
 だが、「あのままうずくまっているよりは、有意義だと思ってな」と言われ、何も返せなかった
 ・・・それよりも気になるのは、グリーンの様子だ
 どうも、何処か無理をしている気がするのだが・・・?


 そして、更に厄介な種が・・・先程からずっと、付いてまわっていたりする・・・


 「そこのねーちゃん、ねーちゃんってばぁ、オレとどっかに遊びに行かねぇかよぉ?」


 如何にも軽そうで、ラッパー風で眼帯をした金髪頭の男が・・・病院を出たあとから、ずっとレッド達の後をつけ回すのだ
 ・・・いや、レッドではなく・・・恐らく目当ては女性陣の方だろうが
 こういう手合いは、幾ら睨みつけようが、幾ら追い払おうが・・・無駄だ
 というわけで、無視を決め込んでいるのだが・・・ブルーは思い切り苛ついていた


 「・・・レッドさん、ブルーさんがもの凄く恐いです」


 イエローがそっと言うと、レッドも肯いた・・・恐らく、皆がそう思っているはずだ
 それもそうだろう
 幾らグリーンで気晴らしをしたとはいえ、実の弟のような存在であったシルバーが・・・重傷のまま姿を消したのだ
 これでその安否が気にならない者など居るまい、ブルーは案外誰よりも心配性なのだ
 ・・・・・・まぁ、この場合はブルーでなくともかなり心配になるのだが


 だが、そんな心境にあんな男がずっとつきまとう・・・これはかなり目障りな存在だ
 しかも、その男の視線は先程からずっとブルーの身体にいっている
 いやらしいと言うより、そのおぞましさの方が遙かに上回る・・・
 幾ら相手にはしないと周りに、自分に言い聞かせているとはいえ・・・いつキレるかわからない状態だ


 皆ははらはらしながら、その目的地へと向かった





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・




 
 「・・・これを登るんですか?」

 「そうだ。 この上に『キワメ』という人が居るらしい」


 皆がその長い長い目の前の階段を見た、何百段あるのだろうかと・・・そう数える気も起きない程だった
 その長い階段の横には見事な滝が流れ落ちており、はねる水飛沫と水の冷気で肌寒い
 登るのが非常に嫌だったが、此処まで来てそうもいかないだろう
 皆が諦め半分でその階段を登り始めた・・・が、すぐにそれを止めた
 特に女性陣はその動きを止めるのが早かった、おかげで事なきを得たのだが・・・


 「・・・ちぇー、もーちっとで見えると思ったんに」


 金髪頭の男が、階段の一番下でしゃがみ込んでそう言った
 未だにその後を付いてくる男、そして今しようとした行為に・・・ブルーの頭からぶちっと音がした
 腰のボールに手をかけたその瞬間、攻撃目標になるはずの男の姿がいなくなっていた・・・


 「『ニドオ』の『あなをほる』の攻撃。 さっさと先へ急ごうぜ」


 レッドの方が早かったようだ、見れば確かに大穴が地面にぽっかりと出来ていた
 ブルーは少々不満そうだったが、やがてボールをその腰に戻した・・・皆はそれを見て、安堵の息をもらした
 ・・・それにしても、大分深く掘られたらしい、男の悲鳴すら聞こえてこない・・・
 皆はその男の心配などせず、むしろ天罰ぐらいに思いながら・・・改めて階段を登り始めた





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「やっと着いたーっ!」


 ゴールドはばたんと倒れ込んだ、クリスに「通行の邪魔」と言われ・・・レッドは誤って踏みつけてしまった
 どれ程の時間がかかったかはわからないが、兎に角長かった・・・流石に『ともしびやま』程では無かったが
 階段を登り終えると、その広い敷地の真ん中に・・・小さな家がぽつんとあった


 「・・・もしかして、これ?」

 『みたいだけど・・・』


 皆の言いたいことはよくわかった、あまりにもボロい家だったのだ
 勿論、人は住めそうだが・・・・・・いや、これはあまりにも失礼だろう
 だが、そう言いたくなる程にボロボロの家だった


 グリーンが率先して、その家の呼び鈴を鳴らした。


 がちゃりと扉が開くと、年老いた婆さんが顔を出した
 じろじろとグリーン達の姿を見てから、中へ入るように促した


 「あたしんとこ来る奴らの目的は、1つしか無いだろう・・・?」


 中に入ると、早速グリーンは本題に入った


 「単刀直入に言おう。 俺達に『究極技』を伝授して貰いたい」


 すると、キワメ婆さんがその返事を直ぐに返した


 「ああ、いいよ。 ただし、教えられるのは3人だけだ。
 『髪の毛三角山男』、『剣山風髪狐目男』、それと『過剰胸尻発育女』だけさね」

 
 最初は誰のことだか理解できなかった、いやその反応が遅れた
 どうも、今日はブルーの厄日らしい
 その言われようにカチンときて、必死にクリスとイエローに暴れないよう押さえつけられていた
 ・・・そんな様子を後目に見ながら、レッドとシショーがキワメ婆さんに問いただした


 「どうして、ゴールド達は駄目なんだ?」

 「きぇっきぇっきぇ・・・っ! 駄目なものは駄目なのさ。
 何せ、『火龍』『水亀』『花獣』を持ってる奴じゃなきゃ駄目駄目さ。 ンッ、ハァッ!!!」


 ・・・これも最初はわからなかったが、レッドとグリーン、そしてブルーの3人から理解した
 恐らく、リザードン、カメックス、フシギバナの事だろう
 そして、『究極技』とはこの3体にしか覚えることの出来ない技なのだ
 グリーンがすっと前に出た


 「・・・では、覚える為の条件を教えてもらおうか」

 「何言ってんだい。 もう終わってるわ」

 「「「!!!!!!???」」」


 レッド達が懐からポケモン図鑑を取り出し、直ぐに確認して見た
 すると、グリーンのリザードンは『ブラストバーン』
 ブルーのカメちゃんは『ハイドロカノン』
 レッドのフッシーは『ハードプラント』という技をそれぞれ覚えていた
 しかも、強制的に・・・一番上にあった技が消され、一番下の欄にその技が入り込んでいた
 かなり迷惑な話だし、いったい、いつの間にと思い・・・慌てて訊いてみた
 

 「『ンッ、ハァッ!!!』の時点で終わってるわ。
 別によく育ったその3体を持っていれば、誰にでも何の見返りも無しに教えるんだわさ。
 ホラ、あたしだって忙しいんだ・・・用は済んだろ、とっとと帰んなっ!!」


 そうやって・・・これもまた強制的にその家から全員追い出された
 あっと言う間過ぎて、最早何も言えなかった・・・・・・扉はぴっしりと閉められたようだった
 ・・・何だかどうも釈然としないが、このままもう下へ帰るほか無さそうだ


 レッド達が階段を下りようとすると、その目の前に金髪頭の男がまた居た
 性懲りもなく、しかもこんな所まで追ってきたのか・・・・・・最早此方の方も何も言えなかった
 それでも無視して、階段の方へ向かおうとするのを、金髪頭の男がへらへらと笑って言った

 
 「ねーちゃん、ねーちゃん、無視すんなよぉ。
 そんなボン・キュ・ボンッの身体でオレを誘惑してんだろ?
 わかってんだって、周りに遠慮なんかしなくたっていいんだぜぇ」


 ブルーが完全にぶち切れた


 「・・・・・・カメちゃん、早速『究極技』試してみましょう・・・」

 
 静かにブルーはそう言った・・・・・・顔も笑顔のままだ
 それでも野生の本能か、シショーが凍り付いた・・・そして、レッド達の表情が変わった
 ブルーがカメちゃんを出すと・・・遠巻きで見ている周りが制止の声と、流石に金髪男に逃げるように皆が叫んだ
 究極技の威力の程はわからないが、この状態のブルーの方がもっと危険だ
 だが、そんな必死の訴えもへらへらとなめきっている金髪男には聞こえないようだ・・・・・・ご愁傷様・・・・・・


 「カメちゃん、『ハイドロカノン』」


 その瞬間、もの凄い大水流がカメちゃんのその砲台から放たれた
 『ハイドロポンプ』とは比べものにならない程の威力、そしてそれは金髪男の目前まで迫ってきて・・・・・・ 

 
 スパァンと音がした


 金髪男が『カブトプス』を出したかと思うと、素早い動作でその大水流の横に回り込んだ
 そして、その腕の鎌を以て・・・・・・それを切り裂いた
 信じられないものを、レッド達は見ていた
 切られた大水流が宙を舞い、地面にばしゃんと落ちた


 ・・・が、それだけではない
 切られた残りの大水流が、凍ってしまったかのように・・・その状態で固まっていた
 それはまるで金太郎飴のような断面と形、魔法のような現象が起きていた


 それから数秒後、その残された大水流が水風船のように破裂した
 ・・・反動でブルーが地面に叩きつけられた、カメちゃんもまた同じように地面に這いつくばった
 起き上がろうとするブルーの目前に、あの金髪男とカブトプスが居た


 「・・・やっぱ、かーいよなぁ。
 なぁ、ファーストキッスとかってもうヤった後?」


 得体の知れない何かにブルーは一瞬気圧された、そして迫る男
 皆がそのブルーの元へ駆け寄ろうとした、だが・・・・・・





 バギィッと音がして・・・金髪男の身体が吹き飛んだ、同時にカブトプスも・・・地面に倒れ込んだ
 誰よりも速く、ブルーの目の前に現れたるはグリーンとハッサムの姿だった
 金髪男の顔を思い切り殴り飛ばし、カブトプスはハッサムの『メタルクロー』によって・・・だ


 「・・・・・・あ・・・」

 
 ブルーが何かを言おうとした時、グリーンががくんとその膝を折った
 

 「(・・・・・・右眼が、疼く・・・)」

 「ヒャハハハハッハハハハッハ・・・ッ! テメェが彼氏かぃ? いんや、違ぇなぁ・・・同類さんよぉ?」


 むくりと金髪男とカブトプスが起き上がった、そしてバチンと男は右眼にしていた眼帯を外した
 中から出てきたのは普通の眼、しかし・・・何故かビクビクとケイレンしていた


 ・・・・・・そう、右眼を手で押さえ・・・うずくまっているグリーンと同じように、だ・・・


 「同類。 勝負しようぜ? どちらが優れた同じ力を持つ能力者かをよぉ?」

 「「「「「『能力者!!?』」」」」」

 「・・・・・・嘘・・・?」


 全員が虚をつかれた、グリーンは何も言わなかった
 金髪男はにたりと笑って言った


 「何でぃ? 隠してたんか・・・そりゃあ良いことをしたな、オレ。
 そう『理(ことわり)は力となる』、古来より代々受け継がれしトレーナー能力『理力(フォース)』!!!
 さぁ、オレとテメェ・・・どちらが上か勝負をしようじゃねぇか・・・」 

 
 金髪男が口に出し、グリーンは心の中で言った


 「「・・・・・・右眼が疼く・・・・・・」」







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