〜能力者への道64・人中〜



 右眼が疼く


 怪我も完治せぬままにグリーンは、シルバーの喪失から皆を無理矢理起こす


 病院から出ると、如何にも莫迦らしいラッパーにつきまとわれる


 金髪頭のラッパーの目的はブルー、しかもかなり露骨で皆を苛立たせる


 究極技伝授を目指す一行、その為には・・・・・・ラッパー風の男は強制的に追い返される


 レッドのニドがあなをほるによって・・・哀れ、悲鳴すら聞こえぬ程深い穴の底へ


長い階段を経て、漸く辿り着いた『キワメ』の小さなボロい家


 ご在宅でもあったので、早速本題に入ったのだが・・・ものの5分もかからずに目的達成


 あっという間の展開に戸惑う皆、そしてその目の前に再び現れたラッパー風の男


 ブルーがキレて究極技を発動する、そしてそれをうち破ったのだった・・・


 身の危険を感じるブルー、誰よりも速く駆けつけたのはグリーン


 そのラッパー風の男が正体は・・・・・・なんとグリーンと対を為す能力者で・・・?











 「・・・やれやれ、とんでもないことに巻き込まれちまったわさ」


 キワメ婆さんがよっこいしょと言いながら床に座った、レッド達もまたそのボロい家に再び上がり込んでいた
 ただ、その皆がいる部屋にグリーンの姿は無かった・・・彼は奥の部屋で寝かせられている
 ハッサムと共に、あの男に破れた傷と完治していない背中の怪我の所為で


 そう、グリーンは負けたのだ
 あの金髪頭をした男に、名は『パークル』と言った
 もし、キワメ婆さんがこの家からその闘いを観ていなかったら、2人の間に割って入ってくれなかったら
 グリーンは間違いなく、再起不能になるまで・・・ヘタすれば殺されていただろう
その男、パークルの強さはそれ程までに圧倒的だったのだ

 
 「・・・やれやれ、のどがかわいたのぅ」

 キワメ婆さんが肩をぼきぼきと鳴らしながらそう言うと、イエローがスッと立ち上がった

 「あ、お茶でもいれてきましょうか? 場所教えて下さい、お婆さんは座ってていいですから」

 「おお、そうかい。 お茶っ葉は台所のホレ、そこの戸棚の上さね。
 なぁに、背の低い『黄髪胸尻寸胴少女』でも取れる高さだから、安心おし。
 やかんとガスコンロ、その他もろもろはそこらに転がっているじゃろうて」


 キワメ婆さんのそのセリフが、イエローの心にクリーンヒットした・・・かなりのショックを受けたようだ
 ふらふらになりながら、台所・・・とは言えないような所へ歩いていった
 レッド達が哀れむようにそれを見送ると、キワメ婆さんの方を真剣な表情で見た


 「先ずは改めてお礼を言いたいと思います。
 グリーン、そしてあのパークルを止めてくれて、本当に有り難う御座います」

 「んぁ。 なに、家の前に死体があるのはイヤだからねぇ・・・」

 「死体って・・・ちょっと・・・」

「事実、そうじゃろうて。 折角、あたしの究極技を教えてやったのに、あのザマだ。
 ハッサム対カブトプスの能力対決にも後れをとったさぁね。
 それにあの怪我、あれで退院なんて嘘も程々だね・・・まるで全部が自殺行為だわさ」

 
 キワメ婆さんの言葉に、ゴールドとクリスが叫ぶように言った


 「そうだ、結局『究極技』って何なんスか!?」

 「グリーンさん達の『理力』ってどういう能力なんですか!?」

 「ったく、落ち着きな。『髪の毛爆発浅はか莫迦男』に『髪の毛逆立ち二重人格風少女』!」

 
 その付けられたあだ名に2人がぴきんと固まった、段々その内容が酷くなっている気がする
 ・・・それから、イエローがお茶を持って、台所から戻ってきた


 「・・・・・・すみません。 湯飲みが人数分見当たらなかったので・・・」

 
 そう言って皆に渡されたのはどんぶり茶碗になみなみ入ったお茶だった、シショーは水だったが
 人数分・・・といったが、実際にちゃんとした湯飲みは1つしかなく、キワメ婆さんはちゃっかりとその湯飲みを持っていた
 キワメ婆さんが一口その茶をすすり、イエローの方を見た

 
 「・・・フン、大したもんだね。 ウチの激安茶っ葉で、なかなかいい味出てるよ」

 「えっ、そうですか?」


 キワメ婆さんに誉められ、えへへへとイエローが照れて見せた
 皆もそれを飲んでみれば、成る程・・・確かに美味しい
 飲んでから皆もそれを誉めると、イエローは益々喜んだ

 「有り難う御座います・・・」

 「ああ。 『黄髪胸尻寸胴発育停止少女』にしちゃ、いい感じだよ・・・」

 
 瞬殺だった
 イエローががくんと崩れ落ちた、必死で周りやシショーに慰められている
 「(色んな意味で)誰もが一度は通る道だよ、落ち込まないで」、と
 あまり慰めになっていないのだが、それでも皆は慰めようと頑張っていたり・・・


 キワメ婆さんがやれやれとため息をつくと、ぎろりと皆を睨みつけた


 「・・・先ずは全部の事情を話して貰うよ。 何故、こんな旅をしているのか。
 能力に目覚めたのはいつなのか。 包み隠さずね。
 それがわかったンなら、とっとと話しな・・・・・・」


 それから、レッドとシショーが中心となって話し始めた
 



 
 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 総てを話し終えると、いきなりキワメ婆さんが笑い出した
 その突然のことに、皆が呆然としている・・・


 「きぇっきぇっきぇっきぇっきぇ・・・こいつぁ、おかしいわぃ」

 「何がおかしいんだよ?」


 おかしいも何も、ジョウト地方を襲った能力者組織
 それに立ち向かおうとする連中、喋るポケモン
 加えてのその内の1人は理力の使い手・・・しかもそのことを仲間に隠していたと言うじゃないか


 「・・・『似非紳士風変態梟』は何も教えていないのかぃ、能力者について」

『へ、へんたい・・・』

 「ああっ、シショー、落ち込まないで! 誰もが一度は通る道ですから!!」


 部屋の隅でシショーがどんよりと沈み、今度はイエローが慰めに入った
 キワメ婆さんがそれをちらりと見て眉をひそめ、まともそうなレッドとブルーの方へ顔を向けた


 「・・・ったく、まともな奴がいないね。 師匠も師匠だし」

 「何おぅ、シショーの何処がまともじゃないってんだ!!」


ゴールドはそう憤るが、周りの皆は何も言えなかった・・・・・・
 キワメ婆さんはそれを無視し、レッドに言った


 「髪の毛三角山鈍感男、歳は幾つだい?」

 「え、俺? ・・・17ぐらい」

 「やっぱりね。 そんなもんかと思ってたよ。
 なら、『能力者の歴史』も知ってなさそうだね」

 「! そんなものがあるんですか!?」

 
 イエローがつられて驚くと、キワメ婆さんがフンと鼻息荒く言った


 「おヌシら、『わざマシン』の仕組みと誰が最初に作ったのか知っておろうな?」

 「え、そんな・・・・・・」


 突然の問いに皆が戸惑う中、レッドがすらすらと答えた


 「『わざマシン』? ああ、あれかぁ・・・。
 あの機械の中にはそれぞれの技の情報を特殊な電波に変換したものが、その波形が記録されているらしい。
 それをポケモンの頭、脳に直接送り込み、技を覚えさせる・・・ってのが、大体の仕組みだな。
 普通にそのポケモンを育て続けても、覚えることが出来ない技も『わざマシン』で覚えさせることが出来る。
 それは結構機械自身にも負担がかかるから、それ故に『一回限り』で壊れる。
 まぁ、機械自身の耐久性を上げることも可能らしいけど、原価なんかが高くなっちゃうらしいから・・・それじゃ意味が無い。
 だから、一回限りで壊れるようにしているらしい。 その分、1個辺りが安くなるからな。
 ついでに『ひでんマシン』ってのは、『わざマシン』とその仕組みは変わらない。
 けれど実際は、本来ポケモンが持つ生態の力を完全に引き出す為のもの、そういう電波を送りこむらしい。
 ほら、『いあいぎり』とか『なみのり』とか『かいりき』とかな。
 普段、野生ポケモンがそれに近いのをやってるだろ? あれを技のレベルまで引き上げるんだそうだ。
 だからかな、そうそう特殊な効果や威力を持つ技はないけど、機械にも負担がかからないから、半永久的に保つんだって。
 その他の仕組みのもっと詳しいこと、詳細はよくわからないけど、かなり凄い機械だよな。
 最初に作った人? 誰だろ、んー・・・でもアレだろ。 大方、『ポケモン協会』の人じゃないかな?
 『わざマシン』はポケモン協会から決められた数だけ、色んな所に配給されるって話だから。
 ホラ、ジムリーダーに勝ったら賞品として貰えたりするだろ? あれがそう。
 ジムリーダーはスーパーボールと一緒に、挑戦した人が勝った場合に与えるレプリカバッジとわざマシンを月イチで協会から受けとるんだ。
 それを俺達が貰ったり、研究者やそういう権威の人から貰ったり譲り受けたり、後は一般販売も滅多に無いけどあるよな。
 そー考えると、ポケモン協会が独占しているものだし、やっぱ作ったのはポケモン協会じゃないか?
 ・・・・・・って、皆どうしたんだよ? そんな目を丸くしてさ」


 長いレッドのその講釈に、皆は目をぱちくりとしている
 「まさか」や「嘘でしょ」、「信じられねぇ」・・・という態度だ


 「・・・失礼だなー。 これでも、ジムリーダー候補だったんだぞ?」

 「そういや、そうでしたっけ・・・」

 『うーん、何て言うか・・・・・・どう評価すれば・・・』


 次々に失礼なことを口にし、レッドが不満そうに頬を軽く膨らませた
 キワメ婆さんがきぇっきぇっきぇっきぇ・・・と笑って言った


 「いやいや、なかなかどうして・・・。 じゃが、肝心な所は外れているのぅ」

 「?」

 「ポケモン協会が『わざマシン』を最初に作ったワケじゃないのさ」

 「んじゃ、どこなんスか?」


 ゴールドがそう訊くと、キワメ婆さんはゆっくりと答えた


 「今からたったの21年とちょっと前、今の『シルフカンパニー社』が初めて売りに出したのさ」


 驚愕の事実だった、まさかそんなものまで開発していたとは・・・


 「それから、その半年後、利権や開発技術のもろもろ総てを、ポケモン協会に譲り渡したんさ」

 「どうして? 大発明じゃない。 今の普及や色々考えれば、大もうけ間違い無しなのに!?」


 ブルーの疑問も尤もだ、どうして売らずに譲り渡してしまったのだろうか
 その問いにキワメ婆さんは答えた


 「『わざマシン』の存在は、色んな意味で恐ろしかったのさ。
 通常では覚えられない強力な技を、いとも簡単に覚えさせることが出来る。
 ・・・その技を覚えさせたまま、野生に逃がしてしまうトレーナーもいた。
 そう、ポケモンの生態系を崩しちまう恐れがあったんさ。
 故にポケモン協会はそれを世間に、シルフカンパニーに警告をした。
 そして、シルフカンパニーは条件付きでそれらをポケモン協会に譲り渡すことを世間に伝えた」

 「条件?」

 「・・・いや、その話は後に回すとするかいの。 物事には順序が必要じゃ。
 今度はお前さん達に教えた『究極技』について語ろうかの。
 ポケモン図鑑を出しな、どんな技だか詳しく出ておろうぞぃ」

 
 少々その話の先が気になるが・・・言われた通りに取り出して見て、改めてその技を見た
 そして、レッドとブルー、おそらくグリーンとも共通しているのは・・・


 「威力150。 フッシー達の『タイプ1』と同じタイプ技。 それと・・・」

 「『はかいこうせん』と同じように、使った後は反動で動けなくなる・・・ですって!?」

 「そう。 究極技とは『火竜』『水亀』『花獣』専用の『はかいこうせん』級の技ってことさね」


 ただし、究極技との名通り・・・その威力は半端ではない
 タイプだけ見れば、確かにそれぞれのタイプの中では最強クラスの技だ
 加えてタイプ一致で1,5倍、つまり通常でも『225』の威力が出るというのだ
 タイプ相性によってそれも変動するが、最高では実にその6倍・・・『1350』もの威力が・・・・・・


 「・・・まさに『究極技』だな」


 レッドがぼそりと言った、確かにこんな技は他に類を見ない
 『はかいこうせん』や『じばく』『だいばくはつ』という大技、高威力を誇る技は確かにある
 しかし、それらは『急所に当たる』ことはあっても、『効果は抜群だ』になることは決してない
 それが『タイプ・ノーマル』だからだ
 だが『究極技』には『ほのお』『みず』『くさ』というタイプだ
 その3つのタイプを弱点とするタイプも数多い、勿論その反対だってある
 ノーマルはゴーストタイプには無力だ、しかしこの3つのタイプにはそれが無い
 それ故に、この技は強いのだ


 「・・・というか、こんな技がこの世に存在していたこと自体が恐ろしいです」


 イエローがそう言うと、クリスははっと気がつき・・・思い出した


 「そう言えば、さっき・・・『誰にでも何の見返りも無しに教える』って・・・」

 『! そういえば・・・言ってた』


 どういうことだろうか
 こんな凄い技を何の見返りも無しに教えるとは
 しかも、こんな簡単に教えてくれるとなれば・・・それこそ全国からトレーナーが集まってくるはずだ
 

 「簡単な話さ。 幾十人にこの技を教えた。 でも、誰もそれを口には出来なかったのさぁ」

 「どういうことスか?」

 「フン。 お察しの通り、あたしが言うのもあれだけど・・・これだけ強くて凄い技だ。
 噂を聞きつけ、トレーナー達がよく育った『火竜』『水亀』『花獣』を持って、此処に来た。
 リーグチャンピオンになった奴が更なる強さを求めて、此処に来て・・・あたしが教えてやったこともあったよ」

 「それで? その人達は・・・?」


 キワメ婆さんがふぅとため息をついた


 「誰の1人も使いこなせなかったらしいのぅ」

 「「「「「『!!!!!!!!!!!!??????』」」」」」 

 「驚くこたぁないさ。 あれだけの威力を持つ技を、簡単に使いこなせるわけなかろう。
 その技を出して、その威力にトレーナーもポケモンもビビッて、どうにかして忘れさせちまうらしいわさ。
 しかし、教えて貰った手前はバツが悪い。 そこで皆、口を揃えてこう言うのさ。
 『残念だが、俺も教えては貰えなかった。 意地が悪い婆さんだった』。
 もしくは『ただのデマ。 確かめてきたけど、そんな話は全部嘘だった』、『教えてくれる人がもう死んでた』・・・なんてね」

 「・・・・・・どうしてでしょうか?」

 「プライドの高い連中だったからねぇ。 きぇっきぇっきぇっきぇっきぇ・・・」


 キワメ婆さんが嘲笑い、再びレッドやブルーの方を見て言った


 「その点で言えば、お前さん達はまだ望みがありそうじゃな」

 「・・・・・・大変な技、俺達、背負っちゃったみたいだな」

 「ホント。 信じられないわよ、全く」

 
 レッドとブルーもため息をついた、この技はしっかりと扱えるようになるまで、しばらく封印しておいた方が良さそうだ
 でなければ、そう・・・ヘタをすれば相手のポケモンどころか、そのトレーナーまで殺しかねない
 それも能力者同士との闘いとなれば、もう・・・・・・どこまで威力があがっていくことやら・・・
 

 「・・・あ、でも・・・そんな威力を持った技が、パークルに破られたッスけど?
 ブルーさんの『ハイドロカノン』にグリーンさんの『ブラストバーン』の2つが」


 そうなのだ
 ブルーがその技を放ったが、パークルの前に破られたことは知っているだろう
 そして、グリーンもまた・・・・・・同じように圧倒的な炎が切り裂かれ、切られた断面から爆発を起こしたのだ


 「もしかして、『理力』と関係があるんですか?」


 レッドがそう訊くと、キワメ婆さんがこくりと肯いた


 「鋭いさね。 その通り、あれは『理力』・・・」


 キワメ婆さんが何か言いかけ、その途切れた言葉を繋げることなく・・・すくっと立ち上がった
 それから立ち上がって直ぐに、グリーンが寝かせられている部屋の方へ向かった


 「? キワメ婆さん・・・」

 
 レッドがその後を追い、言葉を失った


 「・・・・・・あンの剣山風髪狐目自虐的莫迦男が・・・!」


 状況が似すぎていた


 キワメ婆さんとレッドが立っているその間から、ブルーが覗き込み絶句した
 そして、あっと言う間にこのボロい家から飛び出していってしまった
 周りの制止の声も届かず、ブルーは飛び出していってしまった





 そこで寝かされていたグリーンの姿は、小さな小さなその部屋の何処にも無かったのだ
 ハッサムをはじめとした、手持ちのポケモンの一切もまた消えていた







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