〜能力者への道66・人追〜



 ポケモン協会とシルフカンパニー社と能力者


 総てはここから始まった


 明かされた真実、閉ざされた真実


 始まってしまった悲劇、人々の心


 『能力者狩り』、転じて『理力狩り』


 グリーンの心中は、パークルとの闘いは何だったのだろうか


 『2のしま』が浜辺で見つけたグリーンの姿、ブルーの心中


 『人』と『入』いう字と、支え合うべき仲間達


 眠り鋭気を養ったグリーンは、パークルとの決着をつけに行く










 「……グリーンが、能力者だって……?」

 「おいおいおいおい、何言ってンだよ、何者だ、テメェは!」


 ゴールドがそう訊くと、金髪男はそのゴールド達全員を見下すように見て、嘲笑いながら言った


 「俺の名か? 俺は『パークル』っつンだ。 最強の『理力』を持つ男だ、そしてそれをテメェで証明してやるよ」


 パークルはグリーンをビッと指差し、カブトプスも同様にハッサムへ刃を向けた
 レッド達は反射的に腰のボールに手をかけた、もしかしたらあの組織の刺客かもしれない・・・
 灰色の服を着ていないが、ディック達のように青や赤の服を着ているわけでもない
 だが、無関係とも思えない・・・・・・迂闊には動けなかった


 ブルーの『究極技・ハイドロカノン』が大水流を切り裂いたカブトプス、魔法のような出来事
 先ず間違いなく『トレーナー能力』であり、奴自身もそれを認めている
 しかし、グリーンまでが奴と同じ存在、つまり同じ『理力の能力者』だという
 レッド達はにわかに信じがたかった、そんなこと・・・今までに一度もグリーンの口から聞いたことがない


 「隠しても無駄だ。 お前と俺は同じ能力に縛られてんだろ?
 わかッてんだ、さっさと闘おうぜェ!! 同類さんよぉぉおぉおっぉおぉッ!!?」


 パークルがケイレンしている右眼を見せつけながら、狂い叫びながらグリーンに迫った
 皆が、傍にいたブルーが、うずくまっているグリーンへ何か言いかけた時だった
 グリーンは無言で彼女を庇うように立ち上がり、一斉に手持ちのボールを総て開けた
 パークルもまた、同じように総てのポケモンを出した


 ハッサム、リザードン、ゴルダック、サイドン、ポリゴン2、ナッシー

 カブトプス、オニドリル、キングラー、カイリキー、レアコイル、ベトベトン


 互いの総てのポケモンが出揃った瞬間、いきなりバトルはスタートした
 なんとトレーナーの指示も待たずに各々が相手を見定め、勝手に闘い始めてしまったのだ
 リザードンとオニドリルは空中戦へ、ゴルダックとキングラーはボロ屋の横に存在する滝ある池へとフィールドを変えた
 ナッシーは『サイコキネシス』を放ち、ベトベトンは地面に混じり合い溶け込むことでそれを回避した
 サイドンは『とっしん』、カイリキーは『かいりき』で互いが衝突しあい、かぶりついて動かない
 ポリゴン2とレアコイルは『でんじほう』を同時に放ち、互いの技を相殺した
 

 そして、ハッサムとカブトプスは宙を跳び交い、互いの獲物をぶつけ合った


 グリーンは無言で佇み、パークルはにやにやと笑いながら仁王立ちのまま立っているだけだ
 そのどちらも指示を出さないにもかかわらず、互いのポケモン達は指示無しに技を繰り広げ合う
 レッド達はその奇妙な戦闘をただじっと見ているしかなかった、1対1の戦闘に加勢をする程野暮でもない


 それに、入り込もうにも入り込めない・・・・・・2人しかわからず、立ち入ることの出来ない何かがそこにはあった





 「・・・・・・さっさと帰れェえッ!!」


 キワメ婆さんがバケツに入った水を思い切りその扉の真ん前にいたゴールドにぶちまけた、他の皆はそれを素早く避けていたりするのだが
 ぽたぽたと自慢の前髪から垂れるしずく、レッドがぶち切れる寸前の身体を必死で抑えつけた
 ・・・それから、キワメ婆さんがブツブツと文句を言い始めた


 「ったく、人ン家の前で能力者同士が闘ってんじゃないよ。 ウチを壊す気かい?」

 「文句だったら、あの2人に言って、俺に水をぶっかけるんじゃねェーーーッ!!!」

 「知るかい、ンな小っちゃな事。 たまたま目の前にいたから、ぶっかけてやったんじゃ」


 キワメ婆さんがしゃあしゃあとそんなことを言うと、益々ゴールドが憤った
 レッドはそれを抑えつけながら、訊いた
 

 「キワメ婆さん・・・あの2人って本当に能力者なんですか!?」

 「なんじゃ、違うのかぃ?」

 「いや、俺達も状況が飲み込めなくて・・・」


 ふぅんとキワメ婆さんがその闘いをじっと見た、レッド達も闘いに再び目をやった
 キワメ婆さんは開口一番に言った


 「あの『剣山風狐目男』、押されてるね」

 「えっ!?」


 その言葉に驚き、よく見てみた・・・表面上は互角の戦いに見えるのだが・・・


 だが、実態はキワメ婆さんの言う通りだった


 例えば空中戦、水中戦の場合
 グリーンのポケモンはリザードンとゴルダック、パークルのポケモンはオニドリルとキングラー
 この2体との闘いなら、グリーンがひけを取るとは思えない
 しかし、現実は違ったの
 グリーンのポリゴン2と闘っているレアコイルが、連結を一時的に切り離し、グリーンのその2体を攻撃しているのだ
 いわゆる加勢、しかもそれは味方のポケモンが相手から離れ、キングラーは水場から出た瞬間に『10まんボルト』を放つ
 グリーンもこれには指示を与えて避けるように言うが、間に合わない上・・・かなり効いているようだ


 こうして見てみれば、互いに指示をしないという点では同じだが、各々のポケモンが対応や技の選択が違う
 効果的に相手を途切れることなく攻め続け、加勢攻撃をするパークルのポケモン達に対し、グリーンのポケモン達は自ずと防戦一方となる
 

 パークルは狂ったように叫び、笑いつつ・・・しかし、目元は笑わず、見下すように言った


 「ヒャハ、ッヒャハハッハハハッハハ・・・!
 弱ぇ、弱すぎるぜぇ!? テメェのポケモンが、テメェの『理』がよぉ・・・?
 まさか、まさか『レベル1』も扱いこなせてねぇなんて・・・ッ! 笑いが止まんねェよぉおぉぉおぉおッ!!」


 レッド達は唖然としていた、グリーンが・・・・・・あのグリーンが押されている、圧倒されている・・・


 だが、グリーンは反撃の時をずっとうかがっていた
 パークルがそうやって、相手を見下し・・・隙を見せるその瞬間を!


 リザードンはオニドリルを身体ごとぶつけ、一時的に体勢を崩させた
 それから、そうしてわずかに出来た闘いの合間に、地上にいるパークルの方へその顔と口を向けた
 パークルやキワメ婆さん達がそれに気づき、反応した時には・・・グリーンはその技名を言っていた


 「『ブラストバーン』だッ!!」


 その指示が出た瞬間、リザードンの口から『だいもんじ』よりも激しい炎が吹きだされた
 あまりの熱さ、熱風で離れた位置にいたはずのゴールドの服や髪はさっと乾き始める程だった
 その勢いにのった火炎は凄まじく速く、頭上から落ちてくるそれには反応しきれないだろう・・・
 

 そんな大火炎の前でも、パークルは嘲笑っていた





 ハッサムと闘っていたはずのカブトプスが、ブルーの時と同じようにその大火炎の横に回り込んでいた
 ・・・パークルは余裕の嘲笑いと共に、ゆっくりと言った


 「カブトプス、『イクス・シー・クロウ』だ・・・」


 その大火炎は刹那、真っ二つになった
 切られ、切り離された大火炎は自由落下をし始めた
 最早何の勢いも激しさも失ったそれは、キングラーとカブトプスの水タイプの技によって消されてしまった
 更にブルーのカメックスと同じように、大火炎は切られた状態のまま固まり、静止していた
 リザードンは空中で、いつまで経ってもその口から離れようとしないその存在にもがき苦しんだ


 やがて、その残された大火炎は・・・同じように膨れ上がり爆発した
 その爆音はブルーの時よりも大きなもので、びりびりとボロ屋が振動し倒壊するかと思う程だった
 爆煙の中、空中から・・・焼き焦げたリザードンが自由落下し始めた


 「・・・・・・! リザードン!!」

 「・・・あっ、あの能力・・・あの技は・・・ッ!!」


 キワメ婆さんがそう叫ぶのに対し、パークルはにたりと笑った


 それから・・・ズズンと案外静かな音を立てて、リザードンは地面に転がった
 見るにも無惨でピクリとも動かず、白目をむいている


 「クズだな」


 パークルはそう言い放つと、オニドリルを始めとしたポケモンを手持ちのボールに戻し始めた
 そして、たった一体だけ・・・・・・カブトプスだけ残した
 また、グリーンも同じようにハッサムだけ場に残し、他の手持ちは総てボールに納めた
 先程とは違う、更に高まった緊迫感が辺りを包んだ
 グリーンは小さく、ブルーに「下がっていろ」と言った
 何もわけもわからなかったが、大人しくそれに従い・・・ずるずるとレッド達の方へ後退った


 キワメ婆さんが目を閉じながら、言った


 「彼奴ら、小細工は無しで、次の一発で決めるつもりだよ」

 「・・・!?」

 「は、ハァッ!?」


 皆が一斉にキワメ婆さんの方を見た


 今まで多対多ではパークルの方が圧倒的だったにもかかわらず、どうしてあのまま戦い続けないのか
 認めたくはないが、あのまま戦い続けていれば・・・グリーンに勝てそうなものを


 キワメ婆さんはゆっくりと目を開け、刮目して言った


 「あの『金髪狂嘲笑男』は、『剣山風狐目男』の総てをうち破る気なのさ」

 『つまり・・・「完全勝利」、グリーンの「完全敗北」を狙って・・・』


 皆が再びグリーン達の方を見た瞬間に、総ては始まり・・・既に終わっていた





 「破壊の鋼爪、『ディス・クロー』!!」

 「爆発の海爪、『イクス・シー・クロウ』」










 衝撃音すら聞こえなかった
 ただグリーンとハッサムが倒れていく姿、同時にパークルとカブトプスが近づいた
 嘲笑った、嘲笑った、嘲笑いながら、見下した、見下した、見下しながら言った


 「ヒャハ、ハハハハッハハッハ・・・! テメェの『理』は薄弱過ぎンだよ。 他愛も無ェな、おい?
 ンンま、最も『レベル1』ですら扱えねぇ奴だかんな!? 落ちこぼれのクズが」

 
 パークルが思い切りグリーンの腹を蹴飛ばした、レッド達は見かねてその男に立ち向かっていこうとした
 しかし、動くに動けなかった
 いつの間にかパークルの手持ちポケモン達がレッド達を取り囲み、完全にその動きを封じていた


 「いい眺めだろ、あァン? テメェらのお・と・も・だ・ちが足蹴にされ、首をはねらる様子がよく見える特等席だ」

 「ふ、ふざけんなッ!! 誰がンなことやらせるかよ!!!」


 ゴールドが動こうとした瞬間、カイリキーの4本の腕が四肢を封じた
 徐々にその腕に力が入り・・・関節とは逆方向に曲げられ、みしみしと嫌な音がし始めた
 苦悶の表情が浮かび上がり始めるのも同時で、パークルはまた嘲笑いながら言った


 「オレ様裁判決行します。 被告人『同類・グリーン』に、判決を申し渡す。
 ・・・・・・『弱っちぃ罪』で、首切りの刑に処す」

 
 ゴールドを除いた全員が、腰のボールに手をかけた瞬間に・・・レアコイルの電撃が皆の身体を硬直させた
 まひ状態だ
 それでも、イエローだけがその自身の能力の影響か、動くことが出来た
 しかし、それもベトベトンに手足を捕らえられ、皆と同様に身動きが取れなくなった


 カブトプスの鎌が持ち上げられ、振り下ろされ・・・・・・





 ・・・・・・パークルの喉元に杖が突きつけられていた


 カブトプスはとっさに振り下ろすのを止め、主人の方を向いた
 其処にいたのはキワメ婆さんだった
 レッド達と共にいたはずなのに、1人だけその包囲網を突破し・・・いつの間にかパークルのすぐ傍にいた
 ぎろりとパークルを睨みつけ、凛とした声で言った


 「この勝負、あたしが預かった。 命惜しくば、大人しく退きな!」

 「・・・ババァ、何者だ?」


 カブトプスも、レッド達の周りにいたポケモン達も迂闊には動けない状況となった
 ・・・・・・もうこの場は彼女、キワメ婆さんにかけるしかなかった
 

 緊迫した時間が流れた、一触即発・・・その間もレッド達は動くことが出来なかった


 「OK」


 パークルはそう言うと、カブトプスを池の方へ走らせ、レッド達を取り囲んでいたポケモン達はボールに戻した


 「このババァに免じて、今の所は退いてやるよ。 有り難く思いな、テメェら。
 ・・・まァ最も、此奴の『理』は打ち砕いてやった。 能力者としちゃ、再起不能決定ですから」


 パークルは軽やかに跳ぶと、池にいるカブトプスの背に乗った
 皆はそれを追おうとしたが、身体が思うように動かない


 「・・・じゃーな。 かーい子ちゃん」


 それから声高らかに皆を嘲笑い、その姿を消した


 レッド達は自身の身体に構わず、グリーンとハッサムに駆け寄り、その怪我の具合を見た
 ・・・・・・また、急いで医者に見せなくてはいけないかもしれない
 フラフラになりながら皆が各々の移動ポケモンを出し、下へ向かおうとした時だった


 「お待ち。 言ったろう、この勝負はあたしが預かると。 他の奴らは引っ込んでな!」

 「そんな・・・! グリーンさんの身体は・・・」


 クリスの訴えに、キワメ婆さんがその杖をビッとレッド達に突きつけて言った


 「・・・もう一度、その剣山風狐目男を連れて、あたしの家に入んな。
 それと、あんたらは歓迎はしないけンど、それ以外の手当と一晩ぐらいは軒先を貸してやる」  

 「・・・・・・」

 「だ、誰がテメェみたいな奴の世話なんか・・・!」

『よろしくお願いします』
 

 シショーがそう一言だけ言うと、他の皆もそれに従った
 ゴールドはかたくなに反対したが、グリーンとハッサムを両肩に担いだレッドが振り返って言った


 「グリーンの命を救ってくれた。 彼女は敵じゃない。 ・・・それだけで充分だろ?」


 そうして、レッド達はキワメ婆さんのボロ屋に再び入ることと相成ったのだ





  ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「・・・おかしぃなァ。 どうしてだろーなァ?」


 2のしまから離れた小島、いろは48諸島からも漏れた存在
 そこに不機嫌そうな男が1人、その島に明かりも無しで座っていた
 既に夜になり海は広く、何もかも呑み込んでしまいそうなぐらいに深く暗かった
 あるのは月明かりと星だけ、それでも海を照らすには不足だった


 「どーしてェ、右眼が疼くんだろうなァ・・・?」


 波の音が変わった


 「おかしいじゃぁねェか。 俺は弱っちぃ奴の総てを打ち破ってやったんだぜ・・・?
 おかしいじゃぁねェか、そうだろう、そうだろう? 能力者じゃねェはずなんだ、あのクズは。
 おかしいじゃぁねェか。 なら、どーして俺の右眼が疼きだしたりするんだろーなァ?」


 ブツブツと独り言を言い続ける、いや・・・・・・きちんと聞き手は居た
 その男はぎらりと沖の方を睨んだ、何者かが海の上に立っている・・・いや、浮いている


 「なァ、そこのテメェ。 どーして、俺の眼が疼くんだと思う?」

 「・・・・・・」


 沖にいた者が静かに小島の方へ寄ってきた、男がフラフラと立ち上がった


 「テメェがよォ・・・何も失わずに・・・・・・」


カッと目を見開き、夜の海へ、その相手に叫んだ


 「其処にいるからだぁあぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁッ・・・!」


 それは彼の真後ろにいた、正確には海の底にいた
 それは彼の真後ろにいた、音も無く海の底から浮上した
 それは彼の真後ろにいた、誰が・・・・・・パークルのカブトプスが


 それは彼の真後ろから、海の底から音も無く浮上し、グリーンを襲った
 背後から、何の気配も感じさせることなく、その刃は彼の首を正確に狙いを定めていた


 グリーンは、そこから動くことはなかった







続きを読む

戻る