〜能力者への道67・人決〜



 グリーンVSパークル!


 『能力・理力』を以て、互いの総力をぶつけ合う


 水をぶちかけられるゴールド、キワメ婆さんもその闘いに見入る


 押されるグリーン、余裕のパークル


 発動するグリーンの究極技が『ブラストバーン』


 しかし、これもまたパークルのカブトプスによって切り裂かれてしまう


 ブルーと同じくして、大火炎は爆発し、リザードンは戦闘不能となる


 パークルの誘いにより、グリーンはハッサムと共に1対1に応じる


 それが、グリーンの総てを打ち砕く為の・・・パークルの狙いだと知っていても


 ぶつかり合う互いの特能技、そしてグリーンの敗北


 キワメ婆さんの仲裁により一命を取り留め、一眠りした後に・・・


 まだ右眼が疼くパークルが、カブトプスの刃が、目の前に現れたグリーン自身の首を狙う!










 キワメ婆さんと皆が黙っている中、がちゃりとボロ屋のドアが開いた
 皆の目が其処に集中し、現れたのはブルー1人だった


 「・・・あ、ブルーさん」

 「グリーンさんは!!?」


 皆がグリーンの安否を尋ねるが、ブルーはふーと長く息を吐きつつ、近くの床に座りながら言った


 「知らないわよ、あんな奴」

 「えぇッ!!?」

 「ちょ、ブルーさんはグリーンさんが心配で捜しに行ったんじゃないんですか?」

 「うん。 でも、もういいの。 あんな奴、知るもんですか」

 「え、何? じゃ、もしかして・・・グリーンの過去を知っていたのか?」

 「何それ」


 話が通じない、伝わらない、繋がらない


 「・・・第一、どーしてアタシや皆が心配する必要があったのよ?」


 笑顔でそう答えると、皆が頭を抱えた・・・言ってることとやっていることが滅茶苦茶だ
 キワメ婆さんがきぇっきぇっきぇと笑い、「あたしの若い頃にそっくりじゃわい」とあんまり嬉しくないことを言いつつ愉快に笑った
 理解に苦しむ皆を見てふっと微笑み、ぽつりと言った


 「・・・・・・そんなんだから、アイツが苦悩するんじゃないの。
 もっと、皆もどんと待ってやればいいのよ」

 「・・・え?」


 ブルーが今度はにっこりと微笑むと、自信を以て言い放った


 「アイツならきっと大丈夫」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





海に潜っていたカブトプスがグリーンの真後ろに浮上し、その刃を振り上げた
 ゴルダックに乗ったグリーンは動くことなく、慌てることもなかった
 パークルは何よりも自然に、「これで終わりだ」と確信を持った
 最早避けることも出来ず、新しいポケモンを出すことも間に合わないだろう・・・


 パァンと何かが弾ける音がした、何かが切られる音とは全然違うものだった
 それもそのはず、グリーンの首を斬るはずだった刃が、その首から弾かれてしまったのだから
 これにはパークルもその驚愕と動揺を隠すことは出来なかった


 「なっ・・・・・・!」

 「このペンダントは『リフレクター』と同じ効果を持っている。
 特能技でもなく、とりたてて効果もない通常技なら、充分に弾くことが出来る」


 グリーンはゴルダックをボールに戻す、同時にカブトプスの刃が・・・もう片方の刃が再びグリーンを狙った
 だが、彼はそれを防いだ・・・・・・
 ガキィィンと音が鳴り、カブトプスの刃に臆することなく・・・それを防いだ


 「莫迦な・・・!?」

 「・・・ハイパーボールには劣れど、従来のボールの強度の2倍が誇るは『スーパーボール』。
 単純で暴力的で短絡的な貴様ごときの刃の太刀筋など、既に見切っている」
 

 カブトプスの刃が接しているボールからハッサムが飛び出し、『メタルクロー』をすかさず当てた
 みしりと音はすれど、相手もそれをギリギリの所でかわした
 それから素早い動作でパークルの元へ、カブトプスが跳んで戻った
 相手の冷静すぎる対応と対処法、そして誇らしくも晴れ晴れとしているが・・・何故か冷めたその表情


 「(・・・コイツ、昼間とは違う・・・・・・?)」

 「さて、再戦といこうか」


 グリーンのその言葉に、パークルの思考が止まった
 そして、互いのパートナーがこの小島の中央で再びぶつかり合った





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・

 



 ブルーが戻ってきても、先程とはあまりこの状況は変わらなかった
 むしろ、ブルーの言葉に今度は皆がやられてしまった感じだ


 「・・・・・・あ、そうそう! パークルの『理力』ってどんな能力なの?」


 ブルーが手をパンと叩いて、キワメ婆さんの方を向いて言った
 その言葉にゴールドが反応した


 「あーーーッ! 心配せずに待ってるんじゃなかったんスか!?」

 「それとこれとは話が別!」


 ぴしゃりとそう言われると、ゴールドも渋々それの言葉に従った
 確かに、気になっていたことは事実だし・・・
 キワメ婆さんはきぇっきぇっきぇっと笑い、言った


 「『理は力となる』、それが『トレーナー能力・理力』じゃ。
 そして、その『理』とはここのことを示す」


 キワメ婆さんが胸をどんと叩いてみせた


 「戦う意志と護るべき存在、課せられた掟や信念などを示す。
 自らの力を認め、『戦いに勝つ』という揺らぐこと無き、強固な自信を持つこと。
 それは能力者にとって最も重要で、それが総ての基本となる」


 レッドは再びあの<声>の言葉を思い出していた、『戦う意思』と『護るべき存在』
 

 「理力はそれを、能力者の心を最も反映させる。 理が揺らげば、その力も揺らぐ。
 昼間の闘いは『金髪狂叫嘲笑男』の理の方が、『剣山風髪狐目自虐的莫迦男』よりも強かった。
 ただ、それだけのことさァ・・・」

 「グリーンの意思が弱かった? 揺らいでいたって・・・!?」

 「最も、相手の理力がアレじゃあ・・・どのみち勝てんじゃろうて」


 キワメ婆さんはそう言ったが、そもそも『理力』の具体的な効果については何も話されていないようなものだ
 そう言ってみると、シショーの方から答えが返ってきた


 『理力の使い手にはね、暗黙の了解・・・掟のようなものがあるんだ』

 「掟?」

 『そう。 理力の「レヴェル2・力」の恩恵を受けるものが「きりさく」を覚えるポケモンであること。
 理力の「レヴェル1・理」は共通して「手持ちのポケモンにある程度の知性を与える」というものだ。
 すなわち、それは多対多のバトルに有利になるということ。 
 ポケモン自身が自ら考え、行動し、技を繰り出す分・・・指示をしなくても、昼間のように戦えるんだ』


 ともしびやまの時も、グリーンは5体のポケモンを駆使してオニドリル達と戦っていた
 またレヴェル1の効果により、一度与えられた知性は平常時でもある程度活用される。
 なみのり時に水の中から波や海流の動きを見て感じ取って、なみのりポケモン自身が最適のルートをトレーナーの指示無しで選ぶ
 そうすることで揺れも通常より少なくなり、上に乗っているトレーナーの疲労を最小限に抑えることが出来るのだ
 ・・・今思えば、グリーンは無意識的にか、既にあの時から能力者だったのだろうか
 鈍いシショーの予想は当たっていたのだろう、そして彼はそれを隠していた


 それから解説をし始めたシショーに対し、キワメ婆さんがぼかりと杖で叩いた
 余程痛かったのか、そのまま器用に翼で頭を抑えてうずくまるシショーの姿
 彼女の言い分はこうだ、「あたしの科白を奪るんじゃないよ」・・・と
そんな理不尽な暴力に周りはもう慣れてしまったとしか、最早言い様がなかった


 「・・・それで、理力の『力』って何なんですか?」

 「ウム。 『レヴェル2・力』は簡単に言えば、『「きりさく」に様々な効果を付加する』ことじゃな。
 それは、各個人のパートナーポケモンが『特能技』という形で反映されるんじゃよ」

 「・・・・・・パークルの『イクス・シー・クロウ』やグリーンの『ディス・クロー』みたいにか?」


 キワメ婆さんとシショーがこくりと肯いた
 昼間、パークルはグリーンの総てを打ち砕いたという
 『レヴェル1・理』・・・多対多の闘いを制し、『レヴェル2・力』のパートナー同士の1対1をも破った
 それはグリーンの『理』、いや戦う意思がパークルより弱かったから・・・・・・


 「まァ最も、相手が『海の理力』じゃ・・・始めっから勝ち目は無かったかものぅ」

 「海の・・・理力?」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・



 

 月明かりの下、2つの影が宙で交差した
 軽やかに舞うその影を見守り、相手のその一挙一動を警戒する2つの影があった
 地に足をつけた影の元に、宙を舞う影が一旦戻ってくるのと同時に、言った


 「・・・小手調べはもう充分だろう? 最後だ。 決着をつけようじゃないか」

 「クズが。 今更何を言う、クズが。 一度負けたクズが、俺に敵うつもりなのか・・・?」


 影が嘲笑った、もう一方の影は静かに言った


 「恐いのか?」

 「・・・・・・アぁン? ぉぃ、テメェ・・・今、何つったァよぉぉおぉぉおぉ!!?」


 一旦ぶちぎれる様にそう叫び、それから息を荒く・・・整えつつ言った


 「身の程知らずが・・・。 今度は誰もテメェを助けてはくれねぇよ」

 「お前は、いつから1人のままなんだ・・・?」


 そのセリフに男がカッと目を見開いた


 「死ね」

 「誰も死なない、もう二度と」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「なァ婆さん、『海の理力』って何なんだよ!?」


 ゴールドがそう訊くと、キワメ婆さんの鉄拳制裁が与えられた


 「年上には、礼儀を以て接するんだね。 わかったかぃ、え? 髪の毛爆発浅はか莫迦礼儀知らず男」

 「すみません、ほんっとコイツは莫迦で・・・」


 クリスが必死に弁明すると、キワメ婆さんはやれやれと息をついた


 「・・・理力の一族は大勢いた。 そもそも、アンタらを親から親へとさかのぼっていけば、自ずと何処かで繋がるようになってる。
 理力の在り方は総てのトレーナー能力に通じるところがあり、いわば最も『原点』に近い能力が1つだ」

 「ってことは、アレですか。 理力が総てのトレーナー能力の頂点に立つ・・・」

 「誰もそこまで言ってないよ。 あたしゃただ、そんだけ昔は多くの人間が理力を扱っていたことを言いたかったんさ。
 理力の一族は大勢いて、そして各地方に数百年に一度・・・各地方の申し子的存在が生まれるんじゃ」

 「申し子?」


 キワメ婆さんが杖をビッとレッドの方に向けた


 「カントーは『海』、ジョウトは『空』、ホウエンは『陸』!!
 それぞれ各地方の特性を持ち、各地方特有のパートナーに対応せし特殊な理力!
 ・・・それが各地方の『理力』の頂点に立つ・・・圧倒的な意志を持つ者が得る『三大理力』なんじゃよ」

 「! え、ちょ・・・何で・・・」

 「あの金髪狂叫嘲笑海男のパートナーは『カブトプス』、そしてあの威力と効果。
 先ず間違いはあるまいて。 三大理力は他と格が違う、余程の奇跡が無い限り・・・あの小僧には勝ち目がない」

 『確かに、聞いたことがある・・・。 各地方に伝わる特有の理力の存在は。
 そして、その能力は永劫変わることなく伝わり続けていると・・・』


 キワメ婆さんがコンとシショーの頭を軽く叩いた、そして肯いた


 「残念ながら、ホウエンの『陸の理力』の効果は知らん。 じゃが、ジョウトやカントーの『海の理力』の能力の効果は知っておる。
 切った対象物、いや『切り裂いた流動物の動きを完全に止め、その一方の行き場を無くしたエネルギーは徐々に圧力を高め、内部爆発を引き起こさせる』!」

 「っな・・・なんじゃそりゃ!?」

 「この能力の前には、あたしの究極技も太刀打ちは出来まい・・・。 カントー出身の理力使いの頂点に立つ効果さ」


 流動物。 それは流れる水、火炎放射など・・・流動性あるもの、固定しないで流れ動く性質
 不定形に変化する性質を示し、それらを言う
 流れ動き続けるそれを強制的に止め、そのまま行き場を無くしたエネルギーは・・・・・・・爆発する
 それはそう、水を流している状態の蛇口に、水風船をはめた様子を想像してくれればいい
 水風船が溜めておける水の許容範囲を超えた瞬間、それは破裂するだろうから・・・同じことなのだ


 「対抗する方法はないんですか!?」

 「無いのぅ。 余程、あの小僧の理が強くなくては無理じゃろ。
 あたしの見る目が間違っていなければ、海の理力が使い手の理は凄いよ。
 ただ単純に強さを求め、誰よりも強くありたいという意思は・・・たとえ道を間違えていようと、強さには変わりない。
 付け入る隙があるとすれば、そうじゃのぅ・・・何処か八つ当たり気味なものがあった辺りかの」


 訊いたイエローはしゅんと首を項垂れた、しかし・・・八つ当たり気味とは・・・?


 「ブルーさんはどう思いますか!?」

 「知らないわよ」


 ブルーは素っ気なくそう言った、信じているのか心配するのを放棄しているのか・・・
 そう、心配するなと言われても・・・不安なものは不安なのだ
 しかし、レッドは自信を以て言った


 「それ意外にも手はある」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「破壊の鋼爪、『ディス・クロー』」

 「爆発の海爪、『イクス・シー・クロウ』!!」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「何スか、それ!」

 『想像はつくよ。 相性の問題・・・つまりはグリーンの「力」の問題でしょ?』


 シショーの言葉でもよくわからない、が・・・つまりこう言いたいのだ


 「『理』で劣っていようが、『力』・・・その効果が海の理力に特別、対抗できるものならば・・・」

 「たぁーわぁーけぇーっ! 昼間、その1対1でも負けおったろうが」


 キワメ婆さんの言うことも尤もだ、しかし・・・もうそれ意外にグリーンが勝てる見込みは・・・


 「・・・・・・じゃあ、見えない敵を切り裂く能力じゃ勝てないんですね・・・」


 イエローのため息混じりの言葉に、皆が振り向いた
 キワメ婆さんがその肩をがしっとつかみ、もう一度その言葉を訊いた


 「・・・え、ですから・・・『見えない敵を切り裂く』って・・・」

 「それが・・・あの小僧の能力じゃと言うのか?」

 「ええと、多分。 グリーンさんが能力者だって聞いた時、すぐにそれが頭に浮かんだんです。
 そう・・・グリーンさんの所で修行をしていた時に、ラプラスとボーイスカウトさんとキクコさんの話が・・・」


 キワメ婆さんがふるふると震え、それから声高らかにきぇっきぇっきぇっと笑った
 その笑い方から察するに、どうも・・・グリーンの勝機に繋がるのではないかと皆は思った


 「ううぬ、あの小僧のパートナーはハッサム! もし、黄髪胸尻寸胴発育停止呆少女の言うことが本当なら・・・!
 わしの見立ては間違っとらんかった・・・きぇっきぇっきぇっ・・・」

 「ハッサム・・・・・・まさか!?」

 『グリーンは「空の理力」使い!!?』


 とんでもなく飛躍的な話だ、確かにハッサムはジョウト地方特有のポケモンだろう・・・カブトプスと同じように
 しかし、幾ら何でも・・・・・・


 困惑する皆の前で、キワメ婆さんがにやりと笑った
 そして「だから、あたしは助けてやったのさ」などと如何にも後付け臭い科白を言った


 「それに・・・確かに、『空の理力』の効果は形無き敵を切り裂くものじゃ。
 正確に言えば、『可視出来ぬエネルギー体がそのものをも切り裂き、本体やそのエネルギー体の再生や修復を完全に防ぐ』というものじゃよ。
 また、海の理力に対抗するならば、同格の理力を以てしなければ勝てぬじゃろうて・・・」

 「スッゲー! じゃ、じゃあ勝てんじゃね? 勝てんじゃね?」

 「なーに言ってんのよ、グリーンはカントー出身でしょ」


 ブルーの言葉に皆がはっとなった、確かにそうだ
 空の理力はジョウト地方出身者でなければ得られない、そう確かに言っていた


 もう、他に考える余地は・・・・・・今は無い・・・

 
 「・・・・・・本当に、信じるしかないんだな」

 「当たり前じゃない。 この闘いは、少なくともアタシ達が口を出し、考えるものじゃない。
 アタシ達はアイツの帰りをただ待って、きっと疲れ果てている心身を支えてあげるだけ・・・それだけよ」

 「ブルーさん・・・」


 皆がしんと黙ると、ゴールドがそろりそろりとにやにや笑いながら、忍び足でブルーに耳打ちをした
 それをブルーが聞くと、限りなく笑顔に近い真顔でそのゴールドをぼこぼこにぶちのめした・・・


 きっと、何か莫迦なことを言ったのだろう・・・敢えては聞くまいと皆は同時に思った
 それからキワメ婆さんが、「やっぱり、あたしにそっくりじゃわぃ」と笑った





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 その勝負は一瞬で終わっていた







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